説明

車両操舵装置

【課題】安価かつ小型にして操作側モータの駆動制御を平滑化すると共に、操舵側モータの駆動制御を高信頼度に行うことができる車両操舵装置を提供する。
【解決手段】ステアリングシャフト1と、ステアリングシャフト1の回転操作部材2と、回転操作部材2に操作反力を付与する操作側モータ4と、操舵部材6と、操舵部材6に操舵力を付与する操舵側モータ8と、操舵角を検出する操舵角検出手段9と、制御手段10とを有する車両操舵装置において、ステアリングシャフト1に絶対角検出手段3を備えると共に、操作側モータ4のモータ軸4aにモータ回転角検出手段20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイワイヤ方式の車両操舵装置に係り、特に、回転操作部材に操作反力を付与する操作側モータの駆動制御を平滑化する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両操舵装置としては、ステアリングシャフトと操舵部材とを機械式の動力伝達機構を介して接続したメカニカル方式の車両操舵装置が利用されているが、近年、かかる構成に代えて、ステアリングシャフトの回転状態を電気信号に変換し、この電気信号に基づいて操舵部材に設けられた操舵側モータの駆動を制御し、操舵部材の操舵を行うと共に、ステアリングシャフトの回転操作部材に操作反力を付与する操作側モータの駆動を制御し、回転操作部材に所要の操作反力を付与するバイワイヤ方式の車両操舵装置が提案されている。
【0003】
図4は、従来より提案されているバイワイヤ方式の車両操舵装置の一例を示す構成図であって、ステアリングシャフト1と、ステアリングシャフト1を回転操作するステアリングホイールなどの回転操作部材2と、回転部がステアリングシャフト1に取り付けられ、回転操作部材2の絶対操作角を検出する絶対操作角検出手段3と、ステアリングシャフト1を介して回転操作部材2に操作反力を付与する操作側モータ4と、ステアリングシャフト1と操作側モータ4との間に介設され、操作側モータ4で発生した操作反力を減速してステアリングシャフト1に伝達する変速機構5と、伝達機構6に備えられた操舵軸7と、操舵軸7を回転駆動する操舵側モータ8と、操舵角を検出する操舵角検出手段9と、絶対操作角検出手段3から出力される絶対操作角信号θ1及び操舵角検出手段9から出力される操舵角信号θ2に基づいて操作側モータ4の駆動信号M1及び操舵側モータ8の駆動信号M2を生成する制御手段10を有している。なお、伝達機構6は、操舵軸7に固着されたピニオンギア11と、ピニオンギア11と噛み合わされるラック歯が形成されたラック軸12と、ラック軸12によって駆動される車軸13を含むリンク機構14とをもって構成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
制御手段10は、絶対操作角信号θ1と操舵角信号θ2とに基づいて操作側モータ4の駆動信号M1を生成して出力する。これにより回転操作部材2には、メカニカル方式の車両操舵装置と同様に、その操作量及び操作方向に応じた操作反力が付与される。また、制御手段10は、絶対操作角信号θ1と操舵角信号θ2とに基づいて操舵側モータ8の駆動信号M2を生成して出力する。これにより操舵部材6は、メカニカル方式の車両操舵装置と同様に、回転操作部材2の操作量及び操作方向並びに路面状態等に応じて操舵される。
【特許文献1】特開2003−252223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、操作側モータ4の駆動制御については、ドライバーに違和感を与えることのない連続的で滑らかな操作反力を回転操作部材2に付与するため、平滑な駆動制御若しくは高分解能での駆動制御が要求される。また、操舵側モータ8の駆動制御については、操舵部材6の制御を確実に行うため、角度検出手段3,9等の故障に起因する不都合を生じないことが要求される。
【0006】
操作側モータ4の駆動制御を平滑に、若しくは高分解能で行うためには、ステアリングシャフト1と操作角検出手段3の回転部との間に変速機構を設け、ステアリングシャフト1の単位回転角度当たりの信号変化を大きくすれば良い。しかしながら、ステアリングシャフト1と操作角検出手段3の間に変速機構5やモータ軸4aが介在すると故障の原因が増え、操舵側モータ8の駆動制御の信頼性が低下してしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、操作側モータの駆動制御を平滑化すると共に、操舵側モータの駆動制御を高信頼度に行うことができる車両操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決するため、車両操舵装置を、ステアリングシャフトを回転操作する回転操作部材と、前記ステアリングシャフトに備えられ前記回転操作部材の絶対操作角を検出する絶対操作角検出手段と、前記ステアリングシャフトとの間に備えられた変速機構を介して前記回転操作部材に操作反力を付与する操作側モータと、前記操作側モータのモータ軸に備えられたモータ回転角検出手段と、伝達機構を介して操舵角を変更する操舵側モータと、前記操舵角を検出する操舵角検出手段と、前記回転操作部材の絶対操作角及び前記操舵角に基づいて前記操舵側モータの駆動信号を生成すると共に、前記操作側モータの回転角及び操舵角に基づいて前記操作側モータの駆動信号を生成する制御手段とを備えるという構成にした。
【0009】
ステアリングシャフトに絶対操作角検出手段を備えると、絶対操作角検出手段を回転操作するための特別な機構を必要とせず、絶対操作角検出手段の操作系の構成を簡略化することができるので、絶対操作角検出手段に故障が生じにくく、操舵側モータの駆動制御を高い信頼度で行うことができる。また、操作側モータのモータ軸にモータ回転角検出手段を備えると、ステアリングシャフトと操作側モータとの間に備えられた変速機構により回転操作部材の回転が増速して操作側モータのモータ軸に伝達されるので、高分解能の角度検出手段を備えることなく高分解能の絶対操作角信号を得ることができ、操作側モータの駆動制御を平滑に行うことができる。
【0010】
また、本発明は、前記構成の車両操舵装置において、前記モータ回転角検出手段として相対角検出手段を用いると共に前記回転操作部材の絶対操作角と前記操作側モータの相対回転角とから前記操作側モータの絶対回転角を算出する絶対角演算手段を備え、前記制御手段は、前記絶対回転角に基づいて前記操作側モータの駆動信号を生成するという構成にした。
【0011】
操作側モータの絶対回転角を演算するためには、相対回転角のみならず基準回転角が必要であるが、そのために基準回転角検出手段を設けるのではなく、回転操作部材の絶対操作角を基準回転角として利用するようにした。したがって、基準回転角検出手段を省略することができ、車両操舵装置の低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両操舵装置は、ステアリングシャフトに備えられた絶対操作角検出手段と、操作側モータのモータ軸に備えられたモータ回転角検出手段と、車軸の操舵角を検出する操舵角検出手段とを有するので、絶対操作角検出手段によって検出される回転操作部材の絶対操作角と操舵角検出手段によって検出される操舵角とに基づいて操舵側モータの駆動信号を生成することにより、操舵側モータの駆動制御を高い信頼度で行うことができる。また、絶対操作角検出手段によって検出される回転操作部材の絶対操作角とモータ回転角検出手段よって検出される操作側モータのモータ回転角とから操作側モータの絶対回転角を算出し、これに基づいて操作側モータの駆動信号を生成することにより、操作側モータの駆動制御を平滑に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る車両操舵装置の実施形態例を図1乃至図3に基づいて説明する。図1は実施形態例に係る車両操舵装置の構成図、図2はモータ回転角検出手段の出力特性を絶対操作角検出手段の出力特性と比較して示すグラフ図、図3は他の実施形態例に係る車両操舵装置の構成図である。
【0014】
図1と図4との比較から明らかなように、本例の車両操舵装置は、図4に示した従来例に係る車両操舵装置に、操作側モータ4のモータ回転角を検出するモータ回転角検出手段20と、当該モータ回転角検出手段20から出力される操作側モータ4のモータ回転角信号θrと絶対操作角検出手段3から出力される回転操作部材2の絶対操作角信号θ1とに基づいて操作側モータ4の絶対モータ回転角信号θaを演算する絶対角演算手段21を追加した構成になっている。
【0015】
その他については図4に示した従来例に係る車両操舵装置と同じであり、1はステアリングシャフト、2は回転操作部材、3は絶対操作角検出手段、4は操作側モータ、5は変速機構、6は操舵部材、7は操舵軸、8は操舵側モータ、9は操舵角検出手段、10は制御手段を示している。また、操舵部材6は、操舵軸7に固着されたピニオンギア11と、ピニオンギア11と噛み合わされるラック歯が形成されたラック軸12と、ラック軸12によって駆動される車軸13を含むリンク機構14とをもって構成されている。
【0016】
絶対操作角検出手段3としては、ステアリングシャフト1の絶対的な回転角を検出するデジタル式のエンコーダやアナログ式のポテンショメータ等を用いることができ、絶対操作角検出手段3としてエンコーダが用いられる場合には、例えばコードパターンが形成されたコード板がステアリングシャフト1に取り付けられ、絶対操作角検出手段3としてポテンショメータが用いられる場合には、例えば抵抗パターンが形成された抵抗基板又は摺動子が取り付けられた回転板がステアリングシャフト1に取り付けられる。
【0017】
これに対して、モータ回転角検出手段20としては、本実施形態例においては、操作側モータ4の相対的なモータ回転角を検出するデジタル式のエンコーダが用いられている。コードパターンが形成されたコード板は、操作側モータ4のモータ軸4aに取り付けられる。
【0018】
絶対角演算手段21は、イグニッションスイッチがオン操作されたときに絶対操作角検出手段3から出力される回転操作部材2の絶対操作角信号θ1を基準回転角とし、これにモータ回転角検出手段20から出力される操作側モータ4の相対回転角信号θrを加算又は減算して、操作側モータ4の絶対回転角θaを演算する。
【0019】
制御手段10は、絶対角演算手段21から出力される絶対回転角θaと操舵角検出手段9から出力される操舵角信号θ2とに基づいて操作側モータ4の駆動信号M1を生成すると共に、絶対操作角検出手段3から出力される回転操作部材2の絶対操作角信号θ1と操舵角検出手段9から出力される操舵角信号θ2とに基づいて操舵側モータ8の駆動信号M2を生成する。
【0020】
ステアリングシャフト1と操作側モータ4との間に介設される変速機構5は、操作側モータ4で発生した操作反力を減速してステアリングシャフト1に伝達するものであるので、操作側モータ4のモータ軸4aにモータ回転角検出手段20の回転部を連結すると、変速機構5はモータ回転角検出手段20に関して増速機構として作用する。したがって、モータ回転角検出手段20がエンコーダである場合には、回転操作部材2の単位回転角度に対するモータ回転角信号θrのコード数が操作角信号θ1のコード数よりも変速機構5が有する増速比だけ増加する。よって、絶対角演算手段21から出力される絶対回転角θaに基づいて操作側モータ4の駆動信号M1を生成すると、絶対操作角検出手段3から出力される回転操作部材2の絶対操作角信号θ1に基づいて操作側モータ4の駆動信号M1を生成する場合に比べて操作側モータ4の駆動制御を高分解能化、すなわち平滑化することができ、ドライバーに違和感を与えることのない連続的で滑らかな操作反力を回転操作部材2に付与することができる。
【0021】
また、モータ回転角検出手段20は操作側モータ4のモータ軸4aに備えられているのに対して絶対操作角検出手段3はステアリングシャフト1に取り付けられているので、モータ回転角検出手段20よりも絶対操作角検出手段3の方が回転部の操作系が簡単で、故障しにくい構成になっている。したがって、絶対操作角検出手段3から出力される回転操作部材2の絶対操作角信号θ1と操舵角検出手段9から出力される車軸の操舵角信号θ2とに基づいて操舵側モータ8の駆動信号M2を生成することにより、操舵側モータの駆動制御に関して高い信頼性を維持することができる。
【0022】
さらに、操作側モータ4の絶対回転角θaを演算するための基準回転角として絶対操作角検出手段3から出力される絶対操作角信号θ1を利用したので、基準回転角を検出するための特別な検出手段を省略することができ、車両操舵装置のコスト上昇を抑制することができる。
【0023】
なお、前記実施形態例においては、操作側モータ4のモータ軸4aに相対角検出手段のみを備えたが、かかる構成に代えて、図3に示すように、相対角検出手段22aと基準角検出手段22bと絶対角演算手段22cとからなる絶対角検出手段を備えることもできる。また、絶対角検出手段としてアナログ式のポテンショメータのみを用いることもできる。
【0024】
また、前記各実施形態例においては、モータ回転角検出手段20の回転部を直接操作側モータ4のモータ軸4aに取り付けたが、かかる構成に代えて、モータ回転角検出手段20の回転部と操作側モータ4のモータ軸4aとの間に、モータ軸4aに取り付けられた大歯車と回転部に取り付けられた小歯車との組合せからなる変速機構を更に設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態例に係る車両操舵装置の構成図である。
【図2】モータ回転角検出手段の出力特性を絶対操作角検出手段の出力特性と比較して示すグラフ図である。
【図3】他の実施形態例に係る車両操舵装置の構成図である。
【図4】従来例に係る車両操舵装置の構成図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ステアリングシャフト
2 回転操作部材
3 絶対操作角検出手段
4 操作側モータ
5 変速機構
6 操舵部材
7 操舵軸
8 操舵側モータ
9 操舵角検出手段
10 制御手段
20 モータ回転角検出手段
21 絶対角演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転操作する回転操作部材と、前記ステアリングシャフトに備えられ前記回転操作部材の絶対操作角を検出する絶対操作角検出手段と、前記ステアリングシャフトとの間に備えられた変速機構を介して前記回転操作部材に操作反力を付与する操作側モータと、前記操作側モータのモータ軸に備えられたモータ回転角検出手段と、伝達機構を介して操舵角を変更する操舵側モータと、前記操舵角を検出する操舵角検出手段と、前記回転操作部材の絶対操作角及び前記操舵角に基づいて前記操舵側モータの駆動信号を生成すると共に、前記操作側モータの回転角及び操舵角に基づいて前記操作側モータの駆動信号を生成する制御手段とを備えたことを特徴とする車両操舵装置。
【請求項2】
前記モータ回転角検出手段として相対角検出手段を用いると共に前記回転操作部材の絶対操作角と前記操作側モータの相対回転角とから前記操作側モータの絶対回転角を算出する絶対角演算手段を備え、前記制御手段は、前記絶対回転角に基づいて前記操作側モータの駆動信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の車両操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−27349(P2006−27349A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206084(P2004−206084)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】