車両用エアサスペンション式シート支持装置
【課題】車両用エアサスペンション式シート支持装置において、シート高さに応じて的確にサスペンションアッパー方向ロック機構が作動し、目標のシート停止高さでシートの上方への移動を規制することができるようにする。
【解決手段】シートが急激に上昇すると、リンク機構30の前後移動する前上側可動軸36に固定したホルダ57が後退し、バルブ70に設けた円板ギヤ54にホルダ57のロックギヤ57aが噛み合い、回転する円板ギヤ54によってスライドさせられたホルダ57がガイド壁部58Bに当たってエアサスペンション1がロックする構成において、円板ギヤ54の回転軸54aを偏心させることにより、バルブ70の前後移動量に対する円板ギヤ54の前後移動量の比率をシート高さに応じて可変とし、サスペンション高さが高くなるにつれて、円板ギヤ54に対するロックギヤ57aの離間距離(ロック作動距離)を漸次長くするように設定する。
【解決手段】シートが急激に上昇すると、リンク機構30の前後移動する前上側可動軸36に固定したホルダ57が後退し、バルブ70に設けた円板ギヤ54にホルダ57のロックギヤ57aが噛み合い、回転する円板ギヤ54によってスライドさせられたホルダ57がガイド壁部58Bに当たってエアサスペンション1がロックする構成において、円板ギヤ54の回転軸54aを偏心させることにより、バルブ70の前後移動量に対する円板ギヤ54の前後移動量の比率をシート高さに応じて可変とし、サスペンション高さが高くなるにつれて、円板ギヤ54に対するロックギヤ57aの離間距離(ロック作動距離)を漸次長くするように設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が備えるシートをエアスプリングを用いて支持する車両用エアサスペンション式シート支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中型・大型トラックやバス等の大型自動車のブレーキ装置としてエアブレーキ装置が用いられているが、このエアブレーキ装置に供給する空気を、運転席等のシートのクッションに利用したエアサスペンション式シート支持装置が知られている(特許文献1,2等参照)。
【0003】
公知のエアサスペンション式シート支持装置は、シャーシ等の固定部材に固定されるロアフレームの上方にリンク機構を介してアッパーフレームが上下動可能に支持され、アッパーフレームに車両用シートのシートクッションが固定される構成が多い。リンク機構としては2本のリンクバーをX字状に組んだ伸縮自在なXリンクを左右一対の状態で備えたものが一般的であり、ロアフレームとアッパーフレームとの間に、シートに着座した乗員の荷重をアッパーフレームを介して受けるエアスプリングが配されている。そして、シートに入力される上下方向の振動に応じて、エアスプリングに空気を供給したり、エアスプリングから空気を排出したりするバルブが設けられており、このバルブの作用によって、シート高さ(シートクッションの着座面の高さ)が一定に保たれながら振動が吸収され、快適な乗り心地が得られるようになっている。
【0004】
従来のエアサスペンション式シート支持装置は、上記のバルブとエアサスペンションの組み合わせにより、乗員の体重が変化しても空気圧を利用してシート高さを自動的に一定に保持する機能(シート高さ一定機能)とともに、体格に合わせてシート高さを変更して設定することのできる機能(シート高さ設定機能)を有しているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2597171号公報
【特許文献2】特開平5−131869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエアサスペンション式シート支持装置にあっては、シートから乗員が立ち上がる際に急激にシートが上昇して乗員に当たるといった不快な動きを防止するサスペンションアッパー方向ロック機構といったものを具備させている場合がある。この機構としては、サスペンションが上昇した時に、サスペンションの上下動に伴って前後方向に移動する可動軸の移動をロック部材で規制する構成のものがある。
【0007】
ところでX型のリンク機構にあっては、前後移動量に対する上下移動量のリンク比は上下位置によって異なり、縮小した下方位置の方が小さい。すなわち、シート高さが低い場合ではシートの上下動が比較的鈍く、高い場合ではシートが比較的敏感に上下動するということである。このため、可動軸とロック部材との間のロック作動距離が一定であると、シートの高さによって実質的なロック機構の作動量が異なり、シートが停止するまでのシート停止高さ(上昇したシートがロック機構により停止させられるまでの高さ)が一定にならず目標のシート停止高さでロック機構を作動させることができないという不満があった。
【0008】
よって本発明は、シート高さに応じて的確にサスペンションアッパー方向ロック機構が作動し、目標のシート停止高さでシートの上方への移動を規制することができる車両用エアサスペンション式シート支持装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用エアサスペンション式シート支持装置は、ロアフレームと、このロアフレームの上方に配され、車両用シートを支持するアッパーフレームと、前記ロアフレームに対して前記アッパーフレームを上下動可能に支持し、アッパーフレームの上下動に伴い水平方向に移動してサスペンション高さ位置を伝達する位置伝達体を有するX型のリンク機構と、空気供給源から空気が供給され、前記アッパーフレームが上方から受ける荷重を受けるとともに、アッパーフレームの高さを調節するエアスプリングと、このエアスプリングの振動を吸収するダンパと、前記位置伝達体に対して相対移動可能に設けられ前記エアスプリングに対する空気の供給・排出を行うバルブを有するとともに、前記相対移動が生じることによってこのバルブを開閉させるバルブ開閉手段を有する前記アッパーフレームの高さ位置を調節するシート高さ調節手段と、前記アッパーフレームに設置され、前記バルブを開閉させる操作部と、前記位置伝達体が前記バルブに接近する方向に移動した時、その移動を規制して前記リンク機構の作動をロックするサスペンションアッパー方向ロック機構とを備えた車両用エアサスペンション式シート支持装置において、前記サスペンションアッパー方向ロック機構は、前記バルブと一体に移動する第1のロック部材と、前記位置伝達体と一体に移動して第1のロック部材に対し相対的に近接し、かつ第1のロック部材に係合可能で、係合時に位置伝達体の移動を停止させる第2のロック部材と、前記リンク機構が縮小してサスペンション高さが低い状態からリンク機構が伸張してサスペンション高さが高くなるにつれて、第1のロック部材に対する第2のロック部材の距離を漸次長くする距離可変手段とを備えることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、第1のロック部材と第2のロック部材との間のロック作動距離が、リンク機構が縮小してシートが低い位置では短く、シートが上昇するにつれて長くなる。この設定とX型のリンク機構の組み合わせにより、シート高さに関係なくサスペンションアッパー方向ロック機構の実質的な作動量をほぼ一定にすることができ、結果として目標のシート停止高さでシートの上方への移動を規制することができる。
【0011】
本発明では、前記第1のロック部材は円板ギヤであり、前記第2のロック部材は円板ギヤに噛み合うギヤであり、前記距離可変手段は、円板ギヤに設けられた偏心した回転軸と、この回転軸を回転自在に、かつ円板ギヤをバルブの移動方向に沿って直線的に移動させ得るように支持する円板ギヤ支持部とを有していることを好ましい具体的形態としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シート高さに応じて的確にサスペンションアッパー方向ロック機構が作動し、目標のシート停止高さでシートの上方への移動を規制することができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るシート支持装置の全体を示す斜視図である。
【図2】同装置の平面図である。
【図3】同装置の側面図であってリンク機構が縮小した状態を示している。
【図4】同装置の側面図であってリンク機構が伸張した状態を示している。
【図5】同装置が具備するハイト装置(シート高さ調節手段)の斜視図である。
【図6】ハイト装置の側面図である。
【図7】ハイト装置の平面図であって、(a)シートが低い状態、(b)シートが高い状態を示している。
【図8】ハイト装置のバルブ開閉作用を示す平面図である。
【図9】サスペンションアッパー方向ロック機構の円板ギヤの作用を説明するための平面図である。
【図10】ダイヤルで操作するシート高さの段数1〜9に対するサスペンションアッパー方向ロック機構が作動した際のシート停止高さ位置を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明に係る車両用エアサスペンション式シート支持装置(以下、シート支持装置)の一実施形態を説明する。
【0015】
(1)基本構成
図1は一実施形態のエアサスペンション式シート支持装置の全体を示す斜視図であり、図2は平面図、図3および図4は側面図である。このシート支持装置は、互いに平行なロアフレーム10およびアッパーフレーム20と、ロアフレーム10に対しアッパーフレーム20を上下動可能に支持するリンク機構30と、エアスプリング41と、オイルダンパ42と、バルブ70を有するハイト装置50とを備えたエアサスペンション1を主体としている。なお、参照図面で矢印Fは車両の前方、矢印Rは車両の後方を示している。
【0016】
アッパーフレーム20には、車両用シートのシートクッションが固定される。図1および図4で符号2は、シートクッションの右側のサイドフレームである。図3はエアサスペンション1が縮小してアッパーフレーム20が下がりシートが下方に位置付けられた状態を示し、図4はエアサスペンション1が伸張してアッパーフレーム20が上がりシートが上方に位置付けられた状態を示している。フレーム10,20間には、シートを介してアッパーフレーム20が上方から受ける荷重を受けるとともにアッパーフレーム20の高さを調節する上記エアスプリング41と、このエアスプリング41の振動を吸収する上記オイルダンパ42が配設されている。そして、アッパーフレーム20には、ハイト装置50と、このハイト装置50を作動させるダイヤル(操作部)61が設置されている。
【0017】
ロアフレーム10は、車両に組み込まれた状態で、車両の前後方向に延びる左右一対のレールメンバー11と、レールメンバー11の前端どうし、および後端どうしを連結する左右方向に延びる前後一対の横メンバー12とを備えている。ロアフレーム10は、車両のシャーシに対してほぼ水平な状態に固定される。また、ロアフレーム10の上方に平行に配設されたアッパーフレーム20もロアフレーム10と同様の構成であって、前後方向に延びる左右一対のレールメンバー21と、レールメンバー21の前端どうし、および後端どうしを連結する左右方向に延びる前後一対の横メンバー22とを備えている。レールメンバー21の中間には、左右方向に延びる補強メンバー23が架け渡されて固定されている。なお、以下の説明で前後・左右・上下といった方向は、当該シート支持装置が車両に組み込まれた状態での方向と定義する。
【0018】
リンク機構30は、2本のリンクバー31,32がリンク軸33を介してX状に組まれた左右一対のXリンク34を備えている。リンクバー31,32はリンク軸33を支点として相対回転自在とされている。
【0019】
左右のXリンク34の、前方に向かうにつれて上方に延びるように傾斜する前上がり側の各リンクバー31の後端(下端)は、左右方向に延びる後下側固定軸35を介して連結されているとともにロアフレーム10に回転自在に取り付けられている。また、前上がり側の各リンクバー31の前端(上端)は、左右方向に延びる前上側可動軸(位置伝達体)36を介して連結された状態となっている。
【0020】
一方、各Xリンク34の、前方に向かうにつれて下方に延びるように傾斜する前下がり側の各リンクバー32の後端(上端)は、左右方向に延びる後上側固定軸37を介して連結されているとともにアッパーフレーム20に回転自在に取り付けられている。また、これら前下がり側の各リンクバー32の前端(下端)は、左右方向に延びる前下側可動軸38を介して連結された状態となっている。
【0021】
前上側可動軸36は、両端に取り付けられたローラ36aを介して、アッパーフレーム20の左右のレールメンバー21に沿って前後方向に移動自在に支持されている。また、前下側可動軸38も同様に、両端に取り付けられたローラ38aを介して、ロアフレーム10の左右のレールメンバー11に沿って前後方向に移動自在に支持されている。
【0022】
リンク機構30は、上記のリンクバー31,32からなる左右一対のXリンク34、各固定軸35,37、ローラ36a,38aがそれぞれ両端に取り付けられた各可動軸36,38から構成されている。図1に示すように、左右のXリンク34にあっては、前上がり側のリンクバー31が前下がり側のリンクバー32の内側に配されている。エアサスペンション1は、後下側固定軸35を支点として、前上側可動軸36と後上側固定軸37が互いに接近しながら上方に移動してリンク機構30が立ち上がって伸張したり、前上側可動軸36と後上側固定軸37が互いに離間しながら下方に移動してリンク機構30が折り畳まれて縮小したりするように作動する。エアサスペンション1が上方に伸張する際には、各可動軸36,38は、レールメンバー11,21に沿って後方に移動して各固定軸35,37に接近し、エアサスペンション1が縮小する際には、レールメンバー11,21を前方に移動して各固定軸35,37から離間する。
【0023】
上記エアスプリング41は、ロアフレーム10内におけるリンク軸33の後側のスペースに配設されている。このエアスプリング41には、例えば車両のエアブレーキ装置を構成するエアコンプレッサ(空気供給源)から圧縮空気が供給されるようになっている。エアスプリング41は、空気が供給されると上方に膨出し、排気されると下方に縮小する。エアスプリング41の上方には、アッパーフレーム20の上下動に追従して上下動する受圧板13(図2および図4参照)が設置されており、この受圧板13にかかる上方からの荷重がエアスプリング41で受けられるようになっている。
【0024】
上記ハイト装置50は、上記空気供給源から送られる空気をエアスプリング41に供給したり、エアスプリング41内の空気を排出したりするバルブ70を有している。このバルブ70が給気状態になってエアスプリング41に空気が供給されると、上記受圧板13およびリンク機構30を介してアッパーフレーム20が上昇させられ、シートクッション(以下、単にシートと言う)が上昇するようになっている。また、バルブ70が排気状態になると、シートに着座する乗員の荷重によりエアスプリング41から空気が排出され、これによりシートが下降するようになっている。
【0025】
上記オイルダンパ42は、一端部が一方のXリンクの前上がり側のリンクバー31に固定された左右方向に延びるピン39aに、また、他端部が前下側可動軸38に取り付けられたブラケット39bに、それぞれ回転自在に装着されている。このオイルダンパ42によりエアスプリング41が作動した際に生じる振動が吸収され、エアサスペンション1の伸張・縮小の動作が緩衝されるようになっている。
【0026】
以上が、一実施形態のシート支持装置の基本構成である。このシート支持装置においては、アッパーフレーム20内におけるリンク軸33の前側のスペースに、バルブ70の開閉によってシート高さを調節するハイト装置50が配設されている。以下、このハイト装置50について説明する。
【0027】
(2)ハイト装置
図5に示すように、ハイト装置50は、アッパーフレーム20の前部下方に配設されたバルブフレーム51を有している。このバルブフレーム51は全体が前後方向に長い平面視長方形状で、前上側可動軸36の下方に水平に配されている。バルブフレーム51は、下板51Aの上方にスペースを空けて上板51Bが平行に組み合わされて互いに固定されたもので、下板51Aの立ち上がった前端部がアッパーフレーム20の前側の横メンバー22に固定され、下板51Aの後端部がブラケット52を介して補強メンバー23に固定されている。上板51Bには、前後方向に延びる長孔51bが形成されている。
【0028】
上記バルブ70は、バルブフレーム51の内部、すなわち下板51Aと上板51Bとの間のスペースの後部に配されている。バルブ70は、図6〜図8に示すように直方体状の筐体71を有しており、筐体71の内部には、図8に示すように常閉式の給気弁72および排気弁73が前後に配列されている。バルブ70の筐体71には、バルブフレーム51に設けられた前後方向に延びるガイドロッド53が貫通されており、バルブ70はこのガイドロッド53に沿って前後方向に摺動可能とされている。バルブ70はガイドロッド53に沿って前後方向に移動可能ではあるものの、ガイドロッド53に外装された圧縮コイルばね53aによって常に前方に付勢されている。
【0029】
バルブ70の右側(図8で上側)の側面の前側(図8で左側)には、給気弁72を開く給気弁棒72Aが突出しており、後側には、排気弁73を開く排気弁棒73Aが突出している。これら弁棒72A,73Aは常に右側に突出する方向に付勢されており、付勢力に抗して内部方向に押し込まれることによって給気弁72および排気弁73は開状態となる。また、バルブ70の左側の側面の前側には、上記空気供給源から圧縮空気をバルブ70内に導入する配管が接続される給気口72Bが設けられており、後側には、空気を排出して上記エアスプリング41に送出する配管が接続される排気口83Bが設けられている。
【0030】
バルブフレーム51内のバルブ70の上方には、第1カム(バルブ開閉手段)55が配されている。この第1カム55は、バルブ70の筐体71の上面におけるガイドロッド53よりも右側に設けられた第1カム軸55aに回転可能に支持されている。第1カム55は、図8に示すように前後対称の形状であって、第1カム軸55aが貫通する貫通孔55bを中心にして前方および後方に延びる前後の翼部55cと、貫通孔55bの右側に突出するカム部55dとを有している。前後の翼部55cは、前方および後方に向かうにしたがってともに斜め左側に延びている。これら翼部55cの基端部には、上下方向および左側に開放する円弧状の凹部55eが形成されており、この凹部55eに、上下方向に延びる位置伝達ピン56が係脱可能に係合するようになっている。カム部55dの先端は、円弧状の曲面に形成されている。
【0031】
位置伝達ピン56は、バルブフレーム51の上方に配されたホルダ57を介して上記前上側可動軸36に連結されている。したがって、位置伝達ピン56はエアサスペンション1の伸張・縮小に伴って前後移動する前上側可動軸36と一体に前後移動する。ホルダ57は、前上側可動軸36を軸に回転可能、かつ前上側可動軸36に沿って左右方向にスライド可能となっている。バルブフレーム51の上板51Bの上面であってホルダ57の両側には、左右一対のガイド壁部58A,58Bが設けられている。位置伝達ピン56が前後移動すると、第1カム55は位置伝達ピン56に押し引きされて図8に示すように第1カム軸55aを支点として回転する。第1カム55は図8(c)に示すようにカム部55dが左右方向に平行で前後対称の時が中立状態とされる。
【0032】
図8に示すように、バルブ70の筐体71における各弁棒72A.73Aの間には、第1カム軸55aと前後方向の位置が同じであって上下方向に延びる第2カム軸59aを介して、第2カム(バルブ開閉手段)59が回転可能に支持されている。この第2カム59は第1カム55と同様に前後対称な形状であって、第2カム軸59aの両側(前後)に、各弁棒72A.73Aの先端に対向し、かつ第2カム59の回転に応じて各弁棒72A.73Aを押す押し部59cがそれぞれ形成されている。
【0033】
第2カム59の左側の端部には、第1カム55のカム部55dの先端が摺動可能に嵌合する円弧状の凹部59bが形成されている。第1カム55が、図8(c)に示すように中立状態の時には第2カム59も中立状態となり、この時、前後の押し部59cは突出状態の各弁棒72A.73Aの先端に接触するのみの状態となる。そして、第1カム55が中立状態から図8で時計回りに回転すると、図8(b)に示すようにカム部55dに押されて第2カム59が第2カム軸59aを支点に反転させられ、給気弁棒72Aが押し部59cに押されてバルブ70は給気状態となる。また、第1カム55が中立状態から反時計回りに回転すると、図8(d)に示すようにカム部55dによって第2カム59が逆方向に反転させられ、排気弁棒73Aが押し部59cに押されてバルブ70は排気状態となる。
【0034】
図6および図7に示すように、バルブ70の筐体71の左側(図6および図7で下側)の後部には係止片71aが形成されており、この係止片71aに、後方に延びるケーブル81が係止されている。このケーブル81が引っ張られるとバルブ70は圧縮コイルばね53aに抗して後方に動かされ、ケーブル81による引っ張り力を緩めると圧縮コイルばね53aによってバルブ70は前方に移動する。ケーブル81の操作は、サイドフレーム2に取り付けられたダイヤル61を乗員が回転させることによってなされる。ダイヤル61には、回転操作を停止した位置で回転を停止させるブレーキ機構61aが設けられており、ダイヤル61の回転操作を停止するとケーブル81が固定されてバルブ70の前後移動が停止するようになされている。ケーブル81は、係止片71aから後方に延ばされた後、適宜に巻回されて取り回されてダイヤル61に係止されている。
【0035】
このようにケーブル81によってバルブ70が前後移動することによっても、バルブ70は給気や排気の状態になる。すなわち、バルブ70が前方に移動すると、第1カム軸55aが前方に移動するため第1カム55が図8(d)に示すように反時計回りに回転し、反転した第2カム59の押し部59cで排気弁棒73Aが押されてバルブ70は排気状態となる。また、バルブ70が後方に移動すると、第1カム軸55aが後方に移動するため第1カム55が図8(b)に示すように時計回りに回転し、反転した第2カム59の押し部59cで給気弁棒72Aが押されてバルブ70は給気状態となる。
【0036】
上記のように位置伝達ピン56はバルブ70に対し前後方向に相対的に移動し、これによって第1カム55を介して第2カム59が回転してバルブ70が開閉される。位置伝達ピン56は、図8(a)、(e)に示すようにバルブ70に対して前後に大きく相対移動した時には第1カム55の凹部55から抜け出て第1カム55の翼部55cの左側面である空走面55fを摺動する。この時、空走面55fは前後方向にほぼ沿った状態となって第1カム55は回転せず、したがって第2カム59によるそれ以上の各弁棒72A.73Aの押し動作は起こらないようになっている。
【0037】
ダイヤル61が取り付けられサイドフレーム2には、エアスプリング41に対する空気の供給・排出を強制的に、かつ急速に行うための給排気バルブ装置62が設けられている。この給排気バルブ装置62には、バルブ70に接続された給気側エアチューブ82と排気側エアチューブ83が接続されており、また、上記空気供給源から圧縮空気が供給される。給排気バルブ装置62によれば、バルブ操作部62aを給気側に操作すると給気側エアチューブ82を介して圧縮空気がバルブ70に送り込まれて上記給気弁72に作用し、バルブ70を介してエアスプリング41に空気が供給されてシートが上昇する。また、バルブ操作部62aを排気側に操作すると排気側エアチューブ83を介して圧縮空気がバルブ70に送り込まれて上記排気弁73に作用し、バルブ70を介してエアスプリング41から空気が排出され、シートが下降可能な状態になる。
【0038】
図6および図7に示すように、バルブ70の筐体71の後端部には、左右方向に延びる長孔(距離可変手段、円板ギヤ支持部)71bが形成されたステー部71cが突設されている。バルブフレーム51の上板51Bの上方には円板ギヤ(第1のロック部材)54が配されており、この円板ギヤ54に設けられた上下方向に延びる偏心した回転軸(距離可変手段)54aが、上板51Bの長孔51bを貫通してステー部71cの長孔71bに回転可能、かつ長孔71bに沿って摺動可能に組み込まれている。円板ギヤ54は上記ガイド壁部58A,58Bの間に配されており、左側のガイド壁部58Aの内面に形成された前後方向に延びるラックギヤ58aに噛み合っている。円板ギヤ54および回転軸54aはバルブ70と一体に前後移動し、前後移動する時には外周面の歯がラックギヤ58aに噛み合いながら、かつ、回転軸54aが長孔71bに沿って左右に移動しながら転動する。
【0039】
前上側可動軸36と位置伝達ピン56とを一体的に連結する上記ホルダ57は円板ギヤ54の前方に配されており、このホルダ57の後端には、円板ギヤ54の歯に噛合可能な左右方向に延びるラック状のロックギヤ(第2のロック部材)57aが設けられている。図7(a),(b)に示すように、ロックギヤ57aと円板ギヤ54との間には、前上側可動軸36の前後方向の位置に応じた所定の間隙が空くように設定されているが、エアサスペンション1が急激に伸張した場合には、前上側可動軸36が急激に後退してホルダ57のロックギヤ57aが円板ギヤ54に噛み合う。すると、回転する円板ギヤ54によって右側にスライドさせられたホルダ57がガイド壁部58Bに当たって前上側可動軸36のそれ以上の後退が規制される。これにによりエアサスペンション1がロックし、それ以上のシートの上昇が抑えられるようになっている。ホルダ57のロックギヤ57aと円板ギヤ54およびガイド壁部58Bにより、急激なシートの上昇を規制するサスペンションアッパー方向ロック機構が構成されている。
【0040】
本実施形態では、上記バルブフレーム51、第1カム55、第2カム59、サスペンションアッパー方向ロック機構(ロックギヤ57aと円板ギヤ54)およびバルブ70を主体として、ハイト装置50が構成されている。続いて、このハイト装置50の作用を説明する。
【0041】
(3)ハイト装置の機能
ハイト装置50によると、シートを所望の高さに設定することができる“シート高さ設定機能”と、シートの高さが自動的に一定高さに保たれる“シート高さ一定機能”を有している。
【0042】
(3−1)シート高さ設定機能
シート高さ設定機能は、ダイヤル61を回転させ、ケーブル81を介してバルブ70を前後方向に移動させることにより実行させることができる。すなわち、シートを高くしたい時には、ダイヤル61を、ケーブル81が引っ張られる方向(図1でU方向)に回転させる。すると、バルブ70が後方に移動させられる。これにより第1カム軸55aが後方に移動し、第1カム55が図8(b)に示すように時計回りに回転して反転した第2カム59の押し部59cで給気弁棒72Aが押され、バルブ70が給気状態となる。バルブ70が給気状態になるとエアスプリング41に空気が供給され、エアサスペンション1が上方に伸張してシートが上昇する。ダイヤル61の回転操作を止めると、シートはその時の高さに保持される。
【0043】
一方、シートを低くしたい時にはダイヤル61をD方向に逆回転させてケーブル81による引っ張り力を緩める。すると、バルブ70が圧縮コイルばね53aによって前方に移動させられる。これにより第1カム軸55aが前方に移動し、第1カム55が図8(d)に示すように反時計回りに回転して反転した第2カム59の押し部59cで排気弁棒73Aが押され、バルブ70が排気状態となる。バルブ70が排気状態になるとエアスプリング41内の空気がバルブ70から排出され、エアサスペンション1が下方に縮小してシートが下降する。ダイヤル61の回転操作を止めると、シートはその時の高さに保持される。
【0044】
(3−2)シート高さ一定機能
次に、シート高さ一定機能は、シートに乗員が着座した状態でシートが一定高さに保たれる機能である。すなわち、シートに乗員が着座すると、アッパーフレーム20から下方に荷重を受けたエアサスペンション1が下方に縮小し、これに伴って前上側可動軸36が前進する。すると、前上側可動軸36にホルダ57を介して連結されている位置伝達ピン56も前進する。
【0045】
位置伝達ピン56が前進すると、図8(b)に示すように第1カム55が中立状態から時計回りに回転し、カム部55dで押された第2カム59が第2カム軸59aを支点に反転させられ、給気弁棒72Aが押し部59cに押されてバルブ70が給気状態となる。これによりエアスプリング41に空気が供給され、エアサスペンション1が伸張してシートが上昇する。
【0046】
シートが上昇したら前上側可動軸36は後退し、今度は逆に図8(d)に示すように位置伝達ピン56で後方に押された第1カム55が反時計回りに回転する。これにより反転した第2カム59の押し部59cで排気弁棒73Aが押されて排気状態となり、エアスプリング41内の空気はバルブ70から排出され、エアサスペンション1が下方に縮小してシートが下降する。
【0047】
このようにリンク機構30の伸縮に追従してエアスプリング41に対する空気の供給/排出が繰り返されることにより、シートは上下に振動しながら自動的に一定高さに保たれる。シートが一定高さに保たれている時には、図8(c)に示すように第1カム55は中立となってエアスプリング41に対する給排気はほとんど行われない状態となる。
【0048】
また、サスペンションアッパー方向ロック機構によれば、シートから乗員が立ち上がって負荷が無くなった時、エアスプリング41の力でエアサスペンション1は上方に伸張してシートが上昇するが、ホルダ57のロックギヤ57aが円板ギヤ54に噛合することによりシートの上昇高さが規制される。このため、シートから乗員が立ち上がる際に急激にシートが上昇して乗員に当たるといった不快な動きが防止される。
【0049】
(4)ハイト装置の作用効果
次に、上記ハイト装置50で得られる作用効果を説明する。
【0050】
(4−1)配置の作用効果
本実施形態のハイト装置50はアッパーフレーム20の前部やや下方に配設されてアッパーフレーム20に支持されており、シート高さ調節の時にはアッパーフレーム20とともに上下動する。そして、バルブ70を前後移動させてシート高さ調節を行うダイヤル61、およびエアスプリング41に対する空気の供給・排出を強制的に、かつ急速に行うための給排気バルブ装置62も、サイドフレーム2を介してアッパーフレーム20に支持されている。
【0051】
そして、バルブ70とダイヤル61とをつなぐケーブル81、およびバルブ70と給排気バルブ装置62とをつなぐエアチューブ82,83は、アッパーフレーム20内あるいはアッパーフレーム20の近傍においてアッパーフレーム20と一体的に設置されている。このため、これらケーブル81やエアチューブ82,83はアッパーフレーム20の上下動の影響を受けない状態に安定して設置され、長さも最小限度で済む。その結果、ケーブル81やエアチューブ82,83を的確に機能させることができる。また、長さが短くて済むため、コストダウンが図られる。
【0052】
(4−2)第1カムの作用効果
バルブ70の各弁棒72A.73Aを押してバルブ70を開閉させる第2カム59は、第2カム軸59aを支点として回転し、その回転作用で押し部59cが各弁棒72A.73Aを押す構成であるが、この第2カム59は、位置伝達ピン56と、この位置伝達ピン56が係合している第1カム55が前後方向に相対移動することによって回転する第1カム55のカム部55dで押されることにより回転する。すなわち第2カム59は位置伝達ピン56から直接回転作用を受けず、第1カム55を介して回転させられる。
【0053】
この第1カム55が介在することにより、バルブ70に対する位置伝達ピン56の前後方向の相対移動量に対する第2カム59の回転量は、位置伝達ピン56によって第2カム59が直接回転させられる場合と比べると増幅される。したがって、押し部59cで押される弁棒72A.73Aの押され量も増幅して大きなものとなる。ちなみにその増幅量は、カム部55dが長いほど大きい。したがって第2カム59の押し部59cで各弁棒72A.73Aを確実に押すことができ、もってバルブ70の開閉動作が確実になされてシート高さの調節が確実に行われる。
【0054】
特に本実施形態では、リンク機構30はXリンク34で構成されており、このようなリンク機構30にあっては、可動軸36,38の前後移動量は伸張した状態と縮小した状態とでは、縮小状態の場合の方が小さい。例えば、エアサスペンション1が伸張してアッパーフレーム20が最高位置付近にある状態において前上側可動軸36の前後移動量が3mmに対しアッパーフレーム20の上下移動量が12mmだとした場合、エアサスペンション1が最も縮小してアッパーフレーム20が最低位置付近にある状態では、前後移動量が7mmで上下移動量が12mmになるといったように差が生じる。これはX型リンクの特性であり、換言すると、シート高さが低い場合ではシートの上下動が比較的鈍く、高い場合ではシートが比較的敏感に上下動するということである。
【0055】
しかして本実施形態では、位置伝達ピン56と第2カム59との間に第1カム55を介在させて第1カム55の作動量を増幅させる構成であるため、特にシート高さが低くて上下動が比較的鈍い場合であって位置伝達ピン56の相対的な前後移動量が小さい場合にも、第1カム55が確実に回転し、バルブ70の開閉動作が確実になされる。すなわち、X型のリンク機構30を用いたエアサスペンション1においてきわめて有効なバルブ作動構造となっている。
【0056】
(4−3)サスペンションアッパー方向ロック機構の作用効果
位置伝達ピン56とバルブ70とは前後方向に相対移動可能であり、相対移動した際に上記のようにバルブ70の開閉がなされてシート高さが一定とされる。したがって位置伝達ピン56と一体のホルダ57のロックギヤ57aとバルブ70に支持された円板ギヤ54との間隔(以下、ロック作動距離)は、サスペンションアッパー方向ロック機構が非作動時には一定であると考えられる。しかしながら円板ギヤ54の回転軸54aは偏心しているため、バルブ70の前後移動量に対して円板ギヤ54の移動量は変化する。すなわち、シート高さに応じてロック作動距離が変化する。
【0057】
その原理を図9により説明すると、円板ギヤ54の回転軸54aはバルブ70とともに前後移動するため、回転軸54aが円板ギヤ54の中心にある一般的な構成では、バルブ70の移動量=円板ギヤ54の移動量である。この状態ではロック作動距離はシート高さに関係なく一定である。ところが回転軸54aが中心より距離r偏心していると、円板ギヤ54の移動量はバルブ70の移動量+(中心からの偏心距離r×角度θ)となる。したがって、円板ギヤ54の移動量は角度θが180°の時に最大の2rの増加となる。
【0058】
このように円板ギヤ54はバルブ70の移動量に対して一定比率ではなく増大するように移動するため、シート高さによってロック作動距離が漸次変化する。この動作を利用して、本実施形態では、エアサスペンション1が最も縮小した低い位置でロック作動距離を最も短くし(図7(a))、シートが上昇するにつれてロック作動距離が長くなりエアサスペンション1が最も伸張した位置でロック作動距離を最も長くなる(図7(b))ように設定されている。この設定により、シート高さに関係なくロックギヤ57aが円板ギヤ54に噛み合うまでのサスペンションアッパー方向ロック機構の実質的な作動量をほぼ一定にすることができる。
【0059】
特に、シート高さが低い場合にシートが急激に上昇することは乗員にシートが当たりやすいため望ましくない。円板ギヤ54の回転軸54aが中心にある場合においてシート高さが低い状態では、ロック作動距離が比較的長いため、ロックギヤ57aが円板ギヤ54に噛み合うシート停止高さが目標高さよりも高くなりがちであり、逆にシート高さが高い場合にはシート停止高さが目標高さよりも低くなりがちである。
【0060】
図10は、ダイヤル61で操作するエアサスペンション高さの段数1〜9(1が最もシート高さが低く、9が最も高い)に対するサスペンションアッパー方向ロック機構が作動した際のシート停止高さ位置を示している。ここでは、目標停止高さに対し、円板ギヤ54の回転軸54aが中心である一般的な構成では、シート高さが低い場合には停止高さが低く、シート高さが高い場合には停止高さが低い。しかしながら回転軸54aを偏心させた実施形態では、どのシート高さにおいても停止高さが目標高さに一致あるいは近傍にあり、サスペンションアッパー方向ロック機構を好ましく作動させることができる。
【符号の説明】
【0061】
10…ロアフレーム
20…アッパーフレーム
30…リンク機構
36…前上側可動軸(位置伝達体)
41…エアスプリング
42…オイルダンパ
50…ハイト装置(シート高さ調節手段)
54…円板ギヤ(第1のロック部材)
54a…回転軸(距離可変手段)
55…第1カム(バルブ開閉手段)
56…位置伝達ピン
57a…ロックギヤ(第2のロック部材)
59…第2カム(バルブ開閉手段)
61…ダイヤル(操作部)
70…バルブ
71b…長孔(距離可変手段、円板ギヤ支持部)
81…ケーブル
82,82…エアチューブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が備えるシートをエアスプリングを用いて支持する車両用エアサスペンション式シート支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中型・大型トラックやバス等の大型自動車のブレーキ装置としてエアブレーキ装置が用いられているが、このエアブレーキ装置に供給する空気を、運転席等のシートのクッションに利用したエアサスペンション式シート支持装置が知られている(特許文献1,2等参照)。
【0003】
公知のエアサスペンション式シート支持装置は、シャーシ等の固定部材に固定されるロアフレームの上方にリンク機構を介してアッパーフレームが上下動可能に支持され、アッパーフレームに車両用シートのシートクッションが固定される構成が多い。リンク機構としては2本のリンクバーをX字状に組んだ伸縮自在なXリンクを左右一対の状態で備えたものが一般的であり、ロアフレームとアッパーフレームとの間に、シートに着座した乗員の荷重をアッパーフレームを介して受けるエアスプリングが配されている。そして、シートに入力される上下方向の振動に応じて、エアスプリングに空気を供給したり、エアスプリングから空気を排出したりするバルブが設けられており、このバルブの作用によって、シート高さ(シートクッションの着座面の高さ)が一定に保たれながら振動が吸収され、快適な乗り心地が得られるようになっている。
【0004】
従来のエアサスペンション式シート支持装置は、上記のバルブとエアサスペンションの組み合わせにより、乗員の体重が変化しても空気圧を利用してシート高さを自動的に一定に保持する機能(シート高さ一定機能)とともに、体格に合わせてシート高さを変更して設定することのできる機能(シート高さ設定機能)を有しているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2597171号公報
【特許文献2】特開平5−131869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のエアサスペンション式シート支持装置にあっては、シートから乗員が立ち上がる際に急激にシートが上昇して乗員に当たるといった不快な動きを防止するサスペンションアッパー方向ロック機構といったものを具備させている場合がある。この機構としては、サスペンションが上昇した時に、サスペンションの上下動に伴って前後方向に移動する可動軸の移動をロック部材で規制する構成のものがある。
【0007】
ところでX型のリンク機構にあっては、前後移動量に対する上下移動量のリンク比は上下位置によって異なり、縮小した下方位置の方が小さい。すなわち、シート高さが低い場合ではシートの上下動が比較的鈍く、高い場合ではシートが比較的敏感に上下動するということである。このため、可動軸とロック部材との間のロック作動距離が一定であると、シートの高さによって実質的なロック機構の作動量が異なり、シートが停止するまでのシート停止高さ(上昇したシートがロック機構により停止させられるまでの高さ)が一定にならず目標のシート停止高さでロック機構を作動させることができないという不満があった。
【0008】
よって本発明は、シート高さに応じて的確にサスペンションアッパー方向ロック機構が作動し、目標のシート停止高さでシートの上方への移動を規制することができる車両用エアサスペンション式シート支持装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用エアサスペンション式シート支持装置は、ロアフレームと、このロアフレームの上方に配され、車両用シートを支持するアッパーフレームと、前記ロアフレームに対して前記アッパーフレームを上下動可能に支持し、アッパーフレームの上下動に伴い水平方向に移動してサスペンション高さ位置を伝達する位置伝達体を有するX型のリンク機構と、空気供給源から空気が供給され、前記アッパーフレームが上方から受ける荷重を受けるとともに、アッパーフレームの高さを調節するエアスプリングと、このエアスプリングの振動を吸収するダンパと、前記位置伝達体に対して相対移動可能に設けられ前記エアスプリングに対する空気の供給・排出を行うバルブを有するとともに、前記相対移動が生じることによってこのバルブを開閉させるバルブ開閉手段を有する前記アッパーフレームの高さ位置を調節するシート高さ調節手段と、前記アッパーフレームに設置され、前記バルブを開閉させる操作部と、前記位置伝達体が前記バルブに接近する方向に移動した時、その移動を規制して前記リンク機構の作動をロックするサスペンションアッパー方向ロック機構とを備えた車両用エアサスペンション式シート支持装置において、前記サスペンションアッパー方向ロック機構は、前記バルブと一体に移動する第1のロック部材と、前記位置伝達体と一体に移動して第1のロック部材に対し相対的に近接し、かつ第1のロック部材に係合可能で、係合時に位置伝達体の移動を停止させる第2のロック部材と、前記リンク機構が縮小してサスペンション高さが低い状態からリンク機構が伸張してサスペンション高さが高くなるにつれて、第1のロック部材に対する第2のロック部材の距離を漸次長くする距離可変手段とを備えることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、第1のロック部材と第2のロック部材との間のロック作動距離が、リンク機構が縮小してシートが低い位置では短く、シートが上昇するにつれて長くなる。この設定とX型のリンク機構の組み合わせにより、シート高さに関係なくサスペンションアッパー方向ロック機構の実質的な作動量をほぼ一定にすることができ、結果として目標のシート停止高さでシートの上方への移動を規制することができる。
【0011】
本発明では、前記第1のロック部材は円板ギヤであり、前記第2のロック部材は円板ギヤに噛み合うギヤであり、前記距離可変手段は、円板ギヤに設けられた偏心した回転軸と、この回転軸を回転自在に、かつ円板ギヤをバルブの移動方向に沿って直線的に移動させ得るように支持する円板ギヤ支持部とを有していることを好ましい具体的形態としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シート高さに応じて的確にサスペンションアッパー方向ロック機構が作動し、目標のシート停止高さでシートの上方への移動を規制することができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るシート支持装置の全体を示す斜視図である。
【図2】同装置の平面図である。
【図3】同装置の側面図であってリンク機構が縮小した状態を示している。
【図4】同装置の側面図であってリンク機構が伸張した状態を示している。
【図5】同装置が具備するハイト装置(シート高さ調節手段)の斜視図である。
【図6】ハイト装置の側面図である。
【図7】ハイト装置の平面図であって、(a)シートが低い状態、(b)シートが高い状態を示している。
【図8】ハイト装置のバルブ開閉作用を示す平面図である。
【図9】サスペンションアッパー方向ロック機構の円板ギヤの作用を説明するための平面図である。
【図10】ダイヤルで操作するシート高さの段数1〜9に対するサスペンションアッパー方向ロック機構が作動した際のシート停止高さ位置を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明に係る車両用エアサスペンション式シート支持装置(以下、シート支持装置)の一実施形態を説明する。
【0015】
(1)基本構成
図1は一実施形態のエアサスペンション式シート支持装置の全体を示す斜視図であり、図2は平面図、図3および図4は側面図である。このシート支持装置は、互いに平行なロアフレーム10およびアッパーフレーム20と、ロアフレーム10に対しアッパーフレーム20を上下動可能に支持するリンク機構30と、エアスプリング41と、オイルダンパ42と、バルブ70を有するハイト装置50とを備えたエアサスペンション1を主体としている。なお、参照図面で矢印Fは車両の前方、矢印Rは車両の後方を示している。
【0016】
アッパーフレーム20には、車両用シートのシートクッションが固定される。図1および図4で符号2は、シートクッションの右側のサイドフレームである。図3はエアサスペンション1が縮小してアッパーフレーム20が下がりシートが下方に位置付けられた状態を示し、図4はエアサスペンション1が伸張してアッパーフレーム20が上がりシートが上方に位置付けられた状態を示している。フレーム10,20間には、シートを介してアッパーフレーム20が上方から受ける荷重を受けるとともにアッパーフレーム20の高さを調節する上記エアスプリング41と、このエアスプリング41の振動を吸収する上記オイルダンパ42が配設されている。そして、アッパーフレーム20には、ハイト装置50と、このハイト装置50を作動させるダイヤル(操作部)61が設置されている。
【0017】
ロアフレーム10は、車両に組み込まれた状態で、車両の前後方向に延びる左右一対のレールメンバー11と、レールメンバー11の前端どうし、および後端どうしを連結する左右方向に延びる前後一対の横メンバー12とを備えている。ロアフレーム10は、車両のシャーシに対してほぼ水平な状態に固定される。また、ロアフレーム10の上方に平行に配設されたアッパーフレーム20もロアフレーム10と同様の構成であって、前後方向に延びる左右一対のレールメンバー21と、レールメンバー21の前端どうし、および後端どうしを連結する左右方向に延びる前後一対の横メンバー22とを備えている。レールメンバー21の中間には、左右方向に延びる補強メンバー23が架け渡されて固定されている。なお、以下の説明で前後・左右・上下といった方向は、当該シート支持装置が車両に組み込まれた状態での方向と定義する。
【0018】
リンク機構30は、2本のリンクバー31,32がリンク軸33を介してX状に組まれた左右一対のXリンク34を備えている。リンクバー31,32はリンク軸33を支点として相対回転自在とされている。
【0019】
左右のXリンク34の、前方に向かうにつれて上方に延びるように傾斜する前上がり側の各リンクバー31の後端(下端)は、左右方向に延びる後下側固定軸35を介して連結されているとともにロアフレーム10に回転自在に取り付けられている。また、前上がり側の各リンクバー31の前端(上端)は、左右方向に延びる前上側可動軸(位置伝達体)36を介して連結された状態となっている。
【0020】
一方、各Xリンク34の、前方に向かうにつれて下方に延びるように傾斜する前下がり側の各リンクバー32の後端(上端)は、左右方向に延びる後上側固定軸37を介して連結されているとともにアッパーフレーム20に回転自在に取り付けられている。また、これら前下がり側の各リンクバー32の前端(下端)は、左右方向に延びる前下側可動軸38を介して連結された状態となっている。
【0021】
前上側可動軸36は、両端に取り付けられたローラ36aを介して、アッパーフレーム20の左右のレールメンバー21に沿って前後方向に移動自在に支持されている。また、前下側可動軸38も同様に、両端に取り付けられたローラ38aを介して、ロアフレーム10の左右のレールメンバー11に沿って前後方向に移動自在に支持されている。
【0022】
リンク機構30は、上記のリンクバー31,32からなる左右一対のXリンク34、各固定軸35,37、ローラ36a,38aがそれぞれ両端に取り付けられた各可動軸36,38から構成されている。図1に示すように、左右のXリンク34にあっては、前上がり側のリンクバー31が前下がり側のリンクバー32の内側に配されている。エアサスペンション1は、後下側固定軸35を支点として、前上側可動軸36と後上側固定軸37が互いに接近しながら上方に移動してリンク機構30が立ち上がって伸張したり、前上側可動軸36と後上側固定軸37が互いに離間しながら下方に移動してリンク機構30が折り畳まれて縮小したりするように作動する。エアサスペンション1が上方に伸張する際には、各可動軸36,38は、レールメンバー11,21に沿って後方に移動して各固定軸35,37に接近し、エアサスペンション1が縮小する際には、レールメンバー11,21を前方に移動して各固定軸35,37から離間する。
【0023】
上記エアスプリング41は、ロアフレーム10内におけるリンク軸33の後側のスペースに配設されている。このエアスプリング41には、例えば車両のエアブレーキ装置を構成するエアコンプレッサ(空気供給源)から圧縮空気が供給されるようになっている。エアスプリング41は、空気が供給されると上方に膨出し、排気されると下方に縮小する。エアスプリング41の上方には、アッパーフレーム20の上下動に追従して上下動する受圧板13(図2および図4参照)が設置されており、この受圧板13にかかる上方からの荷重がエアスプリング41で受けられるようになっている。
【0024】
上記ハイト装置50は、上記空気供給源から送られる空気をエアスプリング41に供給したり、エアスプリング41内の空気を排出したりするバルブ70を有している。このバルブ70が給気状態になってエアスプリング41に空気が供給されると、上記受圧板13およびリンク機構30を介してアッパーフレーム20が上昇させられ、シートクッション(以下、単にシートと言う)が上昇するようになっている。また、バルブ70が排気状態になると、シートに着座する乗員の荷重によりエアスプリング41から空気が排出され、これによりシートが下降するようになっている。
【0025】
上記オイルダンパ42は、一端部が一方のXリンクの前上がり側のリンクバー31に固定された左右方向に延びるピン39aに、また、他端部が前下側可動軸38に取り付けられたブラケット39bに、それぞれ回転自在に装着されている。このオイルダンパ42によりエアスプリング41が作動した際に生じる振動が吸収され、エアサスペンション1の伸張・縮小の動作が緩衝されるようになっている。
【0026】
以上が、一実施形態のシート支持装置の基本構成である。このシート支持装置においては、アッパーフレーム20内におけるリンク軸33の前側のスペースに、バルブ70の開閉によってシート高さを調節するハイト装置50が配設されている。以下、このハイト装置50について説明する。
【0027】
(2)ハイト装置
図5に示すように、ハイト装置50は、アッパーフレーム20の前部下方に配設されたバルブフレーム51を有している。このバルブフレーム51は全体が前後方向に長い平面視長方形状で、前上側可動軸36の下方に水平に配されている。バルブフレーム51は、下板51Aの上方にスペースを空けて上板51Bが平行に組み合わされて互いに固定されたもので、下板51Aの立ち上がった前端部がアッパーフレーム20の前側の横メンバー22に固定され、下板51Aの後端部がブラケット52を介して補強メンバー23に固定されている。上板51Bには、前後方向に延びる長孔51bが形成されている。
【0028】
上記バルブ70は、バルブフレーム51の内部、すなわち下板51Aと上板51Bとの間のスペースの後部に配されている。バルブ70は、図6〜図8に示すように直方体状の筐体71を有しており、筐体71の内部には、図8に示すように常閉式の給気弁72および排気弁73が前後に配列されている。バルブ70の筐体71には、バルブフレーム51に設けられた前後方向に延びるガイドロッド53が貫通されており、バルブ70はこのガイドロッド53に沿って前後方向に摺動可能とされている。バルブ70はガイドロッド53に沿って前後方向に移動可能ではあるものの、ガイドロッド53に外装された圧縮コイルばね53aによって常に前方に付勢されている。
【0029】
バルブ70の右側(図8で上側)の側面の前側(図8で左側)には、給気弁72を開く給気弁棒72Aが突出しており、後側には、排気弁73を開く排気弁棒73Aが突出している。これら弁棒72A,73Aは常に右側に突出する方向に付勢されており、付勢力に抗して内部方向に押し込まれることによって給気弁72および排気弁73は開状態となる。また、バルブ70の左側の側面の前側には、上記空気供給源から圧縮空気をバルブ70内に導入する配管が接続される給気口72Bが設けられており、後側には、空気を排出して上記エアスプリング41に送出する配管が接続される排気口83Bが設けられている。
【0030】
バルブフレーム51内のバルブ70の上方には、第1カム(バルブ開閉手段)55が配されている。この第1カム55は、バルブ70の筐体71の上面におけるガイドロッド53よりも右側に設けられた第1カム軸55aに回転可能に支持されている。第1カム55は、図8に示すように前後対称の形状であって、第1カム軸55aが貫通する貫通孔55bを中心にして前方および後方に延びる前後の翼部55cと、貫通孔55bの右側に突出するカム部55dとを有している。前後の翼部55cは、前方および後方に向かうにしたがってともに斜め左側に延びている。これら翼部55cの基端部には、上下方向および左側に開放する円弧状の凹部55eが形成されており、この凹部55eに、上下方向に延びる位置伝達ピン56が係脱可能に係合するようになっている。カム部55dの先端は、円弧状の曲面に形成されている。
【0031】
位置伝達ピン56は、バルブフレーム51の上方に配されたホルダ57を介して上記前上側可動軸36に連結されている。したがって、位置伝達ピン56はエアサスペンション1の伸張・縮小に伴って前後移動する前上側可動軸36と一体に前後移動する。ホルダ57は、前上側可動軸36を軸に回転可能、かつ前上側可動軸36に沿って左右方向にスライド可能となっている。バルブフレーム51の上板51Bの上面であってホルダ57の両側には、左右一対のガイド壁部58A,58Bが設けられている。位置伝達ピン56が前後移動すると、第1カム55は位置伝達ピン56に押し引きされて図8に示すように第1カム軸55aを支点として回転する。第1カム55は図8(c)に示すようにカム部55dが左右方向に平行で前後対称の時が中立状態とされる。
【0032】
図8に示すように、バルブ70の筐体71における各弁棒72A.73Aの間には、第1カム軸55aと前後方向の位置が同じであって上下方向に延びる第2カム軸59aを介して、第2カム(バルブ開閉手段)59が回転可能に支持されている。この第2カム59は第1カム55と同様に前後対称な形状であって、第2カム軸59aの両側(前後)に、各弁棒72A.73Aの先端に対向し、かつ第2カム59の回転に応じて各弁棒72A.73Aを押す押し部59cがそれぞれ形成されている。
【0033】
第2カム59の左側の端部には、第1カム55のカム部55dの先端が摺動可能に嵌合する円弧状の凹部59bが形成されている。第1カム55が、図8(c)に示すように中立状態の時には第2カム59も中立状態となり、この時、前後の押し部59cは突出状態の各弁棒72A.73Aの先端に接触するのみの状態となる。そして、第1カム55が中立状態から図8で時計回りに回転すると、図8(b)に示すようにカム部55dに押されて第2カム59が第2カム軸59aを支点に反転させられ、給気弁棒72Aが押し部59cに押されてバルブ70は給気状態となる。また、第1カム55が中立状態から反時計回りに回転すると、図8(d)に示すようにカム部55dによって第2カム59が逆方向に反転させられ、排気弁棒73Aが押し部59cに押されてバルブ70は排気状態となる。
【0034】
図6および図7に示すように、バルブ70の筐体71の左側(図6および図7で下側)の後部には係止片71aが形成されており、この係止片71aに、後方に延びるケーブル81が係止されている。このケーブル81が引っ張られるとバルブ70は圧縮コイルばね53aに抗して後方に動かされ、ケーブル81による引っ張り力を緩めると圧縮コイルばね53aによってバルブ70は前方に移動する。ケーブル81の操作は、サイドフレーム2に取り付けられたダイヤル61を乗員が回転させることによってなされる。ダイヤル61には、回転操作を停止した位置で回転を停止させるブレーキ機構61aが設けられており、ダイヤル61の回転操作を停止するとケーブル81が固定されてバルブ70の前後移動が停止するようになされている。ケーブル81は、係止片71aから後方に延ばされた後、適宜に巻回されて取り回されてダイヤル61に係止されている。
【0035】
このようにケーブル81によってバルブ70が前後移動することによっても、バルブ70は給気や排気の状態になる。すなわち、バルブ70が前方に移動すると、第1カム軸55aが前方に移動するため第1カム55が図8(d)に示すように反時計回りに回転し、反転した第2カム59の押し部59cで排気弁棒73Aが押されてバルブ70は排気状態となる。また、バルブ70が後方に移動すると、第1カム軸55aが後方に移動するため第1カム55が図8(b)に示すように時計回りに回転し、反転した第2カム59の押し部59cで給気弁棒72Aが押されてバルブ70は給気状態となる。
【0036】
上記のように位置伝達ピン56はバルブ70に対し前後方向に相対的に移動し、これによって第1カム55を介して第2カム59が回転してバルブ70が開閉される。位置伝達ピン56は、図8(a)、(e)に示すようにバルブ70に対して前後に大きく相対移動した時には第1カム55の凹部55から抜け出て第1カム55の翼部55cの左側面である空走面55fを摺動する。この時、空走面55fは前後方向にほぼ沿った状態となって第1カム55は回転せず、したがって第2カム59によるそれ以上の各弁棒72A.73Aの押し動作は起こらないようになっている。
【0037】
ダイヤル61が取り付けられサイドフレーム2には、エアスプリング41に対する空気の供給・排出を強制的に、かつ急速に行うための給排気バルブ装置62が設けられている。この給排気バルブ装置62には、バルブ70に接続された給気側エアチューブ82と排気側エアチューブ83が接続されており、また、上記空気供給源から圧縮空気が供給される。給排気バルブ装置62によれば、バルブ操作部62aを給気側に操作すると給気側エアチューブ82を介して圧縮空気がバルブ70に送り込まれて上記給気弁72に作用し、バルブ70を介してエアスプリング41に空気が供給されてシートが上昇する。また、バルブ操作部62aを排気側に操作すると排気側エアチューブ83を介して圧縮空気がバルブ70に送り込まれて上記排気弁73に作用し、バルブ70を介してエアスプリング41から空気が排出され、シートが下降可能な状態になる。
【0038】
図6および図7に示すように、バルブ70の筐体71の後端部には、左右方向に延びる長孔(距離可変手段、円板ギヤ支持部)71bが形成されたステー部71cが突設されている。バルブフレーム51の上板51Bの上方には円板ギヤ(第1のロック部材)54が配されており、この円板ギヤ54に設けられた上下方向に延びる偏心した回転軸(距離可変手段)54aが、上板51Bの長孔51bを貫通してステー部71cの長孔71bに回転可能、かつ長孔71bに沿って摺動可能に組み込まれている。円板ギヤ54は上記ガイド壁部58A,58Bの間に配されており、左側のガイド壁部58Aの内面に形成された前後方向に延びるラックギヤ58aに噛み合っている。円板ギヤ54および回転軸54aはバルブ70と一体に前後移動し、前後移動する時には外周面の歯がラックギヤ58aに噛み合いながら、かつ、回転軸54aが長孔71bに沿って左右に移動しながら転動する。
【0039】
前上側可動軸36と位置伝達ピン56とを一体的に連結する上記ホルダ57は円板ギヤ54の前方に配されており、このホルダ57の後端には、円板ギヤ54の歯に噛合可能な左右方向に延びるラック状のロックギヤ(第2のロック部材)57aが設けられている。図7(a),(b)に示すように、ロックギヤ57aと円板ギヤ54との間には、前上側可動軸36の前後方向の位置に応じた所定の間隙が空くように設定されているが、エアサスペンション1が急激に伸張した場合には、前上側可動軸36が急激に後退してホルダ57のロックギヤ57aが円板ギヤ54に噛み合う。すると、回転する円板ギヤ54によって右側にスライドさせられたホルダ57がガイド壁部58Bに当たって前上側可動軸36のそれ以上の後退が規制される。これにによりエアサスペンション1がロックし、それ以上のシートの上昇が抑えられるようになっている。ホルダ57のロックギヤ57aと円板ギヤ54およびガイド壁部58Bにより、急激なシートの上昇を規制するサスペンションアッパー方向ロック機構が構成されている。
【0040】
本実施形態では、上記バルブフレーム51、第1カム55、第2カム59、サスペンションアッパー方向ロック機構(ロックギヤ57aと円板ギヤ54)およびバルブ70を主体として、ハイト装置50が構成されている。続いて、このハイト装置50の作用を説明する。
【0041】
(3)ハイト装置の機能
ハイト装置50によると、シートを所望の高さに設定することができる“シート高さ設定機能”と、シートの高さが自動的に一定高さに保たれる“シート高さ一定機能”を有している。
【0042】
(3−1)シート高さ設定機能
シート高さ設定機能は、ダイヤル61を回転させ、ケーブル81を介してバルブ70を前後方向に移動させることにより実行させることができる。すなわち、シートを高くしたい時には、ダイヤル61を、ケーブル81が引っ張られる方向(図1でU方向)に回転させる。すると、バルブ70が後方に移動させられる。これにより第1カム軸55aが後方に移動し、第1カム55が図8(b)に示すように時計回りに回転して反転した第2カム59の押し部59cで給気弁棒72Aが押され、バルブ70が給気状態となる。バルブ70が給気状態になるとエアスプリング41に空気が供給され、エアサスペンション1が上方に伸張してシートが上昇する。ダイヤル61の回転操作を止めると、シートはその時の高さに保持される。
【0043】
一方、シートを低くしたい時にはダイヤル61をD方向に逆回転させてケーブル81による引っ張り力を緩める。すると、バルブ70が圧縮コイルばね53aによって前方に移動させられる。これにより第1カム軸55aが前方に移動し、第1カム55が図8(d)に示すように反時計回りに回転して反転した第2カム59の押し部59cで排気弁棒73Aが押され、バルブ70が排気状態となる。バルブ70が排気状態になるとエアスプリング41内の空気がバルブ70から排出され、エアサスペンション1が下方に縮小してシートが下降する。ダイヤル61の回転操作を止めると、シートはその時の高さに保持される。
【0044】
(3−2)シート高さ一定機能
次に、シート高さ一定機能は、シートに乗員が着座した状態でシートが一定高さに保たれる機能である。すなわち、シートに乗員が着座すると、アッパーフレーム20から下方に荷重を受けたエアサスペンション1が下方に縮小し、これに伴って前上側可動軸36が前進する。すると、前上側可動軸36にホルダ57を介して連結されている位置伝達ピン56も前進する。
【0045】
位置伝達ピン56が前進すると、図8(b)に示すように第1カム55が中立状態から時計回りに回転し、カム部55dで押された第2カム59が第2カム軸59aを支点に反転させられ、給気弁棒72Aが押し部59cに押されてバルブ70が給気状態となる。これによりエアスプリング41に空気が供給され、エアサスペンション1が伸張してシートが上昇する。
【0046】
シートが上昇したら前上側可動軸36は後退し、今度は逆に図8(d)に示すように位置伝達ピン56で後方に押された第1カム55が反時計回りに回転する。これにより反転した第2カム59の押し部59cで排気弁棒73Aが押されて排気状態となり、エアスプリング41内の空気はバルブ70から排出され、エアサスペンション1が下方に縮小してシートが下降する。
【0047】
このようにリンク機構30の伸縮に追従してエアスプリング41に対する空気の供給/排出が繰り返されることにより、シートは上下に振動しながら自動的に一定高さに保たれる。シートが一定高さに保たれている時には、図8(c)に示すように第1カム55は中立となってエアスプリング41に対する給排気はほとんど行われない状態となる。
【0048】
また、サスペンションアッパー方向ロック機構によれば、シートから乗員が立ち上がって負荷が無くなった時、エアスプリング41の力でエアサスペンション1は上方に伸張してシートが上昇するが、ホルダ57のロックギヤ57aが円板ギヤ54に噛合することによりシートの上昇高さが規制される。このため、シートから乗員が立ち上がる際に急激にシートが上昇して乗員に当たるといった不快な動きが防止される。
【0049】
(4)ハイト装置の作用効果
次に、上記ハイト装置50で得られる作用効果を説明する。
【0050】
(4−1)配置の作用効果
本実施形態のハイト装置50はアッパーフレーム20の前部やや下方に配設されてアッパーフレーム20に支持されており、シート高さ調節の時にはアッパーフレーム20とともに上下動する。そして、バルブ70を前後移動させてシート高さ調節を行うダイヤル61、およびエアスプリング41に対する空気の供給・排出を強制的に、かつ急速に行うための給排気バルブ装置62も、サイドフレーム2を介してアッパーフレーム20に支持されている。
【0051】
そして、バルブ70とダイヤル61とをつなぐケーブル81、およびバルブ70と給排気バルブ装置62とをつなぐエアチューブ82,83は、アッパーフレーム20内あるいはアッパーフレーム20の近傍においてアッパーフレーム20と一体的に設置されている。このため、これらケーブル81やエアチューブ82,83はアッパーフレーム20の上下動の影響を受けない状態に安定して設置され、長さも最小限度で済む。その結果、ケーブル81やエアチューブ82,83を的確に機能させることができる。また、長さが短くて済むため、コストダウンが図られる。
【0052】
(4−2)第1カムの作用効果
バルブ70の各弁棒72A.73Aを押してバルブ70を開閉させる第2カム59は、第2カム軸59aを支点として回転し、その回転作用で押し部59cが各弁棒72A.73Aを押す構成であるが、この第2カム59は、位置伝達ピン56と、この位置伝達ピン56が係合している第1カム55が前後方向に相対移動することによって回転する第1カム55のカム部55dで押されることにより回転する。すなわち第2カム59は位置伝達ピン56から直接回転作用を受けず、第1カム55を介して回転させられる。
【0053】
この第1カム55が介在することにより、バルブ70に対する位置伝達ピン56の前後方向の相対移動量に対する第2カム59の回転量は、位置伝達ピン56によって第2カム59が直接回転させられる場合と比べると増幅される。したがって、押し部59cで押される弁棒72A.73Aの押され量も増幅して大きなものとなる。ちなみにその増幅量は、カム部55dが長いほど大きい。したがって第2カム59の押し部59cで各弁棒72A.73Aを確実に押すことができ、もってバルブ70の開閉動作が確実になされてシート高さの調節が確実に行われる。
【0054】
特に本実施形態では、リンク機構30はXリンク34で構成されており、このようなリンク機構30にあっては、可動軸36,38の前後移動量は伸張した状態と縮小した状態とでは、縮小状態の場合の方が小さい。例えば、エアサスペンション1が伸張してアッパーフレーム20が最高位置付近にある状態において前上側可動軸36の前後移動量が3mmに対しアッパーフレーム20の上下移動量が12mmだとした場合、エアサスペンション1が最も縮小してアッパーフレーム20が最低位置付近にある状態では、前後移動量が7mmで上下移動量が12mmになるといったように差が生じる。これはX型リンクの特性であり、換言すると、シート高さが低い場合ではシートの上下動が比較的鈍く、高い場合ではシートが比較的敏感に上下動するということである。
【0055】
しかして本実施形態では、位置伝達ピン56と第2カム59との間に第1カム55を介在させて第1カム55の作動量を増幅させる構成であるため、特にシート高さが低くて上下動が比較的鈍い場合であって位置伝達ピン56の相対的な前後移動量が小さい場合にも、第1カム55が確実に回転し、バルブ70の開閉動作が確実になされる。すなわち、X型のリンク機構30を用いたエアサスペンション1においてきわめて有効なバルブ作動構造となっている。
【0056】
(4−3)サスペンションアッパー方向ロック機構の作用効果
位置伝達ピン56とバルブ70とは前後方向に相対移動可能であり、相対移動した際に上記のようにバルブ70の開閉がなされてシート高さが一定とされる。したがって位置伝達ピン56と一体のホルダ57のロックギヤ57aとバルブ70に支持された円板ギヤ54との間隔(以下、ロック作動距離)は、サスペンションアッパー方向ロック機構が非作動時には一定であると考えられる。しかしながら円板ギヤ54の回転軸54aは偏心しているため、バルブ70の前後移動量に対して円板ギヤ54の移動量は変化する。すなわち、シート高さに応じてロック作動距離が変化する。
【0057】
その原理を図9により説明すると、円板ギヤ54の回転軸54aはバルブ70とともに前後移動するため、回転軸54aが円板ギヤ54の中心にある一般的な構成では、バルブ70の移動量=円板ギヤ54の移動量である。この状態ではロック作動距離はシート高さに関係なく一定である。ところが回転軸54aが中心より距離r偏心していると、円板ギヤ54の移動量はバルブ70の移動量+(中心からの偏心距離r×角度θ)となる。したがって、円板ギヤ54の移動量は角度θが180°の時に最大の2rの増加となる。
【0058】
このように円板ギヤ54はバルブ70の移動量に対して一定比率ではなく増大するように移動するため、シート高さによってロック作動距離が漸次変化する。この動作を利用して、本実施形態では、エアサスペンション1が最も縮小した低い位置でロック作動距離を最も短くし(図7(a))、シートが上昇するにつれてロック作動距離が長くなりエアサスペンション1が最も伸張した位置でロック作動距離を最も長くなる(図7(b))ように設定されている。この設定により、シート高さに関係なくロックギヤ57aが円板ギヤ54に噛み合うまでのサスペンションアッパー方向ロック機構の実質的な作動量をほぼ一定にすることができる。
【0059】
特に、シート高さが低い場合にシートが急激に上昇することは乗員にシートが当たりやすいため望ましくない。円板ギヤ54の回転軸54aが中心にある場合においてシート高さが低い状態では、ロック作動距離が比較的長いため、ロックギヤ57aが円板ギヤ54に噛み合うシート停止高さが目標高さよりも高くなりがちであり、逆にシート高さが高い場合にはシート停止高さが目標高さよりも低くなりがちである。
【0060】
図10は、ダイヤル61で操作するエアサスペンション高さの段数1〜9(1が最もシート高さが低く、9が最も高い)に対するサスペンションアッパー方向ロック機構が作動した際のシート停止高さ位置を示している。ここでは、目標停止高さに対し、円板ギヤ54の回転軸54aが中心である一般的な構成では、シート高さが低い場合には停止高さが低く、シート高さが高い場合には停止高さが低い。しかしながら回転軸54aを偏心させた実施形態では、どのシート高さにおいても停止高さが目標高さに一致あるいは近傍にあり、サスペンションアッパー方向ロック機構を好ましく作動させることができる。
【符号の説明】
【0061】
10…ロアフレーム
20…アッパーフレーム
30…リンク機構
36…前上側可動軸(位置伝達体)
41…エアスプリング
42…オイルダンパ
50…ハイト装置(シート高さ調節手段)
54…円板ギヤ(第1のロック部材)
54a…回転軸(距離可変手段)
55…第1カム(バルブ開閉手段)
56…位置伝達ピン
57a…ロックギヤ(第2のロック部材)
59…第2カム(バルブ開閉手段)
61…ダイヤル(操作部)
70…バルブ
71b…長孔(距離可変手段、円板ギヤ支持部)
81…ケーブル
82,82…エアチューブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロアフレームと、
このロアフレームの上方に配され、車両用シートを支持するアッパーフレームと、
前記ロアフレームに対して前記アッパーフレームを上下動可能に支持し、アッパーフレームの上下動に伴い水平方向に移動してサスペンション高さ位置を伝達する位置伝達体を有するX型のリンク機構と、
空気供給源から空気が供給され、前記アッパーフレームが上方から受ける荷重を受けるとともに、アッパーフレームの高さを調節するエアスプリングと、
このエアスプリングの振動を吸収するダンパと、
前記位置伝達体に対して相対移動可能に設けられ前記エアスプリングに対する空気の供給・排出を行うバルブを有するとともに、前記相対移動が生じることによってこのバルブを開閉させるバルブ開閉手段を有する前記アッパーフレームの高さ位置を調節するシート高さ調節手段と、
前記アッパーフレームに設置され、前記バルブを開閉させる操作部と、
前記位置伝達体が前記バルブに接近する方向に移動した時、その移動を規制して前記リンク機構の作動をロックするサスペンションアッパー方向ロック機構と、
を備えた車両用エアサスペンション式シート支持装置において、
前記サスペンションアッパー方向ロック機構は、
前記バルブと一体に移動する第1のロック部材と、
前記位置伝達体と一体に移動して第1のロック部材に対し相対的に近接し、かつ第1のロック部材に係合可能で、係合時に位置伝達体の移動を停止させる第2のロック部材と、
前記リンク機構が縮小してサスペンション高さが低い状態からリンク機構が伸張してサスペンション高さが高くなるにつれて、第1のロック部材に対する第2のロック部材の距離を漸次長くする距離可変手段と、
を備えることを特徴とする車両用エアサスペンション式シート支持装置。
【請求項2】
前記第1のロック部材は円板ギヤであり、
前記第2のロック部材は円板ギヤに噛み合うギヤであり、
前記距離可変手段は、円板ギヤに設けられた偏心した回転軸と、この回転軸を回転自在に、かつ円板ギヤをバルブの移動方向に沿って直線的に移動させ得るように支持する円板ギヤ支持部とを有していること
を特徴とする請求項1に記載の車両用エアサスペンション式シート支持装置。
【請求項1】
ロアフレームと、
このロアフレームの上方に配され、車両用シートを支持するアッパーフレームと、
前記ロアフレームに対して前記アッパーフレームを上下動可能に支持し、アッパーフレームの上下動に伴い水平方向に移動してサスペンション高さ位置を伝達する位置伝達体を有するX型のリンク機構と、
空気供給源から空気が供給され、前記アッパーフレームが上方から受ける荷重を受けるとともに、アッパーフレームの高さを調節するエアスプリングと、
このエアスプリングの振動を吸収するダンパと、
前記位置伝達体に対して相対移動可能に設けられ前記エアスプリングに対する空気の供給・排出を行うバルブを有するとともに、前記相対移動が生じることによってこのバルブを開閉させるバルブ開閉手段を有する前記アッパーフレームの高さ位置を調節するシート高さ調節手段と、
前記アッパーフレームに設置され、前記バルブを開閉させる操作部と、
前記位置伝達体が前記バルブに接近する方向に移動した時、その移動を規制して前記リンク機構の作動をロックするサスペンションアッパー方向ロック機構と、
を備えた車両用エアサスペンション式シート支持装置において、
前記サスペンションアッパー方向ロック機構は、
前記バルブと一体に移動する第1のロック部材と、
前記位置伝達体と一体に移動して第1のロック部材に対し相対的に近接し、かつ第1のロック部材に係合可能で、係合時に位置伝達体の移動を停止させる第2のロック部材と、
前記リンク機構が縮小してサスペンション高さが低い状態からリンク機構が伸張してサスペンション高さが高くなるにつれて、第1のロック部材に対する第2のロック部材の距離を漸次長くする距離可変手段と、
を備えることを特徴とする車両用エアサスペンション式シート支持装置。
【請求項2】
前記第1のロック部材は円板ギヤであり、
前記第2のロック部材は円板ギヤに噛み合うギヤであり、
前記距離可変手段は、円板ギヤに設けられた偏心した回転軸と、この回転軸を回転自在に、かつ円板ギヤをバルブの移動方向に沿って直線的に移動させ得るように支持する円板ギヤ支持部とを有していること
を特徴とする請求項1に記載の車両用エアサスペンション式シート支持装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−213287(P2011−213287A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85118(P2010−85118)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】
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