説明

車両用キャブフロア構造

【課題】フロアパネルに対するシートの取付部分の強度向上を図り得ると共に、フロアメンバの強度向上を図り得る車両用キャブフロア構造を提供する。
【解決手段】断面U字状のフロアメンバ5の縦片5e,5fに、シート7を締結部材16,17にてフロアパネル6に固定するためのシート取付部材としての第一ブラケット18と第二ブラケット19とを固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用キャブフロア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、キャブオーバ型トラックのような大型車両においては、図4及び図5に示される如く、車両幅方向に所要間隔をあけて車両前後方向に延びるシャシフレーム1の上方に、キャブ2のフロントヒンジ3とリヤマウント4とをつなぐ断面U字状のフロアメンバ5を、前記シャシフレーム1と同様に、車両幅方向に所要間隔をあけて車両前後方向に延びるよう配設し、該フロアメンバ5上にフロアパネル6を載置するようになっている。
【0003】
尚、前記フロアメンバ5は、水平方向へ延びるフロント水平部5aと、該フロント水平部5aの後端から斜め上方へ立ち上がる立ち上がり部5bと、該立ち上がり部5bの後端から水平方向へ延びるリヤ水平部5cとを有しているが、前記立ち上がり部5bを有さずに略水平に延びる形式のものもある。
【0004】
そして、前記フロアパネル6上には、図6に示される如く、シート7をスプリング8及びダンパ9を用いたシートサスペンション10とベースフレーム11とを介して固定するようになっており、乗員を保護するためのシートベルト12は、前記フロアパネル6及びキャブ2のボディ内壁面13に取り付けられるタイプのものがあった。
【0005】
但し、図6に示される如く、前記シートベルト12がフロアパネル6及びキャブ2のボディ内壁面13に取り付けられるタイプの場合、前記シートサスペンション10の伸縮に伴ってシート7が上下移動すると、シートベルト12はフロアパネル6及びキャブ2のボディ内壁面13に固定されているため、該シートベルト12によって乗員が強く圧迫されるように締め付けられる形となり、乗り心地が悪くなる場合があった。
【0006】
これに対し、図7に示される如く、前記シートベルト12がシート7に取り付けられるタイプのものでは、前記シートサスペンション10の伸縮に伴ってシート7が上下移動しても、該シート7の動きと連動してシートベルト12も動けるため、該シートベルト12によって乗員が強く圧迫されるように締め付けられることはなく、乗り心地を向上させることが可能となる。
【0007】
尚、図4及び図5に示されるような車両用キャブフロア構造の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−203460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記シート7のフロアパネル6に対する取り付けに関して従来は、図8に示される如く、シート取付部材としてのブラケット14をフロアパネル6上面にスポット溶接にて接合し、該ブラケット14に対し前記シート7のベースフレーム11の後端部をボルト・ナット等の締結部材15にて固定すると共に、該ベースフレーム11の前端部についても前記後方のブラケット14と同様に前方に配置されたシート取付部材としてのブラケット(図示せず)に対しボルト・ナット等の締結部材(図示せず)にて固定するようになっているが、衝突時には、前記前方に配置された図示していないブラケットを中心としてシート7が前方へ倒れ込む方向のモーメントがシート7に作用するため、特に前記後方のブラケット14に過大な荷重が加わって該ブラケット14がフロアパネル6上面から剥離してしまう虞があった。
【0010】
一方、衝突時に前方からキャブ2に対し衝撃荷重が加わった場合、前記フロアメンバ5のフロント水平部5aと立ち上がり部5bとの曲り部5dに応力が集中して該曲り部5dがV字状に折れ曲がることがあり、このようにフロント水平部5aと立ち上がり部5bとの曲り部5dがV字状に変形した場合には、前記フロント水平部5aの上に設けられるシート7周辺の空間、即ち乗員のための空間が縮小することになるため、前記フロアメンバ5のフロント水平部5aと立ち上がり部5bとの曲り部5dにおける強度を高めることは非常に重要となっていた。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、フロアパネルに対するシートの取付部分の強度向上を図り得ると共に、フロアメンバの強度向上を図り得る車両用キャブフロア構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、キャブのフロントヒンジとリヤマウントとをつなぐ断面U字状のフロアメンバを、車両幅方向に所要間隔をあけて配設し、該フロアメンバ上にフロアパネルを載置し、該フロアパネル上にシートを固定するようにした車両用キャブフロア構造において、
前記フロアメンバの縦片に、前記シートを締結部材にてフロアパネルに固定するためのシート取付部材を固着したことを特徴とする車両用キャブフロア構造にかかるものである。
【0013】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0014】
前述の如く構成すると、従来のように、シート取付部材としてのブラケットをフロアパネル上面にスポット溶接にて接合し、該ブラケットに対し前記シートのベースフレームの後端部を締結部材にて固定する場合に、フロアパネルとブラケットとの合せ部に剥離荷重が入力されるのとは異なり、衝突時に、シートが前方へ倒れ込む方向のモーメントがシートに作用したとしても、前記シートを締結部材にてフロアパネルに固定するためのシート取付部材は、断面U字状のフロアメンバの剛性の高い縦片に固着されているため、又、該フロアメンバの縦片における剪断応力によって前記モーメントに伴う荷重を受けることが可能となるため、強度的に有利となって、前記シート取付部材が剥離する心配もない。
【0015】
しかも、前記シート取付部材は、フロアパネルの下面に配設されるため、乗員のための空間に突出せず、邪魔にならないことに加え、形状的に自由度を確保することが可能となる。
【0016】
前記車両用キャブフロア構造においては、前記フロアメンバは、水平方向へ延びるフロント水平部と、該フロント水平部の後端から斜め上方へ立ち上がる立ち上がり部と、該立ち上がり部の後端から水平方向へ延びるリヤ水平部とを有し、前記シート取付部材は、前記フロント水平部と立ち上がり部との曲り部に配設されるようにすることができ、このようにすると、衝突時に前方からキャブに対し衝撃荷重が加わった場合、前記フロアメンバのフロント水平部と立ち上がり部との曲り部に応力が集中するが、前記シート取付部材を前記フロント水平部と立ち上がり部との曲り部に配設したことにより、該曲り部における強度が高められているため、該曲り部がV字状に折れ曲がることはなく、この結果、前記フロント水平部の上に設けられるシート周辺の空間、即ち乗員のための空間が縮小することが避けられ、非常に有効となる。
【0017】
又、前記車両用キャブフロア構造においては、前記シート取付部材は、前記断面U字状のフロアメンバの内部に縦片間をつなぐように配設される第一ブラケットとすることができる。
【0018】
更に又、前記車両用キャブフロア構造においては、前記シート取付部材は、前記断面U字状のフロアメンバの縦片における車両幅方向外側面に接合される第二ブラケットとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用キャブフロア構造によれば、フロアパネルに対するシートの取付部分の強度向上を図り得ると共に、フロアメンバの強度向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の車両用キャブフロア構造の実施例を示す概要正面図である。
【図2】本発明の車両用キャブフロア構造の実施例におけるシート取付部材を示す斜視図である。
【図3】図1のIII−III断面相当図である。
【図4】一般的なキャブオーバ型トラックのキャブフロア構造の一例を示す側断面図である。
【図5】シャシフレーム、フロアメンバ及びフロアパネルの関係を示す分解斜視図である。
【図6】シートベルトがフロアパネル及びキャブのボディ内壁面に取り付けられるタイプを示す概略正面図である。
【図7】シートベルトがシートに取り付けられるタイプを示す概略正面図である。
【図8】従来のシート取付部材を示す側断面図であって、図7のVIII−VIII断面相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0022】
図1〜図3は本発明の車両用キャブフロア構造の実施例であって、図中、図4〜図8と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図4〜図8に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、図1〜図3に示す如く、断面U字状のフロアメンバ5の縦片5e,5fに、シート7をボルト・ナット等の締結部材16,17にてフロアパネル6に固定するためのシート取付部材としての第一ブラケット18と第二ブラケット19とを固着した点にある。
【0023】
本実施例の場合、前記シート取付部材としての第一ブラケット18と第二ブラケット19は、前記フロント水平部5aと立ち上がり部5bとの曲り部5dに配設してある。
【0024】
又、前記シート取付部材としての第一ブラケット18は、フロアパネル6の下面に沿い且つ前記締結部材16の貫通孔18eが穿設された平坦部18aと、該平坦部18aの端縁から車両幅方向に下り勾配で傾斜するように延びる傾斜部18bと、前記平坦部18aの反傾斜部18b側の端縁から段階的に連続して屈曲形成されたフランジ部18cと、前記傾斜部18bの反平坦部18a側の端縁から垂下するよう屈曲形成されたフランジ部18dとを備え、前記フランジ部18cとフランジ部18dとをそれぞれ前記断面U字状のフロアメンバ5の縦片5e,5f内面に密着させつつ図1に示す如く溶接20,21にて固着することにより、該縦片5e,5f間をつなぐように前記第一ブラケット18は配設してある。
【0025】
更に又、前記シート取付部材としての第二ブラケット19は、フロアパネル6の下面に沿い且つ前記締結部材17の貫通孔19dが穿設された平坦部19aと、該平坦部19aの車両前後方向の両端縁からそれぞれ垂下するように延び且つその高さ寸法が前記フロアメンバ5側へ向け漸次増加する三角形状の脚板部19bと、該脚板部19bのフロアメンバ5側の端縁から該フロアメンバ5の縦片5fに沿って張り出すフランジ部19cとを備え、該フランジ部19cを前記断面U字状のフロアメンバ5の縦片5fにおける車両幅方向外側面に密着させつつ図3に示す如く溶接22にて固着することにより、該縦片5fにおける車両幅方向外側面に前記第二ブラケット19は接合してある。
【0026】
尚、前記フロアパネル6の下面に配設される前記シート取付部材としての第一ブラケット18と第二ブラケット19とに対し、前記シート7のベースフレーム11の後端部を図3に示す如くボルト・ナット等の締結部材16,17にて固定すると共に、該ベースフレーム11の前端部については従来と同様に前方に配置されたシート取付部材としてのブラケット(図示せず)に対しボルト・ナット等の締結部材(図示せず)にて固定するようにしてある。
【0027】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0028】
前述の如く構成すると、図8に示される従来のように、シート取付部材としてのブラケット14をフロアパネル6上面にスポット溶接にて接合し、該ブラケット14に対し前記シート7のベースフレーム11の後端部をボルト・ナット等の締結部材15にて固定する場合に、フロアパネル6とブラケット14との合せ部に剥離荷重が入力されるのとは異なり、衝突時に、前方に配置された図示していないブラケットを中心としてシート7が前方へ倒れ込む方向のモーメントがシート7に作用したとしても、前記シート7をボルト・ナット等の締結部材16,17にてフロアパネル6に固定するためのシート取付部材としての第一ブラケット18と第二ブラケット19は、断面U字状のフロアメンバ5の剛性の高い縦片5e,5fに固着されているため、又、該フロアメンバ5の縦片5e,5fにおける剪断応力によって前記モーメントに伴う荷重を受けることが可能となるため、強度的に有利となって、前記シート取付部材としての第一ブラケット18や第二ブラケット19が剥離する心配もない。
【0029】
一方、衝突時に前方からキャブ2に対し衝撃荷重が加わった場合、前記フロアメンバ5のフロント水平部5aと立ち上がり部5bとの曲り部5dに応力が集中するが、前記シート取付部材としての第一ブラケット18と第二ブラケット19は、前記フロント水平部5aと立ち上がり部5bとの曲り部5dに配設され、該曲り部5dにおける強度が高められているため、該曲り部5dがV字状に折れ曲がることはなく、この結果、前記フロント水平部5aの上に設けられるシート7周辺の空間、即ち乗員のための空間が縮小することが避けられ、非常に有効となる。
【0030】
しかも、前記シート取付部材としての第一ブラケット18と第二ブラケット19は、フロアパネル6の下面に配設されるため、前記乗員のための空間に突出せず、邪魔にならないことに加え、形状的に自由度を確保することが可能となる。
【0031】
こうして、フロアパネル6に対するシート7の取付部分の強度向上を図り得ると共に、フロアメンバ5の強度向上を図り得る。
【0032】
尚、本発明の車両用キャブフロア構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
2 キャブ
3 フロントヒンジ
4 リヤマウント
5 フロアメンバ
5a フロント水平部
5b 立ち上がり部
5c リヤ水平部
5d 曲り部
5e 縦片
5f 縦片
6 フロアパネル
7 シート
11 ベースフレーム
12 シートベルト
13 ボディ内壁面
16 締結部材
17 締結部材
18 第一ブラケット(シート取付部材)
19 第二ブラケット(シート取付部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブのフロントヒンジとリヤマウントとをつなぐ断面U字状のフロアメンバを、車両幅方向に所要間隔をあけて配設し、該フロアメンバ上にフロアパネルを載置し、該フロアパネル上にシートを固定するようにした車両用キャブフロア構造において、
前記フロアメンバの縦片に、前記シートを締結部材にてフロアパネルに固定するためのシート取付部材を固着したことを特徴とする車両用キャブフロア構造。
【請求項2】
前記フロアメンバは、水平方向へ延びるフロント水平部と、該フロント水平部の後端から斜め上方へ立ち上がる立ち上がり部と、該立ち上がり部の後端から水平方向へ延びるリヤ水平部とを有し、前記シート取付部材は、前記フロント水平部と立ち上がり部との曲り部に配設される請求項1記載の車両用キャブフロア構造。
【請求項3】
前記シート取付部材は、前記断面U字状のフロアメンバの内部に縦片間をつなぐように配設される第一ブラケットである請求項1又は2記載の車両用キャブフロア構造。
【請求項4】
前記シート取付部材は、前記断面U字状のフロアメンバの縦片における車両幅方向外側面に接合される第二ブラケットである請求項1〜3のいずれか一つに記載の車両用キャブフロア構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−162120(P2011−162120A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29093(P2010−29093)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】