説明

車両デバイス制御装置、および車両デバイス制御方法

【課題】 車両の衝突時に運転者の頚椎にかかる負荷を低減すること。
【解決手段】 制御装置106は、カメラ101によって運転者の側方から撮像された画像に基づいて、運転者の頚椎角度を算出し、算出した運転者の頚椎角度の変化速度を算出する。そして、算出した運転者の頚椎角度の変化速度に基づいて、運転者の頚椎角度が所定角度を超えないように、シートベルト制御装置108、またはヘッドレスト制御装置109を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたシートベルトやヘッドレストの動作を制御する車両デバイス制御装置、および車両デバイス制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次のような車両デバイス制御装置が特許文献1によって知られている。この車両デバイス制御装置によれば、車両の衝突時に、乗員の体格に応じてエアバッグやシートベルトなどのデバイスを制御する。
【0003】
【特許文献1】特開2004−338517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置においては、乗員の体格に応じてエアバッグやシートベルトの動作を制御していたため、各乗員の体格に応じたデバイス制御を行う必要があり、処理が重くなるという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、撮像手段によって乗員の側方から複数フレーム撮像された各々の画像に基づいて、乗員の頚椎角度を算出し、算出した乗員の頚椎角度の複数フレーム間における変化の状況を検出し、検出した乗員の頚椎角度の変化の状況に応じて、乗員保護装置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、乗員の頚椎角度の変化の状況に応じて、乗員保護装置を制御するようにした。これによって、乗員保護装置の制御を行うために乗員の頚椎角度の変化の状況を検出するだけでよく、処理の負荷を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、本実施の形態における車両デバイス制御装置の一実施の形態の構成を示すブロック図である。車両デバイス制御装置100は車両に搭載され、車両室内に設置され運転者の側部から運転者の頭部および体部を撮像するカメラ101と、カメラ101で撮像した画像を格納する画像メモリ102と、カメラ101による撮像範囲に光を照射する投光装置103と、車両Gセンサなどの車両の衝突を検出する衝突検出装置104と、自車両の車速を検出する車速センサ105と、CPU、メモリ、およびその他周辺回路を含み、後述する種々の処理を実行する制御装置106と、制御装置104によって、後述する処理で算出される運転者の頚椎角度の時系列データを記憶する頚椎角度記憶メモリ107と、運転席のシートベルトのテンション(張力)を制御するシートベルト制御装置108と、運転席のヘッドレストの傾きを制御するヘッドレスト制御装置109とを備えている。
【0008】
カメラ101は、例えばCCDやCMOSなどの撮像素子を有した高速カメラであり、図2に示すように、運転車側部の例えばドアトリムに運転者側に光軸が向くように設置され、自車両の走行中に連続的に運転者の側部から運転者の頭部および体部を撮像して、各フレームごとに画像メモリ102に出力する。投光装置103は、照射する光量を複数段階に変化させることができ、図2に示すように、カメラ101の近傍に設置され、カメラ101による撮像範囲に光を照射する。
【0009】
なお、本実施の形態では説明の簡略化のため、カメラ101および投光装置103を運転手の側部に設置して、運転者に対してシートベルトやヘッドレストといった乗員保護装置、すなわち車両デバイスの制御を行う例について説明するが、運転者以外の乗員、例えば助手席の乗員や後部座席の乗員に対しても同様に乗員保護装置の制御を行うことが可能である。
【0010】
制御装置106は、車速センサ105からの出力に基づいて自車両が走行を開始したと判断した場合には、画像メモリ102から撮像画像の読み込みを開始し、各撮像画像に対してエッジ抽出用のフィルタを適用し二値化して、撮像画像に含まれる物体の輪郭を抽出する。これによって、例えば図3に示すように、撮像画像内から運転席のシート、および運転者の輪郭を抽出することができる。このように撮像画像内に存在する対象の輪郭を抽出した二値化画像上に、監視領域3aを設定する。この監視領域3aは、あらかじめカメラ101の設置位置や設置角度などに基づいて決定された、撮像画像内における運転者の頭部および体部が含まれる領域に対して設定される。
【0011】
さらに、図4(a)に示すように、この監視領域3aを運転者の頭部が含まれる頭部監視領域4aと運転者の体部が含まれる体部監視領域4bとに分割する。そして、頭部監視領域4a内で抽出された運転者の頭部の輪郭(頭部領域)の長手方向の主軸の角度を運転者の頭部領域の傾きとして算出する。すなわち、図4(a)に示すように、画像水平方向に対する頭部領域の傾きθhを算出する。また、体部監視領域4b内で抽出されている運転者の体部の輪郭(体部領域)の長手方向の主軸の角度を運転者の体部領域の傾きとして算出する。すなわち、図4(b)に示すように、画像水平方向に対する体部領域の傾きθbを算出する。
【0012】
そして、図4(c)に示すように、算出した頭部領域の傾きθhと体部領域の傾きθbとの差分を算出することによって、運転者の頭部と体部とのなす角、すなわち運転者の頚椎角度θを算出して、算出した頚椎角度θを頚椎角度記憶メモリ107に記憶する。この処理をカメラ101で連続して撮像される複数フレームの画像に対して実行することによって、運転者の頚椎角度θの時系列データを得ることができる。
【0013】
次に、衝突検出装置103によって自車両の衝突が検出された場合には、上述した処理で算出した運転者の頚椎角度θの衝突に伴う変化を検出し、運転者の頚椎への負荷を軽減するように、シートベルト制御装置108およびヘッドレスト制御装置109を制御する。具体的には次のように処理する。
【0014】
まず、頚椎角度記憶メモリ107に記憶されている運転者の頚椎角度θの時系列データを読み込んで、フレーム間での頚椎角度θの変化速度を算出する。すなわち、頚椎角度記憶メモリ107に記憶されている頚椎角度θのフレーム間での変化量を、カメラ101のフレームレートで割ることによって、フレーム間での頚椎角度θの変化速度を算出する。
【0015】
そして、自車両の衝突を検出した場合の、このフレーム間での頚椎角度θの変化速度に基づいて、運転者の頚椎角度θが所定の角度を超えて運転者の頚椎に負荷がかかるのを防止するために、次のようにシートベルト制御装置108およびヘッドレスト制御装置109を制御する。なお、本実施の形態では、人間の首(頚部)の動きの範囲は、一般的に前後方向ともに60度程度であることを加味して、運転者の運転者の頚椎角度θが±60度を超えないように、シートベルト制御装置108およびヘッドレスト制御装置109を制御するようにする。
【0016】
このために、自車両の衝突を検出した時点の運転者の頚椎角度θが、上述した変化速度で変化した場合に、所定の角度、すなわち±60度を超えるまでに要する時間を余裕時間Tとして次式(1)および(2)により算出する。なお、次式(2)において、θthは閾値としての所定の角度を表し、本実施の形態では、θth=60°とする。
∂θ/∂t=∂(θh−θb)/∂t ・・・(1)
T=(θth−|θh−θb|)∂θ/∂t ・・・(2)
【0017】
さらに、シートベルト装置およびヘッドレスト装置へ指示を出してから、これらの機器が応答するまでの推定遅れ時間を加味して、シートベルト制御装置108およびヘッドレスト制御装置109への制御信号を出力するようにする。すなわち、推定遅れ時間がTdである場合には、自車両の衝突を検出した時点から余裕時間Tの推定遅れ時間Td前、すなわち自車両の衝突を検出した時点からT−Tdが経過した時点で、シートベルト制御装置108およびヘッドレスト制御装置109への制御信号を出力する。これによって、各車両デバイスの応答遅れ時間を加味した制御を行うことができる。
【0018】
次に、シートベルト制御装置108およびヘッドレスト制御装置109のそれぞれによる、シートベルトおよびヘッドレストの動作制御方法について説明する。本実施の形態では、自車両の衝突に伴って運転者が前傾する場合、すなわち運転者の頚椎角度θが前方に変化する場合には、シートベルトのテンションを緩めて運転者の頚椎角度θが前方に60度以上変化しないようにする。また、自車両の衝突に伴って、運転者が後傾する場合、すなわち運転者の頚椎角度θが後方に変化する場合には、ヘッドレストを前方に移動させて運転者の頭部を支え、運転者の頚椎角度θが後方に60度以上変化しないようにする。
【0019】
自車両の衝突に伴って運転者が前傾する場合には、シートベルト制御装置108は、上述した各車両デバイスの応答遅れ時間を加味した信号出力タイミングになったときに、シートベルトのテンションを上述した運転者の頚椎角度θの変化速度に合わせて徐々に緩める。例えば、運転者の頚椎角度θの変化速度と、シートベルトのテンションとを微小な時間間隔で検出を繰り返し、検出結果に基づいて、運転者の頚椎角度θが閾値として設定した60度を超えないように、シートベルトのテンションを徐々に緩めていく。
【0020】
なお、シートベルトのテンションを緩めるに当たっては、運転者の体部の移動速度が頭部の移動速度よりも若干遅くなるように制御することで、頚椎角度θが急激に変化した際の頚椎の過屈曲による靭帯組織の損傷を防止することができる。また、運転者の上体を保護するというシートベルト本来の役割を損なわないよう、ある一定のテンションを緩められる上限として設定しておき、それ以上は緩めないようにする。
【0021】
また、自車両の衝突に伴って運転者が後傾する場合には、ヘッドレスト制御装置109は、運転者の頚椎角度θが後方に60度変化した位置に相当するヘッドレスト位置を推定し、上述した各車両デバイスの応答遅れ時間を加味した信号出力タイミングになったときに、ヘッドレストの位置をこの推定位置まで移動させる。これによって、運転者の頚椎角度θが後方に60度以上変化しないようにする。
【0022】
このために、運転者の頭部とヘッドレストとの間の距離を算出して運転者の頭部とヘッドレストの位置関係を検出し、この位置関係に基づいて、現在のヘッドレスト位置から、上述した推定位置に相当する位置までの距離を推定して、その距離だけヘッドレストを前方に移動させる。
【0023】
まず、運転者の頭部とヘッドレストとの画像上での位置関係、すなわち距離を検出するために、次のように処理を行う。すなわち、制御装置106は、カメラ101の露光タイミング、すなわちカメラ101による撮像タイミングと、投光装置103による発光タイミングとを図5に示すように制御して画像の撮像を開始する。この図5に示す例では、投光装置103を周期Tで発光した場合に、カメラ101による撮像周期を周期Tよりも短くし、例えばT/2とする。これによって、カメラ101の撮像タイミングの2回に1回の割合で、撮像と発光とが一致するタイミングと一致しないタイミングとが交互に発生するようになる。
【0024】
また、本実施の形態では、投光装置103の光量レベルを、例えば低、中、高の3段階に変化させることができ、図5に示した発光タイミング5aごとに、低→中→高の順で光量レベルを変化させるようにする。そして、光量レベルが低→中→高と変化する時間3T(3周期分)を1サイクルとして、自車両の走行中はこれを繰り返し行うようにする。
【0025】
なお、この低、中、および高の各光量レベルは、次のような光量とする。光量レベルが低の場合の光量は、基準光量として定義され、この基準光量で光を照射した状態で撮像した撮像画像内から後述する処理で本実施の形態で基準位置とするヘッドレストの画像内での位置が検出できるような光量とする。すなわち、撮像画像内からヘッドレストの輪郭が検出できる程度の十分な明るさが得られる光量とする。
【0026】
そして、光量レベルが中または高の場合の光量は、基準光量で検出可能なヘッドレストの輪郭に加えて、基準位置に対してその相対位置を検出したい対象物体の輪郭を検出することができるような光量とする。すなわち、本実施の形態では、対象物体を運転者の頭部とし、ヘッドレスト位置と運転者の頭部との位置関係を検出できるように、撮像画像内からヘッドレストの輪郭および運転者の頭部の輪郭が検出できる程度の十分な明るさが得られる光量とする。
【0027】
このように、発光装置103から照射する光の光量を変化させながら画像を撮像することによって、発光タイミング5aの1サイクル期間中(3周期中)には、次の画像A〜画像Fの6枚の画像がカメラ101によって撮像されることになる。
画像A:光量レベル低で発光時の画像
画像B:発光なし状態時の画像
画像C:光量レベル中で発光時の画像
画像D:発光なし状態時の画像
画像E:光量レベル高で発光時の画像
画像F:発光なし状態時の画像
【0028】
このように撮像した各画像において、任意の発光タイミング5aで撮像した画像とその次のタイミングで撮像した発光なし状態の画像を算出する。これによって、例えば、画像Aと画像Bとの差分画像を算出した場合には、画像Aは画像内にヘッドレストの輪郭で囲まれる領域とそれ以外の背景領域とを含む画像であり、画像Bは背景領域のみを含む画像であることから、これらの差分画像を算出することによって、背景を除去してヘッドレストの輪郭領域のみを含む画像を得ることができる。
【0029】
また、画像Cと画像Dとの差分画像を算出した場合には、画像Cは画像内にヘッドレストの輪郭で囲まれる領域、運転者の頭部の輪郭で囲まれる領域、およびそれ以外の背景領域とを含む画像であり、画像Dは背景領域のみを含む画像であることから、これらの差分画像を算出することによって、背景を除去してヘッドレストの輪郭領域、および運転者の頭部の輪郭領域を含む画像を得ることができる。なお、画像Eと画像Fとの差分画像を算出した場合については、画像Cと画像Dとの差分画像を算出した場合と同様のため説明を省略する。
【0030】
そして、このように算出した各差分画像に対して、エッジ抽出用のフィルタを適用し二値化して、各差分画像に含まれる輪郭領域を抽出し、抽出した輪郭領域の面積値を算出する。すなわち、画像Aと画像Bとの差分画像においては、ヘッドレストの輪郭領域を抽出して面積値を算出し、画像Cと画像Dとの差分画像においては、ヘッドレストの輪郭領域、および運転者の東部の輪郭領域を抽出して面積値を算出する。
【0031】
上述した輪郭領域の面積値算出処理を各差分画像に対して実行し、連続して算出される差分画像間の面積値の変化量が所定の閾値以上となるか否かを判定していく。ここで、所定の閾値には、連続して算出される差分画像において、各差分画像に含まれる輪郭の数が変化したと判定可能な値が設定される。例えば、本実施の形態では、画像Aと画像Bとの差分画像においてはヘッドレストの輪郭領域の輪郭領域のみが抽出されたのに対して、画像Cと画像Dとの差分画像においては、ヘッドレストの輪郭領域、および運転者の頭部の輪郭領域が抽出されているため、これらの抽出された輪郭領域数の変化を検出することができるような閾値が設定される。
【0032】
そして、連続して算出される差分画像間の面積値の変化量が所定の閾値以上になったと判定した場合には、差分画像に含まれる輪郭の数が変化した、すなわち、その差分画像内には、基準位置とするヘッドレストの輪郭と、基準位置との位置関係を判定する対象物体としての運転者の頭部の輪郭とが含まれるようになったと判断する。そして、このヘッドレストの輪郭と運転者の頭部の輪郭とを含む差分画像に対して、次に説明する領域間最近接距離算出処理を行って、運転者の頭部とヘッドレストとの間の距離を算出する。
【0033】
領域間最近接距離算出処理では、差分画像内で抽出された2つの輪郭、すなわち図3に示すようなヘッドレストの輪郭および運転者の頭部の輪郭が最も近接している部分の距離3bを算出する。図6は、画像内に存在する2つの輪郭間の距離の算出方法を模式的に示した図である。この図6に示す処理をヘッドレストの輪郭および運転者の頭部の輪郭に対して行うことによって、ヘッドレストの輪郭および運転者の頭部の輪郭が最も近接している部分の距離3bを算出することが可能になる。
【0034】
この図6では、図6(a)に示すように、差分画像内に輪郭6aおよび6bとが存在しており、この輪郭6aと輪郭6bとの間の距離を算出する場合の具体例を示している。まず、図6(a)に示す差分画像内から抽出された2つの輪郭のそれぞれをその輪郭で囲まれる範囲が1画素に縮退するまで縮小させていく。これによって、図6(b)に示す縮退後の画像を得ることができる。
【0035】
そして、この縮退後の画像内において、アクティブな画素を抽出し、その抽出したアクティブな画素の数を縮退前の差分画像内に含まれていた輪郭で囲まれた領域の数、すなわち輪郭数として検出する。これによって、図6(b)に示す縮退後の画像により縮退前の図6(a)に示す差分画像内における輪郭数(領域数)は2つであると検出することができる。
【0036】
次に、図6(a)に示した差分画像に対して、差分画像内に含まれる各輪郭を1画素膨張させる。すなわち図6(c)に示すように、輪郭6aおよび6bを輪郭の外側に向けて1画素分拡大する。そして、この輪郭を1画素膨張させた後の画像に対して、図6(b)で上述したように、各輪郭を1画素に縮退するまで縮小させていく。これによって、図6(d)に示すように、各輪郭を1画素膨張させた差分画像の縮退後の画像を得ることができ、このときのアクティブな画素を抽出することによって、各輪郭を1画素膨張させた差分画像内に存在する輪郭数を検出することができる。
【0037】
この処理を、各輪郭を1画素ずつ膨張させながら繰り返し行い、差分画像内から検出される輪郭数の数が変化するまで継続する。例えば、図6(e)に示す各画素をn−1画素膨張させた差分画像においては、図6(f)に示すように輪郭数が2つであったときに、図6(g)に示す各画素をn画素膨張させた差分画像においては、図6(h)に示すように輪郭数が1つに変化した場合には、その時点で輪郭数の検出処理を終了する。この図6(g)および(h)に示す例では、差分画像内に存在する輪郭6aと輪郭6bとを1画素ずつ膨張させていき、その結果、n画素膨張させた時点で、2つの輪郭が接して結合したことによって、縮退後の画像において輪郭数は1と検出されていることを示している。
【0038】
したがって、2つの輪郭6aおよび6bをn画素ずつ拡大したことによって、2つの輪郭が接したことから、各輪郭のそれぞれの膨張させた画素の合計、すなわち2n画素を2つの輪郭間の距離として算出することができる。
【0039】
上述した処理をヘッドレストの輪郭と運転者の頭部の輪郭とを含む差分画像に対して実行することによって、2つの輪郭間の距離を算出することができる。そして、算出したヘッドレストの輪郭と運転者の頭部の輪郭との間の距離に基づいて、運転者の頚椎角度θが後方に60度変化する位置に相当するヘッドレスト位置を推定して、その位置までヘッドレスト位置を移動させることによって、運転者の頚椎角度θが後方に60度以上変化しないようにすることができ、運転者の頚椎への負荷を低減することができる。
【0040】
図7は、本実施の形態における車両デバイス制御装置100の処理を示すフローチャートである。図7に示す処理は、車速センサ105からの出力に基づいて、自車両が走行を開始したと判断した場合に起動するプログラムとして制御装置106により実行される。
【0041】
ステップS10において、画像メモリ102からの画像の読み込みを開始してステップS20へ進む。ステップS20では、撮像画像に対してエッジ抽出用のフィルタを適用し二値化して、撮像画像に含まれる物体の輪郭を抽出する。その後、ステップS30へ進み、上述したように二値化画像上に、監視領域3aを設定し、さらに監視領域3aを運転者の頭部が含まれる頭部監視領域4aと運転者の体部が含まれる体部監視領域4bとに分割する。そして、頭部監視領域4aおよび体部監視領域4bのそれぞれから、頭部領域の傾きθhおよび体部領域の傾きθbを算出して、運転者の頚椎角度θを算出する。その後、ステップS40へ進む。
【0042】
ステップS40では、衝突検出装置103によって自車両の衝突が検出されたか否かを判断する。その結果、自車両の衝突が検出されたと判断した場合には、ステップS50へ進む。ステップS50では、頚椎角度記憶メモリ107に記憶されている運転者の頚椎角度θの時系列データを読み込んで、フレーム間での頚椎角度θの変化速度を算出する。その後、ステップS60へ進み、上述したように、自車両の衝突を検出した時点の運転者の頚椎角度θが、算出した変化速度で変化した場合に、所定の角度を超えるまでの余裕時間Tを式(1)および(2)により算出する。また、シートベルト装置、ヘッドレスト装置の応答遅れ時間Tdを算出する。その後、ステップS70へ進む。
【0043】
ステップS70では、運転者の頚椎角度の変化方向に基づいて、運転者が衝突に伴って前傾を開始しているか、あるいは後傾を開始しているかを判断する。その結果、運転者が前傾を開始していると判断した場合には、ステップS80へ進んで、シートベルト制御装置108を制御し、図8で後述するシートベルト制御処理を実行して処理を終了する。一方、運転者が後傾を開始していると判断した場合には、ステップS90へ進んで、ヘッドレスト制御装置109を制御し、図9で後述するヘッドレスト制御処理を実行して処理を終了する。
【0044】
図8は、図7のステップS80で実行されるシートベルト制御処理の流れを示すフローチャートである。ステップS81において、上述したシートベルト装置の応答遅れ時間を加味した信号出力タイミングになったか否かを判断する。信号出力タイミングになったと判断した場合には、ステップS82へ進む。ステップS82では、上述したように、運転者の頚椎角度θの変化速度に合わせて、シートベルトのテンションを徐々に緩める。その後、ステップS83へ進む。
【0045】
ステップS83では、上述したように、シートベルトのテンションが、運転者の上体を保護するというシートベルト本来の役割を損なわないように設定された、一定の上限に到達したか否かを判断する。その結果、シートベルトのテンションが上限まで緩められたと判断した場合には、ステップS84へ進む。ステップS84では、上限まで緩められたシートベルトのテンションを保持して、図7に示す処理に復帰する。
【0046】
図9は、図7のステップS90で実行されるヘッドレスト制御処理の流れを示すフローチャートである。ステップS91において、上述したヘッドレスト装置の応答遅れ時間を加味した信号出力タイミングになったか否かを判断する。信号出力タイミングになったと判断した場合には、ステップS92へ進む。ステップS92では、上述したように、カメラ101による撮像タイミングと、投光装置103による発光タイミングとを図5に示すように制御して、画像の撮像を開始する。その後、ステップS93へ進む。
【0047】
ステップS93では、上述したように、任意の発光タイミング5aで撮像した画像とその次のタイミングで撮像した発光なし状態の画像を算出する。その後、ステップS94へ進み、差分画像内からヘッドレストの輪郭と運転者の頭部の輪郭とを抽出したか否かを判断する。その結果、ヘッドレストの輪郭と運転者の頭部の輪郭とを抽出したと判断した場合には、ステップS95へ進む。
【0048】
ステップS95では、図6で上述したように、差分画像内に含まれるヘッドレストの輪郭と運転者の頭部の輪郭とを1画素に縮退するまで縮小させ、差分画像内に存在する輪郭(領域)の数を検出する。その後、ステップS96へ進み、上述したように、検出した輪郭数が、各領域を1画素膨張させる前の輪郭数から変化したか否かを判断する。その結果、輪郭数が変化しないと判断した場合には、ステップS97へ進み、差分画像内に含まれる各輪郭を1画素膨張させて、ステップS95へ戻る。これに対して、輪郭数が変化したと判断した場合には、ステップS98へ進む。
【0049】
ステップS98では、上述した領域間最近接距離算出処理を実行して、輪郭数が変化した時点における各輪郭のそれぞれの膨張させた画素の合計、すなわち2n画素を2つの輪郭間の距離として算出する。その後、ステップS99へ進み、算出したヘッドレストの輪郭と運転者の頭部の輪郭との間の距離に基づいて、運転者の頚椎角度θが後方に60度変化する位置に相当するヘッドレスト位置を推定する。その後、ステップS100へ進み、推定した位置までヘッドレスト位置を移動させて、運転者の頚椎角度θが後方に60度以上変化しないように制御し、図7に示す処理に復帰する。
【0050】
以上説明した本実施の形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
(1)運転者の側方から撮像した画像に基づいて運転者の頚椎角度θを算出し、自車両の衝突が検出された場合に、運転者の頚椎角度θが、±60度の範囲を超えないように、シートベルトおよびヘッドレストを制御するようにした。これによって、自車両が衝突したときでも、運転者の頚椎角度θが一般的な人間の首の動く範囲である60度以上変化しないようにすることができ、運転者の頚椎への負荷を低減することができる。
【0051】
(2)衝突によって運転者が前傾する場合には、運転者の頚椎角度θの変化速度に合わせてシートベルトのテンションを徐々に緩めるようにした。これによって、運転者はシートベルトに押さえつけられることなく体部を前傾させることができ、頭部のみが前傾して頚椎を損傷することを防止することができる。
【0052】
(3)また、シートベルトのテンションは、ある一定のテンションを上限として、それ以上は緩めないようにした。これによって、運転者の上体を保護するというシートベルと本来の役割を損なうことなく、運転者の頚椎への負荷を低減することができる。
【0053】
(4)衝突によって運転者が後傾する場合には、運転者の頚椎角度θが後方に60度変化する位置に相当するヘッドレスト位置を推定し、当該推定位置にヘッドレストを移動するようにした。これによって、運転者の頭部をヘッドレストで支えて、運転者の頚椎が後方に60度変化するのを防ぐことができ、運転者の頚椎への負荷を低減することができる。
【0054】
(5)差分画像内における運転者の頭部の輪郭とヘッドレストの輪郭との間の距離を算出するために、差分画像内に含まれる各輪郭を1画素に縮退するまで縮小して、そのときのアクティブな画素の数を差分画像内に存在する輪郭数として検出した。そして、差分画像に含まれる各輪郭を1画素ずつ膨張させて、検出される輪郭数が変化した時点の膨張させた画素数に基づいて、差分画像内における運転者の頭部の輪郭とヘッドレストの輪郭との間の距離を算出するようにした。これによって、車両内に運転者の頭部とヘッドレストとの間の距離を計測する特別な計測機器を設置する必要がなく、コスト的に有利となる。
【0055】
(6)自車両の衝突を検出した時点の運転者の頚椎角度θが、算出した変化速度で変化した場合に±60度を超えるまでの余裕時間Tを算出し、さらにシートベルト装置およびヘッドレスト装置の各車両デバイスへ指示を出してから、これらの車両デバイスが応答するまでの応答遅れ時間を加味して、シートベルト制御装置108およびヘッドレスト制御装置109への制御信号の出力タイミングを決定するようにした。これによって、運転者の頚椎角度の変化速度および各車両デバイスの応答遅れ時間を加味して、最適な信号出力のタイミングを決定することができる。
【0056】
―変形例―
なお、上述した実施の形態の車両デバイス制御装置は、以下のように変形することもできる。
(1)上述した実施の形態では、運転者の頭部領域の傾きθhおよび体部領域の傾きθbを算出するに当たって、転者の頭部の輪郭の長手方向、および運転者の体部の輪郭の長手方向をそれぞれの主軸とし、その傾きを算出する例について説明した。しかしこれに限定されず、例えば、上述した図6(b)の各輪郭を1画素に縮退するまで縮小したときのアクティブな画素を、各輪郭の重心として検出し、重心を原点としたときのx軸およびy軸についての2次モーメントμ11、μ20、μ02に基づいて、主軸の傾きを算出してもよい。
【0057】
すなわち、μ11、μ20、μ02は、次式(3)〜(5)で算出され、このときの原点(重心)を通る慣性主軸の傾きθは、式(6)によって算出される。なお、次式(3)〜(5)において、f(i,j)は座標(i,j)における画素値を表す。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【0058】
(2)上述した実施の形態では、上述した図6に示す方法により、差分画像内に存在する2つの輪郭間の距離を算出する例について説明した。しかしこれに限定されず、例えば、図10に示すように、上述した変形例(1)と同様に、各輪郭の重心10aおよび10bを算出し、それぞれの重臣10aおよび10bを直線と、それぞれの輪郭の交点間距離10cを2つの輪郭菅野距離として算出してもよい。
【0059】
(3)上述した実施の形態では、自車両の衝突を検出した場合に、運転者の頚椎に負荷をかけないように乗員保護装置、すなわちシートベルトあるいはヘッドレストを制御する例について説明した。しかしこれに限定されず、衝突を検出しなくても、車両が大幅に揺れたことを検出した場合や、急ブレーキや急加速を検出した場合など、運転者の頚椎に負荷がかかる状況を検出した場合に、上述した処理を実行してシートベルトあるいはヘッドレストを制御するようにしてもよい。また、車両の挙動に関わらず、車両の走行中は常に運転者の頚椎角度の変化の状況を監視して、シートベルトあるいはヘッドレストを制御するようにしてもよい。
【0060】
(4)上述した実施の形態では、車間デバイス制御装置100を車両に搭載する例について説明したが、これに限定されず、その他の移動体に搭載するようにしてもよい。
【0061】
なお、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、本発明は、上述した実施の形態における構成に何ら限定されない。
【0062】
特許請求の範囲の構成要素と実施の形態との対応関係について説明する。カメラ101は撮像手段に、制御装置106は頚椎角度算出手段、変化速度算出手段、および制御手段に相当する。なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記の実施形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施の形態における車両デバイス制御装置の一実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図2】カメラ101および投光装置103の設置例を示す図である。
【図3】撮像画像内から運転席のシート、および運転者の輪郭を抽出して、監視領域3aを設定した場合の具体例を示す図である。
【図4】運転者の頚椎角度θの算出例を模式的に示す図である。
【図5】カメラ101による撮像タイミングと投光装置103の発光タイミングの具体例を示す図である。
【図6】画像内に存在する2つの輪郭間の距離の算出方法を模式的に示した図である。
【図7】車両デバイス制御装置100の処理を示すフローチャート図である。
【図8】シートベルト制御処理の流れを示すフローチャート図である。
【図9】ヘッドレスト制御処理の流れを示すフローチャート図である。
【図10】変形例(2)における画像内に存在する2つの輪郭間の距離の算出方法を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0064】
100 車両デバイス制御装置100
101 カメラ
102 画像メモリ
103 投光装置
104 衝突検出装置
105 車速センサ
106 制御装置
107 頚椎角度記憶メモリ
108 シートベルト制御装置
109 ヘッドレスト制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像手段によって乗員の側方から複数フレーム撮像された各々の画像に基づいて、乗員の頚椎角度を算出する頚椎角度算出手段と、
前記頚椎角度算出手段で算出した前記乗員の頚椎角度の複数フレーム間における変化の状況を検出する頚椎角度変化検出手段と、
前記頚椎角度変化検出手段で検出した前記乗員の頚椎角度の変化の状況に応じて、乗員保護装置を制御する制御手段とを備えることを特徴とする車両デバイス制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両デバイス制御装置において、
前記頚椎角度変化検出手段は、前記乗員の頚椎角度の複数フレーム間における変化の状況として、前記乗員の頚椎角度の複数フレーム間における変化速度を算出する変化速度算出手段を含み、
前記制御手段は、前記変化速度算出手段で算出した前記乗員の頚椎角度の変化速度に基づいて、前記頚椎角度算出手段で算出した前記乗員の頚椎角度が所定角度を超えないように、乗員保護装置を制御することを特徴とする車両デバイス制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両デバイス制御装置において、
前記乗員保護装置はシートベルトであり、
前記制御手段は、前記頚椎角度変化検出手段で検出した前記乗員の頚椎角度の変化の状況に基づいて、乗員が前傾することを検出した場合には、前記変化速度算出手段で算出した前記乗員の頚椎角度の変化速度に応じて、前記シートベルトの張力を緩めることを特徴とする車両デバイス制御装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の車両デバイス制御装置において、
前記乗員保護装置はヘッドレストであり、
前記制御手段は、前記頚椎角度変化検出手段で検出した前記乗員の頚椎角度の変化の状況に基づいて、乗員が後傾することを検出した場合には、前記変化速度算出手段で算出した前記乗員の頚椎角度の変化速度に基づいて、前記乗員の頚椎角度が所定角度となる位置を推定し、その推定位置に前記ヘッドレストの位置を移動することを特徴とする車両デバイス制御装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の車両デバイス制御装置において、
前記制御手段は、前記変化速度算出手段で算出された前記乗員の頚椎角度の変化速度に基づいて、乗員の頚椎角度が前記所定角度となるまでに要する余裕時間、および前記乗員保護装置の応答遅れ時間を算出し、算出した前記余裕時間、および前記応答遅れ時間を加味して、前記乗員保護装置を制御することを特徴とする車両デバイス制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両デバイス制御装置において、
自車両の衝突を検出する衝突検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記衝突検出手段で自車両の衝突を検出した場合に、前記乗員保護装置を制御することを特徴とする車両デバイス制御装置。
【請求項7】
撮像手段によって乗員の側方から複数フレーム撮像された各々の画像に基づいて、乗員の頚椎角度を算出し、
算出した前記乗員の頚椎角度の複数フレーム間における変化の状況を検出し、
検出した前記乗員の頚椎角度の変化の状況に応じて、乗員保護装置を制御することを特徴とする車両デバイス制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−22428(P2007−22428A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209977(P2005−209977)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】