説明

車両用乗降扉の電気式戸閉装置

【課題】乗降扉全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくし、走行時の騒音や雨水の浸入がない、快適な車内環境を提供すること。
【解決手段】鎖錠装置にモーター15と直結した電磁ブレーキ17を使用することで、モーター軸16を任意の角度で制動することが可能になり、その結果モーター軸16にボールネジ9を介して接続された乗降扉1a,1bを任意の位置で鎖錠することが出来る。また、モーター軸16と電磁ブレーキ軸18の接続部にワンウエイクラッチ19(1方向のみ回転可能な針状ころ軸受)を使用して、鎖錠後もモーター軸16を閉め方向の回転のみを可能にすることで、乗降扉の慣性力を利用して、鎖錠のタイミングが若干早い場合にも、全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両用乗降扉の電気式戸閉装置に関するものである。
【0002】
本発明は、車両用乗降扉を自動開閉させる電気式戸閉装置で、全閉時に扉を鎖錠する際、乗降扉を任意の位置で鎖錠することを可能にして、乗降扉全閉後に左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことを特徴とするものである。
鎖錠装置にモーターと直結した電磁ブレーキを使用することで、モーター軸を任意の角度で制動することが可能になり、その結果モーター軸にボールネジを介して接続された乗降扉を任意の位置で鎖錠することができる電気式戸閉装置である。また、モーター軸と電磁ブレーキ軸の接続部にワンウエイクラッチ(1方向のみ回転可能な針状ころ軸受)を使用して、鎖錠後もモーター軸の戸閉め方向の回転のみを可能にすることで、扉も閉め方向にのみ移動出来るようになり、乗降扉の慣性力を利用して、鎖錠のタイミングが若干早い場合にも、全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことが出来る。
【背景技術】
【0003】
従来の電気式戸閉装置の鎖錠装置について、図2を参照しながら説明する。従来の鎖錠装置は、乗降扉左1aおよび乗降扉右1bの上部に設けたくさび挿入穴左25aおよびくさび挿入穴右25bに、乗降口上部の車体に取付けられた鎖錠装置26から、上下動可能なくさび左27aおよびくさび右27bを下降させて、くさび挿入穴左25aおよびくさび挿入穴右25bに挿入し、乗降扉左1aおよび乗降扉右1bを鎖錠していた。
このため、乗降扉左1aおよび乗降扉右1bの上部に設けたくさび挿入穴左25aおよびくさび挿入穴右25bは、くさび左27aおよびくさび右27bを抜き差しする必要があるため、くさびの寸法に対して、大きく明ける必要があった。この寸法差による隙間28は扉鎖錠時のガタ分になり、乗降扉全閉時に左右扉の戸先ゴム部に生じる隙間の原因となっていた。
また、この隙間を小さくするためには、手間の掛かる調整が必要であった。特開2003−148042号公報(たとえば特許文献1参照)にも、上記と類似の鎖錠装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−148042公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両用乗降扉を自動開閉させる電気式戸閉装置において、扉の鎖錠装置やその設置場所を工夫することで、扉を任意の位置で鎖錠することを可能にして、扉全閉後に左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明によれば、車両用乗降扉の電気式戸閉装置において、該車両用乗降扉の開閉駆動用のモーター軸に直結した電磁ブレーキを配設し、該モーター軸を任意の角度で制動することを可能にして、その結果前記モーター軸にボールネジを介して接続された前記車両用乗降扉を、任意の位置で鎖錠することができ、前記車両用乗降扉全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことができることを特徴とする。
【0007】
すなわち、車両用乗降扉を自動開閉させる電気式戸閉装置において、鎖錠装置にモーターと直結した電磁ブレーキを使用することで、モーター軸を任意の角度で制動することが可能になり、その結果モーター軸にボールネジを介して接続された扉を任意の位置で鎖錠できるようにすることである。さらに扉を任意の位置で鎖錠できるようにすることで、扉が全閉状態になった位置で鎖錠できるため、扉全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことができる。また手間の掛かる調整も不要である。
【0008】
請求項2の発明によれば、前記車両用乗降扉を鎖錠させる際、前記電磁ブレーキ内に具備される電磁ブレーキ軸と前記モーター軸の接続部にワンウエイクラッチ(1方向のみ回転可能な針状ころ軸受)を配設し、鎖錠後に前記モーター軸の戸閉め方向の回転のみを可能にして、前記車両用乗降扉を閉方向にのみ移動できるようにすることで、前記車両用乗降扉の慣性力を利用して、鎖錠のタイミングが若干早い場合にも、前記車両用乗降扉全閉後の左右扉間の前記戸先ゴム隙間をなくすことができることを特徴とする。
【0009】
すなわち、車両用乗降扉を自動開閉させる電気式戸閉装置において、電磁ブレーキでモーター軸に制動力を作用させる際、そのタイミングが合わず扉全閉直前に鎖錠された場合にも、左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすため、モーター軸と電磁ブレーキ軸の接続部にワンウエイクラッチ(1方向のみ回転可能な針状ころ軸受)を使用することである。
さらに モーター軸と電磁ブレーキ軸の接続部にワンウエイクラッチ(1方向のみ回転可能な針状ころ軸受)を使用して、鎖錠後もモーター軸の戸閉め方向の回転のみを可能にすることで、扉も閉め方向にのみ移動できるようになり、乗降扉の慣性力を利用して、鎖錠のタイミングが若干早い場合にも、全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1) 扉の鎖錠装置にモーターに直結した電磁ブレーキを使用することで、モーター軸を任意の角度で制動することが可能になり、その結果モーター軸にボールネジを介して接続された扉を、任意の位置で鎖錠することができ、扉全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことが、手間の掛かる調整なくして、可能になる。(請求項1の発明)
(2) モーター軸と電磁ブレーキ軸の接続部にワンウエイクラッチ(1方向のみ回転可能な針状ころ軸受)を使用して、鎖錠後もモーター軸の戸閉め方向の回転のみを可能にすることで、扉も閉め方向にのみ移動出来るようになり、乗降扉の慣性力を利用して、鎖錠のタイミングが若干早い場合にも、全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことができる。(請求項2の発明)
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本考案の電気式戸閉装置の構造図である。
【図2】従来の鎖錠装置を使用した電気式戸閉装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくす目的を、車両用乗降扉を自動開閉させる電気式戸閉装置において、扉の鎖錠装置やその設置場所を工夫することで、実現した。
【実施例1】
【0013】
本発明の実施例について、図1を参照しながら説明する。図1は車両用乗降扉を自動開閉させる本考案の電気式戸閉装置の構造図である。
電気式戸閉装置は、乗降扉左1aと扉連結金具左2aを介して、ピストン軸3で連結されていて、シリンダー4に組み込まれている。扉連結金具左2aは連結棒左5aとも連結されていて、連結棒左5aはベルト6の上側に取付けられている。ベルト6は左右2個のプーリー7a,7b間に張られていて、上側から下側に移動すると動く向きが180°変わり、上側と反対方向に動く。ベルト6の下側には連結棒右5bが取付けられていて、連結棒右5bは扉連結金具右2bを介して、乗降扉右1bに連結されている。図1において、ピストン軸3がシリンダー4に入る方向に動くと、それに連結された乗降扉1aは右方向に動き、ベルト6により動く向きを180°変えられた連結棒右5bに連結された乗降扉1bは左方向に動き、左右の乗降扉の隙間が小さくなり、扉全閉状態に至る。
ピストン軸3にはボールナット8が固定されていて、ボールナット8と組合わさるボールネジ9は、ピストン軸3の内部に挿入され、左側はスベリ軸受10によりピストン軸3内に保持され、右側は玉軸受11によりシリンダー支え右12に保持されている。シリンダー4はシリンダー支え右12とシリンダー支え左13により支持されている。ボールネジの右端は、継手14を介してモーター15のモーター軸16の左端に接続されている。モーター15は、左側をシリンダー支え右12に、右側を電磁ブレーキ17に固定されている。モーター軸は電磁ブレーキ軸17内を貫通して、その右端は電磁ブレーキ18とワンウエイクラッチ19を介して接続されている。電磁ブレーキ軸18は、電磁ブレーキ17が無加圧状態では制動状態になり、ブレーキライニング20で保持されている。
【0014】
乗降扉の開閉動作は、制御器23からの電磁ブレーキ配線22により電磁ブレーキ17が加圧されると、ブレーキが解除されブレーキライニング20と電磁ブレーキ軸28のディスク部にわずかな隙間が生じ、電磁ブレーキ軸28とモーター軸16が任意の方向に回転可能になる。次に制御器23からモーター配線21によりモーター15に電力が供給されると、モーター軸16が回転して、モーター軸16と継手14を介して接続されたボールネジ9にその回転が伝達される。ボールネジ9の回転は、ボールナット8の往復運動に変換され、その往復運動が、ピストン軸3や扉連結金具左2a,連結棒左5a,ベルト6,連結棒右5b,扉連結金具右2bにより、左右の乗降扉1a,1bに伝達され、開閉動作となる。
【0015】
乗降扉の鎖錠は、制御器23からの電磁ブレーキ配線22により電磁ブレーキ17が無加圧になると、ブレーキが制動状態になり、電磁ブレーキ軸18のディスク部がブレーキライニング20により挟み込まれ、その摩擦力により電磁ブレーキ軸18のディスク部が保持され、回転不可能になる。電磁ブレーキ軸18とワンウエイクラッチ19を介して接続されたモーター軸16は、ワンウエイクラッチ19の機能により、乗降扉を閉める方向のみ回転可能になり、乗降扉を開く方向には回転不可能になる。よって、乗降扉は閉め方向にのみ動く状態になる。
電磁ブレーキ17は、電磁ブレーキ軸18のディスク部をブレーキライニング20で挟んで制動するため、任意の角度で保持でき、つまりそれに接続られる乗降扉を任意の位置で鎖上できる特長を有する。また、電磁ブレーキ軸18とモーター軸16はワンウエイクラッチ19を介して接続されているため、電磁ブレーキ15が制動状態になり、乗降扉が鎖錠された後も乗降扉の慣性力を利用して乗降扉を更に閉方向に動作させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
車両用乗降扉に、本考案の電気式戸閉装置を使用することで、乗降扉全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間を完全になくすことが、手間の掛かる調整なくして、可能になるため、走行時の騒音や雨水の浸入が防止でき、快適な車内環境が提供できるようになる。
【符号の説明】
【0017】
1a‥‥乗降扉左 1b‥‥乗降扉右
2a‥‥扉連結金具左 2b‥‥扉連結金具右
3‥‥ピストン軸
4‥‥シリンダー
5a‥‥連結棒左 5b‥‥連結棒右
6‥‥ベルト
7a‥‥プーリー左 7b‥‥プーリー右
8‥‥ボールナット
9‥‥ボールネジ
10‥‥スベリ軸受
11‥‥玉軸受
12‥‥シリンダー支え右
13‥‥シリンダー支え左
14‥‥継手
15‥‥モーター
16‥‥モーター軸
17‥‥電磁ブレーキ
18‥‥電磁ブレーキ軸
19‥‥ワンウエイクラッチ
20‥‥ブレーキライニング
21‥‥モーター配線
22‥‥電磁ブレーキ配線
23‥‥制御装置
24‥‥鎖錠装置配線
25a‥‥くさび挿入穴左 25b‥‥くさび挿入穴右
26‥‥鎖錠装置
27a‥‥くさび左 27b‥‥くさび右
28‥‥寸法差による隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用乗降扉の電気式戸閉装置において、該車両用乗降扉の開閉駆動用のモーター軸に直結した電磁ブレーキを配設し、該モーター軸を任意の角度で制動することを可能にして、その結果前記モーター軸にボールネジを介して接続された前記車両用乗降扉を、任意の位置で鎖錠することができ、前記車両用乗降扉全閉後の左右扉間の戸先ゴム隙間をなくすことができることを特徴とする電気式戸閉装置。
【請求項2】
前記車両用乗降扉を鎖錠させる際、前記電磁ブレーキ内に具備される電磁ブレーキ軸と前記モーター軸の接続部にワンウエイクラッチ(1方向のみ回転可能な針状ころ軸受)を配設し、鎖錠後に前記モーター軸の戸閉め方向の回転のみを可能にして、前記車両用乗降扉を閉方向にのみ移動できるようにすることで、前記車両用乗降扉の慣性力を利用して、鎖錠のタイミングが若干早い場合にも、前記車両用乗降扉全閉後の左右扉間の前記戸先ゴム隙間をなくすことができることを特徴とする請求項1に記載の電気式戸閉装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−97442(P2012−97442A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245246(P2010−245246)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】