説明

車両挙動制御装置

【課題】 非グリップ状態検出条件を最適に設定することで、適切な横滑り状態抑制制御を実現すること。
【解決手段】 車両の好ましくない横滑り状態を抑制すべく横滑り状態抑制制御を行う車両挙動制御装置10において、車両状態量を換算して横加速度換算値を演算する横加速度換算値演算手段90,92と、実横加速度を検出する実横加速度検出手段36と、路面に対する車両の非グリップ状態を検出し、非グリップ状態が検出された場合に前記横滑り状態抑制制御の実行禁止状態から実行許可状態への切り替えを行う非グリップ状態検出手段94とを備え、前記非グリップ状態は、前記各手段から得られる横加速度換算値及び実横加速度が同一の車両旋回方向を表す正負の符号であり、且つ、横加速度換算値及び実横加速度の大きさがそれぞれの閾値より大きい場合を一条件として検出されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各車輪で発生させる制動力等を制御して横滑り状態抑制制御を行う車両挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、検出された横加速度及びヨーレートに基づき車両の横滑り状態を推定し、横滑り状態が推定されたときには横滑り状態抑制制御を実行する挙動制御手段を有する車両の挙動制御装置に於いて、操舵角を検出する手段と、路面の摩擦係数を求める手段と、操舵角及びヨーレートに基づき前輪のスリップ角と後輪のスリップ角との偏差に対応する第一のパラメータを求める手段と、前記第一のパラメータ及び前記路面の摩擦係数に基づき車両が路面に対しグリップ状態にあるか否かを判別するグリップ状態判別手段と、車両がグリップ状態にあると判別されたときには前記挙動制御手段による横滑り状態抑制制御を禁止する手段とを有する車両の挙動制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平09−123888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種の車両挙動制御装置においては、横滑り状態抑制制御を行う前提条件として、上述の従来技術のように、路面に対する車輪のグリップ状態が所定基準に満たない非グリップ状態が検出され、非グリップ状態が検出された場合に限り横滑り状態抑制制御を許可することで、横滑り状態抑制制御が不必要な場面で実行されないようにしている。
【0004】
ここで、理想的な非グリップ状態検出条件とは、ノイズ等に対してロバストな条件であり、また、横滑り状態抑制制御が必要な場面(例えば緊急回避操作時)において、確実に非グリップ状態が検出される(制御許可状態が形成される)一方で、横滑り状態抑制制御が不要な場面(例えば、通常走行時は勿論のこと、サーキット路の高速走行時など比較的大きな実横加速度が発生する場面)において、非グリップ状態が検出されないような条件となる。
【0005】
そこで、本発明は、非グリップ状態検出条件を最適に設定することで、適切な横滑り状態抑制制御を実現することができる車両挙動制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、第1の発明は、車両の好ましくない横滑り状態を抑制すべく横滑り状態抑制制御を行う車両挙動制御装置において、
検出される車両状態量を換算して横加速度換算値を演算する横加速度換算値演算手段と、
実横加速度を検出する実横加速度検出手段と、
路面に対する車両の非グリップ状態を検出し、非グリップ状態を検出した場合に前記横滑り状態抑制制御の実行禁止状態から実行許可状態への切り替えを行う非グリップ状態検出手段とを備え、
前記非グリップ状態は、前記各手段から得られる横加速度換算値及び実横加速度が同一の車両旋回方向を表す正負の符号であり、且つ、横加速度換算値及び実横加速度の大きさがそれぞれの閾値より大きい場合を一条件として検出されることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、車両の好ましくない横滑り状態を抑制すべく横滑り状態抑制制御を行う車両挙動制御装置において、
検出される車両状態量を換算して横加速度換算値を演算する横加速度換算値演算手段と、
実横加速度を検出する実横加速度検出手段と、
路面に対する車両の非グリップ状態を検出し、非グリップ状態を検出した場合に前記横滑り状態抑制制御の実行禁止状態から実行許可状態への切り替えを行う非グリップ状態検出手段とを備え、
前記非グリップ状態検出手段は、横加速度換算値と実横加速度との関係値に基づいて、前記非グリップ状態を検出することを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第2の発明に係る車両挙動制御装置において、前記非グリップ状態は、横加速度換算値の大きさと実横加速度の大きさとの差が第1閾値を超えた場合を一条件として検出されることを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、第3の発明に係る車両挙動制御装置において、前記非グリップ状態は、横加速度換算値の大きさが第2閾値を超えた場合をその他の一条件として検出されることを特徴とする。
【0010】
第5の発明は、第1〜4の何れかに発明に係る車両挙動制御装置において、前記横加速度換算値は、舵角センサの出力値及び車速センサの出力値に基づいて演算される第1の横加速度換算値と、ヨーレートセンサの出力値及び車速センサの出力値に基づいて演算される第2の横加速度換算値とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非グリップ状態検出条件を最適に設定することで、適切な横滑り状態抑制制御を実現することができる車両挙動制御装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0013】
図1は、本発明による車両挙動制御装置の要部構成を示すブロック図である。車両挙動制御装置10は、主に、車両の各輪に配設されるブレーキ装置40の制御を司るECU20を中心に構成され、各車輪で発生させる制動力等を制御して横滑り状態抑制制御を行う。横滑り状態抑制制御は、例えばオーバーステア(車体スピン)に対しては、フロント外輪に制動力を発生させることで外向きのモーメントを発生させると共にコーナリングフォースを低減すること等により、スピン方向のモーメントを低減させる制御である。また、前輪(駆動輪)のスリップによるアンダーステアに対しては、エンジントルクの低減と共にフロント内輪に制動力を発生させることで内向きのモーメントを発生させる等により、スピン方向のモーメントを低減させる制御である。尚、本発明は、かかる横滑り状態抑制制御の方法に限定されるものでなく、如何なる適切な横滑り状態抑制制御に対しても適用可能である。また、制動力は、必ずしもブレーキ装置40による機械的な制動力(油圧制御による制動力)によって発生される必要はなく、各輪で個別に制動力を調整することができる構成であれば、代替的に又は補助的に、回生制動力(ハイブリッド車の場合)等が用いられてもよい。また、横滑り状態抑制制御は、制動力を制御して実現されるものに限られず、それらの加えて又は代えて、エンジン等の駆動力や電気モータの駆動力を制御して実現されるものであってよく、更には、操舵量(介入操舵)を制御して実現されるものであってもよい。
【0014】
横滑り状態抑制制御は、以下で詳説するように、非グリップ状態を表すフラグが設定されていることを前提条件として実行される。従って、非グリップ状態を表すフラグが設定されていない状態では、横滑り状態抑制制御が禁止された状態であり、横滑り状態抑制制御を開始すべき所定閾値以上の車両状態(例えば、すべり角やすべり速度等)が検出されても、横滑り状態抑制制御が実行されることはない。
【0015】
本発明は、以下で詳説するように、非グリップ状態を表すフラグの設定態様(横滑り状態抑制制御の実行禁止条件ないし実行許可条件の設定態様)に主なる特徴を有する。以下、本発明の特徴的な構成を、幾つかの実施例に分けて説明していく。
【実施例1】
【0016】
図2は、実施例1に係るECU20の要部構成を示すブロック図である。ECU20は、図示しないバスを介して互いに接続されたCPU、ROM、及びRAM等からなるマイクロコンピュータとして構成されている。ECU20は、操舵角横加速度換算値演算部90と、ヨーレート横加速度換算値演算部92と、非グリップ状態検出部94と、制御部96とを有する。
【0017】
ECU20には、操舵角センサ30より操舵角を示す信号(舵角信号)、各輪に配設される車輪速センサ32の出力値に基づく車速を示す信号(車速信号)、ヨーレートセンサ34より車体のヨーレートγを示す信号(ヨーレート信号)、及び、実質的に車体の重心に設けられた横加速度センサ36より車体の横加速度(実横加速度)Gy[m/s] を示す信号が入力される。
【0018】
操舵角横加速度換算値演算部90(以下、「第1横加速度換算部90」という)では、舵角信号と車速信号とに基づいて、第1横加速度換算値StrG[m/s]が演算される。第1横加速度換算値StrGは、例えば、車両の最小旋回半径等を考慮してマップにより算出されてよい。
【0019】
また、ヨーレート横加速度換算値演算部92(以下、「第2横加速度換算部92」という)では、ヨーレート信号と車速信号とに基づいて、第2横加速度換算値YawG[m/s]が演算される。第2横加速度換算値YawGは、例えば、ヨーレートγに車速Vを掛けることで導出されてよい(即ち、YawG=γ×V)。尚、第1横加速度換算部90及び第2横加速度換算部92に入力される各種信号は、適切な前処理(フィルタ処理等)を施したものであってよい。
【0020】
これらの換算値StrG、YawGは、横加速度センサ36の出力値の極性と同様、車両の左旋回方向を正として演算される。第1及び第2横加速度換算値StrG、YawGは、所定周期毎に、横加速度Gyと共に、非グリップ状態検出部94に入力される。尚、非グリップ状態検出部94に入力される横加速度Gyは、適切な前処理(フィルタ処理等)を施したものであってよい。
【0021】
非グリップ状態検出部94では、第1横加速度換算部90からの第1横加速度換算値StrG、第2横加速度換算部92からの第2横加速度換算値YawG、及び、横加速度Gyの計3つのパラメータを用いて、非グリップ状態が検出される。非グリップ状態が検出されると、非グリップ状態を表すフラグが1にセットされ、当該フラグがゼロにリセットされるまで、制御部96によるブレーキ装置40を用いた横滑り状態抑制制御が実行可能な状態になる。尚、非グリップ状態とは、路面に対する車両のグリップ状態が失われた状態であり、以下、図3を参照して、その検出方法について説明する。
【0022】
図3を参照するに、非グリップ状態検出部94では、第1横加速度換算値StrGの大きさ(絶対値)が所定閾値Thr1よりも大きく(ステップ100のYES)、横加速度Gyの大きさ(絶対値)が所定閾値Thr0より大きく(ステップ110のYES)、且つ、第2横加速度換算値YawGの大きさ(絶対値)が、所定閾値Thr2に横加速度Gyの大きさを足した値よりも大きい場合に(ステップ120のYES)、非グリップ状態が検出される(ステップ130)。その結果、フラグが、非グリップ状態を示す値1にセットされる。
【0023】
一方、上記3つの条件の何れかが否定されると、非グリップ状態は検出されず、即ちグリップ状態であるとの判定がなされる(ステップ140)。その結果、フラグが、グリップ状態を示す値0で維持され、横滑り状態抑制制御が禁止された状態が維持されることになる。
【0024】
ところで、上述の如く、理想的な非グリップ状態検出条件とは、ノイズ等に対してロバストな条件であり、また、横滑り状態抑制制御が必要な場面において、確実に非グリップ状態が検出される一方で、横滑り状態抑制制御が不要な場面において、非グリップ状態が検出されないような条件である。
【0025】
本実施例では、上述の如く、各3つの条件が全て成立した場合のみ、非グリップ状態が検出されるので、ノイズ等に対してロバストな判定を実現することができる。また、本実施例では、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)に対してそれぞれの閾値を比較して、非グリップ状態を検出するのではなく、2つのパラメータ(StrG、Gy)に対してそれぞれの閾値を比較するが、パラメータYawGに対しては、横加速度Gyの大きさに応じた閾値を用いた判定がなされている。これは、横滑り状態抑制制御が必要な場面では、車両中心に対する車両の自転加速度相当量(YawG)が、旋回中心に対する車両の公転加速度相当量(Gy)よりも有意に大きくなるという、本願発明者が見出した知見に基づくものである(図4(A)参照)。従って、本実施例では、車両の自転加速度相当量(YawG)と車両の公転加速度相当量(Gy)との差に対して適切な値の閾値Thr2を設定することで、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)に対してそれぞれの閾値を比較する場合に比べて、横滑り状態抑制制御が必要な場面を高精度に判断でき、その結果、横滑り状態抑制制御を許可すべき適切な非グリップ状態を検出することができる。
【0026】
図4は、車両が左旋回状態、次いで右旋回状態、その後直進状態となる際の各パラメータ(StrG、YawG、Gy)の変化態様を示す図であり、図4(A)は、横滑り状態抑制制御が必要な場面で現れる典型的な各パラメータ(StrG、YawG、Gy)の変化態様を示し、図4(B)は、横滑り状態抑制制御が不必要な場面(比較的大きな横加速度が生じるが、グリップ状態が維持されており、非グリップ状態が検出されるべきでない場面)で現れる同変化態様を示す。
【0027】
図4(B)に示すように、横滑り状態抑制制御が不必要な場面では、グリップ状態が維持されており、第2横加速度換算値YawG(2点鎖線)は、横加速度Gyと略一致した態様で変化する。従って、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)に対してそれぞれの閾値を比較して、非グリップ状態を検出する構成では、このような波形に対しても非グリップ状態が検出されないように、図4(B)に示すような比較的大きな閾値Thr1’、Thr0’ 、Thr2’(本例では便宜上同じ値で示しているが、異なる値であってもよい。)を設定せざるを得ない。しかしながら、このような閾値Thr1’、Thr0’、Thr2’では、図4(A)に示すような横滑り状態抑制制御が必要な場面で、非グリップ状態が検出されない虞がある(本例では、パラメータStrG、Gyが閾値Thr1’、Thr0’をそれぞれ上回らないため、非グリップ状態が検出されない)。
【0028】
これに対して、本実施例では、閾値Thr1’、Thr0’よりも小さい閾値Thr1、Thr0を設定することで、図4(A)に示すような横滑り状態抑制制御が必要な場面で、非グリップ状態の検出が確実に実現される。一方、図4(B)に示すような横滑り状態抑制制御が不必要な場面では、第1横加速度換算値StrG及び横加速度Gがそれぞれの閾値Thr1、Thr0を超えてしまうものの(2つの条件は成立するものの)、第2横加速度換算値YawGと横加速度Gとの差が小さく、閾値Thr2を超えることがないので(残りの1つの条件が成立しない)、横滑り状態抑制制御が不要な場面で非グリップ状態が検出されることを確実に防止することができる。換言すると、本実施例によれば、第2横加速度換算値YawGと横加速度Gとの関係(偏差)に対する閾値判定を新たに導入することで、第1横加速度換算値StrG 及び横加速度Gのそれぞれに対する閾値Thr1、Thr0を小さくすることでき、横滑り状態抑制制御が必要な場面において、確実に非グリップ状態が検出される一方で、横滑り状態抑制制御が不要な場面において、非グリップ状態が検出されないような非グリップ状態検出条件を確立することができる。
【実施例2】
【0029】
実施例2に係るECU20の要部構成自体(以下で説明する機能以外)は、図2と同様であってよいので、説明を省略する。以下、図5を参照して、実施例2に係る非グリップ状態の検出条件について説明する。
【0030】
図4を参照するに、非グリップ状態検出部94では、第1横加速度換算値StrG(絶対値でない、以下、同じ)が所定の正の閾値Thr1+よりも大きく(ステップ200のYES)、横加速度Gyが所定の正の閾値Thr0+よりも大きく(ステップ210のYES)、且つ、第2横加速度換算値YawGが、所定の正の閾値Thr2+よりも大きい場合に(ステップ220のYES)、非グリップ状態が検出される(ステップ400)。これにより、左旋回方向での非グリップ状態が検出される(その結果、フラグが、非グリップ状態を示す値1にセットされる。)。
【0031】
一方、上記3つの条件の何れかが否定されると、ステップ300以降の処理に進む。
【0032】
ステップ300以降の処理として、非グリップ状態検出部94では、第1横加速度換算値StrG(絶対値でない、以下、同じ)が所定の負の閾値Thr1−よりも小さく(ステップ200のYES)、横加速度Gyが所定の負の閾値Thr0−よりも小さく(ステップ210のYES)、且つ、第2横加速度換算値YawGが、所定の負の閾値Thr2−よりも小さい場合に(ステップ220のYES)、非グリップ状態が検出される(ステップ400)。これにより、右旋回方向での非グリップ状態が検出される(その結果、フラグが、非グリップ状態を示す値1にセットされる。)。
【0033】
他方、上記3つの条件の何れかが否定されると、右旋回方向での非グリップ状態についても検出されず、即ちグリップ状態であるとの判定がなされる(ステップ410)。その結果、フラグが、グリップ状態を示す値0で維持され、横滑り状態抑制制御が禁止された状態が維持されることになる。
【0034】
ここで、各閾値Thr*+、Thr*−(但し、*=0,1,2)に関して、正の符号の閾値Thr*+は、対応する負の符号の閾値Thr*−と絶対値が同じであってよい。即ち、|Thr*+|=|Thr*−|であってよい。但し、異なる値であってもよい。
【0035】
本実施例では、センサの故障等の外乱がない限り、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)は常に同一の符号、即ち同一の旋回方向を示しているはずであるという事実に基づいて、上述の如く、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)の大きさに対する閾値判定に、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)が同符号である条件を付加している。
【0036】
図6は、一例としてヨーレートセンサの故障が生じた場合において、車両が左旋回状態、次いで右旋回状態、その後直進状態となる際の各パラメータ(StrG、YawG、Gy)の変化態様を示す図である。
【0037】
図6に示す例では、ヨーレートセンサの故障に起因して、第2横加速度換算値YawG(2点鎖線)は、他のパラメータ(StrG、Gy)が正のピークになる時点で、負のピークとなっている。この場合、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)の大きさ(絶対値)に対してそれぞれの閾値(正の閾値)を比較して、非グリップ状態を検出する構成では、図6(A)に示すように、各パラメータ(StrG、YawG、Gy)の大きさ自体は十分大きい故に、非グリップ状態が検出されてしまう。
【0038】
これに対して、本実施例では、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)の符号を考慮して、3つのパラメータの符号が同一であり、且つ、それぞれの大きさが所定閾値よりも大きいことを条件とすることで、図6に示すような波形に対して、誤って非グリップ状態が検出されてしまうのが防止される。このように、本実施例によれば、センサの故障等の外乱に対してロバストな非グリップ状態検出条件を確立することができる。
【0039】
尚、本実施例は、実施例1と組み合わせて実現することができる。この場合、例えば、実施例1において、各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)の符号が同一であることを条件に付加してもよい。或いは、実施例2において、ステップ120で、第2横加速度換算値YawGが、正の閾値(=横加速度Gy+正の所定閾値Thr2)より大きいか否かを判定し、ステップ220で、第2横加速度換算値YawGが、負の閾値(=横加速度Gy+負の所定閾値Thr2)より小さいか否かを判定することとしてもよい。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0041】
例えば、上述した実施例では、車両の各種状態(操舵角、車速、ヨーレート等)の検出手段は、既存の車両に搭載される最も典型的なセンサが開示されているが、他の適切な手段により同様の車両状態を検出することもできる。
【0042】
また、上述した実施例では、横加速度換算値を2つ用いて、それぞれに対して2つの閾値を設定しているが、何れか一方の横加速度換算値を用いることも可能であるし、3つ以上の横加速度換算値を導入することも可能である。
【0043】
また、上述した実施例において、上述の各条件以外の適切な条件を、非グリップ状態を検出する際の一条件として付加することも可能である。
【0044】
また、上述した実施例において、非グリップ状態が検出された後の解除条件、即ちフラグがゼロにリセットされる条件については、如何なる適切な条件が用いられてもよい。例えば、簡易的には、非グリップ状態が検出されなくなった時点で、フラグがゼロにリセットされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る車両挙動制御装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】実施例1に係るECU20の要部構成を示すブロック図である。
【図3】実施例1に係る非グリップ状態の検出条件を表すフローチャートである。
【図4】図4(A)は、横滑り状態抑制制御が必要な場面で現れる各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)の典型的な波形を示し、図4(B)は、横滑り状態抑制制御が不必要な場面で現れる典型的な同波形を示す図である。
【図5】実施例2に係る非グリップ状態の検出条件を表すフローチャートである。
【図6】ヨーレートセンサの故障に起因して現れうる各3つのパラメータ(StrG、YawG、Gy)の波形を示す図であり、図6(A)は、各パラメータの絶対値のみで閾値判定する比較例を示し、図4(B)は、実施例2による閾値判定態様の有効性を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
10 車両挙動制御装置
20 ECU
30 操舵角センサ
32 車輪速センサ
34 ヨーレートセンサ
36 横加速度センサ
40 ブレーキ装置
90 操舵角横加速度換算値演算部
92 ヨーレート横加速度換算値演算部
94 非グリップ状態検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の好ましくない横滑り状態を抑制すべく横滑り状態抑制制御を行う車両挙動制御装置において、
検出される車両状態量を換算して横加速度換算値を演算する横加速度換算値演算手段と、
実横加速度を検出する実横加速度検出手段と、
路面に対する車両の非グリップ状態を検出し、非グリップ状態を検出した場合に前記横滑り状態抑制制御の実行禁止状態から実行許可状態への切り替えを行う非グリップ状態検出手段とを備え、
前記非グリップ状態は、前記各手段から得られる横加速度換算値及び実横加速度が同一の車両旋回方向を表す正負の符号であり、且つ、横加速度換算値及び実横加速度の大きさがそれぞれの閾値より大きい場合を一条件として検出されることを特徴とする、車両挙動制御装置。
【請求項2】
車両の好ましくない横滑り状態を抑制すべく横滑り状態抑制制御を行う車両挙動制御装置において、
検出される車両状態量を換算して横加速度換算値を演算する横加速度換算値演算手段と、
実横加速度を検出する実横加速度検出手段と、
路面に対する車両の非グリップ状態を検出し、非グリップ状態を検出した場合に前記横滑り状態抑制制御の実行禁止状態から実行許可状態への切り替えを行う非グリップ状態検出手段とを備え、
前記非グリップ状態検出手段は、横加速度換算値と実横加速度との関係値に基づいて、前記非グリップ状態を検出することを特徴とする、車両挙動制御装置。
【請求項3】
前記非グリップ状態は、横加速度換算値の大きさと実横加速度の大きさとの差が第1閾値を超えた場合を一条件として検出されることを特徴とする、請求項2に記載の車両挙動制御装置。
【請求項4】
前記非グリップ状態は、横加速度換算値の大きさが第2閾値を超えた場合をその他の一条件として検出されることを特徴とする、請求項3に記載の車両挙動制御装置。
【請求項5】
前記横加速度換算値は、舵角センサの出力値及び車速センサの出力値に基づいて演算される第1の横加速度換算値と、ヨーレートセンサの出力値及び車速センサの出力値に基づいて演算される第2の横加速度換算値とを含むことを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−30585(P2007−30585A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213913(P2005−213913)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】