説明

車両用ブレーキ装置

【課題】制御液圧を発生する液圧ポンプを駆動する電気モータの耐久性の向上が可能な車両用ブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】ブレーキ操作に応じた制動力を得るための制御液圧の変化量から液圧ポンプ37,47の吐出流量を求め、求めた液圧ポンプ37,47の吐出流量に液圧制御弁31,41が正常に作動可能なリリーフ流量を加算することで、必要最小限の液圧ポンプ37,47の吐出流量を求めている。液圧ポンプ37,47は電気モータMにより駆動されるので、求めた必要最小限の液圧ポンプ37,47の吐出流量は、電気モータMの最低必要回転数に相当する。よって、必要制御液圧に達した後は、電気モータMの回転数を高回転から低回転に低減させることができるので、電気モータMの耐久性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作状態に応じて車輪に付与する制動力の不足を補償する制御液圧制動力を発生する車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に記載の液圧ブレーキ装置および回生ブレーキ装置を備えた車両用ブレーキ装置が知られている。液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダにてブレーキ操作に応じた基礎液圧を発生し、発生した基礎液圧をマスタシリンダと液圧制御弁とを介在した油経路によって連結された各車輪のホイールシリンダに付与し、各車輪に基礎液圧制動力を発生させる。また、制御液圧指令値に応じて電気モータを駆動して液圧制御弁に並設された液圧ポンプを駆動させることにより制御液圧を発生し、発生した制御液圧をホイールシリンダに付与して各車輪に制御液圧制動力を発生させる。回生ブレーキ装置は、ブレーキ操作の状態に対応した回生制動力を車輪の何れかに発生させる。
【0003】
この車両用ブレーキ装置においては、運転者の要求制動力に対して回生制動力が変動して不足した場合、制御液圧制動力により回生制動力の不足を補償するようになっている。すなわち、電気モータを高回転で常時駆動して液圧ポンプの吐出流量を高めておき、必要な流量分に対して不要な流量分のブレーキ液を液圧制御弁からマスタシリンダ側に逃がすことにより制御液圧を調整している。この車両用ブレーキ装置によれば、要求制動力に対して回生制動力が不足する事態に対し、必要に応じて応答性よく対応することができる。
【0004】
また、特許文献2には、モータ回転数を制御してポンプ吐出流量を変化させることにより、制御液圧を制御する装置を備えた車両用ブレーキ装置が開示されている。この車両用ブレーキ装置によれば、ブレーキの速い踏み込み時等でブレーキ液圧の消費油量が多く必要な場合には、モータ回転数を高めてポンプ吐出流量を多くして応答性を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−21745号公報(段落0024、図7参照)
【特許文献2】特開平10−119748号公報(段落0007,0009参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液圧ブレーキ装置および回生ブレーキ装置を備えた車両用ブレーキ装置では、通常ブレーキ領域で頻繁に作動する制御液圧を発生する液圧ポンプを駆動する電気モータの耐久性が重要である。特許文献1に記載の車両用ブレーキ装置においては、電気モータを高回転で常時駆動しなければならず、電気モータが早期に寿命に達するおそれがある。一方、特許文献2に記載の車両用ブレーキ装置においては、ポンプ吐出流量を変化させるためにモータ回転数を制御するので、電気モータの耐久性を向上させることは可能である。しかし、ブレーキペダルの踏み込み程度が刻々変わることで液圧ポンプに掛かる負荷が変動する状況で、モータ回転数をどのように制御すべきかについては提案されていない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制御液圧を発生する液圧ポンプを駆動する電気モータの耐久性の向上が可能な車両用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、ブレーキ操作に応じたマスタシリンダ液圧を発生するマスタシリンダと、各車輪に設けられ、ホイールシリンダに前記マスタシリンダからブレーキ液が供給されることによって前記車輪に制動力を付与する車輪ブレーキ装置と、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間に接続された液圧制御弁と、前記液圧制御弁と前記ホイールシリンダとの間に吐出ポートが連通され、前記マスタシリンダと前記液圧制御弁との間に吸入ポートが連通された液圧ポンプと、前記液圧ポンプを駆動する電気モータと、前記ホイールシリンダに生じるホイールシリンダ液圧が前記マスタシリンダ液圧より高くなるように前記マスタシリンダ液圧に加算される制御液圧を設定する制御液圧設定手段と、前記電気モータを目標回転数で回転させて前記液圧ポンプから前記液圧制御弁の作動に必要なリリーフ流量のブレーキ液を前記液圧制御弁に循環させるとともに、前記液圧制御弁に制御電流を印加することによって、前記液圧制御弁に前記制御液圧を発生させる制御液圧発生装置と、前記制御液圧の変化に基づいて前記ホイールシリンダに供給されるブレーキ液量と前記リリーフ流量とに基づいてポンプ必要吐出流量を演算し、そのポンプ必要吐出流量に基づいて前記電気モータの目標回転数を設定する目標回転数設定手段と、を備えることである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1において、回生制動力を前記車輪に発生させる回生ブレーキ装置と、前記ブレーキ操作量に応じた要求制動力を演算する要求制動力演算手段と、前記マスタシリンダ液圧によって発生する基礎液圧制動力を演算する基礎液圧制動力演算手段と、前記要求制動力から前記基礎液圧制動力を減算して要求回生制動力を演算する要求回生制動力演算手段と、を備え、前記制御液圧設定手段は、前記要求回生制動力と前記回生ブレーキ装置が現在発生可能な現回生制動力との差に基づいて前記制御液圧を設定することである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、前記目標回転数設定手段は、前記目標回転数を前記ポンプ必要吐出流量に相当する必要モータ回転数と前記電気モータがストールしない最低必要回転数とのうち大きい方に設定することである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3において、前記目標回転数設定手段は、前記最低必要回転数を前記液圧ポンプにかかる負荷に基づいて設定することである。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項3において、前記目標回転数設定手段が、前記最低必要回転数を前記目標回転数として設定した場合に、前記最低必要回転数から算出したポンプ吐出量から前記ホイールシリンダに供給されるブレーキ液量を差し引いた液圧制御弁通過流量と、該液圧制御弁通過流量毎に異なる前記印加電流と前記制御液圧との相関関係とに基づいて目標となる前記制御液圧が得られる電流値を演算して前記液圧制御弁への印加電流を制御する制御手段を備えたことである。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、目標回転数設定手段は、制御液圧の変化に基づいてホイールシリンダに供給されるブレーキ液量と、液圧制御弁の作動に必要なリリーフ流量とに基づいてポンプ必要吐出流量を演算し、そのポンプ必要吐出流量に基づいて電気モータの目標回転数を設定している。すなわち、ブレーキ操作に応じた制動力を得るための制御液圧の変化量から液圧ポンプの吐出流量を求め、求めた液圧ポンプの吐出流量に液圧制御弁が正常に作動可能なリリーフ流量を加算することで、必要最小限の液圧ポンプの吐出流量を求めている。液圧ポンプは電気モータにより駆動されるので、求めた必要最小限の液圧ポンプの吐出流量は、電気モータの最低必要回転数に相当する。よって、制御液圧発生装置は、電気モータの回転数を低減させることができるので、電気モータの耐久性を向上させることができ、電気モータの平均消費電流を低減することができ、また、電気モータの作動音を低減することができる。
【0014】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、制御液圧設定手段は、要求回生制動力と回生ブレーキ装置が現在発生可能な現回生制動力との差に基づいて制御液圧を設定している。これにより、制御液圧発生装置は、ブレーキ操作に応じた制動力を得るための必要最小限の制御液圧を発生すればよく、電気モータの回転数を低減させることができるので、電気モータの耐久性を向上させることができ、電気モータの平均消費電流を低減することができ、また、電気モータの作動音を低減することができる。そして、回生ブレーキ装置は、車輪に現回生制動力を全て付与することができるので、回生エネルギの利用効率を高めることができる。
【0015】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、目標回転数設定手段は、目標回転数をポンプ必要吐出流量に相当する必要モータ回転数と電気モータがストールしない最低必要回転数とのうち大きい方に設定している。これにより、制御液圧発生装置は、調圧性能を確保できる範囲で電気モータの回転数を低減させることができる。さらに、液圧ポンプによる制御液圧を早期に立ち上げて制御液圧制動力を迅速に付与することができるので、制御液圧制御を高性能な状態に維持することができる。
【0016】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、目標回転数設定手段は、最低必要回転数を液圧ポンプにかかる負荷に基づいて設定している。これにより、液圧ポンプの吐出流量が変動したときに電気モータの回転数を低減させても、電気モータのストールを防止することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、目標回転数設定手段が、最低必要回転数から算出したポンプ吐出量からホイールシリンダに供給されるブレーキ液量を差し引いた液圧制御弁通過流量と、該液圧制御弁通過流量毎に異なる印加電流と制御液圧との相関関係とに基づいて目標となる制御液圧が得られる電流値を演算して液圧制御弁への印加電流を制御する制御手段を備えるようにしている。これにより、ストール回転数を目標回転数として選択すると、液圧ポンプの実際の吐出流量が必要吐出量を超え、液圧制御弁を通過する流量が過大となっても、目標となる制御液圧が得られる電流値が演算され液圧制御弁への指示電流とされるので、液圧ポンプの吐出量を適正に保ち適正に液圧ポンプがホイールシリンダへの必要流量を圧送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る車両用ブレーキ装置の一実施の形態を適用した車両を示す概要図である。
【図2】図1に示す車両用ブレーキ装置の液圧ブレーキ装置を示す図である。
【図3】回生制動力と液圧制動力とのすり替え時の関係図である。
【図4】図1に示す車両用ブレーキ装置の作動を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4に示す必要制御液圧演算サブルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図6】図4に示す必要液量変換サブルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図7】図4に示す必要流量演算サブルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図8】図4に示す必要モータ回転数演算サブルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図9】図4に示すストール回転数演算サブルーチンを説明するためのフローチャートである。
【図10】ブレーキ操作に応じて発生するマスタシリンダ圧と、そのブレーキ操作量に応じた全制動力(基礎液圧制動力と回生制動力と必要な場合には制御液圧制動力との和で表される制動力)との関係を示す図である。
【図11】ブレーキ操作量に応じた回生制動力と回生ブレーキ装置が発生可能な回生制動力との差と、電気モータの駆動により液圧ポンプから吐出されるブレーキ液による液圧制御弁の制御液圧との関係を示す図である。
【図12】電気モータの駆動により液圧ポンプから吐出されるブレーキ液による液圧制御弁の制御液圧と、そのブレーキ液が供給されるホイールシリンダにおける累積の液量との関係を示す図である。
【図13】図12の累積の液量の変動を示す図である。
【図14】電気モータの駆動により液圧ポンプに掛かる負荷と、電気モータがストールしない最低必要回転数との関係を示す図である。
【図15】本実施形態と従来の必要制御液圧に対する電気モータの回転数の低減効果を示す図である。
【図16】液圧制御弁の制御液圧と制御電流との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る車両用ブレーキ装置の一実施の形態をハイブリッド車に適用した場合について図面を参照して説明する。図1に示すように、車両用ブレーキ装置は、ハイブリッド車に適用されるように構成されたものであり、液圧ブレーキ装置Bと、回生ブレーキ装置Aと、液圧ブレーキ装置Bおよび回生ブレーキ装置Aを協調制御するブレーキECU(電子制御ユニット)60と、ブレーキECU60からの要求値に応じてインバータ16を介してハイブリッド車の駆動源であるモータ12を制御するハイブリッドECU(電子制御ユニット)19等とを備えている。
【0020】
ハイブリッド車は、ハイブリッドシステムによって駆動輪、例えば左右前輪FL,FRを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11およびモータ12の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。ハイブリッドシステムには、エンジン11およびモータ12の双方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステム、およびモータ12によって車輪が駆動され、エンジン11はモータ12への電力供給源として作用するシリーズハイブリッドシステムがあるが、本実施形態のハイブリッド車には、パラレルハイブリッドシステムが装備されている。
【0021】
このパラレルハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車において、エンジン11の駆動力は、動力分割機構13および動力伝達機構14を介して駆動輪(本実施形態では左右前輪FL,FR)に伝達されるようになっており、モータ12の駆動力は、動力伝達機構14を介して駆動輪に伝達されるようになっている。動力分割機構13は、エンジン11の駆動力を車両駆動力と発電機駆動力に適切に分割するものである。動力伝達機構14は、走行条件に応じてエンジン11およびモータ12の駆動力を適切に統合して駆動輪に伝達するものである。動力伝達機構14はエンジン11とモータ12の伝達される駆動力比を0:100〜100:0の間で調整している。この動力伝達機構14は変速機能を有している。
【0022】
エンジン11はエンジンECU(電子制御ユニット)18によって制御されており、エンジンECU18は後述するハイブリッドECU19からのエンジン出力要求値に従って電子制御スロットル(図示省略)に開度指令を出力し、エンジン11の回転数を調整する。モータ12は、エンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行いバッテリ17を充電するものである。発電機15は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能を有する。これらモータ12および発電機15は、インバータ16にそれぞれ電気的に接続されている。インバータ16は、直流電源としてのバッテリ17に電気的に接続されており、モータ12および発電機15から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ17に供給したり、逆にバッテリ17からの直流電圧を交流電圧に変換してモータ12および発電機15へ出力したりするものである。
【0023】
回生ブレーキ装置Aは、モータ12、インバータ16およびバッテリ17等から構成されている。この回生ブレーキ装置Aは、ブレーキ操作状態検出手段によって検出されたブレーキ操作状態に基づいた回生制動力を各車輪FL,FR,RL,RRの何れか(本実施形態では駆動源であるモータ12によって駆動される左右前輪FL,FR)に発生させるものである。ブレーキ操作状態は、ブレーキペダル21の操作状態であり、例えばブレーキペダル21への踏力に相関するマスタシリンダ圧、ブレーキペダル21のストローク量、ブレーキペダル21への踏力などである。ブレーキ操作状態検出手段は、このブレーキ操作状態を検出するものであり、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサP、ブレーキペダル21のストローク量を検出するペダルストロークセンサ21aなどである。
【0024】
ハイブリッドECU19には、インバータ16が互いに通信可能に接続されている。ハイブリッドECU19は、アクセル開度およびシフトポジション(図示しないシフトポジションセンサから入力したシフト位置信号から算出する)から必要なエンジン出力、電気モータトルクおよび発電機トルクを導出し、その導出したエンジン出力要求値をエンジンECU18に送信してエンジン11の駆動力を制御する。ハイブリッドECU19は、導出した電気モータトルク要求値および発電機トルク要求値に従って、インバータ16を通してモータ12および発電機15を制御する。また、ハイブリッドECU19はバッテリ17が接続されており、バッテリ17の充電状態、充電電流などを監視している。さらに、ハイブリッドECU19は、アクセルペダル(図示省略)に組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ(図示省略)も接続されており、アクセル開度センサからアクセル開度信号を入力している。
【0025】
液圧ブレーキ装置Bは、車輪ブレーキ装置(基礎液圧制動力発生装置)と、ブレーキアクチュエータ(制御液圧制動力発生装置)25等とから構成されている。液圧ブレーキ装置Bは、直接各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力を付与して車両を制動させる。車輪ブレーキ装置は、エンジン11の吸気負圧をダイヤフラムに作用させてブレーキペダル21の踏み込み操作により生じるブレーキ操作力を助勢して倍力(増大)する倍力装置である負圧式ブースタ22と、負圧式ブースタ22により倍力されたブレーキ操作力(すなわちブレーキペダル21の操作状態)に応じた基礎液圧である液圧(油圧)のブレーキ液(油)を生成してホイールシリンダWC1〜WC4に供給するマスタシリンダ23と、ブレーキ液を貯蔵してマスタシリンダ23にそのブレーキ液を補給するリザーバタンク24とから構成されている。ブレーキアクチュエータ25は、マスタシリンダ23とホイールシリンダWC1〜WC4との間に設けられている。
【0026】
図2に示すように、車輪ブレーキ装置は、ブレーキペダル21の踏み込みによるブレーキ操作状態に対応した基礎液圧をマスタシリンダ23にて発生し、発生した基礎液圧を当該マスタシリンダ23と液圧制御弁31,41をそれぞれ介在した油経路Lf,Lrによって連結された各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に直接付与することにより、各車輪FL,FR,RL,RRに基礎液圧に対応した基礎液圧制動力を発生させる。ブレーキアクチュエータ25は、ブレーキ操作状態に対応して発生される基礎液圧とは独立して液圧ポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成される制御液圧を各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより各車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧制動力を発生させる。
【0027】
液圧ブレーキ装置Bのブレーキ配管系は前後配管方式にて構成されており、マスタシリンダ23の第1および第2液圧室23d、23fは、油経路LrおよびLfにそれぞれ接続されている。油経路Lrは、第1液圧室23dと左右後輪RL,RRのホイールシリンダWC3,WC4とをそれぞれ連通するものであり、油経路Lfは、第2液圧室23fと左右前輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2とをそれぞれ連通するものである。各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4は、マスタシリンダ23から油経路Lf,Lrを介して液圧(基礎液圧、制御液圧)が供給されると、各ホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に対応してそれぞれ設けられた各ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4を作動させて各車輪FL,FR,RL,RRに液圧制動力(基礎液圧制動力、制御液圧制動力)を付与する。各ブレーキ手段BK1,BK2,BK3,BK4としては、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ等があり、ブレーキパッド、ブレーキシュー等の摩擦部材が車輪に一体のディスクロータ、ブレーキドラム等の回転を規制するようになっている。
【0028】
ブレーキアクチュエータ25について図2を参照して詳述する。このブレーキアクチュエータ25は、一般的によく知られているものであり、液圧制御弁31,41、ABS制御弁を構成する増圧制御弁32,33,42,43および減圧制御弁35,36,45,46、調圧リザーバ34,44、液圧ポンプ37,47、電気モータMなどを一つのケースにパッケージすることにより構成されている。液圧制御弁31,41および液圧ポンプ37,47等により制御液圧発生装置を構成している。
【0029】
まず、ブレーキアクチュエータ25の前輪系統の構成について説明する。油経路Lfには、差圧制御弁から構成される液圧制御弁31が備えられている。この液圧制御弁31は、ブレーキECU60により連通状態と差圧状態を切り替え制御されるものである。液圧制御弁31は通常連通状態とされているが、差圧状態にすることによりホイールシリンダWC1,WC2側の油経路Lf2をマスタシリンダ23側の油経路Lf1よりも所定の制御差圧分高い圧力に保持することができる。この制御差圧はブレーキECU60により制御電流に応じて調圧されるようになっている。具体的には、この液圧制御弁31は小径の弁孔を有しており、ホイールシリンダ側の圧力がマスタシリンダ側の圧力より所定圧以上高くなれば、ホイールシリンダ側の圧力が弁体を弁座から離し、ホイールシリンダ側の圧力とマスタシリンダ側の圧力の差を所定圧に保つというリリーフ弁の要領で作動するものであるが、制御電流の制御によりホイールシリンダ圧の開弁圧に抗する閉弁力を制御しもってリリーフ弁の開弁圧を可変とし、ホイールシリンダ側の圧力とマスタシリンダ側の圧力の差を可変制御するいわゆるリニア制御弁である。よって、この液圧制御弁31を正常に作動させるにはホイールシリンダ圧の開弁力を確保するためのリリーフ流量が必要とされるものである。
【0030】
油経路Lf2は2つに分岐しており、一方にはABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWC1へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁32が備えられ、他方にはABS制御の増圧モード時においてホイールシリンダWC2へのブレーキ液圧の増圧を制御する増圧制御弁33が備えられている。これら増圧制御弁32,33は、ブレーキECU60により連通・遮断状態を制御できる2位置弁として構成されている。そして、これら増圧制御弁32,33が連通状態に制御されているときには、マスタシリンダ23の基礎液圧および液圧ポンプ37の駆動と液圧制御弁31の制御によって形成される制御液圧の少なくとも一方を各ホイールシリンダWC1,WC2に加えることができる。また、増圧制御弁32,33は減圧制御弁35,36および液圧ポンプ37とともにABS制御を実行することができる。
【0031】
なお、ABS制御が実行されていないノーマルブレーキの際には、これら増圧制御弁32,33は常時連通状態に制御されている。また、増圧制御弁32,33には、それぞれ安全弁32a,33aが並列に設けられており、ABS制御時においてブレーキペダル21を離したとき、それに伴ってホイールシリンダWC1,WC2側からのブレーキ液をリザーバタンク24に戻すようになっている。
【0032】
また、増圧制御弁32,33と各ホイールシリンダWC1,WC2との間における油経路Lf2は、油経路Lf3を介して調圧リザーバ34のリザーバ孔34aに連通されている。油経路Lf3には、ブレーキECU60により連通・遮断状態を制御できる減圧制御弁35,36がそれぞれ配設されている。これらの減圧制御弁35,36はノーマルブレーキ状態(ABS非作動時)では常時遮断状態とされ、また、適宜連通状態として油経路Lf3を通じて調圧リザーバ34へブレーキ液を逃がすことにより、ホイールシリンダWC1,WC2におけるブレーキ液圧を制御し、車輪がロック傾向にいたるのを防止できるように構成されている。
【0033】
さらに、液圧制御弁31と増圧制御弁32,33との間における油経路Lf2と調圧リザーバ34のリザーバ孔34aとを結ぶ油経路Lf4には液圧ポンプ37が安全弁37aと共に配設されている。そして、調圧リザーバ34のリザーバ孔34bを油経路Lf1を介してマスタシリンダ23と接続するように油経路Lf5が設けられている。液圧ポンプ37は、ブレーキECU60の指令により電気モータMによって駆動されるものである。液圧ポンプ37は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWC1,WC2内のブレーキ液または調圧リザーバ34に貯められているブレーキ液を吸い込んで連通状態である液圧制御弁31を介してマスタシリンダ23に戻している。また、液圧ポンプ37は、ESC制御、トラクションコントロール、ブレーキアシストなどの車両の姿勢を安定に制御するための制御液圧を形成する際においては、差圧状態に切り替えられている液圧制御弁31に制御差圧を発生させるべく、マスタシリンダ23内のブレーキ液を油経路Lf1,Lf5および調圧リザーバ34を介して吸い込んで油経路Lf4,Lf2および連通状態である増圧制御弁32,33を介して各ホイールシリンダWC1,WC2に吐出して制御液圧を付与している。なお、液圧ポンプ37が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、油経路Lf4の液圧ポンプ37の上流側にはダンパ38が配設されている。
【0034】
また、油経路Lf1には、マスタシリンダ23内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はブレーキECU60に送信されるようになっている。なお、圧力センサPは油経路Lr1に設けるようにしてもよい。マスタシリンダ圧はブレーキ操作状態の一つである。他のブレーキ操作状態としては、ブレーキペダル21のペダルストロークがある。このペダルストロークはブレーキペダル21に付設されているペダルストロークセンサ21aによって検出される。その検出信号はブレーキECU60に送信されるようになっている。
【0035】
さらに、ブレーキアクチュエータ25の後輪系統も前述した前輪系統と同様な構成であり、後輪系統を構成する油経路Lrは油経路Lfと同様に油経路Lr1〜Lr5から構成されている。油経路Lrには液圧制御弁31と同様な液圧制御弁41、および調圧リザーバ34と同様な調圧リザーバ44が備えられている。ホイールシリンダWC3,WC4に連通する分岐した油経路Lr2,Lr2には増圧制御弁32,33と同様な増圧制御弁42,43が備えられ、油経路Lr3には減圧制御弁35,36と同様な減圧制御弁45,46が備えられている。油経路Lr4には、液圧ポンプ37、安全弁37aおよびダンパ38と同様な液圧ポンプ47、安全弁47aおよびダンパ48が備えられている。なお、増圧制御弁42,43には、それぞれ安全弁32a,33aと同様な安全弁42a,43aが並列に設けられている。以上のような構成のブレーキアクチュエータ25により、液圧ポンプ37,47の駆動と液圧制御弁31,41の制御によって形成された制御液圧を各車輪FL,FR,RL,RRのホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に付与することにより各車輪FL,FR,RL,RRに制御液圧制動力を発生させることができる。
【0036】
ブレーキECU60は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。ブレーキECU60は、図1に示すように、車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srr、圧力センサP、各制御弁31,32,33,35,36,41,42,43,45,46,電気モータMに接続されている。車輪速度センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、各車輪FL,FR,RL,RRの付近にそれぞれ設けられており、各車輪FL,FR,RL,RRの回転に応じた周波数のパルス信号をブレーキECU60に出力している。
【0037】
CPUは、車両用制動制御プログラムを実行して上記各センサからの検出信号や、ハイブリッドECU19からの実回生実行値に基づき、液圧ブレーキ装置Bの電気モータMを制御するとともに、液圧ブレーキ装置Bの各制御弁31,32,33,35,36,41,42,43,45,46の状態を切り換え制御または通電電流制御しホイールシリンダWC1〜WC4に付与する制御液圧すなわち各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制御液圧制動力を制御する。RAMは車両用制動制御プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは車両用制動制御プログラムを記憶するものである。
【0038】
ブレーキECU60は、ハイブリッドECU19に互いに通信可能に接続されており、車両の全制動力が油圧ブレーキだけの車両と同等となるようにモータ12が行う回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御を行っている。具体的には、ブレーキECU60は、運転者の制動要求すなわちブレーキ操作状態に対して、ハイブリッドECU19に全制動力のうち回生ブレーキ装置の負担分である要求回生制動力の出力指令を指令する。ハイブリッドECU19は、入力した要求回生制動力の出力指令に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して実際に回生ブレーキとして作用させる実回生実行値を導出しその実回生実行値に相当する回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、導出した実回生実行値をブレーキECU60に出力する。
【0039】
ここで、回生協調時において車両の速度減少に伴って回生制動力(図3にて回生の部分)が減少する場合、車両の全制動力が減少し、最終的に基礎液圧制動力(図3にてVB油圧の部分)のみしか得られない場合が生じる。この場合、回生制動力の代わりに制御液圧制動力を付与することにより(図3にてESC加圧の部分)、回生制動力の減少分を補償して全制動力を一定に維持することができる(以下、回生制動力の代わりに制御液圧制動力を付与することを回生制動力と制御液圧制動力のすり替えという)。このすり替えは長時間にわたるため、液圧ポンプ37,47を駆動する電気モータMは長寿命である必要があり、本実施形態の車両用制動制御プログラムでは、電気モータMの回転数を低減させて耐久性を向上させている。
【0040】
ブレーキECU60は、記憶装置61を備えており、この記憶装置61には、車両用制動制御プログラムの実行に必要な例えば図10〜14に示すマップ、テーブルまたは演算式が記憶されている。図10は、ブレーキ操作に応じて発生するマスタシリンダ圧Pと、そのブレーキ操作量に応じた全制動力(基礎液圧制動力と回生制動力と必要な場合には制御液圧制動力との和で表される制動力)Fとの関係を示す。なお、マスタシリンダ圧に代えてブレーキペダル21のストロークと要求制動力との関係を示すマップ、テーブルまたは演算式を記憶するようにしてもよい。
【0041】
図11は、ブレーキ操作量に応じた回生制動力Frと回生ブレーキ装置Aが発生可能な回生制動力Fsとの差ΔFrsと、電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47から吐出されるブレーキ液による液圧制御弁31,41の制御液圧Plとの関係を示す。図12は、電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47から吐出されるブレーキ液による液圧制御弁31,41の制御液圧Plと、そのブレーキ液が供給されるホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4における累積の液量Vlとの関係を示す。図13は、図12の累積の液量Vlの変動を示す。図14は、電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47に掛かる負荷Rpと、電気モータMがストールしない最低必要回転数Rmとの関係を示す。なお、電気モータMのストールについての詳細は後述する。
【0042】
次に、車両用ブレーキ装置の作動を図4〜9のフローチャートを参照して説明する。なお、ブレーキECU60は、例えば車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態にあるとき、上記フローチャートに対応したプログラムを所定の短時間毎に実行する。図4に示すように、ブレーキECU60は、初期化された後(ステップ101)、マスタシリンダ圧を検出する圧力センサP、ブレーキペダル21のストローク量を検出するペダルストロークセンサ21a等の各種センサ情報を入力する(ステップ102)。
【0043】
ブレーキECU60は、入力した各種センサ情報の中からブレーキ操作状態であるマスタシリンダ圧を読込む(ステップ103)。そして、読込んだマスタシリンダ圧に応じた要求される制動力(以下、要求制動力という)および基礎液圧制動力を演算し、演算した要求制動力および基礎液圧制動力に基づいて、要求される回生制動力(以下、要求回生制動力という)を演算する(ステップ104、本発明の「要求制動力演算手段」、「基礎液圧制動力演算手段」に相当する,105、本発明の「要求回生制動力演算手段」に相当する)。具体的には、予め記憶されている図10に示すブレーキ操作に応じて発生するマスタシリンダ圧Pと、そのブレーキ操作量に応じた全制動力Fとの関係に基づいて、先ず、読込んだマスタシリンダ圧Paに応じた要求制動力Faおよび基礎液圧制動力Fbaを求め、次に、求めた要求制動力Faから基礎液圧制動力Fbaを減算して要求回生制動力Fraを求める。
【0044】
ブレーキECU60は、求めた要求回生制動力を発生させるため、回生ブレーキ装置Aで発生する回生制動力の不足を補償する制御液圧制動力を発生させるために必要な制御液圧(以下、必要制御液圧という)を演算する(ステップ106、本発明の「制御液圧設定手段」に相当する)。具体的には、ブレーキECU60は、図5に示す必要制御液圧演算サブルーチンを実施する。すなわち、ブレーキECU60は、制動中であるか否かを判断し(ステップ201)、制動中でない場合は、回生制動力および必要制御液圧を“0”として(ステップ202,203)、ステップ201にリターンする。一方、ステップ201において、制動中である場合はさらに回生ブレーキ作動許可状態であるか否かを判断し(ステップ204)、回生ブレーキ作動許可状態でない場合は、回生制動力および必要制御液圧を“0”として(ステップ202,203)、ステップ201にリターンする。
【0045】
一方、ステップ204において、回生ブレーキ作動許可状態である場合は、ステップ105で求めた要求回生制動力と回生ブレーキ装置Aが現在発生可能な回生制動力(以下、現回生制動力という)とを比較し、要求回生制動力が現回生制動力よりも大きいか否かを判断する(ステップ205)。そして、要求回生制動力が現回生制動力以下である場合は、要求回生制動力は現回生制動力で充足するため、必要制御液圧を“0”として(ステップ206)、ステップ201にリターンする。
【0046】
この場合、ブレーキECU60は、要求回生制動力をハイブリッドECU19に出力する。そして、ハイブリッドECU19は、要求回生制動力を示す回生要求値を入力し、その値に基づいて車速やバッテリ充電状態等を考慮して回生制動力を発生させるようにインバータ16を介してモータ12を制御するとともに、現回生制動力を示す現回生実行値をブレーキECU60に出力する。このとき、車輪FL,FR,RL,RRには、基礎液圧制動力に回生制動力のみが上乗せされて付与される。
【0047】
一方、ステップ205において、要求回生制動力が現回生制動力よりも大きい場合は、要求回生制動力と現回生制動力との差に基づいて、その差を補うための必要制御液圧を求め(ステップ207)、ステップ201にリターンする。具体的には、要求回生制動力Fraと現回生制動力Fsaとの差ΔFrsaを求め、予め記憶されている図11に示すブレーキ操作量に応じた回生制動力Frと回生ブレーキ装置Aが発生可能な回生制動力Fsとの差ΔFrsと、電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47から吐出されるブレーキ液による液圧制御弁31,41の制御液圧Plとの関係に基づいて、必要制御液圧Plaを求める。
【0048】
図4に戻って、ブレーキECU60は、ステップ207で求めた必要制御液圧を、回生ブレーキ装置Aで発生する回生制動力の不足を補償する制御液圧制動力を発生させるために必要な液量(以下、必要液量という)に変換する(ステップ107)。具体的には、ブレーキECU60は、図6に示す必要液量変換サブルーチンを実施する。すなわち、ブレーキECU60は、必要制御液圧を読込み(ステップ301)、予め記憶されている図12に示す電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47から吐出されるブレーキ液による液圧制御弁31,41の制御液圧Plと、そのブレーキ液が供給されるホイールシリンダWC1,WC2,WC3,WC4における累積の液量Vlとの関係に基づいて、求めた必要制御液圧Plaを必要液量Vlaに変換し(ステップ302)、ステップ301にリターンする。
【0049】
図4に戻って、ブレーキECU60は、ステップ302で変換した必要液量に基づいて必要流量を演算する(ステップ108)。具体的には、ブレーキECU60は、図7に示す必要液流量演算サブルーチンを実施する。すなわち、図13に示すように、ブレーキECU60は、所定時間毎、例えば時点taの必要液量Vlaaと時点tbの必要液量Vlabを読込み(ステップ401)、所定時間tb−taにおける必要液量の変化量Vlab−Vlaaを演算する(ステップ402)。そして、求めた必要液量の変化量Vlab−Vlaaを必要流量Wlとし(ステップ403)、ステップ401にリターンする。
【0050】
図4に戻って、ブレーキECU60は、ステップ403で求めた必要流量に基づいて液圧ポンプ37,47のポンプ必要吐出流量を演算する(ステップ109)。具体的には、ブレーキECU60は、必要流量Wlに液圧制御弁31,41の作動に必要なリリーフ流量Wrを加算してポンプ必要吐出流量(Wl+Wr)とする。ブレーキECU60は、求めたポンプ必要吐出流量に基づいて電気モータMの必要モータ回転数を演算する(ステップ110、本発明の「目標回転数設定手段」に相当する)。具体的には、ブレーキECU60は、図8に示す必要モータ回転数演算サブルーチンを実施する。すなわち、ブレーキECU60は、ポンプ吐出流量(Wl+Wr)を読込み(ステップ501)、読込んだポンプ吐出流量(Wl+Wr)に流量−回転数変換係数kを乗算して電気モータMの必要モータ回転数k(Wl+Wr)とし(ステップ502)、ステップ501にリターンする。この流量−回転数変換係数kは、電気モータMの1回転当りの液圧ポンプ37,47のポンプ吐出流量を表す係数である。この流量−回転数変換係数kとは、所定の流量を吐出する際の所定回転数を比で表したものでポンプ負荷に対して変動し、それぞれのポンプ設計時にどのポンプ負荷に対して上記比の値をどう設定すべきかの関係が決定されているものである。そして、予め定められたポンプ負荷と流量−回転数変換係数k(rev・s/cc)の関係と、ステップ207で読込んだ必要制御液圧Pla、すなわち後述するポンプ負荷Rpとから流量−回転数変換係数kを定める。
【0051】
図4に戻って、ブレーキECU60は、電気モータMがストールしない最低必要回転数(以下、ストール回転数という)を演算する(ステップ111、本発明の「目標回転数設定手段」に相当する)。具体的には、ブレーキECU60は、図9に示すストール回転数演算サブルーチンを実施する。すなわち、ブレーキECU60は、液圧ポンプ37,47の負荷Rpを読込み(ステップ601)、具体的にはステップ207で求めた必要制御液圧PlaをRp=Plaとして使い、この負荷Rpと、予め記憶されている図14に示す電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47に掛かる負荷Rpと電気モータMがストール回転数Rmとの関係に基づいて、液圧ポンプ37,47の負荷Rpに応じたストール回転数Rmを演算し(ステップ602)、ステップ601にリターンする。
【0052】
ここで、液圧ポンプ37,47の回転は、電気モータMの回転と相関関係にあり、制御液圧と制御液流量との乗算値で表される液圧ポンプ37,47がする仕事量(負荷)は、電気モータMがする仕事量(負荷)と相関関係にある。液圧ポンプ37,47における制御液圧と制御液流量との乗算値は、電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47に掛かる負荷と等価である。そして、電気モータMがする仕事量は、電気モータMがストールしない最低必要回転数と相関関係にある。よって、図14に示すように、電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47に掛かる負荷はRp、電気モータMがストール回転数Rmと相関関係にあることになり、電気モータMのストール回転数Rmを、電気モータMの駆動により液圧ポンプ37,47に掛かる負荷Rpを考慮して演算することができる。
【0053】
図4に戻って、ブレーキECU60は、ステップ502で求めた必要モータ回転数とステップ602で求めたストール回転数とを比較し、回転数が大きい方を目標回転数として選択する(ステップ112、本発明の「目標回転数設定手段」に相当する)。そして、選択した目標回転数に基づいて電気モータMを駆動し(ステップ113)、ステップ102に戻って上述の処理を繰り返す。液圧ブレーキ装置Bは、マスタシリンダ圧に応じた基礎液圧制動力、および目標回転数に応じた制御液圧制動力を付与し、回生ブレーキ装置Aは、現回生制動力を付与する。これにより、車輪には基礎液圧制動力に制御液圧制動力および回生制動力を上乗せした全制動力が付与されることになる。
【0054】
一方、液圧制御弁31,41には、回生制動力不足分に対応するブレーキ液圧がWC1からWC4に発生するように液圧ポンプ37,47が作動するよう、M/C圧に加えるべき差圧を設定する必要がある。より詳しく説明すると、液圧制御弁31,41はリニア制御弁であり、そのリリーフ機能における開弁圧は制御電流により制御される。しかしながら、ステップ112でストール回転数(予めモータ負荷に応じて定められたモータ特有の最小回転数)を目標回転数として選択しモータ回転数がストール回転数になるように液圧ポンプ37,47を制御すると、液圧ポンプ37,47の実際の吐出流量が必要吐出量を超える。液圧ポンプ37,47の実際の吐出流量から必要吐出量を差し引いた分は、液圧制御弁31,41を通過して流れるため、液圧制御弁31,41を通過する流量が過大となり圧力損失の影響で、液圧制御弁31,41で生じる実際の差圧すなわち実際の開弁圧と、設定された開弁圧との間に差が生じることとなる。それにより、液圧ポンプ37,47の動作点が変わることで吐出量が変わり、W/Cへの必要流量を正しく圧送できなくなり、結局、回生制動力が不足する場合のW/Cへの必要加圧分をポンプ加圧で正しくまかなえないこととなる。
【0055】
そこで、本実施形態においては、差圧制御弁通過流量を以下のように演算する。ステップ112で目標モータ回転数としてストール回転数を選択した場合はストール回転数から換算したポンプ吐出量をストール対応吐出量として演算し(負荷に応じた流量−回転数変換係数とストール回転数とからポンプ吐出量を演算)、そこから必要流量を差し引いて差圧制御弁通過流量をストール対応用の差圧制御弁通過流量として算出する。図16は、制御液圧PIに対する制御電流Iを定めるマップを表している。ストール回転数を目標回転数として選択した場合は、演算したストール対応用の差圧制御弁通過流量に対応する図16の実線から制御電流を演算する。
【0056】
一方、ステップ112で目標モータ回転数として必要モータ回転数を選択した場合は、予め定められた液圧制御弁31,41の作動に必要なリリーフ流量Wrを表すMINリリーフ流量(図16の破線)から制御電流を演算する。図16で表されるように、ストール対応用の差圧制御弁通過流量は、液圧制御弁31,41の正常な作動に必要なリリーフ流量であるMINリリーフ流量より大きく、所定の制御液圧に対する制御電流値はストール回転数を目標回転数として選択した方が小さい値となる。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、制御液圧の変化に基づいてホイールシリンダWC1〜WC4に供給されるブレーキ液量と、液圧制御弁31,41の作動に必要なリリーフ流量とに基づいて、電気モータMの目標回転数を設定している。すなわち、ブレーキ操作に応じた制動力を得るための制御液圧の変化量から液圧ポンプ37,47の必要流量を求め、求めた液圧ポンプ37,47の必要流量に液圧制御弁31,41が正常な作動に必要なリリーフ流量を加算することで、必要最小限の液圧ポンプ37,47の吐出流量(ポンプ必要吐出流量)を求めている。液圧ポンプ37,47は電気モータMにより駆動されるので、求めたポンプ必要吐出流量を、電気モータMの必要モータ回転数に換算できる。このようにして必要モータ回転数RMxを求めることにより、図15に示すように、従来は必要制御液圧Plaを維持するために、電気モータMの回転数RMは高回転数RMzを維持する必要があった(破線で示す)が、本実施形態(実線で示す)では必要制御液圧Plaに達した後は、電気モータMの回転数RMを高回転数RMzから低回転数RMxに低減させることができるので、電気モータMの耐久性を向上させることができ、電気モータMの平均消費電流を低減することができ、また、電気モータMの作動音を低減することができる。また、液圧制御弁31,41のリリーフ流量を必要最小限の最適量に設定することにより、液圧制御弁31,41のサイズを小型化することができる。
【0058】
また、要求回生制動力と回生ブレーキ装置Aが現在発生可能な現回生制動力との差に基づいて制御液圧を設定している。これにより、ブレーキ操作に応じた制動力を得るための必要最小限の制御液圧を発生すればよく、電気モータMの回転数を低減させることができるので、電気モータMの耐久性を向上させることができ、電気モータMの平均消費電流を低減することができ、また、電気モータMの作動音を低減することができる。そして、回生ブレーキ装置Aは、車輪FL,FRに現回生制動力を全て付与することができるので、回生エネルギの利用効率を高めることができる。
【0059】
また、目標回転数をポンプ必要吐出流量に相当する必要モータ回転数と電気モータMがストールしない最低必要回転数とのうち大きい方に設定している。これにより、制御液圧発生装置は、調圧性能を確保できる範囲で電気モータMの回転数を低減させることができる。さらに、液圧ポンプ37,47による制御液圧を早期に立ち上げて制御液圧制動力を迅速に付与することができるので、制御液圧制御を高性能な状態に維持することができる。
【0060】
また、最低必要回転数を液圧ポンプ37,47にかかる負荷に基づいて設定している。これにより、液圧ポンプ37,47の吐出流量が変動したときに電気モータMの回転数を低減させても、電気モータMのストールを防止することができる。
【0061】
また、最低必要回転数から算出したポンプ吐出量からホイールシリンダに供給されるブレーキ液量を差し引いた液圧制御弁通過流量と、該液圧制御弁通過流量毎に異なる印加電流と制御液圧との相関関係とに基づいて目標となる制御液圧が得られる電流値を演算して液圧制御弁への印加電流を制御するようにしている。これにより、ストール回転数を目標回転数として選択すると、液圧ポンプ37,47の実際の吐出流量が必要吐出量を超え、液圧制御弁31,41を通過する流量が過大となっても、目標となる制御液圧が得られる電流値が演算され液圧制御弁31,41への指示電流とされるので、液圧ポンプ37,47の吐出量を適正に保ち適正に液圧ポンプ37,47がホイールシリンダへの必要流量を圧送することができる。
【0062】
上記実施形態に係る車両用ブレーキ装置では、液圧ブレーキ装置Bと回生ブレーキ装置Aとを協調制御しているが、本発明に係る車両用ブレーキ装置は、下記のようなトラクションコントロール装置、ブレーキアシスト制御装置、坂道発進制御装置、アクティブクルーズコントロール装置などを備えた車両用ブレーキ装置としても使用することができる。即ち、車両の走行状態に応じて要求される制動力を車輪に付与するために、電気モータを目標回転数で回転させて液圧ポンプから液圧制御弁の作動に必要なリリーフ流量のブレーキ液を液圧制御弁に循環させるとともに、液圧制御弁に制御電流を印加することによって、液圧制御弁に要求性動力に応じて設定された制御液圧を発生させる制御液圧発生装置を備えた車両用ブレーキ装置として用いることができる。
【0063】
トラクションコントロールは、駆動輪FL,FRのスリップ量が所定値を超え且つ増加するときは、制御液圧発生装置から駆動輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2に液圧を供給し、この液圧をスリップ量に応じて液圧制御弁31,41により制御し、スリップ量が所定値を超え且つ増加しないときは、圧力発生装置を停止し、駆動輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2にスリップ量に応じて液圧制御弁31,41により制御される液圧を封止し、スリップ量が所定値以下のときは駆動輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2を調圧リザーバ34,44に接続し、これによりブレーキ手段にスリップ量に応じた液圧制動力を車輪に付与させる制御である。
【0064】
ブレーキアシスト制御は、緊急にブレーキを掛けた場合や、強い制動力を発生させる場合などに、圧力発生装置から駆動輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2に液圧を供給し、この液圧をマスタシリンダ23から供給される液圧より大きい液圧に液圧制御弁31,41によって制御し、これによりブレーキ手段に大きい液圧制動力を車輪に付与させる制御である。
【0065】
坂道発進制御は、坂道での発進時に、圧力発生装置から駆動輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2に液圧を供給し、この液圧を液圧制御弁31,41により停止保持液圧に制御し、これによりブレーキ手段に車両を坂道に停止保持する液圧制動力を車輪に付与させる制御である。
【0066】
アクティブクルーズコントロールは、車間距離を所定値以上に保つために、圧力発生装置から駆動輪FL,FRのホイールシリンダWC1,WC2に液圧を供給し、この液圧を液圧制御弁31,41により制御し、車間距離が所定値以下になるとブレーキ手段に自動的に液圧制動力を車輪に付与させる制御である。
【0067】
上記実施形態では、液圧ブレーキ装置Bのブレーキ配管系は、FF車に前後配管しているが、FR車に前後配管してもよい。また、倍力装置として負圧式ブースタ22を用いているが、ポンプにより発生した液圧をアキュムレータに蓄圧し、この液圧を利用して倍力する倍力装置を用いてもよい。流量−回転数変換係数kを上記実施形態ではポンプ負荷に対して変動した値として、決定されているものとしたが必ずしもこれに限るものではなく、ポンプ設計時にポンプ負荷に対して流量−回転数変換係数kが一定の値であるように設計してあるならばポンプ負荷に関わらず一定の値を採用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
11…エンジン、12…モータ、16…インバータ、17…バッテリ、22…負圧式ブースタ、23…マスタシリンダ、24…リザーバタンク、25…ブレーキアクチュエータ、31,41…液圧制御弁、37,47…ポンプ、60…ブレーキECU、12,16,17…回生ブレーキ装置、22,23,24…車輪ブレーキ装置、31,41,37,47…制御液圧発生装置、A…回生ブレーキ装置、B…液圧ブレーキ装置、FR,FL,RR,RL…車輪、M…モータ、P…圧力センサ、WC1,WC2,WC3,WC4…ホイールシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じたマスタシリンダ液圧を発生するマスタシリンダ(23)と、
各車輪(FL,FR,RL,RR)に設けられ、ホイールシリンダ(WC1,WC2,WC3,WC4)に前記マスタシリンダからブレーキ液が供給されることによって前記車輪に制動力を付与する車輪ブレーキ装置(22,23,24)と、
前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間に接続された液圧制御弁(31,41)と、
前記液圧制御弁と前記ホイールシリンダとの間に吐出ポートが連通され、前記マスタシリンダと前記液圧制御弁との間に吸入ポートが連通された液圧ポンプ(37,47)と、
前記液圧ポンプを駆動する電気モータ(M)と、
前記ホイールシリンダに生じるホイールシリンダ液圧が前記マスタシリンダ液圧より高くなるように前記マスタシリンダ液圧に加算される制御液圧を設定する制御液圧設定手段と、
前記電気モータを目標回転数で回転させて前記液圧ポンプから前記液圧制御弁の作動に必要なリリーフ流量のブレーキ液を前記液圧制御弁に循環させるとともに、前記液圧制御弁に制御電流を印加することによって、前記液圧制御弁に前記制御液圧を発生させる制御液圧発生装置(31,41,37,47)と、
前記制御液圧の変化に基づいて前記ホイールシリンダに供給されるブレーキ液量と前記リリーフ流量とに基づいてポンプ必要吐出流量を演算し、そのポンプ必要吐出流量に基づいて前記電気モータの目標回転数を設定する目標回転数設定手段と、
を備える車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、
回生制動力を前記車輪に発生させる回生ブレーキ装置(12,16,17)と、
前記ブレーキ操作量に応じた要求制動力を演算する要求制動力演算手段と、
前記マスタシリンダ液圧によって発生する基礎液圧制動力を演算する基礎液圧制動力演算手段と、
前記要求制動力から前記基礎液圧制動力を減算して要求回生制動力を演算する要求回生制動力演算手段と、を備え、
前記制御液圧設定手段は、前記要求回生制動力と前記回生ブレーキ装置が現在発生可能な現回生制動力との差に基づいて前記制御液圧を設定する車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記目標回転数設定手段は、前記目標回転数を前記ポンプ必要吐出流量に相当する必要モータ回転数と前記電気モータがストールしない最低必要回転数とのうち大きい方に設定する車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記目標回転数設定手段は、前記最低必要回転数を前記液圧ポンプにかかる負荷に基づいて設定する車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記目標回転数設定手段が、前記最低必要回転数を前記目標回転数として設定した場合に、前記最低必要回転数から算出したポンプ吐出量から前記ホイールシリンダに供給されるブレーキ液量を差し引いた液圧制御弁通過流量と、該液圧制御弁通過流量毎に異なる前記印加電流と前記制御液圧との相関関係とに基づいて目標となる前記制御液圧が得られる電流値を演算して前記液圧制御弁への印加電流を制御する制御手段を備えた車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−6529(P2013−6529A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140894(P2011−140894)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】