説明

車両用モータ駆動装置および自動車

【課題】2ウェイローラクラッチを用いた車両用モータ駆動装置の動作の信頼性を高める。
【解決手段】1速出力ギヤ9Aと出力軸7との間に1速の2ウェイローラクラッチ15Aを設け、2速出力ギヤ9Bと出力軸7との間に2速の2ウェイローラクラッチ15Bを設け、1速出力ギヤ9Aに接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた1速摩擦板36Aと、2速出力ギヤ9Bに接触する位置と離反する位置との間で軸方向に移動可能に設けられた2速摩擦板36Bとを設け、1速摩擦板36Aは、1速出力ギヤ9Aの側面に対向するフランジ部37と、シフトリング35内に嵌合する案内ボス部38とを有し、2速摩擦板36Bも、2速出力ギヤ9Bの側面に対向するフランジ部37と、シフトリング35内に嵌合する案内ボス部38とを有する構成を車両用モータ駆動装置に採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの回転を変速して車輪へ伝達する車両用モータ駆動装置およびそのモータ駆動装置を搭載した自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車およびハイブリッド自動車の駆動装置に用いられる車両用モータ駆動装置として、電動モータと、その電動モータの回転を変速して出力する変速機と、その変速機から出力された回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤとからなるものが従来から知られている。
【0003】
この車両用モータ駆動装置を使用すると、走行条件に応じて変速機の変速比を切り換えることにより、駆動および回生時において、効率の高い回転数およびトルク領域で電動モータを使用することが可能となる。また、適切な変速比とすることで、高速走行時の変速機の回転部材の回転速度が下がり、変速機の動力損失が低減して車両のエネルギ効率を向上させることができる。
【0004】
ところで、特許文献1には、車両用の変速機として以下の構成のものが開示されている。
【0005】
エンジンの回転が入力される入力軸と、その入力軸に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた2速入力ギヤおよび3速入力ギヤと、出力軸に設けられ、2速入力ギヤおよび3速入力ギヤにそれぞれ噛合する2速出力ギヤおよび3速出力ギヤとを有し、
2速入力ギヤと3速入力ギヤは軸受を介して入力軸で回転可能に支持され、
2速入力ギヤと入力軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう2速の2ウェイローラクラッチと、3速入力ギヤと入力軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう3速の2ウェイローラクラッチと、2速の2ウェイローラクラッチと3速の2ウェイローラクラッチとを選択的に係合させる変速アクチュエータを設けた車両用の変速機。
【0006】
ここで、2速の2ウェイローラクラッチは、2速入力ギヤの内周に設けられた円筒面と、入力軸の外周に設けられたカム面と、そのカム面と前記円筒面の間に組み込まれたローラと、そのローラを保持し、前記カム面と円筒面の間にローラを係合させる係合位置とローラの係合を解除する中立位置との間で入力軸に対して相対回転可能に設けられた2速保持器と、その2速保持器を中立位置に弾性保持する2速スイッチばねとからなる構成のものであり、2速保持器を係合位置と中立位置の間で周方向に移動させることにより、トルクの伝達と遮断を切り換えることができるようになっている。3速の2ウェイローラクラッチも、2速の2ウェイローラクラッチと同様の構成である。
【0007】
また、変速アクチュエータは、2速入力ギヤの側面に対向するように2速保持器の端部に一体に形成した2速摩擦板と、2速摩擦板を2速入力ギヤの側面から離反する方向に付勢する2速離反ばねと、3速入力ギヤの側面に対向するように3速保持器の端部に一体に形成した3速摩擦板と、3速摩擦板を3速入力ギヤの側面から離反する方向に付勢する3速離反ばねと、2速摩擦板を押圧して2速入力ギヤの側面に接触させる2速シフト位置と3速摩擦板を押圧して3速入力ギヤの側面に接触させる3速シフト位置との間で軸方向に移動可能に設けられたシフトリングと、そのシフトリングを軸方向に移動させるシフト機構とからなる。
【0008】
この変速機は、シフトリングが2速シフト位置にあるときは、2速摩擦板がシフトリングで押圧されて2速入力ギヤの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって2速摩擦板が入力軸に対して相対回転するので、2速摩擦板と一体の2速保持器が中立位置から係合位置に移動し、2速の2ウェイローラクラッチが係合した状態となる。
【0009】
そして、この変速機は、シフトリングを2速シフト位置から3速シフト位置に軸方向移動させることにより、2速の2ウェイローラクラッチの係合を解除し、3速の2ウェイローラクラッチを係合させることができる。この動作を以下に説明する。
【0010】
まず、シフト機構の作動により、シフトリングが2速シフト位置から3速シフト位置に向かって軸方向移動を開始すると、2速摩擦板と2速入力ギヤの接触面間の摩擦力が小さくなるので、2速スイッチばねのばね力により2速保持器が係合位置から中立位置に移動し、この2速保持器の移動によって2速の2ウェイローラクラッチの係合が解除される。
【0011】
シフトリングが3速シフト位置に到達すると、3速摩擦板がシフトリングで押圧されて3速入力ギヤの側面に接触するので、その接触面間の摩擦力によって3速摩擦板が入力軸に対して相対回転し、3速摩擦板に回り止めされた3速保持器が中立位置から係合位置に移動し、この3速保持器の移動によって3速の2ウェイローラクラッチが係合した状態となる。
【0012】
また、上記とは反対に、3速シフト位置から2速シフト位置にシフトリングを軸方向移動させることにより、3速の2ウェイローラクラッチの係合を解除し、2速の2ウェイローラクラッチを係合させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−211834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記変速機は、2速摩擦板がシフトリングで押圧されて軸方向に移動するとき、2速摩擦板と一体の2速保持器も軸方向に移動するので、2速保持器の姿勢が不安定である。3速保持器についても同様である。そのため、2速保持器および3速保持器で保持されたローラの位置が安定しにくく、次変速段のシフト位置にシフトリングが移動したときの次変速段の2ウェイローラクラッチの係合タイミングが不安定となる可能性があった。
【0015】
そこで、2速保持器の姿勢を安定させるために、2速摩擦板を2速保持器とは別体とし、その2速摩擦板を、2速保持器に対して回り止めしかつ2速入力ギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で2速保持器に対して軸方向に移動可能に支持するように設計変更することが考えられる。
【0016】
このようにすると、2速摩擦板が2速保持器に対して軸方向に移動可能となるので、2速摩擦板がシフトリングで押圧されて軸方向に移動するときに2速保持器が軸方向に移動せず、2速保持器の姿勢が安定する。しかし、その一方で、2速保持器とは別体となった2速摩擦板の姿勢が不安定となりやすく、2速摩擦板がシフトリングで押圧されて2速入力ギヤの側面に接触するときの接触タイミングが不安定となる可能性がある。
【0017】
この発明が解決しようとする課題は、2ウェイローラクラッチを用いた車両用モータ駆動装置の動作の信頼性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するため、この発明においては、電動モータと、その電動モータの回転が入力される入力軸と、その入力軸に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸と、 前記入力軸に設けられた第1入力ギヤおよび第2入力ギヤと、前記出力軸に設けられ、前記第1入力ギヤおよび第2入力ギヤにそれぞれ噛合する第1出力ギヤおよび第2出力ギヤと、前記出力軸の回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤとを有し、
前記第1入力ギヤと第2入力ギヤと入力軸の組と、前記第1出力ギヤと第2出力ギヤと出力軸の組とのうち一方を、第1クラッチギヤと第2クラッチギヤとこれらのクラッチギヤを軸受を介して回転可能に支持するクラッチギヤ支持軸とし、
前記第1クラッチギヤとクラッチギヤ支持軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第1の2ウェイローラクラッチと、前記第2クラッチギヤとクラッチギヤ支持軸との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第2の2ウェイローラクラッチと、前記第1の2ウェイローラクラッチと第2の2ウェイローラクラッチとを選択的に係合させる変速アクチュエータを設け、
前記第1の2ウェイローラクラッチは、第1クラッチギヤの内周とクラッチギヤ支持軸の外周のうち一方に設けられた円筒面と、他方に設けられたカム面と、そのカム面と前記円筒面の間に組み込まれたローラと、そのローラを保持し、前記カム面と円筒面の間にローラを係合させる係合位置とローラの係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸に対して相対回転可能に設けられた第1保持器と、その第1保持器を前記中立位置に弾性保持する第1スイッチばねとからなり、
前記第2の2ウェイローラクラッチは、第2クラッチギヤの内周とクラッチギヤ支持軸の外周のうち一方に設けられた円筒面と、他方に設けられたカム面と、そのカム面と前記円筒面の間に組み込まれたローラと、そのローラを保持し、前記カム面と円筒面の間にローラを係合させる係合位置とローラの係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸に対して相対回転可能に設けられた第2保持器と、その第2保持器を前記中立位置に弾性保持する第2スイッチばねとからなり、
前記変速アクチュエータは、前記第1保持器に対して回り止めされかつ前記第1クラッチギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で第1保持器に対して軸方向に移動可能に設けられた第1摩擦板と、その第1摩擦板を前記第1クラッチギヤの側面から離反する方向に付勢する第1離反ばねと、前記第2保持器に対して回り止めされかつ前記第2クラッチギヤの側面に接触する位置と離反する位置との間で前記第2保持器に対して軸方向に移動可能に設けられた第2摩擦板と、その第2摩擦板を前記第2クラッチギヤの側面から離反する方向に付勢する第2離反ばねと、前記第1摩擦板を押圧して前記第1クラッチギヤの側面に接触させる第1シフト位置と前記第2摩擦板を押圧して前記第2クラッチギヤの側面に接触させる第2シフト位置との間で軸方向に移動可能に設けられたシフトリングと、そのシフトリングを軸方向に移動させるシフト機構とからなり、
前記第1摩擦板は、前記第1クラッチギヤの側面に対向して配置されたフランジ部と、そのフランジ部から前記シフトリングに向けて軸方向に突出して形成され、前記シフトリング内に周方向にスライド可能に嵌合する案内ボス部とを有し、
前記第2摩擦板は、前記第2クラッチギヤの側面に対向して配置されたフランジ部と、そのフランジ部から前記シフトリングに向けて軸方向に突出して形成され、前記シフトリング内に周方向にスライド可能に嵌合する案内ボス部とを有する構成を車両用モータ駆動装置に採用した。
【0019】
この構成を採用した車両用モータ駆動装置は、シフトリングが第1シフト位置にあるときは、第1摩擦板がシフトリングで押圧されて第1クラッチギヤの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって第1摩擦板がクラッチギヤ支持軸に対して相対回転するので、第1摩擦板に回り止めされた第1保持器が中立位置から係合位置に移動し、第1の2ウェイローラクラッチが係合した状態となる。
【0020】
そして、この車両用モータ駆動装置は、シフトリングを第1シフト位置から第2シフト位置に軸方向移動させることにより、第1の2ウェイローラクラッチの係合を解除し、第2の2ウェイローラクラッチを係合させることができる。この動作を以下に説明する。
【0021】
まず、シフト機構の作動により、シフトリングが第1シフト位置から第2シフト位置に向かって軸方向移動を開始すると、第1摩擦板と第1クラッチギヤの接触面間の摩擦力が小さくなるので、第1スイッチばねのばね力により第1保持器が係合位置から中立位置に移動し、この第1保持器の移動によって第1の2ウェイローラクラッチの係合が解除される。
【0022】
シフトリングが第2シフト位置に到達すると、第2摩擦板がシフトリングで押圧されて第2クラッチギヤの側面に接触するので、その接触面間の摩擦力によって第2摩擦板がクラッチギヤ支持軸に対して相対回転し、第2摩擦板に回り止めされた第2保持器が中立位置から係合位置に移動し、この第2保持器の移動によって第2の2ウェイローラクラッチが係合した状態となる。
【0023】
また、上記とは反対に、第2シフト位置から第1シフト位置にシフトリングを軸方向移動させることにより、第2の2ウェイローラクラッチの係合を解除し、第1の2ウェイローラクラッチを係合させることができる。
【0024】
ここで、シフトリングで第1摩擦板を押圧して第1クラッチギヤの側面に接触させるとき、第1摩擦板の案内ボス部がシフトリング内に嵌合しているので、第1摩擦板は安定した姿勢で第1クラッチギヤの側面に接触する。第2摩擦板についても同様である。そのため、安定したタイミングで次変速段の2ウェイローラクラッチを係合させることが可能である。
【0025】
前記第1摩擦板の案内ボス部の反対側に、前記第1摩擦板のフランジ部と前記第1離反ばねとが軸直角方向に重なる配置となるように第1離反ばねを収容する第1離反ばね収容凹部を設け、前記第2摩擦板の案内ボス部の反対側に、前記第2摩擦板のフランジ部と前記第2離反ばねとが軸直角方向に重なる配置となるように第2離反ばねを収容する第2離反ばね収容凹部を設けると好ましい。このようにすると、第1離反ばね収容凹部が無い場合と比べて、第1離反ばねが第1離反ばね収容凹部に入り込む分、第1摩擦板まわりの軸方向長さが短くなり、同様に、第2離反ばねが第2離反ばね収容凹部に入り込む分、第2摩擦板まわりの軸方向長さも短くなる。そのため、装置全体の軸方向長さを短くして、コンパクトにすることが可能となる。
【0026】
前記シフト機構としては、前記シフトリングを転がり軸受を介して回転可能に支持するシフトスリーブと、そのシフトスリーブの外周に設けられた環状溝に係合する二股状のシフトフォークと、そのシフトフォークを軸方向に駆動するシフトモータとを有する構成のものを採用することができる。この場合、前記シフトフォークと環状溝の間の両側の軸方向隙間に、軸方向に圧縮可能な予圧ばねを組み込むと好ましい。このようにすると、シフトリングで第1摩擦板を押圧して第1クラッチギヤの側面に接触させるときに、シフトスリーブに対するシフトフォークの軸方向の相対位置を調節することによって予圧ばねのばね力を調節し、第1摩擦板と第1クラッチギヤの接触面間の摩擦力を調整することが可能となる。同様に、シフトリングで第2摩擦板を押圧して第2クラッチギヤの側面に接触させるときも、第2摩擦板と第2クラッチギヤの接触面間の摩擦力を調整することが可能となる。そのため、次変速段の2ウェイローラクラッチの係合タイミングを高い精度で調節することが可能となる。
【0027】
前記第1保持器は、前記ローラを収容する複数のポケットが周方向に間隔をおいて形成された円筒部と、その円筒部の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部とを有するものを採用することができ、この場合、前記クラッチギヤ支持軸の外周には、前記第1保持器の内向きフランジ部の径方向内端を周方向にスライド可能に支持する第1保持器案内面を形成することができる。同様に、前記第2保持器は、前記ローラを収容する複数のポケットが周方向に間隔をおいて形成された円筒部と、その円筒部の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部とを有するものを採用することができ、この場合、前記クラッチギヤ支持軸の外周には、前記第2保持器の内向きフランジ部の径方向内端を周方向にスライド可能に支持する第2保持器案内面を形成することができる。このような第1保持器と第2保持器を採用する場合、前記クラッチギヤ支持軸の内部を通る給油通路を設け、その給油通路の油出口を前記第1保持器案内面と第2保持器案内面とにそれぞれ開口させると好ましい。このようにすると、第1保持器をスライド可能に支持する第1保持器案内面に潤滑油の油出口が直接開口しているので、第1保持器の移動抵抗が極めて小さくなり、係合位置と中立位置の間で第1保持器が移動するときの第1保持器の動作が安定したものとなる。同様に、第2保持器をスライド可能に支持する第2保持器案内面にも潤滑油の油出口が直接開口しているので、第2保持器の動作も安定したものとなる。
【0028】
給油通路の油出口を前記第1保持器案内面と第2保持器案内面とにそれぞれ開口させる場合、第1保持器案内面を、第1の2ウェイローラクラッチのローラと第1クラッチギヤを支持する軸受との間に配置し、第2保持器案内面を、第2の2ウェイローラクラッチのローラと第2クラッチギヤを支持する軸受との間に配置すると好ましい。このようにすると、第1保持器案内面に開口する給油通路の油出口から流出する潤滑油で、第1の2ウェイローラクラッチのローラと、第1クラッチギヤを支持する軸受とを同時に潤滑することができる。また、第2保持器案内面に開口する給油通路の油出口から流出する潤滑油で、第2の2ウェイローラクラッチのローラと、第2クラッチギヤを支持する軸受とを同時に潤滑することができる。
【0029】
前記第1スイッチばねは、鋼線をC形に巻いたC形環状部と、C形環状部の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部とからなるものを採用し、前記第1の2ウェイローラクラッチのカム面を、前記クラッチギヤ支持軸の外周に回り止めされた環状の第1カム部材に形成し、その第1カム部材の軸方向端面に、前記第1スイッチばねのC形環状部が嵌り込む円形のスイッチばね収容凹部と、前記第1スイッチばねの一対の延出部が径方向に貫通して挿入される径方向溝とを設け、前記第1保持器には、前記第1スイッチばねの一対の延出部の前記径方向溝からの突出部分が挿入される切欠きを設けることができる。この場合、第1カム部材の軸方向端面で第1離反ばねを直接支持することも可能であるが、このようにすると、第1カム部材の軸方向端面には、第1スイッチばねの延出部が挿入される径方向溝があるので、その径方向溝の位置で第1離反ばねが支持されず、第1離反ばねのばね力の分布が周方向で不均一となり、その結果、第1摩擦板が第1クラッチギヤの側面に接触したときの接触面間の摩擦力も周方向で不均一となり、次変速段の2ウェイローラクラッチの係合タイミングが不安定となる可能性がある。そこで、この問題を解消するために、前記第1カム部材の軸方向端面に前記径方向溝を覆う環状の第1ワッシャを設け、その第1ワッシャを介して前記第1離反ばねが前記第1カム部材の軸方向端面で支持されるようにすると好ましい。このようにすると、第1離反ばねが第1ワッシャを介して全周にわたって支持されるので、第1離反ばねのばね力の分布が周方向で均一となり、その結果、第1摩擦板が第1クラッチギヤの側面に接触したときの接触面間の摩擦力も周方向で均一となり、次変速段の2ウェイローラクラッチの係合タイミングが安定する。
【0030】
同様に、前記第2スイッチばねを、鋼線をC形に巻いたC形環状部と、C形環状部の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部とからなるものを採用し、前記第2の2ウェイローラクラッチのカム面を、前記クラッチギヤ支持軸の外周に回り止めされた環状の第2カム部材に形成し、その第2カム部材の軸方向端面に、前記第2スイッチばねのC形環状部が嵌り込む円形のスイッチばね収容凹部と、前記第2スイッチばねの一対の延出部が径方向に貫通して挿入される径方向溝とを設け、前記第2保持器には、前記第2スイッチばねの一対の延出部の前記径方向溝からの突出部分が挿入される切欠きを設ける場合も、前記第2カム部材の軸方向端面に前記径方向溝を覆う環状の第2ワッシャを設け、その第2ワッシャを介して前記第2離反ばねが前記第2カム部材の軸方向端面で支持されるようにすると好ましい。このようにすると、第2離反ばねが第2ワッシャを介して全周にわたって支持されるので、第2離反ばねのばね力の分布が周方向で均一となり、その結果、第2摩擦板が第2クラッチギヤの側面に接触したときの接触面間の摩擦力も周方向で均一となり、次変速段の2ウェイローラクラッチの係合タイミングが安定する。
【0031】
前記第1カム部材のカム面と前記第2カム部材のカム面とを同数かつ同位相とし、前記第1カム部材と第2カム部材の前記クラッチギヤ支持軸に対する回り止めをスプライン嵌合によるものとすることができる。このようにすると、スプラインを基準としてカム面を高精度に加工することができる。
【0032】
第1クラッチギヤは、その噛合する歯幅が、第1クラッチギヤを支持する前記軸受と軸直角方向に重なるように形成すると好ましい。このようにすると、第1の2ウェイローラクラッチが係合解除した状態で第1クラッチギヤが空転するときに、第1クラッチギヤを支持する軸受に、軸受を傾斜させるモーメント荷重が作用するのを抑制し、軸受の動力損失を低減することができる。第2クラッチギヤも同様である。
【0033】
また、この発明では、上記の車両用モータ駆動装置を用いた電気自動車として、左右一対の前輪と左右一対の後輪のうち少なくとも一方を上記の車両用モータ駆動装置で駆動するようにした電気自動車を提供する。
【0034】
また、この発明では、上記の車両用モータ駆動装置を用いたハイブリッド自動車として、左右一対の前輪と左右一対の後輪のうち一方をエンジンで駆動し、他方を上記の車両用モータ駆動装置で駆動するようにしたハイブリッド自動車を提供する。
【発明の効果】
【0035】
この発明の車両用モータ駆動装置は、第1摩擦板の案内ボス部がシフトリング内に嵌合しているので、シフトリングで第1摩擦板を押圧して第1クラッチギヤの側面に接触させるときに、第1摩擦板は安定した姿勢で第1クラッチギヤの側面に接触する。第2摩擦板についても同様である。そのため、安定したタイミングで次変速段の2ウェイローラクラッチを係合させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明に係る車両用モータ駆動装置を採用した電気自動車の概略図
【図2】この発明に係る車両用モータ駆動装置を採用したハイブリッド自動車の概略図
【図3】この発明に係る車両用モータ駆動装置の断面図
【図4】図3の1速出力ギヤおよび2速出力ギヤ近傍の拡大断面図
【図5】図4のV−V線に沿った断面図
【図6】図4のVI−VI線に沿った断面図
【図7】図4のVII−VII線に沿った断面図
【図8】図4のシフトリングを軸方向に移動させるシフト機構を示す断面図
【図9】図4のシフトリング近傍の拡大断面図
【図10】図3に示す車両用モータ駆動装置に組み付ける前の出力軸ユニットを示す図
【図11】図4に示す2速カム部材と2速スイッチばねと2速ワッシャと2速離反ばねの分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、左右一対の前輪1をこの発明に係る車両用モータ駆動装置Aで駆動される駆動輪とし、左右一対の後輪2を従動輪とした電気自動車EVを示す。
【0038】
図2は、左右一対の前輪1をエンジンEによって駆動される主駆動輪とし、左右一対の後輪2をこの発明に係る車両用モータ駆動装置Aで駆動される補助駆動輪としたハイブリッド自動車HVを示す。ハイブリッド自動車HVには、エンジンEの回転を変速するトランスミッションTと、トランスミッションTから出力された回転を左右の前輪1に分配するディファレンシャルギヤDとが設けられている。
【0039】
この電気自動車EVおよびハイブリッド自動車HVに組み込まれたこの発明に係る車両用モータ駆動装置Aについて以下に説明する。
【0040】
図3に示すように、車両用モータ駆動装置Aは、電動モータ3と、電動モータ3の回転軸3aの回転を変速して出力する変速機4と、その変速機4から出力された回転を図1に示す電気自動車EVの左右一対の前輪1に分配し、または、図2に示すハイブリッド自動車の左右一対の後輪2に分配するディファレンシャルギヤ5とからなる。
【0041】
変速機4は、図3に示すように、電動モータ3の回転軸3aの回転が入力される入力軸6と、入力軸6に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸7と、入力軸6に設けられた1速入力ギヤ8Aおよび2速入力ギヤ8Bと、出力軸7に設けられた1速出力ギヤ9Aおよび2速出力ギヤ9Bとを有する。
【0042】
入力軸6は、ハウジング10内に組込まれた対向一対の軸受11で回転可能に支持され、入力軸6の一端が電動モータ3の回転軸3aに接続されている。出力軸7も、ハウジング10内に組込まれた対向一対の軸受12で回転可能に支持されている。
【0043】
1速入力ギヤ8Aと2速入力ギヤ8Bは軸方向に間隔をおいて配置され、入力軸6を中心として入力軸6と一体に回転するように入力軸6に固定されている。1速出力ギヤ9Aと2速出力ギヤ9Bも軸方向に間隔をおいて配置されている。
【0044】
図4に示すように、1速出力ギヤ9Aは、出力軸7を貫通させる環状に形成され、軸受14Aを介して出力軸7で支持されており、出力軸7を中心として出力軸7に対して回転可能となっている。同様に、2速出力ギヤ9Bも、軸受14Bを介して出力軸7で回転可能に支持されている。
【0045】
1速入力ギヤ8Aと1速出力ギヤ9Aは互いに噛合しており、その噛合によって1速入力ギヤ8Aと1速出力ギヤ9Aの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ8Bと2速出力ギヤ9Bも噛合しており、その噛合によって2速入力ギヤ8Bと2速出力ギヤ9Bの間で回転が伝達するようになっている。2速入力ギヤ8Bと2速出力ギヤ9Bの減速比は、1速入力ギヤ8Aと1速出力ギヤ9Aの減速比よりも小さい。
【0046】
ここで、1速出力ギヤ9Aは、1速入力ギヤ8Aと噛合する歯幅が、1速出力ギヤ9Aを支持する軸受14Aと軸直角方向に重なるように形成されている。同様に、2速出力ギヤ9Bも、2速入力ギヤ8Bと噛合する歯幅が、2速出力ギヤ9Bを支持する軸受14Bと軸直角方向に重なるように形成されている。
【0047】
1速出力ギヤ9Aと出力軸7の間には、1速出力ギヤ9Aと出力軸7の間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう1速の2ウェイローラクラッチ15Aが組込まれている。また、2速出力ギヤ9Bと出力軸7の間には、2速出力ギヤ9Bと出力軸7の間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう2速の2ウェイローラクラッチ15Bが組込まれている。
【0048】
1速の2ウェイローラクラッチ15Aと2速の2ウェイローラクラッチ15Bは、左右対称の同一構成なので、2速の2ウェイローラクラッチ15Bを以下に説明し、1速の2ウェイローラクラッチ15Aについては、2速の2ウェイローラクラッチ15Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0049】
図4〜図6に示すように、2速の2ウェイローラクラッチ15Bは、2速出力ギヤ9Bの内周に設けられた円筒面16と、出力軸7の外周に回り止めした環状の2速カム部材17Bに形成されたカム面18と、カム面18と円筒面16の間に組み込まれたローラ19と、ローラ19を保持する2速保持器20Bと、2速スイッチばね21Bとからなる。カム面18は、円筒面16との間で周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭くなるくさび形空間を形成するような面であり、例えば、図に示すように円筒面16と対向する平坦面である。
【0050】
図4に示すように、2速保持器20Bは、ローラ19を収容する複数のポケット22が周方向に間隔をおいて形成された円筒部23と、円筒部23の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部24とを有する。内向きフランジ部24の径方向内端は、2速カム部材17Bの外周に形成された円筒状の2速保持器案内面25Bで周方向にスライド可能に支持され、この周方向のスライドによって、2速保持器20Bは、カム面18と円筒面16の間にローラ19を係合させる係合位置とローラ19の係合を解除する中立位置との間で出力軸7に対して相対回転可能となっている。また、2速保持器20Bは、内向きフランジ部24の軸方向両側への移動が規制され、軸方向に非可動とされている。
【0051】
出力軸7の内部には、図示しないオイルポンプから潤滑油を導入する給油通路26が設けられている。給油通路26の油出口は、2速保持器案内面25Bに開口している。また、2速保持器案内面25Bは、2速の2ウェイローラクラッチ15Bのローラ19と、2速出力ギヤ9Bを支持する軸受14Bとの間に配置されており、給油通路26の油出口から流出する潤滑油でローラ19と軸受14Bとが同時に潤滑されるようになっている。
【0052】
図6、図11に示すように、2速スイッチばね21Bは、鋼線をC形に巻いたC形環状部27と、C形環状部27の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部28,28とからなる。C形環状部27は、2速カム部材17Bの軸方向端面に形成された円形のスイッチばね収容凹部29に嵌め込まれ、一対の延出部28,28は、2速カム部材17Bの軸方向端面に形成された径方向溝30に挿入されている。
【0053】
径方向溝30は、スイッチばね収容凹部29の内周縁から径方向外方に延びて2速カム部材17Bの外周に至るように形成されている。2速スイッチばね21Bの延出部28は、径方向溝30の径方向外端から突出しており、その延出部28の径方向溝30からの突出部分が、2速保持器20Bの円筒部23の軸方向端部に形成された切欠き31に挿入されている。径方向溝30と切欠き31は同じ幅に形成されている。
【0054】
図6に示すように、延出部28は、径方向溝30の周方向で対向する内面と、切欠き31の周方向で対向する内面にそれぞれ接触しており、その接触面に作用する周方向の力によって2速保持器20Bを中立位置に弾性保持している。
【0055】
すなわち、2速保持器20Bを出力軸7に対して相対回転させて、図6に示す中立位置から周方向に移動させると、径方向溝30の位置と切欠き31の位置が周方向にずれるので、一対の延出部28,28の間隔が狭まる方向にC形環状部27が弾性変形し、その弾性復元力によって2速スイッチばね21Bの一対の延出部28,28が径方向溝30の内面と切欠き31の内面を押圧し、その押圧によって2速保持器20Bを中立位置に戻す方向の力が作用するようになっている。
【0056】
図4に示すように、1速カム部材17Aと2速カム部材17Bの出力軸7に対する回り止めは、スプライン嵌合によって行なわれている。1速カム部材17Aのカム面18と2速カム部材17Bのカム面18は同数かつ同位相となっている。ここで、1速カム部材17Aのカム面18と2速カム部材17Bのカム面18は、各カム部材17A,17Bの内周のスプラインを基準として同位相となるように加工されている。また、1速カム部材17Aと2速カム部材17Bは、出力軸7の外周に嵌合した止めナット32によって軸方向に非可動となっている。1速カム部材17Aと2速カム部材17Bの間には間座33が組み込まれている。
【0057】
1速の2ウェイローラクラッチ15Aと2速の2ウェイローラクラッチ15Bは、変速アクチュエータ34により選択的に係合することができるようになっている。
【0058】
図9に示すように、変速アクチュエータ34は、1速出力ギヤ9Aと2速出力ギヤ9Bの間に軸方向に移動可能に設けられたシフトリング35と、1速出力ギヤ9Aとシフトリング35の間に組み込まれた1速摩擦板36Aと、2速出力ギヤ9Bとシフトリング35の間に組み込まれた2速摩擦板36Bとを有する。
【0059】
ここで、1速摩擦板36Aと2速摩擦板36Bは、左右対称の同一構成となっているので、2速摩擦板36Bを以下に説明し、1速摩擦板36Aについては、2速摩擦板36Bに対応する部分に同一の符号または末尾のアルファベットBをAに置き換えた符号を付して説明を省略する。
【0060】
2速摩擦板36Bは、2速出力ギヤ9Bの側面に対向して配置されたフランジ部37と、そのフランジ部37からシフトリング35に向けて軸方向に突出して形成された案内ボス部38とを有する。案内ボス部38は、外周が円筒状となるように形成され、シフトリング35内に周方向にスライド可能に嵌合している。
【0061】
また、2速摩擦板36Bには、2速保持器20Bの円筒部23の端部が係合する円弧状の開口部39が設けられ、この円弧状の開口部39と円筒部23の端部との係合によって、2速摩擦板36Bが2速保持器20Bに回り止めされている。開口部39は、2速保持器20Bの円筒部23の端部を軸方向にスライド可能に収容しており、このスライドによって、2速摩擦板36Bは、2速保持器20Bに回り止めされた状態のまま、2速出力ギヤ9Bの側面に接触する位置と離反する位置との間で、2速保持器20Bに対して軸方向に移動可能となっている。また、2速保持器20Bの円筒部23の端部は、2速摩擦板36Bの円弧状の開口部39の周縁に摺接することで径方向に位置決めされている。
【0062】
2速摩擦板36Bと2速カム部材17Bの間には、軸方向に圧縮された状態で2速離反ばね40Bが組み込まれており、この2速離反ばね40Bの弾性復元力によって2速摩擦板36Bが2速出力ギヤ9Bの側面から離反する方向に付勢されている。
【0063】
2速離反ばね40Bは、間座33の外周に沿って巻回されたコイルスプリングであり、その一端が2速ワッシャ41Bを介して2速カム部材17Bの軸方向端面で支持されている。2速ワッシャ41Bは、2速カム部材17Bの軸方向端面の径方向溝30を覆うように環状に形成されている(図11参照)。
【0064】
図9に示すように、2速離反ばね40Bは、2速摩擦板36Bの案内ボス部38の反対側に形成された環状の2速離反ばね収容凹部42Bに収容され、これにより、2速摩擦板36Bのフランジ部37と2速離反ばね40Bとが軸直角方向に重なる配置となっている。
【0065】
シフトリング35は、1速摩擦板36Aを押圧して1速出力ギヤ9Aの側面に接触させる1速シフト位置と、2速摩擦板36Bを押圧して2速出力ギヤ9Bの側面に接触させる2速シフト位置との間で軸方向に移動可能に支持されている。また、シフトリング35を1速シフト位置と2速シフト位置の間で軸方向に移動させるシフト機構43が設けられている。
【0066】
図7、図8に示すように、シフト機構43は、シフトリング35を転がり軸受44を介して回転可能に支持するシフトスリーブ45と、そのシフトスリーブ45の外周に設けられた環状溝46に係合する二股状のシフトフォーク47と、シフトフォーク47が固定されたシフトロッド48と、シフトモータ49と、シフトモータ49の回転をシフトロッド48の直線運動に変換する運動変換機構50(送りねじ機構等)とからなる。
【0067】
図8に示すように、シフトロッド48は、出力軸7に対して間隔をおいて平行に配置され、ハウジング10内に組み込まれた一対の滑り軸受51で軸方向にスライド可能に支持されている。シフトリング35とシフトスリーブ45の間に組み込まれた転がり軸受44は、シフトリング35とシフトスリーブ45のいずれに対しても軸方向に非可動となるように組み付けられている。
【0068】
このシフト機構43は、シフトモータ49の回転が運動変換機構50により直線運動に変換されてシフトフォーク47に伝達し、そのシフトフォーク47の直線運動が転がり軸受44を介してシフトリング35に伝達することにより、シフトリング35を軸方向に移動させる。
【0069】
図9に示すように、シフトフォーク47と環状溝46の間の両側の軸方向隙間には、軸方向に圧縮可能な予圧ばね52が組み込まれている。これにより、シフトリング35で1速摩擦板36Aを押圧して1速出力ギヤ9Aの側面に接触させるときに、シフトスリーブ45に対するシフトフォーク47の軸方向の相対位置を調節することによって予圧ばね52のばね力を調節し、1速摩擦板36Aと1速出力ギヤ9Aの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。また、シフトリング35で2速摩擦板36Bを押圧して2速出力ギヤ9Bの側面に接触させるときも、2速摩擦板36Bと2速出力ギヤ9Bの接触面間の摩擦力を調整することが可能となっている。
【0070】
図3に示すように、出力軸7には、出力軸7の回転をディファレンシャルギヤ5に伝達するディファレンシャル駆動ギヤ53が固定されている。
【0071】
ディファレンシャルギヤ5は、一対の軸受54で回転可能に支持されたデフケース55と、デフケース55の回転中心と同軸にデフケース55に固定され、ディファレンシャル駆動ギヤ53に噛合するリングギヤ56と、デフケース55の回転中心と直角な方向にデフケース55に固定されたピニオン軸57と、ピニオン軸57に回転可能に支持された一対のピニオン58と、その一対のピニオン58に噛合する左右一対のサイドギヤ59とからなる。左側のサイドギヤ59には、左側の車輪に接続されたアクスル60の軸端部が接続され、右側のサイドギヤ59には、右側の車輪に接続されたアクスル60の軸端部が接続されている。出力軸7が回転するとき、出力軸7の回転はディファレンシャル駆動ギヤ53を介してデフケース55に伝達され、そのデフケース55の回転がピニオン58とサイドギヤ59を介して左右の車輪に分配される。
【0072】
以下に、車両用モータ駆動装置Aの動作例を説明する。
【0073】
まず、図9に示すように、1速摩擦板36Aが1速出力ギヤ9Aの側面から離反し、かつ、2速摩擦板36Bも2速出力ギヤ9Bの側面から離反した状態では、1速保持器は1速スイッチばね21Aのばね力により中立位置に保持され、2速保持器20Bも2速スイッチばね21Bのばね力により中立位置に保持されるので、1速の2ウェイローラクラッチ15Aはローラ19の係合が解除された状態となり、2速の2ウェイローラクラッチ15Bもローラ19の係合が解除された状態となる。
【0074】
この状態では、図3に示す電動モータ3の回転軸3aが回転し、入力軸6が回転しても、1速の2ウェイローラクラッチ15Aと2速の2ウェイローラクラッチ15Bによって回転の伝達が遮断されるので、1速出力ギヤ9Aおよび2速出力ギヤ9Bは空転し、入力軸6の回転は出力軸7に伝達されない。
【0075】
次に、シフト機構43を作動させて、図9に示すシフトリング35を1速出力ギヤ9Aに向けて移動させると、1速摩擦板36Aが1速出力ギヤ9Aの側面に接触し、その接触面間の摩擦力によって1速摩擦板36Aが出力軸7に対して相対回転するので、1速摩擦板36Aに回り止めされた1速保持器20Aが中立位置から係合位置に移動し、1速保持器20Aに保持されたローラ19が円筒面16とカム面18の間のくさび形空間の狭小部分に押し込まれ、1速の2ウェイローラクラッチ15Aが係合した状態となる。
【0076】
この状態では、1速出力ギヤ9Aの回転は、1速の2ウェイローラクラッチ15Aを介して出力軸7に伝達され、出力軸7の回転が、ディファレンシャルギヤ5を介してアクスル60に伝達される。その結果、図1に示す電気自動車EVにおいては、駆動輪としての前輪1が回転駆動され、図2に示すハイブリッド自動車においては補助駆動輪としての後輪2が回転駆動される。
【0077】
次に、シフト機構43の作動により、シフトリング35を1速シフト位置から2速シフト位置に向かって軸方向移動させると、1速摩擦板36Aと1速出力ギヤ9Aの接触面間の摩擦力が小さくなるので、1速スイッチばね21Aのばね力により1速保持器20Aが係合位置から中立位置に移動し、この1速保持器20Aの移動によって1速の2ウェイローラクラッチ15Aの係合が解除される。
【0078】
シフトリング35が2速シフト位置に到達すると、2速摩擦板36Bがシフトリング35で押圧されて2速出力ギヤ9Bの側面に接触するので、その接触面間の摩擦力によって2速摩擦板36Bが出力軸7に対して相対回転し、2速摩擦板36Bに回り止めされた2速保持器20Bが中立位置から係合位置に移動し、この2速保持器20Bの移動によって2速の2ウェイローラクラッチ15Bが係合した状態となる。
【0079】
この状態では、2速出力ギヤ9Bの回転は、2速の2ウェイローラクラッチ15Bを介して出力軸7に伝達され、出力軸7の回転がディファレンシャルギヤ5を介してアクスル60に伝達される。
【0080】
同様に、シフトリング35を2速シフト位置から1速シフト位置に軸方向移動させることにより、2速の2ウェイローラクラッチ15Bの係合を解除して、1速の2ウェイローラクラッチ15Aを係合させることができる。
【0081】
ここで、シフトリング35で1速摩擦板36Aを押圧して1速出力ギヤ9Aの側面に接触させるとき、1速摩擦板36Aの案内ボス部38がシフトリング35内に嵌合しているので、1速摩擦板36Aは安定した姿勢で1速出力ギヤ9Aの側面に接触する。2速摩擦板36Bについても同様である。そのため、この車両用モータ駆動装置Aは、安定したタイミングで次変速段の2ウェイローラクラッチ15A(または15B)を係合させることが可能である。
【0082】
また、この車両用モータ駆動装置Aは、2速摩擦板36Bの案内ボス部38の反対側に、2速摩擦板36Bのフランジ部37と2速離反ばね40Bとが軸直角方向に重なる配置となるように2速離反ばね40Bを収容する2速離反ばね収容凹部42Bを設けているので、2速離反ばね収容凹部42Bが無い場合と比べて、2速離反ばね40Bが2速離反ばね収容凹部42Bに入り込む分、2速摩擦板36Bまわりの軸方向長さが短い。同様に、1速離反ばね40Aが1速離反ばね収容凹部42Aに入り込む分、1速摩擦板36Aまわりの軸方向長さも短い。そのため、装置全体の軸方向長さが短く、コンパクトである。
【0083】
また、この車両用モータ駆動装置Aは、シフトフォーク47と環状溝46の間の両側の軸方向隙間に、軸方向に圧縮可能な予圧ばね52を組み込んでいるので、シフトリング35で1速摩擦板36Aを押圧して1速出力ギヤ9Aの側面に接触させるときに、シフトスリーブ45に対するシフトフォーク47の軸方向の相対位置を調節することによって予圧ばね52のばね力を調節し、1速摩擦板36Aと1速出力ギヤ9Aの接触面間の摩擦力を調整することが可能である。同様に、シフトリング35で2速摩擦板36Bを押圧して2速出力ギヤ9Bの側面に接触させるときも、2速摩擦板36Bと2速出力ギヤ9Bの接触面間の摩擦力を調整することが可能である。そのため、次変速段の2ウェイローラクラッチ15A(または15B)の係合タイミングを高い精度で調節することが可能である。
【0084】
また、この車両用モータ駆動装置Aは、2速保持器20Bをスライド可能に支持する2速保持器案内面25Bに潤滑油の油出口が直接開口しているので、2速保持器20Bの移動抵抗が極めて小さく、係合位置と中立位置の間で2速保持器20Bが移動するときの2速保持器20Bの動作が安定している。同様に、1速保持器20Aをスライド可能に支持する1速保持器案内面25Aにも潤滑油の油出口が直接開口しているので、1速保持器20Aの動作も安定している。
【0085】
ところで、2速離反ばね40Bは、図11に示す2速ワッシャ41Bを介さずに、2速カム部材17Bの軸方向端面で直接支持することも可能であるが、このようにすると、2速カム部材17Bの軸方向端面には、2速スイッチばね21Bの延出部28,28が挿入される径方向溝30があるので、その径方向溝30の位置で2速離反ばね40Bが支持されず、2速離反ばね40Bのばね力の分布が周方向で不均一となり、その結果、2速摩擦板36Bが2速出力ギヤ9Bの側面に接触したときの接触面間の摩擦力も周方向で不均一となり、次変速段の2ウェイローラクラッチ15A(または15B)の係合タイミングが不安定となる可能性がある。
【0086】
これに対し、上記車両用モータ駆動装置Aは、2速カム部材17Bの軸方向端面に2速ワッシャ41Bを設けているので、2速離反ばね40Bが2速ワッシャ41Bを介して全周にわたって支持され、2速離反ばね40Bのばね力の分布が周方向で均一となり、その結果、2速摩擦板36Bが2速出力ギヤ9Bの側面に接触したときの接触面間の摩擦力も周方向で均一となる。1速カム部材17Aの軸方向端面に設けた1速ワッシャ41Aについても同様である。そのため、次変速段の2ウェイローラクラッチ15A(または15B)の係合タイミングが安定したものとなる。
【0087】
また、この車両用モータ駆動装置Aは、1速出力ギヤ9Aの1速入力ギヤ8Aと実際に噛合する部分が軸受14Aと軸直角方向に重なる配置なので、1速の2ウェイローラクラッチ15Aが係合解除した状態で1速出力ギヤ9Aが空転するときに、軸受14Aを傾斜させるモーメント荷重が作用しにくく、軸受14Aの動力損失が低い。同様に、2速出力ギヤ9Bの2速入力ギヤ8Bと実際に噛合する部分が軸受14Bと軸直角方向に重なる配置なので、2速出力ギヤ9Bを支持する軸受14Bの動力損失が低い。
【0088】
また、この車両用モータ駆動装置Aは、2速保持器20Bが軸方向の両端で支持されている。すなわち、2速保持器20Bの一端の内向きフランジ部24が2速保持器案内面25Bで支持され、2速保持器20Bの他端が2速摩擦板36Bの円弧状の開口部39の周縁で支持されている。そのため、2速保持器20Bが中立位置と係合位置の間で周方向に移動するときに、2速保持器20Bがこじれることなく円滑に移動する。1速保持器20Aについても同様である。
【0089】
なお、この車両用モータ駆動装置Aを組み立てるに際しては、図10に示すように、出力軸7上の各部品(1速出力ギヤ9A、2速出力ギヤ9Bなど)を予め出力軸7に組み付けて出力軸ユニット61を形成し、その出力軸ユニット61の状態で出荷・搬送などを行ない、最終工程で出力軸ユニット61をハウジング10に組み付けるようにすると、組立作業性が向上する。
【符号の説明】
【0090】
1 前輪
2 後輪
3 電動モータ
5 ディファレンシャルギヤ
6 入力軸
7 出力軸
8A 1速入力ギヤ
8B 2速入力ギヤ
9A 1速出力ギヤ
9B 2速出力ギヤ
14A,14B 軸受
15A 1速の2ウェイローラクラッチ
15B 2速の2ウェイローラクラッチ
16 円筒面
17A 1速カム部材
17B 2速カム部材
18 カム面
19 ローラ
20A 1速保持器
20B 2速保持器
21A 1速スイッチばね
21B 2速スイッチばね
22 ポケット
23 円筒部
24 内向きフランジ部
25A 1速保持器案内面
25B 2速保持器案内面
26 給油通路
27 C形環状部
28 延出部
29 スイッチばね収容凹部
30 径方向溝
31 切欠き
34 変速アクチュエータ
35 シフトリング
36A 1速摩擦板
36B 2速摩擦板
37 フランジ部
38 案内ボス部
40A 1速離反ばね
40B 2速離反ばね
41A 1速ワッシャ
41B 2速ワッシャ
42A 1速離反ばね収容凹部
42B 2速離反ばね収容凹部
43 シフト機構
44 転がり軸受
45 シフトスリーブ
46 環状溝
47 シフトフォーク
49 シフトモータ
52 予圧ばね
A 車両用モータ駆動装置
E エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(3)と、
その電動モータ(3)の回転が入力される入力軸(6)と、
その入力軸(6)に対して間隔をおいて平行に配置された出力軸(7)と、
前記入力軸(6)に設けられた第1入力ギヤ(8A)および第2入力ギヤ(8B)と、
前記出力軸(7)に設けられ、前記第1入力ギヤ(8A)および第2入力ギヤ(8B)にそれぞれ噛合する第1出力ギヤ(9A)および第2出力ギヤ(9B)と、
前記出力軸(7)の回転を左右の車輪に分配するディファレンシャルギヤ(5)とを有し、
前記第1入力ギヤ(8A)と第2入力ギヤ(8B)と入力軸(6)の組と、前記第1出力ギヤ(9A)と第2出力ギヤ(9B)と出力軸(7)の組とのうち一方を、第1クラッチギヤ(9A)と第2クラッチギヤ(9B)とこれらのクラッチギヤ(9A,9B)を軸受(14A,14B)を介して回転可能に支持するクラッチギヤ支持軸(7)とし、
前記第1クラッチギヤ(9A)とクラッチギヤ支持軸(7)との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第1の2ウェイローラクラッチ(15A)と、前記第2クラッチギヤ(9B)とクラッチギヤ支持軸(7)との間でトルクの伝達と遮断の切換えを行なう第2の2ウェイローラクラッチ(15B)と、前記第1の2ウェイローラクラッチ(15A)と第2の2ウェイローラクラッチ(15B)とを選択的に係合させる変速アクチュエータ(34)を設け、
前記第1の2ウェイローラクラッチ(15A)は、第1クラッチギヤ(9A)の内周とクラッチギヤ支持軸(7)の外周のうち一方に設けられた円筒面(16)と、他方に設けられたカム面(18)と、そのカム面(18)と前記円筒面(16)の間に組み込まれたローラ(19)と、そのローラ(19)を保持し、前記カム面(18)と円筒面(16)の間にローラ(19)を係合させる係合位置とローラ(19)の係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸(7)に対して相対回転可能に設けられた第1保持器(20A)と、その第1保持器(20A)を前記中立位置に弾性保持する第1スイッチばね(21A)とからなり、
前記第2の2ウェイローラクラッチ(15B)は、第2クラッチギヤ(9B)の内周とクラッチギヤ支持軸(7)の外周のうち一方に設けられた円筒面(16)と、他方に設けられたカム面(18)と、そのカム面(18)と前記円筒面(16)の間に組み込まれたローラ(19)と、そのローラ(19)を保持し、前記カム面(18)と円筒面(16)の間にローラ(19)を係合させる係合位置とローラ(19)の係合を解除する中立位置との間で前記クラッチギヤ支持軸(7)に対して相対回転可能に設けられた第2保持器(20B)と、その第2保持器(20B)を前記中立位置に弾性保持する第2スイッチばね(21B)とからなり、
前記変速アクチュエータ(34)は、前記第1保持器(20A)に対して回り止めされかつ前記第1クラッチギヤ(9A)の側面に接触する位置と離反する位置との間で第1保持器(20A)に対して軸方向に移動可能に設けられた第1摩擦板(36A)と、その第1摩擦板(36A)を前記第1クラッチギヤ(9A)の側面から離反する方向に付勢する第1離反ばね(40A)と、前記第2保持器(20B)に対して回り止めされかつ前記第2クラッチギヤ(9B)の側面に接触する位置と離反する位置との間で前記第2保持器(20B)に対して軸方向に移動可能に設けられた第2摩擦板(36B)と、その第2摩擦板(36B)を前記第2クラッチギヤ(9B)の側面から離反する方向に付勢する第2離反ばね(40B)と、前記第1摩擦板(36A)を押圧して前記第1クラッチギヤ(9A)の側面に接触させる第1シフト位置と前記第2摩擦板(36B)を押圧して前記第2クラッチギヤ(9B)の側面に接触させる第2シフト位置との間で軸方向に移動可能に設けられたシフトリング(35)と、そのシフトリング(35)を軸方向に移動させるシフト機構(43)とからなり、
前記第1摩擦板(36A)は、前記第1クラッチギヤ(9A)の側面に対向して配置されたフランジ部(37)と、そのフランジ部(37)から前記シフトリング(35)に向けて軸方向に突出して形成され、前記シフトリング(35)内に周方向にスライド可能に嵌合する案内ボス部(38)とを有し、
前記第2摩擦板(36B)は、前記第2クラッチギヤ(9B)の側面に対向して配置されたフランジ部(37)と、そのフランジ部(37)から前記シフトリング(35)に向けて軸方向に突出して形成され、前記シフトリング(35)内に周方向にスライド可能に嵌合する案内ボス部(38)とを有する車両用モータ駆動装置。
【請求項2】
前記第1摩擦板(36A)の案内ボス部(38)の反対側に、前記第1摩擦板(36A)のフランジ部(37)と前記第1離反ばね(40A)とが軸直角方向に重なる配置となるように第1離反ばね(40A)を収容する第1離反ばね収容凹部(42A)を設け、前記第2摩擦板(36B)の案内ボス部(38)の反対側に、前記第2摩擦板(36B)のフランジ部(37)と前記第2離反ばね(40B)とが軸直角方向に重なる配置となるように第2離反ばね(40B)を収容する第2離反ばね収容凹部(42B)を設けた請求項1に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項3】
前記シフト機構(43)は、前記シフトリング(35)を転がり軸受(44)を介して回転可能に支持するシフトスリーブ(45)と、そのシフトスリーブ(45)の外周に設けられた環状溝(46)に係合する二股状のシフトフォーク(47)と、そのシフトフォーク(47)を軸方向に駆動するシフトモータ(49)とを有し、前記シフトフォーク(47)と環状溝(46)の間の両側の軸方向隙間には軸方向に圧縮可能な予圧ばね(52)が組み込まれている請求項1または2に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項4】
前記第1保持器(20A)は、前記ローラ(19)を収容する複数のポケット(22)が周方向に間隔をおいて形成された円筒部(23)と、その円筒部(23)の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部(24)とを有し、前記クラッチギヤ支持軸(7)の外周には、前記第1保持器(20A)の内向きフランジ部(24)の径方向内端を周方向にスライド可能に支持する第1保持器案内面(25A)が形成され、
前記第2保持器(20B)は、前記ローラ(19)を収容する複数のポケット(22)が周方向に間隔をおいて形成された円筒部(23)と、その円筒部(23)の一端から径方向内方に延び出す内向きフランジ部(24)とを有し、前記クラッチギヤ支持軸(7)の外周には、前記第2保持器(20B)の内向きフランジ部(24)の径方向内端を周方向にスライド可能に支持する第2保持器案内面(25B)が形成され、
前記クラッチギヤ支持軸(7)の内部を通る給油通路(26)を設け、その給油通路(26)の油出口を前記第1保持器案内面(25A)と第2保持器案内面(25B)とにそれぞれ開口させた請求項1から3のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項5】
前記第1保持器案内面(25A)を、第1の2ウェイローラクラッチ(15A)のローラ(19)と第1クラッチギヤ(9A)を支持する軸受(14A)との間に配置し、前記第2保持器案内面(25B)を、第2の2ウェイローラクラッチ(15B)のローラ(19)と第2クラッチギヤ(9B)を支持する軸受(14B)との間に配置した請求項4に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項6】
前記第1スイッチばね(21A)は、鋼線をC形に巻いたC形環状部(27)と、C形環状部(27)の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部(28)とからなり、前記第1の2ウェイローラクラッチ(15A)のカム面(18)は、前記クラッチギヤ支持軸(7)の外周に回り止めされた環状の第1カム部材(17A)に形成され、その第1カム部材(17A)の軸方向端面には、前記第1スイッチばね(21A)のC形環状部(27)が嵌り込む円形のスイッチばね収容凹部(29)と、前記第1スイッチばね(21A)の一対の延出部(28)が径方向に貫通して挿入される径方向溝(30)とが設けられ、前記第1保持器(20A)には、前記第1スイッチばね(21A)の一対の延出部(28)の前記径方向溝(30)からの突出部分が挿入される切欠き(31)が設けられ、前記第1カム部材(17A)の軸方向端面に前記径方向溝(30)を覆う環状の第1ワッシャ(41A)が設けられ、その第1ワッシャ(41A)を介して前記第1離反ばね(40A)が前記第1カム部材(17A)の軸方向端面で支持され、
前記第2スイッチばね(21B)は、鋼線をC形に巻いたC形環状部(27)と、C形環状部の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部(28)とからなり、前記第2の2ウェイローラクラッチ(15B)のカム面(18)は、前記クラッチギヤ支持軸(7)の外周に回り止めされた環状の第2カム部材(17B)に形成され、その第2カム部材(17B)の軸方向端面には、前記第2スイッチばね(21B)のC形環状部(27)が嵌り込む円形のスイッチばね収容凹部(29)と、前記第2スイッチばね(21B)の一対の延出部(28)が径方向に貫通して挿入される径方向溝(30)とが設けられ、前記第2保持器(20B)には、前記第2スイッチばね(21B)の一対の延出部(28)の前記径方向溝(30)からの突出部分が挿入される切欠き(31)が設けられ、前記第2カム部材(17B)の軸方向端面に前記径方向溝(30)を覆う環状の第2ワッシャ(41B)が設けられ、その第2ワッシャ(41B)を介して前記第2離反ばね(40B)が前記第2カム部材(17B)の軸方向端面で支持されている請求項1から5のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項7】
前記第1カム部材(17A)のカム面(18)と前記第2カム部材(17B)のカム面(18)とを同数かつ同位相とし、前記第1カム部材(17A)と第2カム部材(17B)の前記クラッチギヤ支持軸(7)に対する回り止めをスプライン嵌合により行なった請求項6に記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項8】
第1クラッチギヤ(9A)は、その噛合する歯幅が、第1クラッチギヤ(9A)を支持する前記軸受(14A)と軸直角方向に重なるように形成され、第2クラッチギヤ(9B)も、その噛合する歯幅が、第2クラッチギヤ(9B)を支持する前記軸受(14B)と軸直角方向に重なるように形成された請求項1から7のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置。
【請求項9】
左右一対の前輪(1)と左右一対の後輪(2)のうち少なくとも一方を請求項1から8のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置で駆動するようにした電気自動車。
【請求項10】
左右一対の前輪(1)と左右一対の後輪(2)のうち一方をエンジン(E)で駆動し、他方を請求項1から8のいずれかに記載の車両用モータ駆動装置で駆動するようにしたハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−197912(P2012−197912A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63868(P2011−63868)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】