説明

車両用警告システム

【課題】 車両用警報システムにおいて、誤判定による不要な警告が頻繁に出力されてしまうことを抑制する。
【解決手段】 物体方向検出回路7等により検出された物体の方向と視線方向検出装置40により検出された視線の方向との角度差Aを検出誤差として、視線方向検出装置40の検出誤差とその誤差の発生頻度との関係に基づいて一致度Eを算出し、この一致度Eに基づいて警告態様を決定する。これにより、運転者が要注視対象を見ているか否かの判断を二者択一で判断するのではなく、「一致度(見ている可能性)」に基づいて警告がされるので、運転者が煩わしさを感じ難い車両用警告システムを実現することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の視線方向を検出し、これに応じて運転者に警告を発する車両用警告システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用警報システムでは、運転者に対して注意を促すべく、音声や表示により運転者に警告を発するが、頻繁に警告を発すると運転者は、その警告を煩わしく感じてしまい、警告の目的が没却してしまうおそれがある。
【0003】
これに対して、特許文献1に記載の発明では、この警告の煩わしさを低減すべく、車両用警告システムが注視すべきと判断した要注視方向と車両用警告システムが計測した運転者の視線方向が一致する頻度を計測して、その値に応じて警告レベルを決定している。
【0004】
そして、一致の頻度が多い(運転者が注意深く要注視対象を見ている)と判定された場合には、警告レベルを「低レベル」に設定し、一致の頻度が少ない(運転者があまり注意深く要注視対象を見ていない)と判定された場合には、警告レベルを「高レベル」に設定した後、実際に警告を発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−167668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、現状の視線検出装置の視線検出処理においては、例えば、虹彩、瞳孔、目尻、目頭等が検出されているが、走行環境や運転者の顔向きや表情といったことが検出性能に影響してしまうため、十分な精度を実現することは難しく、視線検出精度が十分でなく、検出結果にバラツキが発生するという問題がある。そして、視線検出装置の精度が低いと、視線方向と物体方向とが一致しているか否に基づいて運転者が要注視対象を見ているか否かを判定するのは非常に困難である。
【0007】
具体的には、例えば、50m前方に存在する歩行者(体幅0.3m)を見ているかどうかを判別するには、0.3度=Tan-1(0.3/50)の精度が必要であるが、現状では、そのような精度で視線を検出することが可能な視線検出装置は実用化されていない。
【0008】
このため、現状では、例えば視線検出精度が3度、つまり±3度の範囲のバラツキを有する視線検出装置を用いて、50m前方の体幅0.3度の歩行者を検出することとなるので、視線方向と物体方向とが一致しているか否に基づいて運転者が要注視対象を見ているか否かを判定することは非現実的である。
【0009】
つまり、現状の車両用警告システムでは、運転者が歩行者を見ていた時に視線検出装置により検出された視線方向が、偶然、0.3度の範囲である場合には見たと判定できるかもしれないが、実際には、検出された殆どの視線方向は0.3度の範囲から外れているため、車両用警告システムは、「運転者は要注視対象を見ていない」と判断し、誤判定による不要な警告が頻繁に出力されてしまい、運転者に煩わしさを感じさせることになる。
【0010】
しかし、特許文献1に記載の発明は、視線検出装置の視線検出精度を全く考慮していないので、現実には、誤判定による不要な警告が頻繁に出力されてしまい、運転者に煩わしさを感じさせることになる。
【0011】
本発明は、上記点に鑑み、車両用警報システムにおいて、誤判定による不要な警告が頻繁に出力されてしまうことを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、車両前方側に存在する物体の方向を検出する物体方向検出手段(7、8)と、運転者の視線方向を検出する視線方向検出手段(3、4)と、物体方向検出手段(7、8)により検出された物体の方向と視線方向検出手段(3、4)により検出された視線の方向との一致度を算出する方向一致算出手段(5)と、方向一致算出手段(5)により算出された一致度に基づいて、運転者への警告態様を決定して警告を実行する警告出力手段(6)と、視線方向検出手段(3、4)の検出誤差とその誤差の発生頻度との関係(以下、この関係を誤差・頻度関係という。)が記憶された記憶手段(ROM)とを有し、方向一致算出手段(5)は、物体方向検出手段(7、8)が検出した車両前方側に存在する物体が、予め指定された範囲内にある場合に一致度を算出し、さらに、方向一致算出手段(5)は、物体方向検出手段(7、8)により検出された物体の方向と視線方向検出手段(3、4)により検出された視線の方向との角度差を検出誤差として、記憶手段(ROM)に記憶されている誤差・頻度関係に基づいて一致度を算出することを特徴とする。
【0013】
これにより、請求項1に記載の発明では、視線方向検出手段(3、4)が検出した視線方向と物体方向検出手段(7、8)が検出した物体方向との一致度に基づいて、運転者に警告がされることとなる。
【0014】
ここで、一致度とは、物体方向検出手段(7、8)により検出された物体の方向と視線方向検出手段(3、4)により検出された視線の方向との角度差を検出誤差として、視線方向検出手段(3、4)の検出誤差とその誤差の発生頻度との関係(誤差・頻度関係)に基づいて決定される値であるので、一致度は、視線方向検出手段(3、4)の視線検出精度が考慮された『運転者が車両前方側に存在する物体(要注視対象)を見ている可能性を示す値』となる。
【0015】
したがって、本発明に係る車両用警告システムでは、運転者が要注視対象を見ているか否かの判断を二者択一で判断するのではなく、視線方向検出手段の精度を考慮した「一致度(見ている可能性)」に基づいて運転者への警告態様を決定して警告するので、運転者が煩わしさを感じ難い車両用警告システムを実現することが可能となる。
【0016】
なお、請求項2に記載の発明では、方向一致算出手段(5)は、角度差を検出誤差として、誤差・頻度関係から角度差に対応する頻度を決定した後、その決定された頻度に所定定数を乗じた値を一致度とすることを特徴とする。
【0017】
また、請求項3に記載の発明では、視線方向検出手段(3、4)の検出誤差とその誤差の発生頻度との関係が確率密度関数によって対応付けられていることを特徴とする。
【0018】
因みに、上記各手段等の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段等との対応関係を示す一例であり、本発明は上記各手段等の括弧内の符号に示された具体的手等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用警告システムの概要を示す図である。
【図2】誤差・頻度関係を示す図表である。
【図3】検出誤差と頻度との関係を示すグラフである。
【図4】警告態様の一例を示す図である。
【図5】作動説明用の図である。
【図6】警告態様の一例を示す図である。
【図7】警告態様の一例を示す図である。
【図8】警告態様の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る車両用警告システムの全体作動を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態に係る車両用警告システムにおける一致度E算出方法を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態に係る車両用警告システムにおける警告態様の決定制御を示すフローチャートである。
【図12】視線方向(真値)と視線方向検出装置40が検出した方向(計測値)のズレ量とその確率を示した確率密度関数を示すグラフである。
【図13】物体方向(真値)と物体方向検出回路7が検出した方向(計測値)のズレ量とその確率を示した確率密度関数を示すグラフである。
【図14】数式2を示すグラフ(マップ)である。
【図15】数式3を示すグラフ(マップ)である。
【図16】数式4を示すグラフ(マップ)である。
【図17】数式5を示すグラフ(マップ)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態は、本発明に係る車両用警告システムを普通自動車用の警告システムに適用したものであり、以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
1.本実施形態に係る車両用警告システムの概略構成(図1参照)
図1中、ヘッドアップディスプレイ(以下、HUD1と記す。)は、運転者への警告表示をフロントガラス2に映し出すための表示器であり、警告制御回路6は、後述する「一致度E」に基づいて、警告態様を決定してHUD1及び音声出力用のスピーカ9のうち少なくとも一方に信号を出力するものである。なお、警告態様とは、警告表示又は警告音声の内容、及び警告音声の音量等をいう。
【0022】
因みに、HUD1は、インストルメントパネルの内部に配設されているとともに、警告制御回路6から出力された表示信号を受け取って表示内容をフロントガラス2に投影する。このため、運転者は、フロントガラス2で反射した表示(虚像)を車両前方に見ることができる。
【0023】
物体検出用カメラ8は車両前方側を撮影するための撮像手段であり、物体方向検出回路7は、この物体検出用カメラ8で撮影された映像に基づいて物体が車両前方に存在しているか否かを判定するとともに、物体が車両前方に存在すると判定した場合には、運転者(の目の位置相当)からその物体への方向を算出する。
【0024】
因みに、本実施形態では、物体検出用カメラ8は、光学的手法により車両前方を撮影して物体方向検出回路7と協働して物体の有無を検出しているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、レーザーレーダーやミリ波レーダーやステレオカメラ、これら複数のセンサーを組み合わせて物体の有無を検出してもよい。また、物体方向検出回路7による物体の方向は、公知の手法(例えば、特許文献1と同様な手法)と同様である。
【0025】
視線方向検出用カメラ3は運転者の視線方向を検出するための撮像手段であり、この視線方向検出用カメラ3により撮影された運転者の顔(虹彩、瞳孔、目尻、目頭等の表情)を示す画像データが視線方向検出回路4によって解析され、公知の手法(例えば、特許文献1と同様な手法)にて運転者の視線方向が算出される。なお、以下、視線方向検出用カメラ3及び視線方向検出回路4を総称して視線方向検出装置40と記す。
【0026】
方向一致度算出回路5は、物体方向検出回路7で検出された「物体の方向」と視線方向検出回路4で検出された「運転者の視線方向」との「一致度」を算出する。この一致度は、その算出値が高い場合には「運転者が物体(物体方向検出回路7による検出対象となった物体)を見ている可能性が高い」ことを示し、算出値が低い場合には「運転者がその物体を見ている可能性が低い」ことを示す。なお、一致度の算出方法の詳細は後述する。
【0027】
因みに、方向一致度算出回路5は、CPU、RAM及びROM等からなる周知のマイクロコンピュータにて構成されたものであり、一致度を算出するためのプログラム、及び後述する誤差・頻度関係を示す式や表(マップ)等は、ROM等の不揮発性記憶手段に記憶されている。
【0028】
警告制御回路6は、一致度(方向一致度算出回路5による算出値)に基づいて、運転者への警告態様を決定して警告を実行する警告出力手段であり、この警告制御回路6は、一致度が大きい場合には「弱い警告」を実施し、一致度が小さい場合には「強い警告」を実施する。なお、警告態様決定の詳細は後述する。
【0029】
2.一致度の算出について
<概要>
本実施形態に係る方向一致度算出回路5は、視線方向検出装置40の検出誤差を考慮して一致度を算出する。そして、一致度Eの算出は、「視線方向検出装置40が検出した視線方向と物体方向検出回路7が検出した物体方向との角度差A」を、誤差・頻度関係を示す表と照らし合わせ(近似式の場合には、近似式に角度差Aを入力して)、その角度差Aに対応する頻度Cの値を求め、その求められた頻度Cに所定の定数Dを乗じること得られる。つまり、一致度Eは、以下の数式1により表される。
【0030】
一致度E=頻度C×定数D…数式1
<誤差・頻度関係>
誤差・頻度関係とは、視線方向検出装置40がどの程度の検出誤差を有しているかを予め試験により確認し、検出誤差とその誤差の発生頻度との関係をデータ化したもので、本実施形態では、誤差・頻度関係は、ROM等の不揮発性記憶手段に予め記憶されている。
【0031】
すなわち、誤差・頻度関係とは、事前に十分な回数の検出試験によって作成した「真の視線方向(真値)と視線方向検出装置40により検出された視線方向(計測値)とのズレ量(検出誤差)」と、「そのズレ量が発生する割合(頻度)」との関係をいい、本実施形態では、この誤差・頻度関係を表(マップ)若しくは近似式の形態で記憶させている。
【0032】
また、図2に示すテーブルBは、「視線方向(計測値)と物体の方向(物体方向検出回路7が検出した物体の方向)との角度差A」と「頻度C」との関係、つまり誤差・頻度関係を示す表の具体例であり、この誤差・頻度関係は、予め十分な回数の試験を行うことにより得られた結果(図3参照)に基づいて得られたものである。
【0033】
そして、図3は、視線方向検出装置40による検出方向と真の視線方向とのズレ量(検出誤差)とその割合(頻度C)との調査したときの試験結果を示す図であり、「真の視線方向」とは、運転者に相当する被験者に対して特定の物体を注視するように指示したときの物体の方向である。
【0034】
つまり、誤差・頻度関係は、被験者に対して予め設定された物体の方向を注視するように指示し、その被験者に対して指示された物体の方向(真の方向)と視線方向検出装置40により検出された被験者の視線方向とのズレ量、及びその割合(頻度C)を調査したときの試験結果に基づいて作成されたものである。
【0035】
このとき、物体方向検出回路7が検出した物体の方向は、視線方向検出装置40の有する検出精度に比べて十分に精度が高いので、本実施形態では、図3における「真の視線方向」は、「物体方向検出回路7が検出した物体の方向」とみなして、「誤差・頻度関係」を示すテーブルB(図2参照)を作成した。
【0036】
したがって、「視線方向と物体方向との角度差」がAであるときに、「誤差・頻度関係」を示すテーブルBにおいて、その角度差Aに対応する「頻度C」は、運転者が物体を見ている可能性を表す値として扱うことができる。
【0037】
なお、本実施形態では、図3に示す試験結果を図2に示すようなテーブル形式(表)として、ROMに記憶されているが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、図3の破線で示されるような近似曲線を表す近似式の形式でROMに記憶させてもよい。
【0038】
<定数Dについて>
定数Dは、検出された角度差A及び誤差・頻度関係に基づいて求められた頻度Cを正規化(変換)するための係数である。
【0039】
具体的には、例えば一致度Eの最大値Emaxを100として正規化する場合には、定数Dは、最大値Emax(100)を頻度Cの最大値(970)で除した値(100/970≒0.1)となる。したがって、定数Dを0.1とし、角度差Aが2.5の場合には、誤差・頻度関係(図2のZ部分参照)より対応する頻度Cは500となるので、一致度Eは50(=500×0.1)となる。
【0040】
なお、上記の定数D(=0.1)は、一致度Eの最大値Emaxを100として正規化した例であり、本実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば最大値Emaxを10として正規化してもよい。因みに、最大値Emaxを10とした場合には、定数Dは0.01となる。
【0041】
3.警告態様の決定について
警告態様とは、例えば、音声により警告をする際の警告音量F、並びにHUD1による警告表示をする際の警告表示輝度G、警告表示サイズH及び警告表示高さI等によって決定される警告方法であり、この警告態様は、前述したように、算出された一致度Eに基づいて警告制御回路6にて決定される。
【0042】
そして、本実施形態では、警告音量F、警告表示輝度G、警告表示サイズH及び警告表示高さIは、以下の数式に基づいて算出決定される。
【0043】
F=M1×(100−E)/100…数式2
但し、M1:最大音量
G=M2×{(100−E)/200+0.5}…数式3
但し、M2:最大表示輝度
H=M3×{(100−E)/143+0.3}…数式4
但し、M3:最大表示サイズ
I=M4×(100−E)/100…数式5
但し、M4:最大表示高さ
なお、最大音量M1はスピーカ9及び警告制御回路6の能力(仕様)によって決定される値であり、最大輝度M2、最大表示サイズH及び最大表示高さIはHUD1及び警告制御回路6等の能力(仕様)によって決定される値である。
【0044】
特に、最大表示サイズM3及び最大表示高さM4は、HUD1にて表示可能領域によって決まる値である。つまり、図4の破線で示される矩形領域は、HUD1による表示可能領域を示しており、警告表示サイズH及び警告表示高さIは、この表示可能領域内に収まるように決定される。
【0045】
因みに、図4では、警告内容(「歩行注意!」)を最大表示サイズとした表示例である。そして、上段部に表示された警告は、表示高さIをM4(最大高さ)とした場合の例であり、中段部に表示された警告は、表示高さIが0.5×M4とした場合の例であり、下段部に表示された警告は、表示高さIを0とした場合の例である。
【0046】
4.本実施形態に係る車両用警告システムの作動
4.1.作動の概略(図5〜図8参照)
車両前方側に歩行者が存在する場合(図5参照)を例に、本実施形態に係る車両用警告システムの概略作動を説明する。
【0047】
車両のイグニッションスイッチや始動スイッチ等が投入されると、車両用警告システムは、物体検出用カメラ8にて車両前方側を予め指定された監視範囲として監視を開始し、物体方向検出回路7は、物体検出用カメラ8で撮影された映像に基づいて物体(この例では、歩行者)が車両前方に存在しているか否かを判定(監視)する。
【0048】
因みに、物体方向検出回路7は、監視範囲内において移動する物体の大きさ、形状及び移動速度等に基づいて車両前方側に歩行者が存在するか否かを判定する。
【0049】
そして、物体方向検出回路7及び物体検出用カメラ8の検出結果により歩行者の存在が車両用警告システムにより確認されると、視線方向検出装置40が検出した視線方向と物体方向検出回路7が検出した物体方向との角度差Aに基づいて一致度Eが算出された後、数式2〜数式5に基づいて警告態様が決定され、その決定された警告態様に従って、表示及び音声により運転者に対して警告が発せられる。
【0050】
すなわち、一致度Eが大きい場合(例えば、一致度E=90)には、運転者が歩行者を見ている可能性が高いものの、見ていない可能性もゼロではないため、運転者に対して、極力、煩わしさを感じ難くするように、図6に示すように、警告音量10%、表示輝度55%、表示サイズ37%、表示高さ10%とした弱いレベルの警告態様にて警告が実行される。因みに、各数値[%]は最大音量M1、最大表示輝度M2、最大表示サイズM3、最大表示高さM4に対する割合を表している。
【0051】
また、一致度Eが小さい場合(例えば、一致度E=20)には、運転者が歩行者を見ていない(歩行者に気づいていない)可能性が高いため、歩行者に気付くような注意を促すべく、図7に示すように、警告音90%、警告表示輝度90%、表示サイズ86%、表示高さ20%とした強いレベルの警告態様にて警告が実行される。
【0052】
さらに、一致度Eが中間値である場合(例えば、一致度E=50)には、運転者が歩行者を見ているか否かが曖昧であるので、警告の音量を抑えて煩わしさを軽減しながら、運転者の視覚を通じて注意を促すべく、図8に示すように、警告音50%、警告表示輝度75%、表示サイズ65%、表示高さ50%とした中間レベル警告態様にて警告を実行する。
【0053】
4.2.作動の詳細(図9〜図11)参照
<全体作動>
本実施形態に係る車両用警告システムは、図9に示すフローチャートに従って制御される。なお、本実施形態では、図9に示すフローチャートを実行するためのプログラムは、方向一致度算出回路5のROMに記憶されており、イグニッションスイッチ等が投入されると、方向一致度算出回路5(CPU)は、そのプログラムを読み込んで車両用警告システムを起動(作動)させ、イグニッションスイッチ等が遮断されると、車両用警告システムを停止させる。
【0054】
そして、車両用警告システムが起動されると、先ず、物体検出用カメラ8及び物体方向検出回路7により、車両前方側に歩行者や自転車等の物体が存在するか否かが判定され(S110)、物体が存在しないと判定された場合には(S110:NO)、再び、S110が実行される。
【0055】
一方、物体が存在すると判定された場合には(S110:YES)、物体方向検出回路7により、運転者の位置から見た物体の方向が算出された後(S120)、その算出された物体の方向が指定された範囲内であるか否かが判定される(S125)。
【0056】
ここで、指定された範囲(以下、指定範囲という。)とは、安全性を確保するために運転者が注意すべき前方側の範囲をいう。つまり、単純に「車両前方側の範囲」とすると、極めて広い範囲となってしまい、安全運転を実行する際に、特段の注意を注ぐ必要の範囲まで含むことになってしまう。
【0057】
そこで、本実施形態では、車両の速度やカーナビゲーションシステム(図示せず。)から得た道路(地図)情報等に基づいて指定範囲を決定している。このため、本実施形態では、車両の走行状態及び位置等によって指定範囲が変化するが、本発明はこれに限定されるものではなく、予め決定された固定範囲を指定範囲としてもよい。
【0058】
そして、S125にて指定範囲内に物体が存在しないと判定された場合には(S125:NO)、再び、S110が実行され、一方、指定範囲内に物体が存在すると判定された場合には(S125:YES)、視線方向検出装置40により運転者の視線方向が算出された後(S130)、視線方向検出装置40が検出した視線方向と物体方向検出回路7が検出した物体方向との角度差Aに基づいて一致度Eが算出される(S140)。
【0059】
次に、S140にて算出された一致度Eに基づいて警告態様が決定され(S150)、その決定された傾向態様に従って警告が実行された後(S160)、再び、S110が実行される。
【0060】
<S140について(図10参照)>
S140においては、先ず、視線方向検出装置40が検出した視線方向と物体方向検出回路7が検出した物体方向との角度差Aが算出される(S141)。次に、角度差Aに基づいてテーブルB(図2参照)から頻度Cが求められた後(S142)、その頻度Cに定数Dが乗じられて一致度Eが算出される(S143)。
【0061】
<S150について(図11参照)>
S140にて一致度Eが決定されると、先ず、数式2により警告音量Fが決定され(S151)、次に、数式3により警告表示輝度Gが決定される(S152)。次に、数式4により警告表示サイズHが決定された後(S153)、数式5により警告表示高さIが決定される(S154)。
【0062】
なお、図11に示す例では、警告音量F、警告表示輝度G、警告表示サイズH、警告表示高さIの順で警告態様を決定したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0063】
5.本実施形態に係る車両用警告システムの特徴
一致度Eとは、物体方向検出回路7等により検出された物体の方向と視線方向検出装置40により検出された視線の方向との角度差Aを検出誤差として、視線方向検出装置40の検出誤差とその誤差の発生頻度との関係(図2、図3)に基づいて決定される値であるので、一致度Eは、視線方向検出装置40の視線検出精度が考慮された『運転者が車両前方側に存在する物体(要注視対象)を見ている可能性を示す値』となる。
【0064】
したがって、本実施形態に係る車両用警告システムでは、運転者が要注視対象を見ているか否かの判断を二者択一で判断するのではなく、視線方向検出装置40の精度を考慮した「一致度(見ている可能性)」、つまり、運転者が要注視対象を見ているか否かの二値で判断するのではなく、「運転者が要注視対象を見ている、又は見ていない」の中間状態も考慮して運転者への警告態様を決定して警告するので、運転者が煩わしさを感じ難い車両用警告システムを実現することが可能となる。
【0065】
(第2実施形態)
第1実施形態では、誤差・頻度関係を示すテーブルB(図2参照)を用いて一致度Eを算出したが、本実施形態は、視線方向検出装置40の検出誤差とその誤差の発生頻度との関係が確率密度関数により対応付け、これに基づいて一致度Eを算出するものである。
【0066】
なお、本実施形態と第1実施形態とは、一致度Eの算出方法が異なるのみで、その他は第1実施形態と同一であるので、一致度Eの算出方法についてのみ説明する。
【0067】
すなわち、図12は「視線方向(真値)と視線方向検出装置40が検出した方向(計測値)のズレ量」(検出誤差X)とその確率を示した確率密度関数を示すグラフであり、以下の数式6は、図12に示すグラフを表すものである。そして、図12及び数式6は、視線方向検出装置40が検出した視線方向がどの程度の正確であるかを確率で示している。
【0068】
D(X) =1/(2π)0.5 exp(−X2/2)…数式6
なお、本実施形態では、分散=1、平均値=0の確率密度分布関数を用いているが、視線方向検出装置40がどの程度の検出誤差Xがあるのかを予め十分な回数の試験を実施して分散と平均値を求めて決定することが望ましい。
【0069】
また、図13は「物体方向(真値)と物体方向検出回路7が検出した方向(計測値)のズレ量」(検出誤差X)とその確率を示した確率密度関数を示すグラフであり、以下の数式7は、図13に示すグラフを表すものである。そして、図13及び数式7は、物体方向検出回路7がどの程度の正確であるかの確率で示している。
【0070】
Fo(X) =1/(2π)0.5 exp(−X2/2)…数式7
なお、本実施形態では、分散=1、平均値=0の確率密度分布関数を用いているが、物体方向検出回路7がどの程度の検出誤差Xがあるのかを予め十分な回数の試験を実施して分散と平均値を求めて決定することが望ましい。
【0071】
そして、本実施形態では、一致度Eは、「視線方向検出装置40が検出した視線方向と物体方向検出回路7が検出した物体方向との角度差A」をパラメータとして含めた式、つまり前記2つの関数(数式6、7)の積(数式8参照)によって算出される。
【0072】
一致度E=∫[FD(X−A) ・Fo(X)]dX…数式8
なお、本実施形態では、一致度Eの算出方法が第1実施形態と異なるので、警告態様(警告音量F、警告表示輝度G、警告表示サイズH及び警告表示高さI)を決定するための数式は、以下の数式9〜12が用いられる。
【0073】
F=M1×(1−E)…数式9
G=M2×{(1−E)/2+0.5}…数式10
H=M3×{(1−E)/1.43+0.3}…数式11
I=M4×(1−E)…数式12
以上のように、本実施形態では、物体方向検出回路7等により検出された物体の方向と視線方向検出装置40により検出された視線の方向との角度差Aに加えて、物体方向検出回路7の検出誤差も考慮されるので、より一層、運転者が煩わしさを感じ難い車両用警告システムを実現することが可能となる。
【0074】
(第3実施形態)
上述の実施形態では、算出された一致度Eを数式2〜5又は数式9〜12に代入することにより、警告態様(警告音量F、警告表示輝度G、警告表示サイズH及び警告表示高さI)を決定したが、本実施形態は、図14〜17に示すように、数式2〜5等を示すグラフ(マップ)から警告態様を決定するものである。
【0075】
因みに、図14は数式2を示すグラフ(マップ)であり、図15は数式3を示すグラフ(マップ)であり、図16は数式4を示すグラフ(マップ)であり、図17は数式5を示すグラフ(マップ)である。
【0076】
(その他の実施形態)
本発明は、視線方向検出装置40が検出した視線方向と物体方向検出回路7が検出した物体方向とに基づいて算出された一致度Eに基づいて、運転者への警告態様を決定して警告を実行することを特徴としているので、一致度Eの算出方法、並びに視線方向検出手段及び物体方向検出手段の具体的な構成は、上述の実施形態に示された構成に限定されるものではない。
【0077】
また、本発明は、視線方向の検出誤差を考慮して警告態様を決定することを特徴とするので、視線方向の検出方法及びその装置、並びに物体方向の検出方法及びその装置は、上述の実施形態に示されたもの限定されるものではない。
【0078】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0079】
2…フロントガラス、3…視線方向検出用カメラ、4…視線方向検出回路、
5…方向一致度算出回路、6…警告制御回路、7…物体方向検出回路、
8…物体検出用カメラ、9…スピーカ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方側に存在する物体の方向を検出する物体方向検出手段と、
運転者の視線方向を検出する視線方向検出手段と、
前記物体方向検出手段により検出された物体の方向と前記視線方向検出手段により検出された視線の方向との一致度を算出する方向一致算出手段と、
前記方向一致算出手段により算出された一致度に基づいて、運転者への警告態様を決定して警告を実行する警告出力手段と、
前記視線方向検出手段の検出誤差とその誤差の発生頻度との関係(以下、この関係を誤差・頻度関係という。)が記憶された記憶手段とを有し、
前記方向一致算出手段は、前記物体方向検出手段が検出した車両前方側に存在する物体が、予め指定された範囲内にある場合に前記一致度を算出し、
さらに、前記方向一致算出手段は、前記物体方向検出手段により検出された物体の方向と前記視線方向検出手段により検出された視線の方向との角度差を検出誤差として、前記記憶手段に記憶されている前記誤差・頻度関係に基づいて前記一致度を算出することを特徴とする車両用警告システム。
【請求項2】
前記方向一致算出手段は、前記角度差を検出誤差として、前記誤差・頻度関係から前記角度差に対応する頻度を決定した後、その決定された頻度に所定定数を乗じた値を前記一致度とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用警告システム。
【請求項3】
前記視線方向検出手段の検出誤差とその誤差の発生頻度との関係が確率密度関数によって対応付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用警告システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−170189(P2010−170189A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9886(P2009−9886)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】