説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】マスタシリンダの入力中でもリザーバ内のブレーキ液をマスタシリンダ側に戻すことができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供する。
【解決手段】出力液圧路10と、制御弁手段V(入口弁20、出口弁21)と、シリンダ56の内部がピストン51によって貯溜室54と押圧室55とに区画されたリザーバRと、開放路30と、戻し路31とを有したブレーキ液圧制御ユニットUを備えた車両用ブレーキ液圧制御装置Sであって、(第二の)車輪ブレーキB2が受ける制動反力によって液圧を発生させる二次マスタシリンダM2と、この二次マスタシリンダM2とリザーバR内の押圧室55とを連通させる二次液圧路80とをさらに備え、二次マスタシリンダM2によって発生した液圧によって押圧室55内の作動液の液圧を増圧させることでピストン51を貯溜室54側へ移動させて貯溜室54内のブレーキ液をマスタシリンダM側に戻すように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御を行う車両用ブレーキ液圧制御装置は、一般的に、ブレーキ操作子の操作に応じて液圧を発生するマスタシリンダと車輪ブレーキとを繋ぐ出力液圧路と、出力液圧路内のブレーキ液を一時貯溜するリザーバと、出力液圧路から分岐してリザーバに繋がる開放路と、リザーバからブレーキ液を吸引するポンプとを備え、ポンプによって、ブレーキ液をリザーバからマスタシリンダ側に戻すようになっている。
【0003】
しかし、このようにポンプを備えた車両用ブレーキ液圧制御装置では、装置が大型且つ複雑な構造となり、製造コストも高くなりがちである。そこで、コストダウンおよび構造の簡略化を図る目的で、前記のような車両用ブレーキ液圧制御装置に対し、ポンプを省略した構成のいわゆるポンプレスの車両用ブレーキ液圧制御装置が従来より提案されている。ポンプレスの車両用ブレーキ液圧制御装置は、例えば、特許文献1に示すようなものがあった。
【0004】
特許文献1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置は、ブレーキ液を自動的に排出させる自動排出機能を有するリザーバが設けられており、リザーバ自体がブレーキ液をマスタシリンダ側に戻すようになっている。リザーバは、ピストンとばね力の弱いスプリングとを備えており、スプリングのばね力によってピストンを摺動させて貯溜されたブレーキ液を排出するようになっている。一方で、アンチロックブレーキ制御中には、前記ばね力に抗してピストンを摺動させることで、車輪ブレーキに作用するブレーキ液をリザーバ内に貯溜するようになっている。このような車両用ブレーキ液圧制御装置によって、ポンプが省略されてコストダウンおよび構造の簡略化が達成されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−155770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示された車両用ブレーキ液圧制御装置では、アンチロックブレーキ制御中に、車輪ブレーキに作用するブレーキ液をリザーバに流入させて貯溜することができるものの、マスタシリンダの入力が解除されるまでリザーバに流入されたブレーキ液が排出されないため、効率よくリザーバ内のブレーキ液をマスタシリンダ側に戻すことができなくなってしまう。特に、低摩擦係数の路面が長く続いた際のアンチロックブレーキ制御では、ブレーキ液が継続してリザーバに流れ込み、マスタシリンダの入力が継続して場合には、リザーバがフルストロークしてしまうおそれがある。
【0007】
このような観点から、本発明は、ポンプを備えていない車両用ブレーキ液圧制御装置においてマスタシリンダの入力中でも、リザーバ内のブレーキ液をマスタシリンダ側に戻すことができる車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決する請求項1に係る発明は、ブレーキ操作子の操作に応じて液圧を発生するマスタシリンダと車輪ブレーキとを繋ぐ出力液圧路と、ブレーキ液圧を増圧する状態と減圧する状態と保持する状態とを切り替える制御弁手段と、シリンダの内部がピストンによって貯溜室と押圧室とに区画され前記貯溜室に前記出力液圧路内のブレーキ液を一時貯溜するリザーバと、前記制御弁手段と前記車輪ブレーキ間の前記出力液圧路から分岐して前記リザーバの前記貯溜室に繋がる開放路と、前記リザーバの前記貯溜室内のブレーキ液を前記マスタシリンダに戻す戻し路とを有し、前記車輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御を行うブレーキ液圧制御ユニットを備えた車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前記車輪ブレーキが受ける制動反力によって液圧を発生させる二次マスタシリンダと、この二次マスタシリンダと前記リザーバ内の前記押圧室とを連通させる二次液圧路とをさらに備え、前記二次マスタシリンダによって発生した液圧によって、前記押圧室内の作動液の液圧を増圧させることで、前記ピストンを前記貯溜室側へ移動させて前記貯溜室内の前記ブレーキ液を前記マスタシリンダ側に戻すように構成したことを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0009】
このような構成によれば、マスタシリンダの入力に左右されることなく、二次マスタシリンダでリザーバの押圧室に作動液を作用させることができるので、ピストンを貯溜室側へ移動させて、貯溜室内のブレーキ液を押し出すことができる。すなわち、ポンプを備えていない車両用ブレーキ液圧制御装置においてマスタシリンダの入力中でも、リザーバ内のブレーキ液をマスタシリンダ側に戻すことができる。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、前記押圧室から前記作動液を排出する排出路を備え、前記二次液圧路を開通させつつ前記排出路を遮断する押圧状態と、前記二次液圧路を遮断しつつ前記排出路を開通させる排出状態とを切り替える切替手段とをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0011】
このような構成によれば、車両が走行する路面の状況に応じて、リザーバのピストンの動きを制御することができるので、最適なアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0012】
さらに、請求項3に係る発明は、前記切替手段が、前記車輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御における前記車輪ブレーキのブレーキ液圧の増圧時に、前記押圧状態を選択する切替弁にて構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0013】
このような構成によれば、車輪ブレーキのブレーキ液圧の増圧時に二次液圧路を開弁させているので、車輪ブレーキの反力を二次マスタシリンダに効率的に作用させることができ、リザーバの押圧室に作動液の液圧を確実に作用させることができる。
【0014】
また、請求項4に係る発明は、前記切替手段が、前記二次液圧路の開弁閉弁と前記排出路の閉弁開弁を単一の弁体の移動で行うように構成された切替弁からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0015】
このような構成によれば、切替弁の部品点数を削減することができるので、構成の簡素化が図れる。
【0016】
さらに、請求項5に係る発明は、前記排出路には、前記押圧室から排出された前記作動液を貯溜するタンクが接続されており、前記タンクは、前記ブレーキ液圧制御ユニット内に設けられていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0017】
このような構成によれば、二次マスタシリンダ専用のタンクを設けたことによって、ブレーキ操作子側に設けられたマスタシリンダのタンクに二次マスタシリンダを接続する必要がなくなるので、タンクを加工する必要がない。ブレーキ液圧制御ユニット内にタンクを設けたことによって、リザーバとタンクとを接続するホースが不要となる。
【0018】
また、請求項6に係る発明は、前記リザーバの前記ピストンは、前記貯溜室側における前記ブレーキ液の液圧の受圧面積が、前記押圧室側における前記作動液の液圧の受圧面積よりも小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置である。
【0019】
このような構成によれば、二次マスタシリンダの作動液の液圧を効率的にピストンに作用させることができ、より確実にリザーバ内のブレーキ液を排出させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る車両用ブレーキ液圧制御装置によれば、ポンプを備えていない車両用ブレーキ液圧制御装置においてマスタシリンダの入力中でも、リザーバ内のブレーキ液をマスタシリンダ側に戻すことができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
(第一実施形態)
図1に示すように、第一実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置Sは、例えば、自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)等の各種車両に好適に用いられるものであり、図示しない車両の前輪および後輪(ここでは前輪について例示)に付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御する。以下においては、前輪の左右両側に一対の車輪ブレーキが設けられたダブルディスクタイプの自動二輪車に、車両用ブレーキ液圧制御装置Sを適用した場合を例に挙げて説明するが、車両用ブレーキ液圧制御装置Sが搭載される車両を限定する趣旨ではない。なお、本実施形態における後輪の車輪ブレーキは一般的な公知の構造であるので、その図示および説明を省略することとする。
【0023】
本実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置Sは、車輪ブレーキB1,B2のアンチロックブレーキ制御を行うブレーキ液圧制御ユニットUと、このブレーキ液圧制御ユニットUよりもブレーキ操作子1側に設けられたマスタシリンダMと、ブレーキ液圧制御ユニットUよりも車輪ブレーキB1,B2側に設けられた二次マスタシリンダM2とを備えて構成されている。なお、本実施形態では、車輪ブレーキB1,B2は、前輪の左右両側にそれぞれ形成されており、通常の車輪ブレーキで構成された第一の車輪ブレーキB1と、後述する二次マスタシリンダM2が接続された第二の車輪ブレーキB2とで構成されている。
【0024】
マスタシリンダMは、自動二輪車の操行ハンドルを構成するハンドルバー(図示せず)に付設されるものであり、ブレーキ操作子1を構成するブレーキレバーの基端部に一体的に形成されている。ブレーキ操作子1は、ハンドルバーの先端に設けられたハンドル把持部2の前方に配置されており、ブレーキ操作子1をハンドル把持部2側に引き寄せて傾動させることによって、マスタシリンダMのピストンが移動し、内部のブレーキ液が圧縮されて、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2に液圧が伝達されるようになっている。マスタシリンダMの上部には、マスタシリンダリザーバタンクTが設けられており、このマスタシリンダリザーバタンクTに、マスタシリンダMに供給するブレーキ液が貯留されるようになっている。
【0025】
ブレーキ液圧制御ユニットUは、例えば、ハンドルバーやタンク下の空間に配置される。ブレーキ液圧制御ユニットUは、出力液圧路10と、入口弁20と、リザーバRと、開放路30と、出口弁21と、戻し路31とを備えて構成されている。請求項1に記載した「ブレーキ液圧を増圧する状態と減圧する状態と保持する状態とを切り替える制御弁手段V」は、入口弁20と出口弁21とで構成されている。
【0026】
出力液圧路10は、ブレーキ操作子1側に設けられたマスタシリンダMと第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2とを繋ぐための流路であって、アルミニウム合金等の金属製の基体3の内部に形成されている。出力液圧路10は、ブレーキ液圧制御ユニットU内では、マスタシリンダMに繋がる配管H1が接続される入口ポート11から、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2にそれぞれ繋がる配管H2,H2が接続される出口ポート12,12に至る流路にて構成されている。
【0027】
入口弁20は、出力液圧路10に設けられた常開型の電磁弁であって、基体3に取り付けられた電子制御装置(図示せず)によって作動される。入口弁20は、基体3の表面から出力液圧路10に繋がる弁装着穴(図示せず)に装着されている。入口弁20は、開弁状態にあるときにマスタシリンダMから出口ポート12側へのブレーキ液の流入を許容し、閉弁状態にあるときに遮断するものである。
【0028】
入口弁20は、端部の外周面に、チェック弁20cとして機能する断面略U字形状のカップシールが外嵌されている。このカップシールは、弁装着穴の周壁に弾発的に接触し、出口ポート12側から入口ポート11側へのブレーキ液の流入を許容する。つまり、入口弁20が閉弁している場合においても、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流れを許容するようになっている。
【0029】
リザーバRは、出力液圧路10内のブレーキ液Lを一時貯溜するものである。リザーバRは、基体3に形成されたリザーバ穴50に、リザーバピストン(ピストン)51、リザーバばね52、受け部材53が装着されて構成されている。リザーバピストン51は、有底筒状の樹脂製の部材からなり、リザーバ穴50に収容されてリザーバ穴50内を摺動するようになっている。受け部材53は、リザーバ穴50の開口端部に固定されている。リザーバピストン51と受け部材53との間には、リザーバばね52が介設されている。リザーバばね52は圧縮状態で設けられており、リザーバピストン51をリザーバ穴50の底面50a側に付勢するようになっている。
【0030】
そして、リザーバピストン51は、開放路30からリザーバ穴50に流入したブレーキ液の液圧によってリザーバばね52の付勢力に抗して受け部材53側に移動することで、リザーバ穴50の底面50aとの間にブレーキ液を貯留する貯溜室54(図2参照)を形成する。リザーバ穴50の周囲の部分がシリンダ56を構成することになり、このシリンダ56内の空間が、リザーバピストン51によって、貯溜室54と押圧室55とに区画されている。押圧室55は、リザーバピストン51の開口側端部と、シリンダ56の開口側部分と、受け部材53とで区画されている。押圧室55には、リザーバばね52が収容されている。
【0031】
リザーバピストン51は、貯溜室54側におけるブレーキ液の液圧の受圧面積が、押圧室55側における作動液の液圧の受圧面積よりも小さくなるように、小径部51aと大径部51bを備えた段付き形状に形成されている。これに対応して、リザーバ穴50も、その内形がリザーバピストン51の外形と沿う段付き形状に形成されている。
【0032】
開放路30は、入口弁20と第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2との間の出力液圧路10から分岐した流路であり、リザーバRの貯溜室54(図2参照)に繋がっている。開放路30は、基体3の内部に穿設された流路にて構成されている。
【0033】
出口弁21は、開放路30に設けられた常閉型の電磁弁であって、基体3に取り付けられた電子制御装置(図示せず)によって作動される。出口弁21は、基体3の表面から開放路30に繋がる弁装着穴(図示せず)に装着されている。出口弁21は、閉弁状態にあるときに第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2側(出口ポート12側)からリザーバR側へのブレーキ液の流入を遮断し、開弁状態(アンチロックブレーキ制御における第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2のブレーキ液圧の減圧時(図2参照))にあるときに許容するものである。
【0034】
戻し路31は、リザーバRの貯溜室54内のブレーキ液をマスタシリンダMに戻す流路であって、基体3の内部に穿設された流路にて構成されている。戻し路31は、出口弁21とリザーバR間の開放路30と、入口ポート11と入口弁20間の出力液圧路10とを繋ぐように形成されている。戻し路31には、リザーバR側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流入を許容するチェック弁31cが設けられており、リザーバRの貯溜室54の液圧がマスタシリンダ側の液圧よりも所定値以上高くなると、開弁して、リザーバR側からマスタシリンダM側へブレーキ液を流すようになっている。
【0035】
なお、本実施形態では、戻し路31は、リザーバR側の一端が出口弁21とリザーバR間の開放路30に接続されているが、これに限定されるものではなく、リザーバRの貯溜室54に直接連通させるようにしてもよい。
【0036】
第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2は、前輪の左右両側に形成されており、ブレーキディスクDとブレーキキャリパCとを備えて構成されている。各ブレーキキャリパCには、出力液圧路10から繋がる配管H2がそれぞれ接続されている。ブレーキキャリパCは、マスタシリンダMで発生したブレーキ液の液圧が作用すると、図示しないポットがブレーキディスクDを挟み込んで、前輪を制動するように構成されている。
【0037】
第二の車輪ブレーキB2には、この第二の車輪ブレーキB2が受ける制動反力によって液圧を発生させる二次マスタシリンダM2が接続されて設けられている。以下に、具体的な構成を説明する。
【0038】
図3に示すように、フロントフォーク60の後側の、ブレーキディスクDの上方位置には、二次マスタシリンダM2が、ブラケット61,61を介して固定されている。二次マスタシリンダM2は、フロントフォーク60と平行に配置され、二次マスタシリンダM2のピストンロッド部材71が下方に向かって二次マスタシリンダM2の軸方向に移動するように配置されている。
【0039】
ブレーキキャリパCは、フロントフォーク60の下部に設けたブラケット62にピン63を介して揺動自在に支持されたキャリパブラケット64に固定されている。キャリパブラケット64は、その上端がブレーキディスクDの上端よりも上方に延出するように形成されている。キャリパブラケット64の上端には、略L字状に形成された第一リンク部材65の一端がピン66を介して揺動自在に支持されている。この第一リンク部材65の他端は、二次マスタシリンダM2のピストンロッド部材71にピン67を介して揺動自在に支持されている。
【0040】
ブレーキキャリパCの上端近傍位置で、フロントフォーク60に設けられたブラケット68には、第二リンク部材69の一端がピン75を介して枢支されている。この第二リンク部材69の他端には、第一リンク部材65の中間部がピン76を介して枢支されている。
【0041】
このような構成によれば、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2を作動させると、第二の車輪ブレーキB2のブレーキディスクDから受ける制動反力(図3中、矢印Yにて示す)によって、ブレーキキャリパCとキャリパブラケット64が、ピン63を中心として二点鎖線で示す位置に揺動する。この揺動によって、第一リンク部材65が、ピン76を中心として右回転し、二次マスタシリンダM2のピストンロッド部材71を押し上げる。このとき、第二リンク部材69も若干移動するが図示を省略している。このように、ピストンロッド部材71が二次マスタシリンダM2の内部に押し込まれるので、その内部の作動液の液圧が増圧される。
【0042】
図1に示すように、二次マスタシリンダM2には、二次マスタシリンダの作動液室(図示せず)とリザーバR内の押圧室55とを連通させる二次液圧路80が接続されている。具体的には、二次液圧路80は、基体3の内部に穿設された流路と、基体3から二次マスタシリンダM2に延びる配管H3とで構成されている。二次液圧路80を構成する基体3内の流路は、一端がリザーバRの押圧室55に連通して、他端が入口ポート81に開口している。そして、この入口ポート81と二次マスタシリンダM2の出力ポート77間に、配管H3が接続されている。
【0043】
二次液圧路80は、二次マスタシリンダM2によって発生した液圧によって、押圧室55内の作動液の液圧を増圧させるためのものである。押圧室55内の液圧を増圧させることによって、リザーバピストン51を貯溜室54側へ移動させて貯溜室54内のブレーキ液をマスタシリンダM側に戻すことができる。
【0044】
二次液圧路80には、押圧室55から作動液を排出する排出路90が分岐して接続されている。排出路90は、基体3の内部に穿設された流路と、基体3から二次マスタシリンダM2に延びる配管H4とで構成されている。排出路90を構成する基体3内の流路は、一端が二次液圧路80に連通して、他端が出口ポート91に開口している。そして、この出口ポート91と二次マスタシリンダM2の入力ポート78間に、配管H4が接続されている。
【0045】
なお、本実施形態では、排出路90は、リザーバR側の一端が二次液圧路80に接続されているが、これに限定されるものではなく、リザーバRの押圧室55に直接連通させるようにしてもよい。
【0046】
二次液圧路80および排出路90には、二次液圧路80を開通させつつ排出路90を遮断する押圧状態と、二次液圧路80を遮断しつつ排出路90を開通させる排出状態とを切り替える切替手段が設けられている。この切替手段は、二次液圧路80の開弁閉弁と排出路90の閉弁開弁を単一の弁体の移動で行う切替弁100、例えばスプール式の電磁弁にて構成されている。この切替弁100は、基体3の表面から二次液圧路80および排出路90に繋がる弁装着穴(図示せず)に装着されている。切替弁100を前記の「押圧状態」に切り替えるのは、例えば、車輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御における第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2のブレーキ液圧の減圧後の増圧時である。このような押圧状態にすると、二次マスタシリンダM2によって発生した液圧によって、押圧室55内の作動液の液圧が増圧するので、リザーバピストン52を貯溜室54側へ移動させて貯溜室54内のブレーキ液をマスタシリンダM側に戻すことができる。
【0047】
排出路90には、分岐路93が分岐して接続されており、この分岐路93には、押圧室55から排出された作動液を貯溜するタンクT2が接続されている。タンクT2は、ブレーキ液圧制御ユニットU内に設けられている。具体的には、基体3の上面に一体的に形成されており、その底面に分岐路93が開口している。
【0048】
このように、タンクT2を設けると、リザーバピストン51の受け部材53側への移動を円滑に行うことができる。さらに、二次マスタシリンダM2専用のタンクT2を設けたことによって、マスタシリンダM側のマスタシリンダリザーバタンクTに二次マスタシリンダM2を接続する必要がないので、マスタシリンダリザーバタンクTを加工する必要もない。また、ブレーキ液圧制御ユニットU内にタンクT2を設けたことによって、リザーバRと、マスタシリンダM側に設けられたマスタシリンダリザーバタンクTとを接続するホースが不要となる。
【0049】
次に、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置Sの作用を説明する。
【0050】
図1の状態において、ブレーキ操作子1を操作すると、マスタシリンダMでブレーキ液が圧縮されて液圧が発生する。そして、ここで発生した液圧は、配管H1、入口ポート11、出力液圧路10、出口ポート12に作用し、配管H2を通じて第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2のブレーキキャリパCに作用する。
【0051】
ブレーキ操作子1を操作して第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2に液圧が作用している状態において、車輪(不図示、以下同じ)がロックしそうになると、アンチロックブレーキ制御が行われる。
【0052】
アンチロックブレーキ制御は、車輪がロック状態に陥りそうになったときに実行されるものであり、入口弁20、出口弁21を制御して、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2に作用するブレーキ液圧を減圧、増圧あるいは一定に保持することによって実現される。減圧、増圧および保持のいずれのモードを選択するかは、図示しない車輪速度センサから得た車体速度等に基づいて、制御装置(図示せず)によって判断される。
【0053】
アンチロックブレーキ制御において、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2のブレーキ液圧を減圧させるモードが実行されると、図2に示すように、入口弁20が閉弁し、出口弁21が開弁する。このようにすると、入口弁20よりも第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2側にあるブレーキ液が開放路30、出口弁21を通ってリザーバRの貯溜室54に流入することになるので、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2に作用していたブレーキ液圧が減圧することになる。
【0054】
このとき、切替弁100は、二次液圧路80を遮断しつつ排出路90を開通させた状態(排出状態)となっているので、押圧室55の液圧は増圧されることはなく、リザーバピストン51は、開放路30からリザーバRの貯溜室54に流入したブレーキ液の液圧によってリザーバばね52の付勢力に抗して受け部材53側に移動する。ここで、押圧室55から押し出された作動液は、タンクT2内に貯留される。
【0055】
アンチロックブレーキ制御において、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2に付与するブレーキ液圧を保持するモードが実行されると、入口弁20および出口弁21がともに閉弁する(図示せず)。このようにすると、入口弁20および出口弁21で閉じられた流路内にブレーキ液が閉じ込められることになるので、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2に作用していたブレーキ液圧が保持されることになる。
【0056】
アンチロックブレーキ制御において、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2に付与するブレーキ液圧を増圧させるモードが実行されると、入口弁20が開弁し、出口弁21が閉弁する(図1参照)。このようにすると、ブレーキ操作子1の操作に起因してマスタシリンダMで発生した液圧が、配管H1、入口ポート11、出力液圧路10、出口ポート12に作用し、配管H2を通じて第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2のブレーキキャリパCに作用するので、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2の液圧が増圧することになる。
【0057】
アンチロックブレーキ制御において、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2に付与するブレーキ液圧を増圧させるモードが選択された場合には、切替弁100が、二次液圧路80を開通させつつ排出路90を遮断する「押圧状態」を選択する(図1の切替弁100を反転させた状態(図示せず))。このとき、第二の車輪ブレーキB2では、ブレーキディスクDから受ける制動反力によって、二次マスタシリンダM2の内部の作動液の液圧が増圧されているので、二次マスタシリンダM2によって発生した液圧が、出力ポート77、配管H3、入口ポート81、二次液圧路80に作用して、リザーバRの押圧室55の液圧が増圧することになる。これによって、リザーバピストン52が貯溜室54側へ移動されて貯溜室54内のブレーキ液が、戻し路31を通ってマスタシリンダM側に戻される。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置Sによれば、第二の車輪ブレーキB2の制動中に常に作動する二次マスタシリンダM2によって、リザーバRの押圧室55に作動液の液圧を作用させることができる。したがって、マスタシリンダMの入力に左右されることなく、リザーバピストン51を貯溜室54側へ移動させることになるので、マスタシリンダMの入力が継続している場合でも、貯溜室54内のブレーキ液をマスタシリンダM側に戻すことができる。これによって、例えば、低摩擦係数の路面が長く続くような状況下でのアンチロックブレーキ制御においても、リザーバRがフルストロークしてしまうのを防止することができる。
【0059】
また、切替弁100からなる切替手段で、二次液圧路80を開通させて排出路90を遮断する状態と、二次液圧路80を遮断して排出路90を開通させる状態とを切り替えるようにしているので、リザーバピストン51の動きを好適に制御することができる。すなわち、アンチロックブレーキ制御において、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2のブレーキ液圧を減圧させるモードが実行される際には、二次液圧路80を遮断して排出路90を開通させる状態にすることで、押圧室55の液圧は増圧されない。これによって、リザーバピストン51は、貯溜室54に流入したブレーキ液の液圧によってリザーバばね52の付勢力に抗して受け部材53側に移動するので、最適なアンチロックブレーキ制御を行うことができる。
【0060】
また、第二の車輪ブレーキB2のブレーキ液の増圧時に二次液圧路80を開通させているので、リザーバRの貯溜室54内のブレーキ液は、増圧しようとする出力液圧路10に戻されることになるので、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2の操作フィーリングを損ねることがないとともに、第一の車輪ブレーキB1および第二の車輪ブレーキB2にかかる液圧を高めることができる。
【0061】
さらに、切替弁100を、二次液圧路80の開弁閉弁と排出路90の閉弁開弁を単一の弁体の移動で行うスプール式の電磁弁で構成しているので、切替弁100の部品点数を削減することができ、構成の簡素化が図れる。
【0062】
また、リザーバピストン51を段付き形状にして、貯溜室54側における受圧面積を、押圧室55側における受圧面積よりも小さくなるようにしているので、二次マスタシリンダM2の作動液の液圧を効率的にリザーバピストン51に作用させることができる。したがって、二次マスタシリンダM2の作動液の液圧が小さい場合でも、リザーバRの貯溜室54内のブレーキ液を確実に排出させることができる。
【0063】
(第二実施形態)
次に、本発明のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置の第二実施形態について説明する。
【0064】
本実施形態が前記第一実施形態と異なるところは、図4に示すように、押圧室55から排出された作動液を貯溜するタンクとして、マスタシリンダM側に設けられたマスタシリンダリザーバタンクTを利用した点にある。
【0065】
以下に、リザーバRの押圧室55に繋がる排出路90から、マスタシリンダリザーバタンクTに繋がる流路を具体的に説明する。排出路90には、分岐路94が分岐して接続されており、分岐路94の他端は出口ポート95に繋がっている。この出口ポート95には、配管H5の一端が接続されており、配管H5の他端がマスタシリンダリザーバタンクTに接続されている。
【0066】
なお、その他の構成については、第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0067】
このような構成の車両用ブレーキ液圧制御装置Sによれば、ブレーキ液圧制御ユニットUにタンクを設けないので、ブレーキ液圧制御ユニットUの小型化が図れる。また、その他に第一実施形態と同様の作用効果を得ることもできる。
【0068】
なお、前記の第一および第二実施形態においては、自動二輪車に好適に用いられる車両用ブレーキ液圧制御装置Sを例示したが、前記した技術的事項を自動四輪車に用いられるブレーキ液圧制御装置に適用しても差し支えない。
【0069】
また、前記の第一および第二実施形態においては、前輪の車輪ブレーキに好適に用いられる車両用ブレーキ液圧制御装置Sを例示したが、この車両用ブレーキ液圧制御装置Sは、前輪、後輪に関わらず、どの車輪ブレーキについても適用することが可能である。
【0070】
さらに、前記の第一および第二実施形態においては、制御弁手段V(入口弁20、出口弁21)を常閉型電磁弁または常開型電磁弁によって構成し、切替手段をスプール式の電磁弁によって構成しているが、これに限定されるものではない。制御弁手段をスプール弁によって構成してもよいし、切替手段を常閉型電磁弁および常開型電磁弁によって構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第一実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置の構成図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置のアンチロックブレーキ制御における車輪ブレーキの液圧の減圧時の構成図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る車輪ブレーキと二次マスタシリンダを示した側面図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置の構成図である。
【符号の説明】
【0072】
S 車両用ブレーキ液圧制御装置
U ブレーキ液圧制御ユニット
M マスタシリンダ
M2 二次マスタシリンダ
V 制御弁手段
R リザーバ
B1 車輪ブレーキ
B2 車輪ブレーキ
T2 タンク
1 ブレーキ操作子
3 基体
10 出力液圧路
20 入口弁(制御弁手段)
21 出口弁(制御弁手段)
30 開放路
31 戻し路
51 リザーバピストン(ピストン)
54 貯溜室
55 押圧室
56 シリンダ
80 二次液圧路
90 排出路
100 切替弁(切替手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作子の操作に応じて液圧を発生するマスタシリンダと車輪ブレーキとを繋ぐ出力液圧路と、ブレーキ液圧を増圧する状態と減圧する状態と保持する状態とを切り替える制御弁手段と、シリンダの内部がピストンによって貯溜室と押圧室とに区画され前記貯溜室に前記出力液圧路内のブレーキ液を一時貯溜するリザーバと、前記制御弁手段と前記車輪ブレーキ間の前記出力液圧路から分岐して前記リザーバの前記貯溜室に繋がる開放路と、前記リザーバの前記貯溜室内のブレーキ液を前記マスタシリンダに戻す戻し路とを有し、前記車輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御を行うブレーキ液圧制御ユニットを備えた車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記車輪ブレーキが受ける制動反力によって液圧を発生させる二次マスタシリンダと、
この二次マスタシリンダと前記リザーバ内の前記押圧室とを連通させる二次液圧路とをさらに備え、
前記二次マスタシリンダによって発生した液圧によって前記押圧室内の作動液の液圧を増圧させることで、前記ピストンを前記貯溜室側へ移動させて前記貯溜室内の前記ブレーキ液を前記マスタシリンダ側に戻すように構成した
ことを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記押圧室から前記作動液を排出する排出路と、
前記二次液圧路を開通させつつ前記排出路を遮断する押圧状態と、前記二次液圧路を遮断しつつ前記排出路を開通させる排出状態とを切り替える切替手段とをさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記切替手段は、前記車輪ブレーキのアンチロックブレーキ制御における前記車輪ブレーキのブレーキ液圧の増圧時に、前記押圧状態を選択する切替弁にて構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前記切替手段は、前記二次液圧路の開弁閉弁と前記排出路の閉弁開弁を単一の弁体の移動で行うように構成された切替弁からなる
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
前記排出路には、前記押圧室から排出された前記作動液を貯溜するタンクが接続されており、
前記タンクは、前記ブレーキ液圧制御ユニット内に設けられている
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
前記リザーバの前記ピストンは、前記貯溜室側における前記ブレーキ液の液圧の受圧面積が、前記押圧室側における前記作動液の液圧の受圧面積よりも小さくなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−76613(P2010−76613A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247606(P2008−247606)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】