説明

車両用フレーム構造およびその製造方法

【課題】金属板の溶接時に発生する溶接熱によって発泡接着剤が損傷することを防止できる車両用フレーム構造およびその製造方法を提供する。
【解決手段】フレーム本体10は、2枚以上の第1、第2金属板11、12をフレーム本体10の内外方向で重ね合わせた重ね合わせ部14を有し、補強体20は、重ね合わせ部14から所定の間隔を隔ててフレーム本体10の内方側に配置されると共に、重ね合わせ部14の内壁に発泡接着剤40で接合されており、重ね合わせ部14では、2枚以上の第1、第2金属板11、12に溶接が施され、重ね合わせ部14の内壁と補強体20との間には、溶接が施されることにより形成された溶接痕15と対応する位置に、発泡接着剤40が途切れた接着剤非配設部41を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製のフレーム本体に補強体が内蔵された車両用フレーム構造およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用フレームの強度や剛性を向上させるために、フレーム本体に補強体を内蔵したものが知られている。このうち、例えば、下記特許文献1、2では、金属板からなるフレーム本体の内部に樹脂製の補強体を内蔵したものが開示されており、下記特許文献1では、66ナイロン等の硬質合成樹脂材料からなる補強体が用いられる一方、下記特許文献2では、エポキシ系やウレタン系の発泡性の補強体が用いられている。
【0003】
下記特許文献1、2では、樹脂性の補強体を用いることにより、フレームの強度、剛性を確保しながらも、フレーム全体の軽量化、つまりは重量効率の向上を実現している。
【0004】
また、車両用フレームでは、複数枚の金属板に溶接を施すことによってフレーム本体を構成したものが多く用いられている。下記特許文献2では、2枚の金属板に形成したフランジ面にレーザ溶接を施すことにより、金属製のフレーム本体を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−362412号公報
【特許文献2】特開平11−235987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記車両用フレームの製造では、予め発泡接着剤を貼付した補強体を金属板に固定(仮止め)した後、複数枚の金属板に溶接が施され、フレーム本体が生成される。そして、塗装乾燥炉にて上記発泡接着剤を発泡させることにより、フレーム本体の内壁と補強体とが接合される。
【0007】
しかしながら、上述したように、発泡接着剤を貼付した補強体を金属板に固定した後で金属板を溶接すると、溶接部と対応する位置にある発泡接着剤が溶接熱によって損傷するという問題があった。
【0008】
上記特許文献1、2では、上述したように、フレーム本体に補強体を内蔵した車両用フレームが開示されているものの、発泡接着剤の損傷を防止するための対策については何ら開示がない。
【0009】
この発明は、金属板の溶接時に発生する溶接熱によって発泡接着剤が損傷することを防止できる車両用フレーム構造およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の車両用フレーム構造は、金属製のフレーム本体に補強体が内蔵された車両用フレーム構造であって、上記フレーム本体は、2枚以上の金属板を上記フレーム本体の内外方向で重ね合わせた重ね合わせ部を有し、上記補強体は、上記重ね合わせ部から所定の間隔を隔てて上記フレーム本体の内方側に配置されると共に、上記重ね合わせ部の内壁に発泡接着剤で接合されており、上記重ね合わせ部では、上記2枚以上の金属板に溶接が施され、上記重ね合わせ部の内壁と上記補強体との間には、上記溶接が施されることにより形成された溶接痕と対応する位置に、上記発泡接着剤が途切れた接着剤非配設部を設けたものである。
【0011】
この構成によれば、補強体に対し、接着剤非配設部と対応する一部の部位を除いて発泡接着剤を貼付することにより、溶接部から発泡前の発泡接着剤までの距離を確保することができる。このため、金属板の溶接時に発生する溶接熱によって発泡接着剤が損傷することを防止できる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記接着剤非配設部が、上記溶接痕の中央部を中心として両側に幅を有しており、上記溶接痕の延び方向と直交する方向の断面において、上記溶接痕の中央部から、上記接着剤非配設部の端部までの離間距離を、上記フレーム本体の断面高さに対して0.025〜0.375倍に設定したものである。
【0013】
この構成によれば、発泡接着剤が損傷することを防止しつつ、曲げ強度に優れた車両用フレームを得ることができる。そして、上記離間距離を0.025倍以上に設定することで、曲げ強度を確保しつつ、重量効率の向上を図ることもできる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記離間距離を、上記フレーム本体の断面高さに対して0.025〜0.125倍に設定したものである。
【0015】
この構成によれば、曲げ強度により優れた車両用フレームを得ることができる。
【0016】
この発明の車両用フレームの製造方法は、金属製のフレーム本体に補強体が内蔵された車両用フレーム構造の製造方法であって、上記補強体に対し、一部の部位を除いて発泡接着剤を貼付する工程と、上記フレーム本体を構成する金属板に上記補強体を仮止めする工程と、上記一部の部位と対応する位置で2枚以上の金属板を重ね合わせる工程と、上記一部の部位と対応する位置に溶接を施すことにより、上記2枚以上の金属板を接合して上記フレーム本体を生成する工程と、上記発泡接着剤を発泡させ、上記補強体を上記フレーム本体の内壁に接合する工程と、を備えるものである。
【0017】
この構成によれば、溶接部から発泡前の発泡接着剤までの距離を確保することができるため、金属板の溶接時に発生する溶接熱によって発泡接着剤が損傷することを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、溶接部から発泡前の発泡接着剤までの距離を確保することができるため、金属板の溶接時に発生する溶接熱によって発泡接着剤が損傷することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用フレーム構造を示す斜視図。
【図2】図1のA−A線矢視断面図。
【図3】車両用フレームの製造方法を説明するための図。
【図4】車両用フレームの曲げ強度の解析方法を説明するための図。
【図5】フレーム断面高さを1とした時の接着剤非配設部の幅の比率と、曲げ最大強度との関係を示すグラフ。
【図6】本発明に係る車両用フレームを適用した車体構造を示す側面図。
【図7】図6の要部斜視図であり、サイドシル前端部とヒンジピラー下端部との接合部及びその周辺を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両用フレーム構造を示す斜視図であり、図2は、図1のA−A線矢視断面図である。図1、図2に示す車両用フレーム1(以下、単にフレーム1と略記する。)は、略矩形状をなす閉断面30が長手方向に連続するフレーム体であり、主に金属製のフレーム本体10と、樹脂製の補強体20とにより構成されている。
【0021】
フレーム本体10は、断面ハット状の第1、第2金属板11、12と、平板状の第3金属板13とにより構成されており、第1、第2金属板11、12の両端に形成したフランジ部11a、12aと、第3金属板13の端部とを溶接接合することにより略矩形状をなす閉断面30が形成され、この閉断面30内に上述した補強体20が内蔵されている。ここで、フランジ部11a、12aと第3金属板13の端部とは、例えば、スポット溶接の他、レーザ溶接、アーク溶接、プラズマ溶接といったいわゆる高エネルギービーム溶接等の方法により接合することが可能である。なお、本実施形態では、第3金属板13として1枚の平板状の金属板を用いているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、第1、第2金属板11、12と同様、断面ハット状としてもよいし、複数枚の金属板で構成してもよい。
【0022】
ところで、フレーム本体10は、断面ハット状の第1、第2金属板11、12の端部同士がフレーム本体10の内外方向にて重なり合った重ね合わせ部14を有している。そして、この重ね合わせ部14では、第1、第2金属板11、12の端部の縁部に沿うように溶接が施されており、これにより両金属板11、12が接合されている。なお、図1、図2に示す符号15の部位は、重ね合わせ部14での溶接後に形成された溶接痕15である。
【0023】
重ね合わせ部14では、第1、第2金属板11、12がそれぞれフレーム本体10の内方側、外方側に配置された状態で重なり合っている。そして、その中間部が溶接されることにより、第1、第2金属板11、12が接合されている。ここで、第1、第2金属板11、12は、例えば、レーザ溶接、アーク溶接、プラズマ溶接といった高エネルギービーム溶接により接合される他、片側スポット溶接によって接合することも可能である。
【0024】
また、本実施形態では、閉断面30内の補強体20が、フレーム本体10の内壁と所定の間隔を隔てるように配設されている。そして、フレーム本体10と補強体20との間の隙間には、発泡接着剤40が充填され、この発泡接着剤40によりフレーム本体10と補強体20とが接合されている。これにより、重ね合わせ部14では、該重ね合わせ部14から所定の間隔を隔てて補強体20がフレーム本体10の内方側に配置され、補強体20は、重ね合わせ部14の内壁となる第1金属板11の内壁に発泡接着剤40で接合されている。
【0025】
また、本実施形態では、図1、図2に示すように、溶接痕15と対応する位置に発泡接着剤40が設けられておらず、この発泡接着剤40が途切れた部位によって接着剤非配設部41が構成されている。
【0026】
接着剤非配設部41は、図2に示すように、溶接痕15の延び方向と直交する方向の断面において、溶接痕15の中央部(図2の一点鎖線参照)を中心として両側に所定の幅を有しており、換言すれば、溶接痕15の中央部から所定の距離だけ離間した位置に発泡接着剤40の端部が設けられている。
【0027】
次に、図3を参照して、補強材20をフレーム本体10に内蔵したフレーム1を製造する方法について説明する。フレーム1の製造では、先ず、図3(a)に示すように、一部の部位を除いて補強体20の外壁に発泡接着剤40を貼付する。この時、上記部位には、所定幅の隙間41′を設けたり、後述する被固定部2を取付けたりする。
【0028】
そして、予め第1金属板11のフランジ11a(図1参照)を金属板13の端部に接合して一体化した中間品10′に対し、図3(b)に示すように、補強体20を仮止めする。ここで、第3金属板13に仮止め具3が取り付けられており、図3(b)に示す仮止め工程では、上述した補強体20側の被固定部2を仮止め具3で固定することにより、中間品10′に対する補強体20の位置決めを行う。
【0029】
次に、図3(c)に示すように、補強体20を仮止めした位置、より正確にgは、隙間41′と対応する位置で、第1金属板11に第2金属板12を重ね合わせる。そして、第1、第2金属板11、12を重ね合わせた状態で、図3(d)に示すように、隙間41′と対応する位置に溶接を施す。ここで、図3(d)は、第1、第2金属板11、12がレーザ溶接によって溶接される場合を示しており、この場合、レーザ走査装置4から隙間41′の中央部に沿ってレーザービームLBを照射することにより、隙間41′の中央部と対応する位置に溶接痕15を形成しながら、第1、第2金属板11、12同士を接合する。そして、図示を省略するが、図3(d)に示す溶接工程と併せて第2金属板12のフランジ部12aを第3金属板13の端部に溶接することで、フレーム本体10が生成される。
【0030】
次に、補強体20を仮止めした状態のまま、フレーム本体10を塗装乾燥炉に搬送し、発泡接着剤40を加熱発泡させる。これにより、図3(e)に示すように、フレーム本体10の内壁と補強体20との間の隙間に発泡接着剤40を充填させ、補強体20をフレーム本体10の内壁に接合する。
【0031】
この時、図3(a)に示す発泡接着剤40の貼付工程で予め隙間41′を設けていることにより、溶接痕15の中央部を中心として両側に所定の幅を有する接着剤非配設部41が設けられる。
【0032】
但し、場合によっては、発泡接着剤40の発泡前に隙間41′が設けられていたとしても、接着剤非配設部41が形成されないことがある。この場合、隙間41′が設けられていた位置では、発泡接着剤40の発泡後、その端部同士が完全に均一に混合しないことから、隙間41′と対応する位置には、例えば、図3(f)に示すように、発泡接着剤40の端部同士により線状の境界部41″が形成される。従って、このように接着剤非配設部41が形成されていないフレーム1であっても、上記位置の断面を観察することによって、発泡接着剤40の発泡前に隙間41′が形成されていたか否かを確認することは可能である。
【0033】
このように、図3に示す製造方法では、補強体20に対し、一部の部位を除いて発泡接着剤40を貼付すると共に、上記一部の部位と対応する位置に溶接を施している。この場合、接着剤非配設部41と対応する一部の部位を除いて発泡接着剤40を貼付することより、溶接部から発泡前の発泡接着剤40までの距離を確保することができる。このため、第1、第2金属板11、12の溶接を行う時に発生するレーザービームLBの溶接熱によって発泡接着剤40が損傷することを防止できる。
【0034】
ところで、本発明者は、図1、図2に示すようなフレーム1を開発するにあたり、これに曲げ変形を伴うような荷重が付加された時、接着剤非配設部41がフレーム1の曲げ強度に及ぼす影響について解析を行った。
【0035】
図4は、フレーム1の重ね合わせ部14を模したフレーム100の曲げ強度特性の解析方法を説明するための図である。上記解析では、図4に示すように、断面ハット状の2枚の第1、第2金属板111、112と平板状の第3金属板113との溶接接合により金属製のフレーム本体110を構成したフレーム100を用いることとし、該フレーム本体110の閉断面130内には、樹脂製の補強体120を内蔵した。ここで、フレーム100では、これを実際に車両用フレームとして適用した場合を想定して、フレーム断面幅W1(荷重Fが付加される面の幅)を60mm、フレーム断面高さH(荷重Fが付加される面の両側に位置する側面部の幅)を40mm、重ね合わせ部14に対応する部位、つまりは、第1、第2金属板111、112が重なり合った部位の厚さW2を2.0mm(1.0mm×2枚)、発泡接着剤140の厚さW3を6.0mmとしている。
【0036】
そして、図4(a)に示すように、フレーム100の第2金属板113側を2つの固定点α、αで支持すると共に、該固定点α、α間の中間に位置する中央部O(図4(b)参照)に接着剤非配設部141を配置した。上記解析では、中央部Oに上方から圧子βを下降させ、車両衝突時の荷重に相当する荷重Fを付加した場合を想定しており、第3金属板113と対向する第1、第2金属板111、112の面を上面に設定し、この上面に対し荷重Fを直交断面方向上方から付加している。
【0037】
そして、荷重Fを付加した時に、フレーム100にて折れ曲がりが生じるまでに加えることができる最大の荷重を、その時の圧子βの反力に基づいて算出すると共に、これを曲げ最大強度F′maxと定義し、この曲げ最大強度F′maxを、曲げ強度特性の優劣を評価する目安とした。
【0038】
ところで、フレーム1、100のような長尺の管状体が折れ曲がる時には、先ず長手方向において屈曲した状態となるが、管状体の曲げ強度は、例えば、特開2011−16408号公報に開示されているように、屈曲部における側面部の面外変形を抑制することにより向上することが分かっている。図1、図2に示すフレーム1では、上述したように閉断面30内に補強体20を内蔵し、かつこれを発泡接着剤40でフレーム本体10の内壁に接合することにより、側面部の強度の向上を図っている。その結果、フレーム1では、屈曲部における側面部の面外変形を抑制すること、つまりは、フレーム1の曲げ強度を向上させることを可能にしている。
【0039】
また、本発明者は、鋭意研究の結果、フレーム1の側面部の幅(フレーム断面高さ)を高く設定する程、側面部での面外変形が発生しにくくなり、フレーム1の曲げ強度がより向上することを見出した。
【0040】
そこで、本発明者は、上記解析において、フレーム断面高さHを1とした時の接着剤非配設部141の幅L(荷重Fが付加される中央部Oから接着剤非配設部141の端部までの離間距離L/2)の比率、つまりは、フレーム断面高さHに対する幅Lの相対的な大きさと、曲げ最大強度F′maxとの関係を解析することにより、接着剤非配設部141がフレーム100の曲げ強度に及ぼす影響を評価することとした。
【0041】
図5は、フレーム100に荷重Fを付加した時の、上記比率(図5では、L/2H)と曲げ最大強度F′maxとの関係を示すグラフである。図5によれば、上記比率L/2Hが0.375を超えると、曲げ最大強度F′maxの値が略変化しない傾向を示しており、その値は、フレーム本体110の曲げ最大強度と補強体120の曲げ最大強度とを足し合わせた数値と略同じになることが分かった。この結果から、幅Lを必要以上に大きく設定すると、接着剤非配設部141周辺の発泡接着剤140が曲げ強度に殆ど寄与しなくなることが分かる。
【0042】
また、図5によれば、上記比率L/2Hが0.375以下になると、曲げ最大強度F′maxの値が大きく上昇しており、この結果から、発泡接着剤140が曲げ強度に寄与していることが分かる。そして、上記比率L/2Hが0.175〜0.125の範囲では、曲げ最大強度F′maxの値の上昇度合いが一旦鈍化するものの、上記比率L/2Hが0.125以下になると、曲げ最大強度F′maxの値が再び大きく上昇し、0.025未満になると、上昇度合いが再び鈍化する傾向を示している。
【0043】
図5に示す結果から、本発明者は、図1、図2に示すフレーム1において、溶接痕15の中央部から接着剤非配設部41の端部までの離間距離を、フレーム本体10の断面高さに対して0.025〜0.375倍に設定するのが好適であり、さらには、上記離間距離を、フレーム本体10の断面高さに対して0.025〜0.125倍に設定するのがより好適であることを見出した。この場合、フレーム1の製造時に発泡接着剤40が損傷することを防止しつつ、曲げ強度に優れたフレーム1を得ることができる。
【0044】
特に、図5によれば、上記比率L/2Hが0.025未満になると、曲げ最大強度F′maxの上昇度合いが鈍化する傾向にあることから、この傾向により、発泡接着剤40を必要以上に貼付しなくてもフレーム1の曲げ強度を確保できることが分かる。従って、上記離間距離を0.025倍以上に設定することで、曲げ強度を確保しつつ、重量効率の向上を図ることもできる。
【0045】
次に、上述した製造方法により製造された本発明のフレームを、車両に適用した例について説明する。
図6は、本発明に係るフレームを適用した車両の車体構造を示す側面図であり、図7は、同要部斜視図である。なお、図中において矢印(F)は車体前方、矢印(R)は車体後方を示す。
【0046】
図6に示す車体Xは、主に車体前部にて車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム50と、車体下部にて車体前後方向に延びるサイドシル51と、フロントサイドフレーム50の後端部近傍にて上下方向に延びる左右一対のヒンジピラー52と、ヒンジピラー52の上端部から車体後方かつ上方に延びるフロントピラー(Aピラーともいう)53と、該フロントピラー53の後端部から車体上部にて車体前後方向に延びるルーフレール54と、該ルーフレール54からサイドシル51にかけて上下方向に延びて両者を連結するセンターピラー(Bピラーともいう)55とを備えている。
【0047】
図6に示す車体Xでは、車両の前突等によって車体前方から荷重が入力されると、フロントサイドフレーム50により、上記荷重を車体後方に伝達することが可能になっている。
【0048】
また、車体Xでは、サイドシル51と、ヒンジピラー52と、フロントピラー53と、ルーフレール54と、センターピラー55とにより、前席、後席の乗員用の開口部56、57が形成されている。そして、ヒンジピラー52、センターピラー55は、それぞれ開口部56、57に対応して設けられるドア(図示せず)を開閉可能に支持すようになっている。
【0049】
このうち、ヒンジピラー52は、図6、図7に示すように、その下端部がサイドシル51の前端部に接合されると共に、いずれも車内側のインナパネル(図示せず)と車外側のアウタパネル51A、52Aとが接合されることによって連続した閉断面58(図7参照)を形成している。そして、該閉断面58内には、図7に示すように、車体前後方向に延びる樹脂製の補強体59が内蔵され、発泡接着剤60により、補強体59がヒンジピラー52及びサイドシル51の内壁に接合されている。
【0050】
また、サイドシル51の前端部とヒンジピラー52の後端部とにより重ね合わせ部61が形成されており、この重ね合わせ部61にてレーザ溶接が施されることにより、ヒンジピラー51のアウタパネル51Aとサイドシル52のアウタパネル52Aとが接合されている。
【0051】
ここで、図7において符号62で示す部位は、レーザ溶接により形成された溶接痕であり、溶接痕62と対応する位置には、発泡接着剤60が設けられておらず、この発泡接着剤60が途切れた部位によって接着剤非配設部63が構成されている。
【0052】
ところで、車両の前突等によって車体前方から荷重が入力された時には、先ず、フロントサイドフレーム50を介して車体後方に上記荷重が伝達され、その荷重の一部がヒンジピラー52を介して車体下部のサイドシル51に伝達される。そして、ヒンジピラー52の下端部とサイドシル51の前端部との接合部には、車体後方に向かって大きな荷重が入力されることとなる。
【0053】
そこで、車体Xでは、図7に示すように、サイドシル51の前端部とヒンジピラー52の下端部との接合部に車体前後方向に延びる補強体59を配設している。これにより、フロントサイドフレーム50を介して上記荷重が上記接合部に入力されたとしても、該接合部が変形することが抑制され、その結果、上記荷重を、サイドシル51を介してより確実に車体後部に伝達、分散させることができる。
【0054】
ところで、図6、図7では、サイドシル51の前端部とヒンジピラー52の下端部とを重ね合わせて接合した接合部に本発明を適用しているが、本発明は、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、ルーフレール54とセンターピラー(Bピラー)55の上端部とを重ね合わせて接合した接合部や、サイドシル51とセンターピラー(Bピラー)55の下端部とを重ね合わせて接合した接合部に本発明を適用してもよい。
【0055】
なお、上述した各実施形態では、いずれも2枚の金属板11、12(アウタパネル51A、52A)を重ね合わせて接合する場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、3枚以上の金属板を重ね合わせて接合する場合に本発明を適用してもよい。
【0056】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の、2枚以上の金属板は、第1、第2金属板11、12、及びサイドシル51、ヒンジピラー52の各アウタパネル51A、52Aに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…車両用フレーム
10…フレーム本体
11…第1金属板
12…第2金属板
14、61…重ね合わせ部
20、59…補強体
40、60…発泡接着剤
41、63…接着剤非配設部
51…サイドシル
52…ヒンジピラー
51A、52A…アウタパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のフレーム本体に補強体が内蔵された車両用フレーム構造であって、
上記フレーム本体は、2枚以上の金属板を上記フレーム本体の内外方向で重ね合わせた重ね合わせ部を有し、
上記補強体は、上記重ね合わせ部から所定の間隔を隔てて上記フレーム本体の内方側に配置されると共に、
上記重ね合わせ部の内壁に発泡接着剤で接合されており、
上記重ね合わせ部では、上記2枚以上の金属板に溶接が施され、
上記重ね合わせ部の内壁と上記補強体との間には、上記溶接が施されることにより形成された溶接痕と対応する位置に、上記発泡接着剤が途切れた接着剤非配設部を設けた
車両用フレーム構造。
【請求項2】
上記接着剤非配設部は、上記溶接痕の中央部を中心として両側に幅を有しており、上記溶接痕の延び方向と直交する方向の断面において、上記溶接痕の中央部から、上記接着剤非配設部の端部までの離間距離を、上記フレーム本体の断面高さに対して0.025〜0.375倍に設定した
請求項1記載の車両用フレーム構造。
【請求項3】
上記離間距離を、上記フレーム本体の断面高さに対して0.025〜0.125倍に設定した
請求項2記載の車両用フレーム構造。
【請求項4】
金属製のフレーム本体に補強体が内蔵された車両用フレーム構造の製造方法であって、
上記補強体に対し、一部の部位を除いて発泡接着剤を貼付する工程と、
上記フレーム本体を構成する金属板に上記補強体を仮止めする工程と、
上記一部の部位と対応する位置で2枚以上の金属板を重ね合わせる工程と、
上記一部の部位と対応する位置に溶接を施すことにより、上記2枚以上の金属板を接合して上記フレーム本体を生成する工程と、
上記発泡接着剤を発泡させ、上記補強体を上記フレーム本体の内壁に接合する工程と、を備える
車両用フレームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−35382(P2013−35382A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172501(P2011−172501)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】