説明

車両用補強構造体

【課題】軽量でありかつ車両の前部構造を補強できる程度の剛性を持つ車両用補強構造体を提供すること。
【解決手段】車両用補強構造体を、二つのサイドダクト3、4とセンターダクト2とが一体化されてなる複合ダクト部1と、複合ダクト部1の上面および/または下面に一体化されている格子状のリブ部6と、で構成する。そして、二つのサイドダクト3、4に薄型部を設け、リブ部6を少なくとも薄型部の上面および/または下面に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インストルメントパネルの裏側に配設される車両用補強構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネルの裏側には、インパネリンホースや空調用ダクト等の部材が配設される。このうちインパネリンホースは車両の前部構造を補強する補強部材である。インパネリンホースには、インストルメントパネルやその周辺部品(空調用ダクト、ステアリングコラム等)が固定される。このためインパネリンホースには比較的高い剛性が要求される。一般には、インパネリンホースの材料として鉄等の比較的剛性の高い金属材料を採用することで、インパネリンホースの剛性を高めている。
【0003】
ところで、近年では、車両全体を軽量化する目的で、種々の部材を軽量化することが求められている。インパネリンホースを軽量化する方法としては、インパネリンホースを樹脂材料で形成する方法が考えられる。しかしインパネリンホースを単に樹脂製にするだけでは、インパネリンホースの剛性が不足する問題があった。
【0004】
特許文献1には、インパネリンホース(クロスビーム)をインストルメントパネル(中間パネル)および空調用ダクトと一体化した車両用補強構造体が提案されている。また引用文献1には、この車両用補強構造体の材料として樹脂材料の一種であるFRPを選択できる旨が記載されている。しかしこの場合には車両用補強構造体が大型化し、車両に対する組み付け性に劣る問題があった。また、インパネリンホース、インストルメントパネルおよび空調用ダクトを単に一体化しただけの車両用補強構造体は、さほど軽量化できない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−504039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、軽量でありかつ車両の前部構造を補強できる程度の剛性を持つ車両用補強構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の車両用補強構造体は、樹脂材料製でありインストルメントパネルの裏側に配置される車両用補強構造体であって、
筒状をなす二つのサイドダクトと、筒状をなし二つの該サイドダクトの間に配置されているセンターダクトと、が一体化されてなり、空調装置に接続される複合ダクト部と、
該複合ダクト部の上面および/または下面に突設されている複数のリブが格子状に一体化されてなるリブ部と、を持ち、
二つの該サイドダクトは、流路断面の車幅方向の長さを上下方向の長さで除した値が4以上となる薄型部を持ち、
該リブ部は少なくとも該薄型部の上面および/または下面に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の車両用補強構造体は、下記の(1)または(2)を備えるのが好ましく、(1)および(2)を備えるのがより好ましい。
【0009】
(1)前記薄型部の上下方向の長さは20mm以下である。
【0010】
(2)前記センターダクトおよび前記サイドダクトの少なくとも一部は一体成形されている。
【発明の効果】
【0011】
一般的な空調用ダクトはセンターダクトおよびサイドダクトを持つ。センターダクトは、車両前部において車幅方向の略中央に配置される部材である。サイドダクトは車両前部において車幅方向の端側に配置される部材である。一般的には、センターダクトとサイドダクトとは別体であり、それぞれ車両用空調装置に接続される。本発明の車両用補強構造体は、従来別体であったセンターダクトとサイドダクトとを一体化して複合ダクト部とし、かつ、複合ダクト部の外面に格子状のリブ部を設けたものである。
【0012】
本発明の車両用補強構造体における複合ダクト部は、センターダクトとサイドダクトとが一体化されたことで剛性に優れる。
【0013】
また、本発明の車両用補強構造体は、格子状をなすリブ部によって補強されていることによっても、剛性に優れる。
【0014】
さらに、二つのサイドダクトに薄型部を設けたことで、少なくともこの薄型部の上面および/または下面に配置されているリブ部の突出高さを大きくでき、リブ部の剛性をさらに高めることができる。その結果、本発明の車両用補強構造体の剛性はさらに向上する。また、薄型部は二つのサイドダクト両方に設けられるため、本発明の車両用補強構造体における二つのサイドダクトにはリブ部が設けられている。このため、本発明の車両用補強構造体は、長手方向の2端部(換言すると、本発明の車両用補強構造体における車幅方向の2端部)の剛性に優れ、全体の剛性にも優れる。
【0015】
本発明の車両用補強構造体は、剛性に優れるため、インパネリンホースに要求される剛性の一部または全部を担うことができる。このため、本発明の車両用補強構造体を配設した車両においては、インパネリンホースが不要になるか、または、剛性に劣るインパネリンホースに不足する剛性を本発明の車両用補強構造体で補うことができる。さらに、本発明の補強構造体は樹脂材料製であるために軽量である。
【0016】
なお、本発明の車両用補強構造体はインストルメントパネルを含まないため、比較的小型であり、車両に対する組み付け性に優れる。
【0017】
上記(1)を備える本発明の車両用補強構造体は、薄型部の上下方向の長さが充分に小さいために、薄型部の上面および/または下面に突出高さの大きなリブ部を配置できる。
【0018】
上記(2)を備える本発明の車両用補強構造体は、センターダクトおよびサイドダクトの少なくとも一部を一体成形したことで、さらに剛性に優れ、かつ軽量化できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車両用補強構造体における薄型部の内部の一例を模式的に表す説明図である。
【図2】実施例の車両用補強構造体を模式的に表す斜視図である。
【図3】実施例の車両用補強構造体を模式的に表す上面図である。
【図4】実施例の車両用補強構造体を図3中A−A位置で切断した様子を模式的に表す断面図である。
【図5】実施例の車両用補強構造体を図3中B−B位置で切断した様子を模式的に表す断面図である。
【図6】実施例の車両用補強構造体における運転席側サイドダクトの内部を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の車両用補強構造体は樹脂材料製である。樹脂材料としては、例えば、FRP(繊維強化樹脂)、ガラス入りポリプロピレン等の比較的剛性に優れる材料を用いるのが好ましい。特にFRPは剛性に優れるために好ましく使用できる。FRP用の繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維等の高剛性繊維を用いるのが好ましい。なおFRP用の繊維として繊維長1〜2mm程度の短繊維を用いれば、FRP製の車両用補強構造体を射出成形法や射出プレス成形法により容易に製造できる。
【0021】
本発明の車両用補強構造体は、センターダクトを挟んで配置される二つのサイドダクトを持てば良い。一方のサイドダクトは、車両の運転席側に配置される運転席側サイドダクトであり、他方のサイドダクトは車両の助手席側に配置される助手席側サイドダクトである。本発明の車両用補強構造体は、二つのサイドダクトを持つために、車幅方向のほぼ全体にわたって配設される。このため、車両用補強構造体によって車両前部を車幅方向のほぼ全体にわたって補強でき、インパネリンホースを設けない場合や、比較的強度に劣るインパネリンホースを設けた場合にも、車両前部を充分に補強できる。なお、本発明の車両用補強構造体は、二つのサイドダクト以外のサイドダクトやセンターダクトを持っても良い。
【0022】
本発明の車両用補強構造体において、センターダクトやサイドダクトの形状は特に限定されない。例えばセンターダクトやサイドダクトは直筒状であっても良いし湾曲筒状であっても良い。また、センターダクトやサイドダクトは断面矩形状であっても良いし、断面円形状、断面楕円形状等の他の形状であっても良い。センターダクトやサイドダクトにおける吹き出し口もまた同様である。
【0023】
複合ダクト部を構成するセンターダクトと二つのサイドダクトとは、一体化していれば良く、その内部は連通していても良いし連通していなくても良い。また、センターダクトとサイドダクトとの間には、部分的な間隙があっても良い。さらに、この間隙に、小物入れ等の収容装置やエアバッグ装置等を収容する収容部を設けても良い。この場合には、車両用補強構造体に収容されたエアバッグ装置や収容装置によって車両用補強構造体を補強できるため、車両用補強構造体の剛性がさらに向上する。
【0024】
本発明の車両用補強構造体は、インパネリンホースとして使用することもできるし、インパネリンホースと併用することもできる。すなわち、本発明の車両用補強構造体を配設した車両には、インパネリンホースを配設しても良いし、インパネリンホースを配設しなくても良い。本発明の車両用補強構造体をインパネリンホースと併用する場合には、インパネリンホースとして例えば樹脂製やFRP製等の軽量かつ比較的剛性に劣るものを用いることができる。本発明の車両用補強構造体は、従来のインパネリンホースと同様に、車両のピラーインナ等に固定すれば良い。また、従来のインパネリンホースと同様に、本発明の車両用補強構造体にはインストルメントパネルやその周辺部材を固定できる。
【0025】
本発明の車両用補強構造体における複合ダクト部の上面および/または下面には、複数のリブが突設されている。この複数のリブは、格子状に一体化されてリブ部を構成している。各リブ部は、複合ダクト部の上面および/または下面に配置されているため、複合ダクト部の外面に露出している。したがってリブ部は、複合ダクト部の内部(すなわち空調空気の流路)には干渉しない。リブ部は複合ダクト部の上面のみに設けても良いし、下面のみに設けても良いし、上面と下面との両方に設けても良い。また、リブ部を構成するリブ以外のリブを、複合ダクト部に設けても良い。例えば、複合ダクト部の下面にリブ部を設け、側面にリブ部を構成しないリブを設けても良い。何れの場合にも、格子状をなすリブ部によって複合ダクト部が補強され、車両用補強構造体の上下方向、左右方向および前後方向における耐衝撃性が向上する。また、格子状をなすリブ部により、衝撃発生時のエネルギを吸収することもできる。なお、本発明の車両用補強構造体に上述した収容部を設ける場合、収容部の下方および/または上方にもリブ部を配置するのが好ましい。
【0026】
リブ部は格子状であれば良く、四方格子であっても良いし、六方格子(ハニカム)であっても良い。その他の格子形状であっても良い。リブの個数や間隔は特に限定しない。リブの個数が多ければ車両用補強構造体の剛性が向上する。リブの個数が少なければ車両用補強構造体が軽量化する。したがってリブの個数は車両用補強構造体に要求される剛性や質量に応じて、適宜決定すれば良い。
【0027】
本発明の車両用補強構造体の剛性を向上させるためには、リブの突出長さ(上下方向の長さ)を大きくするのが好ましい。薄型部の上面および/または下面に突設されているリブ(長リブと呼ぶ)の突出高さは、30mm以上であるのが好ましく、50mm以上であるのがより好ましい。複合ダクト部のなかで薄型部以外の部分の上面および/または下面に突設されているリブ(短リブと呼ぶ)の突出高さは長リブの突出高さよりも短く、20mm以上であるのが好ましく、30mm以上であるのがより好ましい。
【0028】
ところで、空調用ダクトから流出する空調空気の方向や風速は、吹き出し口の形状に依存する傾向がある。以下、センターダクトおよびサイドダクトを総称してダクトと呼ぶ。また、ダクトの任意の流路断面において車幅方向の長さを上下方向の長さで除した値を、この任意の流路断面のアスペクト比と呼ぶ。薄型部のアスペクト比とは、薄型部における任意の流路断面のアスペクト比を指す。また、吹き出し口は流路断面の一つであり、吹き出し口のアスペクト比とは、吹き出し口の車幅方向の長さを吹き出し口の上下方向の長さで除した値である。なお、ここでいう車幅方向、上下方向とは、車両に取り付けたときの各方向を指す。また、ダクトにおける吹き出し口以外の部分をダクト本体と呼ぶ。以下、吹き出し口のアスペクト比が4未満のダクトを厚型ダクトと呼び、吹き出し口のアスペクト比が4以上のダクトを薄型ダクトと呼ぶ。
【0029】
一般に、厚型ダクトから流出する空調空気は、拡散し難く、かつ、比較的風速が大きい。これに対して、薄型ダクトから流出する空調空気は、エアカーテンのように、吹き出し口の長手方向に拡散し易く、かつ、比較的風速が小さい。本発明の車両用補強構造体におけるサイドダクトは、薄型部を持てば良く、薄型ダクトであっても良いし、厚型ダクトであっても良いが、薄型ダクトであるのが好ましい。サイドダクトは運転席や助手席などの座席の近傍に配設される。このため、サイドダクトが薄型ダクトであれば、風速の大きな空調空気が直接乗員にあたり難くなり、冷暖房時に生じる乗員の不快感を抑制できる。
【0030】
サイドダクトにおける吹き出し口のアスペクト比と薄型部のアスペクト比とは同じであっても良いし異なっていても良い。また、薄型部のアスペクト比は一定であっても良いし、部分毎に異なっていても良い。さらに、ダクト本体における薄型部以外の部分のアスペクト比は4未満であっても良い。
【0031】
ダクト本体の一部におけるアスペクト比が4未満であり、かつ、吹き出し口のアスペクト比が4以上である薄型ダクトは、吹き出し口方向に拡径する。この場合、薄型ダクトの内部には、薄型ダクトの内部を流通する空調空気を、吹き出し口における長手方向の端部(車幅方向の端部)に向けて案内する整流部を設けるのが好ましい。整流部を設けることで、薄型ダクト内の空調空気を吹き出し口における車幅方向の端部に分配でき、吹き出し口全体から略均一に流出させ得る。具体的には、図1に示すようにダクト本体35の軸線L1と、吹き出し口34の両端部37、38とが大きく離間している場合には、吹き出し口34における長手方向の両端部37、38およびこれに連続する薄型部39が、ダクト本体35におけるアスペクト比4未満の部分(薄型部39以外の部分、一般部36と呼ぶ)の外側に大きく張り出す。軸線L1と、吹き出し口34の一端部37(または38)とが大きく離間している場合には、吹き出し口34における長手方向の一端部37(または38)が一般部36の外側に大きく張り出す。この場合、整流部7のなかで空調空気の下流側に位置する端部(吹き出し口34側に位置する端部、整流部7の下流端部71と呼ぶ)は、薄型部39の内部において、吹き出し口34のなかで一般部36の外側に張り出している側の端部(張り出し端部と呼ぶ、図1では左端部37および右端部38)に向けて湾曲しているのが好ましい。図1に示すように吹き出し口34の長手方向の両端部37、38が張り出し端部である場合には、整流部7の下流端部71は、薄型部39の内部において二股に分岐(71a、71b)し、各々が別の張り出し端部37、38に向けて湾曲しているのが好ましい。整流部7をこのような形状にすることで、吹き出し口34の張り出し端部37、38に空調空気を分配できる。また、整流部7のなかで空調空気の上流側に位置する端部(上流端部70と呼ぶ)は、一般部36の内部に配置され、直状をなすのが好ましい。張り出し端部37、38を持つダクトにおいては、吹き出し口34付近における空調空気は一般部の軸線L1(延長線を含む)側に偏向する。しかし整流部7の上流端部70を一般部36の内部に配置し、かつ直状にすることで、偏向する前の空調空気を張り出し端部37、38に向けて分配できる。このため、空調空気を効率良く張り出し端部に分配でき、吹き出し口34の全体から略均一に流出させ得る。
【0032】
本発明の車両用補強構造体は、その他、デフロスタノズル等を一体化しても良い。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の車両用補強構造体を具体的に説明する。
【0034】
(実施例1)
実施例1の車両用補強構造体は、右ハンドルの自動車に配設される車両用補強構造体である。実施例1の車両用補強構造体を模式的に表す斜視図を図2に示す。実施例1の車両用補強構造体を模式的に表す上面図を図3に示す。実施例1の車両用補強構造体を模式的に表す断面図を図4、図5に示す。実施例1の車両用補強構造体における運転席側サイドダクトの内部を模式的に表す説明図を図6に示す。なお、図4は実施例1の車両用補強構造体を図3中A−A位置で切断した様子を表す。図5は実施例1の車両用補強構造体を図3中B−B位置で切断した様子を表す。以下、本明細書において、上、下、左、右、前、後とは、図2に示す上、下、左、右、前、後を指す。車幅方向とは、図2に示す左右方向を指す。
【0035】
図2〜図5に示すように、実施例1の車両用補強構造体は複合ダクト部1とリブ部6とを持つ。実施例1の車両用補強構造体はガラス繊維とポリプロピレンとを材料とするFRP製(密度1.22g/cm)であり、射出成形されたものである。
【0036】
図2、図3に示すように、複合ダクト部1は、センターダクト2と、運転席側サイドダクト3と、助手席側サイドダクト4と、デフロスタノズル5と、をそれぞれ1つずつ持つ。センターダクト2、運転席側サイドダクト3、助手席側サイドダクト4、およびデフロスタノズル5は、それぞれ筒状をなしている。複合ダクト部1の上側部10と下側部11とは別体で成形され、溶着されて一体化されている。複合ダクト部1の上側部10は、センターダクト2の上壁20、運転席側サイドダクト3の上壁30および助手席側サイドダクト4の上壁40で構成されている。複合ダクト部1の下側部11は、センターダクト2の下壁22および側壁23、運転席側サイドダクト3の下壁32および側壁33、助手席側サイドダクト4の下壁(図略)および側壁43、およびデフロスタノズル5で構成されている。センターダクト2は略前後方向に延びている。運転席側サイドダクト3は略左右方向に延びている。助手席側サイドダクト4は略左右方向に延びている。デフロスタノズル5は略上下方向に延びている。センターダクト2の前端部、運転席側サイドダクト3の左端部、助手席側サイドダクト4の右端部、およびデフロスタノズル5の下端部は、一体化され、図略の車両用空調装置に接続されている。
【0037】
センターダクト2の吹き出し口24は、センターダクト2の後端部からなる。運転席側サイドダクト3の吹き出し口34は、運転席側サイドダクト3の右端部からなる。助手席側サイドダクト4の吹き出し口44は、助手席側サイドダクト4の左端部からなる。デフロスタノズル5の吹き出し口54は、デフロスタノズル5の上端部からなる。各吹き出し口24〜54は、インストルメントパネル(図略)に形成されている開口部(図略)に取り付けられ、それぞれ車室内に開口する。
【0038】
センターダクト2の吹き出し口24の上下方向の長さは50mmであり、アスペクト比は3である。センターダクト2のダクト本体25のアスペクト比は1〜4である。運転席側サイドダクト3の薄型部39の上下方向の長さは15mm程度であり、薄型部39のアスペクト比は10〜20である。助手席側サイドダクト4の薄型部49の上下方向の長さは15mm程度であり、薄型部49のアスペクト比は10〜23である。したがって、実施例1の車両用補強構造体における運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4は薄型部39、49を持ち、かつ、薄型ダクトである。実施例1の車両用補強構造体における複合ダクト部1の肉厚は約1.6mmである。
【0039】
複合ダクト部1の下側部11には、リブ部6が一体成形されている。図3に示すように、リブ部6は四方格子状をなす。詳しくは、リブ部6はセンターダクト2、運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4の下面に配置され、下方に突出している。リブ部6を構成する各リブ61の肉厚は約2mmであり、隣接するリブ同士の間隔は約32mmである。リブ部6のなかで運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4の下面に配置されている部分の突出高さH1は100mmである。リブ部6の他の部分の突出高さH2は30mmである。このため、リブ部6のなかで運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4の下面に配置されている部分は長リブ62であり、他の部分は短リブ63である。
【0040】
運転席側サイドダクト3は薄型部39を持つ。このため、図5に示すように、運転席側サイドダクト3の下面には長リブ62を突設できる。助手席側サイドダクト4もまた薄型部49を持つ。このため、図示しないが、助手席側サイドダクト4の下面にもまた長リブ62を突設できる。センターダクト2は薄型部を持たないため、センターダクト2の下面には短リブ63を突設できる。
【0041】
なお、センターダクト2と助手席側サイドダクト4との間には、左右方向に延びる間隙が形成されている。この間隙は、助手席側エアバッグを収容する収容部12を構成している。収容部12の下方にはリブ部6が延設されている。収容部12の下方に位置するリブ部6は短リブ63からなる。収容部12は、助手席側サイドダクト4の側壁43、センターダクト2の側壁23およびリブ部6の上面で区画されている。また、センターダクト2と運転席側サイドダクト3との間には、左右方向に延びる間隙が形成されている。この間隙は、小物入れを収容する収容部13を構成している。収容部13の下方にもまたリブ部6が延設されている。収容部13の下方に位置するリブ部6もまた短リブ63からなる。収容部13は、運転席側サイドダクト3の側壁33、センターダクト2の側壁23およびリブ部6の上面で区画されている。
【0042】
図6に示すように、運転席側サイドダクト3の内部には立壁状の整流部7が設けられている。整流部7は運転席側サイドダクト3と一体成形されている。運転席側サイドダクト3は、薄型部39以外の部分(アスペクト比4未満の部分)である一般部36を持つ。一般部の軸線L1(延長線を含む)と吹き出し口34の左端部とは大きく離間し、吹き出し口34の左端部、および、これに連続する薄型部39は、一般部36の左側に大きく張り出している。吹き出し口34の左端部を張り出し端部37と呼ぶ。
【0043】
整流部7の上流端部70は一般部36の内部に配置され、直状に延びている。整流部7の下流端部71は薄型部39における吹き出し口34の近傍に配置され、張り出し端部37に向けて(すなわち左方向に)湾曲している。整流部7のなかで上流端部70と下流端部71との間の部分(整流中間部72と呼ぶ)は、一般部の軸線L1にほぼ沿って延びている。また、整流中間部72のなかで下流端部71に連続している部分73は直状に延びている。整流部7の上流端部70は、運転席側サイドダクト3の内部を流通する空調空気の一部を、偏向する前に、張り出し端部37に向けて案内する。また直状部分73は、上流端部70が案内した空調空気を整流する。下流端部71は、直状部分73が整流した空調空気を吹き出し口34の張り出し端部37に向けて案内する。このため整流部7は、吹き出し口34の張り出し端部37に空調空気を分配できる。
【0044】
(実施例2)
実施例2の車両用補強構造体は、実施例1の車両用補強構造体の収容部12に助手席側エアバックのリッド(肉厚約2mm)を取り付け、かつ、収容部13に小物入れのリッド(肉厚約2mm)を取り付けたものである。
【0045】
(実施例3)
実施例3の車両用補強構造体は、複合ダクト部1の肉厚が約2.0mmであること以外は実施例1の車両用補強構造体と同じものである。
【0046】
(比較例)
比較例の車両用補強構造体は、インパネリンホース、センターダクト、運転席側サイドダクト、助手席側サイドダクト、およびデフロスタノズルを持つ。インパネリンホースは鉄製であり内径60mm、外径64mmの円筒状をなす。センターダクト、運転席側サイドダクト、助手席側サイドダクト、およびデフロスタノズルは、実施例1の車両用補強構造体と同じFRP製であり、それぞれ別体で成形され、インパネリンホースに組み付けられている。比較例の車両用補強構造体におけるセンターダクト、運転席側サイドダクト、助手席側サイドダクト、およびデフロスタノズルは、実施例1の車両用補強構造体における各部分とほぼ同形状であるが、比較例の車両用補強構造体はリブ部6を持たない。
【0047】
(評価試験1)
実施例1〜3の車両用補強構造体および比較例の車両用補強構造体について、剛性および質量を測定した。剛性については、上下方向の剛性撓み、前後方向の剛性撓み、剛性ねじれの3項目を測定した。上下方向の剛性撓みは、車幅方向の両端部を固定した車両用補強構造体の上方から静荷重46kgfを加えて、車両用補強構造体の上下方向の変形量(mm)を測定した。前後方向の剛性撓みは、車幅方向の両端部を固定した車両用補強構造体の前方から静荷重46kgfを加えて、車両用補強構造体の前後方向の変形量(mm)を測定した。剛性ねじれは、車幅方向の一端部を固定した車両用補強構造体の他端部をトルク46kg・cmでねじり、車両用補強構造体の最大変形量(mm)を測定した。上下方向の剛性たわみ、前後方向の剛性撓み、および剛性ねじれについては、変形量が小さいほど剛性に優れる、と判断した。
【0048】
その結果、比較例の車両用補強構造体の質量は6425g、上下方向の剛性撓みは1.15mm、前後方向の剛性撓みは1.23mm、剛性ねじれは0.101mmであった。これに対し、実施例1の車両用補強構造体の質量は3301g、上下方向の剛性撓みは0.735mm、前後方向の剛性撓みは0.866mm、剛性ねじれは0.929mmであった。実施例2の車両用補強構造体にエアバッグのリッドおよび小物入れのリッドを取り付けたものの質量は3395g、上下方向の剛性撓みは0.519mm、前後方向の剛性撓みは0.527mm、剛性ねじれは0.217mmであった。実施例3の車両用補強構造体の質量は3794g、上下方向の剛性撓みは0.49mm、前後方向の剛性撓みは0.202mm、剛性ねじれは0.586mmであった。
【0049】
実施例1〜3の車両用補強構造体は、比較例の車両用補強構造体に比べて非常に軽量である。また、実施例1〜3の車両用補強構造体の剛性は、比較例の車両用補強構造体と同程度であった。特に、上下方向の剛性撓みおよび前後方向の剛性撓みについては、実施例1〜3の車両用補強構造体は比較例の車両用補強構造体よりも優れていた。これは、実施例1〜3の車両用補強構造体が長リブ62を含む格子状のリブ部6を持つためだと考えられる。また、剛性ねじれについても、実施例1〜3の車両用補強構造体は充分に剛性に優れていたが、収容部12、収容部13にエアバッグや小物入れ等を取り付けることでさらに剛性が向上する。
【0050】
(評価試験2)
実施例1の車両用補強構造体を送風装置(図略)に取り付け、センターダクト2、運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4の圧損を測定した。実施例1の車両用補強構造体は、直管状の整流用助走ダクト(図略)を介して、送風装置に取り付けた。送風装置から空気流量120m/時間で車両用補強構造体に送風した。送風装置で送風した風量と、各吹き出し口24、34、44における風量(実測値)との差を基に、各ダクトの圧力損失を算出した。その結果、センターダクト2の圧力損失は27.4Pa、運転席側サイドダクト3の圧力損失は77.4Pa、助手席側サイドダクト4の圧力損失は80.4Paであり、厚型ダクトであるセンターダクト2についても、薄型部を持ちかつ薄型ダクトである運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4についても、圧力損失は充分に小さかった。
【0051】
(評価試験3)
評価試験2と同様に、実施例1の車両用補強構造体を送風装置(図略)に取り付け、センターダクト2、運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4の騒音を測定した。送風装置から空気流量120m/時間で車両用補強構造体に送風した。吹き出し口24、34、44の近傍に騒音測定用のマイクを取り付け、各吹き出し口24、34、44における騒音を測定した。その結果、センターダクト2の騒音は32.8dB、運転席側サイドダクト3の騒音は47.6dB、助手席側サイドダクト4の騒音は48dBであり、厚型ダクトであるセンターダクト2についても、薄型部を持ちかつ薄型ダクトである運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4についても、騒音は充分に小さかった。
【0052】
(評価試験4)
実施例1の車両用補強構造体を評価試験3と同様に送風装置に取り付け、運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4から流出する空気の風速を測定した。送風装置から空気流量120m/時間で車両用補強構造体に送風した。運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4の各吹き出し口34、44に各々風速計を取り付け、吹き出し口34、44における風速を測定した。詳しくは、運転席側サイドダクト3の吹き出し口34については、車幅方向の18箇所(20mm間隔)に風速計を配置した。助手席側サイドダクト4の吹き出し口44には、車幅方向の14箇所(20mm間隔)に風速計を配置した。その結果、何れの測定値も風速5〜10m/時間の範囲内であり、実施例1の車両用補強構造体における運転席側サイドダクト3および助手席側サイドダクト4は、吹き出し口34、44の全体から略均一に空気を流出させ得ることがわかった。
【符号の説明】
【0053】
1:複合ダクト部 2:センターダクト
3:運転席側サイドダクト 4:助手席側サイドダクト
6:リブ部 24:センターダクトの吹き出し口
34:運転席側サイドダクトの吹き出し口 39:運転席側サイドダクトの薄型部
44:助手席側サイドダクトの吹き出し口 49:助手席側サイドダクトの薄型部
61:リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料製でありインストルメントパネルの裏側に配置される車両用補強構造体であって、
筒状をなす二つのサイドダクトと、筒状をなし二つの該サイドダクトの間に配置されているセンターダクトと、が一体化されてなり、空調装置に接続される複合ダクト部と、
該複合ダクト部の上面および/または下面に突設されている複数のリブが格子状に一体化されてなるリブ部と、を持ち、
二つの該サイドダクトは、流路断面の車幅方向の長さを上下方向の長さで除した値が4以上となる薄型部を持ち、
該リブ部は少なくとも該薄型部の上面および/または下面に配置されていることを特徴とする車両用補強構造体。
【請求項2】
前記薄型部の上下方向の長さは20mm以下である請求項1に記載の車両用補強構造体。
【請求項3】
前記センターダクトおよび前記サイドダクトの少なくとも一部は一体成形されている請求項1または請求項2に記載の車両用補強構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207342(P2011−207342A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77028(P2010−77028)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】