説明

車両用軸受装置

【課題】 センサからの信号をハウジングの外部に確実に送信することができる車両用軸受装置を提供する。
【解決手段】 転がり軸受13を介して回転軸11をハウジング12に対して回転可能に支持する車両用軸受装置10は、ハウジング12の内部に配置されて軸受装置10の運転状態を検出するセンサ37と、センサ37からの信号を伝送する信号ケーブル42と、信号ケーブル42をハウジング12の外部に導出するため信号ケーブル42を固定するようにハウジング12に設けられたケーブル取出部44と、を備え、信号ケーブル42は、ケーブル取出部44を越えてハウジング12の外部まで延出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用軸受装置に関し、特に、鉄道車両、自動車、搬送車等の移動体に組み込まれる軸受装置の運転状態の検知や予防保全に用いられる車両用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の車輪を鉄道車両に固定した軸受箱に対して回転自在に支持するために、軸受装置が使用されている。このような軸受装置における異常を検出するため、センサを備えた車両用軸受装置が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
図8に示すように、特許文献1に開示された車両用軸受装置150は、円錐ころ軸受151を介して車軸152がハウジング153に対して回転可能に取り付けられており、車軸152の軸端部には、インパルスリング154が固定されており、車軸152と共に高速回転する。
【0004】
また、ハウジング153を閉鎖するカバー部材155上には、センサ本体156が載置されており、カバー部材155の開口155aを通して突出するセンサ本体156の端部156bには、インパルスリング154と対向する位置に車軸152の回転速度を検出するセンサ(不図示)が搭載されている。センサ本体156は、フランジ部156aが一体に形成されており、センサ本体156を着脱自在にカバー部材155に固定するために、ネジまたはボルトを収容するための一対の孔157を有する。
【0005】
さらに、特許文献1に開示された他の車両用軸受装置170は、図9に示すように、軸受(不図示)の軌道輪(不図示)上に封止インサート171が圧接され、封止インサート171上に、加速度計デバイスを含んだセンサ本体172と、運動センサや回転センサを組み込んだセンサ本体173とが、異なる位置に搭載されている。センサ本体172,173は、ケーブル174を通じて、ハウジング175上に搭載された多ピン型コネクタ176に接続されている。
【0006】
従って、種々のセンサによって生成された信号は、ケーブル174を通じて多ピン型コネクタ176へ送信される。さらに、これらの信号は、鉄道車両または列車上に搭載された電子処理ユニット(不図示)に送信され、受信した信号を処理する。
【0007】
また、特許文献2に記載の車両用軸受装置では、センサからの信号をハウジングの外部に取出す際、中継コネクタを用いて、センサに接続されたハーネスの端部と制御器に接続されたコードの端部とを接続している。
【特許文献1】特表2002−542973号公報(第6−8頁、第1図)
【特許文献2】特開2002−295496号公報(第4頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、図8の車両用軸受装置のように、ハウジング側にセンサが取り付けられている場合には、コネクタ等を用いずに信号ケーブルをハウジングの外に取出すことができるが、図9や特許文献2の車両用軸受装置のように、ハウジングの内部にセンサユニットが取り付けられる場合、ハウジングに多ピン型コネクタを取り付けて外部に送信されている。
【0009】
このため、鉄道車両の車軸を支持する軸受装置のような、移動する物体を支持する車両用軸受装置では、走行中の振動によりコネクタのピン接合部が摩耗して導通不良を起こすといった問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、センサからの信号をハウジングの外部に確実に送信することができる車両用軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
(1) 転がり軸受を介して回転軸をハウジングに対して回転可能に支持する車両用軸受装置であって、
前記ハウジングの内部に配置されて前記軸受装置の運転状態を検出するセンサと、
該センサからの信号を伝送する信号ケーブルと、
該信号ケーブルを前記ハウジングの外部に導出するため前記信号ケーブルを固定するように前記ハウジングに設けられたケーブル取出部と、
を備え、
前記信号ケーブルは、前記ケーブル取出部を越えて前記ハウジングの外部まで延出されることを特徴とする車両用軸受装置。
(2) 前記ケーブル取出部は、ケーブルグランドを備えており、
前記信号ケーブルは、該ケーブルグランドで前記ハウジングに固定されて前記ハウジングの外部に導出されることを特徴とする(1)に記載の車両用軸受装置。
(3) 前記ハウジングの軸方向端部には、前記ケーブル取出部を取り付けるための切り欠きが設けられていることを特徴とする(1)または(2)に記載の車両用軸受装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用軸受装置によれば、センサからの信号を伝送する信号ケーブルが、ハウジングに設けられたケーブル取出部を越えてハウジングの外部に延出され、コネクタを使用せずに信号ケーブルをハウジングの外部に取出すような構成としたので、車両の走行中であってもセンサからの信号をハウジングの外部に確実に送信することができる。
【0013】
また、本発明の車両用軸受装置によれば、ケーブル取出部にケーブルグランドが備えられ、信号ケーブルがケーブルグランドでハウジングに固定されてハウジングの外部に導出されるようにしたので、センサからの信号がハウジングの外部に確実に送信されるだけでなく、ハウジング内への水の侵入を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る車両用軸受装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係る車両用軸受装置を示す、図2のI-I線から見た正面図であり、図2は図1のII−II線に沿った断面図であり、図3は、図1のケーブル取出部の拡大断面図である。また、図4は図1のIV方向から見た矢視図であり、図5は図1のV-V線に沿った断面図であり、図6はケーブル取出部が取り付けられていないハウジングの外周面を部分的に示す側面図である。
【0016】
図1、図2に示すように、本発明の第1実施形態である車両用軸受装置10は、鉄道車両用軸受装置であり、車軸11が、図示しない車輪を支持固定した状態で、軸受箱12の内径側で、本発明の転がり軸受である接触角を有する複列円すいころ軸受13により、回転自在に支持されている。
【0017】
複列円すいころ軸受13には、種々部材の重量等によるラジアル荷重と任意のアキシアル荷重とが負荷される。複列円すいころ軸受13は、軸受箱12に内嵌され、円錐面状に傾斜した一対の外輪軌道面14を内周面に有する単一の外輪15と、車軸11に外嵌され、円錐面状に傾斜した内輪軌道面16を外周面に有する一対の内輪17を有する。
【0018】
また、複列円すいころ軸受13は、外輪15の外輪軌道面14と内輪17の内輪軌道面16との間に複列で複数配置された転動体である円すいころ18と、円すいころ18を転動自在に保持する環状の保持器19とを有する。複列円すいころ軸受13の内部には、グリースや油等の潤滑剤が封入されている。
【0019】
一対の内輪17間には、内輪間座20が配置されており、内輪17の軸方向両端部にも、一対の内輪間座21,22が配置されている。内輪間座21は、車軸11に形成された段部11aと係合することで車軸11に対する軸方向位置を規制されている。一方、内輪間座22の端部には、センサの一部を構成する円環状の速度検出用ギア部材23が接しており、速度検出用ギア部材23は、雌ねじ23bを使用して車軸11外周の雄ねじと螺合して車軸11に固定されている。内輪間座22は速度検出用ギア部材23を介して車軸11に対する軸方向位置を規制されている。
【0020】
なお、速度検出用ギアは、ギア部材23の外周面に設ける代わりに、内輪間座22を軸方向に延長して、その外周に設けてもよい。このように、隙間嵌め又は圧入で車軸11に挿入する内輪間座22の外周面に速度検出用ギアを設けると、速度検出用ギアの外周の振れ精度を向上できるので好ましい。
即ち、ねじで螺合する構造の場合は、ねじを精度良く加工しないとギアの外周振れを小さくすることができないが、車軸11に隙間嵌め又は圧入で固定する内輪間座の外周面に速度検出用のギアを加工すると、内輪間座22を車軸11に取り付けるだけでギア外周の振れ精度を確保でき、ねじを精度良く加工する必要がなくなり、全体のコストを低減することができる。
【0021】
外輪15の両端部には、一対のシールケース26,27が組付けられている。シールケース26,27は、軟鉄をプレス加工することにより薄肉に成形されており、外輪15側から外径が段階的に小さくなるようして円筒形状に形成されている。シールケース26と内輪間座21との間には、オイルシール28が配置されると共に、シールケース26の先端部26aとこの先端部26aを囲むように内輪間座21に設けられた凹部21aとでラビリンスシール29を構成する。一方、シールケース27と内輪間座22との間には、径方向内方に延びるシールケース27のフランジ部27aから複列円錐ころ軸受13側に向かってほぼ90度に折曲された先端部27bと、この先端部27bを囲むように内輪間座22に設けられた凹部22aとでラビリンスシール30を構成する。これにより、複列円錐ころ軸受13内部に封入した潤滑剤が外部に漏洩するのを防止すると共に、複列円錐ころ軸受13内部へ異物が侵入するのを防止している。
【0022】
また、図1に示すように、シールケース27には、フランジ部27aの円周方向に離れた位置に、一対のボルト31,31が車軸11の軸方向外方に向けて突出して固定されている。この一対のボルト31、31には、センサ筐体32の側部に形成された一対のフランジ部33,33のネジ孔を挿通した後、ナット34,34がねじ込まれ、これによりセンサ筐体32はシールケース27に固定される。センサ筐体32は、底部にセンサ挿入凹部32aが形成され、カバー35により密閉されている。
【0023】
センサ筐体32は、A2017,A2024,A5056,A6061,A7075等のアルミニウム合金にアルマイト処理が施されたアルミニウム合金製のものからなる。アルミニウム合金製のセンサ筐体32は、プラスチック製のものに比べて機械的強度に優れており、鉄製のものに比べて軽量であるために、センサ筐体32が取り付けられるシールケース27に負担をかけることがなく、外部衝撃が作用したとしても、シールケース27が外輪15から外れにくくなり、シールケース27の機械的信頼性を向上させることができる。
【0024】
また、センサ筐体32は軽量であることから、シールケース27の固有振動数の低下を低減できる。それにより、シールケース27単体での固有振動数からの変動が少なくなって、円すいころ軸受13の振動状態を精度良く測定することができる。さらに、アルミニウム合金製のセンサ筐体32は、プラスチック製のものに比べて、熱伝導率が良好なので、軸受温度の測定を精度良く行うことができる。また、センサ筐体32は、アルミニウム合金にアルマイト処理等の表面処理が施されているために、アルミニウムの防食性をさらに高めることができる。なお、表面処理はアルマイト処理以外の通常のメッキ処理等でも良いが、アルマイト処理等の陽極酸化処理を用いた表面処理の方が被膜特性において優れている。
【0025】
センサ筐体32とフランジ部27aとの間の隙間には、シリコン樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂36が充填されている。即ち、鉄製のシールケース27とアルミニウム合金製のセンサ筐体32間の取付け面の隙間部分に樹脂36が充填されることで、取付け部の隙間部分に水分が浸入せずに、アルミニウムと鉄の基準電位の差に基づくアルミニウム合金の溶出が生じない。その結果、センサ37の耐久性を高めることができる。
【0026】
センサ37は、センサ筐体32内に配置された基板38上に固定される、速度検出素子39、温度検出素子40、加速度検出素子(振動検出素子)41を有しており、車両用軸受装置10の運転状況を高精度で検出する。
【0027】
速度検出素子39は、速度検出用ギア部材23の外周面に形成された歯部23aと非接触で対向するように、センサ筐体32のセンサ挿入凹部32a内に配置されており、車軸11に固定された速度検出用ギア部材23の回転を検出することで、車軸11の回転を計測して、例えばパルス状の電気信号を発生する。発生した電気信号は、入出力信号ケーブル42を通じて制御回路(不図示)に送られて監視される。なお、回転方向を測定する場合は、1個のセンサ筐体32内に速度信号パルスが約90度位相になる位置に速度検出素子39を2個配置するとよい。また、速度検出素子39を1個有したセンサ筐体を2個取り付けても同様の効果を得ることができる。この際、前記の構成と同じように、速度信号のパルスが約90度位相になるように2個のセンサ筐体を配置するのがよい。
【0028】
また、大部分の使用目的が回転速度の測定だけでよく、一部の軸受のみ回転方向を測定する必要がある場合は、速度検出素子39を1個有するセンサ筐体のみを製作しておき、回転方向の測定が必要な軸受にのみセンサ筐体を2個取り付けることで回転速度と回転方向の測定が可能である。そうすれば、製作するセンサの種類を増やす必要がなく、低コスト化を実現できる。
【0029】
温度検出素子40は、センサ筐体32の円すいころ軸受13に近い、シールケース27側に配されており、シールケース27を介して伝達される円すいころ軸受13内部の雰囲気温度を常時測定して制御回路に与えることで、潤滑剤切れ等による焼付きの発生を防止する。このとき、シール手段として、非接触のシールであるラビリンスシールを用いているため、発熱がなく、円すいころ軸受13の発熱を精度良く測定することができる。また、センサ筐体32をアルミニウム合金で構成すると共に、温度検出素子40を他の検出素子よりシールケース側に配しているので、シールケース27の温度をより正確に測定できる。また、センサ筐体32と、フランジ部27aとの間に熱伝導性の良いシリコン樹脂等を充填すると、さらに精度良く温度を測定できる。
【0030】
振動検出素子41は、軸方向の振動を検出するセンサであり、円すいころ18、外輪15、内輪17に与えられた振動成分を電気信号に変換して制御回路に送る。振動検出素子41は、軸方向の振動のみを測定しているので、円すいころ軸受13の剥離や傷等の異常振動を精度良く測定できるとともに、車軸11の偏摩耗も精度良く測定することができる。また、取付け位置(位相)は円周上の任意の場所に設定することができる。
【0031】
なお、ラジアル方向の振動を測定して剥離等の軸受の異常を検知する場合は、振動検出素子を異常発生部位のすぐ近傍に配置しないと剥離による振動を正確に測定することができない。そのため、ラジアル方向の振動を検出する場合には、剥離が最も発生しやすい負荷圏近傍に振動検出素子を配置する必要がある。しかしながら、鉄道車両用車軸軸受の場合は、負荷圏が軸受の上側(台車側)にあるため、台車等が妨げとなり、センサを配置するスペースが取れない場合がある。また、振動検出素子を取り付けた場所から離れた部位に剥離等の異常が発生した場合は、その異常振動を正確に測定することができなかった。
それに対して、接触角を有する軸受において、ラジアル方向の振動の発生に伴って接触角の分力として発生する軸方向の振動成分を測定する場合、この軸方向成分は、円周方向のどの部位でもラジアル方向の振動に比べてほぼ等しい値になるため、振動検出素子をどこに配置しても、ラジアル方向の振動を検出する場合に比べ、異常振動を正確に検出することができる。また、剥離等の異常が軸受のどこに発生したとしてもその異常振動を正確に測定することができる。
【0032】
即ち、円すいころ軸受13は接触角を有するので、ラジアル方向の振動が発生すると、その接触角の分力によって軸方向の振動が発生する。この軸方向の振動は、円周方向全面でほぼ同じ値となるため、センサ筐体32を外輪15端面のどの円周方向位置に配置しても、円すいころ軸受13の剥離や、車軸11のフラットを正確に測定することができる。なお、円すいころ軸受13の代わりに、予圧を与えた組み合わせ玉軸受でも同様の効果を得ることができる。
【0033】
センサ筐体32からは、速度検出素子39,温度検出素子40,振動検出素子41から出力された測定信号を外部に伝送するために信号ケーブルである入出力信号ケーブル42が引き出されている。入出力信号ケーブル42の一端は、ケーブルグランド43を用いてセンサ筐体32に固定されており、その他端は、ハウジング12に設けられたケーブル取出部44を通じて外部に設けられた制御部(不図示)に接続する部分と脱着可能な多ピン型コネクタ45に連結される。
【0034】
ケーブル取出部44は、ハウジング12に形成された取出孔12aの周囲にボルト固定された筒状の固定治具46と、入出力信号ケーブル42の外周面に取り付けられ、固定治具46に螺合固定されるケーブルグランド47(例えば、LAPP KABEL社製など)とを備える。
【0035】
図3に示されるように、ケーブル取出部44に設けられたケーブルグランド47は、耐錆特性を有するステンレス、真鍮、ニッケルメッキが施されたものからなる筒状の本体部48、ナイロン6等の樹脂部材からなるクランプ部材49、ネオプレン等からなる筒状のパッキン50、及び、ニトリルゴム等のゴムを用いたOリング51とから構成されている。
【0036】
本体部48は、軸方向一端側の小径筒部48aと、軸方向他端側の大径筒部48bとを備えており、小径筒部48aの外周面には、固定治具46と螺合する第1の雄ねじ部48cが、大径筒部48bの外周面には、クランプ部材49の雌ねじ部49aと螺合する第2の雄ねじ部48dがそれぞれ形成されている。また、大径筒部48bの先端側外周面には、円周方向に所定の間隔で軸方向に延びるスリット48eが形成されている。クランプ部材49の内周面には、本体部48の第2の雄ねじ部48dと螺合する雌ねじ部49aが軸方向一端側に形成されており、また、その軸方向他端側には、テーパ状の縮径部49bが形成されている。パッキン50は、本体部48の内周面と入出力信号ケーブル42の外周面間に配置されており、クランプ部材49を本体部48に対して締め付けることで、パッキン50が変形して入出力信号ケーブル42を固定する。Oリング51は、第1の雄ねじ部48cの基部に装着されており、ケーブルグランド47を固定治具46に固定することで、ハウジング12内への水の侵入を確実に防止することができる。
【0037】
従って、センサ筐体32に取り付けられた入出力信号ケーブル42は、ケーブル取出部44を越えてハウジング12の外部まで延出され、鉄道車両に搭載された制御部(不図示)に接続する部分と脱着可能な多ピン型コネクタ45に直接接続される。
【0038】
例えば、図7に示すように、特許文献1に記載の技術を、現在開発中の鉄道車両用軸受装置に適用した場合として、ケーブル取出部44に多ピン型コネクタ60を利用して入出力信号ケーブル42と別の接続ケーブル61でハウジング12の外部に取り出すことが考案される。この場合には、コネクタ60の雄雌ピン接合部が鉄道車両の走行中の振動等により摩耗して導通不良を起こす可能性があった。一方、図1に示す本実施形態では、入出力信号ケーブル42がコネクタ60を用いることなくハウジング12の外部に導出されるので、車両の走行中であっても振動等による導通不良を起こすことがなく、センサ37からの信号をハウジング12の外部に確実に送信することができる。なお、制御部が接続される部分では、ハウジング12と比べて振動のレベルが非常に小さいので、振動が繰り返し作用することによる摩耗等の問題が生じないため、多ピン型コネクタ45が使用されている。
【0039】
本発明の車両用軸受装置10によれば、センサ37に接続された入出力信号ケーブル42が、ハウジング12に設けられたケーブル取出部44を越えてハウジング12の外部に延出され、コネクタを使用せずに入出力信号ケーブル42をハウジング12の外部に取出すような構成としたので、車両の走行中であってもセンサ37からの信号をハウジング12の外部に確実に送信することができる。
【0040】
また、本発明の車両用軸受装置によれば、ケーブル取出部44にケーブルグランド47が備えられ、入出力信号ケーブル42がケーブルグランド47でハウジング12に固定されてハウジング12の外部に導出されるようにしたので、センサ37からの信号がハウジング12の外部に確実に送信されるだけでなく、ハウジング12内への水の侵入を防止することができる。従って、鉄道車両や自動車等の屋外で使用されるものには特に有効である。
【0041】
ここで、ハウジング12には、ケーブル取出部44を取り付けるために、穴が設けられてもよいが、本実施形態では、図6に示すように切り欠き12aがその軸方向端面に設けられている。このようにすることで、図4及び図5に示すように、ケーブル取出部44はハウジング12の軸方向端面から切り欠き12a内に挿入された後、複数本のボルト52によってハウジング12に固定される。従って、ハウジング12に切り欠き12aを設けることでケーブル取出部44をハウジング12に取り付けることができ、ハウジング12内に配置されるコネクタやセンサ37が通過するための径を持った穴を加工する必要がなく、より好ましい。
【0042】
なお、ケーブル取出部44における入出力信号ケーブル42の固定は、ケーブルグランド47を用いてハウジングに固定することが好ましいが、溶接、はんだ付け、圧着のような簡単に脱着できない他の手法であってもよく、この場合もセンサ筐体32に取り付けられた入出力信号ケーブル42がハウジング12の外部に延出される。
【0043】
また、本実施形態では、センサ37がハウジング12の略垂直位置に取り付けられており、入出力信号ケーブル42は、横または斜め横方向から取り出されている。このような構成は、鉄道車両や自動車用の複数の軸が平行に配置され、個々の軸を支持する回転支持装置に取り付けた複数のセンサ37からの複数の入出力信号ケーブル42がハウジング12の外部に取り出される場合に有効であり、隣り合うセンサ37のケーブル取出部44を対向させることで、入出力信号ケーブル42の取り出しをコンパクトにできる。このため、ケーブル取出部44はハウジング12の軸心の水平方向に対して±60度の範囲に設置すること望ましい。
【0044】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
例えば、軸受は、複列円すいころ軸受に限らず、その他、複列深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、等の各種転がり軸受を適用しても良い。
また、センサに内蔵される検出素子は特に限定されず、軸受装置の運転状況を高い精度で監視する上で、速度検出素子、温度検出素子、加速度検出素子の少なくとも一つを含んでいることが望ましい。
また、本発明は、ハウジングの内部にセンサ筐体が取り付けられている場合に有効であり、本実施形態のようにセンサ筐体が転がり軸受のシールケースの外側に取り付けられたものだけでなく、センサ筐体がシールケースの内側に取り付けられるものや、転がり軸受の固定輪である外輪自体に取り付けられる場合にも適用される。
さらに、本実施形態の固定治具はハウジングの一部を構成しており、ハウジングにボルト固定された固定治具にケーブルグランドを固定する構造としたが、固定治具を設けずにハウジングにケーブルグランドを直接固定するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る車両用軸受装置を示す、図2のI-I線から見た正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1のケーブル取出部の拡大断面図である。
【図4】図1のIV方向から見た矢視図である。
【図5】図1のV-V線に沿った断面図である。
【図6】ケーブル取出部が取り付けられていないハウジングの外周面を部分的に示す側面図である。
【図7】特許文献1に記載の技術を、現在開発中の鉄道車両用軸受装置に適用した例を示す断面図である。
【図8】従来の車両用軸受装置の断面図である。
【図9】図8とは異なる従来の車両用軸受装置の外観図である。
【符号の説明】
【0046】
10 車両用軸受装置
13 円すいころ軸受(軸受)
26,27 シールケース
37 センサ
28 オイルシール(シール手段)
30 ラビリンスシール(シール手段)
42 入出力信号ケーブル(信号ケーブル)
44 ケーブル取出部
47 ケーブルグランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受を介して回転軸をハウジングに対して回転可能に支持する車両用軸受装置であって、
前記ハウジングの内部に配置されて前記軸受装置の運転状態を検出するセンサと、
該センサからの信号を伝送する信号ケーブルと、
該信号ケーブルを前記ハウジングの外部に導出するため前記信号ケーブルを固定するように前記ハウジングに設けられたケーブル取出部と、
を備え、
前記信号ケーブルは、前記ケーブル取出部を越えて前記ハウジングの外部まで延出されることを特徴とする車両用軸受装置。
【請求項2】
前記ケーブル取出部は、ケーブルグランドを備えており、
前記信号ケーブルは、該ケーブルグランドで前記ハウジングに固定されて前記ハウジングの外部に導出されることを特徴とする請求項1に記載の車両用軸受装置。
【請求項3】
前記ハウジングの軸方向端部には、前記ケーブル取出部を取り付けるための切り欠きが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−36178(P2006−36178A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318032(P2004−318032)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】