説明

車両用内装部品およびその製造方法

【課題】基材と溶着部材との接合強度を更に向上させる車両用内装部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による車両用内装部品の製造方法は、基材1と溶着部材3との間に、20〜200μmの金属箔7の両面に厚さが10〜50μmのホットメルトフィルム9,11をそれぞれ貼り合わせた複合フィルム5を配置する第1工程と、電磁誘導加熱装置本体部23の下面23aと基材1の上面1aとの距離を15mm以下に設定した状態で電磁誘導加熱装置21を配置する第2工程と、前記電磁誘導加熱装置21に高周波電流を流し、前記複合フィルム5における金属箔部分7を発熱させる第3工程と、前記金属箔部分7の熱によって、前記複合フィルム5におけるホットメルトフィルム部分9,11を溶融させ、基材1と溶着部材3とを複合フィルム5を介して接合する第4工程と、を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両室内の外観向上を図るために、各種の内装部品を装着することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された内装部品であるクリップ取付用ブラケットは、裏面側に接着剤を貼着している。一方、内装材は、基材と該基材の表面に設けた低融点繊維ウェブ層とを有する。そして、クリップ取付用ブラケットを内装材の表面に載置した状態で電磁誘導加熱を施すと、前記接着剤、低融点繊維ウェブ層および基材が軟化することにより、クリップ取付用ブラケットが内装材に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−16657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1においては、接着剤やクリップ取付用ブラケットの厚さが具体的に特定されていないため、クリップ取付用ブラケットと内装材との接合強度が必ずしも十分でないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、基材と溶着部材との接合強度を更に向上させる車両用内装部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用内装部品の製造方法は、合成樹脂からなる基材に溶着部材を電磁誘導加熱を用いて取り付ける車両用内装部品の製造方法であって、前記基材と溶着部材との間に、20〜200μmの金属箔の両面に厚さが10〜50μmのホットメルトフィルムをそれぞれ貼り合わせた複合フィルムを配置する第1工程と、電磁誘導加熱装置本体部の下面と溶着部材の上面との距離を15mm以下に設定した状態で電磁誘導加熱装置を配置する第2工程と、前記電磁誘導加熱装置に高周波電流を流し、前記複合フィルムにおける金属箔部分を発熱させる第3工程と、前記金属箔部分の熱によって、前記複合フィルムにおけるホットメルトフィルム部分を溶融させ、基材と溶着部材とを複合フィルムを介して接合する第4工程と、を含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、複合フィルムにおける金属箔とホットメルトフィルムの厚さを適切な範囲に設定しているため、基材と溶着部材との接合強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態による車両用内装部品の製造方法における第1工程を概略的に示す断面図である。
【図2】車両用内装部品の製造方法における第2工程の初期段階を概略的に示す断面図である。
【図3】車両用内装部品の製造方法における第3工程および第4工程を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態による車両用内装部品を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施例における試験片を示し、(a)は試験片の正面図であり、(b)は試験片の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。なお、本実施形態では、基材として熱可塑性樹脂からなる部材を用い、溶着部材として合成樹脂製のクリップやブラケット等を用いるが、本発明はこれらに限定されず、広く車両用内装部品全体に適用可能である。
【0011】
本実施形態による車両用内装部品の製造方法は、合成樹脂からなる基材に溶着部材を電磁誘導加熱を用いて取り付ける製造方法である。
【0012】
具体的には、前記基材と溶着部材との間に、金属箔とホットメルトフィルムとからなる複合フィルムを配置する第1工程と、電磁誘導加熱装置本体部の下面と基材の上面との距離を15mm以下に設定した状態で電磁誘導加熱装置を配置する第2工程と、前記電磁誘導加熱装置に高周波電流を流し、前記複合フィルムにおける金属箔部分を発熱させる第3工程と、前記金属箔部分の熱によって、前記複合フィルムにおけるホットメルトフィルム部分を溶融させ、基材と溶着部材とを複合フィルムを介して接合する第4工程と、を含んでいる。以下、各工程ごとの特徴を説明する。
【0013】
[第1工程]
図1に示すように、第1工程では、下側に基材1を配置し、上側に溶着部材3を配置し、これらの基材1と溶着部材3との間に複合フィルム5を介在させる。
【0014】
前記基材1としては、熱可塑性樹脂からなり、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン(ABS)、ポリカボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、高密度ポリスチレン(HPS)などの樹脂が可能である。前記熱可塑性樹脂のうちの1種のみでも良く、または、2種以上を選択して複合化した熱可塑性樹脂でも良い。
【0015】
前記溶着部材3としては、一般の射出部品が適用可能であり、例えば、クリップ、ブラケット、リンフォース、ストライカー、ネット、クッション材(発泡体)などである。また、溶着部材3の材質は、例えば、熱可塑性樹脂からなり、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン(ABS)、ポリカボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、高密度ポリスチレン(HPS)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリエステル、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)などを適用可能である。
【0016】
前記複合フィルム5は、金属箔7の両面にホットメルトフィルム9,11をそれぞれ貼り合わせて形成されている。金属箔7の厚さは、20〜200μmである。また、ホットメルトフィルム9,11の厚さは、10〜50μmである。
【0017】
金属箔7としては、例えば、アルミニウムや鉄が好ましい。アルミニウムの場合は、厚さが20〜50μmが好ましく、鉄の場合は、厚さが80〜200μmが好ましい。
【0018】
アルミニウムの厚さが20μm未満になると薄くなりすぎて、電磁誘導による金属箔7の発熱量が不足するため、ホットメルトフィルム9,11が十分に溶融しない。その結果、ホットメルトフィルム9,11による接着力が低下するため、好ましくない。一方、50μmよりも厚くなると、発熱量が大きくなりすぎて焼けこげが発生するため、外観不良となって好ましくない。
【0019】
一方、鉄の厚さが80μm未満になると薄くなりすぎて、電磁誘導による金属箔7の発熱量が不足するため、ホットメルトフィルム9,11が十分に溶融しない。その結果、ホットメルトフィルム9,11による接着力が低下するため、好ましくない。一方、200μmよりも厚くなると、発熱量が大きくなりすぎて焼けこげが発生するため、外観不良となって好ましくない。
【0020】
また、ホットメルトフィルム9,11の厚さが10μm未満の場合、ホットメルトフィルム9,11の量が少なすぎて接着力が低下するため、好ましくない。ホットメルトフィルム9,11の厚さが50μmより厚い場合、ホットメルトフィルム9,11の量が多すぎてはみ出すために外観不良となると共に、コスト高となって好ましくない。
【0021】
ホットメルトフィルム9,11の材質は、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、PP系樹脂、PE系樹脂等を適用することが可能である。なお、基材1または溶着部材3のいずれかと同じ材質にすることが好ましい。また、前記金属箔7として、銅、亜鉛、錫、マグネシウム及びそれらの合金等を適用することも可能である。
【0022】
[第2工程]
次いで、第2工程では、図2に示すように溶着部材3の上方に電磁誘導加熱装置21を配置する。
【0023】
前記電磁誘導加熱装置21は、図2に示すように、下部に本体部23が配設されており、この本体部23内にコイル25が螺旋状に巻回されている。ここで、図3に示すように、本体部23の下面23aと基材1の上面1aとの距離Dを15mm以下に設定する。距離Dが15mmよりも大きい場合、コイル25に高周波電流を流しても複合フィルム5における金属箔部分7のジュール熱が小さくなりすぎ、ホットメルトフィルム9.11の溶融量も少なくなりすぎる。このため、複合フィルム5による接着力が低下するため、好ましくない。
【0024】
[第3工程、第4工程]
第3工程では、電磁誘導加熱装置21に設けたコイル25に高周波電流を流すと、コイル25の周りに磁力線が生じる。この磁力線によって、複合フィルム5における金属箔部分7に渦電流が流れ、ジュール熱によって金属箔部分7が加熱される。
【0025】
第4工程では、図3に示すように、前記金属箔部分7の熱によって、前記複合フィルム5におけるホットメルトフィルム部分9,11を溶融させ、基材1と溶着部材3とが複合フィルム5を介して接合される。そして、所定時間経過すると複合フィルム5が冷却されてホットメルトフィルム部分9,11が硬化し、図4に示すように基材1と溶着部材3とが複合フィルム5を介して接合された車両用内装部品31が完成する。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0027】
[実施例1]
図5に示す試験片41を用いて引っ張りせん断試験を行った。縦70mmで横が20mmの板状のPP樹脂43,45(厚さ:2mm)を2枚準備し、これらのうち20×20mmの接合部分49を複合フィルム47を介して電磁誘導加熱によって接合させたものを試験片41とした。ここで、周波数を20kHz、接合時の加圧力を0.5MPa、通電時間を4秒、界面温度を140℃とした。その後、2枚の合成樹脂同士43,45を340Nで上下に引っ張り、破断するか否かを検証した。なお、実施例1では、複合フィルム47における金属箔はアルミニウムとした。また、電磁誘導加熱装置本体部の下面と下側に配置されたPP樹脂の上面との距離(図3参照)を5mmとした。
【表1】

【0028】
表1では、○は340Nの引っ張り力で接合部分以外で破断した場合を示している。また、×は引っ張り時に接合部分で剥がれた場合や外観不良の場合を示している。具体的には、ホットメルトの厚さが5mmのときは、ホットメルトの量が少なすぎて接着力不足となった。ホットメルトの厚さが60mmのときは、ホットメルトの量が多すぎてはみ出したため、外観不良になった。アルミニウムからなる金属箔の厚さが10μmのときは、発熱量が不足してホットメルトが十分に溶融せず接着力不足となった。なお、金属箔の厚さが70μmのときは、発熱量が大きくなりすぎ焼けこげが発生して外観不良になった。
【0029】
[実施例2]
次いで、実施例2について説明する。実施例2は、ほぼ実施例1と同一の試験片を用いた。ただし、複合フィルムにおける金属箔は鉄とし、電磁誘導加熱装置本体部の下面と下側に配置されたPP樹脂の上面との距離を15mmとした点のみが異なる。
【表2】

【0030】
表2では、ホットメルトの厚さが5mmのときは、ホットメルトの量が少なすぎて接着力不足となった。ホットメルトの厚さが60mmのときは、ホットメルトの量が多すぎてはみ出したため、外観不良になった。鉄からなる金属箔の厚さが40μmのときは、発熱量が不足してホットメルトが十分に溶融せず接着力不足となった。なお、金属箔の厚さが240μmのときは、発熱量が大きくなりすぎ焼けこげが発生して外観不良になった。
【0031】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0032】
(1)本実施形態による車両用内装部品の製造方法は、基材1と溶着部材3との間に、20〜200μmの金属箔7の両面に厚さが10〜50μmのホットメルトフィルム9,11をそれぞれ貼り合わせた複合フィルム5を配置する第1工程と、電磁誘導加熱装置本体部23の下面23aと基材1の上面1aとの距離を15mm以下に設定した状態で電磁誘導加熱装置21を配置する第2工程と、前記電磁誘導加熱装置21に高周波電流を流し、前記複合フィルム5における金属箔部分7を発熱させる第3工程と、前記金属箔部分7の熱によって、前記複合フィルム5におけるホットメルトフィルム部分9,11を溶融させ、基材1と溶着部材3とを複合フィルム5を介して接合する第4工程と、を含んでなる。
【0033】
このように、複合フィルム5における金属箔7とホットメルトフィルム9,11の厚さを適切な範囲に設定しているため、基材1と溶着部材3との接合強度を向上させることができる。
【0034】
例えば、ホットメルトフィルム9,11の厚さが10μm未満の場合、ホットメルトフィルム9,11の量が少なすぎて接着力が低下するため、好ましくない。ホットメルトフィルム9,11の厚さが50μmより厚い場合、ホットメルトフィルム9,11の量が多すぎてはみ出すために外観不良となると共に、コスト高となって好ましくない。
【0035】
また、本体部23の下面23aと基材1の上面1aとの距離Dが15mmよりも大きい場合、コイル25に高周波電流を流しても複合フィルム5における金属箔部分7のジュール熱が小さくなりすぎ、ホットメルトフィルム9.11の溶融量も少なくなりすぎる。このため、複合フィルム5による接着力が低下するため、好ましくない。
【0036】
(2)前記複合フィルム5における金属箔部分7は、アルミニウムからなり、厚さが20〜50μmである。
【0037】
アルミニウムの厚さが20μm未満になると薄くなりすぎて、電磁誘導による金属箔7の発熱量が不足するため、ホットメルトフィルム9,11が十分に溶融しない。その結果、ホットメルトフィルム9,11による接着力が低下するため、好ましくない。一方、50μmよりも厚くなると、発熱量が大きくなりすぎて焼けこげが発生するため、外観不良となって好ましくない。
【0038】
(3)前記複合フィルムにおける金属箔部分は、鉄からなり、厚さが80〜200μmである。
【0039】
鉄の厚さが80μm未満になると薄くなりすぎて、電磁誘導による金属箔7の発熱量が不足するため、ホットメルトフィルム9,11が十分に溶融しない。その結果、ホットメルトフィルム9,11による接着力が低下するため、好ましくない。一方、200μmよりも厚くなると、発熱量が大きくなりすぎて焼けこげが発生するため、外観不良となって好ましくない。
【符号の説明】
【0040】
1…基材
1a…上面
3…溶着部材
5…複合フィルム
7…金属箔
9,11…ホットメルトフィルム
23…電磁誘導加熱装置本体部
23a…下面
31…車両用内装部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなる基材に溶着部材を電磁誘導加熱を用いて取り付ける車両用内装部品の製造方法であって、
前記基材と溶着部材との間に、20〜200μmの金属箔の両面に厚さが10〜50μmのホットメルトフィルムをそれぞれ貼り合わせた複合フィルムを配置する第1工程と、
電磁誘導加熱装置本体部の下面と基材の上面との距離を15mm以下に設定した状態で電磁誘導加熱装置を配置する第2工程と、
前記電磁誘導加熱装置に高周波電流を流し、前記複合フィルムにおける金属箔部分を発熱させる第3工程と、
前記金属箔部分の熱によって、前記複合フィルムにおけるホットメルトフィルム部分を溶融させ、基材と溶着部材とを複合フィルムを介して接合する第4工程と、を含んでなる車両用内装部品の製造方法。
【請求項2】
前記複合フィルムにおける金属箔部分は、アルミニウムからなり、厚さが20〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の車両用内装部品の製造方法。
【請求項3】
前記複合フィルムにおける金属箔部分は、鉄からなり、厚さが80〜200μmであることを特徴とする請求項1に記載の車両用内装部品の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法によって作製されたことを特徴とする車両用内装部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−23171(P2013−23171A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162925(P2011−162925)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000244280)盟和産業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】