説明

車両同定装置及びそれを用いた運転支援装置

【課題】自車両の車載検出手段によって検出された他車両と、通信により情報が取得された他車両との同定を精度良く行う。
【解決手段】自車両に搭載され、他車両を検出する車載検出手段10と、通信により、他車両の情報を取得する通信取得手段20と、車載検出手段によって検出された他車両と、通信取得手段によって情報が取得された他車両との同定を行う同定手段30とを備え、車載検出手段10は、他車両の速度、大きさ及び位置を検出し、通信取得手段20は、他車両の速度及び車種の情報を取得し、同定手段30は、検出された速度、大きさ及び位置と、取得された速度、車種に対応する大きさ及び位置との一致度に基づいて同定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両同定装置及びそれを用いた運転支援装置に係り、より詳細には、自車両に搭載したセンサにより検出した他車両と、車車間通信又は路車間通信により情報を取得した他車両とを対応付けて同定する車両同定装置、及び、自車両で検出した他車両の情報と、車車間通信等により取得した他車両の情報とを組み合わせて運転支援を行う運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両同定装置の一例が、下記の特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載の技術によれば、自車両に搭載したセンサ(自律センサ)によって検出した他車両の速度変化と、車車間通信により取得した通信対象の他車両の速度変化とを対比して、両他車両が同一車両であるか否かを判定する。
【0003】
【特許文献1】特開2008−46873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他車両との衝突回避等のための運転支援を行うにあたっては、他車両の位置や速度等の情報が利用される。自車両に対する他車両の相対位置等の情報は、通常、自車両の車載センサによって精度良く直接検出されるが、車車間通信や路車間通信により取得することも考えられる。さらに、車車間通信等により取得される情報には、例えば、他車両の運転者の様子といった、自車両の車載センサでは直接検出することができない情報を含めることも可能である。そこで、自車両に搭載したセンサによって検出した他車両の情報と、車車間通信により取得した通信対象の他車両の情報とを組み合わせて、車両の運転支援に利用することが考えられる。
【0005】
しかしながら、一般に利用可能なGPS(全地球測位システム、Global Positioning System)は位置精度が低いため、車車間通信により取得される他車両の位置情報には誤差が含まれる。その結果、自車両の車載センサによって検出された他車両の位置と、車車間通信により取得された他車両の位置とは、必ずしも一致しない。このため、自車両の車載センサで直接検出した他車両の情報と、通信により取得した他車両の情報とを組み合わせて利用するためには、車載センサによって直接検出した他車両と通信対象の他車両とが同一のものであると同定する必要がある。
【0006】
他車両を同定する際には、例えば、自車両の搭載センサによって直接検出した他車両の検出位置と、車車間通信の通信対象の他車両の位置との距離の最短のものどうしを同一車両として同定することが考えられる。しかし、通信により取得した位置情報には誤差が含まれている。このため、距離だけを基準としたのでは、別の車両どうしを同一車両として誤って同定してしまうおそれがある。また、他車両の速度変化だけに基づいて車両を同定する場合にも、誤って別の車両を同定してしまう可能性が考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、自車両の車載検出手段によって検出された他車両と、通信により情報が取得された他車両との同定を精度良く行うことができる車両同定装置、及び、その車両同定装置を用いた運転支援装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の車両同定装置は、自車両に搭載され、他車両を検出する車載検出手段と、通信により、他車両の情報を取得する通信取得手段と、前記車載検出手段によって検出された他車両と、前記通信取得手段によって情報が取得された他車両との同定を行う同定手段と、を備え、前記車載検出手段は、他車両の速度及び大きさを検出し、前記通信取得手段は、他車両の速度情報及び車種情報を取得し、前記同定手段は、検出された速度と取得された速度との一致度、及び、検出された大きさと取得された車種に対応する大きさとの一致度に基づいて同定を行うことを特徴としている。
【0009】
これにより、自車両の車載検出手段によって検出された他車両と、通信により情報が取得された他車両との同定を精度良く行うことができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、前記車載検出手段は、他車両の位置を検出し、前記通信取得手段は、他車両の位置の情報を取得し、前記同定手段は、更に、検出された位置と、取得された位置情報の示す位置との一致度に基づいて同定を行う。
このように、他車両の速度、大きさ及び位置を組み合わせて同定することにより、より精度良く同定を行うことができる。特に、複数の他車両の位置が接近している場合であっても、速度や大きさが一致しない車両は除外される。その結果、残りの候補となる他車両について位置に基づく同定を精度良く行うことができる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、前記同定手段は、検出された位置と取得された位置情報の示す位置との一致度が所定の閾値以上の場合に、検出された他車両と、情報の取得された他車両とを同一と判定し、前記閾値は、検出された他車両及び情報の取得された他車両の一方又は双方の、密度及び台数の一方又は双方が高いほど高く設定される。
【0012】
このように、他車両の密度又は台数に基づいて、位置の一致度の閾値を調整するので、より精度良く同定が行われる。
【0013】
また、本発明において好ましくは、前記同定手段は、検出された位置と取得された位置情報の示す位置との一致度を、両位置間の距離の関数として与える。
【0014】
また、本発明の第1の運転支援装置は、自車両に搭載され、他車両を検出する車載検出手段と、通信により、他車両の運転操作及び運転者挙動の一方又は双方を含む情報を取得する通信取得手段と、前記車載検出手段によって検出された他車両と、前記通信取得手段によって情報が取得された他車両との同定を行う同定手段と、前記車載検出手段から得られた他車両の情報、及び前記通信取得手段によって取得された他車両の情報とに基づいて、同定後の他車両の挙動を予測し、自車両の走行を制御する走行制御手段と、を備え、前記車載検出手段は、他車両の速度及び大きさを検出し、前記通信取得手段は、他車両の速度情報及び車種情報を取得し、前記同定手段は、検出された速度と、取得された速度情報の示す速度との一致度、及び、検出された大きさと、取得された車種情報の示す車種に対応する大きさとの一致度に基づいて同定を行うことを特徴としている。
【0015】
本発明の第1の運転支援装置によれば、自車両の車載検出手段によって検出された他車両と、通信により情報が取得された他車両との同定を精度良く行うことができる。その結果、通信によって取得された情報と、車載検出手段によって検出された、他車両の相対位置等の正確な情報とを組み合わせて、適切な運転支援を行うことができる。
【0016】
また、本発明の第2の運転支援装置は、自車両に搭載され、他車両を検出する車載検出手段と、通信により、他車両の運転操作及び運転者挙動の一方又は双方を含む情報を取得する通信取得手段と、前記車載検出手段によって検出された他車両と、前記通信取得手段によって情報が取得された他車両との同定を行う同定手段と、前記通信取得手段によって取得された他車両の情報とに基づいて、同定後の他車両の危険度を判定する危険度判定手段と、前記危険度判定手段が危険度大と判定した場合に、自車両の運転者に危険な他車両を特定して警報を与える警報手段と、を備え、前記車載検出手段は、他車両の速度及び大きさを検出し、前記通信取得手段は、他車両の速度情報及び車種情報を取得し、前記同定手段は、検出された速度と、取得された速度情報の示す速度との一致度、及び、検出された大きさと、取得された車種情報の示す車種に対応する大きさとの一致度に基づいて同定を行うことを特徴としている。
【0017】
本発明の第2の運転支援装置によれば、自車両の車載検出手段によって検出された他車両と、通信により情報が取得された他車両との同定を精度良く行うことができる。このため、通信によって取得された情報と、車載検出手段によって検出された、他車両の相対位置等の正確な情報とを組み合わせて、適切な運転支援を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両同定装置及びそれを利用した車両用運転支援装置によれば、自車両の車載検出手段によって検出された他車両と、通信により情報が取得された他車両との同定を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して、本発明の車両同定装置及び車両の運転支援装置の実施形態を説明する。
まず、図1のブロック図を参照して、第1実施形態の車両の運転支援装置の構成を説明する。図1に示すように、第1実施形態の車両の運転支援装置は、自車両に搭載され、他車両を検出する車載検出手段10と、通信により、他車両の情報を取得する通信取得手段20と、車載検出手段10によって検出された他車両と、通信取得手段20によって情報が取得された他車両との同定を行う同定手段30とを備えている。さらに、本実施形態では、車載検出手段10から得られた他車両の情報、及び通信取得手段20によって取得された他車両の情報とに基づいて、同定手段30による同定後の他車両の挙動を予測し、自車両の走行を制御する走行制御手段としての走行制御部40をも備えている。
【0020】
なお、図1の仮想線C内の各ブロックは、それぞれ、車載ECU(electric control unit:電子制御装置)における処理機能に相当する。これらの処理機能は、ECUにおいて所定のプログラムを実行することにより、或いはマイクロチップにより実現される。
【0021】
車載検出手段10は、車載センサ11と、速度検出部12と、大きさ検出部13と、位置検出部14とから構成されている。車載センサ11は、前方監視カメラやレーダー装置を含むのがよい。例えば、カメラの撮像画像から、自車両の前方の他車両の画像が抽出され、他車両が検出される。また、ステレオカメラを使用すれば、それぞれのカメラの視角に基づいて自車両から他車両までの距離も検出される。また、例えば、レーダーの入射波と反射波との時間差から、自車両と他車両との相対距離も検出される。さらに、例えば、ドップラーレーダーの波長のシフト量から自車両と他車両との相対速度も検出される。
【0022】
速度検出部12は、車載センサ11の出力に基づいて、他車両の速度を検出する。例えば、自車両と他車両との相対速度ベクトル及び自車両の車速ベクトルに基づいて、他車両の速度ベクトルが検出される。また、レーダー等により捕捉した他車両のサンプリング時間ごとの位置の変位量から車速を検出してもよい。
【0023】
大きさ検出部13は、車載センサ11の出力に基づいて、他車両の大きさを検出する。例えば、カメラで撮像した他車両の大きさ(例えば、画像中の占有面積)と、自車両から他車両までの距離に基づいて、他車両の大きさが検出される。
【0024】
位置検出部14は、車載センサ11の出力に基づいて、他車両の位置を検出する。自車両に対する他車両の相対位置は、例えば、レーダー等により測定された、自車両から見た他車両の方向と、自車両から他車両までの距離とによって正確に求められる。しかし、GPSにより求めた自車両の位置自体が誤差を含むため、地図データ上の他車両の位置は誤差を含むものとなる。
【0025】
また、通信取得手段20は、通信手段21と、受信情解析部22と、操作情報等抽出部23と、速度情報抽出部24と、車種情報抽出部25と、位置情報抽出部26とから構成されている。通信手段21は、例えば、車両間で通信する車車間通信の手段でもよいし、地上の基地局又は道路沿いに設けられたポイントと車両間で通信する路車間通信の手段でもよいし、また、その両方を兼ね備えたものでもよい。そして、通信手段21で受信された情報は、受信解析部22へ送られる。
なお、通信手段21により受信した情報と同様の種類の自車両の情報を、自車両から他車両へ送信するのがよい。
【0026】
操作情報等抽出部23は、受信解析部22へ送られた情報から、通信対象の他車両の運転操作及び運転者挙動の一方又は双方を含む情報を抽出する。運転操作の情報としては、例えば、ハンドルの舵角や、ハンドルの操舵速度が挙げられる。また、運転者挙動の情報には、他車両の車内カメラで撮像された運転者の様子を画像解析して得られた情報が含まれる。具体的には、例えば、運転者の頭部の動きから、運転者が脇見運転をしていることを示す情報や、運転者の瞼の動きから、運転者が居眠り運転をしていること示す情報が挙げられる。
【0027】
速度情報抽出部24は、通信対象の他車両の速度を示す情報を抽出する。他車両の速度は、他車両の速度センサで計測された値として得られる。
【0028】
車種情報抽出手段25は、通信対象の他車両の車種を示す情報を抽出する。車種は、例えば、大型車、中型車、小型車、二輪車の別で表してもよい。車種の情報は、車車間通信における各車両の識別情報(ID情報)に含めるようにするのがよい。
【0029】
位置情報抽出手段26は、通信対象の他車両の位置を示す情報を抽出する。他車両の位置は、その他車両のGPSにより取得した位置情報をそのまま使用するのがよい。
【0030】
また、同定手段30は、速度一致度判定部31と、大きさ一致度判定部32と、位置一致度判定部33と、車両確定部34とから構成される。速度一致判定部31は、車載検出手段10の速度検出部12によって検出された他車両の検出速度と、通信取得手段20の速度情報抽出部24によって抽出された速度情報の示す速度との一致度を判定する。ここでは、例えば、検出速度と速度情報の示す速度との速度差ΔVが所定の閾値以内の場合に、速度が一致するものと判定するとよい。或いは、一致度Mvを速度差ΔVの関数F(ΔV)として求め、その一致度Mvの値が所定の閾値(Vthresh)以上の場合に、速度が一致するものと判定してもよい。
なお、速度差の関数F(ΔV)には任意好適なものを用いることができる。また、閾値の値(Vthresh)は、経験的に任意好適なものを設定することができる。
【0031】
大きさ一致度判定部32は、車載検出手段10の速度検出部12によって検出された他車両のシルエットの大きさと、通信取得手段20の車種情報抽出部25によって抽出された車種情報の示す車種に対応する他車両のシルエットの大きさとの一致度を判定する。
なお、他車両のシルエット大きさは、画像中に示す他車両の面積、及び他車両までの距離に基づいて求めるとよい。
【0032】
ここでは、車種によって、シルエットの大きさの範囲を設定しておき、検出された大きさが、車種に対応した大きさの許容範囲内の場合に、大きさ一致するものと判定するとよい。或いは、一致度Msを面積差ΔSの関数F(ΔS)として求め、その一致度Msの値が所定の閾値(Sthresh)以上の場合に、速度が一致するものと判定してもよい。
なお、速度差の関数F(ΔS)には任意好適なものを用いることができる。また、閾値の値(Sthresh)は、経験的に任意好適なものを設定することができる。
【0033】
位置情報抽出部33は、車載検出手段10の位置検出部14によって検出された他車両の検出位置と、通信取得手段20の位置情報抽出部26によって抽出された位置情報との一致度を判定する。検出された位置と取得された位置情報の示す位置との一致度Mpを、両位置間の距離lの関数F(l)として与える。すなわち、直線距離lの長さが短いほど、位置の一致度Mpが高くなるように関数F(l)を設定するとよい。
【0034】
そして、算出された位置の一致度Mpが、所定の閾値(Pthresh)以上の場合に、位置が一致するものと判定する。ただし、閾値(Pthresh)は、検出された他車両及び情報の取得された他車両の一方又は双方の、密度D及び台数Nの一方又は双方が高いほど高く設定される。
【0035】
例えば、閾値(Pthresh)を車両密度Dの関数として、下記の式(1)のように与えてもよい。
(Pthresh)=αD ・・・(1)
ここで、αは、任意の係数である。
【0036】
また、閾値(Pthresh)を車両台数Nの関数として、下記の式(2)のように与えてもよい。
(Pthresh)=βN ・・・(2)
ここで、βは、任意の係数である。
【0037】
さらに、閾値(Pthresh)を車両密度D及び車両台数Nの関数として、下記の式(3)のように与えてもよい。
(Pthresh)=αD+βN ・・・(3)
ここで、α及びβは、任意の係数である。
【0038】
ここで、図2(a)に、他車両の密度が低い場合と高い場合の例を模式的に示す。図2(a)には、車載検出手段10によって検出された2台の他車両1及び2の位置と、車車間通信の通信対象の他車両A及びBの位置が模式的に示されている。図2(a)の左側には、他車両の密度が低い「疎」の場合の例が示され、図2(a)の右側には、他車両の密度が高い「密」の場合の例が示されている。
【0039】
一般的には、車両が密集している場合(車両密度が高い場合)の方が、密集していない場合よりも、誤ったマッチングが行われる可能性が高い。例えば、他車両1及び2と、他車両A及びBとのマッチングをとるにあたり、図2(a)の右側の車両が密集している場合には、他車両Bが、他車両1及び他車両2の両方に近くなっているため、図2(b)の左側の車両が密集していない場合よりも誤ってマッチングが行われる可能性が高い。
【0040】
そこで、車両密度が高い場合には、一致と判定する条件を厳しくするため、位置の一致度の閾値(Pthresh)を高くすることが望ましい。これにより、車両密度が高い場合であっても、誤ってマッチングが行われる可能性が低減され、精度良い同定が可能となる。一方、車両密度が低い場合には、位置の一致度の閾値(Pthresh)を低くすることが望ましい。常に閾値(Pthresh)を高いままにしておくと、他車両の同定が成立しない場合が多くなるからである。
【0041】
なお、車両密度は、例えば、車載検出手段10によって検出された所定の範囲内の他車両の台数を、所定の範囲の面積で除して求めるとよい。或いは、車載検出手段10によって検出された複数の他車両のうち、マッチング対象とする一台の他車両から所定の距離の範囲内の台数を、その所定の距離の範囲内の面積で除して求めてもよい。その場合、個々の他車両ごとに、異なる車両密度の値が算出されることになる。また、他車両の台数は、車載検出手段10によって検出された他車両の台数であってもよいし、通信取得手段よって情報が取得された他車両の台数、すなわち、車車間通信の場合には通信対象となった他車両の台数であってもよいし、両者の合計であってもよい。
【0042】
さらに図2(b)に、他車両の台数が少ない場合と多い場合の例を模式的に示す。図2(b)の左側には、他車両の台数が少ない場合の例として、車載検出手段10によって2台の他車両1及び2が検出されるとともに、車車間通信の通信対象の2台の他車両A及びBが模式的に示されている。また、図2(b)の右側には、他車両の台数が多い場合の例として、車載検出手段10によって検出された3台の他車両1〜3と、車車間通信の通信対象の3台の他車両A〜Cが模式的に示されている。
【0043】
一般的には、車両密度が等しくても、車両の台数が多い場合の方が、少ない場合よりも、誤ったマッチングが行われる可能性が高い。例えば、図2(b)の左側の場合には、検出された他車両1に対応する候補は、他車両A及びBの二つだけである。これに対して、図2(b)の右側の場合には、検出された他車両1に対応する候補は、他車両A〜Cの三つである。このため、マッチングの候補が多いほど、誤ってマッチングが行われる可能性が高い。
【0044】
そこで、車両台数が多い場合には、一致と判定する条件を厳しくするため、位置の一致度の閾値(Pthresh)を高くすることが望ましい。これにより、車両台数が多い場合であっても、誤ってマッチングが行われる可能性が低減され、精度良い同定が可能となる。一方、車両台数が少ない場合には、位置の一致度の閾値(Pthresh)を低くすることが望ましい。常に閾値(Pthresh)を高いままにしておくと、他車両の同定が成立しない場合が多くなるからである。
【0045】
なお、他車両の台数は、車載検出手段10によって検出された他車両の台数であってもよいし、通信取得手段よって情報が取得された他車両の台数、すなわち、車車間通信の場合には、通信対象となった他車両の台数であってもよいし、又は、両者の合計台数であってもよい。
【0046】
また、車両確定部34は、速度の一致度、及び大きさの一致度によって同定候補を絞った上で、位置一致度判定部33による位置の一致度に基づいて、最終的な同定を行う。
なお、車載検出手段10によって検出された個々の他車両について、通信取得手段20により情報が取得された他車両の中から候補を絞って同定を行ってもよいし、通信取得手段20により情報が取得された個々の他車両について、車載検出手段10によって検出された他車両の中から候補を絞って同定を行ってもよい。
【0047】
そして、走行制御部40は、車載検出手段10から得られた他車両の情報、及び、操作情報等抽出部23から送られた他車両の情報とに基づいて、同定後の他車両の挙動を予測し、自車両の走行を制御する。なお、走行制御にあたっては、従来公知の任意好適な技術を用いることができる。
【0048】
次に、図3のフローチャートを参照して、本発明の車両同定装置の動作例について説明する。
まず、通信取得手段20が、車車間通信又は路車間通信により、他車両の車両情報を取得する(S1)。ここでは、下記の表1に示すように、車両A〜Cの車両情報が取得される。車両情報には、個々の車両を識別する車両IDと、車速と、位置と、車両操作情報としての操舵角と、運転者挙動を示すデータが含まれている。
【0049】
【表1】

【0050】
車両IDには、他車両の車種の情報が含まれている。また、車速データ及び操舵角データは、他車両の車速センサ及び舵角センサによってそれぞれ検出される。また、位置データは、他車両のGPSにより測位される。また、運転者挙動データには、例えば、他車両に搭載された車内カメラによって運転者が居眠り運転が検知された場合には、その情報が含まれる。また、車内カメラによって運転者の脇見運転が検知された場合には、その情報が含まれる。
【0051】
次に、車載検出手段10が他車両を検出する(S2)。
ここでは、図4に示すように、車両1〜3の3台の他車両が検出される。図4は、自車両の運転席からフロントガラスF越しに前方を見た様子を示す模式図である。他車両を検出する際には、各車両について、車速、位置及び車両の大きさが検出される。
【0052】
なお、ステップS1の処理とステップS2の処理は、順序を入れ替えて行ってもよいし、並列に行ってもよい。
【0053】
(S3)
次に、車載検出手段10によって検出された他車両の検出速度と、通信取得手段20によって抽出された速度情報の示す速度との一致度Mvを判定する。ここでは、車車間の通信対象の車両A〜Cの各々について、検出された車両1〜3の中から、それぞれ速度の一致度Mvが所定の閾値(Vthresh)以上の他車両を抽出する(S3)。
【0054】
このように、位置による車両の同定を行う前に、速度の一致度Mvによって候補を絞ることによって、車両の同定の精度が向上する。例えば、走行車線上の車両1を追い越し車線上の車両3が追い越している場合、図4に示すサンプリング時には、車両1の直ぐ横に車両3が位置している。かかる場合、GPSに起因する誤差を含む位置情報だけでは、両者を正確に区別することが困難な場合がある。その結果、車両1と同定すべきところを、誤って車両3と同定してしまったり、その逆の誤った同定が行われるおそれがある。
【0055】
しかし、通常、車両1を追い越している車両3の車速は、車両1の車速よりも大きい。このため、車両1の車速と車両3の車速とは大きく異なってる。そこで、速度の一致度Mvを判定することにより、車両1又は車両3のどちらか一方が候補から予め排除される。これにより、同定の精度が向上する。
【0056】
なお、車両の同定にあたり、車両A〜Cの各々について、車両1〜3の中から候補を抽出する例について説明するが、車両1〜3の各々について、車両A〜Cの中から候補を抽出するようにしてもよい。
【0057】
そして、車両A〜Cの各々について、1台以上の他車両が抽出された場合(S4で「Yes」の場合)、続いて、車載検出手段10によって検出された他車両の大きさと、通信取得手段20によって抽出された車種情報の示す車種に対応する大きさとの一致度Msを判定する。ここでは、車車間通信の通信対象の車両A〜Cの各々について、検出された車両1〜3のうち、速度が一致した車両の中から、それぞれ大きさの一致度Msが所定の閾値(Sthresh)以上の他車両を抽出する(S5)。
なお、ステップS3の処理とステップS5の処理は、順序を入れ替えて行ってもよい。
【0058】
このように、位置による車両の同定を行う前に、大きさの一致度Msによって更に候補を絞ることによって、車両の同定の精度が更に向上する。例えば、車両前方を、大型バスと自動二輪車が並走している場合、GPSに起因する誤差を含む位置情報だけでは、両者を正確に区別することが困難な場合がある。その結果、大型バスと同定すべきところを、誤って自動二輪車と同定してしまったり、その逆の誤った同定が行われるおそれがある。
【0059】
しかし、通常、大型バスと自動二輪車とでは、車種が異なり、前方監視カメラの画像中のシルエットの占める面積も大きく異なっている。そこで、大きさの一致度Msを判定することにより、大型バス又は自動二輪車のどちらか一方が候補から予め排除される。これにより、同定の精度が更に向上する。
【0060】
そして、車両A〜Cの各々について、1台以上の他車両が抽出された場合(S6で「Yes」の場合)、続いて、車両の密度及び台数に基づいて位置の閾値(Pthresh)を計算して設定する(S7)。
なお、位置の閾値(Pthresh)の値は、車両A〜Cごとに異なってもよいし、共通であってもよい。
【0061】
続いて、車載検出手段10によって検出された他車両の位置と、通信取得手段20によって抽出された位置情報の示す位置との一致度Mpを判定する。ここでは、車車間の通信対象の車両A〜Cの各々について、検出された車両1〜3のうち、速度及び大きさが一致した車両の中から、それぞれ位置の一致度Mpが所定の閾値(Pthresh)以上の他車両を抽出する(S8)。
【0062】
そして、車両A〜Cの各々について、車両1〜3の中から1台の車両が車両が抽出された場合(S9で「Yes」の場合)、その車両を対応するものとして、他車両どうしを確定する(S10)。
図5に示す例では、車両Aが車両3と同定され、車両Bが車両1と同定され、且つ、車両Cが車両2と同定されている。
【0063】
一方、車両A〜Cの各々について、2台以上の車両が抽出された場合には、同一車両を確定せずに処理を終了する(S11)。
【0064】
そして、車載検出手段10によって検出された他車両1〜3と、通信取得手段20によって情報が取得された他車両A〜Cとの同定が正確に行われて初めて、車載検出手段10によって得られた他車両の情報と、車車間通信等の通信により得られた他車両の情報とを組み合わせて、自車両の運転支援に利用することが可能となる。
【0065】
ここで、図6を参照して、他車両の同定の確定を前提とした運転支援の一例について説明する。図6は、自車両の運転席からフロントガラスF越しに前方を見た様子を示す模式図である。
【0066】
図6に示すように、車載検出手段10は、車両2(車両C)が、自車両の走行レーンの左隣のレーンの前方を走行していることを検出している。そして、車車間通信により車両C(車両2)から受信した情報において、操舵角のデータが、車両Cが大きく右へハンドルを切ったことを示しているとする。かかる場合、走行制御部40は、車両Cが、図6に矢印Aで示すように、自車両前方に割り込んでくることを予測する。そして、走行制御部40は、自車両と車両Cとの衝突の可能性が高いと予測した場合、衝突防止のために自車両を左側のレーンへ車線変更させる走行制御を行う。図6に、自車両の誘導方向矢印Bで模式的に示す。
【0067】
このように、自車両に搭載したセンサによって検出した他車両の情報と、車車間通信により取得した通信対象の他車両の情報とを組み合わせて、車両の運転支援に利用することにより、より適切な運転支援が可能となる。例えば、車両Cがウインカーを出さずに急に車線変更をした場合には、車載センサによって車両Cの車線変更が検出されるより早く、車車間通信により車線Cの操舵角の情報が得られる。このため、より早期に衝突回避の走行制御を行うことができる。
【0068】
次に、本発明の運転支援装置の第2実施形態について説明する。
まず、図7のブロック図を参照して、第2実施形態の運転支援装置の構成を説明する。図7に示すように、第2実施形態の運転支援装置は、図1に示した走行制御部40が無い代わりに、危険度判定部50及び警報手段60が設けられている点を除いては、上述の第1実施形態の構成と同じである。このため、第1実施形態と同一の構成部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0069】
ここで、図8のフローチャートを参照して、危険度判定部50及び警報手段60による警報処理について説明する。
【0070】
第2実施形態の運転支援装置では、危険度判定部50が、通信取得手段20によって取得された他車両の情報とに基づいて、同定後の他車両の危険度を判定する(S81)。ここでは、例えば、車両A(車両3)から受信した運転者挙動情報に、運転者が居眠り運転や、運転者の脇見運転の情報が含まれている場合、危険度判定部50は、車両Aについて危険度大と判定する。
【0071】
なお、居眠り運転や脇見運転の情報は、他車両において居眠り運転等と判定した結果を送信してもよいし、他車両の車内カメラで撮像した画像を解析した運転者の瞼の動きのデータや、脇見の頻度のデータを自車両で受信し、自車両において居眠り運転や脇見運転を判定するようにしてもよい。また、危険度の判定には、車載検出手段10から得られた他車両の情報も利用することが望ましい。例えば、危険度の高い車両が、自車両の前方に位置するか、側方に位置するかによって、危険度を判定が異なるようにしてもよい。
【0072】
そして、危険度判定手段50が危険度大と判定した場合に、警報手段60は、自車両の運転者に危険な他車両を特定して警報を与える(S82)。
ここで、図9に、警報の表示の一例を示す。図9に示す例では、運転者から見てフロントガラス越しに見える車両Aに重畳するように、警報表示の枠Wをフロントガラスにウインドディスプレイとして投影する。
なお、警報の表示は、ナビゲーション画面に図7に示す画像を表示することによって行ってもよい。
【0073】
このように、危険性の高い他車両を特定して警報を与えることにより、運転者は、危険度の高い車両Aを容易に認識することができる。その結果、危険度の高い車両に対する注意が喚起され、安全性の向上が図られる。
【0074】
上述した各実施形態においては、本発明を特定の条件で構成した例について説明したが、本発明は種々の変更及び組み合わせを行うことができ、これに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、自車両の前方の他車両を検出し他例について説明したが、自車両の後方、側方、又は全周囲の他車両を検出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態の車両の運転支援装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】(a)は、他車両の密度の高い場合と低い場合を示し、(b)は、他車両の台数の多い場合と少ない場合を示す。
【図3】実施形態における同定処理を説明するフローチャートである。
【図4】車載検出手段によって検出された他車両の模式図である。
【図5】車載検出手段によって検出された他車両と、通信取得手段によって情報が取得された他車両との対応を示す模式図である。
【図6】第1実施形態における走行制御の一例を示す組織図である。
【図7】本発明の第2実施形態の車両の運転支援装置の構成を説明するブロック図である。
【図8】第2実施形態における警報処理を説明するフローチャートである。
【図9】第2実施液体における警報例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1,2,3 他車両
10 車載検出手段
11 車載センサ
12 速度検出部
13 大きさ検出部
14 位置検出部
20 通信取得手段
21 通信手段
22 受信情報解析部
23 操作情報等抽出部
24 速度情報抽出部
25 車種情報抽出部
26 位置情報抽出部
30 同定手段
31 速度一致度判定部
32 大きさ一致度判定部
33 位置一致度判定部
34 車両確定部
40 走行制御部
50 危険度判定部
60 警報手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に搭載され、他車両を検出する車載検出手段と、
通信により、他車両の情報を取得する通信取得手段と、
前記車載検出手段によって検出された他車両と、前記通信取得手段によって情報が取得された他車両との同定を行う同定手段と、
を備え、
前記車載検出手段は、他車両の速度及び大きさを検出し、
前記通信取得手段は、他車両の速度情報及び車種情報を取得し、
前記同定手段は、検出された速度と取得された速度情報の示す速度との一致度、及び、検出された大きさと取得された車種情報の示す車種に対応する大きさとの一致度に基づいて同定を行う、ことを特徴とする車両同定装置。
【請求項2】
前記車載検出手段は、他車両の位置を検出し、
前記通信取得手段は、他車両の位置情報を取得し、
前記同定手段は、更に、検出された位置と、取得された位置情報の示す位置との一致度に基づいて同定を行う、ことを特徴とする請求項1記載の車両同定装置。
【請求項3】
前記同定手段は、検出された位置と取得された位置情報の示す位置との一致度が所定の閾値以上の場合に、検出された他車両と、情報の取得された他車両とを同一と判定し、
前記閾値は、検出された他車両及び情報の取得された他車両の一方又は双方の、密度及び台数の一方又は双方が高いほど高く設定される、ことを特徴とする請求項2記載の車両同定装置。
【請求項4】
前記同定手段は、検出された位置と取得された位置情報の示す位置との一致度を、両位置間の距離の関数として与える、ことを特徴とする請求項2又は3記載の車両同定装置。
【請求項5】
自車両に搭載され、他車両を検出する車載検出手段と、
通信により、他車両の運転操作及び運転者挙動の一方又は双方を含む情報を取得する通信取得手段と、
前記車載検出手段によって検出された他車両と、前記通信取得手段によって情報が取得された他車両との同定を行う同定手段と、
前記車載検出手段から得られた他車両の情報、及び前記通信取得手段によって取得された他車両の情報とに基づいて、同定後の他車両の挙動を予測し、自車両の走行を制御する走行制御手段と、を備え、
前記車載検出手段は、他車両の速度及び大きさを検出し、
前記通信取得手段は、他車両の速度情報及び車種情報を取得し、
前記同定手段は、検出された速度と、取得された速度情報の示す速度との一致度、及び、検出された大きさと、取得された車種情報の示す車種に対応する大きさとの一致度に基づいて同定を行う、
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項6】
自車両に搭載され、他車両を検出する車載検出手段と、
通信により、他車両の運転操作及び運転者挙動の一方又は双方を含む情報を取得する通信取得手段と、
前記車載検出手段によって検出された他車両と、前記通信取得手段によって情報が取得された他車両との同定を行う同定手段と、
前記通信取得手段によって取得された他車両の情報とに基づいて、同定後の他車両の危険度を判定する危険度判定手段と、
前記危険度判定手段が危険度大と判定した場合に、自車両の運転者に危険な他車両を特定して警報を与える警報手段と、を備え、
前記車載検出手段は、他車両の速度及び大きさを検出し、
前記通信取得手段は、他車両の速度情報及び車種情報を取得し、
前記同定手段は、検出された速度と、取得された速度情報の示す速度との一致度、及び、検出された大きさと、取得された車種情報の示す車種に対応する大きさとの一致度に基づいて同定を行う、
ことを特徴とする車両の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−86269(P2010−86269A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254387(P2008−254387)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】