説明

車両存在通報装置

【課題】スピーカの数を増やすことなく擬似エンジン音の指向性をコントロールして実エンジン音に近づけることのできる車両存在通報装置を提供する。
【解決手段】車両存在通報装置の制御回路2は、車速の上昇に応じて「低音側の周波数成分」より「高音側の周波数成分」の割合を高める。これにより、車速の上昇に応じて車両前方に発生する擬似エンジン音の指向性を狭くすることができ、擬似エンジン音を「リアルな実エンジン音」に近づけることができる。擬似エンジン音の周波数成分の割合を変更して指向性のコントロールを行うため、指向性の変更のために多数のスピーカを搭載する必要がない。このため、指向性のコントロールを行う車両存在通報装置の車両搭載性を向上できるとともに、コストを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似エンジン音(通報音)によって車両の存在を知らせる車両存在通報装置に関するものであり、特に「擬似エンジン音」を「実際のエンジン音(以下、実エンジン音)」に近づける技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動モータ等で走行する静かな車両が増えており、静かな車両の存在を周囲に知らせる車両存在通報装置が提案されている。
車両存在通報装置では、擬似エンジン音を発生させて、通報音による違和感を抑える技術が開発されている。
【0003】
実際のエンジン車両は、実エンジン音(エンジンのメカニカル音や吸気音等)がエンジンルームで発生する。そして、実エンジン音は、エンジンルームの下方から周囲に放出されるとともに、フロントグリルを介して車両の前方へ向けて放出される。
さらに、実際のエンジン車両では、車速の上昇に伴うエンジン回転数の上昇に伴って実エンジン音が高音側へ移行するとともに、車両前方に対する実エンジン音の指向性が狭まる。
【0004】
車両存在通報装置では、擬似エンジン音による違和感を抑える技術として、車速の上昇に伴って擬似エンジン音の指向性を狭くすることが考えられる。
【0005】
一方、多数のスピーカを並べて配置すると、指向性が狭くなることが知られている。
そこで、多くのスピーカを車両に搭載し、音を出すスピーカの数を変更することで、擬似エンジン音の指向性をコントロールする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、特許文献1の技術では、擬似エンジン音の指向性をコントロールするために多くのスピーカを車両に搭載する必要がある。このため、車両存在通報装置が大がかりなものになってしまい、車両搭載性が著しく劣化するとともに、コストが高くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−333573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、スピーカの数を増やすことなく擬似エンジン音の指向性をコントロールして実エンジン音に近づけることのできる車両存在通報装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段の車両存在通報装置は、車速に応じて「低音側の周波数成分」と「高音側の周波数成分」の割合を変更する。
音は、周波数が高まるほど指向性が狭くなる性質を備えるため、車速に応じて「低音側の周波数成分」と「高音側の周波数成分」の割合を変更することにより、車速に応じて擬似エンジン音の指向性をコントロールすることができる。
その結果、車両存在通報装置から発生させる擬似エンジン音を「リアルな実エンジン音(車両走行中に発生する実エンジン音)」に近づけることができる。
【0010】
そして、請求項1の手段の車両存在通報装置は、擬似エンジン音の周波数成分の割合を変更して指向性のコントロールを行うため、指向性の変更のために多数のスピーカを搭載する必要がない。
このため、擬似エンジン音の指向性をコントロールできる車両存在通報装置の車両搭載性を向上できるとともに、コストを抑えることができる。
【0011】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段の車両存在通報装置は、車速の上昇に応じて、「低音側の周波数成分」より「高音側の周波数成分」の割合を高める。
これにより、車両存在通報装置の発生する擬似エンジン音の指向性を、車速に応じた実エンジン音に近づけることができる。
【0012】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段の車両存在通報装置は、車速の上昇に応じて、擬似エンジン音における周波数成分の音圧強調域を低音側から高音側へ変化させる。
これにより、車両存在通報装置の発生する擬似エンジン音の指向性を、車速に応じた実エンジン音に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】車両の走行状態、通報音の到達分布、通報音の周波数特性の関係を示す説明図である(実施例1)。
【図2】車両存在通報装置の概略図である。
【図3】超音波スピーカと車両用ホーンの車両搭載図である。
【図4】(a)車両用ホーンの構造説明用の概略断面図、(b)ルーバーの説明用の斜視図である。
【図5】車両用ホーンを自励電圧により作動させた場合、および他励電圧により作動させた場合の周波数特性を示すグラフである。
【図6】(a)指向性スピーカによる音の到達分布を示す説明図、(b)無指向性スピーカによる音の到達分布を示す説明図である。
【図7】擬似エンジン音の作成説明図である。
【図8】パラメトリックススピーカの原理説明図である。
【図9】車両の走行状態、通報音の到達分布、通報音の周波数特性の関係を示す説明図である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して実施形態を説明する。
車両存在通報装置は、車両の存在を知らせる運転条件が成立した際に、擬似エンジン音を車両の外部に発生させるものであり、
・車両前方に対して擬似エンジン音を発生させる指向性スピーカ1(後述する実施例では、パラメトリックスピーカ)と、
・この指向性スピーカ1の作動制御を行う制御回路2と、
を備えて構成される。
【0015】
この車両存在通報装置は、車両の外部に発生させる擬似エンジン音の指向性を、車速の上昇に応じて狭くする指向性制御手段3を備える。
この実施形態に示す指向性制御手段3は、車速に応じて「擬似エンジン音における低音側の周波数成分」と「擬似エンジン音における高音側の周波数成分」との割合を変更するものであり、車速の上昇に応じて、「擬似エンジン音における低音側の周波数成分」より「擬似エンジン音における高音側の周波数成分」の割合を高めるものである。
【実施例】
【0016】
以下において本発明が適用された具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。以下で説明する実施例は具体的な一例であって、本発明が実施例に限定されないことはいうまでもない。
なお、以下の実施例において、上記「発明を実施するための形態」と同一符号は同一機能物を示すものである。
【0017】
[実施例1]
図1〜図8を参照して実施例1を説明する。
この実施例では、エンジンを搭載しない車両(電気自動車、燃料電池自動車等)や、走行中および停車中にエンジンを停止する可能性のある車両(ハイブリッド車両等)など、走行音や停車中が静かな自動車に用いられる車両存在通報装置を説明する。
【0018】
この車両存在通報装置は、車両の存在を知らせる運転条件が成立した際に、擬似エンジン音によって車両の存在を歩行者へ知らせるものであり、図2に示すように、
・パラメトリックスピーカ1(擬似エンジン音の指向性をコントロールする指向性スピーカ)と、
・ダイナミックスピーカとして用いられる車両用ホーン4(擬似エンジン音を発生させる無指向性スピーカ)と、
・パラメトリックスピーカ1および車両用ホーン4の作動制御を行う制御回路2と、
を備えて構成される。
【0019】
(車両用ホーン4の説明)
車両用ホーン4は、図3に示すように、フロントグリル5と熱交換器6(例えば、空調用熱交換器、ラジエータ等)との間に固定配置されて、乗員によってホーンスイッチ(例えば、ステアリングのホーンボタン)が操作された際に警報音を発生する電磁式警音器であり、直流で閾値以上の自励電圧(例えば、8V以上の電圧:具体的にはバッテリ電圧)が与えられることによって警報音を発生する。
【0020】
車両用ホーン4の具体的な一例を、図4を参照して説明する。
車両用ホーン4は、
・通電により磁力を発生するコイル11と、
・このコイル11の発生磁力により磁気吸引力を発生する固定鉄心12(磁気吸引コア)と、
・振動板13(ダイヤフラム)の中心部に支持されて固定鉄心12に向かって移動可能に支持される可動鉄心14(可動コア)と、
・コイル11に自励電圧(8V以上の電圧)の電圧が印加された際にコイル11の通電回路を連続的に断続する電流断続器15と、
を備える。
具体的に、車両用ホーン4に自励電圧が与えられた場合に車両用ホーン4の発生する警報音の周波数特性を図5の実線Aに示す。
【0021】
一方、車両用ホーン4は、自励電圧より低い他励電圧(例えば、8V未満の電圧)の駆動信号によって、ダイナミックスピーカとして用いられる。即ち、車両用ホーン4は、ダイナミックスピーカの一例であり、他励電圧の「擬似エンジン音を成す信号(駆動信号)」を与えることで、擬似エンジン音を発生するものである。
車両用ホーン4をダイナミックスピーカとして用いる場合における車両用ホーン4の周波数特性を図5の破線Bに示す。この破線Bは、車両用ホーン4に1Vのサイン波のスイープ信号(低周波数から高周波数への可変信号)を与えた場合における周波数特性である。
【0022】
この実施例における車両用ホーン4は、図4に示すように、振動板13の振動による警報音を増強させて車外へ放出する渦巻ホーン16(渦巻状のラッパ部材:渦巻状の音響管)を備える。
この実施例では、車両用ホーン4における渦巻ホーン16の開口が、図3に示すように、車両の下方(路面に向く方向)に向けて取り付けられる。これにより、車両用ホーン4が発生する周波数が変化しても、車両の周囲に略均等に擬似エンジン音が届く。
【0023】
具体的な一例として、
(i)車両用ホーン4から500Hzの音を発生させた場合の音の到達範囲を、図6(b)の実線β1に示し、
(ii)車両用ホーン4から2kHzの音を発生させた場合の音の到達範囲を、図6(b)の一点鎖線β2に示し、
(iii)車両用ホーン4から4kHzの音を発生させた場合の音の到達範囲を、図6(b)の破線β3に示す。
なお、各音の到達範囲(符合β1〜β3)は音圧が50dBの到達範囲を示すものである。
【0024】
(パラメトリックスピーカ1の説明)
パラメトリックスピーカ1は、「可聴音(擬似エンジン音)の波形信号」を超音波変調(超音波周波数に変調)して超音波スピーカ21から放射させるものであり、超音波スピーカ21から放射された超音波(耳に聞こえない音波)に含まれる変調成分が伝播途中の空気中で自己復調されることで、超音波スピーカ21から離れた場所で可聴音(擬似エンジン音)を発生させるものである。
【0025】
パラメトリックスピーカ1に用いられる超音波スピーカ21は、人間の可聴帯域よりも高い周波数(20kHz以上)の空気振動を発生させる超音波発生器であり、超音波を車両前方に向けて放出するように車両に搭載されている。
超音波スピーカ21は、車両用ホーン4の渦巻ホーン16に取り付けられるものであり、車両用ホーン4が車両に取り付けられることで、超音波スピーカ21が車両の前方へ向けて超音波を放射するように搭載される。
【0026】
この実施例の超音波スピーカ21は、渦巻ホーン16と一体、あるいは渦巻ホーン16に取り付けられる例えば樹脂製の超音波スピーカハウジング22と、この超音波スピーカハウジング22の内側に搭載される複数の超音波振動子23とを備えて構成される。
この実施例の超音波振動子23は、印加電圧(充放電)に応じて伸縮するピエゾ素子(圧電素子)と、このピエゾ素子の伸縮によって駆動されて空気に疎密波を生じさせる超音波振動板とを用いて構成される圧電スピーカである。
各超音波振動子23は、超音波スピーカハウジング22の内部に配置される支持板24上に複数配置され、スピーカアレイとして搭載されるものである。
【0027】
一方、超音波スピーカ21は、各超音波振動子23から放射される超音波を車両前方へ向けて放出する開口部(超音波放射口)を備えており、この開口部には、雨水が各超音波振動子23の搭載部位に浸入するのを阻止する防水手段が設けられている。
防水手段の一例として、この実施例では、開口部を覆う超音波透過性の防水シート25と、この防水シート25の前面に配置されたルーバー26とを備えている{図4(a)では防水シート25およびルーバー26が省略された図を示す}。
【0028】
超音波スピーカ21は、上述したように、超音波を車両の前方へ向けて放射する。
ここで、パラメトリックスピーカ1に代えて、ダイナミックスピーカ(コーンスピーカ等)を車両前方に向けて搭載した場合、ダイナミックスピーカから放射される擬似エンジン音は、車両の前方へ向けて放出される。
音(音波)は、低い周波数ほど広がり易く、高い周波数ほど指向性が狭くなる性質を備える。このため、例えダイナミックスピーカであっても、周波数が高まるほど指向性が狭くなる。
【0029】
具体的な一例として、
(i)車両前方へ向けたダイナミックスピーカから、500Hzの音を発生させた場合の音の到達範囲を、図6(a)の実線α1に示し、
(ii)車両前方へ向けたダイナミックスピーカから、2kHzの音を発生させた場合の音の到達範囲を、図6(a)の一点鎖線α2に示し、
(iii)車両前方へ向けたダイナミックスピーカから、4kHzの音を発生させた場合の音の到達範囲を、図6(a)の破線α3に示す。
なお、各音の到達範囲(符合α1〜α3)は音圧が50dBの到達範囲を示すものである。
【0030】
図6では、ダイナミックスピーカを用いて周波数に対する音の指向性を説明したが、パラメトリックスピーカ1によって再生される擬似エンジン音であっても、ダイナミックスピーカの場合と同様に、周波数が変化することによって音の指向性が変化するものである。
【0031】
(制御回路2の説明)
制御回路2は、演算処理を行うCPU、プログラムを保存する記憶手段(メモリ)、入力回路、出力回路などを含む周知構造のマイコンチップ2aを搭載するものであり、図3に示すように車両用ホーン4の内部(具体的には、ホーンハウジングの内部)に搭載されるものであっても良いし、車両用ホーン4とは別体で設けられて車両に搭載されるものであっても良い。
制御回路2は、ECU(エンジン・コントロール・ユニットの略)等から車両の走行状態の車両情報(車速信号等)が入力されるものであり、車両の存在を知らせる運転条件が成立した際に、超音波スピーカ21および車両用ホーン4を駆動して擬似エンジン音を車両の外部に発生させるものである。
【0032】
この制御回路2は、図2に示すように、
(a)「車両の運転状態が擬似エンジン音の発生条件に適合しているか否か」を判定する判定部31と、
(b)車両走行状態(後退、停車、前進)に応じた「擬似エンジン音を成す信号」を発生させる通報音生成部32と、
(c)この通報音生成部32から出力された「擬似エンジン音を成す信号」を超音波周波数に変調する超音波変調部33と、
(d)この超音波変調部33から出力された「超音波変調された信号」によって超音波スピーカ21を駆動する超音波駆動アンプ34と、
(e)通報音生成部32から出力された「擬似エンジン音を成す信号」によって車両用ホーン4を駆動するホーン駆動アンプ35と、
(f)パラメトリックスピーカ1から車両の前方へ放出する擬似エンジン音の指向性を、車速に応じて変更する指向性制御手段3と、
を具備する。
以下において、制御回路2に搭載される上記(a)〜(f)の手段を説明する。
【0033】
(判定部31の説明)
判定部31は、例えば、運転スイッチがONされて、且つ車速が所定速度(例えば、20km/h)以下の時に、車両の運転状態が擬似エンジン音の発生条件に適合していると判断して、通報音生成部32を作動させるものである(実施例説明のための具体的な一例であって、限定されるものではない)。
【0034】
(通報音生成部32の説明)
通報音生成部32は、通報音生成プログラム(音響ソフト)によって設けられ、判定部31から作動指示が与えられると、デジタル技術によって「擬似エンジン音を成す信号」を作成するものである。
【0035】
具体的に、通報音生成部32は、
(i)後退中(リバースレンジに設定された際)に「断続した警報音を成す信号」を発生し、
(ii)停車中および前進中(ドライブレンジの停車中および走行中)に「車速に応じた擬似エンジン音」を発生するように設けられている。
【0036】
通報音生成部32は、マイコンチップ2aが搭載する基準クロック(水晶発振器)の発生するクロック信号に基づき「擬似エンジン音を成す周波数信号(波形信号)」を作成するものであり、具体的な一例として所定周波数XHz(例えば、4Hz〜32Hzなど)の間隔(唸り周波数)で連続する多数の周波数信号を同時に発生させて擬似エンジン音を作成する。なお、唸り周波数は固定であっても良いし、車速等の運転状態に応じて変化するものであっても良い。
【0037】
また、通報音生成部32には、図7に示すように、「唸り周波数の間隔で連続する多数の周波数信号」を、所定の周波数帯域L内(擬似エンジン音発生域)で発生させる周波数範囲特定手段(プログラム)が設けられている。
【0038】
さらに、通報音生成部32には、「唸り周波数の間隔で連続する多数の周波数信号(擬似エンジン音を成す信号)」の周波数特性Eを加工(特徴付け)する周波数特性加工手段(プログラム)が設けられている。
【0039】
(超音波変調部33の説明)
超音波変調部33は、通報音生成部32の出力(擬似エンジン音を成す信号)を超音波変調するものである。
超音波変調部33の具体的な一例として、この実施例では、通報音生成部32の出力信号を所定の「超音波周波数(例えば、25kHz等)における振幅変化(電圧の増減変化)」に変調するAM変調(振幅変調)を用いるものである。
なお、超音波変調部33はAM変調に限定されるものではなく、通報音生成部32の出力信号を所定の「超音波周波数におけるパルス幅変化(パルスの発生時間幅)」に変調するPWM変調(パルス幅変調)など、他の超音波変調技術を用いても良い。
【0040】
超音波変調部33による超音波変調の具体例を、図8を参照して説明する。
例えば、超音波変調部33に入力された「擬似エンジン音を成す信号(擬似アイドリング音を成す信号、または擬似走行音を成す信号)」が、図8(a)に示す電圧変化であるとする(なお、図中では理解補助のために単一周波数の波形を示す)。
一方、制御回路2の搭載する超音波発振器は、図8(b)に示す超音波周波数で発振するものとする。
【0041】
すると、超音波変調部33は、図8(c)に示すように、
・「擬似エンジン音を成す信号」を成す周波数の信号電圧が大きくなるに従い、超音波振動による電圧の振幅を大きくし、
・「擬似エンジン音を成す信号」を成す周波数の信号電圧が小さくなるに従い、超音波振動による電圧の振幅を小さくする。
このようにして、超音波変調部33は、通報音生成部32から出力された「擬似エンジン音を成す信号」を超音波周波数の「発振電圧の振幅変化」に変調するものである。
【0042】
(超音波駆動アンプ34の説明)
超音波駆動アンプ34は、超音波変調部33で変調された超音波信号(超音波変調された擬似エンジン音を成す信号)に基づいて、超音波スピーカ21を駆動する増幅手段であり、各超音波振動子23の印加電圧(充放電状態)を制御することで、各超音波振動子23から「擬似エンジン音を成す信号」を変調した超音波を発生させるものである。
【0043】
(ホーン駆動アンプ35の説明)
ホーン駆動アンプ35は、車両用ホーン4をダイナミックスピーカとして作動させるためのパワーアンプであり、通報音生成部32の出力する「擬似エンジン音を成す信号」を増幅して、車両用ホーン4の通電端子に付与するものである。
なお、ホーン駆動アンプ35は、車両用ホーン4から擬似エンジン音を発生させる際に、車両用ホーン4が警報音を発生しないように(即ち、電流断続器15を断続しないように)車両用ホーン4のコイル11を通電制御するものである。
【0044】
なお、この実施例では、車速に応じてパラメトリックスピーカ1による擬似エンジン音の音圧を可変させる音圧可変部が設けられている。この音圧可変部は、車速の上昇に応じてパラメトリックスピーカ1によって再生させる擬似エンジン音の音圧を上昇させるものであり、超音波駆動アンプ34の増幅ゲインの可変を行うものである。
具体的に、音圧可変部は、車速に応じて超音波駆動アンプ34の電源電圧(供給電圧)を可変させるものであっても良いし、超音波駆動アンプ34の最終増幅前の信号電圧を可変させるものであっても良いし、超音波振動子23の使用数の切り替えを行うものであっても良い。また、音圧可変部による増幅ゲインの可変は、段階的可変であっても、連続可変であっても良い。
なお、音圧可変部は、車速だけでなく、雨天走行、雪天走行などの走行状態に応じて擬似エンジン音の音圧を上昇させるものであっても良い。
【0045】
(指向性制御手段3の説明)
指向性制御手段3は、車両前方へ放出する擬似エンジン音の指向性を、車速の上昇に応じて狭くさせる手段である。
この指向性制御手段3は、車速に応じて、「擬似エンジン音を成す周波数信号の低音側の周波数成分」と「擬似エンジン音を成す周波数信号の高音側の周波数成分」との割合を変更するものである。
【0046】
具体的に、この実施例の指向性制御手段3は、上述した通報音生成部32における周波数特性加工手段を用いて車速に応じて擬似エンジン音の周波数特性を加工するものであり、車速の上昇に応じて、「擬似エンジン音における低音側の周波数成分」より「擬似エンジン音における高音側の周波数成分」の割合を連続的(あるいは段階的)に高めるものである。
【0047】
具体的な一例として、図1に示すように、
(i)車速が0km/h(停車の場合)は、アイドリング時の擬似エンジン音を表現するために、低域側を上げた周波数特性(図中、実線Y0参照)を設定し、
(ii)車速が5km/hは、停車時より高音側を少し上げた周波数特性(図中、実線Y1参照)を設定し、
(iii)車速が10km/hは、5km/h時より高音側を少し上げた周波数特性(図中、実線Y2参照)を設定し、
(iv)車速が15km/hは、10km/h時より高音側を少し上げた周波数特性(図中、実線Y3参照)を設定し、
(v)車速が20km/hは、15km/h時より高音側を少し上げた周波数特性(図中、実線Y4参照)を設定するものである。
なお、後退走行の場合(リバースレンジ設定状態)は、後退信号を表現するために、高音側を上げた周波数特性(図中、実線Yb参照)に設定されるものである。
【0048】
(車両存在通報装置の作動)
判定部31が「車両の運転状態が擬似エンジン音の発生条件に適合している」と判定すると、通報音生成部32から車両の運転状態に応じた「擬似エンジン音を成す信号」が出力される。
【0049】
超音波スピーカ21は、図8(c)に示すように、「擬似エンジン音を成す信号」を変調した超音波(聞こえない音波)を車両前方へ向けて放射する。
すると、図8(d)に示すように、空気中を超音波が伝播するにつれて、空気の粘性等によって波長の短い超音波が歪んで鈍(なま)される。
【0050】
その結果、図8(e)に示すように、伝播途中の空気中において超音波に含まれていた振幅成分が自己復調され、結果的に超音波の発生源(超音波スピーカ21を搭載する車両)から離れた場所である車両前方において擬似エンジン音が再生される。
車両の車速に応じたパラメトリックスピーカ1による擬似エンジン音の到達範囲を、図1の破線αに示す。なお、図1における符号Sは車両であり、破線αは擬似エンジン音の音圧が50dBの到達範囲を示すものである。
【0051】
一方、通報音生成部32が「擬似エンジン音を成す信号」を出力することで、車両用ホーン4から車両の周囲に車両の運転状態に応じた擬似エンジン音を直接発生させる。
車両の車速に応じた車両用ホーン4による擬似エンジン音の到達範囲を、図1の破線βに示す。なお、図1の破線βは、擬似エンジン音の音圧が50dBの到達範囲を示すものである。
【0052】
(実施例1の効果1)
この実施例の車両存在通報装置は、車速の上昇に応じて擬似エンジン音の周波数特性を変更し、車速の上昇に応じて「低音側の周波数成分」より「高音側の周波数成分」の割合を高める。
これにより、車速の上昇に応じて車両前方に発生する擬似エンジン音の指向性を、エンジン車両の場合と同様に狭くすることができ、車両存在通報装置の発生する擬似エンジン音を「リアルな実エンジン音」に近づけることができる。
【0053】
そして、この実施例の車両存在通報装置は、擬似エンジン音の周波数成分の割合を変更して指向性のコントロールを行うため、指向性の変更のために多数のスピーカを搭載する必要がない。
このため、擬似エンジン音の指向性をコントロールできる車両存在通報装置の車両搭載性を向上できるとともに、コストを抑えることができる。
【0054】
(実施例1の効果2)
また、車速の上昇に応じて擬似エンジン音における「高音側の周波数成分」の割合が高まることで、「擬似エンジン音の音色変化」を「車速の上昇に伴う実エンジン音の音色変化」に近づけることができる。
即ち、擬似エンジン音の音色変化と指向性のコントロールにより「リアルな実エンジン音」に近づけることができる。
【0055】
(実施例1の効果3)
この実施例の車両存在通報装置は、車両前方へ放出する擬似エンジン音の指向性をコントロールし、車両下方へ向けて無指向性の擬似エンジン音を発生させる。
「指向性がコントロールされる擬似エンジン音」によって「フロントグリル5から車両前方へ発生する実エンジン音」が再現されるとともに、「無指向性の擬似エンジン音」によって「エンジンルームの下方へ放出される実エンジン音」が再現される。
このため、車両存在通報装置の発生する擬似エンジン音を、実際のエンジン車両が発生する実エンジン音により近づけることができる。
【0056】
[実施例2]
図9を参照して実施例2を説明する。なお、以下の実施例において上記実施例1と同一符号は同一機能物を示すものである。
この実施例2の指向性制御手段3は、車速の上昇に応じて、擬似エンジン音における周波数成分の音圧強調域Zを、低音側強調から高音側強調へ変化させるものである。
【0057】
このように、車速の上昇に応じて音圧強調域Zを、低音側強調から高音側強調へ変化させることにより、車速の上昇に応じた指向性のコントロールを顕著に実行することができる。
また、車速の上昇に応じて音圧強調域Zを、低音側強調から高音側強調へ変化させることで、「擬似エンジン音の音色変化」を「車速の上昇に伴う実エンジン音の音色変化」により近づけることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上記の実施例では、「低音側の周波数成分」と「高音側の周波数成分」の割合を変更する手段として、通報音生成部32を直接操作する例を示したが、限定されるものではなく、通報音生成部32が発生した後の信号(擬似エンジン音を成す周波数信号)をパラメトリックイコライザー等で操作しても良い。
【0059】
上記の実施例では、擬似エンジン音の周波数特性を変更することで「低音側の周波数成分」と「高音側の周波数成分」の割合を変更する例を示したが、音を加算(追加)することで「低音側の周波数成分」と「高音側の周波数成分」の割合を変更しても良い。
音を加算する場合は、一種類の音成分を加算するのではなく、多数の音成分を加算することが望ましい。具体的には、指向性を狭くしたい場合には高音側に多数の音成分を混ぜ入れ、指向性を広くしたい場合には低音側に多数の音成分を混ぜ入れると良い。
【0060】
上記の実施例では、指向性をコントロールするスピーカとしてパラメトリックスピーカ1を用いる例を示したが、ダイナミックスピーカ(例えば、コーンスピーカや可聴音発生用の圧電スピーカ等)を用いても良い。
【0061】
上記の実施例では、渦巻ホーン16の出口を車両の下方に向ける例を示したが、渦巻ホーン16を車両前方へ向けて、渦巻きホーン16から車両前方へ向けて擬似エンジン音を発生させても良い。この場合、渦巻きホーン16から車両前方へ向けて放出される擬似エンジン音の指向性がコントロールされるものである。
【0062】
上記の実施例では、指向性スピーカと無指向性スピーカを組み合わせて用いる例を示したが、無指向性スピーカを用いないものであっても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 パラメトリックスピーカ
2 制御回路
3 指向性制御手段
4 車両用ホーン
21 超音波スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似エンジン音によって車両の存在を知らせる車両存在通報装置において、
この車両存在通報装置は、車両の外部に発生させる擬似エンジン音の指向性を、車速に応じて変更する指向性制御手段(3)を備え、
この指向性制御手段(3)は、擬似エンジン音における低音側の周波数成分と、擬似エンジン音における高音側の周波数成分との割合を、車速に応じて変更させることを特徴とする車両存在通報装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両存在通報装置において、
前記指向性制御手段(3)は、車速の上昇に応じて、擬似エンジン音における低音側の周波数成分より、擬似エンジン音における高音側の周波数成分の割合を高めることを特徴とする車両存在通報装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両存在通報装置において、
前記指向性制御手段(3)は、車速の上昇に応じて、擬似エンジン音における周波数成分の音圧強調域(Z)を低音側から高音側へ変化させることを特徴とする車両存在通報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−95236(P2013−95236A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238865(P2011−238865)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(592056908)浜名湖電装株式会社 (59)
【Fターム(参考)】