説明

車両用変速機

【課題】変速機構を容易な構造として小型化するとともに、変速時間の短縮を図ることを目的とする。
【解決手段】本発明は、インプット軸3と、インプット軸3に平行なカウンタ軸4と、インプット軸3及びカウンタ軸4上に配設され、互いに常時噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の歯車対と、複数の歯車対のそれぞれ一方の歯車に設けられ、インプット軸3からカウンタ軸4へ回転を伝達して駆動する状態と、カウンタ軸4からインプット軸3へ回転を伝達して駆動する状態と、空転して回転を伝達しない状態とに切り替えることができるツーウェイクラッチ20と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の変速機構として、複数の歯車組を備え、これら歯車組を選択的に伝動可能にする噛合機構のカップリングスリーブを、その外周条溝に係合させたシフトフォークによりカップリングスリーブ軸線方向に変位させて所定の変速段を選択し得るように構成されたマニュアルトランスミッション機構が知られている(例えば、従来文献1)。
【特許文献1】特開2005−265136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前述したマニュアルトランスミッション機構は、歯車間に配して設けられた噛合機構を左右に変位させることで、所定の変速段を選択する構成となっていた。そのため、変速段の段数に比例して噛合機構の数が増加し、マニュアルトランスミッション機構が大型化するという問題があった。
【0004】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、変速機構を容易な構造として小型化するとともに、変速時間の短縮を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インプット軸と、前記インプット軸に平行なカウンタ軸と、前記インプット軸及びカウンタ軸上に配設され、互いに常時噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の歯車対と、前記複数の歯車対のそれぞれ一方の歯車に設けられ、前記インプット軸から前記カウンタ軸へ回転を伝達して駆動する状態と、前記カウンタ軸から前記インプット軸へ回転を伝達して駆動する状態と、空転して回転を伝達しない状態とに切り替えることができるツーウェイクラッチと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、ツーウェイクラッチを、インプット軸からカウンタ軸へ回転を伝達して駆動する状態と、カウンタ軸からインプット軸へ回転を伝達して駆動する状態と、空転して回転を伝達しない状態とに切り替えることで、容易にしかも瞬時に変速が可能となる。また、構造が極めて複雑な噛合機構やシフトフォークなどが不要となり、重量やサイズのコンパクト化を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0008】
図1は本発明による変速機1を車両の動力伝達経路に設けた動力伝達システムの概略構成図である。
【0009】
エンジン2は内燃機関などの原動機であり駆動力を発生する。エンジン2は駆動力を変速機1のインプット軸3に入力する。エンジン2と変速機1との間には、クラッチ7が配設される。クラッチ7を接続することで、エンジン2の駆動力を、変速機1のカウンタ軸4を介して車輪8に伝達する。一方、クラッチ7を解放することで、エンジン2からの駆動力を遮断する。
【0010】
変速機1は、入力されたエンジン2の駆動力を、車両走行状況によって選択される変速段に応じて増減速させて出力する。
【0011】
変速機1は、インプット軸3とこれに平行なカウンタ軸4とを備える。インプット軸3には歯車5a〜5cが配設され、カウンタ軸4には歯車6a〜6cが配設されている。歯車5a〜5c及び6a〜6のそれぞれは、例えば5aと6a、5bと6b、5cと6cというように対向する歯車が互いに常時噛み合って複数の歯車対を構成する。各歯車対は、それぞれ異なる変速比となるように設定される。変速比の大きいものから順に第1速〜第3速とし、本実施形態では、歯車対5aと6aが第1速、5bと6bが第2速、5cと6cが第3速である。なお、後進段については図示省略している。後進段の場合は、歯車対の間にピニオン歯車を挿入すればよい。
【0012】
歯車5a〜5cは、インプット軸3に固定される。一方、これに対向する歯車6a〜6cは、カウンタ軸4に対し空転自在に設けられる。歯車6a〜6cのそれぞれには、その内径部にツーウェイクラッチ20が一体に設けられ、ツーウェイクラッチ20を介してカウンタ軸4に支持される。ツーウェイクラッチ20は、歯車6a〜6cを、カウンタ軸4に対して一方向側にのみ一体回転可能若しくは逆方向側に一体回転可能なワンウェイクラッチ状態とするか、空転状態とするかを切り替える。
【0013】
図2は歯車6a〜6cに設けられたツーウェイクラッチ20の基本的な構成を示す図である。
【0014】
ツーウェイクラッチ20は、2つの回転軸間で駆動力の伝達を断接する。ツーウェイクラッチ20は、動力の伝達及び遮断を行うローラクラッチ20aと、そのローラクラッチ20aを制御して結合する駆動部20bとを備える。
【0015】
ローラクラッチ20aは、駆動力が入力/出力される外輪部材22と、その駆動力を出力/入力する内輪部材21を備える。
【0016】
外輪部材22の外周部位には、歯車6が一体に形成され、エンジン2からの駆動力が、歯車6を介して外輪部材22に伝達される。外輪部材22の内周面22aは円形に形成される。この内周面22aがローラクラッチ20aのアウターを構成する。以下、内周面22aをアウターレース22aという。
【0017】
内輪部材21は、外輪部材22の内周に同軸的に配置される。内輪部材21は、その内周面21aをカウンタ軸4にスプライン嵌合する。内輪部材21の外周面21bには、複数のカム面21cが形成される。カム面21cは、およそ内輪部材21の外周形状が正多角形となるように均等な間隔で形成される。このカム面21cがローラクラッチ20aのインナーを構成する。以下、カム面21cをインナーレース21cという。
【0018】
内輪部材21と外輪部材22とを、このように形成することによって、インナーレース21cとアウターレース22aとの隙間が一部で幅狭となり、破線で区画して示したくさびが形成される。
【0019】
内輪部材21と外輪部材22との間には、くさびの係合子としての複数の円柱形のローラ23と、ローラ23を保持するリング状の保持器25が配置される。ローラ23は、保持器25によって周方向への移動が可能である。
【0020】
保持器25は、内輪部材21と外輪部材22との間に外嵌挿入され、内輪部材21に回転自在に支持される。保持器25には、周方向にインナーレース21cと同数のポケット25cが形成され、各ポケット25cにローラ23が組み込まれる。このようにして、保持器25は、各インナーレース21cに対応して配置されるローラ23を互いに等間隔に保持する。
【0021】
ローラ23の径は、インナーレース21cの中央付近における内輪部材21と外輪部材22との間の隙間Aより小さく、インナーレース21cの両端部(多角形の頂点)のくさび付近における内輪部材21と外輪部材22との間の隙間Bより大きい。
【0022】
したがって、ローラ23が、インナーレース21cの中央に位置するときは、ローラ23は自転可能となる。一方、ローラ23が、保持器25によって、インナーレース21cの中央部から正逆いずれかの周方向へ移動させられると、ローラ23は、内輪部材21と外輪部材22とのくさびに食い込む。これによって、内輪部材21と外輪部材22が係合し、内輪部材21と外輪部材22がロックする。
【0023】
また、保持器25には一対の突起部25a,25bが外輪部材22側に設けられる。
【0024】
一方の突起部25aの左右には外輪部材22に組み込まれた中立ばね31,32が配設される。中立ばね31,32は保持器25を相反する方向に押圧する。中立ばね31,32は、この押圧力によってローラ23がインナーレース21cの中央に位置するように、すなわち中立状態となるように保持器25を弾性保持する。
【0025】
他方の突起部25bには駆動部20bが構成される。他方の突起部25bの左右には、それと垂直にプランジャ35,36が取り付けられる。プランジャ35は、外輪部材22に固定支持されるソレノイドAを通電することで、軸方向に直進駆動してソレノイドAに吸着保持される。プランジャ35がソレノイドAに吸着保持されると、プランジャ35の直進運動によって、それと連結した保持器25が中立ばね31,32のバネ力に抗して中立状態から反時計方向に移動する。
【0026】
同様に、プランジャ36は、外輪部材22に固定支持されるソレノイドBを通電することで、軸方向に直進駆動してソレノイドBに吸着保持される。プランジャ36がソレノイドBに吸着保持されると、プランジャ36の直進運動によって、それと連結した保持器25が中立ばね31,32のバネ力に抗して中立状態から時計方向に移動する。
【0027】
ソレノイドA,Bへの通電は、外輪部材22の表面に固定されたスリップリング(図示せず)等を介して行う。また、ソレノイドA,Bへの通電は、マイクロコンピュータ等からなる制御ユニット(図面せず)によって制御する。
【0028】
図3はツーウェイクラッチ20の作用について説明する図である。以下、図3を参照してツーウェイクラッチ20の作用について詳述する。
【0029】
図3(A)は、ソレノイドA,Bが通電されていない状態のローラクラッチ20aを示している。このとき、ローラ23は、保持器25によって、インナーレース21cの中央に保持されている(中立状態)。その保持力は中立ばね31,32のばね力により与えられている。中立状態では、外輪部材22とローラ23の間にわずかな隙間が存在する。そのため、内輪部材21と外輪部材22とは、自由に相対回転できる。以下、この中立状態のことを「空転スタンバイ」という。
【0030】
図3(B)は、ソレノイドAが通電された状態のローラクラッチ20aを示している。ソレノイドAは、通電されるとプランジャ35を吸着保持する。そのため、プランジャ35の直進運動によって、それと連結した保持器25が中立ばね31,32のバネ力に抗して外輪部材22の回転方向(以下「正回転方向」という)とは逆方向(以下「逆回転方向」という)に移動する。外輪部材22の回転速度が、内輪部材21の回転速度と同じか又は相対的に遅ければ、ローラ23は、瞬時に逆回転方向のくさびに食い込み、内輪部材21と外輪部材22がロックする。
【0031】
この状態は、内輪部材21から外輪部材22を駆動する状態である。すなわち、内輪部材21からの正回転方向の逆入力トルクが外輪部材22に伝達され得る状態であり、例えば、エンジンブレーキが効いている時などの、カウンタ軸4からインプット軸3を駆動する状態である。以下、この状態のことを「スタンバイA」という。なお、外輪部材22の回転速度が、内輪部材21の回転速度に対して相対的に速ければ、内輪部材21と外輪部材22はロックせずに空転する。
【0032】
このようにスタンバイAとは、必ず、「外輪部材22の回転速度≧内輪部材21の回転速度」となるワンウェイクラッチ状態のことである。
【0033】
図3(C)は、ソレノイドBが通電された状態のローラクラッチ20aを示している。ソレノイドBは、通電されるとプランジャ36を吸着保持する。そのため、プランジャ36の直進運動によって、それと連結した保持器25が中立ばね31,32のバネ力に抗して正回転方向に移動する。このとき、外輪部材22の回転速度が、内輪部材21の回転速度と同じか又は相対的に速ければ、ローラ23は、瞬時に正回転方向のくさびに食い込み、内輪部材21と外輪部材22がロックする。
【0034】
この状態は、外輪部材22から内輪部材21を駆動する状態である。すなわち、アクセルを踏み込んで加速している場合などの、インプット軸3からカウンタ軸4を駆動する状態である。これにより、正回転方向の入力トルクが内輪部材21に伝達され、カウンタ軸4が同方向に回転する。以下、この状態のことを「スタンバイB」という。なお、外輪部材22の回転速度が、内輪部材21の回転速度に対して相対的に遅ければ、内輪部材21と外輪部材22はロックせずに空転する。
【0035】
このようにスタンバイBとは、必ず、「外輪部材22の回転速度≦内輪部材21の回転速度」となるワンウェイクラッチ状態のことである。
【0036】
次に本発明による変速制御について、図4〜図6を参照して説明する。
【0037】
図4は車両走行時の各歯車の状態を示した模式図である。インプット軸3の回転速度をα、カウンタ軸4上の歯車6a〜6cの回転速度(外輪部材22の回転速度)をそれぞれβ1、β2、β3、カウンタ軸4の回転速度(内輪部材21の回転速度)をγとする。歯車6a〜6cの回転速度β1〜β3は、インプット軸3の回転速度αによって一義的に定まり、変速比の関係から歯車6a〜6cの回転速度はβ1<β2<β3となる。また、カウンタ軸4の回転速度γは選択段に応じた回転速度となる。
【0038】
図5は、車両加速中に、第1速から第3速までシフトアップさせていった場合の各歯車6におけるツーウェイクラッチ20の状態を示した図である。
【0039】
図5(A)は、第1速走行時のツーウェイクラッチ20の状態を示している。第1速走行時では、第1速をスタンバイBの状態とし、第2速及び第3速を空転スタンバイとする。したがって、第1速のみがトルク伝達可能となり、エンジン2の駆動力は、第1速を介して出力される。
【0040】
第1速走行時では、第1速のみがスタンバイBの状態なので、第1速の歯車6aのローラクラッチ20aがロックする。すなわち、β1=γの状態である。
【0041】
図5(B)は、第2速走行時のツーウェイクラッチ20の状態を示している。第1速から第2速にシフトアップ変速するときは、第1速走行時の状態から第2速をスタンバイBの状態へ移行する。第1速はスタンバイBの状態を維持する。
【0042】
このように、第1速走行の状態(β1=γ)から第2速にシフトアップ変速するときは、第2速をスタンバイBの状態にする。そうすると、β1<β2なので、第2速の歯車6bの回転速度β2が、カウンタ軸4の回転速度γ(=β1)を超えることになる。したがって、第2速の歯車6bのローラクラッチ20aがロックされることになる。
【0043】
一方、第1速の歯車6aの回転速度β1は、カウンタ軸4の回転速度γ(=β2)より低くなる。すなわち、β1<γ(=β2)となる。したがって、第1速がスタンバイBの状態のままでも、第2速をスタンバイBの状態にすれば、第1速の歯車6aは空転することになる。
【0044】
上記の通り、車両加速中のシフトアップ変速では、第1速がスタンバイBの状態のままでも、第2速をスタンバイBの状態に移行すれば、第1速は空転することになる。したがって、第2速のみがトルク伝達可能となり、エンジン2の駆動力は、第2速を介して出力される。
【0045】
図5(C)は、第3速走行時のツーウェイクラッチ20の状態を示している。第2速から第3速にシフトアップ変速するときは、第2速走行時の状態から第3速をスタンバイBの状態へ移行する。第1速の状態から第2速にシフトアップ変速する場合と同様の理由で、第2速の状態から第3速にシフトアップ変速する場合も、第3速をスタンバイBの状態にすれば、第2速の歯車6bは空転することになる。したがって、第3速をスタンバイBの状態に移行すれば、第1速、第2速がともにスタンバイBの状態のままでも、第1速、第2速はともには空転することになる。これにより、第3速のみがトルク伝達可能となり、エンジン2の駆動力は、第3速を介して出力される。
【0046】
このように、車両加速中のシフトアップ時には、高速段側のツーウェイクラッチ20を通電して駆動状態(スタンバイB)に切り替えるだけで、低速段側を空転状態(空転スタンバイ)にすることなく変速が可能となる。つまり、低速段側のツーウェイクラッチ20に対して空転状態へ移行させる通電制御を行わないだけ、素早い変速が可能となる。
【0047】
また、車両加速中により強い駆動力を求める場合など、上記の状態からシフトダウン変速を行う場合においては、低速段側が駆動状態(スタンバイB)であるため、高速段側を空転状態(空転スタンバイ)に切り替えるだけで、変速が可能である。例えば、第3速から第2速にシフトダウン変速を行うときは、第3速をスタンバイBから空転スタンバイに切り替えるだけでよい。
【0048】
したがって、シフトアップ変速、シフトダウン変速ともに、素早い変速が可能となる。
【0049】
図6は、アクセルペダルが操作されていない車両の惰行走行や減速走行のようなコースト走行時に、第3速から第1速までシフトダウンさせていった場合の各歯車6におけるツーウェイクラッチ20の状態を示した図である。
【0050】
図6(A)は、第3速走行時のツーウェイクラッチ20の状態を示している。コースト走行時では、第3速をスタンバイBからスタンバイAの状態に切り替え、カウンタ軸4からインプット軸3を駆動する状態とする。さらに、第1速及び第2速をスタンバイBから空転スタンバイに切り替える。
【0051】
第3速のみがスタンバイAの状態なので、第3速の歯車6cのローラクラッチ20aがロックする。すなわち、β3=γの状態である。
【0052】
図6(B)は、第2速走行時のツーウェイクラッチ20の状態を示している。第3速から第2速にシフトダウン変速するときは、第3速走行時の状態から第2速をスタンバイAの状態へ移行させる。第3速はスタンバイAの状態を維持する。
【0053】
このように、コースト走行中における第3速走行の状態(β3=γ)から第2速にシフトダウン変速するときは、第2速をスタンバイAの状態にする。このとき、β2<β3なので、第2速の歯車6bの回転速度β2は、カウンタ軸4の回転速度γ(=β3)より低い状態である。したがって、第2速の歯車6bのローラクラッチ20aがロックされることになる。
【0054】
一方、第3速の歯車6cの回転速度β3は、カウンタ軸4の回転速度γ(=β2)より高くなる。すなわち、β3>γ(=β2)となる。したがって、第3速がスタンバイAの状態のままでも、第2速をスタンバイAの状態にすれば、第3速の歯車6cは空転することになる。
【0055】
上記の通り、コースト走行中のシフトダウン変速では、第3速がスタンバイAの状態のままでも、第2速をスタンバイAの状態に移行すれば、第3速は空転することになる。
【0056】
図6(C)は、第1速走行時のツーウェイクラッチ20の状態を示している。第2速から第1速にシフトダウン変速するときは、第2速走行時の状態から第1速をスタンバイAの状態へ移行させる。第3速の状態から第2速にシフトダウン変速する場合と同様の理由で、第2速の状態から第1速にシフトダウン変速する場合も、第1速をスタンバイAの状態にすれば、第2速の歯車6bは空転することになる。したがって、第1速をスタンバイAの状態に移行すれば、第2速、第3速がともにスタンバイAの状態のままでも、第2速、第3速はともには空転することになる。
【0057】
このように、コースト走行時のシフトダウン変速では、低速段側のツーウェイクラッチ20を駆動状態(スタンバイA)に切り替えるだけで、高速段側を空転状態(空転スタンバイ)にすることなく変速が可能となる。つまり、高速段側のツーウェイクラッチ20に対して、空転状態へ移行させる通電制御を行わないだけ、素早い変速が可能となる。
【0058】
また、下り坂を走行中に車速が上昇した場合など、エンジンブレーキが効いた状態(カウンタ軸4からインプット軸3を駆動する状態)のままシフトアップ変速を行う場合がある。このような走行中のシフトアップ変速においても、高速段側は駆動状態(スタンバイA)であるため、低速段側を空転状態に切り替えるだけで、変速が可能である。例えば、第2速でコースト走行中にシフトアップ変速を行うときは、第2速をスタンバイAから空転スタンバイに切り替えるだけでよい。
【0059】
したがって、コースト走行時においても、シフトアップ変速、シフトダウン変速ともに、素早い変速が可能となる。
【0060】
以上説明した本発明によれば、変速機1を構成する複数のツーウェイクラッチ20のうち、任意に選択した変速段に対応するツーウェイクラッチ20を通電することによって、インプット軸3からカウンタ軸4を駆動する状態と、カウンタ軸4からインプット軸3を駆動する状態と、駆動力を伝達しない状態とに切り替えることができる。
【0061】
したがって、従来のマニュアルトランスミッション機構のように、構造が極めて複雑な噛合機構やシフトフォークなどが不要となり、重量やサイズのコンパクト化を図れる。
【0062】
また、ソレノイドA,Bへの電流をON/OFF制御することにより、容易にしかも瞬時に変速が可能である。したがって、変速に油圧を使用する必要がないため、それだけエンジン負荷を軽減することでき、燃費を向上させることができる。
【0063】
車両加速中のシフトアップ変速時には、高速段側のツーウェイクラッチ20を駆動状態(スタンバイB)に切り替えるだけで、低速段側を空転状態(空転スタンバイ)にすることなく変速が可能となる。つまり、低速段側のツーウェイクラッチ20に対して、空転状態へ移行させる通電制御を行わないだけ、素早い変速が可能となる。また、車両加速中に、より強い駆動力を求める場合など、上記の状態からシフトダウン変速を行う場合においては、低速段側が駆動状態(スタンバイB)であるため、高速段側を空転状態(空転スタンバイ)に切り替えるだけで、変速が可能である。
【0064】
コースト走行時のシフトダウン変速では、低速段側のツーウェイクラッチ20を駆動状態(スタンバイA)に切り替えるだけで、高速段側を空転状態(空転スタンバイ)にすることなく変速が可能となる。つまり、高速段側のツーウェイクラッチ20に対して、空転状態へ移行させる通電制御を行わないだけ、素早い変速が可能となる。また、例えば下り坂の走行時に車速が上昇した場合など、エンジンブレーキが効いた状態(カウンタ軸4からインプット軸3を駆動する状態)のままシフトアップ変速を行う場合がある。このような走行中のシフトアップ変速においても、高速段側は駆動状態(スタンバイA)であるため、低速段側を空転状態に切り替えるだけで、変速が可能である。
【0065】
このように、本発明は、カウンタ軸4上の歯車6a〜6cのツーウェイクラッチ20を、車両走行状態に応じて、一方向側にのみ一体回転可能若しくは逆方向側に一体回転可能なワンウェイクラッチ状態とするか、空転状態とするかを切り替えるものである。したがって、単に変速時に、ツーウェイクラッチ20の空転、係合を切り替えるよりも、素早い変速を可能としている。
【0066】
また、変速時に発進クラッチの断接が不要なので、発進クラッチの断接に起因するショックや空走感が生じない。そのため、運転者の違和感を減らし、運転性が向上するとともに、発進クラッチの耐久性を向上させることができる。
【0067】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0068】
例えば、本実施形態では、ツーウェイクラッチをカウンタ軸上の歯車に設けて、カウンタ軸に対して空転可能としたが、インプット軸上の歯車に設けてもよい。変速段の段数も本実施形態と同じ段数に限られるものではない。また、外輪部材22の内周面22aにカム面を設けて、内輪部材21の外周面21bを円形に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明による動力伝達システムの概略構成図である。
【図2】ツーウェイクラッチ20の基本的な構成を示す図である。
【図3】ツーウェイクラッチ20の作用について説明する図である。
【図4】車両走行時の各歯車の状態を示した模式図である。
【図5】車両加速中に第1速から第3速までシフトアップさせていった場合の各歯車におけるツーウェイクラッチ20の状態を示した図である。
【図6】コースト走行時に第3速から第1速までシフトダウンさせていった場合の各歯車におけるツーウェイクラッチ20の状態を示した図である。
【符号の説明】
【0070】
3 インプット軸
4 カウンタ軸
5a〜5c 歯車
6a〜6c 歯車
20 ツーウェイクラッチ
20a ローラクラッチ
20b 駆動部
21a インナーレース
22a アウターレース
23 ローラ
25 保持器
31 中立ばね(ばね)
32 中立ばね(ばね)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプット軸と、
前記インプット軸に平行なカウンタ軸と、
前記インプット軸及びカウンタ軸上に配設され、互いに常時噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の歯車対と、
前記複数の歯車対のそれぞれ一方の歯車に設けられ、その歯車を前記インプット軸から前記カウンタ軸へ回転を伝達して駆動する状態と、前記カウンタ軸から前記インプット軸へ回転を伝達して駆動する状態と、空転して回転を伝達しない状態とに切り替えることができるツーウェイクラッチと、
を有する車両用変速機。
【請求項2】
前記ツーウェイクラッチは、
円筒形のアウターレースと、
複数のローラと、
前記複数のローラに対応した平面を有する多角形のインナーレースと、
前記複数のローラを円周方向に保持する保持器と、
前記保持器を所定位置に弾性保持するばねと、
前記保持器と連結して、前記保持器を正回転方向及び逆回転方向に駆動させて保持する駆動部と、
を備えること特徴とする請求項1に記載の車両用変速機。
【請求項3】
前記駆動部は、前記保持器を正回転方向に駆動させて保持することで前記ツーウェイクラッチを前記インプット軸から前記カウンタ軸へ回転を伝達して駆動する状態に切り替え、前記保持器を逆回転方向に駆動させて保持することで前記ツーウェイクラッチを前記カウンタ軸から前記インプット軸へ回転を伝達して駆動する状態に切り替える
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用変速機。
【請求項4】
前記駆動部は、電磁コイルの電磁力に基づく電流の断続制御によって前記保持器を駆動する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両用変速機。
【請求項5】
前記複数の歯車対のうち、所定の歯車対の前記ツーウェイクラッチの状態が、前記インプット軸から前記カウンタ軸へ回転を伝達して駆動する状態のときは、
前記所定の歯車対よりも変速比の大きい歯車対の前記ツーウェイクラッチの状態は、前記インプット軸から前記カウンタ軸へ回転を伝達して駆動する状態である
ことを特徴とする請求項1から4までのいずれか1つに記載の車両用変速機。
【請求項6】
前記複数の歯車対のうち、所定の歯車対の前記ツーウェイクラッチの状態が、前記カウンタ軸から前記インプット軸へ回転を伝達して駆動する状態のときは、
前記所定の歯車対よりも変速比の小さい歯車対の前記ツーウェイクラッチの状態は、前記カウンタ軸から前記インプット軸へ回転を伝達して駆動する状態である
ことを特徴とする請求項1から5までのいずれか1つに記載の車両用変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−298145(P2007−298145A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128203(P2006−128203)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】