説明

車両用キャリパブレーキ装置

【課題】制輪子本来の制動力を発揮できる車両用キャリパブレーキ装置を提供する。
【解決手段】制輪子7をディスク6に押し付けるアクチュエータ60を備え、このアクチュエータ60は、キャリパ本体10に形成されるシリンダ80と、このシリンダ80に取り付けられる弾性膜75と、シリンダ80とこの弾性膜75の間に画成され制動時に空気圧(流体圧)が供給される弾性膜室63と、弾性膜75と制輪子7の間に介装される押圧プレート65とを備え、制動時にこの弾性膜室63に導かれる空気圧(流体圧)により弾性膜75が膨らんでこの押圧プレート65が制輪子7をディスク6に押し付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪と共に回転するディスクを挟んで摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道車両の油圧ブレーキは空気圧源から供給される空気圧を油圧に変換する空油変換器を搭載し、この空油変換器から油圧配管を介して供給される油圧により油圧ブレーキを作動させるようになっている。
【0003】
近年、鉄道車両に空気圧源から供給される空気圧により作動する空気圧ブレーキを搭載して、上記の空油変換器と油圧配管を廃止することが望まれている。
【0004】
特許文献1、2には、油圧シリンダに供給される油圧によって制輪子を押圧作動する鉄道車両用ブレーキ装置が開示されている。
【0005】
特許文献3には、エアチャンバを用いたアクチュエータに供給される空気圧によって制輪子を押圧作動する鉄道車両用ブレーキ装置が開示されている。
【特許文献1】特開平8−226469号公報
【特許文献2】特開平8−226471号公報
【特許文献3】特開平11−193835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の鉄道車両用ブレーキ装置にあっては、油圧シリンダまたはアクチュエータが制輪子全体を押圧するのではなく、制輪子の一部を押圧するため、この押し付け反力によってキャリパ本体が撓んだり、ディスクの回転面に変形が生じた場合に、制輪子の局部的な温度上昇が生じることによって制輪子の摩擦係数が低下し、制輪子本来の制動力を発揮できず、制輪子の偏摩耗が生じるという問題点があった。
【0007】
また、特許文献3の図6に示されるテコ式空気圧ブレーキの場合は、テコの軸受部に働く摩擦力等の影響により制輪子をディスクと平行に押すことが困難であり、制輪子の偏摩耗が生じるという問題点があった。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、制輪子本来の制動力を発揮できる車両用キャリパブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両用キャリパブレーキ装置において、車輪と共に回転するディスクと、このディスクを挟んで摩擦力を付与する左右の制輪子と、車体に支持されるキャリパ本体と、このキャリパ本体に制輪子をディスクに対して進退可能に支持する対のアンカピンと、制輪子をディスクに押し付けるアクチュエータとを備え、このアクチュエータは、キャリパ本体に取り付けられる弾性膜と、この弾性膜によって画成される弾性膜室と、弾性膜と制輪子の間に介装される押圧プレートとを備え、制動時に弾性膜室に導かれる流体圧により弾性膜が膨らんでこの押圧プレートが制輪子をディスクに押し付ける構成としたことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、弾性膜が膨らんで押圧プレートから突出した複数のピストンが制輪子をディスクの回転面に押し付けることにより、この押し付け反力によってキャリパ本体が撓んだり、ディスクの回転面に変形が生じた場合に、これに弾性膜が追従して制輪子がディスクの回転面に対して均一な面圧を持ってディスクと平行に押し付けられる。これにより、制輪子の摩擦係数が高く保たれ、制輪子本来の制動力が発揮され、制輪子やディスクの局部的な温度上昇が抑えられることによって制輪子やディスクの偏摩耗を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1はキャリパブレーキ装置1の平面図であり、図3は側面図である。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平横方向、Y軸が鉛直方向、Z軸が水平前後方向に延びるものとし、キャリパブレーキ装置1の構成を説明する。
【0013】
キャリパブレーキ装置1は、対の制輪子7の間に車輪5のディスク6を挟持し、車輪5の回転を制動するものである。
【0014】
図1において、20は鉄道車両の図示しない台車上に固定される支持枠である。図3に示すように、キャリパブレーキ装置1はキャリパ本体10がこの支持枠20に上下スライドピン30、32によってX軸方向に摺動可能にフローティング支持される。
【0015】
図2は上スライドピン30まわりの断面図である。この図2に示すように、キャリパ本体10の各ブラケット部15、16に上スライドピン30の両端部が支持され、上スライドピン30と支持枠20との間にゴム製のブッシュ33が介装され、支持枠20に対してキャリパ本体10をX軸方向に摺動可能にフローティング支持するとともに、支持枠20に対してキャリパ本体10をZ軸まわりに揺動可能に支持する。これにより、キャリパ本体10は台車に対する車輪5の揺動に追従し、各制輪子7が車輪5のディスク6に平行に対峙する。
【0016】
各ブラケット部15、16と支持枠20との間にはゴム製のブーツ34が介装され、このブーツ34によって上下スライドピン30、32の露出部がダストから保護される。
【0017】
キャリパ本体10は、車輪5のディスク6に跨るようにして延びる第一、第二キャリパアーム12、14と、この第一、第二キャリパアーム12、14を結ぶヨーク部13とを有する。
【0018】
図4は図3のA−A線に沿う制輪子7と第一キャリパアーム12等の断面図である。この図4に示すように、第一キャリパアーム12の上下端部にアジャスタ41がアンカボルト42を介してそれぞれ締結され、このアジャスタ41から突出するアンカピン43を介して制輪子7の両端部が支持される。
【0019】
アジャスタ41はアンカピン43を介して制輪子7をディスク6から離す方向に付勢する戻しバネ44と、制動解除時に制輪子7とディスク6の隙間を略一定に調整する隙間調整機構45を備える。ブレーキ解除時に制輪子7は戻しバネ44の付勢力によってディスク6から離され、隙間調整機構45によってディスク6との隙間が略一定に調整される。
【0020】
制輪子7は案内板8を介して取り付けられる。この案内板8は、その上下端部が各アンカピン43に係合し、各アンカピン43を介してディスク6に対して進退可能に支持され、弾性膜75の拡縮作動によってディスク6に対して進退するように駆動される。
【0021】
制輪子7は、ディスク6に摺接するライニング9と、このライニング9が取り付けられるライニング背板97と、ライニング背板97に取り付けられるライニング裏板91とを備える。
【0022】
案内板8は、上下方向(Y軸方向)に延びるアリ溝を有し、このアリ溝にライニング裏板91が嵌合する。制輪子7の装着時に、下のアジャスタ41をキャリパ本体10から取り外した状態で、案内板8のアリ溝にライニング裏板91を下方から差し込み、その後、下のアジャスタ41をキャリパ本体10に2本のアンカボルト42を介して締結する。これにより、ライニング裏板91の両端部が各アジャスタ41から突出するアンカピン43に係合し、制輪子7がY軸方向について支持される。
【0023】
第一キャリパアーム12の上下端部にアジャスタ41がアンカボルト42を介してそれぞれ締結され、このアジャスタ41から突出するアンカピン43を介して制輪子7の両端部が支持される。
【0024】
図1に示すように、第一キャリパアーム12側のみにアクチュエータ60が設けられる。
【0025】
図4に示すように、アクチュエータ60は、各アジャスタ41の間に配置される。第一キャリパアーム12の上下端部にはアジャスタ41が介装されるアジャスタ取付凹部12a、12bが形成され、シリンダ80はこのアジャスタ取付凹部12a、12bの間に形成される。
【0026】
アクチュエータ60は、第一キャリパアーム12のキャリパ部12fに形成されるシリンダ80と、このシリンダ80に取り付けられる弾性膜75と、シリンダ80に締結されるカバー92と、シリンダ80とこの弾性膜75とこのカバー92の間に画成される弾性膜室63とを備え、この弾性膜室63に導かれる空気圧により弾性膜75が制輪子7をX軸方向に押圧し、制輪子7をディスク6に押し付ける。
【0027】
図4に示すように、シリンダ80は弾性膜室63に沿ってX軸方向に延びる筒面状のシリンダ側壁82と、弾性膜75の周縁部76が取り付けられる環状の取付座81とを有する。取付座81はY軸とZ軸方向に延びる平面状に形成される。
【0028】
板状のカバー92は取付座81と同じく略長円形の外形を有し、取付座81と同じく制輪子7の中心線Ozについて対称的に形成される。
【0029】
取付座81には複数のネジ穴が所定の間隔を持って形成され、各ネジ穴に螺合するボルト84を介してカバー92が締結される。取付座81とカバー92との間に弾性膜75の周縁部76が挟持される。
【0030】
図3に示すように、キャリパ本体10のシリンダ側壁82は、制輪子7のライニング9に沿って湾曲して延びる前後の湾曲壁部82c、82dと、この前後の湾曲壁部82c、82dを結んで円弧状に延びる上下の円弧状壁部82a、82bとを有する。これにより、シリンダ側壁82の内側に弾性膜75によって画成される弾性膜室63は制輪子7のライニング9に対して広い範囲で対峙している。
【0031】
前後の湾曲壁部82c、82dは弾性膜室63に対して凹状に湾曲し、両者は互いに制輪子7の中心線Ozについて対称的に形成される。
【0032】
弾性膜75は樹脂製弾性材によって形成され、取付座81とカバー92との間に挟持される周縁部76と、シリンダ側壁82に沿って伸縮するベローズ部77と、制輪子7に対峙する押圧部79とを有する。弾性膜室63に導かれる空気圧力によってベローズ部77が伸張して押圧部79が制輪子7を押圧するようになっている。
【0033】
なお、弾性膜75は樹脂製弾性材に例えばカーボン繊維、ケブラー繊維等の強化材を複合したものを用いてベローズを形成しても良い。また、弾性膜を金属薄板からなるベローズやゴム製チューブやダイヤフラムを用いて形成しても良い。
【0034】
弾性膜75の押圧部79と制輪子7の間に押圧プレート65が介装され、この押圧プレート65が弾性膜75の動きを制輪子7に伝達する構成とする。
【0035】
押圧プレート65はY軸とZ軸方向に延びる板状に形成され、制輪子7に対して開口する複数の溝66を有する。
【0036】
弾性膜75の押圧部79の背面に取り付けられる補強プレート62が設けられる。補強プレート62と押圧プレート65とは弾性膜75の押圧部79を挟持し、複数のボルト59を介して締結される。補強プレート62は押圧プレート65と同じ形状を有する板状に形成され、各ボルト59は補強プレート62の周縁部に沿って略等間隔を持って並ぶように配置される。
【0037】
押圧プレート65は、シリンダ側壁82の内側に収められ、制輪子7のライニング9に対して広い範囲で対峙している。
【0038】
図5の(a)は押圧プレート65の側面図であり、(b)は同図のA−A線に沿う断面図である。これに示すように、押圧プレート65は、制輪子7のライニング9に沿って湾曲して延びる前後の湾曲縁部65c、65dと、この前後の湾曲縁部65c、65dを結んで円弧状に延びる上下の円弧状縁部65a、65bとを有し、湾曲縁部65cは凹状に、湾曲縁部65dは凸状に形成され、図3に示すキャリパ本体10の中心線Ozについて対称的に形成される。押圧プレート65の湾曲縁部65cは凸状に湾曲して形成され、湾曲縁部65dは凹状に湾曲して形成される。
【0039】
押圧プレート65の制輪子29に対峙する面には複数の溝66が設けられており、複数条の放射状溝66aと1条の周溝66bを備え、押圧プレート65を複数の凸部67に分割する。
【0040】
放射状溝66aはディスク6の径方向に沿って放射状に延びる。ライニング9にもディスク6の径方向に沿って放射状に延びる溝99が形成されており、放射状溝66aはライニング9の溝99と重合するように配置される。
【0041】
周溝66bはディスク6と同心円弧状に湾曲して延びる。周溝66bはライニング9に沿って湾曲して延び、ライニング9の中央部に対峙する。
【0042】
各凸部67はディスク6と同心円弧状に2列に並ぶように配置される。なお、各凸部67の列数はこれに限らず増減しても良く、また、各凸部67を千鳥状に配置しても良い。
【0043】
凸部67の大きさは任意に設定され、各凸部67が制輪子7の略全域に対峙するように配置される。なお、各凸部67の突出高さをそれぞれ変えて制輪子7をディスク6に押し付ける荷重の分布をコントロールしても良い。
【0044】
押圧プレート65を断熱材によって形成され、制輪子7の熱が弾性膜75に伝達されることを抑制する。
【0045】
キャリパ本体10には通孔69が形成され、この通孔69は図示しない配管を介して鉄道車両の空気圧源に連通する。この空気圧源からの加圧空気は図示しない切換弁を介して弾性膜室63に供給される。図示しないコントローラからの指令に応じて切換弁は制動時に空気圧源からの加圧空気を弾性膜室63に導く一方、非制動時に大気圧を弾性膜室63に導く。
【0046】
以上のようにキャリパブレーキ装置1は構成され、制動解除時に弾性膜室63に大気圧が導かれており、アジャスタ41に備えられる戻しバネ44の付勢力によって制輪子7がディスク6から離れる。このとき、弾性膜75は制輪子7に追従して収縮する。
【0047】
制動時に弾性膜室63に導かれる空気圧により弾性膜75が膨らみ、弾性膜75が押圧プレート65を介して制輪子7をディスク6に押圧し、制輪子7がディスク6に摩擦力を付与し、車輪の回転を制動する。
【0048】
このように、アクチュエータ60はキャリパ本体10の限られたスペースにおいて弾性膜75の受圧面積を十分に確保し、要求される押圧力を制輪子7に付与することが可能となる。
【0049】
以上のように、本発明の弾性膜型キャリパブレーキ装置1は、車輪5と共に回転するディスク6と、このディスク6を挟んで摩擦力を付与する左右の制輪子7と、台車(車体)に支持されるキャリパ本体10と、制輪子7をディスク6に押し付けるアクチュエータ60とを備え、このアクチュエータ60は、キャリパ本体10に取り付けられる弾性膜75と、この弾性膜75によって画成される弾性膜室63と、弾性膜75と制輪子7の間に介装される押圧プレート65とを備え、制動時にこの弾性膜室63に導かれる空気圧(流体圧)により弾性膜75が膨らんでこの押圧プレート65が制輪子7をディスク6に押し付ける構成とした。
【0050】
弾性膜室63を各アンカピン43の間に配置したため、弾性膜75が膨らんで制輪子7をディスク6に押し付ける動きが各アンカピン43を介して円滑に行われるとともに、各アンカピン43に挟まれるスペースにおいて弾性膜75の受圧面積を十分に確保し、要求される押圧力を制輪子7の広い範囲に付与することが可能となる。
【0051】
弾性膜75が膨らんで押圧プレート65から突出した複数の凸部67が制輪子7をディスク6に押し付ける構成のため、この押し付け反力によってキャリパ本体10が撓んだり、ディスク6の回転面に変形が生じた場合に、これに弾性膜75が追従して制輪子7がディスク6の回転面に対して均一な面圧を持ってディスクと平行に押し付けられる。これにより、制輪子7の摩擦係数が高く保たれ、制輪子7本来の制動力が発揮されるとともに、制輪子7やディスク6の局部的な温度上昇が抑えられることによって制輪子7やディスク6の偏摩耗が生じることを防止できる。
【0052】
制動時にキャリパ本体10のキャリパアーム部12が車輪5のディスク6から離れるように撓んでも、制輪子7がディスク6の回転面に対して平行に保たれ、ライニング9がディスク6の回転半径方向について偏摩耗することを防止できる。
【0053】
アクチュエータ60は鉄道車両に搭載される空気圧源からこの弾性膜室63に供給される空気圧によって弾性膜75が制輪子7を押圧作動するため、鉄道車両に搭載される空油変換器(油圧源)や油圧配管が不要になり、鉄道車両の軽量化がはかれる。
【0054】
なお、弾性膜型キャリパブレーキ装置は、これに限らず、油圧式アクチュエータを設け、弾性膜室に油圧を導く構成としてもよい。この場合、従来の油圧式ピストン型キャリパブレーキ装置に比べてアクチュエータの受圧面積が拡大するため、低い油圧でアクチュエータに必要な押圧力を確保でき、空油変換器による増圧が不要になり、空油変換器の小型化がはかれる。
【0055】
本実施の形態では、キャリパ本体10が上下スライドピン30、32を介して摺動可能にフローティング支持される構造のため、ディスク6に跨るようにして延びる第一キャリパアーム12と第二キャリパアームのうち、第一キャリパアーム12のみにアクチュエータ60を設けることが可能となり、アクチュエータ60を構成する部品点数を削減するとともに、キャリパブレーキ装置1の大型化が避けられる。
【0056】
本実施の形態では、キャリパ本体10に制輪子7をディスク6に対して進退可能に支持する対のアンカピン43を備え、弾性膜室63をこの各アンカピン43の間に配置したため、弾性膜75が膨らんで制輪子7をディスク6に押し付ける動きが各アンカピン43を介して円滑に行われるとともに、各アンカピン43に挟まれるスペースにおいて弾性膜75の受圧面積を十分に確保し、要求される押圧力を制輪子7の広い範囲に付与することが可能となる。
【0057】
本実施の形態では、アクチュエータ60を挟むように配置される対のアジャスタ41を備え、このアジャスタ41は、アンカピン43を介して制輪子7をディスク6から離す方向に付勢する戻しバネ44と、制動解除時に制輪子7とディスク6の隙間を略一定に調整する隙間調整機構45とを備えたため、弾性膜75が膨らんで制輪子7をディスク6に押し付ける動きが各アジャスタ41を介して円滑に行われるとともに、各アジャスタ41に挟まれるスペースにおいて弾性膜75の受圧面積を十分に確保し、要求される押圧力を制輪子7の広い範囲に付与することが可能となる。
【0058】
本実施の形態では、キャリパ本体10は弾性膜75の拡縮するベローズ部77を囲んで筒面状に延びるシリンダ側壁82を有したため、制動時に弾性膜室63に導かれる空気圧により弾性膜75のベローズ部77がディスク6と平行方向に膨らむことがシリンダ側壁82によって規制され、弾性膜75が制輪子7を押圧するのに必要な空気流量を低減し、弾性膜75が制輪子7を押圧して車輪5を制動する応答性を高められる。
【0059】
本実施の形態では、シリンダ側壁82は、ライニング9に沿って湾曲して延びる一方の湾曲壁部82cと、この湾曲壁部82cと対称的に湾曲して延びる他方の湾曲壁部82dと、この各湾曲壁部82c、82dを結んで円弧状に延びる上下の円弧状壁部82a、82bとを有したため、キャリパ本体10の限られたスペースにおいて弾性膜75の受圧面積を十分に確保するとともに、弾性膜75はシリンダ側壁82に沿って屈曲する部位が生じることなく、弾性膜75の耐久性を確保できる。
【0060】
本実施の形態では、キャリパ本体10は弾性膜75の周縁部76が取り付けられる環状の取付座81を有し、取付座81との間に弾性膜75の周縁部76を挟持するカバー92を備え、このカバー92と弾性膜75との間に弾性膜室63を画成したため、アクチュエータ60をキャリパ本体10内にコンパクトに収められ、キャリパ本体10の大型化が避けられる。
【0061】
本実施の形態では、アンカピン43に結合され制輪子7を支持する案内板8を備えたため、制輪子7を支持する剛性を高められるとともに、制輪子7を着脱する作業が案内板8を介して容易に行える。
【0062】
図6の(a)、(b)に示す他の実施の形態は、押圧プレート65の凸部67に断熱プレート61が設けられるものであり、押圧プレート65はこの断熱プレート61を介して制輪子7の案内板8に当接する。断熱プレート61は断熱材によって形成され、制輪子7の熱が弾性膜75に伝達されることを抑制する。
【0063】
本実施の形態では、押圧プレート65に断熱プレート61を取り付け、この断熱プレート61が制輪子7に当接するため、制輪子7の熱が弾性膜75に伝達されることを抑制し、樹脂製弾性材からなる弾性膜75の耐熱性を確保できる。また、断熱プレート61を設けることにより、押圧プレート65を例えば金属によって形成することが可能となる。
【0064】
なお、必要に応じて断熱材を溶射したプレートを断熱プレート61として用いても良い。
【0065】
また、押圧プレート65と弾性膜75の間に断熱プレートを介装しても良い。この場合も、制輪子7の熱が弾性膜75に伝達されることを抑制し、樹脂製弾性材からなる弾性膜75の耐熱性を確保できる。
【0066】
図7、8に示す他の実施の形態は、案内板を廃止して制輪子7が各アンカピン43のみによって支持される構成とするものである。
【0067】
制輪子7は、ディスク6に摺接するライニング9と、このライニング9の背部が取り付けられるライニング背板97とを備える。
【0068】
各アンカピン43には環状溝49が形成され、ライニング背板97の上下端部にはこの環状溝86に係合する係合部85が形成される。
【0069】
制輪子7はこの各係合部85が各アンカピン43の環状溝86に係合することにより、ディスク6に対して進退可能に支持され、弾性膜75の拡縮作動によってディスク6に対して進退するように駆動される。
【0070】
各アンカピン43には環状溝86が形成され、制輪子7の上下端部にはこの環状溝86に係合する係合部85が形成される。
【0071】
制輪子7はこの各係合部85が各アンカピン43の環状溝86に係合することにより、ディスク6に対して進退可能に支持され、弾性膜75の拡縮作動によってディスク6に対して進退するように駆動される。
【0072】
本実施の形態では、制輪子7の両端部を各アンカピン43に結合し、制動時に弾性膜75が押圧プレート65を介して制輪子7を押圧する構成としたため、案内板を廃止して構造の簡素化がはかれるとともに、キャリパ本体10をX軸方向について小型化することができるとともに、制輪子7の剛性が低下することにより、ライニング9がディスク6の表面形状や変形に追従した動作が可能となる。
【0073】
なお、各実施の形態では、第一キャリパアーム12のみにアクチュエータ60を設けたが、これに限らず、第一キャリパアーム12と第二キャリパアームの両方にアクチュエータ60を設けてもよい。この場合、キャリパ本体10をX軸方向に摺動可能にフローティング支持する必要がなく、キャリパ本体10は台車(車体)に対して固定される。
【0074】
本実施の形態では、押圧プレート65に制輪子7に対峙して開口する溝66を備えたため、押し付け反力によってライニング9に変形が生じた場合に、これに押圧プレート65が追従して変形することが促され、制輪子7がディスク6の回転面に対して均一な面圧を持って押し付けられる。
【0075】
本実施の形態では、押圧プレート65に開口する溝66をライニング9の溝99と重合するように配置したため、押圧プレート65がライニング9の変形に追従して変形することが促され、制輪子7がディスク6の回転面に対して均一な面圧を持って押し付けられる。
【0076】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の形態を示すキャリパブレーキ装置の平面図。
【図2】同じく上スライドピンまわりの断面図。
【図3】同じく側面図。
【図4】同じく図3のA−A線に沿う断面図。
【図5】同じく押圧プレートの側面図と断面図。
【図6】本発明の他の実施の形態を示す押圧プレートの側面図と断面図。
【図7】本発明の他の実施の形態を示すキャリパブレーキ装置の側面図。
【図8】同じく図7のA−A線に沿う断面図。
【符号の説明】
【0078】
1 キャリパブレーキ装置
5 車輪
6 ディスク
7 制輪子
8 案内板
9 ライニング
10 キャリパ本体
12 第一キャリパアーム
41 アジャスタ
43 アンカピン
44 戻しバネ
45 隙間調整機構
60 アクチュエータ
61 断熱プレート
62 補強プレート
63 弾性膜室
65 押圧プレート
66 溝
75 弾性膜
76 周縁部
77 ベローズ部
79 押圧部
81 取付座
82 シリンダ側壁
82a、82b 円弧状壁部
82c、82d 湾曲壁部
92 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するディスクと、
このディスクを挟んで摩擦力を付与する左右の制輪子と、
車体に支持されるキャリパ本体と、
前記制輪子を前記ディスクに押し付けるアクチュエータとを備え、
このアクチュエータは、
前記キャリパ本体に取り付けられる弾性膜と、
この弾性膜によって画成される弾性膜室と、
前記弾性膜と前記制輪子の間に介装される押圧プレートとを備え、
制動時に前記弾性膜室に導かれる流体圧により前記弾性膜が膨らんでこの押圧プレートが前記制輪子を前記ディスクに押し付ける構成としたことを特徴とする車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項2】
前記キャリパ本体に前記制輪子を前記ディスクに対して進退可能に支持する対のアンカピンを備え、
前記弾性膜室をこの各アンカピンの間に配置したことを特徴とする請求項1に記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項3】
前記アクチュエータを挟むように配置される対のアジャスタを備え、
このアジャスタは、
前記アンカピンを介して前記制輪子を前記ディスクから離す方向に付勢する戻しバネと、
制動解除時に制輪子とディスクの隙間を略一定に調整する隙間調整機構とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項4】
前記キャリパ本体は前記弾性膜の拡縮するベローズ部を囲んで筒面状に延びるシリンダ側壁を有し、
前記シリンダ側壁は、
前記ライニングに沿って湾曲して延びる一方の湾曲壁部と、
この湾曲壁部と対称的に湾曲して延びる他方の湾曲壁部と、
この各湾曲壁部を結んで円弧状に延びる上下の円弧状壁部とを有したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項5】
前記キャリパ本体は前記弾性膜の周縁部が取り付けられる環状の取付座を有し、
前記取付座との間に前記弾性膜の周縁部を挟持するカバーを備え、
このカバーと前記弾性膜との間に前記弾性膜室を画成したことを特徴とする請求項4に記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項6】
前記弾性膜は前記制輪子に対峙する押圧部を有し、
この押圧部に取り付けられるト補強プレートを備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項7】
前記押圧プレートと前記制輪子の間、または前記押圧プレートと前記弾性膜の間に断熱プレートを介装したことを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項8】
前記各アンカピンに結合され前記制輪子を支持する案内板を備えたことを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項9】
前記制輪子の両端部を前記各アンカピンに結合したことを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の車両用キャリパブレーキ装置。
【請求項10】
前記押圧プレートに前記制輪子に対峙して開口する溝を備えたことを特徴とする請求項1から9のいずれか一つに記載の車両用キャリパブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−115215(P2009−115215A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288942(P2007−288942)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】