説明

車両用衝撃吸収部材

【課題】圧潰変形時の圧潰ストローク量を確保することで衝撃吸収性能を向上させる。
【解決手段】車両用衝撃吸収部材EAは、相互に所要間隔をおいて配列された円錐台形状を呈する複数の衝撃吸収突部10と、各衝撃吸収突部10の非存在部分に位置し、これら衝撃吸収突部10の裾部分を連結支持する面状連結部18と、各衝撃吸収突部10の頂面部16に設けられ、該衝撃吸収突部10が圧潰変形する際に該頂面部16の変形を許容する頂面変形許容部40とから構成される。各衝撃吸収突部10は、面状連結部18の一方側へ突出したカップ状を呈する。頂面変形許容部40は、頂面部16の外縁に隣接しかつ断続的に開口形成した複数の頂面開口42間に位置し、該頂面部16の中心から径方向外方に向け放射状に延在する複数の頂面変形リブ43から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂からなる車両用衝撃吸収部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両に対しては、衝突事故発生時における乗員保護だけではなく、歩行者保護に関する安全対策の確立も希求されており、歩行者が衝突した際にはその衝撃により車体(ボディ)が適度に変形することで、衝撃吸収を図るようにした所謂「歩行者傷害軽減ボディ」が開発されている。すなわち、走行中の車両が誤って歩行者に衝突した場合、当該歩行者はその反動でボディのボンネットやフェンダー等に叩き付けられるようになるため、これらボンネットやフェンダーが歩行者との衝突による衝撃力で陥凹的に変形する構造とすることで、衝撃を緩和して歩行者の負傷度合を軽減する対策が施されている。
【0003】
しかしながらスチール製のボディは、変形し易い衝撃吸収構造に設計したとしても、これだけでは充分な衝撃吸収を図り得ない場合が多い。このため、ボディの内側に適宜の車両用衝撃吸収部材(エネルギーアブゾーバー(EA)ともいう)を介在させておき、ボディの変形が生ずるような衝撃が外部から加わった場合には、当該車両用衝撃吸収部材が圧潰的に変形して衝撃吸収を図るようにすることが多い。この車両用衝撃吸収部材は、形状、構造、材質等が多種に亘っており、例えば(1)硬質ウレタン製の成形体、(2)合成樹脂製の構造体、(3)発泡ビーズ、(4)アルミ製やスチール製のリブ構造体、等が実用化されている。このような車両用衝撃吸収部材に関しては、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
ここで、車両用衝撃吸収部材の衝撃吸収性能を測定する試験として、例えば「ヘッドインパクト試験」が挙げられる。このヘッドインパクト試験は、ヘッドフォームインパクタを使用するもので、セット台にセットした規定サイズのサンプル材に、ヘッドフォーム(頭部模型)を24km/h(15マイル/h)でフリーフライトさせることで、この際に取得されたデータをもとにHIC(Head Injury Criteria:頭部傷害度)値を算出するものである。このHIC値は、衝突時にヘッドフォームに発生した加速度の時間履歴データを所要の評価式に代入して求めた数値であって、その数値が小さいほど頭部傷害を軽減可能と評価されるもので、一般的には「1000」が評価基準値でこれより小さいことが望ましいとされている。
【特許文献1】特開平9−150692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、車両用衝撃吸収部材においては、外部からの衝撃が加わった場合、単に圧潰的に変形して衝撃を吸収するだけに留まらず、いかに衝撃を効率的かつ有効的に吸収して(衝撃吸収量を増加させて)衝撃吸収性能を向上させ得るかが希求されている。例えば図13および図14は、特許文献1に開示された緩衝体を概略的に示した部分斜視図である。車両用衝撃吸収部材である緩衝体EA1は、ポリプロピレン等の樹脂製で衝撃吸収機能を発現するカップ状体60が、その中空部の軸芯が平行になるように一定間隔で配置され、連結機能を有するブリッジ66で縦横に結合された構造となっている。
【0006】
しかしながらこのような構造では、杆状のブリッジ66を適度に太く設定したとしても、例えば図15に例示したように部分的に外力が加わった場合には、カップ状体60の傾倒的な姿勢変位を規制することができない。このようにカップ状体60が姿勢変位した場合には、外力に対して適切な圧潰変形が起こり難くなるため、効率的な衝撃吸収が発現され得ない欠点を内在している。
【0007】
また、緩衝体EA1を構成する各カップ状体60は、その頂面部68の全体が壁となった有底タイプであって、全体的な剛性がかなり高くなっている。しかも、各カップ状体60の裾部分64を4方向から支持する各ブリッジ66が、該カップ状体60が圧潰変形するに際して所謂「支え棒」の如く作用してしまい、外周側面部62の拡開的な変形を規制する場合もある。このためカップ状体60は、図16に例示したように、裾部分64の拡開的な変形が規制されるばかりか、頂面部68の縮小的な変形も規制されてしまい、外周側面部62はリブ状に折れ曲がるように変形するようになり、変形前の突出高さHの半分にも満たない程度まで変形した後は、それ以上変形するために非常に大きな荷重を必要とし、ストローク自体も減少してしまう。すなわち、圧潰変形の途中で早期に底付き状態が発生して衝撃吸収量が少なくなってしまい、これに伴って好適な衝撃吸収が発現されない課題を内在している。
【0008】
なお特許文献1には、頂面部に相当する上部が完全に開口した開口タイプのカップ状体60も例示されている。このような開口タイプのカップ状体60は、上部が開口しているため該上部の縮小的な変形が簡単に発現されるから、圧潰ストローク量は確保され易い利点がある。しかしながら、圧潰変形が発現され易くなった分だけ、この圧潰変形に際しての衝撃吸収量が少なくなってしまい、やはり好適な衝撃吸収を図り得るとは評価できない。
【0009】
従って本発明は、圧潰変形時の圧潰ストローク量を効率的に確保することで、衝撃吸収性能を向上させた車両用衝撃吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、
合成樹脂からなる車両用衝撃吸収部材であって、
相互に所要間隔をおいて配列された円錐台形状を呈する複数の衝撃吸収突部と、
前記各衝撃吸収突部の非存在部分に位置し、これら衝撃吸収突部の裾部分を連結支持する面状連結部と、
前記各衝撃吸収突部の頂面部に設けられ、該衝撃吸収突部が圧潰変形する際に該頂面部の変形を許容する頂面変形許容部とからなることを要旨とする。
【0011】
従って、請求項1に係る発明によれば、各衝撃吸収突部の間に存在する面状連結部により、全体的な形状保持が図られると共に各衝撃吸収突部の姿勢保持が図られる。そして、各衝撃吸収突部の頂面部に頂面変形許容部を設けたことにより、当該衝撃吸収突部に外力が加わって圧潰変形する際の圧潰ストローク量を確保することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記各衝撃吸収突部は、前記面状連結部の一方側へ突出したカップ状を呈することを要旨とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、衝撃吸収突部に外力が加わった際に、適切に圧潰変形して衝撃を好適に吸収できる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記頂面変形許容部は、前記頂面部の外縁に隣接しかつ断続的に開口形成した複数の頂面開口間に位置し、該頂面部の中心から径方向外方に向け放射状に延在する複数の頂面変形リブから構成されることを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、頂面部の縮小的な変形が適切に発現され、圧潰変形突部の圧潰ストローク量が確実に確保できる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の発明において、所要厚の発泡樹脂部材に装着して使用に供されることを要旨とする。
従って、請求項4に係る発明によれば、これら発泡樹脂部材と車両用衝撃吸収部材とを組み合わせた場合には、例えばボンネットの裏側等に装着して使用するのに好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車両用衝撃吸収部材によれば、衝撃吸収突部の姿勢を保持できると共に圧潰ストローク量を効率的に確保することができるため、該衝撃吸収突部の圧潰変形を適切に発現させて衝撃吸収性能の向上を好適に図り得る等の利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明に係る車両用衝撃吸収部材につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、好適実施例に係る車両用衝撃吸収部材の部分斜視図、図2は、車両用衝撃吸収部材に設けられている衝撃吸収突部の一つを拡大表示した斜視図である。本実施例の車両用衝撃吸収部材EAは、ポリプロピレン(PP)等の合成樹脂等を材質とし、全体的に厚さが略均一で1〜2mm程度とされている。このような車両用衝撃吸収部材EAは、例えば公知の真空成形または圧空成形等の成形技術に基づき、シート状部材または板状部材をカップ状に成形したものである。なお車両用衝撃吸収部材EAは、前述した成形方法の他に、インジェクション成形やパウダースラッシュ成形技術等を利用して、溶融樹脂または粉末樹脂から一体的に成形することも可能である。
【0018】
そして車両用衝撃吸収部材EAは、樹脂材Pの片面側(一方側)へ突出すると共に他面側(他方側)に開口する、換言すると後述する面状連結部18の一方側へ突出してカップ状を呈する円錐台形状の複数の衝撃吸収突部10が、相互に所要間隔をおいて配列されている。これら衝撃吸収突部10は、基本的に同一形状・同一寸法でかつ各部位の厚さが略同一であって、例えば外周側面部12における裾部分14の直径D1=40mm、頂面部16の直径D2=25mm、突出高さH=15mm程度とされている。また、周囲に隣接する各々の衝撃吸収突部10との間隔Lは、100mm程度に設定されている。この間隔Lは、例えば車両用衝撃吸収部材EAがボディのボンネットの裏面等に配設して実施に供される場合、歩行者の頭部が該ボンネットに衝突する際のことを考慮して設定されたものである。
【0019】
そして、各衝撃吸収突部10の間の部分、すなわち各衝撃吸収突部10の非存在部分は、樹脂材Pにおける非変形部分がそのままの状態で位置しており、これら衝撃吸収突部10を連結すると共に姿勢保持する面状連結部18となっている。すなわち、本実施例の車両用衝撃吸収部材EAは、各衝撃吸収突部10の周囲全体に面状連結部18が存在しており、これら衝撃吸収突部10の裾部分14が該面状連結部18で連結支持されているため、該衝撃吸収突部10の頂面部16に対して部分的に外力が作用したとしても、当該衝撃吸収突部10が単独的に姿勢変位することが規制される構造となっている。また、面状連結部18自体には多少の撓曲的な変形が発現されるため、車両用衝撃吸収部材EAが全体的に若干撓むものの、部分的に折れ曲がる等の局部変形は起こり難くなっており、必要かつ充分な形状保持性が確保されている。
【0020】
そして、各衝撃吸収突部10の頂面部16には、図2および図4等に例示したように、該衝撃吸収突部10が圧潰変形する際に該頂面部16の縮小的な変形を許容する頂面変形許容部40が設けられている。この頂面変形許容部40は、頂面部16の外縁に隣接して断続的に開口形成した複数(実施例では6個)の頂面開口42間に位置する複数(本実施例では6個)の頂面変形リブ43から構成されている。各頂面変形リブ43は、頂面開口42の開口サイズ・形状により長さSおよび幅Wが設定されるもので、頂面部16の中心から径方向外方に向け放射状に延在している。このような頂面変形リブ43は、具体的には長さS=4.0mm程度、幅W=2.5mm程度とされ、衝撃吸収突部10に対して外力が加わった際に夫々が折曲または湾曲することで、外周側面部12の上縁部分が内方へ変形するのを許容し、圧潰変形時の圧潰ストローク量の増大を図るためのものである。
【0021】
すなわち本実施例の車両用衝撃吸収部材EAは、各衝撃吸収突部10の頂面部16に、頂面開口42を開口形成して複数の頂面変形リブ43からなる頂面変形許容部40を設けたとしても、該頂面部16には依然として壁部が存在している。このため、後述するように、特許文献1に開示された前述の2タイプのカップ状体60の各々に内在する不都合を適切に解消して、圧潰ストローク量の拡大および衝撃吸収量の増大の両立を実現し、衝撃吸収性能の向上を図ることができる。
【0022】
次に、前述のように構成された車両用衝撃吸収部材EAにおける衝撃吸収突部10の圧潰変形のプロセスにつき、図3〜図8を引用して説明する。本実施例の車両用衝撃吸収部材EAは、図1に例示したように多数個の衝撃吸収突部10を有し、各衝撃吸収突部10の裾部分14は面状連結部18により連結されている。そして、各衝撃吸収突部10の頂面部16には、図3および図4に例示したように、複数の頂面変形リブ43からなる頂面変形許容部40が設けられている。
【0023】
このような車両用衝撃吸収部材EAでは、図3および図4の状態から衝撃吸収突部10に上方から衝撃が加わった場合、先ず図5および図6に例示するように、頂面変形許容部40の各頂面変形リブ43が折曲的に変形することで、頂面部16が徐々に下方へ沈み込みながら縮小的に変形するようになる。そして外周側面部12は、裾部分14に臨む下縁部分が面状連結部18に固定され、外方へ拡開的に変形することが殆ど規制されているため、押圧力が増加するに従って頂面部16に臨む上縁部分が内方へ移動し、沈み込んだ頂面部16の上方へ迫り上がるようになる。従って、図5および図6の時点では、外周側面部12は不規則な変形が起こっていないので部分的にリブ状に変形しておらず、よってまだ底付きが発現されない。
【0024】
更に、外力による押圧力が加わる場合には、各頂面変形リブ43が更に折曲的に変形し、頂面部16が下方へ沈み込むようになる。そして、所定量まで圧潰変形が進行して各頂面変形リブ43の変形が不可能となると、図7および図8に例示するように、外周側面部12の上縁部分の内方への移動が規制されるため、該外周側面部12の下縁部分が外方へ移動して、面状連結部18の上面へ適宜迫り上がるようになる。これにより外周側面部12は、上縁部分が頂面部16へ適宜重なると共に下縁部分が面状連結部18に適宜重なるようになる。従って衝撃吸収突部10は、最大に圧潰変形した際に突出高さH(15mm)に比較的近い圧潰ストローク量が確保される一方、衝撃吸収量が増大して効率的な衝撃吸収が図られるようになる。
【0025】
次に、頂面変形許容部40の有無による衝撃吸収性能の差異を、本願発明者が実施した実験結果をもとにして説明する。図9に例示するように、各衝撃吸収突部10の寸法、形成位置、厚さ等を同一とすると共に材質を同一とし、頂面部16に頂面変形許容部40を設けていない車両用衝撃吸収部材(図9(a);試料S1(比較例1))と、頂面部16の全体が完全に開口した開口部44を有した車両用衝撃吸収部材(図9(b);試料S2(比較例2))と、頂面部16に頂面変形許容部40を設けた車両用衝撃吸収部材(図9(c);試料S3)とを準備し、夫々について衝撃吸収性能の実験を行なった。ここで、試料S3における頂面変形許容部40は、前述したように、頂面部16の中心から径方向外方に向け等間隔で放射状に延在する6個の頂面変形リブ43から構成され、各頂面変形リブ43の寸法は、長さS=4.0mm、幅W=2.5mmである。
【0026】
図10は、試料S1〜試料S3の衝撃吸収性能の実験結果を表示したグラフである。比較例1である試料S1は、図10のグラフに2点鎖線で表示したように、各衝撃吸収突部10の突出高さH=15mmに設定してあるにも拘わらず、許容内最大荷重値以下での実質的な圧潰ストローク量は僅か4mm程度であり、この時点で底付き状態となるため以降は荷重が一気に上昇してしまうことが確認できる。これは、特に頂面変形許容部40を設けていないために頂面部16の縮小的な変形が困難であることを意味し、図16に例示した圧潰変形状態と同様に、外周側面部12が折り重なってリブ状となってしまい、早期に底付き状態を招来してしまうからである。
【0027】
比較例2である試料S2では、許容内最大荷重値以下での圧潰変形時の圧潰ストローク量が約11.5mm程度であった。すなわち、頂面部が開口部44となった試料S2は、頂面部16が完全な壁となった試料S1と比較すると、圧潰ストローク量が7.5mm程度も増加したことが確認できる。しかしながら、圧潰変形の全般において荷重の立ち上がりが極めて少なく、所謂腰がない状態となって衝撃吸収突部10の圧潰変形が容易に進行する傾向が確認できる。これは、完全に開口した頂面部の縮小的な変形が簡単に発現してしまうからであると推測できる。
【0028】
これに対して本実施例である試料S3では、許容内最大荷重値以下での圧潰変形時の圧潰ストローク量が約10.5mm程度であった。すなわち、頂面部16に頂面変形許容部40を設けた試料S3は、頂面部16が完全な壁となった試料S1と比較すると圧潰ストローク量が6.5mm程度も増加し、頂面部が完全に開口した試料S2と比較すると圧潰ストローク量は1mm程度だけ小さくなっていることが確認できる。しかも、圧潰変形の全般において荷重の立ち上がりは試料S2よりかなり良好となっており、斜線表示(面積)で示した衝撃吸収量は、概ね試料S1の2.5倍程度、試料S2の2倍程度となっていることから、衝撃吸収性能が大幅に向上していることが確認できる。
【0029】
換言すると、複数の頂面変形リブ43からなる頂面変形許容部40を頂面部16に設けることは、試料S1と比較した場合、衝撃吸収突部10の圧潰ストローク量を大幅に増大させ得ると共に衝撃吸収量も2倍以上に増加させることが可能である。また、試料S2と比較した場合、衝撃吸収突部10の圧潰ストローク量は微減となるものの、衝撃吸収量は2倍程度に増加させることが可能である。このことから、頂面変形許容部40を設けることは、衝撃吸収突部10の圧潰変形時の圧潰ストローク量の拡大および衝撃吸収量の増大の両立において、極めて効果的であることが確認できた。
【0030】
前述のように構成された本実施例の車両用衝撃吸収部材EAは、各衝撃吸収突部10の頂面部16をボディの鋼板裏側に指向させた状態で、該ボディの内側に取り付けて単独で実施に供される。そして、ボディに対して外方から衝撃的な外力が加わり、これにより該ボディが内側へ陥凹的に変形した際には、前述した衝撃吸収突部が圧潰変形するようになり、この際に衝撃が吸収されるようになる。
【0031】
また本実施例の車両用衝撃吸収部材EAは、図12(a)に例示するように、所要厚の発泡樹脂部材50の片面に装着して使用に供することも可能である。この際、図12(b)に例示するように、各衝撃吸収突部10が突出した側を発泡樹脂部材50に指向するように装着した場合には、これら衝撃吸収突部10が発泡樹脂部材50の圧縮変形に伴って突入するようになるため、両部材EA,50を組み合わせても厚さの増加は殆どない。ここで前述した発泡樹脂部材50は、吸音機能を発揮する吸音部材として実施に供されるものであるから、これら発泡樹脂部材50と車両用衝撃吸収部材EAを組み合わせた場合には、例えばボンネットの裏側等に装着して使用するのに好適である。なお、車両用衝撃吸収部材EAと発泡樹脂部材50との組み合わせは、図12(a)とは反対、すなわち各衝撃吸収突部10が突出しない側を発泡樹脂部材50に指向するように装着してもよい。
【0032】
また、衝撃吸収突部10の頂面部16に複数の頂面開口42を設けているため、吸音機能を具有する発泡樹脂部材50が該頂面開口42に臨むようになるから、エンジン側で発生した音がこの頂面開口42に臨んだ該発泡樹脂部材50で吸収され易くするという効果も有する。
【0033】
前述した本実施例の車両用衝撃吸収部材EAによれば、次のような作用効果を奏する。先ず、車両用衝撃吸収部材EAは、各衝撃吸収突部10の間に面状連結部18が存在するようになり、全体的な形状保持が図られると共に各衝撃吸収突部10の姿勢保持も好適に図られる。そして、衝撃吸収突部10の頂面部16に、複数個の頂面変形リブ43から構成される頂面変形許容部40を設けたことにより、当該衝撃吸収突部10に外力が加わって圧潰変形する際の圧潰ストローク量を確保し、衝撃吸収性能を向上させ得る。また、各衝撃吸収突部10は、面状連結部18の一方側へ突出したカップ状を呈しているため、外力が加わった際には適切に圧潰変形して衝撃を好適に吸収できる。
【0034】
また頂面変形許容部40は、頂面部16の中心から径方向外方に向け延在する複数個の頂面変形リブ43から構成されているので、該衝撃吸収突部10が圧潰変形するに際し、該頂面部16が縮小的に変形して該外周側面部12の上縁部分が嵩張ることなく変形するようになり、圧潰ストローク量を効率的に拡大させることができる。
【0035】
なお、頂面変形許容部40における各頂面変形リブ43の形態は、前述した実施例のものに限定されるものではなく、例えば図11に例示したような形態としてもよい。すなわち、(1)各頂面開口42を頂面部16の中心まで開口させ、径方向略中央にリング状の中間リブ46を設けたタイプ(図11(a))、(2)頂面部16の径方向略中央にリング状の中間リブ46を設け、各頂面変形リブ43をこの中間リブ46の内側および外側で径方向へ偏倚させたタイプ(図11(b))、(3)頂面部16を略三角形状とし、その各頂部に頂面変形リブ43を設けたタイプ(図11(c))、等が提案できる。この場合、図11(a)および(b)の場合、中間リブ46の外側および内側において、各頂面変形リブ43の長さSは前述した範囲内となっている。
【0036】
そして、前述した実施例の車両用衝撃吸収部材EAでは、各衝撃吸収突部10の全てに、頂面変形許容部40を設けた場合を例示した。しかしながら、車両用衝撃吸収部材EAを配設するボディの箇所に応じて、HIC値を満足する許容内最大荷重値が異なるため、例えば一部の衝撃吸収突部10だけに頂面変形許容部40を設け、頂面変形許容部40を設けた衝撃吸収突部10と頂面変形許容部40を設けない衝撃吸収突部10とを混在させてもよく、この場合は部位ごとに衝撃吸収性能が異なるようにすることが可能となる。
【0037】
また、前述した本実施例の車両用衝撃吸収部材EAは、所要厚のシート状の樹脂材Pから真空成形または圧空成形したものであるため、基本的には各衝撃吸収突部10および面状連結部18が略同一の厚さとなっていた。しかしながら、前述したインジェクション成形またはパウダースラッシュ成形等により製作される車両用衝撃吸収部材EAの場合には、(1)各衝撃吸収突部10および面状連結部18の厚さを異なるよう設定する、(2)各衝撃吸収突部10毎に厚さを異なるよう設定する、(3)各衝撃吸収突部10において部位(例えば外周側面部12と頂面部16)毎に厚さを変化させる、等が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る車両用衝撃吸収部材は、合成樹脂から形成されたものであり、車両のボディにおけるボンネットやフェンダーの裏側に配設されて、該ボンネット等に衝突した歩行者の傷害を軽減するようにした車両用衝撃吸収部材として好適に実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の好適実施例に係る車両用衝撃吸収部材の部分斜視図。
【図2】衝撃吸収突部を拡大表示した斜視図。
【図3】図4のIII−III線断面図。
【図4】衝撃吸収突部の平面図であって、圧潰変形する前を示している。
【図5】図6のV−V線断面図。
【図6】衝撃吸収突部の平面図であって、圧潰変形の途中を示している。
【図7】図8のVII−VII線断面図。
【図8】衝撃吸収突部の平面図であって、完全に圧潰変形した状態を示している。
【図9】(a)は、比較例1である試料S1の衝撃吸収突部を例示した部分斜視図、(b)は、比較例2である試料S2の衝撃吸収突部を例示した部分斜視図、(c)は、試料S3の衝撃吸収突部を例示した部分斜視図。
【図10】試料S1〜試料S3の衝撃吸収性能の実験結果を表示したグラフ。
【図11】頂面変形許容部の変更例を示した衝撃吸収突部の部分平面図。
【図12】(a)は、本実施例の車両用衝撃吸収部材を発泡樹脂部材に装着して使用する場合を例示した説明図、(b)は、両部材の断面図。
【図13】従来の車両用衝撃吸収部材である緩衝体の部分斜視図。
【図14】図13のZ−Z線断面図。
【図15】カップ状体に部分的な外力が加わった場合に、該カップ状体が姿勢変位してしまう不都合を示した説明図。
【図16】カップ状体が圧潰変形するに際し、外周側面部が折り重なることで圧潰ストローク量が減少する不都合を示した説明図。
【符号の説明】
【0040】
10 衝撃吸収突部,16 頂面部,18 面状連結部,40 頂面変形許容部,
42 頂面開口,43 頂面変形リブ,50 発泡樹脂部材,
S 長さ(頂面変形リブ43の)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなる車両用衝撃吸収部材であって、
相互に所要間隔をおいて配列された円錐台形状を呈する複数の衝撃吸収突部(10)と、
前記各衝撃吸収突部(10)の非存在部分に位置し、これら衝撃吸収突部(10)の裾部分を連結支持する面状連結部(18)と、
前記各衝撃吸収突部(10)の頂面部(16)に設けられ、該衝撃吸収突部(10)が圧潰変形する際に該頂面部(16)の変形を許容する頂面変形許容部(40)とからなる
ことを特徴とする車両用衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記各衝撃吸収突部(10)は、前記面状連結部(18)の一方側へ突出したカップ状を呈する請求項1記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記頂面変形許容部(40)は、前記頂面部(16)の外縁に隣接しかつ断続的に開口形成した複数の頂面開口(42)間に位置し、該頂面部(16)の中心から径方向外方に向け放射状に延在する複数の頂面変形リブ(43)から構成される請求項1または2記載の車両用衝撃吸収部材。
【請求項4】
所要厚の発泡樹脂部材(50)に装着して使用に供される請求項1〜3の何れかに記載の車両用衝撃吸収部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−160987(P2007−160987A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356884(P2005−356884)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】