説明

車両搭載型排気ガス分析装置

【課題】
消費電力の低減化を図りつつ、排気ガス中の各測定対象成分濃度を高い精度で算出することができる車両搭載型排気ガス分析装置を提供する。
【解決手段】
車両の排気管に非加熱導入管を介して接続したドレンセパレータと、前記ドレンセパレータによって液状水分が除去されたsemi−DRY状態での排気ガス中の水分濃度及び測定対象成分の濃度を測定する測定機器群と、前記測定機器群で測定された水分濃度及び測定対象成分濃度に基づいて、水分を完全に取り除いたDRY状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度を算出するDRY濃度算出部と、前記DRY状態での濃度及び予め定められた換算式に基づいて、車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出する実濃度算出部とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、消費電力が低減されたうえ、分析精度にも優れた車両搭載型排気ガス分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、自動車や航空機等の移動排出源、火力発電所や焼却炉等の固定排出源からの排気ガスが、大気汚染の原因の一つであると言われており、また、環境や人体の健康にも悪影響を及ぼす一因とも考えられている。このため、各事業者や自治体では、こうした排出源からの排気ガスに含まれるCO、CO、NO、THC(炭化水素)等の成分を分析するために、赤外線ガス分析計(以下NDIR分析計ともいう)、化学発光式窒素酸化物分析計(以下CLD式NO計ともいう)及び水素炎イオン化検出器(以下FID計ともいう)等の測定機器が備わった排気ガス分析装置を使用している。
【0003】
このような排気ガス分析装置においてサンプルガスは導入管を経由して各測定機器に導入されるが、上記のような排出源からの排気ガス中には測定対象成分となるCO、CO、NO、THC等とともにHOが混在しているため、導入管が加熱されていない場合は、サンプルガス中の水分(HO)が導入管内部において結露する。このような結露が起こるとサンプルガスの体積が減少し、測定対象成分の濃度が本来の濃度よりも高く算出されてしまうという問題が生じるため、一般的な排気ガス分析装置では排気ガスの導入管としてヒーターが備わった加熱導入管が用いられている。
【0004】
また、NDIR分析計によりCO及びCOの濃度を測定する際に、サンプルガス中に水分が含まれていると、例えばCOが測定対象成分である場合、COによる赤外線の吸収波長領域と水分(HO)による吸収波長領域とが近接しているため、サンプルガスに含まれる水分が水分干渉を起こし、CO分析の測定値に影響を及ぼす。更にサンプルガス中の水分濃度が安定していないとその影響が変化するため、CO測定値に誤差も生じる。
【0005】
一方、CLD式NO計では、紫外領域の光がフォトセンサで検出されるが、NO分子の量に比例して発光量が変化する性質を利用して、試料を導入した一定空間での発光量から試料中のNO濃度を検出することができる。
このとき、水分(HO)やCOが存在すると、発光量が減少することが知られている。これがクエンチング(消光効果)といわれる現象で、NO測定値に影響を与える。更にサンプルガス中の水分濃度が安定していないとその影響が変化するため、NO測定値に誤差も生じる。
【0006】
このため、NDIR分析計における水分干渉や、CLD式NO計におけるクエンチング、更に水分濃度の不安定化の問題を解決するために、一般的な排気ガス分析装置には除湿器が設けられている。
【0007】
しかしながら、排気ガス中に水分(HO)が混在することに起因する上述のような不都合を解消するために一般的な排気ガス分析装置に備えられている加熱導入管や除湿器は、消費電力が大きく、排気ガス分析装置の消費電力の大半を占めている(特許文献1)。
【0008】
従来、自動車から排出された排気ガスに含まれる成分を分析するための排気ガス分析装置は屋内の実験用施設に据え置く型のものが一般的であり、屋内での走行実験により分析が行われていたが、近時、排気ガスに含まれる成分が環境や人体の健康に及ぼす影響への関心が高まるにつれて、実際に路面を走行する際に自動車から排出される排気ガスを分析することが求められるようになってきている。
【0009】
排気ガス分析装置を車に搭載するためには、小型化、軽量化、省電力化が必要であるが、上述のように排気ガス分析装置には排気ガス中に混在する水分の影響を排除するために、消費電力の大きい加熱導入管や除湿器が備わっているため、その省電力化は困難であった。
【特許文献1】特開2002−5838
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、排気ガス中に混在する水分が測定結果に及ぼす影響を排除しつつ、消費電力が低減された車両搭載型排気ガス分析装置を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係る車両搭載型排気ガス分析装置は、車両から排出された排気ガスに含まれているNO、THC、CO、COなどの測定対象成分の濃度を測定する車両搭載型のものであって、車両の排気管に非加熱導入管を介して接続したドレンセパレータと、前記ドレンセパレータによって液状水分が除去されたsemi−DRY状態での排気ガス中の水分濃度及び測定対象成分の濃度を測定する測定機器群と、前記測定機器群で測定された水分濃度及び測定対象成分濃度に基づいて、水分を完全に取り除いたDRY状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度を算出するDRY濃度算出部と、前記DRY状態での濃度及び予め定められた換算式に基づいて、車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出する実濃度算出部とを備えていることを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、非加熱型の導入管を用いることにより、消費電力を低減することができ、また、導入管にドレンセパレータを接続することにより、結露したサンプルガス中の水分は外部に排出することができる。ここでいうドレンセパレータとは、複雑な構造や温調等を必要とせず、単に排気ガスに含まれる液状の水分を除去できればよい。更に、サンプルガス中に残存する水分の濃度及び測定対象成分の濃度を測定機器群で測定することにより、排気ガス中の測定対象成分のDRY濃度を算出することができ、更に当該DRY濃度から予め定められた換算式を用いることにより、排気ガス中に含まれる水分の影響を排除して車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出することができる。しかして、本発明の車両搭載型排気ガス分析装置によれば、消費電力を低減しつつ、排気ガスに含まれる水分の影響を抑えて、測定対象成分の濃度を高い精度で算出することができる。
【0013】
このような本発明の車両搭載型排気ガス分析装置としては、より具体的には、車両から排出された排気ガス中に含まれている測定対象成分であるNO、THC、CO、COの濃度をそれぞれ測定する車両搭載型のものであって、車両の排気管に非加熱導入管を介して接続したドレンセパレータと、CO、CO及びHO濃度を測定する赤外線ガス分析計、NO濃度を測定する化学発光式窒素酸化物分析計、及びTHCを測定する水素炎イオン化検出器を含み、前記ドレンセパレータによって液状水分が除去されたsemi−DRY状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度を測定する測定機器群と、前記測定機器群で測定された測定対象成分濃度及びHO濃度に基づいて、水分を完全に取り除いたDRY状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度を算出するDRY濃度算出部と、前記DRY状態での濃度及び予め定められた換算式に基づいて、車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出する実濃度算出部とを備えているものを挙げることができる。
【0014】
より省電力化を図るためには、水分除去機構としてドレンセパレータのみを備えているもの、すなわち消費電力が大きい除湿器を備えていないものが好ましい。
【0015】
除湿器やヒータを可及的に排除することにより、前記測定対象成分の相互の影響による実測値の真の測定値からの誤差が顕著になるが、これを、構造複雑化等を招来することなくソフトウェアで解決できるようにするには、各実測値の一部又は全部に生じる真の値からのずれを、当該各実測値の一部又は全部に基づいて補正し、semi−DRY状態での各測定対象成分の真の測定値を算出する補正部をさらに備え、前記DRY濃度算出部が、前記補正部で得られた真の測定値に基づいて各測定対象成分のDRY状態での濃度を算出するものであることが好ましい。
【0016】
好ましい具体的実施態様としては、前記補正部が、CO濃度、CO濃度及びHO濃度に関して、それらの実測値を、水素炎イオン化検出器によるTHC濃度の実測値に基づき中間補正し、CO及びCO濃度の中間補正値とHO濃度の中間補正値とに基づいて、当該CO及びCO濃度の中間補正値をさらに補正するとともに、NO濃度に関して、その実測値を、前記CO濃度及びHO濃度の補正値に基づいて補正することによって、semi−DRY状態での各測定対象成分の真の測定値を算出するものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明によれば、省電力化を図りつつ排気ガス中の各測定対象成分濃度を高い精度で算出することができる。従って、本発明により車両に搭載するに好適な排気ガス分析装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本車両搭載型排気ガス分析装置は、自動車から排出された排気ガスを流通させる流路系と、その流路系上に設けられて排気ガス中の種々の成分濃度を測定する3つの測定機器、すなわち、CO、CO及びHOの濃度を測定する赤外線ガス分析計4、THCの濃度を測定する水素炎イオン化検出器5、サンプルガスである排気ガス中のNOの濃度を測定するCLD式NO計6と、各測定機器からの測定結果データを収集するとともに流路系に配置されたバルブ等の制御を行う情報処理装置7とを備えている。
【0019】
流路系は、排気ガスの大部分を通過させるバイパス経路としての役割を果たす主流路1と、その主流路1から分岐させて並列に設けた複数の副流路とを備えており、主流路1上には赤外線ガス分析計4、副流路上には水素炎イオン化検出器5及びCLD式NO計6がそれぞれ設けられている。
【0020】
主流路1は、その上流端をメインポート11として開口させたもので、最も下流側には吸引ポンプ19が配設してある。そして、このメインポート11に車両の排気ガス管を接続し、前記吸引ポンプ19で吸引することにより、排気ガスのうちの測定に必要な量が当該主流路1に導入されるように構成している。
【0021】
より具体的に説明すると、この主流路1上には、メインポート11に引き続いて、導入管12、排気ガス中に含まれる液状水分を取り除くドレンセパレータ13、フィルタ14、流量制御管(キャピラリ)15a、分岐部16、赤外線ガス分析計4、圧力制御弁17a、流量制御管(キャピラリ)15b、合流部18、圧力制御弁17b、吸引ポンプ19をこの順に直列配置している。なお、赤外線ガス分析計4の下流に接続されている圧力制御弁17aは、前記キャピラリ間の流路系の圧力をコントロールするためのものであり、各キャピラリと協働して赤外線ガス分析計4を流れる排気ガスの流量及び圧力を一定に保つ役割を担う。
【0022】
本車両搭載型排気ガス分析装置では、導入管12として加熱装置の付いていない非加熱型のものを使用する。このため、車両から排出された排気ガスは導入管12において常温まで急速に冷却され、排気ガスに含まれる水分は結露して液状水分として導入管12内部に付着するが、当該液状水分は前記ドレンセパレータ13により導入管12外に排出される。
【0023】
分岐部16からは、前記副流路が2本分岐させてあり、合流部18で、それら副流路の下流端が、主流路1に再度接続されるように構成してある。
【0024】
一方の副流路2(第1副流路)上には、排気ガス中のTHCの濃度を測定する水素炎イオン化検出器5が設けてある。この水素炎イオン化検出器5の上流に設けてあるのは、流量制御管(キャピラリ)21であり、THCの濃度測定に必要な流量(主流路1を流れる排気ガス流量に比べればわずかである)を、当該水素炎イオン化検出器5に流すように構成している。
【0025】
他方の副流路3(第2副流路)上には、流量制御管(キャピラリ)31、CLD式NO計6が上流からこの順で設けてある。流量制御管(キャピラリ)31は、この副流路3を流れるガスの量を、窒素酸化物の濃度測定に必要な流量(主流路1を流れる排気ガス流量に比べればわずかである)に制限するものである。
【0026】
なお、合流部18又はその下流に接続されている圧力制御弁17bは、後述する副流路の圧力をコントロールするためのものであり、各副流路の上流部に設けられた前記キャピラリと協働して水素炎イオン化検出器5及びCLD式NO計6を流れる排気ガスの流量及び圧力を一定に保つ役割を担う。
【0027】
一般的な排気ガス分析装置では、各測定機器の上流に除湿器が設けられているが、本車両搭載型排気ガス分析装置では、消費電力を低減するために、サンプルガスからの水分除去機構としてはドレンセパレータ13のみが設けられ、除湿器は設けられていないことが好ましい。
【0028】
次に各測定機器の概略を説明する。
赤外線ガス分析計4は、CO、CO、HO等が、それぞれ固有の波長の赤外線を吸収する性質を有していることから、各波長の赤外線をサンプルガスに照射してその吸収度を検出することにより、CO、CO、HO等の量(濃度)を測定できるようにしたものである。
【0029】
赤外線ガス分析計4は、非分散型のもので、CO、CO、HOがそれぞれ吸収する固有波長の赤外線をサンプルガス(排気ガス)に照射して通過させ、その際の各波長の光の強度を光検出器で測定してそれぞれ出力する。そしてその出力値を、光吸収がなかった場合のリファレンス値と比較することにより、各波長の光の吸収度を算出することができる。光吸収度は、各測定対象成分の濃度(量)に対応することから、これからCO、CO、HOの濃度(量)を特定することができるが、CO、CO、HOの光吸収度については、THCが干渉し、またCO、COについては相互に干渉がおこるとともにHOも干渉するため、単純に各光吸収度の値がCO、CO、HOの濃度に1対1に対応するわけではない。
【0030】
水素炎イオン化検出器5は、サンプルガス(排気ガス)に、燃料ガス(水素ガス)を一定の割合で混合して燃焼し、その際にそのサンプルガスに含まれるTHCがイオン化されて生じる電流の値を検知して出力する方式のもので、その電流値からTHCの量(濃度)を算出することができる。この水素炎イオン化検出器5には、燃料ガスの他に助燃用ガス(空気)も導かれるように構成している。
【0031】
CLD式NO計6は、排気ガスに含まれるNOの量(濃度)を測定可能なものであり、NOコンバータ61、オゾン発生器62、反応槽63、オゾン除去器64、光検出器(図示しない)を備えている。NOコンバータ61は、NOをNOに変換するもので、導入された排気ガスを2分する一対の並列経路の一方に設けられている。これら並列経路の終端には電磁式切替バルブが設けてあって、いずれか一方の経路からのみ、後述する反応槽63に択一的にガスが導かれるように構成してある。オゾン発生器62は、大気を除湿することなくそのまま取り込み、その大気に含まれる酸素をオゾンに変換してオゾン含有ガスとして出力する。反応槽63は、一定容積を有する筐体であり、サンプルガス導入ポート631、オゾン含有ガス導入ポート632及び導出ポート633を有している。サンプルガス導入ポート631には、前述したように切替バルブで選択されたいずれか一方の並列経路からのガスが導かれるとともに、オゾン含有ガス導入ポート632には、前記オゾン発生器62からのオゾン含有ガスが導かれる。それら各ガスは反応槽63内部で混合し、発光する。光検出器(図示しない)は、前記反応槽63内での発光強度を測定するもので、この実施形態では、光検出器として例えば光電子倍増管を用いている。ただし、COやHOが前記反応の際の発光現象を阻害する(クエンチング)ため、発光強度の値から直ちにNOの濃度を算出できるわけではない。
【0032】
情報処理装置7は、図2に示すように、CPU701の他に、メモリ702、入出力チャネル703、キーボード等の入力手段704、ディスプレイ705等を備えた汎用乃至専用のものであり、入出力チャネル703には、A/Dコンバータ706、D/Aコンバータ707、増幅器(図示しない)などのアナログ−デジタル変換回路が接続されている。
【0033】
そして、CPU701及びその周辺機器が、前記メモリ702の所定領域に格納されたプログラムにしたがって協働動作することにより、この情報処理装置7は、図3に示すように、前記流路系等に設けられたバルブの開閉制御やヒータの温度制御を行う制御部71と、同時期に排出された排気ガスに対する各分析計4、5、6での実測値を取得する実測値取得部72と、各実測値の一部又は全部に生じる真の値からのずれを補正する補正部73と、その補正値から、水分を完全に取り除いたDRY状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度を算出するDRY濃度算出部74と、前記DRY状態での濃度及び予め定められた換算式に基づいて、車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出する実濃度算出部75等としての機能を発揮する。なお、この情報処理装置7は、物理的に一体である必要はなく、有線又は無線により複数の機器に分割されていても構わない。
【0034】
このように構成したときの情報処理装置7の作動について簡単に説明する。
まず、実測値取得部72が、各分析計4、5、6からの出力データを所定時間間隔でサンプリングして受け付け、必要に応じて平均化処理やアンプ、検出器での利得、オフセット処理などを施し、実測データとして時系列的にメモリの所定領域に設定された実測データ格納部D1に格納する。また、この実測値取得部72は、各分析計4、5、6にまで排気ガスが到達する時間のずれを予め記憶しており、その時間のずれに基づいて、同時期に排出された排気ガスに係る各実測データを、実測データ格納部D1から抽出し出力する。たとえば、最も排気ガスが到達するのが遅い分析計4、5、6からの実測データを取得した時点で、その実測データと、他の分析計4、5、6に係る実測データであって到達時間のずれ分だけ先に取得している実測データとを出力する。
【0035】
次に、補正部73が、前記実測値取得部72から出力された各実測データを受け付け、それら各実測データの示す値、すなわち各測定対象成分に関する実測値を、当該各実測値の一部又は全部に基づいて補正し、その補正値を示す補正データを出力する。より具体的には、以下に説明する。
【0036】
補正部73は、まずTHC濃度に関し、水素炎イオン化検出器5に係る実測値に、ゼロ/スパンキャリブレーション、リニアライゼーションを施し、さらに圧力補償、温度補償を施して、semi−DRY状態でのTHC濃度を算出する。
【0037】
次に、補正部73は、CO濃度、CO濃度及びHO濃度に関し、赤外線ガス分析計4に係る実測値を、前述のようにTHC濃度の実測値から算出されたsemi−DRY状態でのTHC濃度に基づいて第1次補正する。
【0038】
その後、CO及びCOの相互干渉影響をさらに補正すべく、第1次補正されたCO濃度及びCO濃度の値を、相互の値に基づいて第2次補正する。
【0039】
このようにして求めた補正値(HO濃度に関しては第1次補正値、CO濃度、CO濃度に関しては第2次補正値)に、ゼロ/スパンキャリブレーション及びリニアライズを施し、中間補正値を得る。
【0040】
次に、CO濃度、CO濃度の中間補正値に対し、HO濃度の中間補正値を使ってゼロ点の水分干渉を補正するとともに、SPAN点の水分共存影響を補正する。
【0041】
最後に、その補正値に圧力補償、温度補償を行って、semi−DRY状態でのCO、CO及びHOの濃度を算出する。
【0042】
次に、補正部73は、NO濃度に関し、CLD式NO計6に係る実測値に、ゼロ/スパンキャリブレーション、リニアライゼーションを施す。
【0043】
そしてその値に、CO及びHOによるクエンチング(消光効果)補正を施す。その後、この補正値に圧力補償、温度補償を行って、semi−DRY状態でのNO濃度を算出する。
【0044】
このようにして補正部73は、semi−DRY状態でのTHC濃度、CO濃度、CO濃度、NO濃度をそれぞれ算出し、それらに係るデータをsemi−DRYデータ格納部D2に格納する。
【0045】
次に、DRY濃度算出部74が、semi−DRYデータ格納部D2に格納された各データを取得し、水分を完全に取り除いた状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度であるDRY濃度を算出する。
【0046】
semi−DRY濃度からDRY濃度へ換算するには下記式(1)が用いられる。
X=W×100/(100−HOconc.) (1)
【0047】
ここで、式(1)中の各パラメータは以下のとおりである。
X;DRY濃度
W;semi−DRY濃度
Oconc.;semi−DRY状態での水分濃度(vol%)
【0048】
一方、この情報処理装置7は、大気圧中の水蒸気量、大気温度、大気湿度、大気圧力に係るデータを、対応する各センサから受信し、更に試験対象の車両のエンジンで燃焼させた燃料の水素炭素原子数比をオペレータの入力により受け付け、あるいはNO中のNOの割合をCLD式NO計6から受信する、などして得られたパラメータデータをパラメータデータ格納部D3に格納している。
【0049】
次いで、実濃度算出部75が、semi−DRYデータ格納部D2から各成分のDRY濃度を取得するとともに、パラメータデータ格納部D3から大気圧中の水蒸気量、大気温度、大気湿度、大気圧力、燃料の水素炭素原子数比及びNO中のNOの割合を示すパラメータデータを取得し、予め定められた換算式に基づいて、水分を完全に取り除いたDRY状態での各成分濃度を算出する
【0050】
前記換算式としては公知の換算式を使用することができ、例えば下記の一連の式であらわされるCFR−1065に記載のDRY to WET換算式を挙げることができる。
【0051】
CEXCOMP(t)=CEXCOMP_dry(t)×(1−CH2O(t))
CH2O(t)=CH2O_dry(t)/(1+CH2O_dry(t))
CH2O_dry(t)=α/2×χCproddry(t)+χH2Oint dry(t)/χprod/int dry(t)
χCproddry(t)=CEXCO2_dry(t+DTCO2)/100+CEXCO_dry(t+DTCO)/100+CEXHC_dry(t+DTHC)/1000000
χprod/int dry(t)=1/{1−1/2×(CEXCO_dry(t+DTCO)/100−α/2×χCproddry−CEXNO2_dry(t+DTNO2)/1000000)}
CEXNO2_dry(t)=
CEXNOx_dry(t)×FNO
χH2Oint dry(t)=χH2Oint/(1−χH2Oint)
χH2Oint(t)=EXP{−6096.9385/(TAMB(t)+273.15)+21.2409642−2.711193×10-2×(TAMB(t)+273.15)+1.673952×10-5×(TAMB(t)+273.15)2+2.433502×Ln(TAMB(t)+273.15)}×RHAMB(t)/(PAMB(t)×1000×100)
【0052】
ここで、上記式中の各パラメータは以下のとおりである。
EXCOMP(t);時間tにおけるWET換算後の瞬時排出濃度
(CO、CO;vol%、THC、NOx;ppm)
EXCOMP_dry(t);時間tにおけるDRYの瞬時排出濃度(測定値)
(CO、CO;vol%、THC、NOx;ppm)
H2O(t);時間tにおける排気ガス中の水分割合
H2O_dry(t);時間tにおけるDRY換算した排気ガス中の水分割合
α;燃料の水素炭素原子数比
FNO;NOx中のNO割合(ガソリン;1、ディーゼル:0.25、NO吸蔵触媒;0.75)
χH2Oint(t);時間tにおける大気中の水蒸気量(mol/mol)
AMB(t);時間tにおける大気温度(degC)
RHAMB(t);時間tにおける大気湿度(RH%)
AMB(t);時間tにおける大気圧力(kPa)
【0053】
この換算式は、簡単にいうと、既知の燃料に含まれる水素炭素原子数比と、測定し算出したDRY状態での各成分濃度とから、DRY状態の排気ガス中に含まれるHO割合を算出し、算出されたHO割合から排気ガスのWET状態、つまり車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度に換算可能な式である。このCFR−1065記載の換算式及びsemi−DRY濃度からDRY濃度へ換算する式を用いることによって、semi−DRY状態で測定機器群によって測定した各成分濃度から、車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度を、算出できるのである。
【0054】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。干渉やクエンチング補正の方法や構成は他にも考えられるし、測定対象成分も、前記実施形態で示したものに限られない。分析計も他の方式のものを用いてかまわない。
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によって、消費電力の低減化、コンパクト化を図りつつ排気ガス中の各測定対象成分濃度を高い精度で算出することができる。従って、本発明により車両に搭載するに好適な排気ガス分析装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気ガス分析装置の全体流体回路図。
【図2】同実施形態における情報処理装置の回路構成図。
【図3】同実施形態における情報処理装置の機能ブロック図。
【符号の説明】
【0057】
1・・・主流路
11・・・メインポート
12・・・導入管
13・・・ドレンセパレータ
14・・・フィルタ
15・・・流量制御管(キャピラリ)
16・・・分岐部
17・・・圧力制御弁
18・・・合流部
19・・・吸引ポンプ
2・・・副流路
21・・流量制御管(キャピラリ)
3・・・副流路
31・・・流量制御管(キャピラリ)
4・・・赤外線ガス分析計
5・・・水素炎イオン化検出器
6・・・CLD式NO
61・・・NOコンバータ
62・・・オゾン発生器
63・・・反応槽
631・・・サンプルガス導入ポート
632・・・オゾン含有ガス導入ポート
633・・・導出ポート
64・・・オゾン除去器
7・・・情報処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両から排出された排気ガスに含まれているNO、THC、CO、COなどの測定対象成分の濃度を測定する車両搭載型のものであって、
車両の排気管に非加熱導入管を介して接続したドレンセパレータと、
前記ドレンセパレータによって液状水分が除去されたsemi−DRY状態での排気ガス中の水分濃度及び測定対象成分の濃度を測定する測定機器群と、
前記測定機器群で測定された水分濃度及び測定対象成分濃度に基づいて、水分を完全に取り除いたDRY状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度を算出するDRY濃度算出部と、
前記DRY状態での濃度及び予め定められた換算式に基づいて、車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出する実濃度算出部とを備えている車両搭載型排気ガス分析装置。
【請求項2】
車両から排出された排気ガス中に含まれている測定対象成分であるNO、THC、CO、COの濃度をそれぞれ測定する車両搭載型のものであって、
車両の排気管に非加熱導入管を介して接続したドレンセパレータと、
CO、CO及びHO濃度を測定する赤外線ガス分析計、NO濃度を測定する化学発光式窒素酸化物分析計、及びTHCを測定する水素炎イオン化検出器を含み、前記ドレンセパレータによって液状水分が除去されたsemi−DRY状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度を測定する測定機器群と、
前記測定機器群で測定された測定対象成分濃度及びHO濃度に基づいて、水分を完全に取り除いたDRY状態での排気ガス中の測定対象成分の濃度を算出するDRY濃度算出部と、
前記DRY状態での濃度及び予め定められた換算式に基づいて、車両から排出された時点での排気ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出する実濃度算出部とを備えている車両搭載型排気ガス分析装置。
【請求項3】
水分除去機構としては前記ドレンセパレータのみを備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の車両搭載型排気ガス分析装置。
【請求項4】
前記測定対象成分の相互の影響によって各実測値の一部又は全部に生じる真の値からのずれを、当該各実測値の一部又は全部に基づいて補正し、semi−DRY状態での各測定対象成分の真の測定値を算出する補正部をさらに備えたものであり、
前記DRY濃度算出部が、前記補正部で得られた真の測定値に基づいて各測定対象成分のDRY状態での濃度を算出するものである請求項1、2又は3記載の車両搭載型排気ガス分析装置。
【請求項5】
前記補正部が、
CO濃度、CO濃度及びHO濃度に関して、それらの実測値を、水素炎イオン化検出器によるTHC濃度の実測値に基づき中間補正し、CO及びCO濃度の中間補正値とHO濃度の中間補正値とに基づいて、当該CO及びCO濃度の中間補正値をさらに補正するとともに、
NO濃度に関して、その実測値を、前記CO濃度及びHO濃度の補正値に基づいて補正することによって、semi−DRY状態での各測定対象成分の真の測定値を算出するものである請求項4記載の排気ガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−284508(P2006−284508A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108032(P2005−108032)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】