説明

車両用シートおよび車両用シートの組立方法

【課題】 着座者の背中後方に位置する前後移動体によって着座者の後方移動荷重を検出する構成で、ヘッドレストの移動量を十分に確保し、しかも、後突を検知するとき着座姿勢を崩さない車両用シートを提供すること。
【解決手段】 背凭フレーム3には、着座者の背中上部より腰部後方に位置する略四角形の一枚板状のプレート体31を、上下に複数並設したワイヤスプリング34を介して前後移動自在に取付け、前記背凭フレーム3に回動自在に設けた一対の下側リンク35に、前記複数上下に並設したワイヤスプリング34の内の何れかの左右一対のワイヤスプリング34Bの一端を夫々接続し、該ワイヤスプリング34Bの間のプレート体31によりヘッドレスト6を前方移動させる後突感知部40を構成し、前記ワイヤスプリング34Bの他端の取付端部38は前記下側リンク35に直接取付けた車両用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後方からの衝突を受けて慣性により着座者が後方移動する所謂「後突」のときに、前方移動して頭部を支持するヘッドレストを設けた車両用シートに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、背凭シートの上部に設けたヘッドレストが、着座者の背中後方に位置する背凭シート内の可動フレームの後方回動により前方回動して着座者の頭部を支持する構成は公知である。
【特許文献1】特開平10−119619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記公知例は、ヘッドレストと可動フレームとをフレームにより直接連結し、このフレームは背凭シート内に設けているため、着座フィーリングが低下するという課題がある。
即ち、後方移動する可動フレームのエネルギーを回動中心軸を中心にヘッドレストの前方回動に変換させる着想のため、ヘッドレストと可動フレームとを直接フレームにより連結していたのである。
この構成では、必然的に可動フレームおよびフレームは着座者の背が当たる部分の背凭シート内に設けるので、着座フィーリングが低下する。
また、可動フレームは背凭シート内を後方に移動するため、その移動量には限界があり、それゆえ、ヘッドレストの移動量を大きくできず、ヘッドレストの移動量が着座者の頭部を支持に十分でなく、むち打ち症防止効果を十分に発揮できないという課題がある。
即ち、単にシーソーのように、可動フレームの後方移動を、回動中心を支点としてヘッドレストの前方移動に変換するのであるから、ヘッドレストの移動量には限界が生じる。
また、公知例では、ヘッドレストと可動フレームとを直接連結しているため、後突されて前方移動するヘッドレストが頭部を支持しても、可動フレームが後方移動するので、着座者の上体と頭部との前後位置の差が広がり、着座姿勢が悪化するという課題もある。
本願は、着座者の背中後方に位置する前後移動体によって着座者の後方移動荷重を検出する構成でありながら、ヘッドレストの移動量を十分に確保し、しかも、後突を検知するとき着座姿勢を崩さないように特段の工夫したものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上側リンク15により背凭フレーム3に前後移動自在に取付けたヘッドレスト6を、着座者Tの後方に位置する背凭シート2内の後突感知部40の後方移動により、前方移動させて着座者Tの頭部Hを支持するように構成したものにおいて、前記背凭フレーム3には、着座者の背中上部より腰部後方に位置する略四角形の一枚板状のプレート体31を、上下に複数並設したワイヤスプリング34を介して前後移動自在に取付けて、構成した板状支持材30を設け、前記背凭フレーム3に回動自在に設けた一対の下側リンク35に、前記複数上下に並設したワイヤスプリング34の内の何れかの左右一対のワイヤスプリング34Bの一端を夫々接続し、該ワイヤスプリング34Bの間のプレート体31により前記後突感知部40を構成し、前記ワイヤスプリング34Bの他端の取付端部38は前記下側リンク35に直接取付けた車両用シートとしたものである。
本発明は、前記ワイヤスプリング34Bの他端の取付端部38は、先端を後方に屈曲させた係合部39に形成し、前記下側リンク35には、前記係合部39が係合する縦長の係合孔42を形成した車両用シートとしたものである。
本発明は、背凭シート2の背凭フレーム3の上部にヘッドレスト6を上側リンク15により前後移動可能に取付け、略四角形の一枚板状に形成したプレート体31に、プレート体31より側方に突き出すワイヤスプリング34を上下に所定間隔をおいて複数取付け、前記複数上下に並設したワイヤスプリング34の内の何れかを後突感知用スプリング34Bとし、後突感知用スプリング34Bおよび後突感知用スプリング34B付近のプレート体31の後方移動により後突を感知するように構成し、該後突感知用スプリング34Bは、該後突感知用スプリング34Bの取付端部38の先端の後方に屈曲した係合部39を、縦長に形成した下側リンク35の係合孔42を横向きにして係合させて取付け、前記下側リンク35は係合孔42が縦向きになるようにして軸37により背凭フレーム3に回動自在に取付ける車両用シートの組立方法としたものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明では、背凭フレーム3に対して前後移動して着座者を支持するプレート体31の一部を後突感知部40に形成しているので、着座感を維持し、着座姿勢を崩さずに作動して後突を感知する後突感知部40を設けることができ、しかも、ワイヤスプリング34Bの他端の取付端部38を下側リンク35に直接取付けたので、部品点数を減少させ、コストを低くし、軽量化できる。
請求項2の発明では、軸棒形状のワイヤスプリング34Bの他端の取付端部38を、板形状の下側リンク35に簡単且つ外れないように直接取付けることができる。
請求項3の発明では、後突感知用スプリング(ワイヤスプリング)34Bおよびプレート体31の取付作業を頗る容易にできる。
【実施例1】
【0006】
本発明の一実施例を図面により説明すると、1は車両用シート、2は車両用シート1の背凭シートであり、該背凭シート2は背凭フレーム3にクッション材4を取付け、クッション材4の外周を表皮部材5により包囲して構成している。
背凭シート2の上部にはヘッドレスト6を設ける。ヘッドレスト6の構成は任意であり、少なくとも着座者Tの頭部Hを支持する頭部支持部7と、前記背凭シート2に装着するためピラー8とを設けて構成している。
ヘッドレスト6のピラー8は左右方向のヘッドレスト取付杆10に設けたピラー支持部材11に高さ調節自在に取付ける。ピラー8とピラー支持部材11の構成は公知であり、図示は省略するが、ピラー8に形成した係合凹部にピラー支持部材11に設けた係合部材を係合させて保持すればよい。
【0007】
前記ヘッドレスト取付杆10の左右両側は、ヘッドレスト6を前後に移動させる上側リンク15を介して背凭フレーム3に取付ける。
上側リンク15は、上側リンク15の一部を構成する第一リンク杆16の一端(後端)を前記ヘッドレスト取付杆10の左右両端に固定した移動側ブラケット17に軸18により取付け、第一リンク杆16の他端は背凭フレーム3の左右両側の上部に設けた固定側ブラケット19に軸20により回動自在に夫々取付ける。
第一リンク杆16の下方の移動側ブラケット17には、第二リンク杆23の一端を軸24により軸着する。第二リンク杆23はその中間部を前記固定側ブラケット19に軸25により回動自在に取付ける。
【0008】
前記上側リンク15は、第一リンク杆16と移動側ブラケット17と第二リンク杆23により構成している。
前記第二リンク杆23の他端には伝動部材(ロッド)26の上部を軸27により連結する。
前記第一リンク杆16の下部には、一端を背凭フレーム3側に係止したバネ28の他端を係止し、ヘッドレスト6が常時後側に位置するように上側リンク15を付勢する。
【0009】
しかして、背凭シート2の背凭フレーム3には、板状支持材30を設ける。板状支持材30は着座者Tの背部を支持するものである。板状支持材30は着座者Tの背部を「面」で支持して、着座姿勢を安定させ、しかも、後述するように、ヘッドレスト6が前方移動して頭部Hを支持するむち打ち対策においても、頭部Hの支持を良好にする。
【0010】
即ち、従来の上下に並設したジグザグバネ構成では、着座者Tの背部は荷重によりばらばらに後方移動する各ジグザグバネにより「線」で支持されるので、着座姿勢が安定せず、後突のとき前方移動するヘッドレスト6が頭部Hを支持しても、着座者Tの背部が後方移動してしまって、頭部Hと背部との位置関係がかえって不安定になるが、本願では、板状支持材30により着座者Tの背部全体を「面」で支持できて、前方移動するヘッドレスト6が頭部Hを支持しているときに、板状支持材30が着座者Tの背部を「面」で支持するので、頭部Hを含めた着座者Tの着座姿勢を極めて安定させる。
【0011】
前記板状支持材30は、略四角形の一枚板状のプレート体31により形成し、プレート体31は、ポリプロピレン等の合成樹脂により、着座者Tを支持しうる所定の強度を有しつつ、着座者Tからの後方荷重(体重の場合も含む)を受けたときある程度弾性変形しながら荷重支持するように構成すると、所謂「当たり」と呼ばれる背当たり時の感触を柔軟にできて、好適である。
【0012】
しかして、板状支持材30は、前記プレート体31をジグザグスプリングやフォームドワイヤスプリング等のワイヤスプリング34を介して背凭フレーム3に前後移動自在に取付けて構成し、板状支持材30は面状態を保持したまま前後して着座者Tを支持する。
この場合、前記ワイヤスプリング34は、所定の弾性を有しており、プレート体31に荷重が掛かったときに、プレート体31全体が面形状を保持したまま後方移動しうるように構成する。
【0013】
ワイヤスプリング34は、一端をプレート体31に取付け、他端を背凭フレーム3に取付ける。実施例のワイヤスプリング34は、一本の軸棒形状の中間部を屈曲させて形成し、その中間部をプレート体31に取付け、その両端の取付端部38に形成し、取付端部38を背凭フレーム3に取付ける。
【0014】
しかして、前記ワイヤスプリング34は上下に複数並設し、複数並設した内の何れかのワイヤスプリング34B(実施例では一本のワイヤスプリング34Bの両端)は、一端(または中間部)をプレート体31に取付けるが、他端(または先端)の取付端部38は下側リンク35の回動アーム36の先端に直接取付ける。取付端部38の先端はU型形状の係合部39に形成し、係合部39は回動アーム36に形成した係合孔42に係合させて取付ける。
【0015】
即ち、係合部39は側面視横方向となるように後側に屈曲させ、この係合部39を、下側リンク35の係合孔42が横向きとなるようにして係合させ、次に、下側リンク35は係合孔42が縦向きになるように軸37により背凭フレーム3に回動自在に取付ける。
したがって、係合部39と係合孔42との係合は容易であり、背凭フレーム3に下側リンク35を取付けると、係合部39は係合孔42から外れない。
【0016】
回動アーム36の基部は軸37により背凭フレーム3に回動自在に取付ける。回動アーム36の先端側には伝動部材26の下部を取付ける。
下側リンク35に取付けたワイヤスプリング34は、後突感知用スプリング34Bとし、後突感知用スプリング34Bは、着座者Tの後方移動によるプレート体31の後方移動を下側リンク35に伝達して回動させ、このエネルギーが伝動部材伝動部材26を介して上側リンク15に伝達され、上側リンク15は伝動部材伝動部材26の伝動エネルギーによりヘッドレスト6を前方移動させ、着座者Tの頭部Hを支持する。
【0017】
したがって、左右の後突感知用スプリング34Bを取付けた部分およびその近傍の間のプレート体31が、後方から衝突された着座者Tの後方移動により後方移動する後突感知部40に形成する(図3、図4)。
つまり、下側リンク35は上側リンク15に設けたバネ28により通常では回動せずに固定状態となり、そのため、プレート体31に取付けた後突感知用スプリング34Bの取付端部38部分が弾性変形し、板状支持材30は面状態を保持したまま前後動させる。
【0018】
プレート体31に、バネ28により設定されている以上の荷重がプレート体31に掛かって、プレート体31が後動すると、後突感知用スプリング34Bは下側リンク35を回動させて、伝動部材26と上側リンク15を介してヘッドレスト6を前方移動させることになり、この後突感知用スプリング34Bを取付けた部分のプレート体31が後突感知部40となるのである。
【0019】
実施例では、プレート体31は、上下一対のワイヤスプリング34により背凭フレーム3に取付けており、この上下のワイヤスプリング34の内の下側のワイヤスプリング34を後突感知用スプリング34Bとし、プレート体31の下部部分を後突感知部40に形成している。
【0020】
この後突感知部40は、背凭フレーム3に板状支持材30を設けたことで、板状支持材30の上端から下端の何れかの部分に後突感知用スプリング34Bを取付け、後突感知用スプリング34Bをリンク(下側リンク35)に取付けると後突感知部40を形成できて後突を感知できるが、着座者の腰部近傍付近は後方移動量が大きく下側リンク35を回動させて確実に後突を感知できる点、また、後突感知部40を上方に設けると、その部分の板状支持材30を所定量後方移動させることになって、着座者Tの背部の支持が不足してしまう点等の理由から、腰部近傍付近を後突感知部40に形成すると、板状支持材30による着座者Tの支持と、後突感知部40による後突の感知の確実性とを両立させられ、好適である。
【0021】
しかして、ワイヤスプリング34は、一本の軸線状の部材により形成し、ワイヤスプリング34の左右端部の中間部は適宜上下方向に屈曲させた屈曲部41に形成し、屈曲部41の所定部分を任意の手段によりプレート体31の後面に取付けると、屈曲部41自体がプレート体31を面状態で支持することになって、プレート体31による着座者の支持を良好にさせて好適である。
【0022】
この場合、プレート体31は、背凭フレーム3の側部フレーム46の前縁より後側に位置し、前記ワイヤスプリング34(後突感知用スプリング34Bを含む)の中間部はプレート体31の後側に位置するが、平面視においてはワイヤスプリング34の取付端部38は前方に突出し、取付端部38の先端を側部フレーム46または下側リンク35に取付け、クッション材4の前後幅を確保して着座感を向上させる。
【0023】
しかして、前記下側リンク35の回動アーム36には、該回動アーム36の回動を規制するストッパ機構43を設ける(図2)。ストッパ機構43は前記回動アーム36と背凭フレーム3の何れか一方に案内溝44を形成し、前記回動アーム36と背凭フレーム3の何れか他方に案内溝44に係合する係合部材45を設けて構成する。
【0024】
実施例では、背凭フレーム3に前記回動アーム36に案内溝44を形成し、案内溝44に前記回動アーム36に固定のピン形状の係合部材45を係合させ、通常は、案内溝44の下縁に係合部材45を係合させて、バネ28によるヘッドレスト6の後方移動を所定位置に停止させる。
【0025】
(実施例の作用)
背凭シート2の背凭フレーム3には板状支持材30を設け、板状支持材30は略四角形の一枚板状に形成したプレート体31をワイヤスプリング34を介して背凭フレーム3に前後移動自在に取付けて構成しているから、板状支持材30は、着座者Tが着座すると、そのまま後方に弾力的に後方移動して支持し、車両を走行させると、プレート体31が面状態のまま背凭フレーム3に対して前後移動して支持する。
【0026】
そのため、従来の上下に並設して「線」で支持するジグザグバネ構成に比して格段に着座感を向上させる。
また、板状支持材30のプレート体31は略四角形の一枚板状に形成しているから、プレート体31の所定部分にのみ掛かる荷重も、プレート体31全体が後方に移動することで上下左右に荷重を分散させ、確実に支持する。
【0027】
しかして、ワイヤスプリング34は、少なくとも、上側ワイヤスプリング34Aと下側ワイヤスプリング34(34B)の上下2本並設しているから、上側ワイヤスプリング34Aと下側ワイヤスプリング34(34B)により一枚板状の板状支持材30のプレート体31は、少なくとも、上下左右4箇所で支持され、着座者Tを面状態で支持する。
【0028】
また、ワイヤスプリング34の上側ワイヤスプリング34Aは、左右両端部を背凭フレーム3に固定状態に取付け、その中間部は適宜上下方向に屈曲させた屈曲部41に形成しているから、屈曲部41により板状支持材30とワイヤスプリング34との位置ずれを防止して、板状支持材30が面状態で荷重支持するように作用する。
【0029】
しかして、背凭フレーム3には、後方から衝突された着座者Tの後方移動により後方移動する後突感知部40を設け、後突感知部40の後方移動を伝達する伝動部材26を設け、伝動部材26の上端は、上側リンク15の第二リンク杆23に取付けているから、後突感知部40の後方移動により伝動部材26を下方に牽引し、伝動部材伝動部材26は上側リンク15の第二リンク杆23を軸25中心に下方回動させ、第二リンク杆23は軸24を斜め前方に押し上げ、軸24は移動側ブラケット17を押し上げ、移動側ブラケット17はヘッドレスト6のピラー8を支持するピラー支持部材11を取付けたヘッドレスト取付杆10を斜め前方に押し上げ、これによりヘッドレスト6は前方移動する。
したがって、ヘッドレスト6は上側リンク15により前方回動して頭部Hを支持し、むち打ち症防止効果を奏する。
【0030】
しかして、上下に複数並設したワイヤスプリング34の内の何れかを下側リンク35の回動アーム36の先端に取付けて後突感知用スプリング34Bとし、後突感知用スプリング34Bの間のプレート体31を後突感知部40に形成しているから、着座者Tの後方移動によるプレート体31が所定以上後方移動すると、後突感知用スプリング34Bが後方移動し、後突感知用スプリング34Bは下側リンク35をバネ28に抗して下方回動させ、下側リンク35は伝動部材26を介して上側リンク15を回動させ、上側リンク15はヘッドレスト6を前方移動させ、着座者Tの頭部Hを支持する。
【0031】
したがって、後突感知用スプリング34Bを取付けた部分のプレート体31が、後方から衝突された着座者Tの後方移動により後方移動する後突感知部40に形成しているから、着座者Tの後方移動によるプレート体31の後方移動を、直接下側リンク35および伝動部材26を介して上側リンク15に伝達するので、荷重(慣性)の伝達効率が良く、作動が確実となる。
【0032】
また、プレート体31の一部を後突感知機構の一部として兼用構成するので、別途、後突感知機構を設けなくてすみ、部品点数を減少させ、組立てを容易にし、軽量化が図れる。
この場合、後突感知用スプリング(下側ワイヤスプリング)34Bの下方にワイヤスプリング34を設けることはかまわない。
【0033】
しかして、通常、下側リンク35は上側リンク15に設けたバネ28により常時上方回動するように付勢されて固定状態となるから、後突感知部40を左右の後突感知用スプリング34Bの間のプレート体31により構成しても、バネ28の弾力より弱い荷重であれば、後突感知用スプリング34Bが弾性変形して板状支持材30が面状態を保持したまま前後動させる。
【0034】
そして、バネ28の設定されている以上の荷重でプレート体31が後動すると、後突感知用スプリング34Bは下側リンク35を回動させるから、下側リンク35の回動が伝動部材26と上側リンク15を介してヘッドレスト6に伝達されて、前方移動させる。
【0035】
この場合、ワイヤスプリング34はプレート体31に上下一対設けているが、この上下のワイヤスプリング34の内の下側のワイヤスプリング34を後突感知用スプリング34Bとし、プレート体31の下部部分を後突感知部40に形成しているから、後方移動量が大きい着座者の腰部近傍付近を後突感知部40に構成でき、確実に後突を感知できる。
【0036】
また、仮に、後突感知部40をプレート体31の上部に設けると、その部分の板状支持材30を通常の支持位置よりも更に後方移動させることになって、着座者Tの背部の支持が不足してしまうが、本願では、プレート体31の下部に設けているので、着座者Tの背部の支持を良好に行う。
【0037】
即ち、「線」で支持するジグザグバネでは、後突のとき前方移動するヘッドレスト6によって頭部Hを支持しても、着座者Tの背部の支持不安定になって頭部Hと背部との位置関係がかえって悪化する惧れがあるが、本願では、板状支持材30により着座者Tの背部全体を「面」で支持するので、前方移動するヘッドレスト6と相俟って頭部Hおよび着座者Tの背部を良好に支持でき、頭部Hを含めた着座者Tの着座姿勢を極めて安定させる。
【0038】
また、平均的着座者Tの胸部後方に板状支持材30のプレート体31の上縁を位置させているから、着座姿勢において変化しない部分である胸部付近を確実にプレート体31が支持したうえで、ヘッドレスト6を前方移動させることができ、頭部Hと背部(胸部)との位置関係を余り変更させずにヘ頭部Hを良好に支持する。
【0039】
また、本来、後突の慣性によりプレート体31が後方移動するので、プレート体31に後突感知部40を設けても不都合はなく、板状支持材30による着座者Tの支持と、後突感知部40による後突の感知の確実性とを両立させられ、極めて合理的な構成となる。
【0040】
しかして、複数並設したワイヤスプリング34の内の下側のワイヤスプリング34を後突感知用スプリング34Bとし、プレート体31の下部部分を後突感知部40に形成し、ワイヤスプリング34Bの各取付端部38の先端には係合部係合部39を形成し、下側リンク35の回動アーム36の先端には係合孔42を形成しているから、後突感知用スプリング34Bの取付端部38を回動アーム36の先端に直接取付ことができ、取付用の部品を不要とし、軽量で安価にできる。
【0041】
また、後突感知用スプリング34Bの取付端部38は回動アーム36の先端の係合孔42に係合させるだけで取付が完了し、取付作業を頗る容易にできる。
また、取付端部38の係合部39は、後方に屈曲させて形成しており、係合孔42は縦長に形成しているから、係合部39の移動方向に対して係合孔42は交差方向となり、板状支持材30の後突感知部40の前後移動によっても、係合部39と係合孔42との係合が外れることはない。
【0042】
しかして、前記ワイヤスプリング34(後突感知用スプリング34Bを含む)の中間部はプレート体31の後側に位置し、平面視において、ワイヤスプリング34の取付端部38はプレート体31より前方に突出し、取付端部38の先端を側部フレーム46または下側リンク35に取付けているから、プレート体31の前方に所定の空間を確保でき、そのため、クッション材4の前後幅を厚くすることができ、着座感を向上させる。
【0043】
また、取付端部38は、該取付端部38と側部フレーム46または下側リンク35との取付部分を支点に弾性変形するので、プレート体31によるクッション材4の支持を良好にしてクッション性を向上させることができる。
【0044】
しかして、前記下側リンク35の回動アーム36には、該回動アーム36の回動を規制するストッパ機構43を設けているから、上側リンク15を付勢するバネ28と相俟ってヘッドレスト6を常時所定位置に位置させる。
【0045】
即ち、通常は、案内溝44の下縁に係合部材45を係合させて、バネ28によるヘッドレスト6の後方移動を所定位置に停止させる。
また、ストッパ機構43の案内溝44と係合部材45は、回動アーム36の回動方向を規制するので、ワイヤスプリング34Bによりプレート体31の下部部分を後突感知部40に形成しても、後突感知部40の移動を円滑にし、確実に後突を感知する。
【0046】
なお、クッション材4の支持力を調節する所謂ランバーサポート機構があるが、ランバーサポート体は背凭フレームに対して常時前方移動するように付勢されているから、後突時の慣性力はランバーサポート機構により支持され、ランバーサポート体は後方移動しないので、後突の感知はできない。この点、本願のプレート体31は背凭フレーム3に対して前後移動可能であるから、後突の慣性によりプレート体31は後方移動し、プレート体31に後突感知部40を設けても不都合はなく、ランバーサポート機構のランバーサポート体とは相違する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】背凭シートおよびヘッドレストの斜視図。
【図2】背凭シートフレーム側面図。
【図3】背凭シートフレームの斜視図。
【図4】上下リンク機構の斜視図。
【図5】着座者の骨格および背凭シートフレームの概略側面図。
【図6】後突感知部の作用状態側面図。
【図7】ワイヤスプリングの取付状態斜視図。
【図8】背凭シートの断面図。
【0048】
1…車両用シート、2…背凭シート、3…背凭フレーム、4…クッション材、5…表皮部材、6…ヘッドレスト、8…ピラー、10…ヘッドレスト取付用杆、11…ピラー支持部材、15…上側リンク、16…第一リンク杆、17…移動側ブラケット、18…軸、19…固定側ブラケット、20…軸、23…第二リンク杆、24…軸、25…軸、26…伝動部材、27…軸、28…バネ、30…板状支持材、31…プレート体、34…ワイヤスプリング(34B…後突感知用スプリング)、35…下側リンク、36…回動アーム、37…軸、38…取付端部、39…係合部、40…後突感知部、41…屈曲部、42…係合孔、43…ストッパ機構、44…案内溝、45…係合部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側リンク15により背凭フレーム3に前後移動自在に取付けたヘッドレスト6を、着座者Tの後方に位置する背凭シート2内の後突感知部40の後方移動により、前方移動させて着座者Tの頭部Hを支持するように構成したものにおいて、前記背凭フレーム3には、着座者の背中上部より腰部後方に位置する略四角形の一枚板状のプレート体31を、上下に複数並設したワイヤスプリング34を介して前後移動自在に取付けて、構成した板状支持材30を設け、前記背凭フレーム3に回動自在に設けた一対の下側リンク35に、前記複数上下に並設したワイヤスプリング34の内の何れかの左右一対のワイヤスプリング34Bの一端を夫々接続し、該ワイヤスプリング34Bの間のプレート体31により前記後突感知部40を構成し、前記ワイヤスプリング34Bの他端の取付端部38は前記下側リンク35に直接取付けた車両用シート。
【請求項2】
請求項1において、前記ワイヤスプリング34Bの他端の取付端部38は、先端を後方に屈曲させた係合部39に形成し、前記下側リンク35には、前記係合部39が係合する縦長の係合孔42を形成した車両用シート。
【請求項3】
背凭シート2の背凭フレーム3の上部にヘッドレスト6を上側リンク15により前後移動可能に取付け、略四角形の一枚板状に形成したプレート体31に、プレート体31より側方に突き出すワイヤスプリング34を上下に所定間隔をおいて複数取付け、前記複数上下に並設したワイヤスプリング34の内の何れかを後突感知用スプリング34Bとし、後突感知用スプリング34Bおよび後突感知用スプリング34B付近のプレート体31の後方移動により後突を感知するように構成し、該後突感知用スプリング34Bは、該後突感知用スプリング34Bの取付端部38の先端の後方に屈曲した係合部39を、縦長に形成した下側リンク35の係合孔42を横向きにして係合させて取付け、前記下側リンク35は係合孔42が縦向きになるようにして軸37により背凭フレーム3に回動自在に取付ける車両用シートの組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−62521(P2007−62521A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250176(P2005−250176)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】