説明

車両用可変容量型ポンプの制御装置

【課題】制御弁を駆動する電動アクチュエータの通電制御によって、ポンプ容量を可変制御する可変容量型ポンプにおいて、ポンプ容量制御の異常時に必要なポンプ容量を確保する。
【解決手段】制御弁駆動用のソレノイドの通電量を減少するほどポンプからのオイル吐出量が減少する設定とし、実電流が目標電流より所定量大きい過電流検出時つまりオイル供給量不足時(S3の判定がYES)に、ソレノイド駆動リレーを遮断操作する一方(S5)、エンジン出力を制限してオイルが供給されるCVT変速機構の運動量を減少し(S6)、要求オイル量を減少して潤滑,冷却性能を満たし、その後、オイル供給量不足が解消されると、エンジン出力の制限を解除する(S11)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ本体に付属する制御弁を駆動する電動アクチュエータの通電量を制御することにより、ポンプ容量を制御可能な車両用可変容量型ポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の可変容量型ポンプとして、特許文献1では、パワーステアリング用のオイルポンプに適用され、電動アクチュエータへの過電流を検出したとき、駆動用リレーを遮断して電動アクチュエータへの通電を遮断し、操舵アシスト力が過大となることを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−83561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、電動アクチュエータ駆動用リレー(の接点)が電源にショートするような2重故障時には、過電流検出時にリレーを遮断する操作を行ってもリレーが遮断されないため、電動アクチュエータへの通電を遮断できず、フェールセーフ用のポンプ吐出量を確保できないことがあった。
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、可変容量型ポンプにおいて、ポンプ容量制御の異常時に電動アクチュエータの通電を制限することが難しい状況においても、必要なポンプ容量を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明は、ポンプ本体に付属する制御弁を駆動する電動アクチュエータへの通電量を制御して、ポンプ容量を可変制御する車両用の可変容量型ポンプの制御装置であって、以下の手段を含んで構成される。
ポンプ容量制御の異常を診断する異常診断手段
異常診断手段によりポンプ容量制御の異常を検出したときに、電動アクチュエータへの通電を制限するように操作すると共に、ポンプから吐出される作動流体の供給対象の運動量を制限する第1フェールセーフ手段
第1フェールセーフ手段による前記供給対象の運転制限後に、必要なポンプ容量が確保されると判定したときは、前記供給対象の運動量の制限を緩和または中止する第2フェールセーフ手段
【発明の効果】
【0006】
ポンプ容量制御の異常検出時に、電動アクチュエータへの通電を制限する操作を行うと同時に、該操作によって電動アクチュエータの通電を制限することが難しい状況においても、作動流体供給対象の運動量を制限することで、供給対象に必要な作動流体の要求供給量が低減され、該要求供給量を確保することができる。
また、必要なポンプ容量が確保されると判定したときは、供給対象の運動量の制限を解除または緩和して供給対象の運転性を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態として、CVT変速機構にオイルを供給する可変容量型ベーンポンプを示す断面図
【図2】可変容量型ベーンポンプを、図1とは異なる方向からみた断面図
【図3】同上可変容量型ベーンポンプのポンプ吐出量特性を示す線図
【図4】同上可変容量型ベーンポンプのポンプ吐出量を制御すると共に、ソレノイドの故障判定及び故障時のフェールセーフ制御を行うシステムの構成を示すブロック図
【図5】同上ソレノイドの故障判定及び故障時のフェールセーフ制御のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1及び図2は、本発明の実施形態として、CVT変速機構にオイルを供給する可変容量型ベーンポンプの相異なる方向からみた断面図である。
可変容量型のオイルポンプであるベーンポンプ1は、複数のベーン2付きのロータ3とカムリング4およびアダプタリング5からなるポンプカートリッジをポンプボディ6内に形成された収容空間6a内に配置したものであって、ロータ3を回転駆動するためのドライブシャフト7がポンプボディ6に回転自在に軸支され、図示外の車両のエンジンを駆動源としてドライブシャフト7が回転駆動されることとなる。なお、ロータ3はドライブシャフト7とともに図1において反時計方向に回転するようになっている。
【0009】
ポンプボディ6はフロントボディ8とリアボディ9から構成されている。フロントボディ8は、内部に収容空間6aが形成された略カップ状をなしていて、その収容空間6aの開口を閉塞するようにリアボディ9が組み付けられている。また、ロータ3とカムリング4およびアダプタリング5のフロントボディ8側に、プレッシャプレート10が圧接して積層配置されている。
【0010】
カムリング4は、ポンプボディ6の収容空間6aを形成する内壁に嵌合して固定されたアダプタリング5とロータ3との間に配置され、プレッシャプレート10とリアボディ9とを連結する揺動支点ピン11によってロータ3に対して図1で右側に偏心した状態で揺動可能に位置決め支持されている。そして、カムリング4の揺動によって当該カムリング4とロータ3の偏心量が増減するようになっている。なお、カムリング4はスプリング15によってロータ3との偏心量が増加する方向に付勢されている。
【0011】
また、カムリング4とアダプタリング5の間には、揺動支点ピン11とシール部材12とをもってカムリング4の揺動方向両側に隔成された第1圧力室13および第2圧力室14がそれぞれ形成されている。
カムリング4とロータ3との間には各ベーン2によって仕切られたポンプ室16が円周方向に複数形成されていて、ロータ3の回転に伴って各ポンプ室16がその容積を増減させながら周回移動し、リアボディ9内に形成した吸入側通路17を介してリザーバタンクTから作動油を吸入するとともに、フロントボディ8内に形成した吐出側通路18を介してCVT変速機構50に油圧を供給するようになっている。
【0012】
吸入側通路17は、リアボディ9のうち収容空間6aに臨む面に開口する略三日月形状のポンプ室側開口部17aと、ポンプボディ6の外部に開口する外側開口部17bと、を有する。ポンプ室側開口部17aは、収容空間6aのうち、ロータ3の回転に伴ってポンプ室16の容積が増加する吸入領域に開口している。
一方、吐出側通路18は、フロントボディ8のうち収容空間6aに臨む面に開口する略三日月状のポンプ室側開口部18aと、ポンプボディ6の外部に開口する外側開口部18bと、を有する。ポンプ室側開口部18aは、収容空間6aのうち、ロータ3の回転に伴ってポンプ室16の容積が減少する吐出領域に開口している。
【0013】
なお、吐出側通路18の中間部には、プレッシャプレート10をリアボディ9側に押し付けるための室18cが形成されている。
フロントボディ8のうち、収容空間6aの上方にはバルブ孔19が形成されていて、そのバルブ孔19と当該バルブ孔19に挿入された弁体としてのスプール20をもって制御弁21が構成されている。この制御弁21は、後述するように、吐出側通路18の途中に設けられたメータリング絞り18dの上、下流側の圧力差、およびソレノイド22によって付与される軸線方向の推力によって駆動され、両圧力室13,14内の油圧を制御するようになっている。ここで、ソレノイド22は、制御弁21駆動用の電動アクチュエータを構成する。
【0014】
スプール20は、その一方側(図1で右側)端部に第1ランド部20aが形成されているとともに、その中間部に第2ランド部20bが形成され、それら両ランド部20a,20bをもってバルブ孔19内に高圧室19aと中圧室19bおよび低圧室19cを隔成している。
中圧室19bは、第1ランド部20aの一方側に形成され、吐出側通路18のうち当該吐出側通路18の途中に形成されたメータリング絞り18dの下流側の圧力が第1パイロット圧通路23によって導かれている。また、その中圧室19b内にリターンスプリング24が配設されていて、そのリターンスプリング24によってスプール20を他方側に付勢している。
【0015】
高圧室19aは、第2ランド部20bの他方側(図1で左側)に形成され、吐出側通路18のうちメータリング絞り18dの上流側の圧力が第2パイロット圧通路25によって導かれている。
低圧室19cは、両ランド部20a,20b間に形成され、吸入側通路17から分岐形成された吸入圧通路26によってポンプ吸入圧が導かれている。
【0016】
つまり、高圧室19aと中圧室19bの差圧に応じてスプール20が動作することとなる。
そして、図1に示す状態、すなわち吐出側通路18のうちメータリング絞り18dの上、下流側の圧力差が小さく、リターンスプリング24の付勢力によってスプール20が他方側に位置する状態においては、低圧室19cが第1接続通路27を介して第1圧力室13に接続し、中圧室19bが第2接続通路28を介して第2圧力室14に接続するようになっていて、カムリング4がロータ3との偏心量が最大となる位置にある。
【0017】
一方、吐出側通路18のうちメータリング絞り18dの上、下流側の圧力差が図1に示す状態から大きくなると、スプール20がリターンスプリング24の付勢力に抗して一方側に移動する。この場合、スプール20の一方側への移動に伴い、第2圧力室14は、中圧室19bとの接続が次第に切り離されつつ低圧室19cと接続するとともに、第1圧力室13は、低圧室19cとの接続が次第に切り離されつつ高圧室19aと接続することとなる。これにより、カムリング4がスプリング15の付勢力に抗して揺動して当該カムリング4とロータ3との偏心量が減少し、ポンプ吐出量が減少する。
【0018】
つまり、エンジン回転数、すなわちロータ3の回転数が小さいときには、吐出側通路18のうちメータリング絞り18dの上、下流側の圧力差が小さく、カムリング4とロータ3の偏心量が大きくなるから、ポンプ吐出量が比較的多くなる一方、エンジン回転数が大きいときには、吐出側通路18のうちパイロット絞り18dの上、下流側の圧力差が大きくなり、カムリング4とロータ3の偏心量が減少するから、ポンプ吐出量が比較的少なくなるようになっている。
【0019】
また、スプール20の内部にはリリーフバルブ20cが設けられ、該リリーフバルブ20cを介して中圧室19bと低圧室19cが連通可能になっている。なお、第1パイロット圧通路23の途中にはパイロット絞り23aが設けられていて、リリーフバルブ20cのリリーフ動作時に、パイロット絞り23aによって中圧室19b内の油圧を降下させることでポンプ吐出量を減少させるようになっている。
【0020】
さらに、バルブ孔19の一方側端部にはソレノイド22を支持する略段付円筒状のプラグ部材29がねじ込み固定されていて、ソレノイド22の可動部材であるソレノイドロッド22aの先端がスプール20に組み付けられたプッシュロッド30の先端に連結されている。
そして、ソレノイド22は、その通電量を大きくするほど、プッシュロッド30を一方側(図1で右方向)へ引き込む力が増大するように設定されている。したがって、ソレノイド22の通電量を増大すると、プッシュロッド30を一方側へ移動させる推力が増大してポンプ吐出量が減少し、ソレノイド22の通電量を減少すると、プッシュロッド30を一方側へ移動させる推力が減少し、相対的に他方側(図1で左方向)に移動させる推力が増大してポンプ吐出量が増大する。
【0021】
したがって、図3のポンプ吐出量特性図に示すように、エンジン回転数感応型の可変容量型のベーンポンプ1において、ソレノイド22の通電量を増減制御することで、ポンプ吐出量を可変制御することができる。
なお、本実施形態とは逆に、特許文献1では、ソレノイド22への通電量を増大(減少)するとポンプ吐出量が増大(減少)するように、設定されている。特許文献1のように可変容量型ポンプをパワーステアリングのアシスト制御に適用する場合は、ソレノイドの故障時にソレノイドへの通電を遮断したときにポンプ吐出量を最小としてアシスト力が過大となることを抑制する要求があるためである。
【0022】
これに対し、本実施形態のように可変容量型ポンプをCVT変速機構50へのオイル供給に適用する場合は、ソレノイド22の故障時に通電を遮断したときに、変速機構の潤滑性能、冷却性能を満たすために、オイル供給量を十分に確保する要求がある。なお、変速用の作動油圧も確保される。したがって、本実施形態では、上記のようにソレノイド22の通電量が減少(増大)するにしたがって、ポンプ吐出量が増大(減少)するように設定するのである。
【0023】
なお、可変容量型ポンプをエンジン潤滑用のオイルポンプあるいはエンジン冷却用のウォータポンプとして使用する場合も、ソレノイド故障時にポンプ吐出量を確保する要求のため、本実施形態と同様、ソレノイドの通電遮断時に冷却水吐出量を最大とし、ソレノイドへの通電量が減少(増大)するにしたがって、ポンプ吐出量が増大(減少)するように設定する。
【0024】
図4は、上記可変容量型ポンプのソレノイド22の通電を制御してポンプ吐出量を制御すると共に、ソレノイドの故障判定及び故障時のフェールセーフ制御を行うシステムの構成を示す。
ソレノイド22は、駆動回路32と電気的に接続され、駆動回路32はCVT−CU(CVTコントロールユニット)33からの指令に基づいてソレノイド22に給電するようになっている。駆動回路32はリレー31を介して電源34と接続されている。
【0025】
CVT−CU33は目標電流演算部33bとフェール判定部33aを有し、目標電流演算部33bは、ポンプ回転数(エンジン回転数に比例)を検出するセンサ35、CVT変速機構50のライン圧を検出するセンサ36、ポンプから供給されるオイルの温度(油温)を検出するセンサ37などからの信号を入力し、これら信号に基づいて、CVT変速機構50各部へのオイル供給量を満たすポンプ吐出量を得られるようにソレノイド22の目標電流値を算出する。
【0026】
目標電流演算部33bによって算出した目標電流信号は、駆動回路32に出力され、駆動回路32は、ソレノイド22の実電流を目標電流に収束させるようにフィードバック制御する。
目標電流信号は、フェール判定部33aにも出力される。
フェール判定部33aは、目標電流演算部33bからの目標電流信号と、ソレノイド22に通電している実電流を検出する電流センサ38から実電流信号とを入力し、目標電流と実電流との比較判定結果に基づいて、リレー31に遮断指令信号を出力して駆動回路32とソレノイド22との電気的な接続を遮断する。
【0027】
また、駆動回路32とソレノイド22との電気的な接続を遮断したときに、フェール判定部33aからの信号により、その旨が警告表示部39にて警告表示される。警告表示部39としては、例えば、カーナビ、メータパネル内の警告灯、車載診断器などがある。
ここで、ハーネス不良等により過電流が流れてリレー31(の接点)が電源34にショートするような故障(以下、リレーON固着故障という)時には、駆動回路32にリレーコイルを遮断する操作を行ってもリレー31の接点は遮断されず、ソレノイド22の過電流状態が維持されてしまうこととなる。この場合、ポンプからのオイル供給量が不足して潤滑不足あるいは冷却不足を生じることとなる。
【0028】
そこで、本実施形態では、かかる事態に対処するため、過電流を検出したときは、リレー31を遮断する操作を行うと同時に、ポンプからのオイルが供給されるCVT変速機構50の運動量(回転機構の回転速度)を減少させて潤滑あるいは冷却に必要なオイル量を低減することにより、要求オイル量を確保できるように制御する。
具体的には、ECU(エンジンコントロールユニット)40のエンジン出力制限部40aが、CVT変速機構50を駆動するエンジンの出力を制限する制御を行う。
【0029】
かかるリレーの通電遮断制御、エンジン出力制限制御を含むフェールセーフ制御の詳細を、図5のフローチャートにしたがって説明する。
ステップS1では、電流センサ38の検出信号に基づいて、ソレノイド22に通電される実電流を読み込む。
ステップS2では、目標電流を加重平均演算などによってフィルタ処理(平滑化処理)する。フィルタ処理の理由については後述する。
【0030】
ステップS3では、実電流からフィルタ処理後の目標電流を減少した値が、所定値(閾値>0)より大きいか、つまり、過電流を生じているかを判定する。この判定の周期(当該フローの処理周期)は、実電流A/D変換のサンプリング周期以上に設定する。
ここで、目標電流がステップ的に変化した場合は、ソレノイドのインダクタンスにより、実電流が目標電流に収束するのに遅れ(時定数による位相ずれ)を生じるため、目標電流の変化直後は実電流との間に大きな偏差を生じる。したがって、目標電流をそのまま用いて上記判定を行うと過電流を生じていないのに生じていると誤判定することがある。
【0031】
そこで、本実施形態では、上記のように目標電流をフィルタ処理して目標電流がステップ的に変化した場合でも、フィルタ処理後の目標電流に変化の遅れを持たせる。これにより、上記の誤判定を抑制することができる。
なお、目標電流をフィルタ処理する代わりに、目標電流の変化後、所定時間の経過を待って位相ずれが解消されてから判定を行う構成としてもよいが、フィルタ処理方式の方が、速やかに判定できる。
【0032】
また、ステップS3での過電流の有無の判定は、ポンプ容量制御の診断、つまり、ポンプ吐出量が要求量を確保できているかの判定である。したがって、ソレノイド22への通電電流値以外でポンプ吐出量を検出して、該判定を行ってもよい。例えば、ポンプ吐出圧を検出し、目標吐出圧と比較して判定してもよい。
ステップS3で過電流を生じていると判定されたときは、ステップS4へ進んでフェールセーフフラグを1にセットした後、ステップS5へ進んでリレー31を遮断(リレーコイルへの通電を遮断)する操作を行う。
【0033】
上記リレー遮断操作によりリレー(の接点)が遮断されて、ソレノイド22への通電が遮断されれば、ポンプ吐出量を最大限増大させることができる。しかし、上述したリレーON固着故障時には、ソレノイド22への過電流状態が維持されてポンプ吐出量が不足し、CVT変速機構50の要求吐出量を満たせず、潤滑不良や冷却不良を生じる可能性がある。
【0034】
そこで、上記リレー遮断操作(第1フェールセーフ手段)と同時にステップS6で、エンジン出力を制限する制御(第2フェールセーフ手段)を行う。これにより、エンジン回転数したがってエンジン駆動されるCVT変速機構50内の運動量(回転機構の回転数等)が低減し、潤滑または冷却に必要なオイル量(ポンプ吐出量)が減少する。
なお、エンジン出力の制限は、例えば、エンジントルクまたはエンジン回転数をそれぞれ設定した制限目標値に近づける制御とすればよい。該制限目標値は、例えば、制限目標回転数を図3で、ポンプ吐出量が可変容量域の最小値に達するときのポンプ回転数(エンジン回転数)であるクラッキング回転数に設定してもよい。あるいは、該クラッキング回転数に基づいて、それ以下のポンプ回転数等に設定してもよい。
【0035】
例えば、過電流検出時点での潤滑性能あるいは冷却性能を満たすポンプの要求吐出量が、図3のA点に設定されていた場合、要求吐出量が可変容量域の最小吐出量以下のB点となるまで、エンジン出力を制限する。このように、エンジン出力を制限して要求ポンプ吐出量を低減することで、リレーON固着故障時でも確実にCVT変速機構50の潤滑性能、冷却性能を満たすことができる。
【0036】
また、エンジン出力を制限目標値に向けて徐々に制限するようにしてもよく、エンジン出力急減によるショックを抑制できる。例えば、ソレノイド22への通電電流値(ポンプ吐出量)に基づいて、エンジン出力(トルク,回転数)の時間当り減少量のリミット値を設定してエンジン出力を漸減制御することができる。
ステップS7では、目標電流を0または微小電流値にセットし、リレーが遮断されない場合でもソレノイド22の通電量を十分小さくしてポンプ吐出量を十分に増大させるように制御する。
【0037】
ステップS8では、カーナビ、メータパネル内の警告灯、車載診断器等により、上記ソレノイド11へ過電流を生じてポンプ吐出量不足の可能性がある旨を警告表示する。
しかし、リレーON固着故障では無い場合やエンジン出力制限後、リレーが正常に遮断動作してソレノイド22への通電が遮断された場合、あるいは、リレーON固着故障は継続されていても、過電流状態が解消され実電流が目標電流に接近してポンプ吐出量を確保できる状態に復帰した場合は、エンジン出力を制限する必要はなく、良好な運転性を得るためには制限を解除または緩和することが好ましい。
【0038】
そこで、上記のように、初回フローで過電流検出に応じたフェールセーフ処理を行った後、ソレノイド22の通電状態を監視しつつ、実電流が目標電流に収束してポンプ吐出量が確保できる状態を確認した場合は、エンジン出力の制限を解除または緩和する。
すなわち、リレーON固着故障で、目標電流を0または微小電流値に制御しても過電流が解消されない場合は、次回以降のフローで、実電流とフィルタ処理後目標電流とを比較するステップS3の判定が再度YESとなり、引き続きステップS4以降へ進んで、エンジン出力制限が継続される。
【0039】
一方、初回フローでステップS5でのリレー遮断処理が正常に行われて、ソレノイド22への通電が遮断された場合は、実電流値が0となる。したがって、この判定はNOとなってステップS9へ進む。
また、エンジン出力制限中に、リレーON固着故障が解消されリレー遮断処理が正常に行われた場合も、上述のようにステップS3の判定がNOとなって、ステップS9へ進む。
【0040】
さらに、リレーON固着故障は解消されないが、過電流が解消され、実電流が目標電流(0または微小電流値)から所定値以内の値まで減少した場合も、ステップS3の判定がNOとなって、ステップS9へ進む。
なお、初回のフローでソレノイド22の通電を制限する処理を行った後、2回目以降のフローのステップS3で判定を行うときは、通電制限処理による実電流の変化が現れるまでの時間を経過した後で行うようにすると、判定精度が向上する。
【0041】
ステップS9では、フェールセーフフラグが1にセットされているかを判定し、YESのときは、ステップS10へ進み、この状態となってから所定時間経過したかを判定する。
そして、所定時間経過したと判定されたときは、ステップS11へ進んでエンジン出力制限を解除または緩和する処理を行う。
【0042】
すなわち、ソレノイド22の通電電流が目標電流(0または微小電流値)に収束してポンプ吐出量を最大吐出量まで増大させることができるので、エンジン出力の制限を解除または緩和して十分な車両走行性能を確保する。
なお、ステップS3で過電流判定用に用いられる所定値は、簡易的には固定値に設定してよい。一方、運転状態に基づく要求ポンプ吐出量に応じて可変に設定してもよい。例えば、要求ポンプ吐出量が増大するほど、所定値を小さく設定する。このように所定値を設定すれば、実電流で定まる実ポンプ吐出量が運転状態に応じた要求ポンプ吐出量に近づくと、ステップS3の判定がNOとなってエンジン出力制限を解除または緩和する制御が行われる。したがって、エンジン出力を実ポンプ吐出量に応じた値に調整することができ、潤滑,冷却性能を満たしつつエンジン出力を高めることができる。ただし、例えば、電流が中間値(中間のポンプ吐出量)で固定されたときに、エンジン出力制限を解除または緩和した状態でエンジン出力が急激に増大した場合など過渡状態では、ポンプ吐出量が不足することが考えられる。そこで、このような過渡状態でも速やかにエンジン出力が制限されるように、ステップS3の所定値を、要求ポンプ吐出量に対して余裕を持たせた値(ポンプ吐出量増大側の小さめの電流値)に設定するのが好ましい。
【0043】
ここで、ステップS10の所定時間経過を判定する処理は必須ではないが、ステップS10を設けることにより、ステップS3での判定結果の変動によるエンジン出力の制限と制限の解除または緩和とを繰り返すハンチングの発生を抑制でき、安定した制御を行える。
また、エンジン出力制限の解除または緩和についても、出力制限状態から徐々に解除する、すなわち、出力を漸増させて急激な運転状態変化を抑制するようにしてもよい。さらに、完全に制限を解除せず、ステップS6で制限された出力の制限量に対し、所定割合(<1)だけ制限を解除、つまり制限を緩和する構成としてもよい。
【0044】
あるいは、所定以上の高出力状態では、ポンプ吐出量が不足して潤滑または冷却不足となる可能性がある。そこで、エンジン出力制限の解除または緩和を所定以上の高出力状態では禁止する構成としてもよい。このようにすれば、潤滑,冷却性能を満たしつつ出力をできるだけ高めることができる。
【0045】
以上説明してきたように、本実施形態によれば、ソレノイド22への過電流(ポンプ容量制御の異常)を検出したときに、ソレノイド22への通電を制限してポンプ吐出量を確保する制御を行うと同時に、リレーON固着故障等、該制御によってもポンプ吐出量を確保しがたい状況に備えて、エンジン出力を制限してCVT変速機構22の運動量を低減し、要求ポンプ吐出量を低減することで、潤滑または冷却性能を満たすことができる。
【0046】
また、エンジン出力制限後にポンプ容量制御が正常範囲に復帰したときは、エンジン出力制限を解除または緩和することにより、良好な運転性能を維持することができる。
なお、潤滑用と冷却用のオイル供給を、併用して制御する他、これらを独立して又は切り換えて制御するものに適用できることも勿論である。
また、上記実施形態では、過電流検出時にソレノイド22への通電を遮断してポンプ吐出量を最大限増大するようにしたが、ソレノイド22への通電を遮断せず、通電を行いつつ制限する構成としてもよい。例えば、ポンプ最大吐出量がフェールセーフ時の要求吐出量に比較して十分大きく設定されているような場合は、ソレノイド22の目標電流をフェールセーフ時の要求吐出量相当の値に設定して通電制御してもよい。なお、かかる制御を行っても過電流を解消できない場合があるので、エンジン出力制限を併用する。
【0047】
また、過電流検出時であっても、所定以上の高負荷状態、例えば、可変容量域での最小ポンプ吐出量では、潤滑または冷却不足となる高負荷状態のときのみ、ソレノイド22への通電を制限し、エンジン出力を制限するフェールセーフ制御を行う構成としてもよい。
このようにすれば、必要時以外のポンプ吐出量増大による燃費の悪化、エンジン出力制限による運転性悪化を抑制できる。
【0048】
また、上記実施形態では、可変容量型ポンプをCVT変速機構へのオイル供給用として使用したものを示したが、トルクコンバータ付きの自動変速機、あるいは有段式変速機のオイルポンプとして使用するものにも、同様に適用でき、同様の効果が得られることは勿論である。
また、上述したように、可変容量型ポンプをエンジンのウォータポンプとして冷却水供給に使用するものにも適用でき、同様の効果を得られる。すなわち、ポンプ容量制御の異常検出時に、冷却水供給量を増大する制御を行いつつ、エンジン出力を制限して要求冷却量を減少して冷却性能を確保でき、必要なポンプ容量が確保されると判定したときは、エンジン制限を解除または緩和して運転性を良好に維持することができる。
【0049】
更に、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0050】
(イ)請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の可変容量型ポンプの制御装置であって、
前記異常診断手段は、ポンプ容量制御の異常の有無を、前記電動アクチュエータの目標電流と実電流との比較によって判定する。
かかる構成とすれば、電動アクチュエータの通電量の異常によって、ポンプ容量制御の異常の有無を、容易にかつ適確に診断できる。
【0051】
(ロ)前記(イ)に記載の可変容量型ポンプの制御装置であって、
前記異常診断手段は、ポンプ容量制御の異常の有無を、前記電動アクチュエータの目標電流をフィルタ処理した値と実電流との比較によって判定する。
かかる構成とすれば、電動アクチュエータがソレノイドで構成され、実電流が目標電流に収束するのに遅れ(時定数による位相ずれ)を生じる場合でも、フィルタ処理後の目標電流に変化の遅れを持たせることにより、誤判定を抑制することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…可変容量型ベーンポンプ、21…制御バルブ、22…ソレノイド、31…リレー、
32…駆動回路、33…CVT−CU(CVTコントロールユニット)、33a…フェール判定部、33b…目標電流演算部、34…電源、35…ポンプ回転数センサ、37…電流センサ、39…警告表示部、40…ECU(エンジンコントロールユニット)、40a…エンジン出力制限部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ本体に付属する制御弁を駆動する電動アクチュエータへの通電量を制御して、ポンプ容量を可変制御する車両用の可変容量型ポンプの制御装置であって、
前記ポンプ容量制御の異常を診断する異常診断手段と、
前記異常診断手段により前記ポンプ容量制御の異常を検出したときに、前記電動アクチュエータへの通電を制限する操作を行うと共に、前記ポンプ本体から吐出される作動流体の供給対象の運動量を制限する第1フェールセーフ手段と、
前記第1フェールセーフ手段による前記供給対象の運転制限後に、必要なポンプ容量が確保されると判定したときは、前記供給対象の運転の制限を解除または緩和する第2フェールセーフ手段と、
を含んで構成したことを特徴とする可変容量型ポンプの制御装置。
【請求項2】
前記電動アクチュエータは、通電量の減少に応じて前記ポンプ本体からの吐出量が増大する特性に設定されている請求項1に記載の可変容量型ポンプの制御装置。
【請求項3】
前記作動流体は、オイル又は冷却水である請求項1または請求項2に記載の可変容量型ポンプの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−67642(P2012−67642A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211592(P2010−211592)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】