説明

車両用発電装置

【課題】ベルトの弛みを適切な時期に抑えること。
【解決手段】車両の駆動源たる原動機の原動機トルクを利用して発電する発電機10と、その原動機の出力軸と発電機10の回転軸とを繋ぎ、これらの間でトルクの伝達を行うベルト33等からなるトルク伝達手段と、を備えた車両用発電装置において、発電機10の発電機トルクを制御することによって原動機の出力軸(出力軸に取り付けたクランクプーリ31)に掛かる負荷を調整して車両の駆動力を制御する車両駆動力制御手段20aと、ベルト33の伸び量の情報を取得するベルト伸び量推定手段20bと、そのベルト33の伸び量に基づいて当該ベルト33の弛みの有無を判定するベルト状態判定手段20cと、そのベルト33に弛みがあるときに発電機10の発電機トルクを増加させるベルト弛み解消手段20dと、を設けること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト等からなるトルク伝達手段を介して伝達された原動機の出力トルクを利用して発電する発電機を備えた車両用発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関等の原動機には、発電機等の様々な補機が取り付けられている。その原動機の出力軸と補機の回転軸との間にはプーリやベルト等からなるトルク伝達手段が介装されており、補機は、原動機側からのトルク(以下、「原動機トルク」という。)がトルク伝達手段を介して伝達されることによって駆動する。その原動機トルクは、原動機で発生したトルク(以下、「原動機発生トルク」という。)から走行抵抗トルク(変速機等の駆動トルク伝達手段におけるトルクの伝達損失や車輪の走行抵抗に係るトルク)を差し引いた大きさである。その駆動の際には、補機が駆動負荷に応じたトルク(以下、「補機トルク」という。)を発生し、その補機トルクがトルク伝達手段を介して原動機の出力軸に伝わる。つまり、補機がその駆動に伴って原動機の出力軸に対して負荷を掛けることになり、これが為、原動機側から変速機側に実際に入力されるトルク(以下、「原動機の総出力トルク」という。)は、補機の駆動負荷を増やして補機トルクの増加を図ることによって減少する一方、補機の駆動負荷を減らして補機トルクの減少を図ることによって増加する。
【0003】
ここで、従来、補機トルクの増減制御を利用した以下の如き制御形態が知られている。例えば、下記の特許文献1には、エンジンの実出力トルク(上記の原動機の総出力トルクに相当)が目標トルクを上回ったときに、その実出力トルクが目標トルクへと近づくように補機(発電機)の駆動負荷を高めてエンジンの出力軸に加える負荷を増加させる技術について開示されている。つまり、この特許文献1に記載の技術においては、補機の駆動負荷を高めることによってエンジンの総出力トルクの減少を図っている。また、下記の特許文献2には、補機(発電機)に負荷トルク(上記の補機トルクに相当)を発生させることによってエンジンのトルク変動の吸収を図る技術について開示されている。
【0004】
尚、下記の特許文献3には、エンジンと補機とを繋ぐベルトの張力を複数段階に調節可能な所謂オートテンショナについて開示されている。また、下記の特許文献4には、2つのオートテンショナの内の一方をフリー状態にすると共に他方をロック状態にしてベルトの弛みの防止を図る技術について開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−9885号公報
【特許文献2】特開平4−300437号公報
【特許文献3】特開2002−323101号公報
【特許文献4】特開2005−83514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来においては、補機トルクを利用して原動機の出力軸に加える負荷を増減し、これにより原動機の総出力トルクの増減を図ることがあり、また、その負荷の増減によって原動機のトルク変動を抑えることもある。これは、原動機トルクの制御よりも補機トルクの制御の方が応答性に優れているからである。
【0007】
しかしながら、弛みの発生し得るベルトを介してトルクが伝達されるので、そのベルトにおいてトルクの伝達遅れが発生する。そのトルクの伝達遅れとは、弛んでいるベルトが張られてトルクを伝達し始めるまでの時間の損失のことをいう。また、原動機は、運転中の負荷の変動は避けられず、特に走行中ならば車両に様々な外乱が作用するので負荷の変動が起こりやすい。そして、その原動機の負荷の変動は、原動機と補機を繋ぐベルトに弛みを発生させる。そのベルトの弛みは、ベルト張力(ベルトの張り具合)を低下させるので、原動機トルクの補機への伝達遅れを誘発するのみならず、原動機の出力軸への補機トルクの伝達遅れをも引き起こす。これが為、補機トルクの制御が応答性に優れているといっても、ベルトが弛んでいるときには、原動機の出力軸に対しての補機トルクの伝達遅れが助長されてしまうので、原動機の総出力トルクを応答性良く増減させることができなくなる。更に、このときには、必要なときに必要な大きさの補機トルクを原動機の出力軸に加えることができないので、原動機のトルク変動を抑えることができなくなり、また、却ってトルク変動を増幅してしまう可能性もある。
【0008】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、ベルトの弛みを適切な時期に抑えることが可能な車両用発電装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、車両の駆動源たる原動機の原動機トルクを利用して発電する発電機と、原動機の出力軸と発電機の回転軸とを繋ぎ、これらの間でトルクの伝達を行うベルト等からなるトルク伝達手段と、を備えた車両用発電装置において、発電機の発電機トルクを制御することによって原動機の出力軸に掛かる負荷を調整して車両の駆動力を制御する車両駆動力制御手段と、ベルトの伸び量の情報を取得するベルト伸び量取得手段と、ベルトの伸び量に基づいて当該ベルトの弛みの有無を判定するベルト状態判定手段と、ベルトに弛みがあるときに発電機の発電機トルクを増加させるベルト弛み解消手段と、を設けている。
【0010】
この請求項1記載の車両用発電装置は、ベルトの弛みが検知された際に、発電機の発電機トルクの増加を図り、これによりベルトを引っ張ってベルトの弛みを解消させる。
【0011】
ここで、この車両用発電装置には、請求項2記載の発明の如く、目標発電機トルクを原動機トルクとベルトの伸び量に応じて設定するベルト弛み解消制御指令値設定手段を設けている。そして、ベルト弛み解消手段は、ベルトに弛みがあるときに目標発電機トルクを発生させるべく発電機の制御を行うよう構成している。
【0012】
その目標発電機トルクは、請求項3記載の発明の如く、ベルトの伸び量の目標値とベルトに弛みありと判定された際のベルトの伸び量との関係を一定に保たせるべく原動機トルクに対応させて設定すればよい。
【0013】
また、ベルト伸び量取得手段は、請求項4記載の発明の如く、原動機トルクと発電機トルクに基づいてベルトの伸び量の推定を行うように構成すればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両用発電装置は、ベルトの弛みが検知される度にその弛みを解消させることになる。これが為、この車両用発電装置は、そのベルトを介したトルクの伝達が行われる前に適切なベルト張力を確保しておくことができるので、そのトルクの伝達を応答性良く実行させることができる。例えば、原動機の回転軸に発電機トルクを応答性良く伝えることができるので、その発電機トルクの増減に合わせて原動機の回転軸の負荷を反応良く調整でき、応答性の良い車両の駆動力の制御が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明に係る車両用発電装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
本発明に係る車両用発電装置の実施例を図1から図5に基づいて説明する。
【0017】
本実施例の車両用発電装置は、図1に示す如く、自動車の原動機の補機の1つである発電機10と、この発電機10を駆動制御する電子制御装置(ECU)20と、を備えている。
【0018】
その発電機10は、原動機トルク(=原動機発生トルク−走行抵抗トルク)Teを利用して発電を行う所謂オルタネータと呼ばれるものであり、その原動機トルクTeがトルク伝達手段を介して伝えられる。
【0019】
ここで、そのトルク伝達手段は、原動機の図示しない出力軸(クランクシャフト)に取り付けられたクランクプーリ31と、発電機10の回転軸(図示略)に取り付けられた発電機プーリ32と、そのクランクプーリ31と発電機プーリ32との間に巻き掛けたトルク伝達部材としてのベルト33と、を備えている。尚、一般に、自動車の原動機には、発電機10以外にも図示しないウォーターポンプ等の他の補機も取り付けられている。これが為、図1においてはクランクプーリ31と発電機プーリ32との間にのみ巻き掛けたベルト33として便宜上図示しているが、実際には、そのベルト33が他の補機のプーリにも巻き掛けられている場合もある。また、そのベルト33の弛みを抑えるべく図示しない所謂オートテンショナも配設されている。
【0020】
具体的に、ここで例示する発電機10は、例えば、図示しない整流器が設けられた三相交流発電機であり、交流電流で発電された電力を直流電流に変換して出力するものである。この種の発電機10においては、例えば、蓄電池(図示略)からの励磁電流が励磁コイルに流され、この励磁コイルを包むロータコアが原動機トルクTeの伝達に伴って回転することで起電力を発生させる。そして、この発電機10においては、ステータコイルの中をロータコアが回転し、そのステータコイルを通る磁束が変化することで発電が為される。
【0021】
この発電機10においては、その励磁コイルへの励磁電流を増減させることによって駆動負荷が増減され、その駆動負荷に応じたトルク(以下、「発電機トルク」という。)Taを発生させる。その発電機トルクTaは、トルク伝達手段を介して原動機の出力軸に働くので、その出力軸に対しての負荷となる。例えば、発電機10の駆動負荷を増やした場合には、発電機トルクTaが増加して原動機の出力軸の負荷が高まるので、その原動機の総出力トルク(原動機側から変速機側に実際に入力されるトルク)が低下する。これが為、かかる場合には、原動機発生トルク(原動機で発生するトルク)が一定のままでも車両の駆動力を減らすことができる。一方、発電機10の駆動負荷を減らした場合には、発電機トルクTaが減少して原動機の出力軸の負荷が減るので、その原動機の総出力トルクが増加する。これが為、かかる場合には、原動機発生トルクが一定のままでも車両の駆動力を増やすことができる。つまり、車両用発電装置は、発電機10の駆動負荷を制御することによって原動機の総出力トルクを増減させ、これにより車両の駆動力の制御を行う車両駆動力制御装置としての機能も備えている。従って、本実施例の電子制御装置20には、発電機10の駆動負荷を利用して車両の駆動力の制御を行う車両駆動力制御手段20aが用意されている。
【0022】
ところで、前述したように、原動機の負荷の変動等に伴ってベルト33に弛みが生じる場合がある。従って、弛みが生じているときには、その弛み具合によってベルト張力が不足してしまい、これが原因となって原動機の出力軸への発電機トルクTaの伝達遅れが起こるので、その発電機トルクTaを利用した原動機の出力軸の負荷の調整が即座に行えず、原動機の総出力トルクを応答性良く増減制御できなくなる。これが為、このときには、発電機10の駆動負荷(発電機トルクTa)を調整したにも拘わらず、ベルト33の弛みが解消されるまで発電機トルクTaが原動機の出力軸に上手く伝わらないので、発電機トルクTaの制御の開始と共に応答性良く車両の駆動力を増減させることができなくなってしまう。つまり、発電機トルクTaの増減に伴う車両の駆動力の増減制御は、本来ならば原動機発生トルクを増減させるよりも優れた応答性を示すにも拘わらず、ベルト33に弛みがあることによって、その優位性が損なわれてしまう。
【0023】
そこで、本実施例においては、上記の増減制御の応答性の観点で許容し得ないベルト33の弛みを検知した際に、発電機10の発電機トルクTaの増加によってベルト33の弛みを解消させることのできる車両用発電装置を構成する。
【0024】
先ず、ベルト33の状態を把握して、そのベルト33に許容し得ないトルク伝達の応答性を悪くする弛みが発生しているのか否かを判断する必要がある。例えば、ベルト33の弛みの有無は、ベルト33の伸び量(以下、「ベルト伸び量」という。)xによって判断することができる。これが為、本実施例の電子制御装置20には、ベルト伸び量xの情報を取得するベルト伸び量取得手段(後述するベルト伸び量推定手段20b)と、そのベルト伸び量xに基づいてベルト33の弛みの有無の判定を行うベルト状態判定手段20cと、を設ける。ここで、そのベルト伸び量xとは、ベルト33の或る状態(例えば、設計値通りにベルト33を巻き掛けた状態、ベルト33にベルト張力が加えられていない状態など)に対しての伸び量のことであって、その数値が大きいほどベルト33のベルト張力が高くなって弛みが少なくなることを表している。
【0025】
ここで、本実施例においては、上記のベルト伸び量取得手段としてのベルト伸び量推定手段20bを電子制御装置20に用意し、下記の式1を用いてベルト伸び量xを推定させる。
【0026】
【数1】

【0027】
この式1の「re」と「ra」は各々クランクプーリ31のプーリ半径(以下、「クランクプーリ半径」という。)と発電機プーリ32のプーリ半径(以下、「発電機プーリ半径」という。)を表しており、「Ie」と「Ia」は各々クランクプーリ31の慣性モーメント(以下、「クランクプーリ慣性モーメント」という。)と発電機プーリ32の慣性モーメント(以下、「発電機プーリ慣性モーメント)という。)を表している。また、「k」は、ベルト33のばね特性(以下、「ベルトばね特性」という。)を表している。また、「s」は、ラプラス演算子を表している。
【0028】
この式1は、図2に示す原動機の出力軸(即ち、クランクプーリ31)と発電機10の回転軸(即ち、発電機プーリ32)との間のモデル図に基づいて導き出すことができる。つまり、このモデル図から下記の式2,3の運動方程式が導き出され、更に、ベルト伸び量xに係る下記の式4が成立する。
【0029】
【数2】

【0030】
【数3】

【0031】
【数4】

【0032】
その式2,4の「θe」は原動機の出力軸の回転角(以下、「クランクプーリ回転角」という。)を表し、式3,4の「θa」は発電機10の回転軸の回転角(以下、「発電機プーリ回転角」という。)を表している。尚、このモデル図においては、原動機の出力軸の回転方向を正転としている。
【0033】
その式2は、原動機側の運動方程式であって、クランクプーリ31に原動機トルクTeを発生させたときのベルト伸び量xとの関係を表したものである。式3は、発電機側の運動方程式であって、発電機プーリ32に発電機トルクTaを発生させたときのベルト伸び量xとの関係を表したものである。また、式4は、クランクプーリ31がクランクプーリ回転角θeの正転を行うと共に発電機プーリ32が発電機プーリ回転角θaの逆転を行ったときのベルト伸び量xとの関係を表した式である。
【0034】
これら式2〜4に基づいて下記の式5を求めることができ、その式5をラプラス変換することによって上記式1のベルト伸び量xを求める演算式が導き出される。
【0035】
【数5】

【0036】
ここで、上述したクランクプーリ半径re、発電機プーリ半径ra、クランクプーリ慣性モーメントIe、発電機プーリ慣性モーメントIa及びベルトばね特性kは、夫々に個々の車両特有の不変の情報であり、図1の記憶手段40に予め車両特性情報として記憶させておく。そのクランクプーリ半径reと発電機プーリ半径raは、各々クランクプーリ31と発電機プーリ32の形状、そして、これらとベルト33の接点によって予め決まっている設計値である。また、クランクプーリ慣性モーメントIeと発電機プーリ慣性モーメントIaは、各々クランクプーリ31と発電機プーリ32の形状及び質量によって予め決まっている設計値である。また、ベルトばね特性kとは、ベルト伸び量xとベルト張力の相関係数であり、予め決まっているベルト33固有の設計値である。
【0037】
ベルト状態判定手段20cには、そのベルト伸び量推定手段20bの推定したベルト伸び量xと所定値xdとを比較させることによって、ベルト33の弛みの有無を判定させる。
【0038】
その所定値xdは、ベルト33のトルクの伝達特性に基づいた最適なベルト伸び量を選択したものである。その最適なベルト伸び量としては、例えば、原動機の出力軸(クランクプーリ31)とベルト33の回転軸(クランクプーリ31)との間で応答性良くトルクの伝達を行うことのできる最短のベルト伸び量、又はその最短のベルト伸び量に対してベルト33の設計公差や原動機トルクTe及び発電機トルクTaの演算又は推定誤差等が考量された余裕代を加えた伸び量を設定する。以下においては、この所定値xdを「ベルト伝達特性基準値xd」という。ここで例示するベルト伝達特性基準値xdは、ベルト伸び量xに対するトルクの伝達遅れの時間(以下、「トルク伝達遅れ時間」という。)の相関関係から導き出しておき、予め判っている車両特性情報として記憶手段40に記憶させておく。そのトルク伝達遅れ時間とは、クランクプーリ31と発電機プーリ32で夫々に原動機トルクTeと発電機トルクTaが発生した際に、弛んでいるベルト33が張っていき、そのクランクプーリ31と発電機プーリ32との間で応答性良くトルクの伝達が行われるようになるまでの時間のことをいう。
【0039】
その相関関係は、予め行った実験やシミュレーションの結果として表されたものであり、その一例を図3に示す。例えば、このようなプーリ間におけるトルク伝達部材としてのベルト33は、或るベルト伸び量x(=x1)を境に弛みの状態が変化してトルクの伝達効率が大きく変わるので、そのベルト伸び量x1を基点にしてトルク伝達遅れ時間が非線形に変化する。具体的に、ベルト伸び量xがそのベルト伸び量x1以上になっているときには、良好なトルクの伝達効率を発揮し得る程度にまでベルト33の弛みが減ってベルト張力が確保されているので、トルク伝達遅れ時間が短くなる。このときには、弛みが無いものと判断しても問題無い状態といえる。一方、ベルト伸び量xがベルト伸び量x1よりも少ないときには、ベルト33の弛みが大きく、トルクの伝達効率が低下しているので、トルク伝達遅れ時間が大幅に長くなる。
【0040】
そこで、本実施例においては、そのトルク伝達遅れ時間が大きく変化するベルト伸び量x1をベルト伝達特性基準値xd(x1)として設定する。そして、ベルト状態判定手段20cには、ベルト伸び量推定手段20bの推定したベルト伸び量xがベルト伝達特性基準値xdよりも少なくなっているときに、ベルト33に弛みありとしてベルト弛み解消制御へと移らせる。
【0041】
次に、ベルト弛み解消制御について説明する。
【0042】
このベルト弛み解消制御とは、クランクプーリ31と発電機プーリ32との間でトルクを応答性良く伝達できるように弛み状態にあるベルト33を張らせる制御のことであり、ベルト33の弛みを検知した際に発電機10の駆動負荷(つまり、発電機トルクTa)を増加させることによって実行するものである。より具体的には、例えばベルト33が図3の如くベルト伸び量x0(<xd)であって弛んでいると判断された場合に、そのベルト33をベルト伸び量x0の状態からベルト伸び量の目標値まで伸ばして張らせるように発電機トルクTaの制御を行い、トルク伝達遅れ時間の短縮を図る。そのベルト伸び量の目標値としては、例えば、原動機の出力軸(クランクプーリ31)とベルト33の回転軸(クランクプーリ31)との間で応答性良くトルクの伝達を行うことのできる最短のベルト伸び量、又はその最短のベルト伸び量に対してベルト33の設計公差や原動機トルクTe及び発電機トルクTaの演算又は推定誤差等が考量された余裕代を加えた伸び量を設定する。本実施例においては、このベルト伸び量の目標値としてベルト伝達特性基準値xdを設定する。
【0043】
本実施例の電子制御装置20には、このベルト弛み解消制御を実行するベルト弛み解消手段20dを設ける。このベルト弛み解消手段20dは、発電機10の励磁コイルへの励磁電流を増やすことによって発電機10の駆動負荷を増加させ、これにより発電機トルクTaを増加させてベルト伸び量の目標値(ベルト伝達特性基準値xd)までベルト33を伸ばすものである。
【0044】
このベルト弛み解消手段20dがベルト弛み解消制御を実行する際には、ベルト33をベルト伸び量の目標値にする為の目標となる発電機トルク(以下、「目標発電機トルク」という。)Tatgtの情報が必要になり、更にその目標発電機トルクTatgtの発生を実現させる励磁電流(以下、「目標励磁電流」という。)の情報も必要になる。また、ベルト33がベルト伝達特性基準値xdまで伸びた後にまでベルト弛み解消制御を継続しても、原動機の出力軸の負荷が更に高くなって無駄に車両の駆動力を低下させてしまう虞があるので、ベルト弛み解消制御を行う際には、発電機トルクの増加に伴うベルト弛み解消制御の実行時間(以下、「ベルト弛み解消制御実行時間」という。)Δtの情報を設定しておくことが望ましい。これらの情報は、ベルト弛み解消制御を行う際の制御対象たる発電機10への制御指令値(以下、「ベルト弛み解消制御指令値」という。)である。本実施例の電子制御装置20には、そのベルト弛み解消制御指令値の設定を行うベルト弛み解消制御指令値設定手段20eが設けてある。
【0045】
このベルト弛み解消制御を行う際には、ベルト33がベルト伸び量x(<xd)になっており弛んでいるならば、そのベルト33を「xd−x」(図3の例示ならば「xd−x0」)の長さ分だけ伸ばせばよい。これが為、その際の発電機トルクTaの大きさ(ゲイン)と当該発電機トルクTaを加える時間は、原動機トルクTeがベルト33に作用することも考慮した上で、その長さ「xd−x」の分だけベルト33を伸ばすことができるものを設定する。ここでは、その発電機トルクTaの大きさが目標発電機トルクTatgtとなり、その発電機トルクTa(目標発電機トルクTatgt)を加える時間がベルト弛み解消制御実行時間Δtとなる。
【0046】
ここで、その際の原動機トルクTeは、原動機制御手段や変速機制御手段(電子制御装置20に用意された制御手段であって、変速機の変速段又は変速比の制御を行うもの)の制御に伴い生じた値となる。尚、その変速機は、自動変速機であると手動変速機であるとを問わず、また、自動変速機ならば有段、無段を問わない。つまり、ベルト弛み解消制御の際には、ベルト弛み解消手段20dが積極的に原動機発生トルクを変化させる必要はなく、その原動機発生トルクは原動機の運転状態に応じて電子制御装置20の原動機制御手段によって制御されている。即ち、原動機発生トルクは、ベルト弛み解消制御の為に増減させると原動機の運転状態を出力性能やエミッション性能の点で好ましくない方向に変化させてしまう可能性があるので、ベルト弛み解消制御とは無関係に原動機の運転状態に従って変化させる。また、変速機の変速段又は変速比の制御に伴って走行抵抗トルク(変速機等の駆動トルク伝達手段におけるトルクの伝達損失や車輪の走行抵抗に係るトルク)が変わる可能性もある。これが為、原動機トルクTeは、ベルト弛み解消制御とは関係なく値が変化、つまり、その値が原動機制御手段の原動機の制御や変速機制御手段の変速機の制御に伴って変化することになる。
【0047】
そのベルト伸び量xとベルト伝達特性基準値xdと目標発電機トルクTatgtと原動機トルクTeとの関係は、上記式1の「x」に「xd−x」を代入し、「Ta」に「Tatgt」を代入した下記の式6で表すことができる。ここで、その原動機トルクTeは、上述したように原動機制御手段の原動機に対する制御状態や変速機制御手段の変速機に対する制御状態によって定まる値であるので、その原動機制御手段や変速機制御手段の制御に伴い生じた値を代入する。
【0048】
【数6】

【0049】
この式6は、原動機トルクTeのときにベルト33を長さ「xd−x」だけ伸ばす為の目標発電機トルクTatgtについて表した関係式であり、2入力「Te,Tatgt」、1出力「x’(=xd−x)」の2次系として既述されたものである。この式6から2次系の応答の大きさを示す定常ゲインKe,Kaと応答の速さを示す自然周波数ωnとが下記の式7〜9の如く各々判る。従って、この式6は、下記の式10のように表すことができる。
【0050】
【数7】

【0051】
【数8】

【0052】
【数9】

【0053】
【数10】

【0054】
ここで、その式10の「s+ωn」が1になるときにベルト弛みを解消させる目標発電機トルクTatgtを決める必要がある。従って、この式10は、下記の式11のように簡略化することができ、この式11に基づいて目標発電機トルクTatgtの大きさを求める下記の演算式(式12)を導き出すことができる。
【0055】
【数11】

【0056】
【数12】

【0057】
また、その目標発電機トルクTatgtの演算と発生を続ける時間(ベルト弛み解消制御実行時間)Δtは、下記の式13のように表すことができる。
【0058】
【数13】

【0059】
その式12の目標発電機トルクTatgtとは、変数たる原動機トルクTeとベルト伸び量xとに応じて時々刻々と変化し得る値である。本実施例においては、図4の上から3つ目の図に示す如く、上記式11の振幅「KeTe+KaTatgt」がベルト弛み解消制御実行時間Δtの間だけ「xd−x0」のパルス波形となるように目標発電機トルクTatgtを設定する。その「x0」は、ベルト弛み解消制御開始時のベルト伸び量である。これが為、この式12の目標発電機トルクTatgtは、図4の最下図の如くベルト弛み解消制御実行時間Δtに到達した時点でベルト伸び量xがベルト伸び量の目標値(ベルト伝達特性基準値xd)となるようベルト33を徐々に伸ばすことのできる値となる。尚、式12における原動機トルクTeは、変数としたが、その大きさが一定の場合もあり得る。
【0060】
本実施例においては、その式12,13を利用してベルト弛み解消制御指令値設定手段20eに目標発電機トルクTatgtの大きさとベルト弛み解消制御実行時間Δtを演算させる。
【0061】
ここで、クランクプーリ半径re,発電機プーリ半径ra,クランクプーリ慣性モーメントIe,発電機プーリ慣性モーメントIa及びベルトばね特性kは予め判っている固有値なので、上述した定常ゲインKe,Kaと自然周波数ωnについても車両固有の不変の値となり、予め求めておくことができる。これが為、その定常ゲインKe,Kaと自然周波数ωnの情報を予め記憶手段40に記憶させておいてもよい。この場合には、ベルト伸び量xを求める式1についても、演算処理の簡素化を図るべく、下記の式14のように定常ゲインKe,Kaと自然周波数ωnを用いて表すことにすればよい。尚、以下に示す例示においては、その定常ゲインKe,Kaと自然周波数ωnを演算させ、その式14を用いてベルト伸び量xの演算を実行させる。
【0062】
【数14】

【0063】
以下、本実施例の車両用発電装置のベルト弛み解消制御動作について図5のフローチャートを用いて説明する。
【0064】
最初に、電子制御装置20は、車両特性情報を記憶手段40から読み込む(ステップST1)。その車両特性情報としては、少なくともクランクプーリ半径re,発電機プーリ半径ra,クランクプーリ慣性モーメントIe,発電機プーリ慣性モーメントIa,ベルトばね特性k及びベルト伝達特性基準値xdが読み込まれる。
【0065】
続いて、本実施例の電子制御装置20は、そのクランクプーリ半径re,発電機プーリ半径ra,クランクプーリ慣性モーメントIe,発電機プーリ慣性モーメントIa及びベルトばね特性kに基づいて、上記式7〜9から定常ゲインKe,Kaと自然周波数ωnを求める(ステップST2,ST3)。
【0066】
また、この電子制御装置20は、現状における原動機トルクTeと発電機トルクTaの情報を取得する(ステップST4)。
【0067】
その原動機トルクTeは、前述したように、原動機発生トルクから走行抵抗トルクを差し引いた大きさであり、これらを各々取得して電子制御装置20に演算させる。
【0068】
ここで、原動機発生トルクについては、電子制御装置20の原動機制御手段が原動機を制御する際の制御目標値といえるものであり、その原動機制御手段が把握している又は燃料噴射量や点火時期等から演算し得る値である。これが為、原動機制御手段が原動機発生トルクを把握しているならば、電子制御装置20は、その把握情報を利用して現状の原動機トルクTeの演算を行う。更に、この電子制御装置20は、原動機制御手段が原動機発生トルクを把握していなければ、原動機制御手段の別の制御目標値である燃料噴射量等の情報を利用して原動機発生トルクの演算を行い、現状の原動機トルクTeの演算に使用する。尚、その原動機発生トルクの演算については、如何様な手法を採ってもよく、例えばこの技術分野における周知の手法を用いることができる。
【0069】
また、走行抵抗トルクについては、現状の変速機の変速段(又は変速比)や車速等から把握することができる値であり、その変速段等の条件に応じた固有の値として予め導き出しておくことのできるものである。これが為、本実施例においては、様々な変速機の変速段(又は変速比)や車速等に対応した走行抵抗トルクの情報を求め得る図示しないマップデータを予め記憶手段40に用意しておき、その走行抵抗トルクの情報を変速段等の条件に応じて記憶手段40から読み込ませるようにする。その変速段(又は変速比)については、図示しない変速段情報取得手段(又は変速比情報取得手段)から取得する。その変速段情報取得手段とは、変速機の現在の変速段が何段であるのかという情報を取得する為の手段であって、例えば所謂シフトポジションセンサを利用することができる。また、変速比情報取得手段とは、変速機の現在の変速比の情報を取得する為の手段であって、例えば無段変速機に対する変速比の制御指令値を利用することができる。更に、車速については、図示しない車速情報取得手段から取得する。
【0070】
更に、発電機トルクTaは、発電機10に印加している電圧や発電機10を流れる電流の情報を取得して、例えばその様々な電圧(又は電流)に対応した発電機トルクTaの情報を求め得る図示しないマップデータから導き出させる。その電圧や電流は、例えば、各々図示しない電圧計や電流計を発電機10に用意しておき、その検出結果に基づいてマップデータから推定させればよい。また、発電機10を積極的に駆動させている状態のときには、その際の制御目標値たる電圧(又は電流)の情報を電子制御装置20が把握しているので、その把握情報に基づいてマップデータから推定させてもよい。
【0071】
このようにして各種情報を得た後、電子制御装置20のベルト伸び量推定手段20bは、これらの情報を上述した式14に代入して現状のベルト伸び量xを推定する(ステップST5)。
【0072】
電子制御装置20のベルト状態判定手段20cは、その現状のベルト伸び量xと上記ステップST1のベルト伝達特性基準値xdとを比較して、ベルト33の弛みの有無を判断する(ステップST6)。
【0073】
このステップST6でベルト伸び量xがベルト伝達特性基準値xd以上であると判定された場合には、ベルト33に弛みが無く、そのベルト33を介して応答性良くクランクプーリ31と発電機プーリ32との間でトルクを伝達させることができると判断して、本動作に係る演算処理を終える。
【0074】
一方、このステップST6でベルト伸び量xがベルト伝達特性基準値xdよりも小さいと判定された場合には、ベルト33に弛みが有り、クランクプーリ31と発電機プーリ32との間で応答性の良いトルクの伝達が行えないと判断して、ベルト弛み抑制制御を開始させる。
【0075】
ここでは、先ず、電子制御装置20のベルト弛み解消制御指令値設定手段20eに目標発電機トルクTatgtとベルト弛み解消制御実行時間Δtを求めさせる(ステップST7,ST8)。その目標発電機トルクTatgtについては、上記式12にステップST1のベルト伝達特性基準値xdと、ステップST2の定常ゲインKe,Kaと、ステップST4の原動機トルクTeと、ステップST5のベルト伸び量xと、を代入して求める。一方、ベルト弛み解消制御実行時間Δtは、上記式13にステップST3の自然周波数ωnを代入して求める。
【0076】
このようにしてベルト弛み解消制御指令値(目標発電機トルクTatgt及びベルト弛み解消制御実行時間Δt)を求めた後、電子制御装置20のベルト弛み解消手段20dは、そのベルト弛み解消制御指令値に基づいたベルト弛み解消制御を実行する(ステップST9)。
【0077】
ここで、このステップST9の実行時又はこれよりも前に、その目標発電機トルクTatgtを発生させる発電機10の励磁コイルへの目標励磁電流を求めておく。その目標励磁電流は、発電機トルクTaに対応させた図示しないマップデータから取得させればよい。そして、このステップST9においては、その目標励磁電流を励磁コイルに流すことによって、発電機10が目標発電機トルクTatgtを発電機プーリ32に発生させる。これにより、ベルト33は、その発電機プーリ32に働く目標発電機トルクTatgtとクランクプーリ31に働く原動機トルクTeとに相俟って、ベルト伸び量xがベルト伸び量の目標値(ベルト伝達特性基準値xd)に達するまで互いに逆方向へと引っ張られる。
【0078】
これらステップST1〜ST9のベルト弛み解消制御動作の具体例として、図4に示すように原動機トルクTeが変化しているときを例に挙げて説明する。その図4の最上図に示す原動機トルクTeは、上記ステップST6で肯定判定されたときを起点にして増加していき、その後ベルト弛み解消制御実行時間Δtに達する前に減少していくものとする。
【0079】
先ず、最初に上記ステップST6で肯定判定されたときには、上記ステップST7で算出された目標発電機トルクTatgt(x=x0)となるように、ベルト弛み解消手段20dが発電機トルクTaを増加させる(図4の上から2つ目の図)。これにより、ベルト33は、その発電機トルクTaの増加分だけ今までよりも大きく引っ張られ始める。
【0080】
次に、そこから原動機トルクTeが徐々に増加していくので、目標発電機トルクTatgtは、ベルト33の伸びに急激な変動が起こらないように、上述した「KeTe+KaTatgt=xd−x0」の関係を保ちながら式12に基づき徐々に減少させていく。そして、その後、原動機トルクTeが徐々に減少していくので、目標発電機トルクTatgtは、ベルト33の伸びに急激な変動が起こらないよう徐々に増加させていく。これに従って、ベルト伸び量xは、図4の最下図に示す如く、ベルト弛み解消制御実行時間Δtを掛けて「x0」から「ベルト伝達特性基準値xd」までなだらかに増えていく。これが為、この例示においては、急激にベルト伝達特性基準値xdまでベルト33が張られてしまうことを防げるので、原動機の出力軸の負荷の急な増加を抑えることができる。これにより、ここでは、原動機の総出力トルクの急変動(急激な低下)や出力軸の負荷の急激な増加に伴う振動を回避することができる。また、ベルト弛み解消制御実行時間Δtに到達した際には、目標発電機トルクTatgtをベルト弛み解消制御実行前の大きさにまで下げて、これを以てベルト弛み解消制御の終了とする。
【0081】
これらステップST1〜ST9のベルト弛み解消制御動作は、原動機の運転中に常時又は所定の間隔毎に繰り返し実行する。従って、車両駆動力制御手段20aが発電機10の駆動負荷(発電機トルクTa)を利用して車両の駆動力の制御を行う際には、その制御が始められる前にベルト33の弛みが解消されており、クランクプーリ31と発電機プーリ32との間のトルクの伝達応答性が良好になっているので、応答性良く車両の駆動力を増減させることができる。また、発電機10に発電させる際も同様であり、この発電機10は、発電機プーリ32に原動機トルクTeが応答性良く働くので、直ぐに無駄なく発電することができる。
【0082】
以上示した如く、本実施例の車両用発電装置は、ベルト33の弛みを検知した際に、その弛みを発電機トルクTaの増加によって解消させ、トルク伝達に適切なベルト張力を確保しておくことによって、クランクプーリ31と発電機プーリ32との間で応答性の良いトルクの伝達が行われるようにしている。これが為、発電機トルクTaを原動機の出力軸に働かせて車両の駆動力制御を行うときには、既にベルト33の弛みが解消された状態になっており、発電機トルクTaが応答性良く原動機の出力軸に働くので、その発電機トルクTaに合わせて原動機の総出力トルクを反応良く増減させることができ、応答性の良い車両の駆動力制御を行うことができる。従って、例えば走行路面の凹凸等を通過する際には車両がピッチング運動を行って車体を振動させるが、ここでは、応答性良く車両の駆動力を増減させることができるので、そのピッチング運動を適宜打ち消して振動を抑えることのできる車両の駆動力制御が可能になり、車両の運動性能の向上や振動に伴う運転者の不快感の抑制を図ることができる。また、既にベルト33の弛みが解消された状態になっていることから、発電機10においては、その回転軸に原動機トルクTeが応答性良く働いて発電することができる。更に、前述したようにベルト33は発電機10以外の別の補機のプーリに巻き掛けられていることもあるので、この車両用発電装置は、その別の補機の回転軸に対しても原動機トルクTeを応答性良く働かせることができ、例えば別の補機がウォーターポンプならば、応答性の良い駆動に伴って原動機内の冷却水を適切に循環させることができる。つまり、この車両用発電装置は、ベルト33の弛みが検知される度にその弛みを解消させることになるので、そのベルト33を介した原動機と補機間のトルクの伝達が行われる前に適切なベルト張力を確保しておくことができ、その間のトルクの伝達を応答性良く実行させることができるようになる。
【0083】
ところで、上述した例示においてはステップST1で車両特性情報を取得してから定常ゲインKe,Kaと自然周波数ωnの演算を行ったが、その定常ゲインKe,Kaと自然周波数ωnについては、予め求めて記憶手段40等に記憶させておき、ステップST1の工程を経ずに記憶手段40等から読み込ませるようにしてもよい。また、上述した例示においては演算処理の迅速化を図るべく定常ゲインKe,Kaと自然周波数ωnを使用したが、ステップST1で取得した車両特性情報を利用してベルト伸び量xの演算、目標発電機トルクTatgtやベルト弛み解消制御実行時間Δtの演算を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明に係る車両用発電装置は、少なくとも原動機と発電機との間に巻き掛けられたトルク伝達部材としてのベルトの弛みを監視して、弛みがあればこれを解消させる技術に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る車両用発電装置の構成の一例を示す図である。
【図2】クランクプーリと発電機プーリとの間のモデル図である。
【図3】ベルト伸び量に対するトルク伝達遅れ時間の相関関係の一例について示す図である。
【図4】ベルト弛み解消制御の一例を示すタイムチャートである。
【図5】ベルト弛み解消制御の動作の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0086】
10 発電機
20 電子制御装置
20a 車両駆動力制御手段
20b ベルト伸び量推定手段
20c ベルト状態判定手段
20d ベルト弛み解消手段
20e ベルト弛み解消制御指令値設定手段
31 クランクプーリ
32 発電機プーリ
33 ベルト
40 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源たる原動機の原動機トルクを利用して発電する発電機と、前記原動機の出力軸と前記発電機の回転軸とを繋ぎ、これらの間でトルクの伝達を行うベルト等からなるトルク伝達手段と、を備えた車両用発電装置において、
前記発電機の発電機トルクを制御することによって前記原動機の出力軸に掛かる負荷を調整して車両の駆動力を制御する車両駆動力制御手段と、
前記ベルトの伸び量の情報を取得するベルト伸び量取得手段と、
前記ベルトの伸び量に基づいて当該ベルトの弛みの有無を判定するベルト状態判定手段と、
前記ベルトに弛みがあるときに前記発電機の発電機トルクを増加させるベルト弛み解消手段と、
を設けたことを特徴とする車両用発電装置。
【請求項2】
目標発電機トルクを前記原動機トルクと前記ベルトの伸び量に応じて設定するベルト弛み解消制御指令値設定手段を設け、
前記ベルト弛み解消手段は、前記ベルトに弛みがあるときに前記目標発電機トルクを発生させるべく前記発電機の制御を行うよう構成したことを特徴とする請求項1記載の車両用発電装置。
【請求項3】
前記目標発電機トルクは、ベルトの伸び量の目標値とベルトに弛みありと判定された際の前記ベルトの伸び量との関係を一定に保たせるべく前記原動機トルクに対応させて設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用発電装置。
【請求項4】
前記ベルト伸び量取得手段は、前記原動機トルクと前記発電機トルクに基づいて前記ベルトの伸び量の推定を行うように構成したことを特徴とする請求項1,2又は3に記載の車両用発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−268318(P2009−268318A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117751(P2008−117751)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】