説明

車両用シート

【課題】チルトダウン操作が可能で、着座状態においてシートバックの傾きを調整する時に、シートバックだけを作動させてシートの使用感を良好に保つ。
【解決手段】フレーム部材12と、フロントリンク24と、一端部がシートバックに対して回転可能に結合され、他端部がシートクッションに対して一定の範囲で可動するように連結されたリヤリンク28と、シートクッションの前後方向への移動をロック可能に配置された第1ロック機構40と、シートクッションに対するリヤリンクの可動をロック可能に配置された第2ロック機構50とを備えている。着座状態においてシートバックの傾きを調整するリクライニング装置の通常操作時には、第1ロック機構がロック状態に保持されるとともに、第2ロック機構がアンロック状態に保持される。また、チルトダウン操作時には、第1ロック機構がアンロック状態に保持されるとともに、第2ロック機構がロック状態に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを格納するためのチルトダウン操作が可能な車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用シートについては、例えば特許文献1に開示されている技術が既に知られている。この技術では、フロアに対して前後方向へスライド可能なフレーム部材(スライドレールのアッパーレール)に対し、シートクッションの前部がリンクによって連結されている。また、フレーム部材の後部には、シートバックがリクライニング装置によって支持されている。そして、シートクッションの後部とシートバックとが相対的な回転可能に連結されている。つまり、フレーム部材、シートクッション、リンクおよびシートバックは四節リンク機構を構成している。
チルトダウン操作時には、リクライニング装置のロックを解除してシートバックを前方へ倒し込むことにより、四節リンク機構の作動にしたがってシートクッションが前方へ移動しつつフロア側に沈み込む。このシートクッション上にシートバックを重合させることで、シートは折り畳み状態で格納される。
【特許文献1】米国特許第6,152,533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示されている技術において、シートへの着座状態でシートバックの傾きを調整する通常のリクライニング操作時には、シートバックだけを作動させたいのにシートクッションまでも前後方向へ動くことになり、シートの使用感を損ねることになる。
【0004】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、チルトダウン操作が可能なシートであるにもかかわらず、着座状態においてシートバックの傾きを調整する通常のリクライニング操作時には、シートバックだけを作動させてシートの使用感を良好に保つことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
第1の発明は、リクライニング装置の操作によってシートバックを前方へ倒し込むと、それに連動してシートクッションを前方へ移動させ、このシートクッション上にシートバックを重合させるチルトダウン操作が可能な車両用シートであって、シートバックがリクライニング装置によって支持されたフレーム部材と、このフレーム部材に対してシートクッションを前後方向への移動可能に支持するフロントリンクと、一端部がシートバックに対して回転可能に結合され、他端部がシートクッションに対して一定の範囲で可動するように連結されたリヤリンクと、フレーム部材に対するシートクッションの前後方向への移動をロック可能に配置された第1ロック機構と、シートクッションに対するリヤリンクの可動をロック可能に配置された第2ロック機構とを備えている。そして、着座状態においてシートバックの傾きを調整するリクライニング装置の通常操作時には、第1ロック機構がロック状態に保持されるとともに、第2ロック機構がアンロック状態に保持される。また、チルトダウン操作時には、第1ロック機構がアンロック状態に保持されるとともに、第2ロック機構がロック状態に保持される。
【0006】
このように構成された車両用シートによれば、シートバックを前方へ倒し込むことに連動してシートクッションを前方へ移動させる、といったチルトダウン操作が可能なシートであるにもかかわらず、着座状態においてシートバックの傾きを調整する通常の操作時には、シートクッションを前後方向へ移動させることなく、シートバックだけを作動させることができ、シートの使用感が良好になる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、シートバックを所定の前傾位置に倒すとともに、フレーム部材をフロアに対して前方へスライドさせるウォークイン操作が可能であり、 このウォークイン操作時には、第1ロック機構がロック状態に保持されるとともに、第2ロック機構がアンロック状態に保持されるように設定されている。
【0008】
これにより、ウォークイン操作時においてシートバックを所定の前傾位置に倒しても、シートクッションが前方へ移動することなく、そのままの位置に保持される。このため、例えば二列目シートのウォークイン操作時において、そのシートクッションと一列目シートとの間の距離が詰められることが避けられるので、二列目シートを前方へ大きくスライドさせて三列目シートの乗降性を高めることができる。
【0009】
第3の発明は、第1又は2の発明において、第1ロック機構は、フレーム部材に固定されたストライカーと、シートクッションに固定されたベースに対して回転可能に軸支され、その回転によってベースとストライカーとを結合したロック状態、あるいは結合を解除したアンロック状態を形成するフックと、ベースに対して回転可能に軸支され、フックに対して係合可能な位置に回転することにより、フックをロック状態に保持するポールとによって構成されている。また、第2ロック機構は、リヤリンクのシートクッション側の端部に固定されたロックピンと、ベースに対して回転可能に軸支され、その回転によってベースとロックピンとを結合したロック状態、あるいは結合を解除したアンロック状態を形成するロック部材とによって構成されている。
これにより、第1ロック機構および第2ロック機構の構成を簡素化することができるとともに、これらをシートクッション側においてコンパクトに配置することができる。
【0010】
第4の発明は、第3の発明において、第1ロック機構を構成するポールと、第2ロック機構を構成するロック部材とが単一部材によって構成されている。
これにより、例えば着座状態においてシートバックの傾きを調整する通常の操作からチルトダウン操作に移るときの第1ロック機構および第2ロック機構の切り替わりタイミングを同時にすることができる。このため、第1ロック機構および第2ロック機構のいずれもロックされず、ぐらついた状態になることが防止され、使用性がよくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、車両用シートのフレーム構造を表した斜視図である。図2は、車両用シートの側面図である。図3は、図2の一部を拡大して表した側面図である。これらの図面で示されているシート10は、チルトダウン操作とウォークイン操作とが可能な形式であり、その構成はシートバック18と、シートクッション20と、シートクッション20の下方に配置されたフレーム部材12とに大別される。なお、これらの図1〜図3において、矢印Frはシート10の前方を示し、矢印Reは後方を示している。
フレーム部材12は左右で対をなしているとともに、個々の後部にはロアアーム12aがそれぞれ固定されている。両ロアアーム12aの上端部には、シートバック18におけるバックフレーム18aの両側下部が、個々のリクライニング装置14によって連結されている。なお、両フレーム部材12の後部には、相互の間にわたって補強ロッド12cが挿通され、補強ロッド12cの両端部と両フレーム部材12とはそれぞれ溶接で固定されている。このようにフレーム部材12は、ロアアーム12a、補強ロッド12cおよび後述するスライドレール16のアッパーレール16bを含めたアッセンブリ構造体である。
【0012】
左右のリクライニング装置14は、それぞれの主軸14aが同期して回転操作されるように互いに連結されている。そして、片側のリクライニング装置14の主軸14aには、ロアアーム12aの外側において操作レバー14cの基端部が固定されている。この操作レバー14cを主軸14aと共に回転操作することにより、リクライニング装置14のロックを解除することができる。このロック解除により、シートバック18をリクライニング装置14における主軸14aの軸心回りに前後方向へ回転させ、シートバック18の傾き角度を調整することができる。また、操作レバー14cには、後で説明する操作ケーブルC2のインナーケーブルエンドが連結されている。
【0013】
両フレーム部材12は、左右に配置された個々のスライドレール16によって前後方向へスライド可能となっている。両スライドレール16は、車両のフロアに固定されるロアレール16aと、両フレーム部材12の下部に形成されているアッパーレール16bとによって構成され(図2および図3)、ロアレール16aに沿ってアッパーレール16bがスライドするようになっている。スライドレール16は、アッパーレール16b(フレーム部材12)側において、フレーム部材12を任意のスライド位置でロックするためのスライドロック部16cを備えている。
スライドロック部16cは、シート10の前後位置を調整する際のレバー(図示省略)の操作によってそのロックが解除されるのは周知のとおりである。これとは別にスライドロック部16cの近くにおけるフレーム部材12の側面に、ロック解除レバー16dが設けられている(図3)。このロック解除レバー16dをその支持軸回りに回転操作することによっても、スライドロック部16cのロックを解除することができる。なお、ロック解除レバー16dの入力端部に対し、後で説明する操作ケーブルC4のインナーケーブルエンドが連結されている。
【0014】
シートバック18におけるバックフレーム18aの肩部には、ウォークイン操作のための操作レバー22が設けられている。この操作レバー22には、後で説明する操作ケーブルC1のインナーケーブルエンドが連結されている。
シートクッション20のクッションフレーム20aは矩形の枠型をしており(図1)、その両側前部が左右一対のフロントリンク24によって両フレーム部材12の前部にそれぞれ連結されている。また、クッションフレーム20aの両側後部は、つぎに説明する第1ロック機構40によってフレーム部材12側にロックされているとともに、クッションフレーム20aの両側後部とバックフレーム18aの両側下部との間にリヤリンク28がそれぞれ架け渡されている。
【0015】
フロントリンク24は、その一端部がフレーム部材12の前部に固定された連結軸24aに対して回転可能に支持され、他端部がクッションフレーム20aに連結軸24bによって回転可能に連結されている。リヤリンク28は、その一端部がバックフレーム18aに連結軸28aによって回転可能に連結され、他端部はそこに固定されたロックピン28bと共にバックフレーム18a側に対して一定の範囲で可動するように連結されている。リヤリンク28とバックフレーム18aとの間には、引っ張りバネ30が掛けられている。この引っ張りバネ30の弾性力により、リヤリンク28が連結軸28aの軸心を支点として図面の反時計回り方向へ付勢されている。また、リヤリンク28には、後で説明する操作ケーブルC3のインナーケーブルエンドが連結されている。
【0016】
第1ロック機構40は、フレーム部材12側に固定されたストライカー41と、クッションフレーム20aに固定されたベース42に対して個々に回転可能に軸支されたフック45およびポール46によって構成されている。ストライカー41は、ロッド素材をアーチ形状に曲げたもので、フレーム部材12の補強ロッド12cに溶接によって固定されている。ベース42は、クッションフレーム20aの後部にボルト締結によって固定されている。
図4に、ベース42、フック45およびポール46がリヤリンク28と共に分解斜視図で示されている。この図面からも明らかなようにベース42は、シートクッション20の後方に向かって開放された凹部43を有する。この凹部43は、シートクッション20(クッションフレーム20a)が図1〜図3で示すように最も後方位置にあるとき、ストライカー41を受け入れている。また、ベース42は、リヤリンク28のロックピン28bが可動できるように係合したガイド孔44を有する。このガイド孔44は、互いに上部で連通し、そこからから下部に向かって二股状に分かれた第1ガイド孔44aと第2ガイド孔44bとによって構成されている。
【0017】
フック45は、ベース42に対し回転軸45aによって回転可能に軸支されている。このフック45が、ベース42の凹部43に受け入れたストライカー41に係合した状態に回転することで、このストライカー41を凹部43との間で挟持する。これにより、ストライカー41とベース42とが結合され、第1ロック機構40がロック状態となる。そして、フック45がストライカー41との係合を解除した状態に回転することにより、第1ロック機構40がアンロック状態となる。また、フック45は、その外周の一部に形成された係止爪45bを有する。
ポール46は、ベース42におけるフック45の隣接箇所で回転軸46aによって回転可能に軸支されている。このポール46は、フック45の係止爪45bに係合して該フック45をロック状態に保持する係止爪46bを有する。また、フック45とポール46との間にはロックバネ48が掛けられている。このロックバネ48の弾性力により、フック45は回転軸45aの軸心を支点として図面の反時計回り方向へ付勢され、同時にポール46は回転軸46aの軸心を支点として時計回り方向へ付勢されている。
【0018】
ポール46は、上方に向かって開放されたロック凹部46cを有する。このロック凹部46cは、リヤリンク28のロックピン28bと係合可能である。すなわち、ポール46が既に述べたようにフック45をロック状態に保持している回転位置にあり、かつ、リヤリンク28のロックピン28bがベース42の第1ガイド孔44a内において所定ストロークを超えて下方へ移動したときに、ロックピン28bとロック凹部46cとが係合するようになっている。これら相互の係合により、ベース42とロックピン28bとを結合したロック状態を形成することができる。
このように、リヤリンク28のロックピン28bとポール46のロック凹部46cとの係合により、シートクッション20側に対するリヤリンク28の可動をロックすることが可能な第2ロック機構50が構成されている。つまり、第1ロック機構40のポール46は、第2ロック機構50の構成部材をも兼用しており、ロック凹部46cを有するポール46が本発明における第2ロック機構の「ロック部材」に相当する。
【0019】
ここで、操作ケーブルC1〜C4について説明する。
操作ケーブルC1は、そのインナーケーブルが既に述べたように操作レバー22に連結され、途中で1本の操作ケーブルC2と2本の操作ケーブルC3とに分岐されている(図1)。そして、操作ケーブルC1および操作ケーブルC2により、操作レバー22とリクライニング装置14の操作レバー14cとの間の配索が行われている。また、操作ケーブルC1および2本の操作ケーブルC3により、操作レバー22と左右のリヤリンク28との間の配策がそれぞれ行われている。なお、操作ケーブルC4は、後述するウォークイン操作時に連動する部材とスライドロック部16cのロック解除レバー16dとの間に配索されている。
【0020】
つづいて、主として図5〜図7によってシート10への着座状態においてシートバック18の傾きを調整するための通常のリクライニング操作について説明する。
シート10は、シートバック18の傾きによって図5で示すニュートラル状態、図6で示すアップライト状態、図7で示す後倒し状態がある。シート10のニュートラル状態とは、例えば図2および図3で示す場合と同様に、シート10に乗員が着座して通常に使用している状態である。アップライト状態とは、後で説明するチルトダウン操作状態からシートバック18を起立させたときに、リクライニング装置14が最初にロックされた状態である。後倒し状態とは、シートバック18を後方へ最も倒した状態である。
シート10が図5のニュートラル状態にあるとき、第1ロック機構40はロック状態に保持され、第2ロック機構50はアンロック状態に保持されている。第1ロック機構40については、ベース42の凹部43に受け入れたストライカー41にフック45が係合したロック状態にあり、かつ、ポール46の係止爪46bがフック45の係止爪45bに係合してフック45がロック状態に保持されている。これにより、フレーム部材12側のストライカー41とシートクッション20(クッションフレーム20a)側のベース42とが結合され、シートクッション20はフレーム部材12に対して前後方向へ移動できないようにロックされている。
【0021】
シート10を図5のニュートラル状態から図6のアップライト状態、あるいは図7の後倒し状態に操作するには、リクライニング装置14の操作レバー14cを直接操作して該リクライニング装置14のロックを解除する。その状態で、シートバック18をリクライニング装置14の主軸14a回りに回転させて前方あるいは後方へ倒した後、操作レバー14cを解放すことによってリクライニング装置14が再びロックされる。この結果、シートバック18が図6あるいは図7の傾きに調整されて保持される。
このようにシートバック18の傾きを調整する通常のリクライニング操作においては、リヤリンク28のロックピン28bはベース42の第1ガイド孔44aに沿って図6あるいは図7の位置に移動するだけである。つまり、リヤリンク28とシートクッション20とをロックすることが可能な第2ロック機構50は、アンロック状態のままである。したがって、通常のリクライニング操作時にはシートクッション20を前後方向へ移動させることなく、シートバック18だけを作動させることができる。
【0022】
つぎに、シート10のチルトダウン操作について説明すると、図5のニュートラル状態において前述の場合と同様にリクライニング装置14のロックを解除し、シートバック18を図6のアップライト状態よりもさらに前方へ倒して図8で示す切り替え状態とする。これに連動してリヤリンク28のロックピン28bが、第1ガイド孔44aの下端までフルストロークする。このストロークの途中でロックピン28bがポール46のロック凹部46cに係合し、該ポール46をロックバネ48の付勢力に抗して図面の反時計回り方向へ回転させる。これにより、ポール46の係止爪46bがフック45の係止爪45bから外れるため、フック45に対するポール46の拘束が解除される。つまり、第1ロック機構40はロック解除が可能な状態となる。
また、図8で示す切り替え状態では、ロックピン28bがポール46のロック凹部46cに係合し、ベース42とロックピン28bとが結合される。これによって第2ロック機構50がロック状態に切り替えられたことになり、シートクッション20に対してリヤリンク28が可動できないようにロックされる。
【0023】
そこで、シートバック18を図8の状態からさらに前方へ倒すことにより、リヤリンク28を通じてシートクッション20が前方へ押されて移動する。これに伴い、ベース42の凹部43とストライカー41とが相対的に離れ、それと並行してフック45がロックバネ48の付勢力によって図面の反時計回り方向へ回転する。この状態においてストライカー41に対するフック45の係合が外れ、ストライカー41とベース42との結合が完全に解除される。つまり、第1ロック機構40はアンロック状態に切り替えられる。
シートバック18をさらに前方へ倒すことにより、シートクッション20がさらに前方へ移動しながら沈み込むように作動する。そして、シートバック18はシートクッション20の上に重合させた状態に倒し込まれ、シート10は図9で示すチルトダウン状態となる。なお、第1ロック機構40のアンロック状態におけるフック45は、その外周面がポール46の側面で受け止められた回転位置に保持されている(図9)。
【0024】
シート10を図9のチルトダウン状態から通常の使用状態に戻すには、既に説明したようにリクライニング装置14の操作レバー14cを直接操作して該リクライニング装置14のロックを解除する。その状態で、シートバック18をリクライニング装置14の主軸14a回りに後方へ引き起こして図8で示す切り替え状態にすると、ストライカー41とベース42とが相対的に接近し、該ベース42の凹部43にストライカー41が受け入れられる。このときのストライカー41によってフック45が回転力を受け、該フック45はロックバネ48の付勢力に抗して図面の時計回り方向へ回転し、ストライカー41に係合したロック状態となる。
一方、シートバック18を後方へ引き起こすことに伴ってロックピン28bが第1ガイド孔44aに沿って上方へ移動する。これにより、図8の切り替え状態を過ぎた時点でロックピン28bとポール46のロック凹部46cとの係合が解除される。したがって、第2ロック機構50がアンロック状態に切り替わり、リヤリンク28とシートクッション20との結合が解除される。これと同時にポール46がロックバネ48の付勢力によって図面の時計回り方向へ回転し、その係止爪46bがフック45の係止爪45bに係合してフック45をロック状態に保持する。これによって第1ロック機構40がロック状態に切り替わり、ストライカー41とベース42とが結合される。
【0025】
ロック状態にある第1ロック機構40によってフレーム部材12に対するシートクッション20の前後移動がロックされ、かつ、第2ロック機構50がアンロック状態にあることによってシートクッション20に対してリヤリンク28が可動できるので、シートクッション20を移動させることなく、シートバック18だけを後方へ作動させることができる。そして、図6のアップライト状態においてリクライニング装置14のフリーゾーンが終わり、該リクライニング装置14がロックされる。
【0026】
つづいて、シート10のウォークイン操作について説明すると、図5のニュートラル状態において図1および図2で示されているバックフレーム18aの肩口に設けられている操作レバー22を操作する。これにより、操作ケーブルC1,C2を通じてリクライニング装置14の操作レバー14cが操作されてリクライニング装置14のロックが解除される。また、操作ケーブルC1,C3を通じてリヤリンク28が引っ張りバネ30の付勢力に抗して引っ張られる。これにより、図10で示すようにリヤリンク28のロックピン28bがガイド孔44における第1ガイド孔44aから第2ガイド孔44bに通じる上方部に移動する。
この状態において、シートバック18を前方へ倒すと、これに伴ってロックピン28bは第2ガイド孔44bに沿って移動するので、ロックピン28bがポール46に干渉することはない。したがって、第1ロック機構40はロック状態のままであり、シートクッション20を前方へ移動させることなく、シートバック18を図11で示す前傾状態まで倒すことができる。
【0027】
ロックピン28bが第2ガイド孔44bの下端部に達して受け止められることにより、シートバック18は図11の前傾角度(ウォークイン角度)で規制される。また、このときのシートバック18の作動に連動する部材により、操作ケーブルC4を通じてスライドレール16におけるスライドロック部16cのロック解除レバー16dが操作され、該スライドロック部16cのロックが解除される。これにより、フレーム部材12(シート10)を前方へスライドさせることができ、シート10はウォークイン状態となる。
このようにウォークイン操作においては、チルトダウン操作の場合と異なり、シートバック18の前傾操作によってもシートクッション20が前方へ移動することなく、そのままの位置に保持される。したがって、シートクッション20が移動しない分、シート10を前方へ大きくスライドさせることができ、ウォークイン状態での乗降性を高めることができる。
【0028】
なお、シートバック18を図6のアップライト状態から図7の後倒し状態までのどの位置に倒した状態でも、操作レバー22の操作によってリヤリンク28のロックピン28bをガイド孔44における第1ガイド孔44aから第2ガイド孔44bに通じる上方部に移動させることができる。したがって、図5のニュートラル状態でなくてもウォークイン操作は可能である。
さて、ウォークイン状態でのリクライニング装置14はフリーゾーンにあり、スライドロック部16cはロックが解除状態のままである。そこで、シート10をウォークイン状態から通常の使用状態に戻すには、シート10を後方へスライドさせるとともに、シートバック18をリクライニング装置14の主軸14a回りに後方へ引き起こす。これにより、リクライニング装置14のフリーゾーンが終わる図6のアップライト状態においてリクライニング装置14がロックされる。これと並行してスライドロック部16cのロック解除レバー16dに対する操作力が解除され、このスライドロック部16cがロックされる。
【0029】
ウォークイン操作時において、上述のように操作ケーブルC4を通じてスライドロック部16cのロック解除レバー16dに操作力を与える手段としては、例えば図12に示す機構を採用することができる。この機構は、ベース42のガイド孔44の近傍において、支持軸62の軸心回りに回転するように設けられた作動レバー60を備えている。この作動レバー60の一端部は、ウォークイン操作によってリヤリンク28のロックピン28bが第2ガイド孔44bの下端近くまで移動したときに、このロックピン28bと干渉するように位置している。また、作動レバー60の他端部には、ロック解除レバー16dに連結されている操作ケーブルC4のインナーケーブルエンドが連結されている。
この構成により、シートバック18が図11で示す前傾状態まで倒されると、ロックピン28bが第2ガイド孔44bの下端近くに達して作動レバー60と干渉し、この作動レバー60を支持軸62の軸心回りに回転させる。この作動レバー60の回転により、操作ケーブルC4を通じてスライドロック部16cのロック解除レバー16dが操作され、該スライドロック部16cのロックが解除される。
【0030】
以上のように構成されたシート10にあっては、着座状態でシートバック18の傾きを調整する通常のリクライニング操作時には、シートバック18だけを作動させ、シートクッション20は前後方向へ移動しないようにフロア側のフレーム部材12にロックしているので、シートクッション20のガタツキなども抑えて使用感が良好になる。そして、一方ではシートバック18を前方へ倒し込むことに連動してシートクッション20を前方へ移動させる、といったチルトダウン操作、およびウォークイン操作を適正に成立させている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】車両用シートのフレーム構造を表した斜視図
【図2】車両用シートの側面図
【図3】図2の一部を拡大して表した側面図
【図4】ロック機構の主要部材をリヤリンクと共に表した分解斜視図
【図5】シートのニュートラル状態を表した側面図
【図6】シートのアップライト状態を表した側面図
【図7】シートの後倒し状態を表した側面図
【図8】シートの切り替え状態を表した側面図
【図9】シートのチルトダウン状態を表した側面図
【図10】シートのニュートラル状態においてウォークイン操作の初期段階を表した側面図
【図11】シートのウォークイン状態を表した側面図
【図12】スライドレールにおけるロック解除機構の一例を表した構成図
【符号の説明】
【0032】
10 シート
12 フレーム部材
14 リクライニング装置
18 シートバック
20 シートクッション
24 フロントリンク
28 リヤリンク
28b ロックピン
40 第1ロック機構
41 ストライカー
42 ベース
45 フック
46 ポール
50 第2ロック機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リクライニング装置の操作によってシートバックを前方へ倒し込むと、それに連動してシートクッションを前方へ移動させ、このシートクッション上にシートバックを重合させるチルトダウン操作が可能な車両用シートであって、
シートバックがリクライニング装置によって支持されたフレーム部材と、このフレーム部材に対してシートクッションを前後方向への移動可能に支持するフロントリンクと、一端部がシートバックに対して回転可能に結合され、他端部がシートクッションに対して一定の範囲で可動するように連結されたリヤリンクと、フレーム部材に対するシートクッションの前後方向への移動をロック可能に配置された第1ロック機構と、シートクッションに対するリヤリンクの可動をロック可能に配置された第2ロック機構とを備え、
着座状態においてシートバックの傾きを調整するリクライニング装置の通常操作時には、第1ロック機構がロック状態に保持されるとともに、第2ロック機構がアンロック状態に保持され、チルトダウン操作時には、第1ロック機構がアンロック状態に保持されるとともに、第2ロック機構がロック状態に保持されるように設定されている車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用シートであって、
シートバックを所定の前傾位置に倒すとともに、フレーム部材をフロアに対して前方へスライドさせるウォークイン操作が可能であり、このウォークイン操作時には、第1ロック機構がロック状態に保持されるとともに、第2ロック機構がアンロック状態に保持されるように設定されている車両用シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された車両用シートであって、
第1ロック機構は、フレーム部材に固定されたストライカーと、シートクッションに固定されたベースに対して回転可能に軸支され、その回転によってベースとストライカーとを結合したロック状態、あるいは結合を解除したアンロック状態を形成するフックと、ベースに対して回転可能に軸支され、フックに対して係合可能な位置に回転することにより、フックをロック状態に保持するポールとによって構成され、
第2ロック機構は、リヤリンクのシートクッション側の端部に固定されたロックピンと、ベースに対して回転可能に軸支され、その回転によってベースとロックピンとを結合したロック状態、あるいは結合を解除したアンロック状態を形成するロック部材とによって構成されている車両用シート。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用シートであって、
第1ロック機構を構成するポールと、第2ロック機構を構成するロック部材とが単一部材によって構成されている車両用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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