説明

車両用ディスクブレーキ機構

【課題】 小さなストロークでも効率的な倍力機構が得られるMリンク倍力機構を採用しながら、パッドの過剰な摩耗が発生してもMリンクの反転が防止されて倍力機能を確実に維持できる車両用ディスクブレーキ機構を提供することを目的とする。
【解決手段】 ロッド14に所定角度にて一端部が軸支された一対の対向するリンク7、7の各他端部をブレーキアーム3、3の基端部に軸支7AしてMリンクを構成し、ブレーキアーム3の各揺動軸15をボディに軸支されて揺動可能な一対の調整リンク6、6の揺動端部に軸支した。パッドの過剰な摩耗が発生した場合には、ブレーキアーム3の各揺動軸15を軸支した一対の調整リンク6、6の間に適宜の調整機構を介設してそれらの間の距離を調整することを可能にするので、ブレーキアームの各揺動軸15、15間の距離を適正に調整でき、パッドが摩耗してもブレーキアーム3の過剰揺動が防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータにより軸動するロッドを介して対向する一対のブレーキアームを揺動させ、これらブレーキアームの揺動端部に配設したパッドをディスクロータに押圧作動させる車両用ディスクブレーキ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において使用されるディスクブレーキ装置にあって、特に鉄道車両用のエアーディスクブレーキでは、ブレーキが取り付けられるばね上とディスクロータが取り付けられるばね下との相対移動が大きいことから、これに対応できる機構および大きな制動力が要求され、一般的には大きな相対移動に容易に適応でき制動力も大きなリンクの連結による梃子式のブレーキが知られている(例えば下記特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2006−315422号公報(公報要約書参照)
【特許文献2】特開昭58−146728号公報(公報特許請求の範囲参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献について簡単に説明する。従来例1として図8に示した前記特許文献1に開示された鉄道車両用ディスクブレーキ装置は、ディスクDを挟圧するところのブレーキパッドを取着したブレーキヘッド107、107がそれぞれ取り付けられた2つのキャリパレバー106、106と、進出方向または退避方向の少なくともいずれか一方へ駆動される可動ロッド115を備えるアクチュエータ114とを備え、また、このディスクブレーキ装置101には、可動ロッド115に枢結される回転伝達アーム116と、この回転伝達アーム116に係合する伸縮軸110を備える。アクチュエータ114の進出に伴う回転伝達アーム116の押出し回転により、ネジ機構によってネジ体113が外方へ押し出されて、キャリパレバー106、106を支持ピン105の回りにて揺動させ、ブレーキヘッド107、107がディスクDを挟圧して、ブレーキ動作が行われる。ブレーキパッドが摩耗すると、回転伝達アーム116の過剰ストロークにより、基体に固定された隙間調整棒121にカム板119の切欠き端部が接触して、ウォームギヤ117が回転し、隙間調整ギヤ118が回転して自動隙間調整がなされる。
【0004】
また、従来例2として図9に示した前記特許文献2に開示されたディスクブレーキは、図9(B)に示すように、交差角度を持って連結ピン215にて連結する一対の作動リンク211、212と、該一対の作動リンク211、212の両側にそれぞれピン結合(213、214)する一対のレバー201、202と、車体203に固定されて前記一対のレバー201、202の中間部を軸着するブラケット205と、該一対のレバー201、202の先端部に取り付けられて車輪と共に回転するディスク218を挟圧するインナーパッド208とアウターパッド207とを有するディスクブレーキにおいて、前記ブラケット205とレバー201、202との間の制動トルクの受け面に緩衝部材219、220(図9(A)を介装したことを特徴とするものである。
【0005】
これらの構成によって、前記図8に開示された第1従来例のものでは、可動ロッド115の進出動作は、回転伝達アーム116を介して伸縮軸110の伸張動作に変換され、かつ、その力を増力されてキャリパレバー106、106に伝達されることとなった。しかも、増力変換機構を構成する回転伝達アーム116に、カム板119、切欠部、ウォームギヤ117、隙間調整ギヤ118等からなる隙間調整機構が設けられているため、ディスクDとブレーキパッドとの隙間を自動調整できる高機能なディスクブレーキ装置101のコンパクトな構成が提供できる。また、前記図9に開示された第2従来例のものでは、いわゆるMリンクを構成する、一対の作動リンク211、212と一対のレバー201、202との共動作用による倍力機構により、ブレーキケーブル216の少ないストロークでも一対のレバー201、202により大きな制動力が得られることとなった。
【0006】
しかしながら、これらの従来例にあって、前記第1従来例のものでは、アクチュエータ114で使用されるエアーは通常圧の600〜700kPa程度であるため、鉄道車両に適合させて大きな制動力を得るには、エアーチャンバの断面積を大きくしたりブレーキアームのリンク比を大きく採る等の設計がなされている。そのため、ブレーキ機構の装着スペースを大きく確保する必要があって、鉄道車両用の台車も大型化してしまう虞れがあった。また、前記第2従来例のものでは、Mリンクを採用して大きな制動力が得られることとなったものの、一対のレバー201、202が1つのブラケット205の腕205a、205bに軸支されているので、制動時の衝撃音を抑制するために、ブラケット205とレバー201、202との間の制動トルクの受け面に緩衝部材219、220を介装する必要があり、構造が複雑になる他、インナーパッド208とアウターパッド207とが摩耗した場合には、ブレーキケーブル216の過剰ストロークに起因してMリンクを構成する一対の作動リンク211、212が反転して倍力機構が機能しなくなる虞れがあっった。
【0007】
そこで本発明は、前記従来の車両用ディスクブレーキ機構の諸課題を解決して、小さなストロークでも効率的な倍力機構が得られるMリンク倍力機構を採用しながら、パッドの過剰な摩耗が発生してもMリンクの反転が防止されて倍力機能を確実に維持できる車両用ディスクブレーキ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため本発明は、アクチュエータにより軸動するロッドを介して対向する一対のブレーキアームを揺動させ、これらブレーキアームの揺動端部に配設したパッドをディスクロータに押圧作動させる車両用ディスクブレーキ機構において、前記ロッドに所定角度にて一端部が軸支された一対の対向するリンクの各他端部を前記ブレーキアームの基端部に軸支し、これらリンクおよびブレーキアームがM字形を呈するように配列するとともに、前記ブレーキアームの各揺動軸をボディに軸支されて揺動可能な一対の各調整リンクの揺動端部に軸支したことを特徴とする。また本発明は、前記一対の調整リンクの揺動部間に、前記ロッドの過剰ストロークに連動して前記調整リンク間の距離を短縮調整するような自動隙間調整機構を介設したことを特徴とする。また本発明は、前記自動隙間調整機構は、前記ロッドの軸動により揺動するアジャスタアームと、該アジャスタアームに連動して軸動するアジャスタロッドと、該アジャスタロッドとラチェット噛合するアジャスタスクリュと、該アジャスタスクリュの軸方向両側から螺合し前記一対の調整リンクにそれぞれ軸支された一対のアジャスタナットとから構成されたことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アクチュエータにより軸動するロッドを介して対向する一対のブレーキアームを揺動させ、これらブレーキアームの揺動端部に配設したパッドをディスクロータに押圧作動させる車両用ディスクブレーキ機構において、前記ロッドに所定角度にて一端部が軸支された一対の対向するリンクの各他端部を前記ブレーキアームの基端部に軸支し、これらリンクおよびブレーキアームがM字形を呈するように配列するとともに、前記ブレーキアームの各揺動軸をボディに軸支されて揺動可能な一対の各調整リンクの揺動端部に軸支したことにより、Mリンク倍力機構を採用して小さなストロークでも効率的な倍力機構が得られるとともに、パッドの過剰な摩耗が発生した場合には、ブレーキアームの各揺動軸を軸支した一対の調整リンクの間に適宜の調整機構を介設してそれらの間の距離を調整することを可能にするので、ブレーキアームの各揺動軸間の距離を適正に調整でき、パッドが摩耗してもブレーキアームの過剰揺動すなわちロッドの過剰ストロークによりMリンクが反転して倍力機能が失われることがなくなる。
【0010】
また、前記一対の調整リンクの揺動部間に、前記ロッドの過剰ストロークに連動して前記調整リンク間の距離を短縮調整するような自動隙間調整機構を介設した場合は、パッドの摩耗によりロッドが過剰ストロークを生じることにより、自動的に前記一対の調整リンク間の間隔すなわち一対のブレーキアームの揺動軸間の間隔が短縮調整されるので、パッドが摩耗しても自動的にブレーキアームの過剰揺動すなわちロッドの過剰ストロークが抑制調整されて、Mリンクが反転して倍力機能が失われることがなくなる。しかも、ロッドのストローク側を調整せずに、Mリンクを構成するブレーキアームの揺動軸側の間隔調整によりストローク調整が行われるので、Mリンクのリンク角度の変化が最小限で済み、倍力機構の変動も最小限で済む。さらに、前記自動隙間調整機構は、前記ロッドの軸動により揺動するアジャスタアームと、該アジャスタアームに連動して軸動するアジャスタロッドと、該アジャスタロッドとラチェット噛合するアジャスタスクリュと、該アジャスタスクリュの軸方向両側から螺合し前記一対の調整リンクにそれぞれ軸支された一対のアジャスタナットとから構成された場合は、アジャスタアームやアジャスタロッドおよびアジャスタスクリュ等の機械的な機構の組合せにより、少ないロッドのストロークにても大きな調整ストロークを機械的に発生させて確実かつ大きな調整力を自動的に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明に係る車両用ディスクブレーキ機構を実施するための好適な形態を図面に基づいて説明する。本発明の車両用ディスクブレーキ機構の基本的な構成は、図1に示すように、アチュエータであるエアーチャンバ8により軸動するロッド14を介して対向する一対のブレーキアーム3、3を揺動させ、これらブレーキアーム3、3の揺動端部に配設したパッド16、16をディスクロータ18に押圧作動させる車両用ディスクブレーキ機構において、前記ロッド14に所定角度にて一端部が軸支7Bされた一対の対向するリンク7,7の各他端部を前記ブレーキアーム3,3の基端部に軸支7A、7Aし、これらリンク7、7およびブレーキアーム3、3がM字形を呈するように配列するとともに、前記ブレーキアーム3、3の各揺動軸15、15をボディ1に軸支13、13されて揺動可能な一対の各調整リンク6、6の揺動端部に軸支したことを特徴とする。
【実施例1】
【0012】
本発明の車両用ディスクブレーキ機構について以下に詳述する。図2および図4に示すように、キャリパボディ1は、図示省略の車体に支持されたサポート2に回転抑制(制動時のディスクロータへの連れ回り防止)リンク4を介してボルト等により固定される。図1(A)に示すように、キャリパボディ1内には主ブレーキ用のエアーチャンバ8が配設される。好適には空気圧等の流体圧(正圧あるいは負圧のいずれも可能)を動力源とする。エアーチャンバ8は、内部に配設されたコイルばねの復元力によりブレーキ解除方向に付勢されている。これらのコイルばねをダイヤフラムを介して対向側に配設された正圧により圧縮するか、コイルばね側に負圧を導入してコイルばねを圧縮するかして、ブレーキ動作が行われる。エアーチャンバ8により軸動するロッド14を介して対向する一対のブレーキアーム3、3を揺動させ、これらブレーキアーム3、3の揺動端部に配設したパッド16、16をディスクロータ18に押圧作動させて制動力を得る。各パッド16、16は、ブレーキアーム3の揺動端部にホルダ軸17により首振り自在に軸支されたパッドホルダ5の内側に多数個が添設される。
【0013】
本発明では、エアーチャンバ8はディスクロータ18の回転軸に直交して動作する。すなわちエアーチャンバ8の伸縮に伴って軸動する前記ロッド14はディスクロータ18の回転軸に直交して配置される。ロッド14の中間部には所定のリンク角(ロッド14とリンク7とのロッド進出側でのなす角度)を以て一対のリンク7、7(以下Mリンクという)の一端部がロッド軸支部7Bにより軸支される。これら一対の対向するMリンク7、7の各他端部を前記ブレーキアーム3,3の基端部にアーム軸支部7A、7Aにより軸支される。これらMリンク7、7およびブレーキアーム3、3がM字形を呈するように配列される。そして、前記ブレーキアーム3、3の各揺動軸15、15は、図1(B)に示すように、キャリパボディ1に調整リンク軸支部13、13により軸支された揺動可能な一対の各調整リンク6、6の揺動端部に軸支される。
【0014】
このように構成されているので、倍力機構として所定のリンク角θを有するMリンク7について、エアーチャンバ8によるロッド14の押圧力をFCとし、ブレーキアーム3の基端部(アーム軸端部7A近傍)を梃子として押す力FLとすると、

2FL=FC・tanθ・・・・(式1)

したがって、FL=(1/2)・FC・tanθであるので、ブレーキアーム3の基端部を直交方向に梃子として押す力FLは、リンク角θに比例し、θが大きい程、小さな力FCでかつ小さなストロークでロッド14が押されても倍力機構の倍率が高くなる。ブレーキアーム3は、Mリンク7との軸支点である基端部すなわちアーム軸支部7Aにて外方への力FLを受けると、その基端部が揺動軸15を揺動中心として拡開揺動し、その揺動端部にパッドホルダ5を介して配設されたパッド16をディスクロータ18の側面に押圧して制動動作が行なわれる。
【0015】
図1(B)に示すように、前記ブレーキアーム3の各揺動軸15は、キャリパボディ1に調整リンク軸支部13により軸支されて揺動可能な一対の調整リンク6の揺動端部に軸支される。このような構成により、パッド16に過剰な摩耗が発生した場合には、ブレーキアーム3の各揺動軸15を軸支した一対の調整リンク6、6の間に適宜の調整機構を介設してそれらの間の距離を調整することを可能にする。この調整機構としては後述する自動隙間調整機構を採用するのが好適であるが、ターンバックル形態の適宜の手動の調整機構でもよい。要は、ブレーキアーム3の揺動軸15がキャリパボディ1に軸支されるのではなく、キャリパボディ1に軸支されて揺動可能な調整リンク6の揺動端部に軸支されていることにより、ブレーキアーム3の揺動軸15は調整されるべくキャリパボディ1に対して相対移動可能に構成されていることである。
【0016】
図2(A)に示すように、ブレーキアーム3の基端部は二又状に形成され、ここにMリンク7の他端部がアーム軸支部7Aにて軸支される。ブレーキアーム3の中間部は、キャリパボディ1に調整リンク軸支部13によって軸支された逆さ門型形状の調整リンク6の揺動端部に揺動軸15によって軸支される。ブレーキアーム3の揺動端部には、2つのホルダ軸17によってパッドホルダ5が首振り自在に軸支される。この組付け状態を内側(図1(B)のC−C断面)から見たのが図3(A)である。図3(A)には後述する自動隙間調整機構(9、10:正確にはアジャスタアーム12やアジャスタロッド11等も含まれる)を調整するためのアジャスタアーム12、アジャスタロッド11およびアジャスタスクリュ9のラチェット歯9A等の連動機構を含む断面での状態が明瞭に示されている。図3(B)はエアーチャンバ8から外れた位置でのディスクブレーキ機構の断面図であり、図2(B)における自動隙間調整機構(9、10)が配設された断面位置と対向側にある。
【0017】
図2(B)は、図2(A)のB−B断面図であり、自動隙間調整機構(9、10)が配設された位置での断面図である。したがって、自動隙間調整機構(9、10)は、前記ロッド14によりMリンク7、7が揺動する揺動面から離れて偏位した位置にあることが理解される。自動隙間調整機構(9、10)は、中央部にラチェット歯9Aを有しその両側に互いに逆螺子を刻設したアジャスタスクリュ9と、該アジャスタスクリュ9の軸方向両側から螺合し、前記一対の調整リンク6の揺動部にそれぞれ調整リンク軸支部10Aにて軸支された一対の筒状のアジャスタナット10とから構成される。したがって、アジャスタスクリュ9を回動することによって、該アジャスタスクリュ9の両側から螺合する一対の筒状のアジャスタナット10、10を近接させたり離間させたりすることができる。それによって、調整リンク6をキャリパボディ1における調整リンク軸支部13を中心に調整揺動させてブレーキアーム3の揺動軸を近接・離間させることができる。
【0018】
図3(A)に示すように、丸棒状のロッド14において先端側が板状に形成された中間部にアーム軸支部7Aによって一対のMリンク7、7の一端部が軸支される。ロッド14の先端部近傍には、基端部がキャリパボディ1に支点12Aにて支持されたアジャスタアーム12が嵌挿されてアジャスタアーム軸支部7Cを構成する。この状態は図4のディスクブレーキ機構の平面図にても理解される。前記アジャスタアーム12の揺動端部にはアジャスタロッド11の基端部が連結される。詳細は後述するが、アジャスタロッド11の下端すなわち先端部にはアジャスタスクリュ9のラチェット歯9Aに歯合する歯部が形成される。図4はディスクブレーキ機構の平面図で、サポート2に対する回転抑制リンク4を介したキャリパボディ1の連結形態やブレーキアーム3とMリンク7、7との軸支形態、さらにはロッド14とアジャスタアーム12との連結形態やアジャスタアーム12とアジャスタロッド11との連結形態等が明瞭に理解される。
【0019】
図5〜図7の模式図により自動隙間調整機構の動作を説明する。図5は本発明のディスクブレーキ機構の制動動作開始前後の模式図である。図5(A)は制動操作の開始時(初期)、図5(B)は制動時を示すもので、エアーチャンバ8にエアーが導入されて上方への力(FC)によりロッド14が押し出されると、アーム軸支部7Bに軸支された一対のMリンク7、7を介してその他端部の7Aに外方(図面左右方向)への分力((1/2)・FC・tanθ)が加わる。これにより、一対のブレーキアーム3、3は揺動軸15を中心として上端部が拡開し、図5(B)に示すように、その揺動端部に配設されたパッド16、16にてディスクロータ18の側面を挟圧して制動が開始される。
【0020】
パッド16が摩耗していない正常な状態の間は、図6(A)(B)に示すように、前記ロッド14の軸動と連動するアジャスタアーム12の揺動により上下に軸動するアジャスタロッド11の下端部の歯部11A(図7(C)参照)と自動隙間調整機構におけるアジャスタスクリュ9のラチェット歯9Aとは歯合することなく摺接する。図6(B)は揺動軸15の制動動作の初期位置を示すもので、実線位置はパッド16の摩耗がない正常の状態、点線位置はパッド16の摩耗が進行した状態を示している。
【0021】
図7はパッド16の摩耗が進行した場合の、自動隙間調整機構によるブレーキアーム3における揺動軸15の位置の調整状態を示すものである。パッド16の摩耗が進行すると、ロッド14の上方へのストロークが過剰となる。それに伴い、図7(A)(C)に示すように、アジャスタロッド1が充分に上方へ引き上げられるために、アジャスタロッド11の下端部の歯部11Aがアジャスタスクリュ9のラチェット歯9Aと歯合するに到る。エアーチャンバ8内の復元ばねによりロッド14が後退(下方へ移動)して原位置に復帰するに際して、前記アジャスタロッド11の下端部の歯部11Aがラチェット歯9Aを一方向(矢印方向)に回動させる。これによって、図7(B)に示すように、アジャスタスクリュ9が回動してその両側に螺合するアジャスタナット10、10を近接動作させ、各調整リンク軸支部10Aを介して調整リンク6、6を各調整リンク軸支部13を中心として近接揺動させる。かくして、ブレーキアーム3の揺動軸15は点線の位置に調整される。
【0022】
このように、パッド16の摩耗が進行してロッド14のストロークが過剰となっても、自動的に前記一対の調整リンク6、6間の間隔すなわち一対のブレーキアームの揺動軸15、15間の間隔が短縮調整されるので、ブレーキアームの過剰揺動すなわちロッドの過剰ストロークが抑制調整されてロッドの過剰ストロークが補正され、Mリンクが反転して倍力機能が失われることがなくなる。しかも、ロッドのストローク側を調整せずに、Mリンクを構成するブレーキアームの揺動軸側の間隔調整によりストローク調整が行われるので、Mリンクのリンク角度の変化が最小限で済み、倍力機構の変動も最小限で済むことになる。
【0023】
以上、本発明の実施例について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、サポートおよびキャリパボディの形状、形式、アクチュエータとしてのエアーチャンバの形状、形式(正圧型、負圧型のいずれもが採用可能である。また、ダイヤフラム型、ピストン型等のものが採用可能である)、ロッドの形状、形式およびそのエアーチャンバとの連結形態、ブレーキアームの形状、形式、Mリンクの形状、形式およびMリンクとブレーキアームおよびロッドとの連結形態、Mリンクのリンク角度、パッドの形状、形式およびブレーキアームへの軸支形態(上下首振り形態等)、調整リンクの形状、形式およびキャリパボディへの軸支形態ならびにブレーキアームの揺動軸の軸支形態、一対の調整リンクの揺動部間に介設される自動隙間調整機構の形状、形式、ロッドと自動調整機構の連動形態(実施例のものの、ロッドの軸動により揺動するアジャスタアームと、該アジャスタアームに連動して軸動するアジャスタロッドと、該アジャスタロッドとラチェット噛合するアジャスタスクリュと、該アジャスタスクリュの軸方向両側から螺合し前記一対の調整リンクとから構成される他、エアーチャンバのダイヤフラムと連動するアジャスタロッドとラチェット歯を有するアジャスタスクリュとから構成したり、その他適宜の連動機構が採用され得る)等については適宜選定できる。実施例に記載の諸元はあらゆる点で単なる例示に過ぎず限定的に解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の車両用ディスクブレーキ機構を示すもので、図1(A)はMリンク部を含むエアーチャンバ中心部での断面で図2(A)のA−A断面図、図1(B)はブレーキアームの揺動軸が調整リンクの揺動端部に軸支された状態を示す一部断面図である。
【図2】同、図2(A)はディスクロータの軸方向から見たブレーキアームを含むディスクブレーキ機構の全体図、図2(B)は自動隙間調整機構の中心部を含む面での断面で図2(A)のB−B断面図である。
【図3】同、図3(A)はディスクブレーキ機構の組付け状態を内側から見た断面で図1(B)のC−C断面図、図3(B)はエアーチャンバから外れた位置でのディスクブレーキ機構の断面図である。
【図4】同、ディスクブレーキ機構の平面図である。
【図5】同、本発明のディスクブレーキ機構の制動動作開始前後の模式図である。
【図6】同、図6(A)はロッドの軸動と連動するアジャスタアームの揺動形態を示す模式図、図6(B)はブレーキアームの揺動軸の制動動作の初期位置を示す模式図である。
【図7】同、パッド16の摩耗が進行した場合の、自動隙間調整機構によるブレーキアームの揺動軸の位置の調整状態を示す模式図である。
【図8】第1従来例の鉄道車両用ディスクブレーキ装置の説明図である。
【図9】第2従来例のMリンク型のディスクブレーキの説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 キャリパボディ
2 サポート
3 ブレーキアーム
5 パッドホルダ
6 調整リンク
7 Mリンク
7A アーム軸支部
7B ロッド軸支部
7C アジャスタアーム軸支部
8 アクチュエータ(エアーチャンバ等)
13 調整リンク軸支部
14 ロッド
15 ブレーキアーム揺動軸
16 パッド
17 ホルダ軸
18 ディスクロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータにより軸動するロッドを介して対向する一対のブレーキアームを揺動させ、これらブレーキアームの揺動端部に配設したパッドをディスクロータに押圧作動させる車両用ブレーキ機構において、前記ロッドに所定角度にて一端部が軸支された一対の対向するリンクの各他端部を前記ブレーキアームの基端部に軸支し、これらリンクおよびブレーキアームがM字形を呈するように配列するとともに、前記ブレーキアームの各揺動軸をボディに軸支されて揺動可能な一対の各調整リンクの揺動端部に軸支したことを特徴とする車両用ディスクブレーキ機構。
【請求項2】
前記一対の調整リンクの揺動部間に、前記ロッドの過剰ストロークに連動して前記調整リンク間の距離を短縮調整するような自動隙間調整機構を介設したことを特徴とする請求項1に記載の車両用ディスクブレーキ機構。
【請求項3】
前記自動隙間調整機構は、前記ロッドの軸動により揺動するアジャスタアームと、該アジャスタアームに連動して軸動するアジャスタロッドと、該アジャスタロッドとラチェット噛合するアジャスタスクリュと、該アジャスタスクリュの軸方向両側から螺合し前記一対の調整リンクにそれぞれ軸支された一対のアジャスタナットとから構成されたことを特徴とする請求項2に記載の車両用ディスクブレーキ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−133462(P2009−133462A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311881(P2007−311881)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】