説明

車両用駆動輪構造

【課題】コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を提供すること。
【解決手段】ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造に、回転トルクを発生させる回転トルク生成手段(例えばモータ)と、回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が駆動されるように該回転トルクを車輪に選択的に伝達する第一の動力伝達手段と、回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が第一の方向へ転舵されるように該回転トルクを車体へ選択的に伝達する第二の動力伝達手段と、回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が上記第一の方向とは逆の第二の方向へ転舵されるように該回転トルクを車体へ選択的に伝達する第三の動力伝達手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造に係り、特に、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、各輪に2つの独立した駆動輪を並列に設置し、モータ制御によって駆動にのみならずこれら駆動輪間の回転差により操舵も実現する車両用駆動輪構造が開示されている。
【特許文献1】特開2004−90903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の従来構造では、各輪にホイール、ベアリング、タイヤ等が2セットずつ必要となるため、部品点数が増加して製造コストが高くなると共に、構造が大型化するために大きなホイールハウスが必要となって車室内スペースを広くとることができなくなる。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造であって、回転トルクを発生させる回転トルク生成手段(例えばモータ)と、該回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が駆動されるように該回転トルクを車輪に選択的に伝達する第一の動力伝達手段と、上記回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が第一の方向へ転舵されるように該回転トルクを車体へ選択的に伝達する第二の動力伝達手段と、上記回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が上記第一の方向とは逆の第二の方向へ転舵されるように該回転トルクを車体へ選択的に伝達する第三の動力伝達手段とを有する車両用駆動輪構造である。
【0007】
この一態様においては、例えば、上記回転トルク生成手段が出力軸が車輪回転軸と一致するように配置され、上記第一の動力伝達手段が上記回転トルク生成手段と車輪との間に介設された第一の動力伝達クラッチ機構を有し、上記第二の動力伝達手段及び第三の動力伝達手段が上記回転トルク生成手段の出力軸と共に回転する共通の駆動ギアを有し、上記第二の動力伝達手段が上記駆動ギアと一対のかさ歯車機構を形成する第一のピニオンギアと、該第一のピニオンギアと車体との間に介設された第二の動力伝達クラッチ機構とを有し、上記第三の動力伝達手段が上記第一のピニオンギアと同軸上に逆向きに配置され、上記駆動ギアと一対のかさ歯車機構を形成する第二のピニオンギアと、該第二のピニオンギアと車体との間に介設された第三の動力伝達クラッチ機構とを有する。
【0008】
この一態様によれば、3つの動力伝達手段を独立に制御することによって、上記第一の動力伝達手段が回転トルクを車輪に伝達するように制御すれば駆動が実現され、上記第二の動力伝達手段が回転トルクを車体に伝達するように制御すれば一の方向への操舵が実現され、上記第三の動力伝達手段が回転トルクを車体に伝達するように制御すれば他の方向への操舵が実現される。したがって、1つの構造で車輪の駆動及び操舵が可能となるため、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を実現することができる。
【0009】
なお、この一態様において、上記第一の動力伝達手段、上記第二の動力伝達手段、及び、上記第三の動力伝達手段のうち少なくとも1つ、好ましくは3つすべて、を動力伝達割合を可変とすることができる構造とすると、上記回転トルク生成手段の出力を駆動成分と操舵成分とに分配することができるため、好ましい。すなわち、上記第一の動力伝達手段と上記第二の動力伝達手段及び/又は第三の動力伝達手段との間の動力伝達割合を変化させることによって駆動成分と操舵成分の割合を任意に変化させることができるため、上記回転トルク生成手段の出力をロス無く使い切ることができる。これにより、要求される出力性能に対する体格や質量を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。なお、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造の基本概念、主要なハードウェア構成、作動原理、及び基本的な制御手法等については当業者には既知であるため、詳しい説明を省略する。
【0012】
また、以下に説明する実施例及び添付図面においては、説明の便宜上、車両左側の駆動輪を例に挙げて説明する。前輪であるか後輪であるかは問わない。当業者には明らかなように、以下に説明する実施例及び添付図面に示された本発明に係る構造は、ミラー反転させることによって図示しない右輪にも当然適用可能である。
【実施例】
【0013】
図1〜3を用いて、本発明の一実施例に係る車両用駆動輪構造について説明する。本実施例に係る車両用駆動輪構造100は、ホイール内に配置された1つのモータの出力を独立に制御可能な3つのクラッチを介して車輪、アッパーアーム、及びロワーアームにそれぞれ伝達することによって、駆動及び操舵を1つのホイールインモータ構造によって実現可能にすると共に、車両走行状態に応じてモータ出力の駆動成分及び操舵成分の割合を任意に変化させることができるようにしたものである。
【0014】
図1は本実施例に係る車両用駆動輪構造100を車両後部から見た概略背面図であり、図2は車両用駆動輪構造100のA−A断面(図1)を示す概略横断面図である。
【0015】
車両用駆動輪構造100は、車両左右方向に略平行な車輪回転軸Xを中心軸として回転可能に設置された車輪取付部材101を有する。車輪取付部材101の車両外側端には、図示しない車輪を取り付けるためのハブ101aが形成される。
【0016】
車両用駆動輪構造100は、更に、車輪取付部材101を例えばボールベアリングなどを介して車輪回転軸Xまわりに回転可能に支持すると共に、転舵時に転舵軸Zまわりに図示しない車輪と一緒に回転するナックル102とを有する。
【0017】
車両用駆動輪構造100は、更に、ナックル102内部に車輪回転軸Xに沿って配置されたモータ103と、モータ103の出力軸103aに固定され、モータ103の駆動により出力軸103aと一緒に車輪回転軸Xまわりに回転する駆動ギア104とを有する。
【0018】
駆動ギア104は、略円盤状の形状であり、中心軸が車輪回転軸Xと一致するように配置される。また、駆動ギア104のモータ103に対向する面の円周縁部には図示するような角度でギア歯が形成される。
【0019】
車両用駆動輪構造100は、更に、車輪取付部材101とモータ出力軸103aとを選択的に接続する第一のクラッチ機構105を有する。本実施例において、第一のクラッチ機構105は、一例として、2枚の対向するクラッチ板を互いに押し付けることによって動力伝達を実現する摩擦押圧式のクラッチ機構であって、押圧力を調整することによって動力伝達率を変えることができる種類のクラッチ機構であるものとする。
【0020】
ここでは、図示するように、第一のクラッチ機構105を構成する一方のクラッチ板105aが車輪取付部材101に、他方のクラッチ板105bが駆動ギア104にそれぞれ取り付けられる。
【0021】
車両用駆動輪構造100は、更に、例えばボールベアリングなどを介して転舵軸Zまわりに回転可能にナックル102に取り付けられた第一のピニオンギア106を有する。第一のピニオンギア106は、駆動ギア104のギア歯と噛合し、駆動ギア104と共に一対のかさ歯車機構を形成する。すなわち、第一のピニオンギア106は、モータ103作動中、噛合した駆動ギア104によって常に回転させられる。
【0022】
第一のピニオンギア106のシャフト106aは、第二のクラッチ機構107を介して、サスペンションのアッパーアーム108に連結される。本実施例において、第二のクラッチ機構107は、一例として、2枚の対向するクラッチ板を互いに押し付けることによって動力伝達を実現する摩擦押圧式のクラッチ機構であって、押圧力を調整することによって動力伝達率を変えることができる種類のクラッチ機構であるものとする。
【0023】
ここでは、図示するように、第二のクラッチ機構107を構成する一方のクラッチ板107aが第一のピニオンギア106に、他方のクラッチ板107bがアッパーアーム108にそれぞれ取り付けられる。
【0024】
車両用駆動輪構造100は、更に、例えばボールベアリングなどを介して転舵軸Zまわりに回転可能にナックル102に取り付けられた第二のピニオンギア109を有する。第二のピニオンギア109は、駆動ギア104のギア歯と噛合し、駆動ギア104と共に一対のかさ歯車機構を形成する。
【0025】
第二のピニオンギア109は、第一のピニオンギア106と同じく転舵軸Z上であって、第一のピニオンギア106とは車輪回転軸Xを挟んで反対側に、すなわち第一のピニオンギア106とは逆向きに、配置される。すなわち、第二のピニオンギア109は、モータ103作動中、噛合した駆動ギア104によって常に第一のピニオンギア106とは反対回りに回転させられる。
【0026】
第二のピニオンギア109のシャフト109aは、第三のクラッチ機構110を介して、サスペンションのロワーアーム111に連結される。本実施例において、第三のクラッチ機構110は、一例として、2枚の対向するクラッチ板を互いに押し付けることによって動力伝達を実現する摩擦押圧式のクラッチ機構であって、押圧力を調整することによって動力伝達率を変えることができる種類のクラッチ機構であるものとする。
【0027】
ここでは、図示するように、第三のクラッチ機構110を構成する一方のクラッチ板110aが第二のピニオンギア109に、他方のクラッチ板110bがロワーアーム111にそれぞれ取り付けられる。
【0028】
ここでは、3つのクラッチ機構105、107、及び110を制御するための電気系統又は油圧系統などの図示は省略しているが、これら3つのクラッチ機構105、107、及び110はそれぞれ独立に回転力の断接及び接続時の動力伝達割合(率)を制御可能であるものとする。
【0029】
次いで、このような構成の車両用駆動輪構造100の動作について図3を用いて説明する。図3は、3つのクラッチ機構105、107、及び110の断接に応じた2つのピニオンギア106及び109と車輪取付部材101の動きを概略的に示している。
【0030】
図3(a)に示すように、第一のクラッチ機構105を接続し、第二のクラッチ機構107及び第三のクラッチ機構110を離すと、モータ103により発生した回転トルクが車輪取付部材101に伝達され、車輪取付部材101が車輪回転軸Xまわりに(すなわちYZ平面において)回転するため、図示しない車輪を駆動させることができる。
【0031】
他方、図3(b)及び(c)に示すように、第一のクラッチ機構105を離し、第二のクラッチ機構107又は第三のクラッチ機構110を接続すると、駆動ギア104を介してモータ103から伝達された回転トルクによる第一のピニオンギア106又は第二のピニオンギア109の回転がアッパーアーム108又はロワーアーム111にそれぞれ伝達されるため、ナックル102を車体に対して相対的に転舵軸Zまわりに(すなわちXY平面において)回転させ、車輪を転舵することができる。
【0032】
以上、第一のクラッチ機構105と第二のクラッチ機構107又は第三のクラッチ機構110とのいずれか一方を接続し、他方を離す場合について、作用の違いを説明した。すなわち、第一のクラッチ機構105のみを接続すれば車輪を転舵させずに駆動のみさせることができ(直進全力加速)、第二のクラッチ機構107又は第三のクラッチ機構110のみを接続すれば車輪を駆動させずに転舵のみさせることができる(据え切り)。
【0033】
車両用駆動輪構造100は、更に、第一のクラッチ機構105と第二のクラッチ機構107又は第三のクラッチ機構110との双方を接続し、接続したクラッチ機構における動力伝達率を任意に設定することによって、モータ出力を任意の割合で駆動成分と転舵成分とに配分することができる。
【0034】
このように、本実施例によれば、3つのクラッチ機構を独立に制御して1つのモータ出力を駆動と操舵とに適切に配分することによって、1つの構造で車輪の駆動及び操舵が可能となるため、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を実現することができる。
【0035】
また、接続したクラッチ機構の動力伝達率を変化させることによって駆動成分と操舵成分の割合を任意に変化させることができるため、モータ出力をロス無く使い切ることができると共に、要求されるモータ出力性能に対する体格や質量を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ハイブリッド車や電気自動車などのモータにより車輪を駆動する方式の車両全般において駆動輪構造として利用できる。本構造は、採用する車両の外観、重量、サイズ、走行性能等は問わない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例に係る車両用駆動輪構造を車両後部から見た概略背面図である。
【図2】本発明の一実施例に係る車両用駆動輪構造のA−A断面(図1)を示す概略横断面図である。
【図3】本発明の一実施例に係る車両用駆動輪構造における3つのクラッチ機構の断接に応じたピニオンギアと車輪取付部材の動きを概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0038】
100 車両用駆動輪構造
101 車輪取付部材
102 ナックル
103 モータ
103a モータ出力軸
104 駆動ギア
105、107、110 クラッチ機構
105a、105b、107a、107b、110a、110b 摩擦クラッチ板
106、109 ピニオンギア
106a、109a ピニオンギアシャフト
108 アッパーアーム
111 ロワーアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造であって、
回転トルクを発生させる回転トルク生成手段と、
前記回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が駆動されるように該回転トルクを車輪に選択的に伝達する第一の動力伝達手段と、
前記回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が第一の方向へ転舵されるように該回転トルクを車体へ選択的に伝達する第二の動力伝達手段と、
前記回転トルク生成手段により生成された回転トルクによって車輪が前記第一の方向とは逆の第二の方向へ転舵されるように該回転トルクを車体へ選択的に伝達する第三の動力伝達手段と、を有することを特徴とする車両用駆動輪構造。
【請求項2】
請求項1記載の車両用駆動輪構造であって、
前記回転トルク生成手段は、出力軸が車輪回転軸と一致するように配置され、
前記第一の動力伝達手段は、前記回転トルク生成手段と車輪との間に介設された第一の動力伝達クラッチ機構を有し、
前記第二の動力伝達手段及び第三の動力伝達手段は、前記回転トルク生成手段の出力軸と共に回転する共通の駆動ギアを有し、
前記第二の動力伝達手段は、
前記駆動ギアと一対のかさ歯車機構を形成する第一のピニオンギアと、
該第一のピニオンギアと車体との間に介設された第二の動力伝達クラッチ機構とを有し、
前記第三の動力伝達手段は、
前記第一のピニオンギアと同軸上に逆向きに配置され、前記駆動ギアと一対のかさ歯車機構を形成する第二のピニオンギアと、
該第二のピニオンギアと車体との間に介設された第三の動力伝達クラッチ機構とを有する、ことを特徴とする車両用駆動輪構造。
【請求項3】
請求項1記載の車両駆動輪構造であって、
前記第一の動力伝達手段、前記第二の動力伝達手段、及び、前記第三の動力伝達手段のうち少なくとも1つは、動力伝達割合を可変とすることができる構造を採る、ことを特徴とする車両駆動輪構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−145070(P2007−145070A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338704(P2005−338704)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】