説明

車両用レーダ装置

【課題】受信波形と基準波形との差分に基づいて測距を行う際に、車両周囲の環境が変化しても正確な測距を維持可能とする。
【解決手段】受信波形サンプル部51で受信波形信号を所定時間間隔でサンプリングする。この受信波形のサンプリング間隔は、車速に応じて設定されることが望ましい。サンプリングされた受信波形信号は、基準波形取得部52で所定数集められて統計処理され、この統計処理された波形信号が基準波形信号として取得される。この統計処理による基準波形の取得は、車両走行中に繰り返して実行され、最新の基準波形で現在保持している基準波形が更新される。これにより、車両周囲の環境が変化しても正確な測距を維持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両外部へレーダ波を送信し、車両周囲に存在する物体で反射された反射波を受信して測距を行う車両用レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なパルスレーダ装置は、送信したパルス信号が測距対象となるターゲットで反射されて受信されるまでの往復伝播時間に基づいて距離を算出している。例えば、特許文献1には、パルスを広帯域で外部へ送信し、広帯域で受信した受信波形を広帯域のサンプリングパルスでサンプリングするパルスレーダ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平10−511182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーダ装置で測距に必要な受信波形は、測距対象となるターゲットで反射された波形のみであるが、実際には、送信アンテナから直接受信アンテナに飛び込んでくるパルス波形等を含めた測距対象のターゲット以外の反射波が重畳された波形が受信される。
【0005】
従って、これらのターゲット以外の影響による波形を予め基準波形として保有しておき、受信波形(入力波形)と基準波形との差分を取ることで、正確な測距を行う方式が知られている。
【0006】
しかしながら、車両に搭載されるレーダ装置では、走行中に車両周囲の環境が大きく変化し、路面形状の変化やマンホール或いはジョイント等の出現による測距対象以外の反射波が大きく変化する。このため、事前に想定した基準波形を予め保有するのみでは、正確な測距を維持することは困難である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、受信波形と基準波形との差分に基づいて測距を行う際に、車両周囲の環境が変化しても正確な測距を維持可能とする車両用レーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明による車両用レーダ装置は、車両外部へ送信したレーダ波が物体で反射した反射波を受信波形として受信し、この受信波形と基準波形との差分に基づいて上記物体に対する測距を行う車両用レーダ装置であって、車両走行時に上記受信波形を所定の間隔でサンプリングする受信波形サンプル部と、上記受信波形サンプル部でサンプリングした上記受信波形を統計処理して上記基準波形を取得する基準波形取得部と、上記基準波形取得部で取得した基準波形で現在保持している基準波形を更新する基準波形更新部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、受信波形と基準波形との差分に基づいて測距を行う際に、走行中に所定間隔でサンプリングした受信波形を統計処理して基準波形を取得し、現在保持している基準波形を更新するため、車両周囲の環境が変化しても正確な測距を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】車両用レーダ装置の構成図
【図2】差分波形の説明図
【図3】基準波形取得機能のブロック図
【図4】基準波形取得処理のフローチャート
【図5】車速とサンプリング間隔との関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は、自動車等の車両に搭載されて車両周囲に存在する物体100までの距離を測定する車両用レーダ装置(以下、単に「レーダ装置」と記載)である。このレーダ装置1は、送信アンテナ2a,受信アンテナ2b,及び信号処理回路ユニット5を備えたレーダユニット20と、レーダユニット20を制御して測距処理等を行うコントロールユニット50とを基本として構成されている。
【0012】
尚、図1においては、送信アンテナ2aと受信アンテナ2bとが分離している送信・受信アンテナ分離型の装置を示しているが、送信アンテナ2aと受信アンテナ2bとが一体であっても良い。また、図1においては、一つのレーダユニット20を示しているが、レーダユニット20の数は実際の自動車への適用に応じた数となる。複数のレーダユニット20を車載する場合には、コントロールユニット50で制御対象とするレーダユニット20を切換えながら測距を行う。
【0013】
信号処理回路ユニット5は、図1においては周知の等価時間サンプリング方式を採用した例を示している。すなわち、信号処理回路ユニット5は、パルス生成部6、バンドパスフィルタ(BPF)7、掃引波形生成部8、時間掃引パルス生成部9、バンドパスフィルタ10、サンプル/ホールド(S/H)回路11、ローパスフィルタ(LPF)12、アンプ13を備えて構成されている。
【0014】
パルス生成部6は、コントロールユニット50から供給されるクロック信号CLK1に同期して、所定周波数の送信パルスを生成する。この送信パルスは、バンドパスフィルタ(BPF)7で所定の周波数帯域に制限され、送信アンテナ2aから車両外部にレーダ波として送信される。
【0015】
掃引波形生成部8は、コントロールユニット50から供給されるフレーム毎のタイミング信号CLK2をトリガとして、送信パルスを周波数掃引するための波形(例えばランプ波等)を有する掃引信号を生成する。この掃引信号は、時間掃引パルス生成部9に入力される。
【0016】
時間掃引パルス生成部9は、コントロールユニット50からのクロック信号CLK1に同期して、掃引波形生成部8から出力される掃引信号に基づいて、送信パルスに対して所定量ずつ遅延させた時間掃引パルスを生成する。この時間掃引パルスは、サンプル/ホールド回路11に入力される。
【0017】
サンプル/ホールド回路11は、時間掃引パルスをトリガとして、受信アンテナ2bで受信されてバンドパスフィルタ10によりノイズを除去された受信信号を一時的にホールドし、サンプリングする。このときのサンプリング波形は、受信アンテナ2bで受信した波形を時間軸上で伸張した波形となる(等価時間サンプリング)。
【0018】
この等価時間サンプリングされた受信波形は、ローパスフィルタ12へ通され、高周波ノイズがカットされる。更に、ローパスフィルタ12を通過した信号がアンプ13で所定の出力レベルに増幅され、コントロールユニット50に入力される。
【0019】
コントロールユニット50は、レーダユニット20を用いた測距システムの中心構成をなすものである。コントロールユニット50には、マイクロプロセッサを中心として、クロック信号やタイミング信号を信号処理回路ユニット5へ出力する周辺回路、信号処理回路ユニット5から入力されるアナログ信号(アンプ13からの信号)をデジタル信号に変換するA/D変換器等が備えられている。
【0020】
コントロールユニット50は、クロック信号やタイミング信号を信号処理回路ユニット5へ供給すると共に、信号処理回路ユニット5で処理した受信信号に基づいて車両外部に存在する物体までの距離を算出する測距処理を主として行う。この測距処理は、図2に実線で示すような差分波形に基づいて行われる。
【0021】
すなわち、コントロールユニット50は、図2に一点鎖線で示すベースバンド波形を基準波形として保持している。そして、この基準波形と、受信アンテナ2b及び信号処理回路ユニット5を介して取得した受信波形(図2中に破線で示す波形)との差分波形を算出し、この差分波形に基づいて測距を行う。
【0022】
尚、図2における受信波形は、1フレーム分(1周期分)の波形を、サンプル数200、8ビットの分解能でA/D変換したデータを示している。1フレームの周期は、例えば20〜40msec程度である。
【0023】
また、差分波形を算出する際の受信波形としては、受信アンテナ2b及び信号処理回路ユニット5を介して取得した生の波形を用いても良いが、ノイズ等の影響を更に低減させるため、複数の生波形を統計処理した波形を受信波形として扱うようにしても良い。
【0024】
差分波形に基づく測距は、差分波形の全体的な大きさによる絶対平均値ベースによる一般的な手法や、その他の各種手法を用いて行うことができる。その際、コントロールユニット50が保持する基準波形として、車両外部環境に測定対象となる物体が存在しない状況での反射波形を取得することで、測距が可能となる。例えば、測定対象となる物体が存在しない標準的な路面状況での反射波形等を、オフラインの実験或いはシミュレーションによって取得し、予めメモリに書き込んでおく、若しくは出荷時検査時に1台毎に適した値を書き込むことで、測距が可能となる。
【0025】
しかしながら、システム内に予め基準波形を保持する上述の手法では、標準的な路面状況等でしか正確な測距が行われない虞がある。このため、コントロールユニット50は、図3に示すように、基準波形を取得するための機能として、受信波形サンプル部51と基準波形取得部52と基準波形更新部52とを備え、走行時に基準波形を学習しながら取得する。
【0026】
受信波形サンプル部51は、信号処理回路ユニット5のアンプ13から出力される受信波形信号(計測波形信号)を、所定時間間隔でサンプリングする。この計測波形信号のサンプリング間隔は、受信波形の1フレーム分よりもはるかに長い間隔、例えば、2sec間隔に設定されている。
【0027】
この場合、計測波形のサンプリングは、予め一定に定めた間隔で行っても良いが、車両の走行速度に応じてサンプリング間隔を可変することが望ましい。すなわち、車両が低速で走っている間は、距離の短い路面状況のサンプリングを行うことになり、高速で走っている場合は、長い距離の路面状況のサンプリングを行うことになる。従って、車速に応じて基準波形の取得タイミングを変えることで、車速によらず一定の路面長のサンプリングを行うことができる。
【0028】
基準波形取得部52は、受信波形サンプル部51でサンプリングした計測波形信号を所定数集めて統計処理し、この統計処理した波形信号を基準波形信号として、図示しない測距処理部に送る。この統計処理による基準波形の取得は、平均値抽出、中央値抽出、最頻値抽出の何れかによって行い、車両走行中に繰り返して実行される。例えば、受信波形が2秒間隔でサンプリングされるとき、それを8個(14秒間)集めて平均化し、その平均化した波形を基準波形とする。
【0029】
基準波形更新部53は、現在保持している基準波形を、基準波形取得部52で取得した最新の基準波形で更新する。例えば、2秒間隔で受信波形がサンプリングされ、サンプリング数8個の平均値(移動平均値)を基準波形とするとき、基準波形は2秒間隔で更新されることになる。
【0030】
但し、以下の(1),(2)に示す条件が成立するときには、基準波形の更新を停止することが望ましい。
【0031】
(1)現在の基準波形と計測波形のフレーム間の差分値が閾値を超えたとき
現在の基準波形と計測波形のフレーム間の差分値が大きくなったときには、物体の接近による検出状態であることが予想される。このとき、基準波形を更新してしまうと、せっかく物体検出状態となっても、統計処理によって差分値が小さくなり、物体を検出できなくなる虞がある。そのため、予め物体の存在を示す閾値を設定しておき、差分波形がこの閾値を超えたときには基準波形の更新を行わないことで、物体を見失うことを防止することができる。
【0032】
(2)車両停止時
車両が動いていない状態では、基準信号は更新する必要がなく、それに対して計測波形変化する場合は、車両周辺の物体が変化したことが推定される。従って、車輪速センサ等の車速信号から車両の停止状態を検出した場合、車両停止状態直前の基準波形を保持し、更新を停止する。これにより、基準波形を更新してしまうことによる誤判定を防止することが可能となる。
【0033】
また、基準波形更新部53は、システムが停止される前に、基準波形データをフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリに記憶しておく。そして、次回のシステム起動時にメモリから読み出し、読み出した基準波形をシステム起動時の初期値とする。すなわち、システム起動時には基準波形は未取得であるため、前回のシステム停止時に記憶した基準波形を読み出すことで、システム起動時からの正確な物体検出を可能とする。
【0034】
尚、ここでのシステム停止時とは、レーダユニット20及びコントロールユニット50への電源がオフされて測距動作が停止したとき、或いは電源は供給されていてもコントロールユニット50がスタンバイ状態で測距動作を停止しているときである。このシステム停止時には、各種データの退避処理等が実行された後に動作停止となる。一方、システム起動時とは、レーダユニット20及びコントロールユニット50へ電源が供給されて測距動作を開始したとき、或いはコントロールユニット50がスタンバイ状態から復帰して測距動作を開始したときである。
【0035】
以上のコントロールユニット50における基準波形の取得に係る処理は、例えば、図4のフローチャートで示すプログラム処理によって実施される。次に、この基準波形取得のプログラム処理について説明する。
【0036】
図4に示すプログラム処理は、システムが起動してイニシャライズされた後、実行される処理である。先ず、最初のステップS1において、前回のシステム停止時に記憶した基準波形を読み出し、システム起動後の初期の基準波形として物体検出を可能とする。
【0037】
次いで、ステップS2へ進み、車両が停車状態であるか否かを車輪速センサ等の信号に基づいて判断する。その結果、車両が走行中であるときには、ステップS2からステップS3へ進み、車速に応じて受信波形を所定のサンプル数だけ確保するためのサンプリング間隔を設定する。
【0038】
例えば、走行距離100mの間にサンプル数8個を確保する場合、図5に示すように、車速Vとサンプリング間隔Sとの関係をマップ化しておく。そして、このマップを参照して車速Vに対応するサンプリング間隔Sを設定する。
【0039】
ステップS3に続くステップS4では、サンプリング間隔Sで受信波形をサンプリングする。そして、ステップS5で現在の基準波形と受信波形との差分値が物体の存在を示す閾値を超えているか否かを判断する。その結果、差分値が閾値を超えている場合には、ステップS6で現在の基準波形を保持したまま基準波形の更新を停止し、ステップS2へ戻る。
【0040】
一方、ステップS5で差分値が閾値を超えていない場合には、ステップS7で所定のサンプル数(例えば、8個)の受信波形を統計処理(ここでは平均化)し、基準波形として取得する。そして、ステップS8において、現在保持している基準波形を新たに取得した基準波形で更新し、ステップS2へ戻る。
【0041】
その後、ステップS2で車両が停止したことを検知した場合、ステップS2からステップS9へ分岐し、システム停止か否かを判断する。システム停止でない場合には、ステップS10でシステム停止前に最後に更新した基準波形を保持したまま、基準波形の更新を停止し、ステップS2へ戻る。一方、システム停止の場合には、ステップS11で現在の基準波形をフラッシュメモリ等に記憶し、また、その他の退避処理を行って本処理を終了する。
【0042】
以上のように、本実施の形態においては、受信波形と基準信号との差分により測距を行う際に、走行中に所定間隔でサンプリングした受信波形を統計処理して基準信号を取得し、常に最新の値に更新する。これにより、車両周囲の環境が大きく変化しても、環境の変化に対応した基準信号を用いて測距を行うことができ、正確な測距を維持することが可能となる。
【0043】
また、その際に、車速に応じて受信波形をサンプリングするタイミングを変えることにより、一定の路面長における基準信号を取得することができる。この基準信号は、物体検出時や車両停止時には更新しないことで、物体の未検出や誤判定を防止することができる。更に、システム起動時には、システム停止前に記憶した基準波形を用いることで、システム起動時からの正確な物体検出が可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 レーダ装置
20 レーダユニット
50 コントロールユニット
51 受信波形サンプル部
52 基準波形取得部
53 基準波形更新部
100 物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両外部へ送信したレーダ波が物体で反射した反射波を受信波形として受信し、この受信波形と基準波形との差分に基づいて上記物体に対する測距を行う車両用レーダ装置であって、
車両走行時に上記受信波形を所定の間隔でサンプリングする受信波形サンプル部と、
上記受信波形サンプル部でサンプリングした上記受信波形を統計処理して上記基準波形を取得する基準波形取得部と、
上記基準波形取得部で取得した基準波形で現在保持している基準波形を更新する基準波形更新部と
を備えることを特徴とする車両用レーダ装置。
【請求項2】
上記受信波形サンプル部は、上記受信波形をサンプリングする間隔を車速に応じて可変することを特徴とする請求項1記載の車両用レーダ装置。
【請求項3】
上記基準波形更新部は、上記受信波形と上記基準波形との差分値が所定の閾値を超えたとき、上記基準波形の更新を停止することを特徴とする請求項1又は2記載の車両用レーダ装置。
【請求項4】
上記基準波形更新部は、車両停止前に取得された上記基準波形を保持し、車両停止時には上記基準波形の更新を停止することを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の車両用レーダ装置。
【請求項5】
上記基準波形更新部は、システム停止前に上記基準波形を記憶し、この記憶した基準波形を次回のシステム起動時の基準波形とすることを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の車両用レーダ装置。
【請求項6】
上記統計処理は、平均値抽出、中央値抽出、最頻値抽出の何れかであることを特徴とする請求項1〜5の何れか一に記載の車両用レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−203788(P2010−203788A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46544(P2009−46544)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】