説明

車両用衝突検知装置

【課題】簡単な構成で静電容量式のセンサ部における配線の断線故障による誤検知を防止して確実に衝突の発生を検知可能な車両用衝突検知装置を提供する。
【解決手段】車両バンパに歩行者等が衝突すると、センサ部11において対向電極12間の距離が一時的に縮小して静電容量が増大し、これによりLC直列共振回路における共振周波数が低い側にシフトする。一方、センサ部11のサイドメンバ側電極12bと駆動回路部16とを接続する配線14に断線故障が生じると、センサ部11が駆動回路部16から遮断され、LC直列共振回路における静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトする。よって、衝突発生時と配線14の断線故障時とで駆動回路部16と配線14との接続点16dにおける電圧変化の態様が異なるため、これらを電圧検出値によって容易に区別可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突面の変形によって歩行者等の衝突を検知するための装置に関し、特に、静電容量式のセンサ部を備えた車両用衝突検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者保護の目的で、車両バンパ部に衝突検知装置を取り付け、衝突時に衝突対象が歩行者か否かを判定し、歩行者衝突の発生と判定した場合には、歩行者を保護するための装置(例えば、歩行者保護用エアバッグ)を作動させる技術が提案されている。
【0003】
そして、車両への歩行者等の衝突を検知する方式として、従来、コンデンサの容量変化を利用した静電容量型衝突検出センサを用いる方式が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【0004】
この静電容量型衝突検出センサは、衝突面に一定間隔を隔てて配設された対向電極とこの対向電極の間に介挿された弾性体より成る誘電体とにより構成される。そして、衝突が発生した場合には、弾性体が潰れることで対向電極間の距離が変化し、静電容量が増加する。
【0005】
また、この静電容量型衝突検出センサへの入力は、発振器により生成された正弦波信号である。衝突が発生した場合、対向電極が接近して静電容量が増加するため、出力信号の信号波形が衝突発生前に対し変化する。静電容量検出回路は、この変化を検出することで、衝突の発生を検出する。
【特許文献1】特開2000−177514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された装置においては、静電容量検出回路と静電容量型衝突検出センサとの間の配線が断線した場合、静電容量検出回路に入力される信号波形が不定となり、静電容量検出回路と静電容量型衝突検出センサとの間の配線が断線したのか、衝突が発生したのかを出力信号に基づいて判別できないため、衝突の発生を誤検知する可能性があるという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で静電容量式のセンサ部における配線の断線故障による誤検知を防止して確実に衝突の発生を検知可能な車両用衝突検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
【0009】
1.車両への物体の衝突を検出する車両用衝突検知装置において、
車両の衝突面に一定間隔を隔てて配設された対向電極及び前記対向電極の間に介挿された誘電体からなるセンサ部と、
前記センサ部の前記対向電極の一方に配線を介して接続され、交流電圧を発生する発振器、前記センサ部に直列に接続されるコイル及び前記センサ部に並列に接続されるコンデンサからなる駆動回路部と、
前記駆動回路部と前記配線との接続点における電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部による電圧検出値に基づいて衝突の発生を判定する衝突判定手段と
を備えたことを特徴とする車両用衝突検知装置。
【0010】
手段1によれば、センサ部は、車両の衝突面に一定間隔を隔てて配設された対向電極及び対向電極の間に介挿された誘電体からなり、衝突面への物体の衝突による対向電極間の距離変動によって静電容量が変化する可変容量コンデンサとして機能する。駆動回路部は、交流電圧を発生する発振器、センサ部に直列に接続されるコイル及びセンサ部に並列に接続されるコンデンサからなり、センサ部の対向電極の一方に配線を介して接続されることにより、可変容量コンデンサとしてのセンサ部と共にLC直列共振回路を形成している。そして、車両の衝突面に物体が衝突すると、センサ部において対向電極間の距離が一時的に縮小して静電容量が増大し、これによりLC直列共振回路における共振周波数が低い側にシフトする。一方、センサ部の対向電極の一方と駆動回路部とを接続する配線に断線故障が生じると、センサ部が駆動回路部から遮断され、LC直列共振回路における静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトする。よって、衝突発生時と配線の断線故障時とで駆動回路部と配線との接続点における電圧変化の態様が異なるため、これらを電圧検出値によって容易に区別可能である。従って、駆動回路部を簡単な構成としつつ、衝突判定手段は、電圧検出部による電圧検出値に基づいて配線の断線故障に影響されることなく衝突の発生を正確に判定することができる。
【0011】
2.車両への物体の衝突を検出する車両用衝突検知装置において、
車両の衝突面に一定間隔を隔てて配設された対向電極及び前記対向電極の間に介挿された誘電体からなるセンサ部と、
前記センサ部の前記対向電極の一方に配線を介して接続され、交流電圧を発生する発振器、前記センサ部に直列に接続されるコンデンサ及び前記センサ部に並列に接続されるコイルからなる駆動回路部と、
前記駆動回路部と前記配線との接続点における電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部による電圧検出値に基づいて衝突の発生を判定する衝突判定手段と
を備えたことを特徴とする車両用衝突検知装置。
【0012】
手段2によれば、センサ部は、車両の衝突面に一定間隔を隔てて配設された対向電極及び対向電極の間に介挿された誘電体からなり、衝突面への物体の衝突による対向電極間の距離変動によって静電容量が変化する可変容量コンデンサとして機能する。駆動回路部は、交流電圧を発生する発振器、前記センサ部に直列に接続されるコンデンサ及び前記センサ部に並列に接続されるコイルからなり、センサ部の対向電極の一方に配線を介して接続されることにより、可変容量コンデンサとしてのセンサ部と共にLC並列共振回路を形成している。そして、車両の衝突面に物体が衝突すると、センサ部において対向電極間の距離が一時的に縮小して静電容量が増大し、これによりLC並列共振回路における共振周波数が低い側にシフトするために電圧変化が生じる。一方、センサ部の対向電極の一方と駆動回路部とを接続する配線に断線故障が生じると、センサ部が駆動回路部から遮断され、LC並列共振回路における静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトするために電圧変化が生じる。よって、衝突発生時と配線の断線故障時とで駆動回路部と配線との接続点における電圧変化の態様が異なるため、これらを電圧検出値によって容易に区別可能である。従って、駆動回路部を簡単な構成としつつ、衝突判定手段は、電圧検出部による電圧検出値に基づいて配線の断線故障に影響されることなく衝突の発生を正確に判定することができる。
【0013】
3.前記衝突判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値を、衝突時の電圧値に基づいて予め設定された衝突判定閾値と比較することにより衝突の発生を判定することを特徴とする手段1又は2に記載の車両用衝突検知装置。
【0014】
手段3によれば、車両の衝突面に物体が衝突すると、センサ部において対向電極間の距離が一時的に縮小して静電容量が増大し、これにより共振周波数が低い側にシフトすることにより電圧変化が生じるので、衝突判定手段は、電圧検出部による電圧検出値を、衝突時の電圧値に基づいて予め設定された衝突判定閾値と比較することにより衝突の発生を確実に判定することができる。
【0015】
4.前記電圧検出部は、所定周波数におけるピーク電圧を検出し、
前記衝突判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値を、前記所定周波数における衝突時の電圧値に基づいて予め設定された前記衝突判定閾値と比較することにより衝突の発生を判定することを特徴とする手段3に記載の車両用衝突検知装置。
【0016】
手段4によれば、電圧検出部は、所定周波数におけるピーク電圧を検出し、車両の衝突面に物体が衝突すると、センサ部において対向電極間の距離が一時的に縮小して静電容量が増大し、これにより共振周波数が低い側にシフトすることによりインピーダンスが減少して電圧が変化するので、衝突判定手段は、電圧検出部による電圧検出値を、所定周波数における衝突時の電圧値に基づいて予め設定されたが衝突判定閾値と比較することにより衝突の発生を判定することができる。一方、センサ部の対向電極の一方と駆動回路部とを接続する配線に断線故障が生じると、センサ部が駆動回路部から遮断されて静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトすることにより、衝突発生時とは異なる電圧変化が生じるので、衝突判定手段は配線の断線故障を衝突の発生と誤検知することがない。
【0017】
5.前記電圧検出部は、前記センサ部と前記駆動回路部とから形成される共振回路における通常時の共振周波数を基準として衝突時の共振周波数側に設定された前記所定周波数におけるピーク電圧を検出し、
前記衝突判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値が前記衝突判定閾値以下である場合に衝突の発生と判定することを特徴とする手段4に記載の車両用衝突検知装置。
【0018】
手段5によれば、電圧検出部は、センサ部と駆動回路部とから形成される共振回路における通常時の共振周波数を基準として衝突時の共振周波数側に設定された所定周波数におけるピーク電圧を検出する。そして、車両の衝突面に物体が衝突すると、センサ部において対向電極間の距離が一時的に縮小して静電容量が増大し、これにより共振周波数が低い側にシフトすることによりインピーダンスが減少して通常時よりも電圧が低下するので、衝突判定手段は、電圧検出部による電圧検出値が衝突判定閾値以下である場合に衝突の発生と判定することができる。一方、センサ部の対向電極の一方と駆動回路部とを接続する配線に断線故障が生じると、センサ部が駆動回路部から遮断されて静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトすることにより通常時よりも電圧が上昇するので、衝突判定手段は配線の断線故障を衝突の発生と誤検知することがない。
【0019】
6.前記電圧検出部による電圧検出値に基づいて前記配線の断線故障を判定する故障判定手段を更に備えたことを特徴とする手段1乃至5のいずれかに記載の車両用衝突検知装置。
【0020】
手段6によれば、故障判定手段が、電圧検出部による電圧検出値に基づいて配線の断線故障を判定するので、簡単な構成で、衝突の発生のみならず配線の断線故障をも確実に検知することができる。
【0021】
7.前記故障判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値を、前記配線の断線故障時の電圧値に基づいて予め設定された故障判定閾値と比較することにより前記配線の断線故障を判定することを特徴とする手段6に記載の車両用衝突検知装置。
【0022】
手段7によれば、センサ部の対向電極の一方と駆動回路部とを接続する配線に断線故障が生じると、センサ部が駆動回路部から遮断され、共振回路における静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトすることにより電圧変化が生じるので、故障判定手段は、電圧検出部による電圧検出値を、配線の断線故障時の電圧値に基づいて予め設定された故障判定閾値の比較することにより配線の断線故障を確実に判定することができる。
【0023】
8.前記電圧検出部は、所定周波数におけるピーク電圧を検出し、
前記故障判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値を、前記所定周波数における前記配線の断線故障時の電圧値に基づいて予め設定された前記故障判定閾値と比較することにより前記配線の断線故障を判定することを特徴とする手段7に記載の車両用衝突検知装置。
【0024】
手段8によれば、電圧検出部は、所定周波数におけるピーク電圧を検出し、センサ部の対向電極の一方と駆動回路部とを接続する配線に断線故障が生じると、センサ部が駆動回路部から遮断され、共振回路における静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトすることによりインピーダンスが増大して電圧が変化するので、故障判定手段は、電圧検出部による電圧検出値を、所定周波数における配線の断線故障時の電圧値に基づいて予め設定された故障判定閾値と比較することにより配線の断線故障を判定することができる。
【0025】
9.前記電圧検出部は、前記センサ部と前記駆動回路部とから形成される共振回路における通常時の共振周波数を基準として衝突時の共振周波数側に設定された前記所定周波数におけるピーク電圧を検出し、
前記故障判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値が前記故障判定閾値以上である場合に前記配線の断線故障と判定することを特徴とする手段8に記載の車両用衝突検知装置。
【0026】
手段9によれば、電圧検出部は、センサ部と前記駆動回路部とから形成される共振回路における通常時の共振周波数を基準として衝突時の共振周波数側に設定された所定周波数におけるピーク電圧を検出する。そして、センサ部の対向電極の一方と駆動回路部とを接続する配線に断線故障が生じると、センサ部が駆動回路部から遮断され、共振回路における静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトすることによりインピーダンスが増大して通常時よりも電圧が上昇するので、故障判定手段は、電圧検出部による電圧検出値が故障判定閾値以上である場合に配線の断線故障と判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の車両用衝突検知装置を具体化した各実施形態について図面を参照しつつ具体的に説明する。図1は、本発明の第一の実施形態の車両用衝突検知装置Aを示す全体構成図であり、車両前部の概略構成を平面視により図示している。図2は、車両バンパ1内におけるセンサ部11付近の詳細構造を示す側面図である。図3は、センサ部11と駆動回路部16とから形成されるLC直列共振回路を示す電気回路図である。
【0028】
本実施形態の車両用衝突検知装置Aは、車両への歩行者等の衝突を検知して歩行者保護用のエアバッグを展開するためのエアバッグ電子制御装置(以下、エアバッグECUと称する)20へ衝突検知信号を出力する装置であり、図1に示すように、車両バンパ1内に配設されたセンサ部11と、衝突検知電子制御装置(以下、衝突検知ECUと称する)15とを備えて構成されている。センサ部11の配線14をエアバッグECU20へ直接取込む、衝突検知ECU15の無い構成としても良い。
【0029】
車両バンパ1は、バンパカバー2、バンパリンフォースメント3、アブソーバ4、サイドメンバ5を主体として構成されている。
【0030】
バンパカバー2は、車両前端にて車両幅方向に延び、バンパリンフォースメント3及びアブソーバ4を覆うように車体に取り付けられる樹脂(例えば、ポリプロピレン)製カバー部材である。
【0031】
バンパリンフォースメント3は、バンパカバー2内に配設されて車両幅方向に延びる金属製の梁状部材である。
【0032】
サイドメンバ5は、車両側面側に位置して車両前後方向に延びる一対の金属製部材であり、その前端に上述したバンパリンフォースメント3がボルト3aによって締結固定される。尚、ボルト3aが絶縁性のスペーサ3bに挿通されることにより、後述するセンサ部11の対向電極12との電気的絶縁が図られている。
【0033】
アブソーバ4は、バンパカバー2内でバンパリンフォースメント3の前面に取り付けられ、車両バンパ1における衝撃吸収作用を有する部材である。
【0034】
センサ部11は、静電容量式の衝突センサであり、車両の衝突面である車両バンパ1内に配設され、一定間隔を隔てて配設された対向電極12及び対向電極12の間に介挿された誘電体13から構成される。対向電極12は、より詳細には、バンパリンフォースメント3と左右のサイドメンバ5との間にそれぞれ挟設され、バンパリンフォースメント3のサイドメンバ5側の面に設置された電極12aと、サイドメンバ5のバンパリンフォースメント3側端部に設置されアースより絶縁された電極12bとからなる。尚、バンパリンフォースメント側電極12aは、アースに接地されている。一方、サイドメンバ側電極12bは、衝突検知ECU15内の駆動回路部16と配線14を介して電気的に接続されている。センサ部11は、上述した構成を有することにより、車両バンパ1への物体の衝突による対向電極12間の距離変動によって静電容量が変化する可変容量コンデンサとして機能する。
【0035】
衝突検知ECU15は、図3に示すように、駆動回路部16と、ピークホールド器17と、マイコン18とを備えている。
【0036】
駆動回路部16は、センサ部11の対向電極12の一方であるサイドメンバ側電極12bに配線14を介して接続され、発振器16aと、コイル16bと、ダイアグ用コンデンサ16cとを備え、可変容量コンデンサとしてのセンサ部11と共にLC直列共振回路を形成している。
【0037】
発振器16aは、正弦波の交流電圧を発生し、コイル16bを通じてセンサ部11及びダイアグ用コンデンサ16cに対して入力する。
【0038】
コイル16bは、発振器16aに接続されると共に、センサ部11とダイアグ用コンデンサ16cとからなる並列回路に対して直列に接続される。
【0039】
ダイアグ用コンデンサ16cは、センサ部11に並列に接続されるとともに、アースに接地されている。
【0040】
ピークホールド器17は、配線14と駆動回路部16との接続点16dに接続され、ピーク電圧値を検出してマイコン18へ出力する電気回路である。
【0041】
マイコン18は、A−D変換器を内蔵する公知のマイクロコンピュータであり、ピークホールド器17から入力されるピーク電圧値(アナログ信号)をデジタル値に変換し、衝突発生の判定及び配線14における断線故障の判定を実行する。マイコン18は、衝突発生と判定した場合、配線21を介してエアバッグECU20へ衝突検知信号を出力する。また、マイコン18は、配線14の断線故障と判定した場合、配線21を介してエアバッグECU20へ故障検知信号を出力する。
【0042】
尚、エアバッグECU20は、図示しない歩行者保護用エアバッグの展開制御を行うための電子制御装置であり、衝突検知ECU15から出力される衝突検知信号及び故障検知信号が配線21を介して入力されるように構成されている。エアバッグECU20は、衝突検知ECU15から出力される衝突検知信号及び図示しない車速センサから出力される車速信号に基づいて歩行者保護用エアバッグの展開制御を実行する。
【0043】
次に、LC直列共振回路を形成するセンサ部11及び駆動回路部16によって衝突の発生及び配線14の断線故障が検出可能となる原理について説明する。
【0044】
一般的に、LC直列共振回路のインピーダンスZは、静電容量をC、インダクタンスをLとしたとき、Z=jωL+1/(jωC)で表され、電流Iは、I=V/(jωL+1/(jωC))で表される。従って、jωL=−1/(jωC)のとき、すなわち、ω=1/√(LC)のとき、共振回路に最大電流が流れる。つまり、f=1/(2π√(LC))で表される周波数(すなわち、共振周波数)で最大電流が流れる。
【0045】
従って、センサ部11の静電容量をC、ダイアグ用コンデンサ16cの静電容量をC、コイル16bのインダクタンスをLとしたとき、図3に示すLC直列共振回路の共振周波数fは、f=1/(2π√(L(C+C)))となる。尚、ダイアグ用コンデンサ16cの検出精度への影響を少なくするために、ダイアグ用コンデンサ16cの静電容量をセンサ部11の静電容量よりも十分に小さく設定する(つまり、C≪Cである)ことが好ましい。
【0046】
ここで、図4に示すように、配線14が×印部分で断線故障(センサオープン故障)した場合、共振周波数fが、f=1/(2π√(LC))にシフトする(すなわち、高くなる)ため、容易に断線故障の検出を行うことができる。
【0047】
尚、ダイアグ用コンデンサ16c(C)が無く、C及びLのみでLC直列共振回路が形成された従来構成では共振周波数が不定となるため、容易に断線故障と判断することができなかった。つまり、LC直列共振回路に静電容量Cを並列に挿入することでセンサ部11に接続される配線14の断線故障を容易に判断することが可能となる。
【0048】
次に、車両バンパ1への衝突発生時の駆動回路部16の接続点16dにおける電圧変化について説明する。図5は、衝突発生に伴う共振周波数の低下を説明するためのインピーダンスと周波数との関係を示す示すグラフである。車両バンパ1への物体の衝突により、対向電極12間の距離が縮小し、静電容量Cが大きくなる(以下、衝突時の静電容量をC’(>C)とする。)。このため、共振周波数は、f=1/(2π√L(C+C))から低い側にシフトして、f=1/(2π√(C’+C))となる。計測周波数をfとすると、その計測点でのインピーダンスが、Z=1/(jω(C+C))からZ=1/(jω(C’+C))に減少する(Z>Z)。尚、計測周波数fは、通常時の共振周波数fを基準として衝突時の共振周波数f側(すなわち、低周波数側)に設定されている。
【0049】
そして、発振器16aが供給する最大電圧をV、衝突前の接続点16dにおける電圧をVとすると、V=(Z×V)/(jωL+Z)となる。また、衝突後の接続点16dにおける電圧をVとすると、V=(Z×V)/(jωL+Z)となり、常にV>Vとなる。従って、接続点16dにおけるピーク電圧が所定の閾値以下である場合に衝突発生と判定可能である。
【0050】
次に、配線14の断線故障時の駆動回路部16の接続点16dにおける電圧変化について説明する。図6は、配線14の断線故障に伴う共振周波数の上昇を説明するためのインピーダンスと周波数との関係を示すグラフである。配線14が断線した場合、共振回路における静電容量が、C+CからCに減少するため、共振周波数は、f=1/(2π√L(C+C))から高い側にシフトして、f=1/(2π√(LC))となり、計測周波数fにおけるインピーダンスが、Z=1/(jω(C+C))からZ=1/(jωC)に増大する(Z>Z)。このため、配線14に断線が生じる前後の接続点16dにおける電圧V,Vは、上述した衝突時とは逆の関係、V<Vが常に成立する。従って、接続点16dにおけるピーク電圧が所定の閾値以上である場合に配線14の断線故障と判定可能である。
【0051】
次に、マイコン18において実行される衝突検知処理について、図7に示すフローチャートを参照しつつ説明する。尚、図7に示す衝突検知処理ルーチンは、マイコン18により所定の時間間隔で繰り返し呼び出されて実行される。
【0052】
まず、ピークホールド器17より接続点16dにおけるピーク電圧検出値の取り込み(A−D変換)を行う(ステップ1。以下、ステップ1をS1と略記する。他のステップも同様。)。次に、ピーク電圧検出値Vが衝突判定閾値Vth1以下であるかを判定し(S2)、衝突判定閾値Vth1以下の場合は(S2:Yes)、衝突検知信号をエアバッグECU20へ出力し(S3)、リターンする。ここで、図8(a)は、衝突発生時のピーク電圧検出値Vの変化の一例を示しており、衝突の発生によってピーク電圧Vが一時的に低下していることが示されている。また、衝突判定閾値Vth1は、予め衝突時の電圧値に基づいて通常時の電圧値Vよりも低い所定値に予め設定されている(図8(a)参照)。
【0053】
ピーク電圧検出値Vが衝突判定閾値Vth1より大きい場合(S2:No)、故障判定閾値Vth2以上であるかを判定し(S4)、故障判定閾値Vth2以上の場合は(S4:Yes)、故障検知信号をエアバッグECU20へ出力し(S5)、リターンする。ここで、図8(b)は、断線故障時のピーク電圧検出値Vの変化の一例を示しており、断線故障の発生によってピーク電圧Vが上昇していることが示されている。また、故障判定閾値Vth2は、予め配線14の断線故障時の電圧値に基づいて通常時の電圧値Vよりも高い所定値に設定されている(図8(b)参照)。ピーク電圧検出値Vが故障判定閾値Vth2より小さい場合(S4:No)、そのままリターンする。
【0054】
以上詳述したことから明らかなように、本実施形態によれば、車両バンパ1に歩行者等が衝突すると、センサ部11において対向電極12間の距離が一時的に縮小して静電容量が増大し、これによりLC直列共振回路における共振周波数が低い側にシフトする。一方、センサ部11のサイドメンバ側電極12bと駆動回路部16とを接続する配線14に断線故障が生じると、センサ部11が駆動回路部16から遮断され、LC直列共振回路における静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトする。よって、衝突発生時と配線14の断線故障時とで駆動回路部16と配線14との接続点16dにおける電圧変化の態様が異なるため、これらを電圧検出値によって容易に区別可能である。従って、衝突判定手段としてのマイコン18は、配線14の断線故障により衝突を誤検知することなく、電圧検出部としてのピークホールド器17による電圧検出値Vに基づいて衝突の発生を正確に判定することができる。
【0055】
より具体的には、ピークホールド器17は、通常時の共振周波数を基準として衝突時の共振周波数側に設定された所定周波数におけるピーク電圧を検出するので、車両バンパ1に物体が衝突すると、センサ部11における静電容量が増大し、これにより共振周波数が低い側にシフトすることによりインピーダンスが減少して通常時よりも電圧が低下するので、マイコン18は、ピークホールド器17による電圧検出値Vが衝突判定閾値Vth1以下である場合に衝突の発生と判定することができる。一方、配線14に断線故障が生じると、センサ部11が駆動回路部16から遮断されて静電容量が減少し、共振周波数が高い側にシフトすることにより通常時よりも電圧が上昇するので、マイコン18は配線14の断線故障を衝突の発生と誤検知することがない。更に、故障判定手段としてのマイコン18は、ピークホールド器17による電圧検出値Vが故障判定閾値Vth2以上である場合に配線14の断線故障と判定することができる。
【0056】
次に、本発明の第二の実施形態について図9を参照しつつ説明する。尚、第一の実施形態と同一部材には同一の符号を付し、それらについての詳細な説明を省略する。図9は、第二の実施形態におけるセンサ部11と駆動回路部16とから形成されるLC並列共振回路を示す電気回路図である。
【0057】
上記第一の実施形態では、センサ部11と共にLC直列共振回路を形成するように駆動回路部16を構成したが、本実施形態では、センサ部11と共にLC並列共振回路を形成するように駆動回路部16を構成したものである。
【0058】
すなわち、本実施形態では、駆動回路部16においてコイル16bがセンサ部11に並列に接続されると共に、ダイアグ用コンデンサ16cがセンサ部11に直列に接続され、センサ部11と駆動回路部16とでLC並列共振回路を形成している。
【0059】
ここで、センサ部11とコイル16bとの並列部分における回路インピーダンスをZp0、ダイアグ用コンデンサ16cのインピーダンスをZとすると、Zp0=jωL/(1−ωL)、Z=1/(jωC)と表される。
【0060】
そして、車両バンパ1への衝突発生時、センサ部11の静電容量がCからC’へ増大し(C<C’)、インピーダンスZp0がZp1=jωL/(1−ω’L)に低下する。そして、衝突前後の接続点16dの電圧をV,Vとすると、V=Zp0・V/(Zp0+Zq0)からV=Zp1・V/(Zp1+Z)に低下する(V>V)。
【0061】
一方、配線14における断線故障時は、コイル16b(L)とダイアグ用コンデンサ16c(C)とのLC直列共振回路が形成され、回路インピーダンスは、Zp0=jωL/(1−ωL)からZp2=jωLに変化して正常時よりもインピーダンスが上昇するため、断線故障時の電圧VはVよりも高くなる。
【0062】
これらのことから、図9の回路構成によっても、上記第一の実施形態と同様に、所定の計測周波数における接続点16dのピーク電圧検出値に基づいて、図7に示す衝突検知処理により衝突の発生及び配線14の断線故障の検知を行うことができる。
【0063】
以上詳述したことから明らかなように、本実施形態によれば、車両バンパ1に歩行者等が衝突すると、センサ部11において対向電極12間の距離が一時的に縮小して静電容量が増大し、これによりLC並列共振回路における共振周波数が低い側にシフトするために電圧変化が生じる。一方、配線14に断線故障が生じると、センサ部11が駆動回路部16から遮断され、LC並列共振回路における静電容量が減少して共振周波数が高い側にシフトするために電圧変化が生じる。よって、衝突発生時と配線14の断線故障時とで駆動回路部16と配線14との接続点における電圧変化の態様が異なるため、これらを電圧検出値によって容易に区別可能である。従って、衝突判定手段としてのマイコン18は、上記第一の実施形態と同様に、配線14の断線故障により衝突を誤検知することなく、電圧検出部としてのピークホールド器17による電圧検出値Vに基づいて衝突の発生を正確に判定することができる。更に、故障判定手段としてのマイコン18は、ピークホールド器17による電圧検出値Vに基づいて配線14の断線故障を判定することができる。
【0064】
尚、本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能であることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、静電容量式のセンサ部を有する車両用衝突検知装置において簡単な構成で配線の断線故障による誤検知を防止して確実に衝突の発生を検知することが必要な場合に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第一の実施形態の車両用衝突検知装置を示す全体構成図である。
【図2】車両バンパ内におけるセンサ部付近の詳細構造を示す側面図である。
【図3】第一の実施形態におけるセンサ部と駆動回路部とから形成されるLC直列共振回路を示す電気回路図である。
【図4】配線の断線故障時を示す電気回路図である。
【図5】衝突発生に伴う共振周波数の低下を説明するためのインピーダンスと周波数との関係を示すグラフである。
【図6】配線の断線故障に伴う共振周波数の上昇を説明するためのインピーダンスと周波数との関係を示すグラフである。
【図7】衝突検知処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】(a)は衝突発生時のピーク電圧検出値の変化の一例を示すグラフであり、(b)は配線の断線故障時のピーク電圧検出値の変化の一例を示すグラフである。
【図9】第二の実施形態におけるセンサ部と駆動回路部とから形成されるLC並列共振回路を示す電気回路図である。
【符号の説明】
【0067】
A 車両用衝突検知装置
1 車両バンパ(車両の衝突面)
11 センサ部
12 対向電極
13 誘電体
14 配線
15 衝突検知ECU
16 駆動回路部
16a 発振器
16b コイル
16c ダイアグ用コンデンサ(コンデンサ)
17 ピークホールド器(電圧検出部)
18 マイコン(衝突判定手段、故障判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両への物体の衝突を検出する車両用衝突検知装置において、
車両の衝突面に一定間隔を隔てて配設された対向電極及び前記対向電極の間に介挿された誘電体からなるセンサ部と、
前記センサ部の前記対向電極の一方に配線を介して接続され、交流電圧を発生する発振器、前記センサ部に直列に接続されるコイル及び前記センサ部に並列に接続されるコンデンサからなる駆動回路部と、
前記駆動回路部と前記配線との接続点における電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部による電圧検出値に基づいて衝突の発生を判定する衝突判定手段と
を備えたことを特徴とする車両用衝突検知装置。
【請求項2】
車両への物体の衝突を検出する車両用衝突検知装置において、
車両の衝突面に一定間隔を隔てて配設された対向電極及び前記対向電極の間に介挿された誘電体からなるセンサ部と、
前記センサ部の前記対向電極の一方に配線を介して接続され、交流電圧を発生する発振器、前記センサ部に直列に接続されるコンデンサ及び前記センサ部に並列に接続されるコイルからなる駆動回路部と、
前記駆動回路部と前記配線との接続点における電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部による電圧検出値に基づいて衝突の発生を判定する衝突判定手段と
を備えたことを特徴とする車両用衝突検知装置。
【請求項3】
前記衝突判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値を、衝突時の電圧値に基づいて予め設定された衝突判定閾値と比較することにより衝突の発生を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項4】
前記電圧検出部は、所定周波数におけるピーク電圧を検出し、
前記衝突判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値を、前記所定周波数における衝突時の電圧値に基づいて予め設定された前記衝突判定閾値と比較することにより衝突の発生を判定することを特徴とする請求項3に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項5】
前記電圧検出部は、前記センサ部と前記駆動回路部とから形成される共振回路における通常時の共振周波数を基準として衝突時の共振周波数側に設定された前記所定周波数におけるピーク電圧を検出し、
前記衝突判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値が前記衝突判定閾値以下である場合に衝突の発生と判定することを特徴とする請求項4に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項6】
前記電圧検出部による電圧検出値に基づいて前記配線の断線故障を判定する故障判定手段を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の車両用衝突検知装置。
【請求項7】
前記故障判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値を、前記配線の断線故障時の電圧値に基づいて予め設定された故障判定閾値と比較することにより前記配線の断線故障を判定することを特徴とする請求項6に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項8】
前記電圧検出部は、所定周波数におけるピーク電圧を検出し、
前記故障判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値を、前記所定周波数における前記配線の断線故障時の電圧値に基づいて予め設定された前記故障判定閾値と比較することにより前記配線の断線故障を判定することを特徴とする請求項7に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項9】
前記電圧検出部は、前記センサ部と前記駆動回路部とから形成される共振回路における通常時の共振周波数を基準として衝突時の共振周波数側に設定された前記所定周波数におけるピーク電圧を検出し、
前記故障判定手段は、前記電圧検出部による電圧検出値が前記故障判定閾値以上である場合に前記配線の断線故障と判定することを特徴とする請求項8に記載の車両用衝突検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−155700(P2007−155700A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235903(P2006−235903)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】