説明

車両前部構造

【課題】フードの後退の防止およびフードの開き角度の調整の両立を、簡易な構造によって低コストで実現することができる車両前部構造を提供する。
【解決手段】フードに固定されるヒンジアッパー18と、車体の前部に固定されヒンジアッパー18を回動自在に支持するヒンジロア11と、ヒンジロア11に設けられ、車体の幅方向に貫通するとともに高さ方向に長さを有し、少なくとも2ヵ所にガスステー5の一端を保持可能な保持溝12と、保持溝12の一部を車体1の前方に開口して形成される被係合部16と、ヒンジアッパー18に一体成形され、フードが閉じられた状態で車体の前方側から被係合部16に臨んで位置する係合部19と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部とフードとの間にガスステーが介在する車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示されるように、車体と車体前部に設けられたエンジンルームを覆うフードとの間にガスステーを介在させ、ガスステーの伸縮力によってフードの開閉を補助する構造が知られている。このフードの開閉構造によれば、フードの開き角度を2段階で調整可能となっており、エンジンルームでの作業内容に応じてフードの開き角度を変更することにより、作業効率を向上するようにしている。
また、特許文献2には、前面衝突時にフードの後退を防ぐ構造が示されている。この構造によれば、前面衝突時にフードの後退を防ぎながら、フードを折り曲げて衝撃を吸収することにより、乗員の安全を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−224864号公報
【特許文献2】特開2009−35088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示されるフードの開閉構造においては、フードの開き角度を調整する際にネジやボルトの着脱が要求され、フードの開き角度を調整する作業が煩雑となってしまう。そこで、フードの開き角度の調整作業をより容易に行うことが可能となる構造が望まれる。しかしながら、こうした構造をエンジンルーム内の限られたスペースにおいて、しかも上記したフードの後退を防ぐ構造やその他の装置との干渉を防ぎつつ実現するにあたっては、多くの設計上の困難を伴うこととなる。その結果、仮に、フードの後退を防ぎながら、これと両立してフードの開き角度を容易に調整することができる構造を採用した場合には、製造工程や部品点数の増加によってコストが上昇してしまうため、いまだ採用に至っていないという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、フードの後退の防止およびフードの開き角度の調整の両立を、簡易な構造によって低コストで実現することができる車両前部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車体前部にフードが開閉自在に支持されるとともに、前記車体前部にガスステーの一端が保持され前記フードにガスステーの他端が保持されて、前記フードの開閉時に前記ガスステーの伸縮力が作用する車両前部構造を前提とする。
【0007】
上記の構成を前提として、請求項1に記載の発明は、前記フードに固定されるヒンジアッパーと、前記車体前部に固定され前記ヒンジアッパーを回動自在に支持するヒンジロアと、前記ヒンジロアに設けられ、車体の高さ方向に長さを有するとともに少なくとも2ヵ所に前記ガスステーの一端を固定可能な保持溝と、前記保持溝の全部または一部を車体の前方に開口して形成される被係合部と、前記ヒンジアッパーの一部または前記フードの一部のいずれか一方または双方に設けられ、前記フードが閉じられた状態で車体の前方側から前記被係合部に臨んで位置する係合部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記保持溝には、前記ガスステーの一端を固定可能な第1保持部およびこの第1保持部よりも上方に位置する第2保持部が設けられ、前記ガスステーの一端が前記第1保持部に固定されているとき、前記ガスステーの伸縮状態に応じて前記フードが閉状態から第1の開状態まで開閉可能となり、前記ガスステーの一端が前記第2保持部に固定されているとき、前記ガスステーの伸縮状態に応じて前記フードが前記第1の開状態よりも大きく開いた第2の開状態まで開閉可能となることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記保持溝が、高さ方向に長さを有する第1溝部と、前記第1溝部から車体の後方に向かって連続する第2溝部と、を備え、前記被係合部は、前記第2溝部の車体前方側を開口して形成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、煩雑な作業を要せずにフードの開き角度を調整する機能と、前面衝突時などにフードの後退を防止する機能とを、フードを開閉自在に支持するヒンジの形状を加工するだけで、低コストで両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フードが開いた状態の車両前部を示す図である。
【図2】ヒンジ機構の斜視図である。
【図3】(a)はヒンジ機構の側面図であり、(b)は(a)におけるb−b線断面図である。
【図4】フードの開閉状態を段階的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜図4を用いて本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、車体1には、運転席を有するキャビン2と、このキャビン2よりも車両前方に位置するエンジンルーム3と、が設けられており、エンジンルーム3を覆うフード4が、ヒンジ機構10を介して車体1の前部に開閉自在に支持されている。
また、車体1とフード4との間には一対のガスステー5が介在しており、この一対のガスステー5の伸縮力によってフード4の開閉が補助されるようになっている。このガスステー5は、一端がフード4に固定され、他端が上記したヒンジ機構10に保持されている。このヒンジ機構10は、車体1の幅方向両端に一対設けられているが、これら両ヒンジ機構10は、構造が互いに対称である点のみ異なり、構造上の特徴や作用は同一である。したがって、以下では車体1の左端に設けられるヒンジ機構10について詳細に説明する。
なお、ここでは車体1の前後方向をxで示し、車体1の幅方向をyで示し、車体1の高さ方向をzで示している。
【0013】
図2および図3に示すように、ヒンジ機構10は、車体1の前部であってエンジンルーム3内に固定されるヒンジロア11を備えている。このヒンジロア11は、断面がL字形に屈曲形成された板状部材からなり、車体1にボルト固定される固定部11aと、この固定部11aから車体1の上方に略90度屈曲する起立部11bと、を備えている。固定部11aは所定の長さを有しており、その長手方向を車体1の前後方向(図中x方向)に沿わせた状態で、不図示のボルトによって車体1に固定される。
【0014】
このようにして固定部11bが車体1に固定されると、起立部11bが車体1の上方(図中z方向)に向かって起立することとなるが、起立部11bは平面形状を略平行四辺形状にしており、上方に向かうにつれて車体1の後方側に傾斜するようになっている。この起立部11bには、車体1の幅方向に貫通する保持溝12が形成されており、この保持溝12に、ガスステー5の一端がボールスタッド13を介して回動自在に保持されている。
【0015】
保持溝12は、起立部11bにおいて車体1の前方寄りに設けられるとともに、起立部11bの高さ方向に所定の長さを有している。より具体的には、保持溝12は、車体1の前方側に向かって凸状に湾曲するとともに、起立部11bの高さ方向に長さを有する第1溝部12aと、この第1溝部12aから車体1の後方側に向かって連続する第2溝部12bと、を備えている。なお、第1溝部12aの下端は、鉛垂方向下方に屈曲する第1保持部12cとしており、この第1保持部12cにボールスタッド13を固定するためのボルト13aが掛け止められるようにしている。これと同様に、第2溝部12bの後端も下方に屈曲する第2保持部12dとしており、この第2保持部12dにもボルト13aが掛け止め可能な構成となっている。
【0016】
なお、ボルト13aの直径は、保持溝12の幅よりも僅かに小径となっており、通常は、保持溝12を貫通するボルト13aの先端に、ワッシャ14を介してナット15が強固に締結されている。
また、ヒンジロア11の起立部11bには、保持溝12の一部を車体1の前方側に開口させた被係合部16が形成されている。この被係合部16は、起立部11bにおいて第2溝部12bと等しい高さ位置に形成されており、よって、第2溝部12bは、車体1の前方側が被係合部16によって開口することとなる。
【0017】
そして、起立部11bには、保持溝12よりも上方であって、かつ、車体1の後方位置に軸孔17が形成されており、この軸孔17に不図示の連結部材を介してヒンジアッパー18が回動自在に支持されている。
このヒンジアッパー18も、断面がL字形に屈曲形成された板状部材からなり、フード4の内面にボルト固定される固定面18aと、この固定面18aから車体1の下方に略90度屈曲する連結面18bと、を備えている。そして、この連結面18bの基端をヒンジロア11の軸孔17に回動自在に連結することにより、ヒンジアッパー18がヒンジロア11に回動自在に支持されることとなる。
【0018】
また、図2に示すように、ヒンジアッパー18には、固定面18aの下端面からヒンジロア11側すなわち車体1の幅方向外方に部分的に突出する板状の突出部18cが一体成形されている。この突出部18cは、フード4が閉じられた状態にあるとき、ヒンジロア11の前方側面、より詳細には保持溝12の開口である被係合部16に臨む位置関係を有しており、この突出部18cの被係合部16に臨む位置には、凹状の係合部19が形成されている。
なお、連結面18bの先端には、ガスステー5との干渉を避けるための切り欠き20が形成されている。
【0019】
次に、上記の構成からなるヒンジ機構10の作用について図4を用いて説明する。
図4(a)は、フード4が閉じられた状態を示している。フード4が閉じられた状態では、ガスステー5の一端(ボルト13a)が、保持溝12のうち第1溝部12aの下端に設けられた第1保持部12cに位置しており、このときガスステー5は最収縮状態となっている。
このとき、ヒンジアッパー18の突出部18cに形成される係合部19と、ヒンジロア11の被係合部16とが、車体1の前後方向(図中x方向)に沿って対面している。したがって、車両の走行時などに前面衝突が生じて、仮にフード4がキャビン2側に後退したとしても、係合部19が被係合部16に係合して第2溝部12bに進入し、フード4のキャビン2への衝突を防止することができる。
【0020】
一方、上記の状態から軸孔17を軸としてフード4が開かれると、ガスステー5は、ボールスタッド13のボルト13aを軸として上方に向かって回動しながら伸長する。そして、ガスステー5が最伸長状態となると、図4(b)に示すようにフード4が第1の開状態となり、それ以上の開動作が制限される。
【0021】
この状態からさらにフード4を開く場合には、ボルト13aとナット15との締結力を弱めた状態で、フード4をさらに上方(図中z方向)に押し上げればよい。このようにすれば、ボルト13aが保持溝12に沿って上方に移動するとともに、ボルト13aが第1溝部12aの上端まで達したところで、ガスステー5の一端を車体1の後方に押し込んでボルト13aを第2保持部12dに位置させればよい。これにより、フード4を図4(c)に示す第2の開状態まで開くことが可能となる。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、ボルト13aとナット15との締結力を弱めるとともに、ガスステー5の一端を保持溝12に沿って移動させるだけで、フード4の開き角度を容易に多段階で調整することができる。しかも、保持溝12は、ガスステー5の一端の移動をガイドする機能のみならず、前面衝突時におけるフード4の後退を防止する機能をも併せもっているので、両機能の両立を、省スペース化の要請と低コスト化の要請とに応えながら実現することができる。
【0023】
なお、上記実施形態においては、ガスステー5の一端を、第1保持部12cまたは第2保持部12dのいずれかに保持する場合について説明したが、ガスステー5の一端は、ナット15を強固に締結することで保持溝12のいずれの場所に固定することも可能である。また、第1保持部12cまたは第2保持部12dにおいては、ボルト13aとナット15とを強固に締結させなくても、ガスステー5の一端を所定の位置に保持することが可能である。したがって、ガスステー5の一端を保持溝12に保持する構造は上記のボルトとナットに限らず、単にボールスタッド13の抜け止めを防止する構造であってもよい。
【0024】
また、ガスステー5の一端を保持するための保持溝の形状は上記実施形態に限らない。いずれにしても、保持溝は、車体の幅方向に貫通するとともに、少なくとも2ヵ所にガスステー5の一端を保持することができるように、車体の高さ方向に所定の長さを有するものであって、少なくともその一部が車体1の前方側に開口するものであればよい。したがって、例えば、上記実施形態における第2溝部12bを設けずに、第1溝部12aの一部または全部を車体1の前方側に開口させて被係合部を形成することとしても構わない。
【0025】
また、上記実施形態においては、フード4の後退を防ぐために被係合部16に係合させる係合部19を、ヒンジアッパー18に一体成形することとしたが、例えば、被係合部16に係合する係合部は、フード4の一部によって構成することとしても構わない。さらには、例えば、フード4を閉じた状態で、ヒンジアッパー18の一部とフード4の一部とを、同時にヒンジロア11の被係合部16に臨ませることとしてもよい。
また、上記実施形態においては、車体1の幅方向両端近傍に一対のガスステー5を設けることとしたが、ガスステー5は1台の車両に1つであってもよいし、3つ以上であってもよく、その数や配置は特に限定されるものではない。
なお、上記実施形態は一例に過ぎず、各形状や構造は本発明の作用をもたらす限りにおいて適宜設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 車体
2 キャビン
4 フード
5 ガスステー
10 ヒンジ機構
11 ヒンジロア
12 保持溝
12a 第1溝部
12b 第2溝部
12c 第1保持部
12d 第2保持部
16 被係合部
18 ヒンジアッパー
19 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビン前方に位置する車体前部にフードが開閉自在に支持されるとともに、前記車体前部にガスステーの一端が保持され前記フードにガスステーの他端が保持されて、前記フードの開閉時に前記ガスステーの伸縮力が作用する車両前部構造であって、
前記フードに固定されるヒンジアッパーと、
前記車体前部に固定され前記ヒンジアッパーを回動自在に支持するヒンジロアと、
前記ヒンジロアに設けられ、前記車体の高さ方向に長さを有するとともに、少なくとも2ヵ所に前記ガスステーの一端を保持可能な保持溝と、
前記保持溝の全部または一部を車体の前方に開口して形成される被係合部と、
前記ヒンジアッパーの一部または前記フードの一部のいずれか一方または双方に設けられ、前記フードが閉じられた状態で車体の前方側から前記被係合部に臨んで位置する係合部と、を備えたことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記保持溝には、前記ガスステーの一端を保持可能な第1保持部およびこの第1保持部よりも上方に位置する第2保持部が設けられ、
前記ガスステーの一端が前記第1保持部に固定されているとき、前記ガスステーの伸縮状態に応じて前記フードが閉状態から第1の開状態まで開閉可能となり、
前記ガスステーの一端が前記第2保持部に固定されているとき、前記ガスステーの伸縮状態に応じて前記フードが前記第1の開状態よりも大きく開いた第2の開状態まで開閉可能となることを特徴とする請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記保持溝は、
高さ方向に長さを有する第1溝部と、
前記第1溝部から車体の後方に向かって連続する第2溝部と、を備え、
前記被係合部は、前記第2溝部の車体前方側を開口して形成されてなることを特徴とする請求項1または2記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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