説明

車両前部構造

【課題】車両のオフセット衝突時に、ステアリングコラムに対し運転者が車体の幅方向で偏位しないようにし、通常、上記幅方向でステアリングコラムと同じところに配置される運転者用の保護装置に対し運転者が正面から対向できるようにする。
【解決手段】オフセット衝突により車体2前部の一側部2aにその前方から外力が与えられたとき、この外力により上記ストラットタワー25の上端部が上方に変位するようこのストラットタワー25が塑性変形する。外力により変形するストラットタワー25がステアリングコラムブラケット36を押動し、この押動により、ステアリングコラムブラケット36に支持されたステアリングコラム35が車体2前部の一側部2aの外側方がわに向かって変位するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両がオフセット衝突し、車体前部の一側部にその前方から与えられる外力により、シート上の運転者が車体前部の外側方がわに変位させられるとき、ステアリングコラムも上記と同じ外側方がわに変位させられるようにした車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両前部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この後方のものによれば、車両前部は、車体前部の一側部内に配置される運転者用のシートと、上記シートの前方に位置して車体の幅方向に延び、車体前部の左右各側部に架設されるピラーツーピラーメンバと、上記シートの前方に位置して車体前部がわから後上方に向かって突出するステアリングコラムと、上記ピラーツーピラーメンバに固着され、上記ステアリングコラムを支持するステアリングコラムブラケットと、上記ステアリングコラムの軸心上で、このステアリングコラムの後上方に配置され、このステアリングコラムに支持されるステアリングハンドルと、車体の幅方向で上記ステアリングコラムと同じところ、かつ、上記ステアリングコラムブラケットの後下方に配置されてこのステアリングコラムブラケットに支持される運転者の保護装置である弾性変形可能なニープロテクタとを備えている。
【0003】
そして、車両の衝突時、上記シート上の運転者が前方に向かって慣性移動するときには、この運転者はその膝が上記ステアリングコラムブラケットに衝突する以前に上記ニープロテクタに当接する。すると、このニープロテクタが弾性変形して、上記運転者に与えられる衝撃力が緩和される。これにより、運転者が保護される。
【0004】
一方、運転者の保護装置の他の従来の技術として、上記ステアリングハンドルの軸心上にエアバッグを設けたものがある。これによれば、前突時にこのエアバッグが膨張し、前方に向かって慣性移動する運転者は上記ステアリングハンドルに衝突する以前に上記エアバッグに当接する。すると、このエアバッグが収縮して、上記運転者に与えられる衝撃力が緩和される。また、他の従来の技術として、前突時に、上記ステアリングハンドルを介して運転者から上記ステアリングコラムにその軸方向に衝撃力が与えられるとき、このステアリングコラムが軸方向に収縮変形して上記衝撃力を緩和するようにしたものもある。
【特許文献1】特開平10−175492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記前突がオフセット衝突であって、上記車体前部の一側部にその前方から外力が与えられるときには、この外力により、前記したように、シート上の運転者は前方に向かって慣性移動するが、これに加え、通常、運転者は上記一側部の外側方がわに向かって変位しがちとなる。
【0006】
しかし、上記したように、運転者が上記一側部の外側方がわに向かって変位したとすると、上記各従来の技術における運転者の保護装置に対し、運転者は車体の幅方向で偏位しがちとなる。このため、上記オフセット衝突により運転者が前方に向かって慣性移動するとき、この運転者は上記保護装置に正面からは対向しないこととなって好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両のオフセット衝突時に、ステアリングコラムに対し運転者が車体の幅方向で偏位しないようにし、通常、上記幅方向でステアリングコラムと同じところに配置される運転者用の保護装置に対し運転者が正面から対向できるようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、車体2前部の一側部2a内に配置される運転者8用のシート9と、このシート9の足元部の外側方に形成され、フロントサスペンション6のストラット32を支持するストラットタワー25と、上記シート9の前方に位置して車体2の幅方向に延び、車体2前部の左右各側部に架設されるピラーツーピラーメンバ26と、上記シート9の前方に位置して車体2前部がわから後上方に向かって突出するステアリングコラム35と、上記ピラーツーピラーメンバ26に固着され、上記ステアリングコラム35を支持するステアリングコラムブラケット36と、上記ステアリングコラム35の軸心37上で、このステアリングコラム35の後上方に配置され、このステアリングコラム35に支持されるステアリングハンドル39とを備え、オフセット衝突により上記車体2前部の一側部2aにその前方から外力Dが与えられたとき、この外力Dにより上記ストラットタワー25の上端部が上方に変位するようこのストラットタワー25が塑性変形するようにした車両前部構造において、
上記外力Dにより変形する上記ストラットタワー25が上記ステアリングコラムブラケット36を押動し、この押動により、ステアリングコラムブラケット36に支持された上記ステアリングコラム35が車体2前部の上記一側部2aの外側方がわに向かって変位するようにしたことを特徴とする車両前部構造である。
【0009】
請求項2の発明は、上記車体2の幅方向におけるこの車体2前部の一部分53から後方に向けて突出するペダルブラケット54と、上下方向に延び、下端部に踏動部55を有して上記ペダルブラケット54に枢支されるブレーキペダル57と、上記ストラットタワー25の上端部に支持され、上記外力Dにより上記車体2前部の一部分53と共に上記ペダルブラケット54が後方移動するとき、このペダルブラケット54の突出端部を後下方に向けて案内する案内体63とを設け、
上記外力Dにより、上記ストラットタワー25が上記変形をして、この変形によりこのストラットタワー25の上端部と共に上記案内体63が上方移動するとき、この案内体63が上記ステアリングコラムブラケット36に摺接し、この摺接によりステアリングコラムブラケット36から上記案内体63に与えられる外力により、この案内体63が上方に向かいほぼ平行移動するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造である。
【0010】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明による効果は、次の如くである。
【0012】
請求項1の発明は、車体前部の一側部内に配置される運転者用のシートと、このシートの足元部の外側方に形成され、フロントサスペンションのストラットを支持するストラットタワーと、上記シートの前方に位置して車体の幅方向に延び、車体前部の左右各側部に架設されるピラーツーピラーメンバと、上記シートの前方に位置して車体前部がわから後上方に向かって突出するステアリングコラムと、上記ピラーツーピラーメンバに固着され、上記ステアリングコラムを支持するステアリングコラムブラケットと、上記ステアリングコラムの軸心上で、このステアリングコラムの後上方に配置され、このステアリングコラムに支持されるステアリングハンドルとを備え、オフセット衝突により上記車体前部の一側部にその前方から外力が与えられたとき、この外力により上記ストラットタワーの上端部が上方に変位するようこのストラットタワーが塑性変形するようにした車両前部構造において、
上記外力により変形する上記ストラットタワーが上記ステアリングコラムブラケットを押動し、この押動により、ステアリングコラムブラケットに支持された上記ステアリングコラムが車体前部の上記一側部の外側方がわに向かって変位するようにしている。
【0013】
ここで、車両がオフセット衝突した場合には、その時の外力により、上記シート上の運転者は前方に向かって慣性移動するが、これに加え、通常、運転者は上記一側部の外側方がわに向かって変位しがちとなる。これにより、上記ステアリングコラムに対し運転者は車体の幅方向で偏位しがちとなる。
【0014】
そこで、前記したように、外力により変形する上記ストラットタワーが上記ステアリングコラムブラケットを押動し、この押動により、ステアリングコラムブラケットに支持された上記ステアリングコラムが車体前部の上記一側部の外側方がわに向かって変位するようにしたのであり、このため、上記ステアリングコラムに対し運転者が車体の幅方向で偏位する、ということは抑制される。よって、通常、上記幅方向でステアリングコラムと同じところに配置される運転者用の保護装置に対し運転者は正面から対向することとなり、この保護装置による運転者の保護がより確実に達成される。
【0015】
また、上記したように、オフセット衝突時に、ステアリングコラムを車体前部の上記一側部の外側方がわに向かって変位させる、という構成は上記衝突時におけるストラットタワーの塑性変形を利用したものである。このため、上記した運転者の保護は簡単な構成により達成される。
【0016】
請求項2の発明は、上記車体の幅方向におけるこの車体前部の一部分から後方に向けて突出するペダルブラケットと、上下方向に延び、下端部に踏動部を有して上記ペダルブラケットに枢支されるブレーキペダルと、上記ストラットタワーの上端部に支持され、上記外力により上記車体前部の一部分と共に上記ペダルブラケットが後方移動するとき、このペダルブラケットの突出端部を後下方に向けて案内する案内体とを設けている。
【0017】
このため、上記したように、ペダルブラケットが後方移動するときには、このペダルブラケットは上記案内体により後下がり状に変形させられたり、後下がり状の姿勢にさせられたりする。よって、上記ペダルブラケットに枢支されたブレーキペダルの下端部の踏動部は、上記ペダルブラケットが後下がり状にさせられることにより、前方に回動する傾向となる。この結果、上記踏動部は、上記シート上の運転者の脚部から前方に離れがちとなって、この運転者の脚部が上記踏動部に衝突するということが防止され、運転者がより確実に保護される。
【0018】
また、上記外力により、上記ストラットタワーが上記変形をして、この変形によりこのストラットタワーの上端部と共に上記案内体が上方移動するとき、この案内体が上記ステアリングコラムブラケットに摺接し、この摺接によりステアリングコラムブラケットから上記案内体に与えられる外力により、この案内体が上方に向かいほぼ平行移動するようにしている。
【0019】
ここで、上記外力により上記ストラットタワーが上記変形をし、この変形に伴いこのストラットタワーに支持された案内体の姿勢が傾斜した場合には、この案内体に案内されるペダルブラケットとこのペダルブラケットに枢支されたブレーキペダルの姿勢も傾斜して、このブレーキペダルの踏動部の位置が高くなるおそれを生じる。そして,このように、ブレーキペダルの踏動部の位置が高くなると、この踏動部に運転者の脚部の脛が衝突するおそれを生じて好ましくない。
【0020】
そこで、上記したように、外力により、上記ストラットタワーが上記変形をして、この変形によりこのストラットタワーの上端部と共に上記案内体が上方移動するとき、この案内体が、上記ステアリングコラムブラケットに摺接して上方に向かいほぼ平行移動することとされている。
【0021】
このため、上記案内体に案内されるペダルブラケットとこのペダルブラケットに枢支されたブレーキペダルの姿勢が傾斜することは抑制されて、このブレーキペダルの踏動部の位置が高くなることが抑制される。よって、この踏動部に運転者の足が対向する傾向となるため、上記踏動部に運転者の脚部の脛が衝突することは防止されて、運転者の保護がより向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の車両前部構造に関し、車両のオフセット衝突時に、ステアリングコラムに対し運転者が車体の幅方向で偏位しないようにし、通常、上記幅方向でステアリングコラムと同じところに配置される運転者用の保護装置に対し運転者が正面から対向できるようにするようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0023】
即ち、車両前部は、車体前部の一側部内に配置される運転者用のシートと、このシートの足元部の外側方に形成され、フロントサスペンションのストラットを支持するストラットタワーと、上記シートの前方に位置して車体の幅方向に延び、車体前部の左右各側部に架設されるピラーツーピラーメンバと、上記シートの前方に位置して車体前部がわから後上方に向かって突出するステアリングコラムと、上記ピラーツーピラーメンバに固着され、上記ステアリングコラムを支持するステアリングコラムブラケットと、上記ステアリングコラムの軸心上で、このステアリングコラムの後上方に配置され、このステアリングコラムに支持されるステアリングハンドルとを備えている。そして、オフセット衝突により上記車体前部の一側部にその前方から外力が与えられたとき、この外力により上記ストラットタワーの上端部が上方に変位するようこのストラットタワーが塑性変形するようにしている。
【0024】
上記外力により変形する上記ストラットタワーが上記ステアリングコラムブラケットを押動し、この押動により、ステアリングコラムブラケットに支持された上記ステアリングコラムが車体前部の上記一側部の外側方がわに向かって変位するようにしている。
【実施例】
【0025】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0026】
図1〜4において、符号1はセミキャブタイプの自動車で例示される車両であり、矢印Frはこの車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、車両1の前方に向かっての車体2の幅方向をいうものとする。
【0027】
上記車体2は、この車体2の下端部を構成して骨格部材をなす車体フレーム3と、内部が車室4とされて上記車体フレーム3上に支持される車体本体5と、上記車体2前部にフロントサスペンション6により操向可能に懸架される左右一対の前車輪7,7と、上記車体2前部の一側部2a(右側部)の車室4内に配置される運転者8用のシート9と、上記前車輪7と連結され、上記シート9上の運転者8により操向操作が可能とされるステアリング操作装置10と、不図示の車輪用ブレーキと連結され、上記シート9上の運転者8により上記ブレーキの制動操作が可能とされるブレーキ操作装置11とを備えている。なお、符号12は、車体2の幅方向の中心線を示している。車体2の平面視で、上記中心線12を基準として、上記車体2は左右対称形状とされている。
【0028】
上記車体フレーム3は車体2の長手方向である前後方向に延びる左右一対のサイドメンバ14と、これら左右サイドメンバ14を互いに結合させる前後方向で複数の不図示のクロスメンバとを備えている。
【0029】
上記車体本体5は、上下方向に延び、下端部が上記車体フレーム3の各側部に支持され、その前部にドア開口15が形成された左右一対の側壁16と、これら左右側壁16の上端部に架設されて上記車室4の天井面を形成するルーフパネル17と、上記左右側壁16の前端下部に架設されるフロントパネル18と、上記左右側壁16の前端上部の間に設けられるフロントウインド19と、上記フロントパネル18の下端部に連設されるフロントバンパ20とを備えている。
【0030】
また、上記車体本体5は、上記車体2前部の上記各側壁16における上記ドア開口15の前縁部を形成し、車体本体5の骨格部材とされる左右一対のフロントピラー22と、上記車体フレーム3上に設置され、車室4の下面を形成する板金製のフロアパネル23と、このフロアパネル23の前端部から上方に向かって延出し、その上端部が上記フロントパネル18の上端部と結合されて上記車室4の下部前面を形成する板金製のダッシュパネル24とを備えている。
【0031】
更に、上記車体本体5は、上記ダッシュパネル24よりも後方かつシート9の足元部の外側方における車体2前部の各側部に形成される板金製のストラットタワー25と、上記ダッシュパネル24よりも後方で上記左右フロントピラー22に架設され、車体本体5の骨格部材とされて上記各フロントピラー22を補強する円形パイプ製のピラーツーピラーメンバ26とを備えている。上記ストラットタワー25は、上記フロアパネル23に一体的に接合され上方に向かって膨出する形状とされ、十分の強度と剛性とを備えている。このストラットタワー25の基部における車体2の幅方向の内端部は、その下方から上記サイドメンバ14により支持されている。
【0032】
前記フロントサスペンション6は、上記前車輪7に車軸を介し連結されるステアリングナックル29と、一端部が上記サイドメンバ14に枢支軸30により枢支され、他端部の揺動端部に上記ステアリングナックル29を枢支させるロアアーム31と、上記ストラットタワー25に収容されて上下方向に延び、その上端部が上記ストラットタワー25の上端部に強固に支持され、下端部に上記ステアリングナックル29を枢支させる緩衝器であるストラット32とを備えている。
【0033】
前記ステアリング操作装置10は、上記シート9の前方、かつ、ピラーツーピラーメンバ26後下方に位置して車体2前部がわから後上方に向かって突出するステアリングコラム35と、上記ピラーツーピラーメンバ26に固着され、上記ステアリングコラム35を支持するステアリングコラムブラケット36と、上記ステアリングコラム35の軸心37上でこのステアリングコラム35に内嵌されて支持されるステアリングシャフト38と、上記軸心37上で、上記ステアリングコラム35の後上方に配置され、このステアリングコラム35に上記ステアリングシャフト38を介し支持されるステアリングハンドル39と、上記軸心37上で、上記ステアリングハンドル39の後上面がわに支持される運転者8の保護装置40とを備えている。
【0034】
上記車体2の幅方向で、上記シート9の中心とステアリングコラム35の軸心37とは互いにほぼ同じところに位置している。また、上記保護装置40は具体的にはエアバッグである。
【0035】
上記ステアリングコラムブラケット36は、上記ピラーツーピラーメンバ26の後下方に位置してこのピラーツーピラーメンバ26に固着され、上記ステアリングコラム35とほぼ平行かつ、車体2の幅方向に平坦に延びる支持基板43と、上記ステアリングコラム35の長手方向の中途部に固着され、上記支持基板43の後下面にそれぞれ複数(2つ)の締結具44,45により締結により固着される上、下ブラケット46,47とを備えている。これら各ブラケット46,47は、上記支持基板43および上、下ブラケット46,47に貫設されるボルト孔49と、このボルト孔49に挿通されてナットと螺合されるボルト50とを備えている。また、上記下ブラケット47の外側方(右側方)がわの端縁部は、上記支持基板43がわから後下方に向かうに従い、内側方に向かって延びる傾斜端縁部51とされている。
【0036】
前記ブレーキ操作装置11は、上記車体2の幅方向におけるこの車体2前部の一部分53である前記ダッシュパネル24の一部分から後方に向けて突出する板金製のペダルブラケット54と、上下方向に延び、下端部に踏動部55を有し、この踏動部55を含む下部側が前方に向かって往、復回動A,B可能となるよう枢支具56により上記ペダルブラケット54に枢支されるブレーキペダル57とを備えている。上記ブレーキペダル57はその下部側が復回動Bするよう不図示のばねで付勢されている。また、上記ブレーキペダル57が図示以上に復回動Bすることは、不図示のストッパにより阻止されている。
【0037】
上記ブレーキペダル57の上部の前方におけるダッシュパネル24の部分にはブレーキブースター58が取り付けられている。上記ブレーキペダル57の長手方向の中途部と上記ブレーキブースター58とはプッシュロッド59により互いに連動連結されている。上記ブレーキペダル57の踏動部55の外側方(右側方)近傍にはアクセルペダル61が並設されている。
【0038】
上記ストラットタワー25の上端部には案内体63が溶接により支持されている。この案内体63は、上記ストラットタワー25の上端部から内側方(左側方)に向かって突出している。上記案内体63の下面は後方に向かうに従い下方に傾斜する円弧凹形状の案内面64とされている。この案内面64に上記ペダルブラケット54の突出端の上縁部が当接している。このペダルブラケット54の突出端部は、上記案内体63に締結具65により締結されて仮止めされている。上記ステアリングコラムブラケット36の下ブラケット47の傾斜端縁部51と案内体63とは互いに近接しているが、これら両部材51,63の間にはわずかの隙間が設けられている。
【0039】
図3、5〜7において、車両1の前進走行中に、その前方の何らかの物体Cに衝突(前突)したとし、かつ、これがオフセット衝突であって、上記車体2前部の一側部2aにその前方から外力Dが与えられたとする。この場合、この外力Dにより、上記一側部2aがわのサイドメンバ14の前部の一部分は、上方に向かって円弧形状に屈曲するよう塑性変形させられるようになっている。
【0040】
また、上記サイドメンバ14の前部の一部分は、車体2の前後方向で上記ストラットタワー25と同じところに位置している。このため、上記したようにサイドメンバ14の一部分が上方に向かって屈曲させられると、これに連動することにより、上記ストラットタワー25の上端部が上方に変位するようこのストラットタワー25が塑性変形させられる。
【0041】
そして、上記各塑性変形により、上記外力Dに基づくエネルギーが吸収されて、車体2に与えられる衝撃力が緩和される。なお、上記したように、前突時に、車体2前部に上記外力Dが与えられたとしても、この車体2前部の骨格部材をなす上記ピラーツーピラーメンバ26は、車体2の後部を基準としてみたとき、この車体2の後方がわに向かってほとんど変位しないこととされている。
【0042】
また、上記前突時には、上記外力Dにより変形する上記ストラットタワー25が上記案内体63を介し上記ピラーツーピラーメンバ26に支持されたステアリングコラムブラケット36の下ブラケット47の傾斜端縁部51を押動することとされている(図6,7中二点鎖線、実線)。この押動により、上記ステアリングコラムブラケット36に支持されたステアリングコラム35の少なくとも、一部である後上部が上記ステアリングハンドル39と共に上記一側部2aの外側方がわに向かって変位することとされている(図7中一点鎖線)。
【0043】
より具体的には、前記支持基板43に対し上ブラケット46を締結する左右締結具44,44のうち、左方の締結具44のボルト孔49はボルト50をがたつきなく挿通させる円形孔とされている。一方、上、下ブラケット46,47に形成されるそれぞれ他のボルト孔49は、上記円形孔であるボルト孔49を中心として円弧形状に延びる長孔形状とされている。
【0044】
このため、上記したように、ストラットタワー25がステアリングコラムブラケット36を押動すると、上記各締結具44,45による締結力に対抗しつつ、上記円形孔であるボルト孔49を中心として、上記ステアリングコラム35がステアリングハンドル39と共に上記一側部2aの外側方がわに向かって変位する。
【0045】
ここで、車両1がオフセット衝突した場合には、その時の外力Dにより、上記シート9上の運転者8は前方に向かって慣性移動するが、これに加え、通常、運転者8は上記一側部2aの外側方がわに向かって変位しがちとなる。これにより、上記ステアリングコラム35の軸心37上でステアリングハンドル39に設けられた運転者8の保護装置40に対し、運転者8は車体2の幅方向で偏位しがちとなる。
【0046】
そこで、前記したように、外力Dにより変形する上記ストラットタワー25が上記ステアリングコラムブラケット36を押動し、この押動により、ステアリングコラムブラケット36に支持された上記ステアリングコラム35が車体2前部の上記一側部2aの外側方がわに向かって変位するようにしたのであり、このため、上記ステアリングコラム35に対し運転者8が車体2の幅方向で偏位する、ということは抑制される。よって、上記幅方向でステアリングコラム35と同じところに配置される運転者8用の保護装置40に対し運転者8は正面から対向することとなり、この保護装置40による運転者8の保護がより確実に達成される。
【0047】
また、上記したように、オフセット衝突時に、ステアリングコラム35を車体2前部の上記一側部2aの外側方がわに向かって変位させる、という構成は上記衝突時におけるストラットタワー25の塑性変形を利用したものである。このため、上記した運転者8の保護は簡単な構成により達成される。
【0048】
また、上記外力Dにより上記車体2前部の上記一部分53と共にペダルブラケット54が後方移動するときには、まず、上記締結具65が剪断破壊されて、上記案内体63に対する上記ペダルブラケット54の突出端部の仮止めが解除される。次に、このペダルブラケット54の突出端部は上記案内体63の案内面64を摺動して後下方に向けて案内される。
【0049】
このため、上記したように、車両1の前突時の外力Dにより、上記車体2前部の一部分53と共にペダルブラケット54が後方移動するときには、このペダルブラケット54は上記案内体63により後下がり状に変形させられたり、後下がり状の姿勢にさせられたりする。よって、上記ペダルブラケット54に枢支されたブレーキペダル57の下端部の踏動部55は、上記ペダルブラケット54が後下がり状にさせられることにより、前方に回動する傾向となる。この結果、上記踏動部55は、上記シート9上の運転者8の脚部から前方に離れがちとなって、この運転者8の脚部が上記踏動部55に衝突するということが防止され、運転者8がより確実に保護される。
【0050】
ここで、上記外力Dにより上記ストラットタワー25が上記変形をし、この変形に伴いこのストラットタワー25に支持された案内体63の姿勢が傾斜した場合には、この案内体63に案内されるペダルブラケット54とこのペダルブラケット54に枢支されたブレーキペダル57の姿勢も傾斜して、このブレーキペダル57の踏動部55の位置が高くなるおそれを生じる(図6中三点鎖線)。そして,このように、ブレーキペダル57の踏動部55の位置が高くなると、この踏動部55に運転者8の脚部の脛が衝突するおそれを生じて好ましくない。
【0051】
そこで、上記したように、外力Dにより、上記ストラットタワー25が上記変形をして、この変形によりこのストラットタワー25の上端部と共に上記案内体63が上方移動するとき、この案内体63が上記ステアリングコラムブラケット36に摺接し、この摺接によりステアリングコラムブラケット36から上記案内体63に与えられる外力により、この案内体63が上方に向かいほぼ平行移動することとされている(図6中実線、二点鎖線)。
【0052】
このため、上記案内体63に案内されるペダルブラケット54とこのペダルブラケット54に枢支されたブレーキペダル57の姿勢が傾斜することは抑制されて、このブレーキペダル57の踏動部55の位置が高くなることが抑制される。よって、この踏動部55に運転者8の足が対向する傾向となるため、上記踏動部55に運転者8の脚部の脛が衝突することは防止されて、運転者8の保護がより向上する。
【0053】
なお、以上は図示の例によるが、車両1はフルキャブタイプの自動車であってもよい。また、上記保護装置40は、前記従来の技術で説明したようなニープロテクタであってもよく、また、車両1の衝突により、運転者8が前方に向かって慣性移動し、この運転者8から上記ステアリングハンドル39を介しステアリングコラム35にその軸方向に衝撃力が与えられるとき、このステアリングコラム35が軸方向に収縮変形して、上記衝撃力に基くエネルギーを吸収し、この衝撃力を緩和するような衝撃力緩和装置であってもよい。
【0054】
また、上記下ブラケット47は設けなくてもよい。
【0055】
また、上記上ブラケット46における左方の締結具44のボルト孔49も、他のボルト孔49と同様に円弧形状に延びる長孔としてもよい。また、上記各ボルト孔49の全てを、がたつきなくボルト50を挿通させる円形孔とし、上記ストラットタワー25がステアリングコラムブラケット36を押動するとき、上記各ボルト50のうちの少なくとも一部のボルトが剪断破壊されるようにしてもよい。このようにして、上記ストラットタワー25がステアリングコラムブラケット36を押動するとき、上記ステアリングコラムブラケット36に支持されたステアリングコラム35がステアリングハンドル39と共に上記ステアリングナックル29の外側方がわに向かって変位するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】車両前部の簡略側面部分断面図である。
【図2】図1の部分拡大部分破断図である。
【図3】図2で示したものの平面部分破断図である。
【図4】図2で示したものの背面部分断面図である。
【図5】車両衝突時の作用説明図で、図2に相当する図である。
【図6】車両衝突時の作用説明図で、図4の一部に相当する図である。
【図7】図5のVII−VII線矢視図である。
【符号の説明】
【0057】
1 車両
2 車体
2a 一側部
3 車体フレーム
4 車室
5 車体本体
6 フロントサスペンション
7 前車輪
8 運転者
9 シート
10 ステアリング操作装置
11 ブレーキ操作装置
12 中心線
14 サイドメンバ
15 ドア開口
16 側壁
22 フロントピラー
23 フロアパネル
24 ダッシュパネル
25 ストラットタワー
26 ピラーツーピラーメンバ
32 ストラット
35 ステアリングコラム
36 ステアリングコラムブラケット
37 軸心
38 ステアリングシャフト
39 ステアリングハンドル
40 保護装置
43 支持基板
44 締結具
45 締結具
46 ブラケット
47 ブラケット
49 ボルト孔
50 ボルト
51 傾斜端縁部
53 一部分
54 ペダルブラケット
55 踏動部
57 ブレーキペダル
63 案内体
64 案内面
65 締結具
A 往回動
B 復回動
C 物体
D 外力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の一側部内に配置される運転者用のシートと、このシートの足元部の外側方に形成され、フロントサスペンションのストラットを支持するストラットタワーと、上記シートの前方に位置して車体の幅方向に延び、車体前部の左右各側部に架設されるピラーツーピラーメンバと、上記シートの前方に位置して車体前部がわから後上方に向かって突出するステアリングコラムと、上記ピラーツーピラーメンバに固着され、上記ステアリングコラムを支持するステアリングコラムブラケットと、上記ステアリングコラムの軸心上で、このステアリングコラムの後上方に配置され、このステアリングコラムに支持されるステアリングハンドルとを備え、オフセット衝突により上記車体前部の一側部にその前方から外力が与えられたとき、この外力により上記ストラットタワーの上端部が上方に変位するようこのストラットタワーが塑性変形するようにした車両前部構造において、
上記外力により変形する上記ストラットタワーが上記ステアリングコラムブラケットを押動し、この押動により、ステアリングコラムブラケットに支持された上記ステアリングコラムが車体前部の上記一側部の外側方がわに向かって変位するようにしたことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
上記車体の幅方向におけるこの車体前部の一部分から後方に向けて突出するペダルブラケットと、上下方向に延び、下端部に踏動部を有して上記ペダルブラケットに枢支されるブレーキペダルと、上記ストラットタワーの上端部に支持され、上記外力により上記車体前部の一部分と共に上記ペダルブラケットが後方移動するとき、このペダルブラケットの突出端部を後下方に向けて案内する案内体とを設け、
上記外力により、上記ストラットタワーが上記変形をして、この変形によりこのストラットタワーの上端部と共に上記案内体が上方移動するとき、この案内体が上記ステアリングコラムブラケットに摺接し、この摺接によりステアリングコラムブラケットから上記案内体に与えられる外力により、この案内体が上方に向かいほぼ平行移動するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−6807(P2009−6807A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169061(P2007−169061)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】