説明

車両用フード跳ね上げ装置

【課題】力伝達機構の搭載の自由度を高くでき、フードのクラッシュゾーンを確保できる車両用フード跳ね上げ装置の提供。
【解決手段】本発明の車両用フード跳ね上げ装置9は、バンパ2より後方に設けられ歩行者衝突時に衝突荷重を受けてピストン13が後方に移動する流体圧シリンダ10と、フード1の後端部の下方に設けられ歩行者衝突時にピストン23が上方に移動してフード1を跳ね上げるリフトシリンダ20と、流体圧シリンダ10とリフトシリンダ20とを連通する配管30と、を備えている。配管30は搭載位置に制約を受けることが少ないため、搭載の自由度が高い。配管30とフード1との間隔を大きくとることにより、クラッシュゾーンを確保できる。流体圧シリンダ10がバンパ2の後方に設けられているため、迅速に、フード後端部をリフトアップできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フード跳ね上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行者衝突時に歩行者の上体が車両フードに倒れてくる前にフードを後端部で跳ね上げてフードとその下方にある固体(たとえば、エンジン)との間隔を増大しクラッシュストロークを確保して歩行者保護をはかる車両用フード跳ね上げ装置は知られている。
【0003】
特許文献1は、歩行者がフード前端部に衝突する際の衝突衝撃力を、フードを通じてフード後端部に伝達し、フード後端部をリフトアップするフード跳ね上げ装置を開示している。特許文献1では、フードを通じて衝突衝撃力を伝達するため、フードが曲がるとフード後端部の跳ね上げ機構が目的とする跳ね上げ作動をしなくなるおそれがある。
【0004】
それを解決するために、特許文献2は、歩行者衝突時にフード前端部に作用する衝突衝撃力を、フードを介することなく、力伝達機構(機械式リンク機構)によりフードリフトアップリンク機構に伝達することで、フード後端部をリフトアップするフード跳ね上げ装置を開示している。
【特許文献1】特許第3293874号公報
【特許文献2】特開2004−268687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2などのフード跳ね上げ装置には、つぎの問題がある。
(イ)機械式リンク機構などの力伝達機構は、できるだけ直線的に配置する必要があり、搭載位置が制限される。機械式リンク機構はフェンダ内に配置される可能性が高いが、その場合は歩行者保護のためのクラッシュゾーン(力伝達機構と、フードまたはフェンダとの上下間隔)の確保が難しい。
(ロ)歩行者がバンパに衝突した後、歩行者のフード前端部への倒れ込みによって始めて作動するため、歩行者の上体がフード上に倒れ込んでくる前にフード後端部を迅速にリフトアップする点で改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、力伝達機構の搭載の自由度を従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも高くでき、歩行者保護のためのクラッシュゾーンを従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも容易に確保できる車両用フード跳ね上げ装置を提供することにある。
【0007】
本発明の目的は、上記目的に加えて、従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも迅速にフード後端部をリフトアップできる車両用フード跳ね上げ装置を提供することにあってもよい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する、または上記目的を達成する本発明の車両用フード跳ね上げ装置は、バンパより後方に設けられ歩行者衝突時に衝突荷重を受けてピストンが後方に移動する流体圧シリンダと、フードの後端部の下方に設けられ歩行者衝突時にピストンが上方に移動してフードを跳ね上げるリフトシリンダと、流体圧シリンダとリフトシリンダとを連通する配管と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用フード跳ね上げ装置によれば、つぎの効果を得る。
流体圧シリンダとリフトシリンダとを配管で連通しているので、リンクやワイヤなどの従来の力伝達機構に比べて、配管は搭載位置に制約を受けることが少ないため、力伝達機構(配管)の搭載の自由度が従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも高い。搭載において、配管とフードとの間隔を大きくとることにより、歩行者保護のためのクラッシュゾーンを従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも容易に確保できる。
【0010】
しかも、流体圧シリンダがバンパの後方に設けられているため、歩行者がフード前端に倒れ込んでくるよりも前に、歩行者の下肢がバンパに当たり、流体圧シリンダを押し、配管を通してリフトシリンダを作動させる。その結果、歩行者がフードリフト前端に倒れ込んできてはじめて作動していた従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも迅速に、フード後端部をリフトアップでき、歩行者保護性能上、有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の車両用フード跳ね上げ装置9を、図1〜図6を参照して説明する。
本発明の車両用フード跳ね上げ装置9は、車両のコンパートメント、たとえばエンジンコンパートメントに配置される。車両用フード跳ね上げ装置9は、フロントバンパ2のバンパカバー3の後方に設けられ歩行者衝突時に衝突荷重を受けてピストン13が後方に移動する流体圧シリンダ10と、フード1の後端部の下方に設けられ歩行者衝突時にピストン23が上方に移動してフード1を跳ね上げるリフトシリンダ20と、流体圧シリンダ10とリフトシリンダ20とを連通する配管30と、を備えている。リフトシリンダ20の跳ね上げ量は、たとえば約10cm以上、たとえば15cmである。
【0012】
フード跳ね上げ装置9は、車両の左右のフロントサイドメンバ6(車輪より車両左右方向内側で車両前後方向に延びる部材で2本ある)の位置に、または左右のフロントサイドメンバ6のうちの一方のフロントサイドメンバ6の位置に、設けられる。あるいは、流体圧シリンダ10が左右のフロントサイドメンバ6の位置にそれぞれ設けられ、リフトシリンダ20がフード1の車両左右方向中央部に1つ設けられ、左右の流体圧シリンダ10と配管30によってつながれてもよい。流体圧シリンダ10とリフトシリンダ20の作動流体は、液体(たとえばオイル)、または気体(たとえば空気)である。流体圧シリンダ10からリフトシリンダ20への圧力の伝達の観点からは、作動流体は圧縮性流体である気体よりも、非圧縮性流体である液体の方が望ましい。ただし、作動流体は気体であってもよい。また、リフトシリンダ20の持ち上げ量を大きくするために、リフトシリンダ20の径を流体圧シリンダ10より小さくすることが望ましい。
【0013】
バンパ2、バンパリーンフォース5、流体圧シリンダ10およびフロントサイドメンバ6の近傍の関連構造はつぎのようになっている。
フロントバンバ(単にバンパともいう)2はバンパカバー3とバンパアブソーバフォーム4とバンパリーンフォース5を含む。バンパカバー3の車両後方側にはバンパアブソーバフォーム4が設けられ、バンパアブソーバフォーム4の車両後方側にバンパリーンフォース5が設けられる。フロントバンパ2はグリルの下方に位置し、車両左右方向に全車幅にわたって延びており、たとえば樹脂製である。バンパアブソーバフォーム4は車両左右方向にほぼ全車幅にわたって延びており、たとえば発泡樹脂製である。バンパリーンフォース5は剛体で、車両左右方向にほぼ全車幅にわたって延びており、たとえば金属製である。
【0014】
フロントバンパ2が歩行者の下肢Lに衝突した時には荷重Fを受けてフロントバンパ2とバンパアブソーバフォーム4は変形し(図1から図2の状態に変形し)、この変形によって衝撃エネルギを吸収して歩行者の下肢Lのダメージを軽減する。フロントバンパ2とバンパアブソーバフォーム4からの荷重Fは、剛体のバンパリーンフォース5によって受けられ、バンパリーンフォース5を車両後方に押す。
【0015】
流体圧シリンダ10は、液圧シリンダ(たとえば、油圧シリンダ)か、または空気圧シリンダである。流体圧シリンダ10は、軸方向を、水平方向に、かつ車両前後方向に向けて配置される。流体圧シリンダ10は、内部にシリンダに対してシリンダ軸方向に摺動可能なピストン13を有する。ピストン13に連結されたロッド12はシリンダ10の端板を貫通して外部に延び、そのバンパリーンフォース5およびバンパカバー3側の先端には荷重受け板11が取付けられている。
【0016】
図1〜図6は、フロントサイドメンバ6が前後に分割された互いにスライド可能な第1、第2のサイドメンバ6A、6B(6Aが前側、6Bが後側、6A、6B共分割型サイドメンバの一部)を有し、バンパリーンフォース5が第1のサイドメンバ6Aに連結されるとともに、流体圧シリンダ10によって第2のサイドメンバ6Bに対して車両後方に移動可能に支持され、流体圧シリンダ10および荷重受け板11がバンパリーンフォース5より後方に設けられる場合を示す。この場合は、第2のサイドメンバ6Bの前端はバンパリーンフォース5の車両後方側の面から車両後方に向かって離して設けられ、バンパリーンフォース5の後方への移動を阻害しないようになっている。流体圧シリンダ10は、第2のサイドメンバ6Bの前部の内部(または外部)に設けられ、第2のサイドメンバ6Bによって支持されている。流体圧シリンダ10のロッド12のバンパリーンフォース5側の先端に取り付けられた荷重受け板11は、バンパリーンフォース5に連結され固定されている。バンパリーンフォース5は流体圧シリンダ10および第1のサイドメンバ6Aを介して第2のサイドメンバ6Bによって上下方向に支持される。バンパ2が歩行者から衝突荷重Fを受けた時には、バンパリーンフォース5および第1のサイドメンバ6Aは第2のサイドメンバ6Bに対して車両後方に移動し、流体圧シリンダ10のピストン13も第2のサイドメンバ6Bに対して車両後方に移動する。
【0017】
流体圧シリンダ10は、液圧シリンダ(たとえば、油圧シリンダ)か、または空気圧シリンダである。流体圧シリンダ10は、流体圧シリンダ10の軸方向を、水平方向に、かつ車両前後方向に向けて配置される。流体圧シリンダ10は、内部にシリンダに対してシリンダ軸方向に摺動可能なピストン13を有する。ピストン13に連結されたロッド12はシリンダ10の端板を貫通して外部に延び、そのバンパリーンフォース5側の先端に荷重受け板11が取付けられる。歩行者から衝突荷重Fを受けた時には、ピストン13とそのロッド12は、フロントサイドメンバ6の第2のサイドメンバ6Bに対して車両後方に移動する。
【0018】
流体圧シリンダ10の内部はピストン13によって2つのチャンバ16、17に隔てられており、バンパ2およびバンパリーンフォース5から遠い方のチャンバ16には作動流体(オイルまたはエアなど)が充填されており、バンパ2およびバンパリーンフォース5に近い方のチャンバ17にはエアがあり、チャンバ17内は孔18を通して外気と連通している。2つのチャンバ16、17はピストン13の外周に形成された溝に嵌入されたシールリング15によって互いからシールされている。バンパ2およびバンパリーンフォース5から遠い方のチャンバ16にはスプリング14が設けられていて、ピストン13をバンパ2側に付勢しており、荷重受け板11をピストン13のストローク端で決まる正規の位置に保持している。歩行者から衝突荷重Fを受けてピストン13がフロントサイドメンバ6に対して車両後方に移動した時には、バンパ2およびバンパリーンフォース5から遠い方のチャンバ16の作動流体は圧力が上昇し、一部は配管30内に流出する。
【0019】
リフトシリンダ20は、液圧シリンダ(たとえば、油圧シリンダ)か、または空気圧シリンダである。リフトシリンダ20は、軸方向を、上下方向に向けて配置される。リフトシリンダ20は車体に支持されている。リフトシリンダ20は、内部にシリンダに対してシリンダ軸方向に摺動可能なピストン23を有する。ピストン23に連結されたロッド22はシリンダ20の端板を貫通して外部に延び、そのフード1側の先端にはヒンジ7のヒンジ下部部材21が取付けられている。ヒンジ下部部材21にはヒンジ7を介してヒンジ上部部材8が回動可能に取り付けられ、ヒンジ上部部材8がフード1の下面に連結されまたは(連結はされずに)接触され、フード1を下から支持している。リフトシリンダ20の内部はピストン23によって2つのチャンバ26、27に隔てられており、フード1から遠い方のチャンバ27には作動流体(オイルまたはエアなど)が充填されており、フード1に近い方のチャンバ26にはエアがあり、チャンバ26内は孔28を通して外気と連通している。2つのチャンバ26、27はピストン23の外周に形成された溝に嵌入されたシールリング25によって互いからシールされている。フード1に近い方のチャンバ26にはスプリング24が設けられていて、ピストン23をフード1から離れる方向(下方)に付勢している。
【0020】
流体圧シリンダ10とリフトシリンダ20とをつなぐ配管30は、配管30の一端で、流体圧シリンダ10に開口して開口部31を形成しており、配管30の他端32で、リフトシリンダ20に開口して開口部32を形成している。開口部31は歩行者衝突時にピストン13が車両後方に移動してもピストン13によって閉塞されない位置に設けられており、開口部32は歩行者衝突時にピストン23が上方に移動してもピストン23によって閉塞されない位置、たとえばシリンダ20の下側端板に設けられている。また、配管30は、金属製のパイプでも、あるいは非金属製のホースでもよい。
【0021】
配管30は、流体圧シリンダ10への開口31からシリンダ軸方向と交差する方向に短く延びた後、たとえば、フロントサイドメンバ6の上面または側面、またはコンパートメント床上に沿ってほぼ水平にかつ車両前後方向にリフトシリンダ20の下方位置まで延び、(リフトシリンダ20が車両左右方向中央に1つだけ設けられている場合は、配管は水平伸長部の後端から車両左右方向内側に折れ曲がってリフトシリンダ20の下方位置まで延び)、そこで上方に折れ曲がってリフトシリンダ20まで延びている。
配管30の水平方向伸長部は、エンジンコンパートメント内で、望ましくはフード1から下方に十分な距離をとった位置に(少なくともエンジンコンパートメント内の配管以外の剛体部品の上端よりは低い位置に)配置される。配管30の水平方向伸長部は、歩行者がフード1上に倒れ込んできた場合にフード1に十分なクラッシュストロークを確保できる位置、すなわち、フード1がクラッシュストロークしても配管30に当たらない位置、に配置される。
【0022】
歩行者衝突時にフード1の後端部が跳ね上げられた後、歩行者がフード上面に倒れ込んできてフード1に当たり、その荷重でフード1の後端部が下がって実質的にフードのクラッシュストロークを減少させることがないように、配管30には、フード1からの荷重では、リフトシリンダ20のフード1から遠い側のチャンバ27から配管30に作動流体が逆流しないようにする一方向弁33(ワンウエイバルブ)が設けられている。この一方向弁33は、たとえば、配管30のリフトシリンダ20への開口部32に設けられ(ただし、一方向弁33の配置位置は開口部32に限定されるものではない)、開口部32に形成されたテーパ面と該テーパ面に設けられたボールからなる。作動流体が配管30からチャンバ27に流れる時はボールがテーパ面から離れて自由に作動流体を流すが、作動流体がチャンバ27から配管30に流れようとする時はボールがテーパ面に密着して作動流体の流れを止める。一方向弁33はボール構造に限定されるものではない。
【0023】
つぎに、本発明の上記実施例の作用(作動)を説明する。
歩行者と衝突しない通常時には、車両用フード跳ね上げ装置9は図1の状態にあり、流体圧シリンダ10は図3の状態にあり、リフトシリンダ20は図5の状態にある。すなわち、流体圧シリンダ10はロッド12がシリンダから最も突出した位置にあり、バンパアブソーバフォーム4、バンパカバー3は変形していない通常位置にある。リフトシリンダ20はピストン23が最も下がった位置にあり、フード1もリフトアップしていない通常位置にある。作動流体圧は大気圧かほぼ大気圧にある。作動流体は配管30を通して移動しない。
【0024】
歩行者衝突時、歩行者の下肢Lがバンパ2に当たり、図2、図4、図6に示すように、バンパカバー3およびバンパアブソーバフォーム4が変形する。ピストン13は押されてシリンダ内を車両後方に移動する。流体圧シリンダ10のチャンバ16とリフトシリンダ20のチャンバ27は配管30を通して連通している。ピストン13が流体圧シリンダ10のシリンダ内を車両後方に移動すると、ピストン13よりバンパ2およびバンパリーンフォース5から遠い側のチャンバ16の作動流体の流体圧が上昇し、チャンバ16内の上昇圧力は、配管30を通して瞬時にリフトシリンダ20に伝播して、リフトシリンダ20のチャンバ27の作動流体圧を上昇させる。リフトシリンダ20ではチャンバ27の上昇した圧力とチャンバ26の大気圧の差でピストン23が上昇し、フード1の後端部をフード前端部(ヒンジ)まわりに(約10cm以上)跳ね上げる。
圧力伝播とともに、流体圧シリンダ10からリフトシリンダ20に向かう方向への作動流体の移動が生じる。作動流体は以下のように移動する。すなわち、チャンバ16内の作動流体は一部、配管30内に流入する。配管30内では、流体圧シリンダ10からリフトシリンダ20に向かう方向への作動流体の移動が生じ、一方向弁33部位では作動流体が一方向弁33を通り抜ける。配管30内の作動流体はリフトシリンダ20のチャンバ27内に流入する。
【0025】
この跳ね上げは、歩行者がフード1上に倒れ込んでくる前に完了している。フード1とその下方の、エンジンコンパートメント内の剛体物(たとえば、エンジン)との間の上下方向間隔が増大されていてクラッシュストロークが十分に確保される。したがって、歩行者がフード1上に倒れ込んできた時、その衝撃を受けても、フード1が下方の剛体物(たとえば、エンジン)に底付きすることなく、塑性変形してエネルギを吸収し、歩行者のダメージを軽減し、保護する。
【0026】
つぎに、本発明の上記実施例の効果を説明する。
流体圧シリンダ10とリフトシリンダ20とを配管30でつないでいるので、リンクやワイヤなどの従来の力伝達機構に比べて、配管30は搭載位置に制約を受けることが少ないため、力伝達機構(配管30)の車両への搭載の自由度が従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも高い。また、車両用フード跳ね上げ装置9の車両への搭載において、配管30をフード1から下方に大きく離すなどで、配管30とフード1との上下方向間隔を大きくとることにより、フード1の、歩行者保護のためのクラッシュゾーンを従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも容易に確保できる。
【0027】
しかも、歩行者がフード前端部に倒れ込んでくるよりも前に、歩行者の下肢Lがバンパ2に当たり、流体圧シリンダ10のピストン13が押されてチャンバ16の圧力が上昇し、配管30を通して圧力が伝播してリフトシリンダ20が作動されるので、歩行者がフード前端部に倒れ込んではじめて作動していた従来(たとえば、特許文献2の装置)よりも迅速に、フード後端部をリフトアップでき、歩行者保護性能上、有利である。
【0028】
また、流体圧シリンダ10からリフトシリンダ20への作動力伝達が、配管30を通しての流体流体中を伝播する圧力伝播によって行われているので、機械的であり、電気的な伝達で生じるおそれのある衝突時の断線などがなく、電気的な伝達に比べて作動の信頼性および確実性が高い。また、ピストン13の後方への移動を伴うような実際の衝突荷重で作動し、ピストン13の後方への移動を伴わないバンパのこすり程度の衝撃では作動しないので、過度に敏感なフードリフトアップ作動が生じることがなく、作動が安定している。
【0029】
配管30を通しての流体の移動によってリフトシリンダ20を作動させるため、配管30に簡単な一方向弁33を設けるなどにより、持ち上げられたフード1の下降を、簡単で確実な手段にて抑制することができる。
【0030】
本発明は上記の図1〜図6の実施例に限られるものではなく、つぎの種々の変形例をとることができ、これらの変形例は何れも本発明に含まれるものである。
【0031】
〔変形例1〕 図7(通常時)および図8(歩行者衝突時)に示すように、フロントサイドメンバ6、または前端に取り付けられたクラッシュボックス6C(アルミ製で前突時に塑性変形してエネルギを吸収する部材でフロントサイドメンバ6の一部)はバンパリーンフォース5まで延び、バンパリーンフォース5はフロントサイドメンバ6に、クラッシュボックス6Cに、固定されている。バンパリーンフォース5はフロントサイドメンバ6またはクラッシュボックス6Cによって支持される。流体圧シリンダ10がバンパカバー3の後方に設けられている。流体圧シリンダ10はフロントサイドメンバ6、またはクラッシュボックス6C内に配置されている。流体圧シリンダ10のロッド12は前方に向かって延びバンパリーンフォース5を貫通してさらに前方に延びる。ロッド12の前端に取付けられた荷重受け板11はバンパカバー3の車両後方側に位置し、バンパリーンフォース5より前方に位置する。バンパカバー3が歩行者から衝突荷重Fを受けた時には、図8に示すように、バンパリーンフォース5は後方に移動しないが、バンパカバー3とバンパアブソーバフォーム4は後方に変形し、荷重受け板11を押して車両後方に移動させ、流体圧シリンダ10のピストン13をフロントサイドメンバ6に対して車両後方に移動させる。変形1のその他の構成、作用、効果は、上記本発明の実施例の段落〔0016〕以外に記載の構成、作用、効果に準じる。
【0032】
〔変形例2〕 流体圧シリンダ10のロッド12の先端に取り付けた荷重受け板11をバンパリーンフォース5の後面に、流体圧シリンダ10のスプリング14の付勢力で押し付けるようにした構造(固定しない)。バンパリーンフォース5の重量は、第1サイドメンバ6Aを介して第2のサイドメンバ6Bにより支持される。
【0033】
〔変形例3〕 流体圧シリンダ10として、チャンバ16、17の両方に作動流体(たとえば、オイル)を封入し、シリンダ壁の孔18を除去し、ピストン13にチャンバ16、17を連通する小孔を設け、歩行者衝突時に、バンパリーンフォース5およびバンパ2から遠い方のチャンバ16からバンパリーンフォース5およびバンパ2に近い方のチャンバ17への作動流体の移動を許して、ピストン13の後方への移動を可能にしたシリンダを用いる。
【0034】
〔変形例4〕 リフトシリンダ20として、チャンバ26、27の両方に作動流体(たとえば、オイル)を封入し、シリンダ壁の孔28を除去し、ピストン23にチャンバ26、27を連通する小孔を設け、歩行者衝突時にフード1から遠い方のチャンバ27からフード1に近い方のチャンバ26への作動流体の移動を許してピストン23の上方への移動を可能にしたシリンダを用いる。
【0035】
〔変形例5〕 変形例3の構造と変形例4の構造とを共に用いる。
【0036】
〔変形例6〕 ヒンジ7、ヒンジ下部部材21、ヒンジ上部部材8を除去し、通常時には、ロッド22の上端をフード1下面に当てておき、歩行者衝突時には、ロッド22の上端でフード1を跳ね上げる構造。
【0037】
〔変形例7〕 本発明の配管30に設けた一方向弁33に代えて、ヒンジ7を押上げる部材(たとえば、ロッド22)のシリンダ外部の部位に、上方への移動のみを許し下方への移動を拘束する機構、たとえばラチェット機構、を設けた構造。
【0038】
〔変形例8〕 本発明の車両用フード跳ね上げ装置を車両のリアコンパートメントに配置し、リアバンパの衝突荷重を流体圧シリンダからリフトシリンダに作動流体の圧力伝播により伝達して、リアフードを跳ね上げるようにした構造。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例に係る車両用フード跳ね上げ装置の、通常時(歩行者衝突時でない時)の、断面図である。
【図2】図1の装置の、歩行者衝突時の、断面図である。
【図3】図1の装置の流体圧シリンダとその近傍の、通常時の、拡大断面図である。
【図4】図1の装置の流体圧シリンダとその近傍の、歩行者衝突時の、拡大断面図である。
【図5】図1の装置のリフトシリンダとその近傍の、通常時の、拡大断面図である。
【図6】図1の装置のリフトシリンダとその近傍の、歩行者衝突時の、拡大断面図である。
【図7】本発明の変形例1に係る車両用フード跳ね上げ装置の流体圧シリンダとその近傍の、通常時(歩行者衝突時でない時)の、断面図である。
【図8】図7の装置の流体圧シリンダとその近傍の、歩行者衝突時の、断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 フード
2 フロントバンパ
3 バンパカバー
4 バンパアブソーバフォーム
5 バンパリーンフォース
6 フロントサイドメンバ
6A 第1のサイドメンバ
6B 第2のサイドメンバ
6C クラッシュボックス
7 ヒンジ
8 ヒンジ上部部材
9 本発明の車両用フード跳ね上げ装置
10 流体圧シリンダ
11 荷重受け板
12 ロッド
13 ピストン
14 スプリング
15 シールリング
16、17 チャンバ
18 孔
20 リフトシリンダ
21 ヒンジ下部部材
22 ロッド
23 ピストン
24 スプリング
25 シールリング
26、27 チャンバ
28 孔
30 配管
31 流体圧シリンダへの開口部
32 リフトシリンダへの開口部
33 一方向弁(たとえば、ボール)
L 歩行者の下肢
F 衝突荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパより後方に設けられ歩行者衝突時に衝突荷重を受けてピストンが後方に移動する流体圧シリンダと、
フードの後端部の下方に設けられ歩行者衝突時にピストンが上方に移動してフードを跳ね上げるリフトシリンダと、
流体圧シリンダとリフトシリンダとを連通する配管と、
を備えた車両用フード跳ね上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−120310(P2008−120310A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308622(P2006−308622)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】