説明

車両用駆動力配分装置

【課題】 左右の車輪の車軸間でトルクを配分する車両用駆動力配分装置を備えた車両において、簡単な構造および制御で差動制限機能を発揮させる。
【解決手段】 左右のトルク配分クラッチCL,CRを選択的に締結することにより、遊星歯車機構のキャリヤ部材11あるいはサンギヤ19をハウジング20に係止して左右の車輪WFL,WFR間でトルクを配分することができる。また差動制限クラッチCDを締結して遊星歯車機構のサンギヤ19およびキャリヤ部材11の相対回転を規制すると、遊星歯車機構がロック状態になり、左右の車輪WFL,WFRが一体化されて差動制限が行われる。差動制限クラッチCDを設けただけの構成で、左右のトルク配分クラッチCL,CRの締結力を制御して差動制限を行う場合に比べて、簡単な制御で差動制限を行うことが可能になり、しかも制御の応答性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の車輪の車軸間に遊星歯車機構を備えたトルク配分機構を配置し、遊星歯車機構の三つの要素のうちの何れか二つの要素をそれぞれトルク配分クラッチを介して固定部に係止することで、左右の車輪の車軸間でトルクを配分する車両用駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる車両用駆動力配分装置は、下記特許文献1により公知である。この車両用駆動力配分装置は左右の車軸間に遊星歯車機構よりなるトルク伝達手段を備えており、遊星歯車機構のサンギヤあるいはキャリヤ部材を一対のクラッチで選択的に拘束して左右の車軸間の回転数比を強制的に規制することで、左右の車輪間でトルクを配分するようになっている。
【特許文献1】特開平8−114255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車両が高速で直進走行するときに左右の車軸の差動を抑制すると直進安定性を高めることができる。上記特許文献1に記載されたものも、一対のクラッチをそれぞれ所定のスリップ率で締結することで、左右の車軸を相対回転不能に一体化して差動制限機能を発揮させることができるが、一対のクラッチをそれぞれ所定のスリップ率で精度良く締結するのは困難であり、その制御が複雑なために応答性も低下する問題がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、左右の車輪の車軸間でトルクを配分する車両用駆動力配分装置を備えた車両において、簡単な構造および制御で差動制限機能を発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、左右の車輪の車軸間に遊星歯車機構を備えたトルク配分機構を配置し、遊星歯車機構の三つの要素のうちの何れか二つの要素をそれぞれトルク配分クラッチを介して固定部に係止することで、左右の車輪の車軸間でトルクを配分する車両用駆動力配分装置において、遊星歯車機構の三つの要素のうちの何れか二つの要素の相対回転を規制する差動制限クラッチを設けたことを特徴とする車両用駆動力配分装置が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、差動制限クラッチは遊星歯車機構のサンギヤおよびキャリヤ部材の相対回転を規制することを特徴とする車両用駆動力配分装置が提案される。
【0007】
尚、実施例の左クラッチCLおよび右クラッチCRは本発明のトルク配分クラッチに対応し、実施例のハウジング20は本発明の固定部に対応する。
【0008】
また請求項1に記載された発明において、トルク配分クラッチにより固定部に係止される遊星歯車機構の二つの要素は、差動制限クラッチにより相対回転を規制される遊星歯車機構の二つの要素と一致していても良いし、一致していなくても良い。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の構成によれば、左右のトルク配分クラッチの一方あるいは他方を締結することにより、遊星歯車機構の三つの要素のうちの何れか二つの要素の一方あるいは他方を固定部に係止して左右の車輪の車軸間でトルクを配分することができる。また差動制限クラッチを締結して遊星歯車機構の三つの要素のうちの何れか二つの要素の相対回転を規制すると、遊星歯車機構がロック状態になり、左右の車輪の車軸が一体化されて差動制限が行われる。このように差動制限クラッチを設けただけの構成で、左右のトルク配分クラッチの締結力を制御して差動制限を行う場合に比べて、簡単な制御で差動制限を行うことが可能になり、しかも制御の応答性が向上する。
【0010】
更に差動制限クラッチを遊星歯車機構の三つの要素のうちの何れか二つの要素間に配置したので、車軸上に差動制限クラッチを直接配置する場合に比べて差動制限クラッチの必要締結力が小さくて済み、差動制限クラッチに小型で小容量のものを使用することができる。
【0011】
請求項2の構成によれば、差動制限クラッチは遊星歯車機構のサンギヤおよびキャリヤ部材の相対回転を規制するので、リングギヤおよびサンギヤの相対回転、あるいはリングギヤおよびキャリヤ部材の相対回転を規制するよりも、差動制限クラッチのレイアウトが容易になって車両用駆動力配分装置を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0013】
図1〜図7は本発明の第1実施例を示すもので、図1はフロントエンジン・フロントドライブ車両の全体構成を示す図、図2は駆動力配分装置の構造を示す図、図3は駆動力配分装置の具体的な構造を示す図、図4は図3の4部拡大図、図5は中低車速域での左旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図、図6は中低車速域での右旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図、図7は差動制限時における駆動力配分装置の作用を示す図である。
【0014】
図1に示すように、フロントエンジン・フロントドライブの車両は、駆動輪である左右の前輪WFL,WFRと、従動輪である左右の後輪WRL,WRRとを備える。車体前部に横置きに搭載したエンジンEの左端にトランスミッションMが接続されており、これらエンジンEおよびトランスミッションMの後部に差動装置Dと一体のトルク配分機構Aが配置される。差動装置Dおよびトルク配分機構Aの左端および右端から左右に延びる左車軸AFLおよび右車軸AFRには、それぞれ左前輪WFLおよび右前輪WFRが接続される。
【0015】
図2に示すように、トルク配分機構Aには、トランスミッションMから延びる入力軸1に設けた入力ギヤ2に噛み合う外歯ギヤ3から駆動力が伝達される差動装置Dが一体に設けられる。差動装置Dはダブルピニオン式の遊星歯車機構よりなり、前記外歯ギヤ3と一体に形成されたリングギヤ4と、このリングギヤ4の内部に同軸に配設されたサンギヤ5と、前記リングギヤ4に噛み合うアウタプラネタリギヤ6および前記サンギヤ5に噛み合うインナプラネタリギヤ7を、それらが相互に噛み合う状態で支持するプラネタリキャリヤ8とから構成される。差動装置Dは、そのリングギヤ4が入力要素として機能するとともに、一方の出力要素として機能するサンギヤ5が右出力軸9Rおよび右車軸AFRを介して右前輪WFRに接続され、また他方の出力要素として機能するプラネタリキャリヤ8が左出力軸9Lおよび左車軸AFLを介して左前輪WFLに接続される。
【0016】
左右の前輪WFL,WFR間で駆動力を配分するトルク配分機構Aは遊星歯車機構よりなり、そのキャリヤ部材11が右出力軸9Rの外周に回転自在に支持されるとともに、円周方向に90°間隔で配置された4本のピニオン軸12の各々に、第1ピニオン13、第2ピニオン14および第3ピニオン15を一体に形成した3連ピニオン部材16が回転自在に支持される。
【0017】
右出力軸9Rの外周に回転自在に支持されて前記第1ピニオン13に噛み合う第1サンギヤ17は、差動装置Dのプラネタリキャリヤ8に連結される。また右出力軸9Rの外周に固定された第2サンギヤ18は前記第2ピニオン14に噛み合う。更に、右出力軸9Rの外周に回転自在に支持された第3サンギヤ19は前記第3ピニオン15に噛み合う。
【0018】
実施例における第1ピニオン13、第2ピニオン14、第3ピニオン15、第1サンギヤ17、第2サンギヤ18および第3サンギヤ19の歯数は以下のとおりである。
【0019】
第1ピニオン13の歯数 Zb=16
第2ピニオン14の歯数 Zd=16
第3ピニオン15の歯数 Zf=32
第1サンギヤ17の歯数 Za=30
第2サンギヤ18の歯数 Zc=26
第3サンギヤ19の歯数 Ze=28
第3サンギヤ19は右出力軸9Rの外周に嵌合するスリーブ21および右クラッチCRを介してトルク配分機構Aのハウジング20に結合可能であり、右クラッチCRの締結によってキャリヤ部材11の回転数が増速される。またキャリヤ部材11は左クラッチCLを介してハウジング20に結合可能であり、左クラッチCLの締結によってキャリヤ部材11の回転数が減速される。
【0020】
またトルク配分機構Aのキャリヤ部材11と第3サンギヤ19のスリーブ21との間に差動制限クラッチCDが配置される。差動制限クラッチCDを締結してキャリヤ部材11と第3サンギヤ19とを相対回転不能に一体化すると、遊星歯車機構よりなるトルク配分機構Aがロックされる。
【0021】
電子制御ユニットUは、エンジントルクTe、エンジン回転数Ne、車速Vおよび操舵角θを所定のプログラムに基づいて演算処理し、前記左クラッチCL、右クラッチCRおよび差動制限クラッチCDの作動を制御する。
【0022】
次に、図3に基づいて差動装置Dおよびトルク伝達機構Aの構造を更に詳細に説明する。
【0023】
差動装置Dおよびトルク伝達機構Aのハウジング20は、センターハウジング32と、左ハウジング33と、右ハウジング34とを結合して構成されており、センターハウジング32の左半部および左ハウジング33の内部に差動装置Dが収納され、センターハウジング32の右半部および右ハウジング34の内部にトルク配分機構Aが収納される。より具体的には、センターハウジング32の内部には右車軸9Rの外周に向かって延びる隔壁32aが形成されており、隔壁32aの左側に差動装置Dが収納され、隔壁32aの右側にトルク配分機構Aが収納される。
【0024】
差動装置Dの外郭を構成するディファレンシャルケース36は第1ケース37および第2ケース38を結合してなり、第1ケース37が左ハウジング33にローラベアリング39を介して回転自在に支持されるとともに、第2ケース38がセンターハウジング32の隔壁32aにローラベアリング40を介して回転自在に支持される。トランスミッションMの出力は入力ギヤ2から外歯リングギヤ3を介して差動装置Dのディファレンシャルケース36に伝達される。
【0025】
図3および図4から明らかなように、トルク配分機構Aに作動油を供給するポンプユニット45は、第1ポンプボディ46、セパレータプレート47および第2ポンプボディ48を積層してボルト49…で一体に結合して構成されており、このポンプユニット45はボルト50…でセンターハウジング32の隔壁32aの右側面に固定される。
【0026】
第1ポンプボディ46に形成したポンプ室46aに収納されたトロコイド式のオイルポンプ51は、アウターロータ52の内周にインナーロータ53を配置してなり、インナーロータ53を駆動する回転軸54が隔壁32aの貫通孔32bを通して差動装置D側に延びている。即ち、回転軸54が隔壁32aの貫通孔32bに一対のボールベアリング55,56で支持されており、隔壁32aから右側に突出する回転軸54の先端に設けた駆動ピン57がインナーロータ53に形成した溝53aに係合するとともに、隔壁32aから左側に突出する回転軸54の先端に設けた従動ギヤ58がディファレンシャルケース36の第2ケース38に固定した駆動ギヤ59に噛合する。従って、ディファレンシャルケース36の回転は駆動ギヤ59、従動ギヤ58、回転軸54および駆動ピン57を介してインナーロータ53に伝達され、インナーロータ53に噛合して回転するアウターロータ52との協働によってオイルポンプ51が作動する。
【0027】
回転軸54の中間部と貫通孔32bとの間には第1、第2シール部材60,61が配置されており、第1シール部材60は差動装置D側からトルク配分機構A側へのオイルの漏洩を阻止し、第2シール部材61はトルク配分機構A側から差動装置D側へのオイルの漏洩を阻止する向きに装着される。そして第1、第2シール部材60,61に挟まれた空間が、隔壁32aに形成した連通孔32cを介して大気に連通する。
【0028】
図3の右側に示すように、トルク配分機構Aのキャリヤ部材11を右ハウジング34に支持するボールベアリング24の径方向内側に、差動制限クラッチCDのクラッチ板25…が配置される。従って、前記ボールベアリング24の軸方向外側に前記クラッチ板25…を配置する場合に比べて、トルク配分機構Aの軸方向寸法を小型化することが可能になる。
【0029】
上記構成のトルク配分機構Aにより、図5に示すように車両の中低車速域での左旋回時には、電子制御ユニットUからの指令で左クラッチCLを締結することで、キャリヤ部材11がハウジング20に結合されて回転を停止する。このとき、右前輪WFRと一体の右出力軸9Rと、左前輪WFLと一体の左出力軸9L(即ち、差動装置Dのプラネタリキャリヤ8)とは、第2サンギヤ18、第2ピニオン14、第1ピニオン13および第1サンギヤ17を介して連結されているため、右前輪WFRの回転数NRは左前輪WFLの回転数NLに対して次式の関係で増速される。
【0030】
NR/NL=(Zd/Zc)×(Za/Zb)
=1.154 …(1)
上述のようにして右前輪WFRの回転数NRが左前輪WFLの回転数NLに対して増速されると、図5に斜線を施した矢印で示したように、旋回内輪である左前輪WFLのトルクの一部を旋回外輪である右前輪WFRに伝達し、車両の左旋回をアシストして旋回性能を高めることができる。
【0031】
尚、キャリヤ部材11を左クラッチCLにより停止させる代わりに、左クラッチCLの締結力を適宜調整してキャリヤ部材11の回転数を減速すれば、その減速に応じて右前輪WFRの回転数NRを左前輪WFLの回転数NLに対して増速し、旋回内輪である左前輪WFLから旋回外輪である右前輪WFRに任意のトルクを伝達することができる。
【0032】
一方、図6に示すように車両の中低車速域での右旋回時には、電子制御ユニットUからの指令で右クラッチCRを締結することで、スリーブ21がハウジング20に結合されて回転を停止する。その結果、スリーブ21に第3サンギヤ19を介して接続された第3ピニオン15が公転および自転し、右出力軸9Rの回転数に対してキャリヤ部材11の回転数が増速され、左前輪WFLの回転数NLは右前輪WFRの回転数NRに対して次式の関係で増速される。
【0033】
NL/NR={1−(Ze/Zf)×(Zb/Za)}
÷{1−(Ze/Zf)×(Zd/Zc)}
=1.156 …(2)
上述のようにして左前輪WFLの回転数NLが右前輪WFRの回転数NRに対して増速されると、図6に斜線を施した矢印で示したように、旋回内輪である右前輪WFRのトルクの一部を旋回外輪である左前輪WFLに伝達することができる。この場合にも、右クラッチCRの締結力を適宜調整してキャリヤ部材11の回転数を増速すれば、その増速に応じて左前輪WFLの回転数NLを右前輪WFRの回転数NRに対して増速し、旋回内輪である右前輪WFRから旋回外輪である左前輪WFLに任意のトルクを伝達し、車両の右旋回をアシストして旋回性能を高めることができる。
【0034】
この場合にも、スリーブ21を右クラッチCRにより停止させる代わりに、右クラッチCRの締結力を適宜調整してスリーブ21の回転数を減速すれば、その減速に応じて左前輪WFLの回転数NLを右前輪WFRの回転数NRに対して増速し、旋回内輪である右前輪WFRから旋回外輪である左前輪WFLに任意のトルクを伝達することができる。
【0035】
(1)式および(2)式を比較すると明らかなように、第1ピニオン13、第2ピニオン14、第3ピニオン15、第1サンギヤ17、第2サンギヤ18および第3サンギヤ19の歯数を前述の如く設定したことにより、左前輪WFLから右前輪WFRへの増速率(約1.154)と、右前輪WFRから左前輪WFLへの増速率(約1.156)とを略等しくすることができる。
【0036】
また車両が高速で直進走行を行う場合には差動装置Dの機能を制限し、実質的に左右の車輪を一体に回転させることが望ましい。この場合、図7に示すように、電子制御ユニットUからの指令で差動制限クラッチCDを締結すると、トルク配分機構Aのキャリヤ部材11および第3サンギヤ19が一体に結合されて遊星歯車機構がロック状態になり、第1サンギヤ17に接続された左車軸AFLと、第2サンギヤ18に接続された右車軸AFRとが相対回転不能に一体化され、差動制限機能が発揮される。
【0037】
図2に示す差動制限クラッチCLを開放しての直進走行状態でも、図7に示す差動制限クラッチCLを締結しての直進走行状態でも、左右の前輪WFL,WFRには同じトルクが配分されるが、車両の進路がふらついたときに、差動制限クラッチCLを開放していると差動装置Dが機能して左右の前輪WFL,WFRの回転数が変化してしまうが、差動制限クラッチCLを締結していると左右の前輪WFL,WFRの回転数が同一に維持されるため、車両の直進安定性が高められる。
【0038】
尚、左クラッチCLおよび右クラッチCRをそれぞれ所定のスリップ率で締結しても、左車軸AFLおよび右車軸AFRを相対回転不能に一体化して差動制限機能を発揮させることができるが、左クラッチCLおよび右クラッチCRをそれぞれ所定のスリップ率で精度良く締結する制御は困難であり、制御の応答性も低下する問題がある。
【0039】
それに対して、本実施例では差動制限クラッチCDを締結するだけで差動制限機能を発揮させることができるので、電子制御ユニットUによる制御が容易になるとともに制御の応答性が向上する。
【0040】
また本実施例では第3サンギヤ19を差動制限クラッチCDでキャリヤ部材11に結合しているが、第2サンギヤ18あるいは第1サンギヤ17をキャリヤ部材11に結合しても同様の作用効果を達成することができる。更に差動制限クラッチCDは、遊星歯車機構のキャリヤ部材、サンギヤおよびリングギヤの三つの要素のうち、何れか二つの要素を一体に結合すれば同じ効果を得ることができる。本実施例では距離的に接近している第3サンギヤ19およびキャリヤ部材11を差動制限クラッチCDで結合するようにしたため、リングギヤおよびキャリヤ部材11、あるいはリングギヤおよびサンギヤ17,18,19を差動制限クラッチCDで結合する場合に比べて、トルク配分機構Aの小型化を図ることができる。
【0041】
また差動制限クラッチCDを、遊星歯車機構のキャリヤ部材、サンギヤおよびリングギヤの三つの要素のうちの何れか二つの要素間に配置するので、その差動制限クラッチCDを左右の車軸AFL,AFR上に直接配置する場合に比べて必要な締結力が小さくて済む。なぜならば、差動制限クラッチCDを左右の車軸AFL,AFR上に直接配置すると、左右の車軸AFL,AFR間で配分するトルクと差動制限クラッチCDの締結トルクとの大きさの関係は1:1になるが、差動制限クラッチCDを、遊星歯車機構の二つの要素間に配置すると、遊星歯車機構の作用で必要な締結トルクとの大きさが小さくて済むからである。
【0042】
これにより、左右の車軸AFL,AFR上に差動制限クラッチCDを直接配置する場合に比べて、差動制限クラッチCDに小型で小容量のものを使用することができる。また差動制限クラッチCDを完全締結状態にすることなくスリップ状態で使用する場合には、差動制限クラッチCDの必要締結トルクが減少して更なる小型化が可能になる。
【0043】
次に、図8に基づいて本発明の第2実施例を説明する。
【0044】
図2に示す第1実施例では、差動制限クラッチCDが第3サンギヤ19をキャリヤ部材11に結合しているが、図8に示す第2実施例では、差動制クラッチCDが第1ピニオン13に噛合するリングギヤ22およびキャリヤ部材11を一体に結合して遊星歯車機構をロックしている。第1ピニオン13に噛合するリングギヤ22の代わりに、第2ピニオン14に噛合するリングギヤや、第3ピニオン15に噛合するリングギヤをキャリヤ部材11を一体に結合しても作用効果は同一である。
【0045】
次に、図9に基づいて本発明の第3実施例を説明する。
【0046】
図2に示す第1実施例では、差動制限クラッチCDが第3サンギヤ19をキャリヤ部材11に結合しているが、図9に示す第3実施例では、差動制クラッチCDが第3ピニオン15に噛合するリングギヤ23および第3サンギヤ19を一体に結合して遊星歯車機構をロックしている。第3ピニオン15に噛合するリングギヤ23の代わりに、第2ピニオン14に噛合するリングギヤや、第1ピニオン13に噛合するリングギヤを第3サンギヤ19に一体に結合しても作用効果は同一である。
【0047】
図10に示す第4実施例は第1実施例の変形であって、第1実施例ではフロントエンジン・フロントドライブ車両の前輪WFL,WFR側にトルク配分機構Aを配置しているが、第4実施例ではフロントエンジン・リヤドライブ車両の後輪WRL,WRRの車軸ARL,ARR間に、差動装置Dおよびトルク配分機構Aを配置したものである。そのトルク配分機構Aの構造は第1実施例と同じである。
【0048】
図11に示す第5実施例は第1実施例の変形であって、第1実施例ではフロントエンジン・フロントドライブ車両の前輪WFL,WFR側にトルク配分機構Aを配置しているが、第5実施例では四輪駆動車両の後輪WRL,WRRの車軸ARL,ARR間に、差動装置Dおよびトルク配分機構Aを配置したものである。そのトルク配分機構Aの構造は第1実施例と同じである。
【0049】
但し、トランスミッションMに連なるトランスファーTが、電子制御クラッチCおよびフロント差動装置Dfを介して前輪WFL,WFRの左車軸AFLおよび右車軸AFRに接続されており、従って電子制御クラッチCを締結することで車両を四輪駆動状態とし、電子制御クラッチCを締結解除することで車両を後輪駆動状態とすることができる。
【0050】
上述した第2実施例〜第5実施例によっても、第1実施例と同様の作用効果を達成することができる。
【0051】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0052】
例えば、実施例ではトルク配分機構Aの遊星歯車機構の三つの要素のうち、サンギヤ19およびキャリヤ部材11の二つの要素に左右のクラッチCL,CRを接続しているが、二つの要素のうちの一つがリングギヤであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1実施例に係るフロントエンジン・フロントドライブ車両の全体構成を示す図
【図2】駆動力配分装置の構造を示す図
【図3】駆動力配分装置の具体的な構造を示す図
【図4】図3の4部拡大図
【図5】中低車速域での左旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図
【図6】中低車速域での右旋回時における駆動力配分装置の作用を示す図
【図7】差動制限時における駆動力配分装置の作用を示す図
【図8】第2実施例に係る駆動力配分装置の構造を示す図
【図9】第3実施例に係る駆動力配分装置の構造を示す図
【図10】第4実施例に係るフロントエンジン・リヤドライブ車両の全体構成を示す図
【図11】第5実施例に係る四輪駆動車両の全体構成を示す図
【符号の説明】
【0054】
A トルク配分機構
AFL 左車軸(車軸)
AFR 右車軸(車軸)
ARL 左車軸(車軸)
ARR 右車軸(車軸)
CD 差動制限クラッチ
CL 左クラッチ(トルク配分クラッチ)
CR 右クラッチ(トルク配分クラッチ)
WFL 前輪(車輪)
WFR 前輪(車輪)
WRL 後輪(車輪)
WRR 後輪(車輪)
11 キャリヤ部材
17 第1サンギヤ(サンギヤ)
18 第2サンギヤ(サンギヤ)
19 第3サンギヤ(サンギヤ)
20 ハウジング(固定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪(WFL,WFR;WRL,WRR)の車軸(AFL,AFR;ARL,ARR)間に遊星歯車機構を備えたトルク配分機構(A)を配置し、遊星歯車機構の三つの要素のうちの何れか二つの要素をそれぞれトルク配分クラッチ(CL,CR)を介して固定部(20)に係止することで、左右の車輪(WFL,WFR;WRL,WRR)の車軸(AFL,AFR;ARL,ARR)間でトルクを配分する車両用駆動力配分装置において、
遊星歯車機構の三つの要素のうちの何れか二つの要素の相対回転を規制する差動制限クラッチ(CD)を設けたことを特徴とする車両用駆動力配分装置。
【請求項2】
差動制限クラッチ(CD)は遊星歯車機構のサンギヤ(17,18,19)およびキャリヤ部材(11)の相対回転を規制することを特徴とする、請求項1に記載の車両用駆動力配分装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−40523(P2007−40523A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135557(P2006−135557)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】