説明

車両用フードエアバッグ装置

【課題】フードエアバッグ装置のエアバッグ袋体が膨張した場合における、運転者の前方視界を改善することを目的とする。
【解決手段】フード12に収納された状態から該フード12外へ、少なくともフード12の後部12R及びフード12の後端部12Eを覆うように膨張するエアバッグ袋体18が、主として車幅方向にかつ車両前後方向に並列して夫々略円筒状に膨張可能な前側バッグセル18F及び後側バッグセル18Rを有し、該後側バッグセル18Rにおける所定部位18Aのセル高さが、運転者の前方視界に対応して低く構成されている。このため、エアバッグ袋体18の膨張による運転者の前方視界の減少を抑制することができ、該前方視界を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ袋体をフード外へ膨張させる車両用フードエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ袋体が前後一対の円筒状バッグセルからなっており、そのうち前側バッグセルは低剛性のフード後端部に対応して小径に構成され、また後側バッグセルは高剛性のカウル部に対応して大径に構成された車両用エアバッグ装置が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−327064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来例では、後側バッグセルの直径が前側バッグセルよりも大きいため、膨張時に運転者の前方視界が減少する可能性があった。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、フードエアバッグ装置のエアバッグ袋体が膨張した場合における、運転者の前方視界を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、フードの後部の下方に配設されたモジュールケースと、該モジュールケース内に収納されたインフレータと、前記モジュールケース内に折り畳み収納され、前記インフレータからのガスの供給を受けて、前記フード外において少なくとも前記フードの後部及び前記フードの後端部を覆うように、主として車幅方向にかつ車両前後方向に並列して夫々略円筒状に膨張可能な前側バッグセル及び後側バッグセルを有し、該後側バッグセルにおける所定部位のセル高さが、運転者の前方視界に対応して低く構成されたエアバッグ袋体と、を有することを特徴としている。
【0006】
請求項1に記載の車両用フードエアバッグ装置では、車両に衝突体が衝突した際に、モジュールケース内に折り畳み収納されていたエアバッグ袋体がフードの外へ膨張展開する。この際、モジュールケースが配設されているフードの後部付近は前側バッグセルにより覆われ、またフードの後端部付近は後側バッグセルにより覆われる。車両に衝突した衝突体は、フードの後部や後端部を覆うエアバッグ袋体へ当たるので、その衝撃が吸収される。これに加えて、請求項1に記載の車両用フードエアバッグ装置では、後側バッグセルにおける所定部位のセル高さが、運転者の前方視界に対応して低く構成されているので、エアバッグ袋体が膨張した際における運転者の前方視界を改善することができる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用フードエアバッグ装置において、前記所定部位のセル高さは、該所定部位の前方の前記前側バッグセルよりも低く設定されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の車両用フードエアバッグ装置では、所定部位のセル高さが、該所定部位の前方の前側バッグセルよりも低く設定されているので、エアバッグ袋体が膨張した際における運転者の前方視界を更に改善することができる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用フードエアバッグ装置において、前記後側バッグセルのうち、前記所定部位以外におけるセル高さは、前記前側バッグセルのセル高さ以上に設定されていることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の車両用フードエアバッグ装置では、後側バッグセルのうち、所定部位以外におけるセル高さが、前側バッグセルのセル高さ以上に設定されているので、エアバッグ袋体が膨張した際における運転者の前方視界を改善しつつ、衝突体の衝撃吸収性能を更に向上させることができる。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の車両用フードエアバッグ装置において、フロントウインドシールドの下端に位置するカウル部に、衝撃吸収用の脆弱部が設けられていることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の車両用フードエアバッグ装置では、フロントウインドシールドの下端に位置するカウル部に、衝撃吸収用の脆弱部が設けられているので、該カウル部でも衝突体の衝撃を吸収することができ、後側バッグセルにおける所定部位のセル高さをより低くして、運転者の前方視界を更に改善することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両用フードエアバッグ装置によれば、フードエアバッグ装置のエアバッグ袋体が膨張した場合における、運転者の前方視界を改善することができる、という優れた効果が得られる。
【0014】
請求項2に記載の車両用フードエアバッグ装置によれば、エアバッグ袋体が膨張した際における運転者の前方視界を更に改善することができる、という優れた効果が得られる。
【0015】
請求項3に記載の車両用フードエアバッグ装置によれば、エアバッグ袋体が膨張した際における運転者の前方視界を改善しつつ、衝突体の衝撃吸収性能を更に向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【0016】
請求項4に記載の車両用フードエアバッグ装置によれば、後側バッグセルにおける所定部位のセル高さをより低くして、運転者の前方視界を更に改善することができる、という優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1において、本実施の形態に係る車両用フードエアバッグ装置10は、車両50における例えばフロント側のフード12内に設けられており、モジュールケース14と、インフレータ16と、エアバッグ袋体18とを有している。
【0018】
モジュールケース14は、フード12の後部12Rの下方、例えばフードアウタパネル20とフードインナパネル22との間に配設され、フードアウタパネル20の開口部20Aに対応して開口すると共に、車幅方向に長尺に形成された箱状部材であり、インフレータ16及びエアバッグ袋体18が収納されている。具体的には、モジュールケース14は、車両前側の壁部材24と、車両後側の壁部材26と、底部部材28とを例えば溶接することで箱形状に形成されている。底部部材28には、壁部材24より車両前方及び壁部材26より後方に夫々延長されたフランジ部28Fが設けられており、モジュールケース14は、該フランジ部28Fにおいて、例えば図示しないボルト及びナットを用いてフードインナパネル22に取り付けられている。
【0019】
フードアウタパネル20とフードインナパネル22との間には、例えば断面逆ハット形のリインフォースメント30が車幅方向に延設されている。図示は省略するが、リインフォースメント30は、フードインナパネル22に対して直接的に結合されており、フードアウタパネル20との間には例えばマスチックが配設されている。フードアウタパネル20の開口部20Aには、エアバッグ袋体18の膨張力により開くドア32が設けられている。
【0020】
インフレータ16は、モジュールケース14内に収納され、図示しない衝突体が車両50の前部に衝突した際に、エアバッグ袋体18に対して膨張用のガスを供給するためのガス供給源であって、例えば、取付けブラケット34を用いることでモジュールケース14の車両前側の壁部材24寄りの底部部材28に固定されている。
【0021】
エアバッグ袋体18は、モジュールケース14内に折り畳み収納され、インフレータ16からのガスの供給を受けて、フード12外において少なくともフード12の後部12R及びフード12の後端部12Eを覆うように構成されている。具体的には、図1,2に示されるように、エアバッグ袋体18は、主として車幅方向にかつ車両前後方向に並列して夫々略円筒状に膨張可能な前側バッグセル18F及び後側バッグセル18Rを有している。後側バッグセル18Rにおける所定部位18Aのセル高さは、運転者の前方視界に対応して低く構成されている。
【0022】
ここで、所定部位18Aとは、図2において、後側バッグセル18Rのうち、運転者の目の位置Pから見て車両平面視で角度θの範囲にある部位であり、該角度θは、所謂右ハンドル車の場合、車両前後方向を基準として、例えば右方向に5°、左方向に15°の計20°の範囲である。また、所謂左ハンドル車の場合には、角度θは、車両前後方向を基準として、例えば左方向に5°、右方向に15°の範囲である。なお、所定部位18Aは、角度θの範囲より広くてもよく、例えばエアバッグ袋体18を共用化するために、後側バッグセル18Rが、右ハンドル車に対応した所定部位18Aと、左ハンドル車用に対応した所定部位18Aとを兼ね備えていてもよい。
【0023】
図1において、所定部位18Aのセル高さは、水平方向における運転者の視線Eの高さよりも低く設定されており、より望ましくは所定部位18Aの前方の前側バッグセル18Fよりも低く設定される。ここで、所定部位18Aにおけるセル高さは、例えば地面(図示せず)を基準とした高さである。
【0024】
また、後側バッグセル18Rのうち、所定部位18A以外におけるセル高さは、前側バッグセル18Fのセル高さ以上に設定されている。ここで、所定部位18A以外におけるセル高さは、例えば地面(図示せず)を基準とした高さとして定義してもよいし、各バッグセルの直径の差として定義してもよい。図示の例は前者の定義によるものであり、前側バッグセル18Fと後側バッグセル18Rの直径は同等であって、バッグ内に設けたストラップ(図示せず)等によりセル高さを下げている。後者の定義の場合には、後側バッグセル18Rの直径を、前側バッグセル18Fの直径よりも大きくする。
【0025】
図2において、エアバッグ袋体18の両端部18Eは、例えば前側バッグセル18F及び後側バッグセル18Rに夫々連通し、車両後方に膨張して左右のAピラー38を覆うように構成されている。
【0026】
フード12の後端部12Eの後方には、フロントウインドシールド36及びカウル部(図示せず)が設けられているが、該フロントウインドシールド36の下端に位置するカウル部には、衝撃吸収用の脆弱部(図示せず)を設けることが望ましい。カウル部で衝突体の衝撃を吸収することができれば、後側バッグセル18Rにおける所定部位18Aのセル高さをより低くすることができ、これにより運転者の前方視界を更に改善することができるからである。
【0027】
(作用)
図1において、車両用フードエアバッグ装置10では、車両50の例えば前部に衝突体(図示せず)が衝突すると、インフレータ16が作動して、該インフレータ16から多量のガスがモジュールケース内に折り畳み収納されているエアバッグ袋体18へ供給される。これによりエアバッグ袋体18が膨張し始めると、その膨張力により、ドア32が開き、該エアバッグ袋体18がフード12の外へ膨張展開する。この際、モジュールケース14が配設されているフード12の後部12R付近は前側バッグセル18Fにより覆われ、またフード12の後端部12E付近は後側バッグセル18Rにより覆われる。図2に示されるように、後側バッグセル18Rは、フード12の後端部12Eだけでなく、フロントウインドシールド36の下部やカウル部も覆うように膨張する。更に、エアバッグ袋体18の両端部18Eは、フード12の後部12Rの両端からAピラー38付近を覆うように膨張する。このように膨張したエアバッグ袋体18に衝突体が当たることで、その衝撃が吸収される。
【0028】
膨張したエアバッグ袋体18の後側バッグセル18Rでは、所定部位18Aのセル高さが、運転者の前方視界に対応して低く構成されているので、運転者の前方視界が後側バッグセル18Rにより減少することを抑制することができ、該前方視界を改善することが可能である。所定部位18Aのセル高さが、該所定部位18Aの前方の前側バッグセル18Fよりも低く設定されていると、運転者の前方視界が後側バッグセル18Rにより減少することを更に抑制することができ、前方視界を更に改善することができる。
【0029】
また、膨張したエアバッグ袋体18の後側バッグセル18Rのうち、所定部位18A以外におけるセル高さは、前側バッグセルのセル高さ以上に設定されているので、該所定部位18A以外の部位における衝撃吸収性能が高い。従って、エアバッグ袋体18が膨張した際における運転者の前方視界を改善しつつ、衝突体の衝撃吸収性能を更に向上させることが可能である。
【0030】
フロントウインドシールド36の下端に位置するカウル部に、衝撃吸収用の脆弱部が設けられている場合には、該カウル部でも衝突体の衝撃を吸収することができるので、後側バッグセル18Rにおける所定部位18Aのセル高さをより低くして、運転者の前方視界を更に改善することが可能である。
【0031】
なお、車両用フードエアバッグ装置10において、所定部位18Aのセル高さを低くしているのは、フロントウインドシールド36等が低剛性であることに着目して後側バッグセル18Rを小容量化するためではなく、あくまで運転者の前方視界を改善するためである。従って、カウル部に脆弱部を設けて衝撃吸収性を高めるのも、運転者の前方視界を更に改善するためであり、後側バッグセル18Rをより小容量化するためではない。
【0032】
また、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、フード12内におけるモジュールケース14やインフレータ16等の取付け状態、ドア32の形状、エアバッグ袋体18の膨張位置等について、本発明の範囲内において他の実施形態とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】車両用フードエアバッグ装置において、エアバッグ袋体の膨張状態を示す要部拡大断面図である。
【図2】車両用フードエアバッグ装置が作動して、エアバッグ袋体が膨張した状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
10 車両用フードエアバッグ装置
12 フード
12E 後端部
12R 後部
14 モジュールケース
16 インフレータ
18 エアバッグ袋体
18A 所定部位
18F 前側バッグセル
18R 後側バッグセル
36 フロントウインドシールド
50 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードの後部の下方に配設されたモジュールケースと、
該モジュールケース内に収納されたインフレータと、
前記モジュールケース内に折り畳み収納され、前記インフレータからのガスの供給を受けて、前記フード外において少なくとも前記フードの後部及び前記フードの後端部を覆うように、主として車幅方向にかつ車両前後方向に並列して夫々略円筒状に膨張可能な前側バッグセル及び後側バッグセルを有し、該後側バッグセルにおける所定部位のセル高さが、運転者の前方視界に対応して低く構成されたエアバッグ袋体と、
を有することを特徴とする車両用フードエアバッグ装置。
【請求項2】
前記所定部位のセル高さは、該所定部位の前方の前記前側バッグセルよりも低く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用フードエアバッグ装置。
【請求項3】
前記後側バッグセルのうち、前記所定部位以外におけるセル高さは、前記前側バッグセルのセル高さ以上に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用フードエアバッグ装置。
【請求項4】
フロントウインドシールドの下端に位置するカウル部に、衝撃吸収用の脆弱部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の車両用フードエアバッグ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−196799(P2007−196799A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16597(P2006−16597)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】