説明

車両用内装材

【課題】表皮材を、赤外線反射層と赤外線を透過させる意匠層との二層構造としても、製造工程が複雑化せず、赤外線反射層は既存の成形型を用いて成形することができるようにする。
【解決手段】インストルメントパネル1の表皮材7は、下層である赤外線反射層7aと、この赤外線反射層7aに塗布された上層である層厚の薄い意匠層7bとを有し、赤外線反射層7aの外表面に凹凸模様7cが形成されている。意匠層7bは層厚が薄いため赤外線反射層7aに形成されている凹凸模様7cに倣った凹凸模様7dが形成される。又意匠層7bには赤外線透過性を有する黒色系顔料が混入されており、入射される赤外線は意匠層7bを透過し、赤外線反射層7aで反射されて拡散される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材を、赤外線を反射する下層と赤外線を透過させる上層との二層構造にした車両用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のインストルメントパネル等の車両用内装材は、ソフトな感触を持たせるために、硬質樹脂製等からなる芯材と表皮材との間にポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、発泡ポリエチレン等のクッション材を介装し、更に、表皮材を塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂等の軟質樹脂で形成している。表皮材は、汚れが目立つのを防いだり、意匠上の観点から一般的に黒色等の濃彩色に着色されている場合が多い。又、表皮材の表面はシボ加工により皮革模様や幾何学模様等の凹凸模様を転写して、優れた意匠性、触感性を得ることができるようにしている。
【0003】
表皮材を濃彩色に染める顔料としては、カーボンブラックが知られている。しかし、カーボンブラックは赤外線を吸収して発熱しやすく、日中、この表皮材の表面に直射日光が照射されると、短時間の駐車であっても表面温度が上昇し、その輻射熱によって車室内温度が上昇する。そのため、真夏の炎天下で車両を長時間駐車させた場合には、乗員が搭乗する際に、車室内が高温化しており乗員に不快感を与えることになる。
【0004】
この防止策として、表皮材に赤外線を反射する物質を混入させて、赤外線の吸収を抑制することも考えられる。しかし、赤外線を反射させる物質としては、酸化クロム(Cr2O3)や酸化チタン(TiO2)等の金属酸化物が知られているが、この金属酸化物は白色系で光を反射しやすいため、例えばインストルメントパネルの表皮として採用した場合、フロントガラスにインストルメントパネル像が映し出されて、運転時の視界が妨げられてしまうばかりでなく、表皮材からの反射光により乗員に眩感を与えてしまう不都合がある。
【0005】
この対策として、例えば特許文献1(特開2009−39153号公報)には、表皮材を下層と上層との二層構造とし、下層は材料中に金属酸化物を混入させて赤外線反射層とし、上層は材料に赤外線透過性を有する黒色系顔料を混入させて赤外線を透過させることで、上層を透過した赤外線を下層で反射させて、赤外線の吸収を抑制するようにした技術が開示されている。
【0006】
この文献に開示されている技術によれば、上層は材料中に赤外線透過性を有する黒色系顔料を混入して形成したので、表面が濃彩色となり良好な意匠性を得ることができるばかりでなく、光が反射し難いため、インストルメントパネルに採用した場合には、フロントガラスに像が映し出され難く、運転者の視界が妨げられ難いばかりでなく、乗員に与える眩感も少なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−39153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した文献に開示されている技術では、上層の外表面にシボ加工が施されているため、この上層を少なくともシボの凹部よりも厚く形成する必要がある。そのため、表皮材を二層構造とした場合、表皮材の厚みが厚くなり、例えば、インストルメントパネルのクッション材を従来のままの形状で形成した場合、インストルメントパネル全体が大きくなってしまう不都合がある。
【0009】
又、上層の表面に施すシボ加工は成形型によって形成する場合が一般的であり、従って、表皮を成形するに際しては、下層と上層とを各々成形型を用いて成形しなければならず、製造工程が煩雑化し、製品コストが上昇してしまう問題がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、表皮材を、赤外線を反射させる下層と、赤外線を透過させる上層との二層構造としても、製造工程が複雑化せず、下層は既存の成形型を用いて成形することができて、製品コストの高騰を抑制することのできる車両用内装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明は、内装材の基本形状を形成する芯材と、該芯材を被覆して該内装材の外形を形成する表皮材とを備える車両用内装材において、前記表皮材が、赤外線を反射する物質を混入して形成した下層と、該下層の外表面に塗布すると共に上記赤外線を透過させる黒色系顔料を混入して形成された上層との二層構造を有し、前記下層の外表面に凹凸模様が形成され、前記上層が該凹凸模様に倣って塗布されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表皮材を、赤外線を反射させる下層と赤外線を透過させる上層との二層構造としても、上層は下層の外表面に塗布することで形成されているので上層を形成する成形型が不要となり、又、下層は既存の成形型を用いて製造することができる。従って、製造工程においては上層を塗布する工程を追加するだけで良く、製造工程が複雑化せず、又、下層は従来の表皮材を製造する成形型を用いて成形することができるので、製品コストの高騰を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】インストルメントパネルの斜視図
【図2】図1のII-II断面図
【図3】図2のIII部拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。本実施形態では、車両用内装材をインストルメントパネルに適用した場合について例示する。
【0015】
図1、図2に示すように、インストルメントパネル1は、車室内のフロントガラス4の後部にであって、前席の前方に配設されている。このインストルメントパネル1には、フロントデフロスタ用吹き出し口1a、空調用吹き出し口1b等、複数の吹き出し口が開口されており、各吹き出し口1a,1bに、フロントデフロスタグリル部材2、ベンチレーショングリル部材3等のグリル部材が各々装着されている。
【0016】
又、図2に示すように、インストルメントパネル1は、芯材としての硬質樹脂製のフレーム5と、このフレーム5に被覆されるクッション材6と、このクッション材6の外表面を被覆する表皮材7とを有している。フレーム5はインストルメントパネル1の基本形状を形成するもので、所定形状に形成されており、このフレーム5にクッション材6を介して被覆されている表皮材7にてインストルメントパネル1の外形が形成される。
【0017】
図3に示すように、表皮材7は、クッション材6の外表面に被着されている下層としての赤外線反射層7aと、その表面に塗布された上層としての意匠層7bとの二層構造を有している。又、クッション材6は、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、発泡ポリエチレン等の発泡材からなり、このクッション材6の成形型を用いて発泡成形する際に、この成形型のキャビテイにフレーム5及び赤外線反射層7aをセットして、これらをインサート成形する。
【0018】
表皮材7の赤外線反射層7aは、軟質塩化ビニル樹脂や軟質ポリプロピレン樹脂等の軟質樹脂剤に赤外線反射物質としての微粒子を混入させ、射出成形等の成形型を用いて形成される。又、赤外線反射層7aを成形する際に、その外表面に、シボ加工により皮革模様や幾何学模様等の深さ30〜40[μm]程度の凹凸模様7cが転写される。この赤外線反射物質としては、酸化クロム(Cr2O3)や酸化チタン(TiO2)等の金属酸化物が知られており、本実施形態では、この金属酸化物の微粒子を、軟質樹脂剤に10〜15[%]程度混入させて、赤外線反射層7aを成形している。
【0019】
又、意匠層7bは、透明軟質樹脂に赤外線透過性を有する黒色系有機顔料を混入した塗料を、発泡成形後の赤外線反射層7a上にスプレーガン等を用いて塗布することで形成されている。赤外線透過性を有する黒色系有機顔料としては、例えば特表2007−522297号公報に開示されているペリレン顔料が知られている。
【0020】
この意匠層7bの層厚は10〜30[μm]程度と薄く、従って、図3に示すように、意匠層7bは、赤外線反射層7aの外表面に形成されている凹凸模様7cに倣って塗布される。尚、図においては、説明を容易にするため、意匠層7bの層厚がデフォルメされた状態で記載されている。
【0021】
上述したように、赤外線反射層7aの外表面に形成されている凹凸模様7cの深さは30〜40[μm]程度であるのに対し、意匠層7bの層厚が10〜30[μm]と薄いため、意匠層7bは、赤外線反射層7aの外表面に形成されている凹凸模様7cを埋め込むことなく、凹凸模様7cに倣って塗布される。その結果、この意匠層7bの表面に凹凸模様7cとほぼ同じ凹凸模様7dが形成される。
【0022】
又、意匠層7bの顔料が黒色系であるため、インストルメントパネル1の外表面は黒色系の配色となり、又、その下地である赤外線反射層7aは外部から視認することができない、良好な外観を得ることができる。尚、図2の符号8は、図示しないエアダクトから延出するノズルであり、フロントデフロスタグリル部材2に連通されている。
【0023】
このような構成からなるインストルメントパネル1は、表皮材7の意匠層7bを、スプレーガン等を用いて塗布するようにしたので、既存の製造工程に意匠層7bを追加するだけで良く、製造工程が複雑化せず、しかも、赤外線反射層7aは従来の表皮材の成形型を用いて成形することができるので、設備投資が不要となり経済的である。
【0024】
しかも、意匠層7bの層厚が10〜30[μm]と薄いため、赤外線反射層7aに塗布しても、インストルメントパネル1全体の形状が大型化することはなく、更に、赤外線反射層7aに形成した凹凸模様7cをそのまま外表面に凹凸模様7dとして表わすことができる。従って、フレーム5、クッション材6、表皮材7の赤外線反射層7aは、従来のままの工程で成形することができ、製造が容易となる。又、新たな成形型を用いる必要がないので設備費を安価に済ませることができ、製品コストの低減を図ることができる。更に、意匠層7bに形成される凹凸模様7dは、塗料を塗布するだけで形成されるため、作業の簡素化を実現することができる。加えて、赤外線反射層7aと意匠層7bとは供に、素材が軟質樹脂であるため、従来通りの触感を得ることができる。
【0025】
このようにして完成されたインストルメントパネル1が組み付けられている車両を、炎天下に駐車刺せると、フロントガラス4を介してインストルメントパネル1に入射された光の赤外線成分は、図3に示すように、表面の意匠層7bを、赤外線を吸収することなく透過して赤外線反射層7aに照射される。
【0026】
そして、この赤外線反射層7aに照射された赤外線は反射され、再び意匠層7bを透過し、外部に放出されて拡散される。その結果、インストルメントパネル1の表面が黒色系で配色されているにも拘らず、表皮材7に赤外線が吸収され難いので、内装されているクッション材6に赤外線による発熱が蓄熱され難くなり、表面の温度上昇が抑制される。
【0027】
その結果、炎天下に駐車されている車両に乗車してもインストルメントパネル1の表面からは赤外線が反射されるため、その遮熱効果により、車室内の昇温が抑制され、搭乗者に与える不快感を緩和することができる。更に、この遮熱効果によりエアコンの負荷が低減され、その分、燃費を改善することができる。
【0028】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば車両用内装材は、インストルメントパネル1以外に、ドアトリム、リヤシェルフ、アームレスト、或いはサンバイザ等に適用することも可能である。この場合、クッション材6を省略し、フレーム5に表皮材7を直接被覆する態様であっても良い。更に、表皮7b、クッション材6、フレーム5を一体化して赤外線反射層とした素材の表面に、赤外線透過層7bを塗装する態様であっても良い。
【0029】
又、赤外線反射層7aを形成する素材に、上述した金属酸化物の微粒子に加えて、赤外線を吸収し難い、明度の低い黒色系顔料の微粒子を顔料として混入させることで、低明度化させて、例えば意匠層7bの層厚が経年的に薄くなり、赤外線反射層7aが透けて見えるようになっても、その薄い部分を目立たなくさせることができる。
【符号の説明】
【0030】
1…インストルメントパネル、
4…フロントガラス、
5…フレーム、
6…クッション材、
7…表皮材、
7a…赤外線反射層、
7b…意匠層、
7c,7d…凹凸模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内装材の基本形状を形成する芯材と、該芯材を被覆して該内装材の外形を形成する表皮材とを備える車両用内装材において、
前記表皮材が、赤外線を反射する物質を混入して形成した下層と、該下層の外表面に塗布すると共に上記赤外線を透過させる黒色系顔料を混入して形成された上層との二層構造を有し、
前記下層の外表面に凹凸模様が形成され、前記上層が該凹凸模様に倣って塗布されている
ことを特徴とする車両用内装材。
【請求項2】
前記芯材と前記下層との間にクッション材が介装されている
ことを特徴とする請求項1記載の車両用内装材。
【請求項3】
前記上層の層厚が10〜30マイクロメートルである
ことを特徴とする請求項1或いは2記載の車両用内装材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−240593(P2011−240593A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114534(P2010−114534)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】