説明

車両用ドライブレコーダおよび記録情報管理方法

【課題】誤動作によりトリガが頻繁に発生する場合でも重要な画像データが消去されるのを防止し、更に重要な画像データが存在する箇所の特定を容易にする。
【解決手段】「トリガ記録タイプ」又は「常時記録タイプ」の車両用ドライブレコーダであって、イベント発生を検出してから少なくとも所定時間、運転手の運転操作に応じて変化する特定の車両状態の発生を監視する特定状態監視部と、前記イベント発生を検出してから前記所定時間以内に前記特定の車両状態にならない場合には、前記イベント発生に対応して記録された特定データに対して、前記イベント発生が無効であることを表すキャンセル情報を付加するキャンセル情報付加部とを備える。前記特定状態監視部は、ハザードランプ点滅開始操作、ウインカー点滅開始操作、ブレーキ操作の少なくとも1つを監視して前記特定の車両状態を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドライブレコーダおよび記録情報管理方法に関し、特に誤動作の影響を排除するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載することを想定して開発された車両用ドライブレコーダは、車載カメラを備えており、一般的に、交通事故のような異常が発生した時を含む短い時間帯の状況を画像の情報として自動的に記録し保存する。交通事故などの異常発生の有無については、加速度センサなどを用いることにより自動的に識別することが可能である。
【0003】
また、大容量の記憶装置を搭載したドライブレコーダの場合には、車載カメラにより撮影された画像を連続的に常時記録する場合もある。この場合、異常が発生した時に、異常の発生を表す印(フラグ)の情報が画像と共に記録される。
【0004】
このようなドライブレコーダは、自動車の運転中に危険な状況が発生した時や実際に交通事故が発生したような場合には、その時点の前後のタイミングにおける状況を画像として確実に記録することができる。従って、ドライブレコーダによって記録された情報は、事故の状況を調査する際に証拠として利用したり、安全運転の管理や分析のために利用することができる。
【0005】
ところで、例えば加速度センサが異常に大きな加速度を検知した時(検出値が予め定めた閾値を超えた時)に、これをトリガとして画像の記録を開始するドライブレコーダの場合には次のような誤動作が生じる可能性がある。すなわち、車両が道路の特別な箇所の路面、例えば橋の継ぎ目のある箇所や、路面補修跡による段差やうねりがある箇所を高速で通過する場合に、事故のような異常が発生していないにもかかわらず、大きな加速度が検知され、これをトリガとして画像の記録が開始される。
【0006】
また、例えば特許文献1に開示されたドライブレコーダにおいては、急カーブの走行時に通常のハンドル操作によっても車両の左右方向に大きな加速度が働き、車両に大きな加速度がかかったと誤検出されてしまうことが問題であるとしている。
【0007】
上記のような目的外の条件でトリガが発生すると、重要なデータの他に不必要な画像データまで大量に記録されることになる。しかし、一般的なドライブレコーダの場合には記録媒体の容量が比較的小さい場合が多いので、残りの記録容量が不足する状態になると、古いデータを消去して新しいデータで上書きせざるを得ない。その結果、実際に過去に発生した事故を記録した重要な画像データが不要な新しいデータによって上書きされ削除されてしまう。
【0008】
また、大容量の記憶装置を搭載し、撮影した画像データを常時記録するドライブレコーダの場合であっても次のような問題がある。すなわち、前述のトリガによってそれが発生する毎に画像にフラグが記録されることになるが、事故等の異常が発生していない時でも頻繁にトリガが発生すると、重要でない箇所を示す大量のフラグが記録されることになる。その結果、記録された大量の(長時間の)画像データの中から、事故発生時の状況を表す特定箇所を探そうとする場合に、記録されている大量のフラグのそれぞれの箇所を全てチェックしなければならず、作業の時間や手間が長くなるのは避けられない。
【0009】
特許文献1においては、誤動作の対策として、車両がカーブを走行中の時には、センサの出力と閾値との関係を自動的に調整することを提案している。つまり、誤動作が生じにくくなるように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−61681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の技術は、車両がカーブを走行中に発生する誤動作の対策としては利用できるが、車両が橋の継ぎ目のある箇所や、路面補修跡による段差やうねりがある箇所を高速で通過する場合に発生する誤動作の対策としては利用できない。また、検出の誤動作を減らすために、大きな加速度か否かを識別するための閾値を大きめに調整すると、実際に事故等の異常が発生した時に、検出に時間遅れが生じたり、検出できない状態になる可能性もある。
【0012】
いずれにしても、誤動作によってトリガが頻繁に発生すると、上記のように重要な画像データの記録を残すことができない場合がある。また、常時記録の場合には、記録されたデータから重要な画像データを探す作業が困難になる。
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、誤動作によってトリガが頻繁に発生する場合であっても、重要な画像データが消去されるのを防止することおよび重要な画像データが存在する箇所の特定を容易にすることが可能な車両用ドライブレコーダおよび記録情報管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用ドライブレコーダは、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) 少なくとも車載カメラにより撮影された画像のデータを、所定のイベント発生を契機として一時的に記録する、もしくは前記画像のデータを常時記録して前記イベント発生のタイミングで所定のフラグを記録する車両用ドライブレコーダであって、
前記イベント発生を検出してから少なくとも所定時間、運転手の運転操作に応じて変化する特定の車両状態の発生を監視する特定状態監視部と、
前記イベント発生を検出してから前記所定時間以内に前記特定の車両状態にならない場合には、前記イベント発生に対応して記録された特定データに対して、前記イベント発生が無効であることを表すキャンセル情報を付加するキャンセル情報付加部と
を備えること。
(2) 上記(1)に記載の車両用ドライブレコーダであって、
所定の記録媒体上のデータ記録用の空き領域が不足する場合に、既に記録されているデータの中で、前記キャンセル情報が付加されているデータを、それ以外のデータよりも優先的に削除して新たな空き領域を生成する空き領域生成部
を更に備えること。
(3) 上記(2)に記載の車両用ドライブレコーダであって、
前記空き領域生成部は、前記キャンセル情報が付加されているデータが複数存在する場合には、それらの複数のデータの中で、記録した時刻が古いデータをより優先的に削除すること。
(4) 上記(2)に記載の車両用ドライブレコーダであって、
前記空き領域生成部は、前記キャンセル情報が付加されているデータが1つだけ存在する場合には、前記キャンセル情報が付加されていないデータの中で記録した時刻が古いデータを優先的に削除すること。
【0015】
上記(1)の構成の車両用ドライブレコーダによれば、運転者の操作を監視することにより、交通事故等の異常が発生した状況か否かを容易に区別できる。
また、上記(2)の構成の車両用ドライブレコーダによれば、前記イベント発生を契機として記録された画像等のデータについて、重要なデータとそれ以外のデータとを区別することが可能になる。すなわち、実際に交通事故等の異常が発生していれば、前記イベント発生を検出してから所定時間以内に、異常な状態に対処するために運転手が特定の運転操作(例えばハザードランプ点滅開始操作)を行うので、車両状態に特定の変化が現れる。一方、車両が橋の継ぎ目のある箇所や、路面補修跡による段差やうねりがある箇所を高速で通過した場合のように異常が発生していなければ、車両状態に特定の変化は生じないので該当するデータにはキャンセル情報が付加される。従って、キャンセル情報の有無により該当するデータの重要度が高いか否かを区別できる。キャンセル情報が付加されたデータのみを消去対象にすれば、重要なデータが削除されるのを防止できる。また、常時記録の場合には、キャンセル情報が付加されていないデータのみを検索対象とすることにより、重要度の高いデータの所在を容易に検索できる。
また、上記(3)の構成の車両用ドライブレコーダによれば、誤動作によって前記イベント発生が頻繁に検出される場合であっても、重要度の低いデータ、すなわち前記キャンセル情報が付加されているデータを優先的に削除してデータ記録用の領域に新たな空き領域を形成することができる。従って、重要度の高いデータを長期間にわたって保存することができ、新しいデータの記録も継続できる。
また、上記(4)の構成の車両用ドライブレコーダによれば、重要度の高いデータが誤って削除される可能性を小さくすることができる。すなわち、重要度の低いデータとみなされて前記キャンセル情報が付加されたデータであっても、実際に交通事故等の異常が発生した場合に、それの前兆となる状況を撮影したデータである可能性がある。しかし、時間的に古いデータであれば、重要度は低い(事故との関連性が小さい)と考えられるので消去しても問題はない。
【0016】
前述した目的を達成するために、本発明に係る記録情報管理方法は、下記(5)を特徴としている。
(5) 上記(1)に記載の車両用ドライブレコーダにより所定の記録媒体に記録された情報を読み出して管理するための記録情報管理方法であって、
前記記録媒体に記録されたデータの中から前記イベント発生のタイミングを表す所定のフラグが記録された領域を検索する場合に、該当する時系列データの前記フラグのタイミングから所定時間以内に前記キャンセル情報が存在するか否かを識別し、
前記キャンセル情報が存在する場合には該当するフラグのデータを検索対象から除外すること。
【0017】
上記(5)の構成の記録情報管理方法によれば、常時記録動作を行う車両用ドライブレコーダにより記録された大量のデータの中から重要なデータを検索する場合に、検索の所要時間を短縮することが可能になる。すなわち、重要度の低いデータのタイミングを表すフラグの近傍には前記キャンセル情報が付加されるので、前記キャンセル情報が付加されていないフラグの位置(タイミング)のみを検索対象とすることにより、重要度の高いデータを容易に検索できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両用ドライブレコーダによれば、イベント発生の検出を契機としてデータを記録する場合に、誤動作によってイベント発生が頻繁に検出される場合であっても、重要な画像データが消去されるのを防止できる。また、常時記録動作を行う車両用ドライブレコーダの場合には、重要な画像データが存在する箇所の特定が容易になる。また、本発明の記録情報管理方法によれば、誤動作によって記録されたフラグが大量に含まれるデータを処理する場合であっても、重要度の高いデータを容易に検索できる。
【0019】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の車両用ドライブレコーダの構成例を示すブロック図である。
【図2】図1に示した車両用ドライブレコーダの動作に関するメインフローを示すフローチャートである。
【図3】図2に示したトリガキャンセル処理の内容を示すフローチャートである。
【図4】トリガキャンセル処理の変形例を示すフローチャートである。
【図5】図1に示した車両用ドライブレコーダによって記録されたデータを読み出して再生する場合の処理例を示すフローチャートである。
【図6】(a)〜(c)は、図1に示した車両用ドライブレコーダの動作例を示すタイムチャートである。
【図7】(a)〜(c)は、常時記録タイプの車両用ドライブレコーダの動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の車両用ドライブレコーダおよび記録情報管理方法に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0022】
本実施形態の車両用ドライブレコーダの構成例が図1に示されている。図1に示すように、ドライブレコーダ本体10の内部には、制御部(CPU(Central Processing Unit))11および加速度(G)センサ12が備わっている。制御部11は、制御用のマイクロコンピュータを主体として構成されている。このマイクロコンピュータは、予め用意されたプログラムを読み込んで実行し、後述するドライブレコーダの機能を実現する。
【0023】
加速度センサ12は、交通事故発生時のような異常な状態を検出するために備わっている。すなわち、加速度センサ12の検出した加速度が予め定めた閾値を超えた場合には、異常であるとみなすことが可能である。
【0024】
但し、加速度センサ12の検出した加速度を閾値と比較するだけでは、異常発生の有無を正しく識別できない場合もある。例えば、車両が道路上の特別な箇所の路面、すなわち橋の継ぎ目のある箇所や、路面補修跡による段差やうねりがある箇所を高速で通過する場合には、事故のような異常が発生していないにもかかわらず、大きな加速度が検知され、異常の発生と誤認される可能性がある。この問題に対処するために、制御部11は後述するような特別な制御を実施する。
【0025】
図1に示すように、車載カメラ20の出力がドライブレコーダ本体10と接続されている。この車載カメラ20は、車両上に固定され、例えば運転者の運転時の視野の範囲内で見える風景と同等の領域に含まれる被写体の像を撮影できるように位置決めされる。車載カメラ20は、撮影可能な領域に存在する被写体を、例えば1秒間に30フレーム程度の周期で連続的に撮影し、得られた画像のデータを順次に出力する。
【0026】
記録媒体30は、記録対象の画像等のデータを保存するためにドライブレコーダ本体10に接続されている。記録媒体30の代表例としては、不揮発性の半導体メモリを内蔵したメモリカードなどが想定される。
【0027】
様々な車両の状態を識別可能にするために、ドライブレコーダ本体10の入力には、車速信号31、ブレーキ信号32、右ウインカー信号33、左ウインカー信号34、ハザードランプスイッチ信号35が印加される。
【0028】
車速信号31は、車両の車輪が所定量回転する毎に出力されるパルス状の電気信号である。車速信号31の周期等を計測することにより現在の車速を算出することができる。ブレーキ信号32は、車両のブレーキペダルが踏み込まれた状態か否かを表す電気信号である。
【0029】
右ウインカー信号33は、車両の右折や車線変更の合図を出すための右側の方向指示器(ウインカーランプ)を点滅させるために用いる電気信号であり、運転者の所定のスイッチ操作に従ってオンオフ状態が切り替わる。同様に、左ウインカー信号34は、車両の左折や車線変更の合図を出すための左側の方向指示器を点滅させるために用いる電気信号であり、運転者の所定のスイッチ操作に従ってオンオフ状態が切り替わる。
【0030】
ハザードランプスイッチ信号35は、車両に危険な状況や事故が発生している時に、ハザードランプを点滅させるために用いる電気信号であり、運転者の所定のスイッチ操作に従ってオンオフ状態が切り替わる。
【0031】
図1に示した車両用ドライブレコーダの動作の概要(メインフロー)が図2に示されている。図2に示す動作について以下に説明する。車両のイグニッションスイッチがオンになり、車両用ドライブレコーダに電源が投入されると、制御部11のマイクロコンピュータは所定の初期化処理を実行した後、ステップS11の処理に進む。
【0032】
ステップS11では、車両に記録すべき異常な状態が発生したことを表すトリガについて監視を行う。具体的には、加速度センサ12が検出した加速度(G値)を予め定めた閾値と比較し、加速度が閾値を超えた場合にトリガが発生したものとみなす。
【0033】
加速度が閾値以内であればステップS11の処理を繰り返し、加速度が閾値を超えるとステップS12を通ってステップS13に進む。
【0034】
ステップS13では、所定の「トリガ判定処理」および「記録処理」を開始する。この「トリガ判定処理」では、前記閾値を超える異常な加速度の検出が誤動作でないかどうかを確認するために、所定の運転操作に応じた車両の状態の変化を少なくとも所定時間(例えば10秒間)に渡って監視する。具体的には、ハザードランプスイッチ信号35のオフからオンへの変化、左ウインカー信号34のオフからオンへの変化、ブレーキ信号32のオフからオンへの変化、車速の急激な低下などの少なくとも1つを監視する。
【0035】
すなわち、実際に交通事故などの異常な事態が生じた場合には、その直後に、通常は車両を路肩に寄せて停車させる必要があり、この際に運転者はハザードランプを点滅させたり、ウインカーを操作したり、ブレーキペダルを踏んで減速し車両を停車するように運転操作することになる。また、車両が何らかの障害物に衝突した場合には、ブレーキペダルを踏んでいないのに急速に車速が低下することもある。このような状態の変化を「トリガ判定処理」で監視する。
【0036】
また、ステップS13で「記録処理」を開始すると、それから所定時間(例えば10秒間)を経過するまで、車載カメラ20の撮影により得られる動画像の時系列データが記録媒体30上に順次に記録される。また、トリガが発生する前の所定時間(例えば10秒間)の間に撮影された画像についても、記録媒体30上にそのデータが記録される。
【0037】
実際には、ドライブレコーダ本体10は、トリガ発生に伴う前記「記録処理」の開始とは無関係に、所定時間(例えば10秒間)以内に撮影された画像データを内部のバッファメモリに常時記録している。例えば、図6(a)に示す画像データT1、T2、T3のように、各時点で最新の一定時間内の画像データがバッファメモリ上に常に保存されている。トリガが発生した時点で、それ以前に撮影された画像データを前記バッファメモリから取り出し、更にトリガ発生後に撮影された画像データと組み合わせて記録媒体30上に転送することにより、トリガ発生の前後所定時間に渡って、記録媒体30上にデータを記録することができる。
【0038】
記録媒体30上の記録領域は、それぞれ独立した複数のフォルダに区分され、フォルダ毎に管理されている。ステップS12でトリガが発生する毎に、記録媒体30上の1つのフォルダが割り当てられ、該当するフォルダの中に前記「記録処理」でデータが書き込まれる。各々のフォルダやその中に書き込むデータのそれぞれには、それを作成した日時あるいはそれを割り当てた日時を表す情報も付加される。
【0039】
ステップS13で前記「トリガ判定処理」を開始してから所定時間(例えば10秒間)以内に車両の状態に所定の変化(例えばハザードランプスイッチ信号35のオフからオンへの変化)が現れた場合にはステップS11の処理に戻り、所定時間以内に何も変化がない場合はステップS14を通ってステップS15に進む。
【0040】
ステップS15では、ステップS12で検出したトリガ発生の結果を打ち消すために「トリガキャンセル処理」を実行する。すなわち、事故などの異常が発生していないにもかかわらず誤動作によって頻繁にトリガが発生すると、記録媒体30上に重要でない無駄なデータが大量に記録され、事故などを記録した重要なデータが無駄なデータによって上書きされる可能性がある。これを防止するために「トリガキャンセル処理」を実行する。
【0041】
例えば、車両が道路上の特別な箇所の路面、すなわち橋の継ぎ目のある箇所や、路面補修跡による段差やうねりがある箇所を高速で通過する場合には、事故のような異常が発生していないにもかかわらず、大きな加速度が検知され、頻繁にトリガが発生する可能性がある。
【0042】
ステップS15の「トリガキャンセル処理」の詳細が図3に示されている。すなわち、図2のステップS13で前記「トリガ判定処理」を開始してから所定時間以内に車両の状態に所定の変化が現れない場合には、図3のステップS21に進む。
【0043】
ステップS21では、記録媒体30上の複数のフォルダの中で、最後にデータを記録したフォルダを特定し、該当するフォルダに対して所定の「キャンセル情報」を付加する。すなわち、最後に発生したトリガに応答して記録されたデータを保存している領域である記録媒体30上の特定フォルダに、その属性を表す情報として「キャンセル情報」を付加する。各々のフォルダが該当するものか否かについては、フォルダの作成日時、フォルダの割り当て日時、フォルダ内のデータの作成日時等を互いに比較することにより識別できる。なお、初期状態の各フォルダには「キャンセル情報」は付加されていない。
【0044】
なお、この例では該当する画像データを保持する領域であるフォルダに対して「キャンセル情報」を付加する場合を想定しているが、該当する画像データ自体にその属性を表す情報として「キャンセル情報」を付加するように制御しても良い。
【0045】
ステップS22では、記録媒体30上に存在する残りの記録領域の容量(空き容量)を検出し、これが十分な容量か否かを識別する。具体的には、1つのトリガに対して画像が記録される時間の長さが一定であり、この間に記録される情報の量もほぼ一定であるので、次のトリガ発生の際に所定時間の情報を記録するために一定容量の空き容量が確保されているか否かを識別する。空き容量が十分であればステップS11に戻り、不足している場合はステップS23に進む。
【0046】
ステップS23では、記録媒体30上に存在する多数のフォルダの中で、前記「キャンセル情報」が付加されているものを探し、「キャンセル情報」が付加されたフォルダの数を識別する。該当するフォルダの数が2以上であればステップS24に進み、該当するフォルダの数が1又は0であればステップS25に進む。
【0047】
ステップS24では、「キャンセル情報」が付加されている複数のフォルダの中から、日時が最も古いデータを保持している特定のフォルダを探し、該当する1つのフォルダおよびその中のデータ全てを消去する。この処理によって、新たな記録領域、すなわち次のトリガ発生の際に所定時間の情報を記録するために必要な空き容量が記録媒体30上に確保される。
【0048】
「キャンセル情報」が付加されているフォルダ内のデータについては、必ずしも重要度の低いデータではない可能性もある。しかし、「キャンセル情報」が付加されたフォルダが複数存在する状態では、トリガが頻繁に発生している可能性が高いと考えられるし、データの記録日時が相対的に古いフォルダについては、データの重要度が低いと考えられるので、これを優先的に消去して新たな領域を確保する。
【0049】
ステップS25では、「キャンセル情報」が付加されていない複数のフォルダの中から、日時が最も古いデータを保持している特定のフォルダを探し、該当する1つのフォルダおよびその中のデータ全てを消去する。この処理によって、新たな記録領域、すなわち次のトリガ発生の際に所定時間の情報を記録するために必要な空き容量が記録媒体30上に確保される。
【0050】
「キャンセル情報」が付加されているフォルダが1つだけの場合には、トリガが頻繁に発生している可能性は低いので、該当するフォルダ内のデータの重要度が高い可能性もある。従って、「キャンセル情報」の有無よりもデータの記録日時を考慮して、相対的に古いフォルダのデータを優先的に消去し新たな領域を確保する。
【0051】
従って、例えば図6(b)に示す「ケース1」のように時刻t1でトリガが発生し、それから所定時間を経過する前の時刻t2でハザードランプスイッチ信号35がオンになる(ランプ点滅開始)と、図2のステップS14からS11に戻り、ステップS15の「トリガキャンセル処理」は実行されない。従って、この場合は該当する画像データを保持するフォルダにキャンセル情報は付加されない。
【0052】
一方、図6(c)に示す「ケース2」のように時刻t1でトリガが発生し、それから所定時間を経過した時刻t3になっても車両の状態に変化が現れない場合には、図2のステップS14からステップS15に進み、「トリガキャンセル処理」が実行される。従って、この場合は該当する画像データを保持するフォルダにキャンセル情報が付加される。
【0053】
上述の車両用ドライブレコーダは、トリガが発生する毎に、それを契機として一定の時間だけ画像等のデータを記録する動作を行う(トリガ記録タイプ)。すなわち、データを保存する記録媒体30の記録容量が小さいので、長時間の画像データを全て記録することは不可能であり、交通事故等の異常と関連のある重要な時間帯に撮影された画像データだけを記録する。しかし、例えばハードディスク装置のように大容量の記録装置を備えている場合には、記録容量の制約が小さいので、トリガが発生した特定の時間帯だけに限らず、画像データを常時記録することもできる。
【0054】
画像データを常時記録する場合(常時記録タイプ)、図2に示す車両用ドライブレコーダの動作は次のように変更される。図2においてはトリガが発生した時に、ステップS13で前記「記録処理」を開始しているが、常時記録の場合には、車両用ドライブレコーダの電源が投入された直後から同様の「記録処理」が開始され、電源をオフにするような特別な操作が行われない限り、「記録処理」は継続される。
【0055】
なお、記録した画像データの管理を容易にするために、長時間の画像データを撮影時間の一定時間毎(例えば10秒間毎)に区切って独立した複数のデータファイルとして画像データを記録媒体30に記録しても良い。
【0056】
また、常時記録の場合であっても、データの解析を容易にするためには、トリガが発生した(異常を検出した)タイミングが分かるような時系列データを記録媒体30に記録する必要がある。従って、図2のステップS13を実行するタイミングで、トリガ発生を表すフラグの情報を該当する時刻で撮影された画像データに属性情報として付加する。
【0057】
例えば、図7(a)に示す例のように時刻t1でトリガ1が発生し、時刻t2でトリガ2が発生し、時刻t3でトリガ3が発生した場合には、時刻t1の画像データにトリガ情報1がフラグとして記録され、時刻t2の画像データにトリガ情報2がフラグとして記録され、時刻t3の画像データにトリガ情報3がフラグとして記録される。
【0058】
常時記録の場合には、図2のステップS15では、図4に示す内容の処理を行う。すなわち、図2のステップS13で前記「トリガ判定処理」を開始してから所定時間以内に車両の状態に所定の変化が現れない場合には、図4のステップS31に進み、トリガ情報を含む画像等の時系列データに対して所定の「キャンセル情報」を付加する。
【0059】
従って、例えば図7(b)に示す「ケース1」のように時刻t1でトリガが発生し、それから所定時間を経過する前の時刻t2でハザードランプスイッチ信号35がオンになる(ランプ点滅開始)と、図2のステップS14からS11に戻り、ステップS15の「トリガキャンセル処理」は実行されない。従って、この場合は該当する時刻の画像データに対してキャンセル情報は付加されない。
【0060】
一方、図7(c)に示す「ケース2」のように時刻t1でトリガが発生し、それから所定時間を経過した時刻t3になっても車両の状態に変化が現れない場合には、図2のステップS14からステップS15に進み、「トリガキャンセル処理」が実行される。従って、この場合は該当する時刻の画像データに対してキャンセル情報が付加される。
【0061】
付加するキャンセル情報については、対応関係にあるトリガ情報をすぐに見つけられる場合には、このトリガ情報を上書きするようにキャンセル情報を書き込んでも良いし、キャンセル情報を書き込む代わりに該当するトリガ情報を削除しても良い。また、所定時間を経過しても車両の状態に変化がないことを認識した時点(t3)の画像データに対してキャンセル情報を付加しても良い。
【0062】
ところで、ユーザが記録媒体30に記録されたデータを読み出して目的の時間帯の画像を再生し解析しようとする場合に、車両用ドライブレコーダが「トリガ記録タイプ」の場合であれば、全体のデータ量が少ないので目的の画像を見つけるのは容易である。しかし、車両用ドライブレコーダが「常時記録タイプ」の場合には、記録された全体のデータ量が膨大になる場合もあるので、目的の時間帯の画像を見つけるのに時間がかかる。特に、頻繁にトリガが発生する場合には、多数のトリガ情報が記録されるためトリガ情報の存在する時間帯の画像データだけを抽出しても、目的の時間帯の画像を見つけるのは容易ではない。
【0063】
そこで、「常時記録タイプ」の車両用ドライブレコーダにより記録媒体30に記録されたデータを読み出してユーザが目的の時間帯の画像を再生し解析しようとする場合には、図5に示すような手順の記録情報管理方法を用いる。図5に示す処理手順については、画像解析用のコンピュータ(一般的なパーソナルコンピュータ等)により自動的に実行することが可能である。
【0064】
ステップS41では、記録媒体30から記録されている画像等のデータを読み込み、画像の内容を最初の時刻から再生し画面上に表示する。また、ユーザの入力操作により所定の検索指示を受けた場合には、次のステップS42に進む。
【0065】
ステップS42では、記録媒体30に記録されている画像データを時系列順に最初から検索し、トリガ発生を表すフラグ(トリガ情報)の存在する位置を見つける。また、このトリガ情報が見つかった場合には、これと関連付けられた「キャンセル情報」の有無を識別し、「キャンセル情報」が存在する場合はステップS43に進み、存在しない場合はステップS44に進む。
【0066】
トリガ情報と関連付けられた「キャンセル情報」が存在するかどうかについては、前記トリガ情報の記録位置から所定時間内(例えば10秒以内)の時系列データの中に「キャンセル情報」が存在するか否かを識別すればよい。時系列の画像データが所定時間毎に区分されそれぞれ独立したデータファイルとして存在する場合には、該当するトリガ情報を含むデータファイルにその属性として、「キャンセル情報」が存在するか否かを識別すればよい。
【0067】
ステップS43では、検索されたトリガ情報に「キャンセル情報」が関連付けてあるので、このトリガ情報を無効とみなしてその表示を省略する。また、検索を連続的に行う場合には、該当するトリガ情報の時間帯の画像データを検索対象から除外し、直ちに次のトリガ情報の検索を開始する。
【0068】
ステップS44では、検索されたトリガ情報に「キャンセル情報」は存在しないので、このトリガ情報を有効とみなし、このトリガ情報と共に該当する時間帯の画像を再生し画面上に表示する。
【0069】
前述のように、異常に大きい加速度の検出などの所定のイベント発生をトリガとして利用する場合には、頻繁にトリガが発生する可能性がある。すなわち、車両が道路上の特別な箇所の路面、すなわち橋の継ぎ目のある箇所や、路面補修跡による段差やうねりがある箇所を高速で通過する場合に、事故のような異常が発生していないにもかかわらず、大きな加速度が検知される。
【0070】
従って、このようなトリガを契機として画像データの記録を開始し一定時間だけ記録を行う「トリガ記録タイプ」の車両用ドライブレコーダの場合には、利用価値の低い画像データが多数記録され、記録媒体30の記録容量の制約により重要度の高い画像データが消える可能性がある。しかし、図2、図3に示すような処理を行うことにより、記録媒体30上の空き領域が不足する場合には、自動的に重要度の低い画像データのみが優先的に削除される。従って、重要度の高い画像データが消えるのを防止できる。
【0071】
また、「常時記録タイプ」の車両用ドライブレコーダの場合には、トリガの発生を示すフラグが長時間の画像データの中に多数記録される可能性があるため、目的とする重要な画像データの位置を検索するのが困難になったり時間がかかる場合がある。しかし、図2、図4に示すような処理を行う場合には、重要度の低い画像位置のトリガ情報(フラグ)に対して、「キャンセル情報」が付加されるので、重要な画像データの位置を容易に検索できる。すなわち、図5に示した手順の記録情報管理方法を用いることにより、「キャンセル情報」が付加されたトリガ情報の時間帯の画像データは検索対象から除外されるので、検索対象になるトリガ情報の数が減少し、目的の画像データの位置を短時間で見つけることができる。
【0072】
なお、もしも、トリガの発生を検出した時点(ステップS12からS13に移行した時)で、誤検出によるトリガか否かを識別しようとすれば、その処理に数秒程度の時間がかかるので、データを記録する際のトリガのタイミングと実際の異常発生のタイミングとの間に大きな時間ずれが生じる可能性が高い。しかし、図2〜図4に示すようにトリガを契機とするデータの記録を行ったり、トリガ情報を記録した後で、そのトリガを無効化するための「キャンセル情報」を付加する場合には、トリガのタイミングにずれが生じることがない。
【0073】
なお、前述のように、図2のステップS13の「トリガ判定処理」では、前記閾値を超える異常な加速度の検出が誤動作でないかどうかを確認するために、ハザードランプスイッチ信号35のオフからオンへの変化、左ウインカー信号34のオフからオンへの変化、ブレーキ信号32のオフからオンへの変化、車速の急激な低下などの少なくとも1つを監視している。すなわち、トリガが発生してから所定時間以内に所定の運転操作に応じた車両の状態の変化があれば、事故等の異常発生に伴う正しいトリガであるとみなし、変化がない場合には誤検出によるトリガであるとみなしている。
【0074】
つまり、図2中のステップS13、S14における判定条件については、事故等の異常発生に伴う正しいトリガか否かを区別するための条件であるので、例えば次に示すような様々な条件の少なくとも1つを用いることが考えられる。
1.ハザードランプスイッチ信号35がオフからオンへ変化した。
2.左ウインカー信号34がオフからオンへ変化した。
3.ブレーキ信号32がオフからオンへ変化して所定時間以上オン状態が継続した(急減速の検出)。
4.ブレーキ信号32がオフ状態であり、かつ車速が所定時間以内に所定以下に低下した(衝突等による異常な速度低下の検出)。
5.左ウインカー信号34がオフからオンへ変化して所定時間以上オン状態が継続した(単なる車線変更との区別)。
【0075】
以上のように、本発明は前述の「トリガ記録タイプ」の車両用ドライブレコーダや「常時記録タイプ」の車両用ドライブレコーダに適用することが想定できる。そして、異常が発生していないにもかかわらず、車両が走行する路面の状況の変化に応じてトリガが頻繁に発生する場合に、重要なトリガと重要でないトリガとを自動的に区別してデータを記録することができる。
【0076】
従って、「トリガ記録タイプ」の車両用ドライブレコーダの場合には、事故等の際に記録された重要な画像データが消えるのを防止することができる。また、「常時記録タイプ」の車両用ドライブレコーダの場合には、事故等の際に記録された重要な画像データの位置を表すトリガ情報と、それ以外のトリガ情報とを「キャンセル情報」により区別できる。従って、車両用ドライブレコーダにより記録媒体に記録されたデータを読み出して解析する際に、本発明の記録情報管理方法を実施することにより、目的の画像データの位置を短時間で検索できる。
【符号の説明】
【0077】
10 ドライブレコーダ本体
11 制御部(CPU)
12 加速度センサ
20 車載カメラ
30 記録媒体
31 車速信号
32 ブレーキ信号
33 右ウインカー信号
34 左ウインカー信号
35 ハザードランプスイッチ信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも車載カメラにより撮影された画像のデータを、所定のイベント発生を契機として一時的に記録する、もしくは前記画像のデータを常時記録して前記イベント発生のタイミングで所定のフラグを記録する車両用ドライブレコーダであって、
前記イベント発生を検出してから少なくとも所定時間、運転手の運転操作に応じて変化する特定の車両状態の発生を監視する特定状態監視部と、
前記イベント発生を検出してから前記所定時間以内に前記特定の車両状態にならない場合には、前記イベント発生に対応して記録された特定データに対して、前記イベント発生が無効であることを表すキャンセル情報を付加するキャンセル情報付加部と
を備えることを特徴とする車両用ドライブレコーダ。
【請求項2】
所定の記録媒体上のデータ記録用の空き領域が不足する場合に、既に記録されているデータの中で、前記キャンセル情報が付加されているデータを、それ以外のデータよりも優先的に削除して新たな空き領域を生成する空き領域生成部
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用ドライブレコーダ。
【請求項3】
前記空き領域生成部は、前記キャンセル情報が付加されているデータが複数存在する場合には、それらの複数のデータの中で、記録した時刻が古いデータをより優先的に削除する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用ドライブレコーダ。
【請求項4】
前記空き領域生成部は、前記キャンセル情報が付加されているデータが1つだけ存在する場合には、前記キャンセル情報が付加されていないデータの中で記録した時刻が古いデータを優先的に削除する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用ドライブレコーダ。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用ドライブレコーダにより所定の記録媒体に記録された情報を読み出して管理するための記録情報管理方法であって、
前記記録媒体に記録されたデータの中から前記イベント発生のタイミングを表す所定のフラグが記録された領域を検索する場合に、該当する時系列データの前記フラグのタイミングから所定時間以内に前記キャンセル情報が存在するか否かを識別し、
前記キャンセル情報が存在する場合には該当するフラグのデータを検索対象から除外する
ことを特徴とする記録情報管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−3607(P2012−3607A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139581(P2010−139581)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】