車両用物体認識装置
【課題】車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視すること。
【解決手段】電磁波を放射すると共に該放射した電磁波の反射波を受信する電磁波放射受信手段(14、20)と、該電磁波放射受信手段が受信した反射波のデータに基づいて物標との距離及び横位置を含むデータを算出する物標位置データ算出手段(27)と、該物標位置データ算出手段の算出結果に基づいて車両周辺の物体を認識する物体認識手段(30)と、を備える車両用物体認識装置(1)であって、前記物体認識手段は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度に関する所定条件を満たす所定物体以外の物体については、第1の認識モードで障害物認識を行ない、前記所定物体については、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで障害物認識を行なうことを特徴とする。
【解決手段】電磁波を放射すると共に該放射した電磁波の反射波を受信する電磁波放射受信手段(14、20)と、該電磁波放射受信手段が受信した反射波のデータに基づいて物標との距離及び横位置を含むデータを算出する物標位置データ算出手段(27)と、該物標位置データ算出手段の算出結果に基づいて車両周辺の物体を認識する物体認識手段(30)と、を備える車両用物体認識装置(1)であって、前記物体認識手段は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度に関する所定条件を満たす所定物体以外の物体については、第1の認識モードで障害物認識を行ない、前記所定物体については、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで障害物認識を行なうことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車間距離制御や衝突安全制御に好適に用いられる装置であって、レーダー装置の出力に基づいて障害物を認識する車両用物体認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダー装置やカメラ等により車両前方の障害物を認識し、車間距離制御や衝突安全制御を行なう制御システムが実用化されている。車間距離制御とは、先行車両との車間距離が一定となるようにエンジンの出力を増減させるものであり、衝突安全制御とは、車両前方の障害物との衝突可能性を予測して、衝突を回避したり衝突の衝撃を軽減したりために、運転者への警告やブレーキ制御、シートベルト自動巻き取り制御等を行なうものである。
【0003】
このような制御システムにおいて用いられる車両の物標検出装置についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、歩行者等の反射波強度の低い物体については物体として認識するための条件である閾値を引き下げるものとしている。
【特許文献1】特開2006−284293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーダー装置等の出力は、一般的に、距離、相対速度、及び横位置(車両中心軸の延長線からの乖離)等である。物体認識装置の出力が車間距離制御に用いられる場合、レーダー装置の出力における横位置が先行車両の車幅分だけ変動し得るため、横位置に対してフィルター処理等を施して応答性を低くするのが通常である。
【0005】
しかしながら、このような処理を行なうと、道路を横断する歩行者等、横位置が現実に変化する傾向にある障害物を正確に認識できない場合が生じる。すなわち、歩行者等の実際の横位置が着々と変化しているにも拘わらず、物体認識装置の認識ロジックがこれを反映せず、当該歩行者等をロストする場合がある。この場合、ロストされた歩行者等は突然、新たに測定された位置に出現したかのように認識されるため、物体認識装置の出力が正確でないものとなってしまう。上記特許文献1に記載の装置では、こうした問題についての配慮はなされていない。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することが可能な車両用物体認識装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
電磁波を放射すると共に該放射した電磁波の反射波を受信する電磁波放射受信手段と、
該電磁波放射受信手段が受信した反射波のデータに基づいて物標との距離及び横位置を含むデータを算出する物標位置データ算出手段と、
該物標位置データ算出手段の算出結果に基づいて車両周辺の物体を認識する物体認識手段と、を備える車両用物体認識装置であって、
前記物体認識手段は、
前記電磁波放射受信手段における受信波強度に関する所定条件を満たす所定物体以外の物体については、第1の認識モードで物体認識を行ない、
前記所定物体については、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで物体認識を行なう、
ことを特徴とする、車両用物体認識装置である。
【0008】
この本発明の一態様によれば、電磁波放射受信手段における受信波強度に関する所定条件を満たす所定物体以外の物体については第1の認識モードで物体認識を行ない、所定物体については第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで物体認識を行なうため、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することができる。
【0009】
本発明の一態様において、
前記所定条件は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度が第1の閾値から該第1の閾値に比して大きい第2の閾値の間であることを含むものとしてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様において、
前記所定条件は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度が、連続して基準回数以上、第1の閾値から該第1の閾値に比して大きい第2の閾値の間となったことを含むものとしてもよい。
【0011】
この場合、
前記基準回数は、物体との距離に応じて変化する数であるものとしてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様において、
前記第2の閾値は、先行車両を認識する際に用いる閾値であるものとしてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様において、
前記所定条件は、当該物体の絶対速度が所定速度未満であることを更に含むものとしてもよい。
【0014】
また、本発明の一態様において、
前記第2の認識モードは、前記第1の認識モードにおける固定値のフィルターパラメータを障害物の接近に応じて変化させることにより、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性を高めた認識モードであるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することが可能な車両用物体認識装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の一実施例に係る車両用物体認識装置1について説明する。
【0018】
[構成]
図1は、車両用物体認識装置1の全体構成の一例を示す図である。車両用物体認識装置1は、主要な構成として、レーダー装置10と、情報処理装置30と、を備える。また、車両用物体認識装置1の出力を利用して制御を行なうものとして、車間距離制御用ECU(Electronic Control Unit)40と、衝突安全制御用ECU50と、を図示した。なお、車両用物体認識装置1は、レーダー装置10に情報処理装置30を加えたものとして表現したが、「情報処理装置30の機能を組み込んだレーダー装置」として構成されてもよい。また、情報処理装置30が車間距離制御用ECU40や衝突安全制御用ECU50に統合されてもよい。
【0019】
レーダー装置10は、例えば車両のフロントグリル部に配設されたミリ波レーダーである。レーダー装置10は、変調信号発生装置11と、VCO(Voltage-Controlled Oscillator)12と、第1アンプ13と、送信用アンテナ14と、第2アンプ15と、アレイアンテナ20と、スイッチ部21と、第3アンプ22と、ミキサー23と、第4アンプ24と、ローパスフィルター25と、A/D変換器26と、DSP(Digital Signal Processor)27と、を備える。
【0020】
変調信号発生装置11が三角波を変調した変調信号を出力すると、VCO12は、三角波の勾配に応じて周波数が増減するように変調された送信用信号を出力する。この送信用信号は第1アンプ13で増幅され、送信用アンテナ14により車両前方に放射される。送信用信号の一部は電力分配器により第2アンプ15で増幅されてミキサー23に出力される。
【0021】
アレイアンテナ20は、複数のアンテナ素子を有する。各アンテナ素子は、スイッチ部21により周期的に第3アンプ22以降の機器に接続される。従って、各アンテナ素子が受信した受信波信号は、順次選択されて第3アンプ22に出力される。第3アンプ22に出力された受信波信号は、第3アンプ22で増幅されてミキサー23に出力される。これにより、受信波信号がダウンコンバートされて、ビート信号が生成される。なお、スイッチ部21を有さず、全てのアンテナ素子の受信波信号に対してミキシング処理を行なってもよい。ビート信号は、第4アンプ24で増幅され、ローパスフィルター25を介してA/D変換機26に入力され、変調信号発生装置11の変調信号(又はVCO12の送信用信号)と同期したタイミングでデジタル信号に変換され、DSP27に出力される。
【0022】
DSP27は、入力されたデジタル信号に対してFM−CWレーダーの原理を適用して情報処理装置30が物体と認識する候補となる物標との距離及び相対速度を算出し、DBF(Digital Beam Forming)によって物標の方位角を算出する。そして、距離及び方位角から物標の横位置を算出し、距離、相対速度、及び横位置を情報処理装置30に出力する。横位置とは、車両中心軸の延長線からの乖離をいう(図2参照)。
【0023】
以下、FM−CWレーダーの原理について簡単に説明する。図3(A)は、送信波の周波数の変化と、距離Rの位置にあり相対速度が値ゼロの物体において反射された受信波の周波数の変化とを示したグラフであり、縦軸に周波数、横軸に時間をとっている。実線は送信信号周波数を示し、破線は受信信号周波数を示している。変調波の中心周波数はf0、周波数偏移幅はΔF、三角波の繰り返し周波数はfmとする。図4(A)は、目標物の相対速度が値ゼロでなく速度Vのときの受信波の周波数変化を示したグラフであり、実線は送信波の周波数を示し、破線は受信波の周波数を示している。なお、送信信号および座標軸の意義は図3(A)と同じである。
【0024】
図3(A)、図4(A)から、このような送信信号を放射しているときの受信信号は、目標物の相対速度が零のときには距離に応じた時間遅れT(T=2R/C:Cは光の速度)を受け、目標物の相対速度がVのときには距離に応じた時間遅れTと、相対速度に相当する周波数偏移Dを受けることが判る。なお、図4(A)に示す例は、受信信号周波数が同グラフにおいて上方に偏移しており、目標物が接近する場合を示している。
【0025】
この受信信号に対して送信信号の一部をミキシングすれば、ビート信号が得られる。図3(B)、図4(B)は、それぞれ目標物の相対速度が零のときとVのときのビート周波数を示すグラフであり、時間軸(横軸)はそれぞれ図3(A)、図4(A)とタイミングを一致させてある。
【0026】
相対速度が零のときのビート周波数をfr、相対速度に基づくドップラ周波数をfd、周波数が増加する区間(アップ区間)のビート周波数をfb1、周波数が減少する区間(ダウン区間)のビート周波数をfb2とすると、次式(1)、(2)が成立する。従って、変調サイクルのアップ区間とダウン区間のビート周波数fb1およびfb2を別々に測定すれば、次式(3)(4)からfrおよびfdを求めることができる。そして、frおよびfdが求まれば、目標物の距離Rと速度Vを次の(5)(6)式により求めることができる。なお、Cは光の速度である。
【0027】
fb1=fr−fd …(1)
fb2=fr+fd …(2)
fr=(fb1+fb2)/2 …(3)
fd=(fb1−fb2)/2 …(4)
R=(C/(4・ΔF・fm))・fr
…(5)
V=(C/(2・f0))・fd
…(6)
【0028】
次に、DBFについて概説する。図5に示す如く、レーダー装置10の中心方向Xに対して、角度θの方向から到来する電波を間隔dで配列されたアンテナ素子からなるアレーアンテナで受信する場合、素子アンテナ#1に対する電波の伝搬経路長に比して、素子アンテナ#2、#3…に対する伝搬経路長は、dsinθずつ長くなる。したがって、各素子アンテナが受信する電波の位相が、素子アンテナ#1が受信する電波の位相よりも(2πdsinθ)/λずつ遅れることとなる。λは電波の波長である。仮にこの遅れ分を移相器で修正すると、θ方向からの電波が全素子アンテナにおいて同位相で受信されることになり、指向性がθ方向に向けられたことになる。DBFは、こうした原理に基づいて位相、振幅変換を行なって各アンテナ素子の受信波を合成することにより、アンテナの指向性を形成する技術である。これにより、物標の方位角を求めることができる。
【0029】
なお、レーダー装置10は、上記説明した如きFM―CW方式及びDBF以外の方式を採用するミリ波レーダーであってもよいし、ミリ波レーダーに限らず、レーザーレーダーやソナー等を用いても構わない。
【0030】
情報処理装置30は、例えば、CPUを中心としてROMやRAM等がバスを介して相互に接続されたコンピューターユニットであり、その他、HDD(Hard Disc Drive)やDVD(Digital Versatile Disk)ドライブ、CD−ROMドライブ、フラッシュメモリ等の記憶装置やI/Oポート、タイマー、カウンター等を備える。ROMには、CPUが実行するプログラムやデータが格納されている。情報処理装置30には、車速信号等の車両状態信号が入力される。
【0031】
情報処理装置30は、レーダー装置10の一連の出力から同一物体と推定される物体を認識し、当該物体との距離、相対速度、横位置を特定して車間距離制御用ECU40や衝突安全制御用ECU50に出力する。以下、これについて説明する。
【0032】
[基本的認識手法]
車間距離制御の対象となる先行車両は、車幅分の横位置の幅を有する。これに対してレーダー装置10が電磁波を放射すると、レーダー装置10の出力における横位置が最大で先行車両の車幅分だけ変動する可能性がある(図6参照)。
【0033】
従って、情報処理装置30は、主に先行車両を認識するための認識モード(特許請求の範囲における第1の認識モード)として、物標の横位置に対して次式(7)〜(10)により表現される時系列フィルター処理を行なって、物体の横位置及び横方向速度を認識する(これらと距離及び相対速度を合わせて外部に出力する処理が、「物体を認識する」処理に相当する)。なお、これらの計算は、所定周期(例えばレーダー装置10の出力周期、又はレーダー装置10の電磁波放射周期に同期させる)をもって繰り返し演算される。従って、式中「前回」とは、繰り返し計算される過程における前回の演算結果を意味する。「横方向」とは、横位置の変動する方向をいう。なお、αfix、βfix、γfixは固定値である。
【0034】
(フィルター処理後の横位置)=(1−αfix・γfix)・(前回計算した予測横位置)+αfix・γfix・(レーダー装置10が出力した横位置) …(7)
(予測横方向速度)=(前回計算した予測横方向速度)+βfix・γfix・{(レーダー装置10が出力した横位置)−(前回計算した予測横位置)}/演算周期 …(8)
(予測横位置)=(フィルター処理後の横位置)+(予測横方向速度)・演算周期
…(9)
(フィルター処理後の横方向速度)=γfix・{(フィルター処理後の横位置)−(前回のフィルター処理後の横位置)}+(1−γfix)・(前回のフィルター処理後の横方向速度)
…(10)
【0035】
式(7)は、レーダー装置10が出力した横位置と、式(8)・(9)により横方向の予測速度を加味して予測される横位置(=前回計算した予測横位置)と、の加重平均をフィルター処理後の横位置とすることを意味する。式(8)は、レーダー装置10が出力した横位置と予測横位置との差分を所定の反映程度(βfix・γfix)で反映させて物体の横方向の速度を予測することを意味する。式(9)は、フィルター処理後の横位置に予測横方向速度を加味して次回の予測横位置とすることを意味する。
【0036】
このような処理を行なって、フィルター処理後の横位置を物体の横位置として出力すると、レーダー装置10が出力した横位置の変動に対して情報処理装置30が出力する横位置の応答性が低くなる。これにより、レーダー装置10の出力における横位置が大きく変動することにより同一物体でないと認識する(ロストする)という事態を抑制することができる。従って、レーダー装置10の出力における横位置が最大で先行車両の車幅分だけ変動しても、先行車両を同一の物体であると認識することとなり、出力の安定性を維持することができる。
【0037】
[横断歩行者等に対する認識手法]
ところが、道路を横断する歩行者等、横位置が現実に変化する傾向にある物体について上記第1の認識モードで物体認識を行なうと、歩行者等の実際の横位置が着々と変化しているにも拘わらず、上記「フィルター処理後の横位置」がこれに追いつかず、「フィルター処理後の横位置」が「レーダー装置10が出力した横位置」と大きく乖離することにより、当該歩行者等をロストする場合がある。この場合、ロストされた歩行者等は突然、新たに測定された位置に出現したかのように認識されるため、物体認識装置の出力が正確でないものとなってしまう。
【0038】
そこで、本実施例の情報処理装置30では、所定条件を満たす所定物体については、上記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで障害物認識を行なうこととした。
【0039】
所定条件とは、例えば、(A)物体の絶対速度が所定速度未満であり、且つ(B)連続して基準回数以上、レーダー装置10の当該物体に関する受信波強度が第1の閾値から第2の閾値の間となったこと(第1の閾値<第2の閾値)、と定義する。物体の絶対速度は、相対速度と自車両の車速の差分から概算値を求めればよい。歩行者と自車両の間に生じる相対速度は、大部分が自車両の車速に起因するものだからである。なお、より厳密に、相対位置の微分により得られる相対速度ベクトルから自車両の速度ベクトルを差し引く等してもよい。第2の閾値は、先行車両を認識する際に用いられる閾値である。なお、条件(B)については、単に「レーダー装置10の当該物体に関する受信波強度が第1の閾値から第2の閾値の間となったこと」と置換してもよい。
【0040】
このように所定条件を設定することにより、道路を横断する歩行者や自転車を適切に判別することができる。歩行者や自転車は車両の走行速度に比して十分に速度が低く、また電波の反射率が小さいからである。
【0041】
また、上記基準回数は、例えば、物体との距離に応じて変化する数である。図7は、物体との距離に応じて基準回数を変更するためのマップの一例である。当該マップは、情報処理装置30のROM等に予め格納されている。
【0042】
そして、第2の認識モードは、第1の認識モードにおける固定フィルターパラメータαfix、βfix、γfixを、障害物の接近に応じて変化する変動係数α、β、γに置換することにより、第1の認識モードに比して横位置応答性を高めた認識モードである。すなわち、次式(11)〜(14)に従ってフィルター処理後の横位置を決定する。
【0043】
(フィルター処理後の横位置)=(1−α・γ)・(前回計算した予測横位置)+α・γ・(レーダー装置10が出力した横位置) …(11)
(予測横方向速度)=(前回計算した予測横方向速度)+β・γ・{(レーダー装置10が出力した横位置)−(前回計算した予測横位置)}/演算周期 …(12)
(予測横位置)=(フィルター処理後の横位置)+(予測横方向速度)・演算周期
…(13)
(フィルター処理後の横方向速度)=γ・{(フィルター処理後の横位置)−(前回のフィルター処理後の横位置)}+(1−γ)・(前回のフィルター処理後の横方向速度)
…(14)
【0044】
変動係数α、βは、例えば図8に例示するマップに基づいて決定する。横軸のTTC(Time To Collision)は、距離を相対速度で除した衝突時間である。このように変動係数α、βを設定することにより、物体接近時において式(11)の右項の比重が高まり、従って、フィルター処理後の横位置が、レーダー装置10の出力した横位置をより大きく反映させることとなる。また、式(12)において、レーダー装置10が出力した横位置と前回計算した予測横位置との差分をより大きく反映させて予測横方向速度を求めるため、フィードバック制御におけるフィードバックゲインを大きくするような効果が得られ、予測横方向速度が実際の横方向速度により早く収束することとなる。これにより、式(13)で求める予測横位置とレーダー装置10の出力した横位置との乖離が小さくなる。これらにより、物体接近時の横位置応答性を高めることができる。なお、図8の如き数値マップを用いる場合、前述したαfixやβfixは、0コンマ2〜0コンマ5程度の値に設定しておくと、好適である。
【0045】
変動係数γは、例えば図9に例示するマップに基づいて決定する。これにより、予測横位置とレーダー装置10が出力した横位置が乖離するのに応じてレーダー装置10が出力した横位置の反映程度や予測横方向速度を求める際のフィードバックゲインを更に大きくすることになり、物体接近時の横位置応答性を更に高めることができる。
【0046】
実際の処理としては、例えば、変動係数α、β、γをマップを用いて導出する処理と、これらを式(11)〜(14)に適用して演算を行なう処理と、を交互に行なう。
【0047】
図10は、第1の認識モードと第2の認識モードを切替えるために、情報処理装置30が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【0048】
まず、自車両の車速が所定車速未満であるか否かを判定する(S100)。自車両の車速が所定車速未満である場合は、何も処理を行なわずに本フローの1ルーチンを終了する。この場合は、車間距離制御や衝突安全制御を行なう実益がないからである。
【0049】
次に、レーダー装置10が物標に関するデータを出力しているか否かを判定する(S102)。レーダー装置10が物標に関するデータを出力していない場合は、何も処理を行なわずに本フローの1ルーチンを終了する。
【0050】
レーダー装置10が物標に関するデータを出力している場合は、物体の絶対速度が所定速度未満であるか否かを判定し(S104)、連続して基準回数以上、レーダー装置10の当該物体に関する受信波強度が第1の閾値から第2の閾値の間となったか否かを判定する(S106)。S106の判定は、例えば一度条件を満たした際に情報処理装置30のRAMにフラグが設定され、これを参照することにより行なう。
【0051】
S104とS106の少なくとも一方において否定的な判定を得た場合は、第1の認識モードで物体認識を行なう(S108)。S104とS106の双方において肯定的な判定を得た場合は、第2の認識モードで物体認識を行なう(S110)。
【0052】
図11は、本実施例の車両用物体認識装置1が先行車両と横断歩行者等を適切に認識する様子を概念的に示す図である。このように、先行車両については第1の認識モードで物体認識を行ない、横断歩行者等については第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで物体認識を行なうため、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することができる。そして、これらの認識モードは、物体の絶対速度及び受信波強度に基づいて適切に切替え制御が行なわれる。
【0053】
[本装置の出力の利用例]
車間距離制御用ECU40は、車両用物体認識装置1が認識した物体(先行車両)との車間距離が一定となるように、スロットル開度調節等によってエンジンの出力を増減させるようにエンジン制御コンピューターに指示する。また、必要に応じて所望の制動力を出力するように、電子制御式ブレーキ装置に指示する。
【0054】
衝突安全制御用ECU50は、車両前方の物体との衝突可能性を前述したTTCや相対速度、横位置、その他の判断基準によって判断し、衝突を回避したり衝突の衝撃を軽減したりするために、運転者への警告を行なうようにスピーカーを制御したり、所望の制動力を出力するように電子制御式ブレーキ装置に指示したり、シートベルト自動巻き取り機構を制御して乗員をシートに拘束する等の制御を行なう。
【0055】
本実施例の車両用物体認識装置1は、単独のレーダー装置の出力を用いて物体認識を行ない、上記車間距離制御と衝突安全制御の双方に利用可能な結果を出力することができる。従って、これを搭載する車両では、複数のレーダー装置やカメラを搭載することによるコストや重量の増大を回避することができる。
【0056】
本実施例の車両用物体認識装置1によれば、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することができる。
【0057】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】車両用物体認識装置1の全体構成の一例を示す図である。
【図2】横位置について説明するための説明図である。
【図3】FM−CWレーダーの原理について説明するための説明図である。
【図4】FM−CWレーダーの原理について説明するための説明図である。
【図5】DBFについて説明するための説明図である。
【図6】先行車両に対して電磁波を放射すると、レーダー装置10の出力における横位置が最大で先行車両の車幅分だけ変動する様子を示す図である。
【図7】物体との距離に応じて基準回数を変更するためのマップの一例である。
【図8】変動係数α、βを決定するためのマップの一例である。
【図9】変動係数γを決定するためのマップの一例である。
【図10】第1の認識モードと第2の認識モードを切替えるために、情報処理装置30が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】本実施例の車両用物体認識装置1が先行車両と横断歩行者等を適切に認識する様子を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 車両用物体認識装置
10 レーダー装置
11 変調信号発生装置
12 VCO
13 第1アンプ
14 送信用アンテナ
15 第2アンプ
20 アレイアンテナ
21 スイッチ部
22 第3アンプ
23 ミキサー
24 第4アンプ
25 ローパスフィルター
26 A/D変換器
27 DSP
30 情報処理装置
40 車間距離制御用ECU
50 衝突安全制御用ECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、車間距離制御や衝突安全制御に好適に用いられる装置であって、レーダー装置の出力に基づいて障害物を認識する車両用物体認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダー装置やカメラ等により車両前方の障害物を認識し、車間距離制御や衝突安全制御を行なう制御システムが実用化されている。車間距離制御とは、先行車両との車間距離が一定となるようにエンジンの出力を増減させるものであり、衝突安全制御とは、車両前方の障害物との衝突可能性を予測して、衝突を回避したり衝突の衝撃を軽減したりために、運転者への警告やブレーキ制御、シートベルト自動巻き取り制御等を行なうものである。
【0003】
このような制御システムにおいて用いられる車両の物標検出装置についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、歩行者等の反射波強度の低い物体については物体として認識するための条件である閾値を引き下げるものとしている。
【特許文献1】特開2006−284293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーダー装置等の出力は、一般的に、距離、相対速度、及び横位置(車両中心軸の延長線からの乖離)等である。物体認識装置の出力が車間距離制御に用いられる場合、レーダー装置の出力における横位置が先行車両の車幅分だけ変動し得るため、横位置に対してフィルター処理等を施して応答性を低くするのが通常である。
【0005】
しかしながら、このような処理を行なうと、道路を横断する歩行者等、横位置が現実に変化する傾向にある障害物を正確に認識できない場合が生じる。すなわち、歩行者等の実際の横位置が着々と変化しているにも拘わらず、物体認識装置の認識ロジックがこれを反映せず、当該歩行者等をロストする場合がある。この場合、ロストされた歩行者等は突然、新たに測定された位置に出現したかのように認識されるため、物体認識装置の出力が正確でないものとなってしまう。上記特許文献1に記載の装置では、こうした問題についての配慮はなされていない。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することが可能な車両用物体認識装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
電磁波を放射すると共に該放射した電磁波の反射波を受信する電磁波放射受信手段と、
該電磁波放射受信手段が受信した反射波のデータに基づいて物標との距離及び横位置を含むデータを算出する物標位置データ算出手段と、
該物標位置データ算出手段の算出結果に基づいて車両周辺の物体を認識する物体認識手段と、を備える車両用物体認識装置であって、
前記物体認識手段は、
前記電磁波放射受信手段における受信波強度に関する所定条件を満たす所定物体以外の物体については、第1の認識モードで物体認識を行ない、
前記所定物体については、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで物体認識を行なう、
ことを特徴とする、車両用物体認識装置である。
【0008】
この本発明の一態様によれば、電磁波放射受信手段における受信波強度に関する所定条件を満たす所定物体以外の物体については第1の認識モードで物体認識を行ない、所定物体については第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで物体認識を行なうため、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することができる。
【0009】
本発明の一態様において、
前記所定条件は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度が第1の閾値から該第1の閾値に比して大きい第2の閾値の間であることを含むものとしてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様において、
前記所定条件は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度が、連続して基準回数以上、第1の閾値から該第1の閾値に比して大きい第2の閾値の間となったことを含むものとしてもよい。
【0011】
この場合、
前記基準回数は、物体との距離に応じて変化する数であるものとしてもよい。
【0012】
また、本発明の一態様において、
前記第2の閾値は、先行車両を認識する際に用いる閾値であるものとしてもよい。
【0013】
また、本発明の一態様において、
前記所定条件は、当該物体の絶対速度が所定速度未満であることを更に含むものとしてもよい。
【0014】
また、本発明の一態様において、
前記第2の認識モードは、前記第1の認識モードにおける固定値のフィルターパラメータを障害物の接近に応じて変化させることにより、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性を高めた認識モードであるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することが可能な車両用物体認識装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の一実施例に係る車両用物体認識装置1について説明する。
【0018】
[構成]
図1は、車両用物体認識装置1の全体構成の一例を示す図である。車両用物体認識装置1は、主要な構成として、レーダー装置10と、情報処理装置30と、を備える。また、車両用物体認識装置1の出力を利用して制御を行なうものとして、車間距離制御用ECU(Electronic Control Unit)40と、衝突安全制御用ECU50と、を図示した。なお、車両用物体認識装置1は、レーダー装置10に情報処理装置30を加えたものとして表現したが、「情報処理装置30の機能を組み込んだレーダー装置」として構成されてもよい。また、情報処理装置30が車間距離制御用ECU40や衝突安全制御用ECU50に統合されてもよい。
【0019】
レーダー装置10は、例えば車両のフロントグリル部に配設されたミリ波レーダーである。レーダー装置10は、変調信号発生装置11と、VCO(Voltage-Controlled Oscillator)12と、第1アンプ13と、送信用アンテナ14と、第2アンプ15と、アレイアンテナ20と、スイッチ部21と、第3アンプ22と、ミキサー23と、第4アンプ24と、ローパスフィルター25と、A/D変換器26と、DSP(Digital Signal Processor)27と、を備える。
【0020】
変調信号発生装置11が三角波を変調した変調信号を出力すると、VCO12は、三角波の勾配に応じて周波数が増減するように変調された送信用信号を出力する。この送信用信号は第1アンプ13で増幅され、送信用アンテナ14により車両前方に放射される。送信用信号の一部は電力分配器により第2アンプ15で増幅されてミキサー23に出力される。
【0021】
アレイアンテナ20は、複数のアンテナ素子を有する。各アンテナ素子は、スイッチ部21により周期的に第3アンプ22以降の機器に接続される。従って、各アンテナ素子が受信した受信波信号は、順次選択されて第3アンプ22に出力される。第3アンプ22に出力された受信波信号は、第3アンプ22で増幅されてミキサー23に出力される。これにより、受信波信号がダウンコンバートされて、ビート信号が生成される。なお、スイッチ部21を有さず、全てのアンテナ素子の受信波信号に対してミキシング処理を行なってもよい。ビート信号は、第4アンプ24で増幅され、ローパスフィルター25を介してA/D変換機26に入力され、変調信号発生装置11の変調信号(又はVCO12の送信用信号)と同期したタイミングでデジタル信号に変換され、DSP27に出力される。
【0022】
DSP27は、入力されたデジタル信号に対してFM−CWレーダーの原理を適用して情報処理装置30が物体と認識する候補となる物標との距離及び相対速度を算出し、DBF(Digital Beam Forming)によって物標の方位角を算出する。そして、距離及び方位角から物標の横位置を算出し、距離、相対速度、及び横位置を情報処理装置30に出力する。横位置とは、車両中心軸の延長線からの乖離をいう(図2参照)。
【0023】
以下、FM−CWレーダーの原理について簡単に説明する。図3(A)は、送信波の周波数の変化と、距離Rの位置にあり相対速度が値ゼロの物体において反射された受信波の周波数の変化とを示したグラフであり、縦軸に周波数、横軸に時間をとっている。実線は送信信号周波数を示し、破線は受信信号周波数を示している。変調波の中心周波数はf0、周波数偏移幅はΔF、三角波の繰り返し周波数はfmとする。図4(A)は、目標物の相対速度が値ゼロでなく速度Vのときの受信波の周波数変化を示したグラフであり、実線は送信波の周波数を示し、破線は受信波の周波数を示している。なお、送信信号および座標軸の意義は図3(A)と同じである。
【0024】
図3(A)、図4(A)から、このような送信信号を放射しているときの受信信号は、目標物の相対速度が零のときには距離に応じた時間遅れT(T=2R/C:Cは光の速度)を受け、目標物の相対速度がVのときには距離に応じた時間遅れTと、相対速度に相当する周波数偏移Dを受けることが判る。なお、図4(A)に示す例は、受信信号周波数が同グラフにおいて上方に偏移しており、目標物が接近する場合を示している。
【0025】
この受信信号に対して送信信号の一部をミキシングすれば、ビート信号が得られる。図3(B)、図4(B)は、それぞれ目標物の相対速度が零のときとVのときのビート周波数を示すグラフであり、時間軸(横軸)はそれぞれ図3(A)、図4(A)とタイミングを一致させてある。
【0026】
相対速度が零のときのビート周波数をfr、相対速度に基づくドップラ周波数をfd、周波数が増加する区間(アップ区間)のビート周波数をfb1、周波数が減少する区間(ダウン区間)のビート周波数をfb2とすると、次式(1)、(2)が成立する。従って、変調サイクルのアップ区間とダウン区間のビート周波数fb1およびfb2を別々に測定すれば、次式(3)(4)からfrおよびfdを求めることができる。そして、frおよびfdが求まれば、目標物の距離Rと速度Vを次の(5)(6)式により求めることができる。なお、Cは光の速度である。
【0027】
fb1=fr−fd …(1)
fb2=fr+fd …(2)
fr=(fb1+fb2)/2 …(3)
fd=(fb1−fb2)/2 …(4)
R=(C/(4・ΔF・fm))・fr
…(5)
V=(C/(2・f0))・fd
…(6)
【0028】
次に、DBFについて概説する。図5に示す如く、レーダー装置10の中心方向Xに対して、角度θの方向から到来する電波を間隔dで配列されたアンテナ素子からなるアレーアンテナで受信する場合、素子アンテナ#1に対する電波の伝搬経路長に比して、素子アンテナ#2、#3…に対する伝搬経路長は、dsinθずつ長くなる。したがって、各素子アンテナが受信する電波の位相が、素子アンテナ#1が受信する電波の位相よりも(2πdsinθ)/λずつ遅れることとなる。λは電波の波長である。仮にこの遅れ分を移相器で修正すると、θ方向からの電波が全素子アンテナにおいて同位相で受信されることになり、指向性がθ方向に向けられたことになる。DBFは、こうした原理に基づいて位相、振幅変換を行なって各アンテナ素子の受信波を合成することにより、アンテナの指向性を形成する技術である。これにより、物標の方位角を求めることができる。
【0029】
なお、レーダー装置10は、上記説明した如きFM―CW方式及びDBF以外の方式を採用するミリ波レーダーであってもよいし、ミリ波レーダーに限らず、レーザーレーダーやソナー等を用いても構わない。
【0030】
情報処理装置30は、例えば、CPUを中心としてROMやRAM等がバスを介して相互に接続されたコンピューターユニットであり、その他、HDD(Hard Disc Drive)やDVD(Digital Versatile Disk)ドライブ、CD−ROMドライブ、フラッシュメモリ等の記憶装置やI/Oポート、タイマー、カウンター等を備える。ROMには、CPUが実行するプログラムやデータが格納されている。情報処理装置30には、車速信号等の車両状態信号が入力される。
【0031】
情報処理装置30は、レーダー装置10の一連の出力から同一物体と推定される物体を認識し、当該物体との距離、相対速度、横位置を特定して車間距離制御用ECU40や衝突安全制御用ECU50に出力する。以下、これについて説明する。
【0032】
[基本的認識手法]
車間距離制御の対象となる先行車両は、車幅分の横位置の幅を有する。これに対してレーダー装置10が電磁波を放射すると、レーダー装置10の出力における横位置が最大で先行車両の車幅分だけ変動する可能性がある(図6参照)。
【0033】
従って、情報処理装置30は、主に先行車両を認識するための認識モード(特許請求の範囲における第1の認識モード)として、物標の横位置に対して次式(7)〜(10)により表現される時系列フィルター処理を行なって、物体の横位置及び横方向速度を認識する(これらと距離及び相対速度を合わせて外部に出力する処理が、「物体を認識する」処理に相当する)。なお、これらの計算は、所定周期(例えばレーダー装置10の出力周期、又はレーダー装置10の電磁波放射周期に同期させる)をもって繰り返し演算される。従って、式中「前回」とは、繰り返し計算される過程における前回の演算結果を意味する。「横方向」とは、横位置の変動する方向をいう。なお、αfix、βfix、γfixは固定値である。
【0034】
(フィルター処理後の横位置)=(1−αfix・γfix)・(前回計算した予測横位置)+αfix・γfix・(レーダー装置10が出力した横位置) …(7)
(予測横方向速度)=(前回計算した予測横方向速度)+βfix・γfix・{(レーダー装置10が出力した横位置)−(前回計算した予測横位置)}/演算周期 …(8)
(予測横位置)=(フィルター処理後の横位置)+(予測横方向速度)・演算周期
…(9)
(フィルター処理後の横方向速度)=γfix・{(フィルター処理後の横位置)−(前回のフィルター処理後の横位置)}+(1−γfix)・(前回のフィルター処理後の横方向速度)
…(10)
【0035】
式(7)は、レーダー装置10が出力した横位置と、式(8)・(9)により横方向の予測速度を加味して予測される横位置(=前回計算した予測横位置)と、の加重平均をフィルター処理後の横位置とすることを意味する。式(8)は、レーダー装置10が出力した横位置と予測横位置との差分を所定の反映程度(βfix・γfix)で反映させて物体の横方向の速度を予測することを意味する。式(9)は、フィルター処理後の横位置に予測横方向速度を加味して次回の予測横位置とすることを意味する。
【0036】
このような処理を行なって、フィルター処理後の横位置を物体の横位置として出力すると、レーダー装置10が出力した横位置の変動に対して情報処理装置30が出力する横位置の応答性が低くなる。これにより、レーダー装置10の出力における横位置が大きく変動することにより同一物体でないと認識する(ロストする)という事態を抑制することができる。従って、レーダー装置10の出力における横位置が最大で先行車両の車幅分だけ変動しても、先行車両を同一の物体であると認識することとなり、出力の安定性を維持することができる。
【0037】
[横断歩行者等に対する認識手法]
ところが、道路を横断する歩行者等、横位置が現実に変化する傾向にある物体について上記第1の認識モードで物体認識を行なうと、歩行者等の実際の横位置が着々と変化しているにも拘わらず、上記「フィルター処理後の横位置」がこれに追いつかず、「フィルター処理後の横位置」が「レーダー装置10が出力した横位置」と大きく乖離することにより、当該歩行者等をロストする場合がある。この場合、ロストされた歩行者等は突然、新たに測定された位置に出現したかのように認識されるため、物体認識装置の出力が正確でないものとなってしまう。
【0038】
そこで、本実施例の情報処理装置30では、所定条件を満たす所定物体については、上記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで障害物認識を行なうこととした。
【0039】
所定条件とは、例えば、(A)物体の絶対速度が所定速度未満であり、且つ(B)連続して基準回数以上、レーダー装置10の当該物体に関する受信波強度が第1の閾値から第2の閾値の間となったこと(第1の閾値<第2の閾値)、と定義する。物体の絶対速度は、相対速度と自車両の車速の差分から概算値を求めればよい。歩行者と自車両の間に生じる相対速度は、大部分が自車両の車速に起因するものだからである。なお、より厳密に、相対位置の微分により得られる相対速度ベクトルから自車両の速度ベクトルを差し引く等してもよい。第2の閾値は、先行車両を認識する際に用いられる閾値である。なお、条件(B)については、単に「レーダー装置10の当該物体に関する受信波強度が第1の閾値から第2の閾値の間となったこと」と置換してもよい。
【0040】
このように所定条件を設定することにより、道路を横断する歩行者や自転車を適切に判別することができる。歩行者や自転車は車両の走行速度に比して十分に速度が低く、また電波の反射率が小さいからである。
【0041】
また、上記基準回数は、例えば、物体との距離に応じて変化する数である。図7は、物体との距離に応じて基準回数を変更するためのマップの一例である。当該マップは、情報処理装置30のROM等に予め格納されている。
【0042】
そして、第2の認識モードは、第1の認識モードにおける固定フィルターパラメータαfix、βfix、γfixを、障害物の接近に応じて変化する変動係数α、β、γに置換することにより、第1の認識モードに比して横位置応答性を高めた認識モードである。すなわち、次式(11)〜(14)に従ってフィルター処理後の横位置を決定する。
【0043】
(フィルター処理後の横位置)=(1−α・γ)・(前回計算した予測横位置)+α・γ・(レーダー装置10が出力した横位置) …(11)
(予測横方向速度)=(前回計算した予測横方向速度)+β・γ・{(レーダー装置10が出力した横位置)−(前回計算した予測横位置)}/演算周期 …(12)
(予測横位置)=(フィルター処理後の横位置)+(予測横方向速度)・演算周期
…(13)
(フィルター処理後の横方向速度)=γ・{(フィルター処理後の横位置)−(前回のフィルター処理後の横位置)}+(1−γ)・(前回のフィルター処理後の横方向速度)
…(14)
【0044】
変動係数α、βは、例えば図8に例示するマップに基づいて決定する。横軸のTTC(Time To Collision)は、距離を相対速度で除した衝突時間である。このように変動係数α、βを設定することにより、物体接近時において式(11)の右項の比重が高まり、従って、フィルター処理後の横位置が、レーダー装置10の出力した横位置をより大きく反映させることとなる。また、式(12)において、レーダー装置10が出力した横位置と前回計算した予測横位置との差分をより大きく反映させて予測横方向速度を求めるため、フィードバック制御におけるフィードバックゲインを大きくするような効果が得られ、予測横方向速度が実際の横方向速度により早く収束することとなる。これにより、式(13)で求める予測横位置とレーダー装置10の出力した横位置との乖離が小さくなる。これらにより、物体接近時の横位置応答性を高めることができる。なお、図8の如き数値マップを用いる場合、前述したαfixやβfixは、0コンマ2〜0コンマ5程度の値に設定しておくと、好適である。
【0045】
変動係数γは、例えば図9に例示するマップに基づいて決定する。これにより、予測横位置とレーダー装置10が出力した横位置が乖離するのに応じてレーダー装置10が出力した横位置の反映程度や予測横方向速度を求める際のフィードバックゲインを更に大きくすることになり、物体接近時の横位置応答性を更に高めることができる。
【0046】
実際の処理としては、例えば、変動係数α、β、γをマップを用いて導出する処理と、これらを式(11)〜(14)に適用して演算を行なう処理と、を交互に行なう。
【0047】
図10は、第1の認識モードと第2の認識モードを切替えるために、情報処理装置30が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【0048】
まず、自車両の車速が所定車速未満であるか否かを判定する(S100)。自車両の車速が所定車速未満である場合は、何も処理を行なわずに本フローの1ルーチンを終了する。この場合は、車間距離制御や衝突安全制御を行なう実益がないからである。
【0049】
次に、レーダー装置10が物標に関するデータを出力しているか否かを判定する(S102)。レーダー装置10が物標に関するデータを出力していない場合は、何も処理を行なわずに本フローの1ルーチンを終了する。
【0050】
レーダー装置10が物標に関するデータを出力している場合は、物体の絶対速度が所定速度未満であるか否かを判定し(S104)、連続して基準回数以上、レーダー装置10の当該物体に関する受信波強度が第1の閾値から第2の閾値の間となったか否かを判定する(S106)。S106の判定は、例えば一度条件を満たした際に情報処理装置30のRAMにフラグが設定され、これを参照することにより行なう。
【0051】
S104とS106の少なくとも一方において否定的な判定を得た場合は、第1の認識モードで物体認識を行なう(S108)。S104とS106の双方において肯定的な判定を得た場合は、第2の認識モードで物体認識を行なう(S110)。
【0052】
図11は、本実施例の車両用物体認識装置1が先行車両と横断歩行者等を適切に認識する様子を概念的に示す図である。このように、先行車両については第1の認識モードで物体認識を行ない、横断歩行者等については第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで物体認識を行なうため、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することができる。そして、これらの認識モードは、物体の絶対速度及び受信波強度に基づいて適切に切替え制御が行なわれる。
【0053】
[本装置の出力の利用例]
車間距離制御用ECU40は、車両用物体認識装置1が認識した物体(先行車両)との車間距離が一定となるように、スロットル開度調節等によってエンジンの出力を増減させるようにエンジン制御コンピューターに指示する。また、必要に応じて所望の制動力を出力するように、電子制御式ブレーキ装置に指示する。
【0054】
衝突安全制御用ECU50は、車両前方の物体との衝突可能性を前述したTTCや相対速度、横位置、その他の判断基準によって判断し、衝突を回避したり衝突の衝撃を軽減したりするために、運転者への警告を行なうようにスピーカーを制御したり、所望の制動力を出力するように電子制御式ブレーキ装置に指示したり、シートベルト自動巻き取り機構を制御して乗員をシートに拘束する等の制御を行なう。
【0055】
本実施例の車両用物体認識装置1は、単独のレーダー装置の出力を用いて物体認識を行ない、上記車間距離制御と衝突安全制御の双方に利用可能な結果を出力することができる。従って、これを搭載する車両では、複数のレーダー装置やカメラを搭載することによるコストや重量の増大を回避することができる。
【0056】
本実施例の車両用物体認識装置1によれば、車間距離制御に対する適応性を維持しつつ、道路を横断する歩行者等の所定物体を適切に監視することができる。
【0057】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】車両用物体認識装置1の全体構成の一例を示す図である。
【図2】横位置について説明するための説明図である。
【図3】FM−CWレーダーの原理について説明するための説明図である。
【図4】FM−CWレーダーの原理について説明するための説明図である。
【図5】DBFについて説明するための説明図である。
【図6】先行車両に対して電磁波を放射すると、レーダー装置10の出力における横位置が最大で先行車両の車幅分だけ変動する様子を示す図である。
【図7】物体との距離に応じて基準回数を変更するためのマップの一例である。
【図8】変動係数α、βを決定するためのマップの一例である。
【図9】変動係数γを決定するためのマップの一例である。
【図10】第1の認識モードと第2の認識モードを切替えるために、情報処理装置30が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】本実施例の車両用物体認識装置1が先行車両と横断歩行者等を適切に認識する様子を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 車両用物体認識装置
10 レーダー装置
11 変調信号発生装置
12 VCO
13 第1アンプ
14 送信用アンテナ
15 第2アンプ
20 アレイアンテナ
21 スイッチ部
22 第3アンプ
23 ミキサー
24 第4アンプ
25 ローパスフィルター
26 A/D変換器
27 DSP
30 情報処理装置
40 車間距離制御用ECU
50 衝突安全制御用ECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を放射すると共に該放射した電磁波の反射波を受信する電磁波放射受信手段と、
該電磁波放射受信手段が受信した反射波のデータに基づいて物標との距離及び横位置を含むデータを算出する物標位置データ算出手段と、
該物標位置データ算出手段の算出結果に基づいて車両周辺の物体を認識する物体認識手段と、を備える車両用物体認識装置であって、
前記物体認識手段は、
前記電磁波放射受信手段における受信波強度に関する所定条件を満たす所定物体以外の物体については、第1の認識モードで物体認識を行ない、
前記所定物体については、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで物体認識を行なう、
ことを特徴とする、車両用物体認識装置。
【請求項2】
前記所定条件は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度が、第1の閾値から該第1の閾値に比して大きい第2の閾値の間であることを含む、
請求項1に記載の車両用物体認識装置。
【請求項3】
前記所定条件は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度が、連続して基準回数以上、第1の閾値から該第1の閾値に比して大きい第2の閾値の間となったことを含む、
請求項1に記載の車両用物体認識装置。
【請求項4】
前記基準回数は、物体との距離に応じて変化する数である、
請求項3に記載の車両用物体認識装置。
【請求項5】
前記第2の閾値は、先行車両を認識する際に用いる閾値である、
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の車両用物体認識装置。
【請求項6】
前記所定条件は、当該物体の絶対速度が所定速度未満であることを更に含む、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車両用物体認識装置。
【請求項7】
前記第2の認識モードは、前記第1の認識モードにおける固定値のフィルターパラメータを障害物の接近に応じて変化させることにより、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性を高めた認識モードである、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の車両用物体認識装置。
【請求項1】
電磁波を放射すると共に該放射した電磁波の反射波を受信する電磁波放射受信手段と、
該電磁波放射受信手段が受信した反射波のデータに基づいて物標との距離及び横位置を含むデータを算出する物標位置データ算出手段と、
該物標位置データ算出手段の算出結果に基づいて車両周辺の物体を認識する物体認識手段と、を備える車両用物体認識装置であって、
前記物体認識手段は、
前記電磁波放射受信手段における受信波強度に関する所定条件を満たす所定物体以外の物体については、第1の認識モードで物体認識を行ない、
前記所定物体については、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性が高い第2の認識モードで物体認識を行なう、
ことを特徴とする、車両用物体認識装置。
【請求項2】
前記所定条件は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度が、第1の閾値から該第1の閾値に比して大きい第2の閾値の間であることを含む、
請求項1に記載の車両用物体認識装置。
【請求項3】
前記所定条件は、前記電磁波放射受信手段における受信波強度が、連続して基準回数以上、第1の閾値から該第1の閾値に比して大きい第2の閾値の間となったことを含む、
請求項1に記載の車両用物体認識装置。
【請求項4】
前記基準回数は、物体との距離に応じて変化する数である、
請求項3に記載の車両用物体認識装置。
【請求項5】
前記第2の閾値は、先行車両を認識する際に用いる閾値である、
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の車両用物体認識装置。
【請求項6】
前記所定条件は、当該物体の絶対速度が所定速度未満であることを更に含む、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車両用物体認識装置。
【請求項7】
前記第2の認識モードは、前記第1の認識モードにおける固定値のフィルターパラメータを障害物の接近に応じて変化させることにより、前記第1の認識モードに比して物体接近時の横位置応答性を高めた認識モードである、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の車両用物体認識装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【公開番号】特開2009−186233(P2009−186233A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24295(P2008−24295)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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