説明

車両補強構造

【課題】長手軸方向に曲率を持った第1パネル部材及び第2パネル部材に荷重が入力されたときに、リインフォースの両端部の倒れ込みを抑制することができる車両補強構造を得る。
【解決手段】センタピラー14は、アウタパネル16とインナパネル18とで閉断面が形成されている。センタピラー14は、軸方向に曲率を有しており、軸方向上部が軸方向下部に対して車両幅方向内側に湾曲している。アウタパネル16の内壁面には、軸方向にアウタパネル16と略同一の曲率を有するリインフォース20が接合されている。リインフォース20は、略U字形状の断面からなり、両端部20Aにインナパネル18の内壁面に近接する位置まで延設された延設部20Bを備えている。インナパネル18の内壁面には、延設部20Bの内側に形成された壁部24Aと、延設部20Bの外側に形成された壁部24Bとが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1パネル部材と第2パネル部材とで形成された閉断面内にリインフォースを設けた車両補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、アウタパネルとインナパネルとを結合して閉断面を形成したセンタピラーの閉断面内に、アウタパネルとほぼ同形状の略コ字形状の断面を有したリインフォースの両側面部をアウタパネルの両側面にスポット溶接して結合して補強した構造が開示されている。
【特許文献1】特開平6−72787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記先行技術による場合、所定の曲率を持った骨格部材であるセンタピラーに、衝突時などに大荷重が入力されると、断面形状が略コ字形状とされたリインフォースの両側面部が断面内方へ倒れ込み、耐力が急激に低下して変形を起こす恐れがある。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、長手軸方向に曲率を持った骨格部材などに荷重が入力されたときに、リインフォースの両端部の倒れ込みを抑制することができる車両補強構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、長手軸方向に曲率を有した車両外側の第1パネル部材と、前記第1パネル部材よりも車両内側に配置された第2パネル部材とで形成された閉断面内に、前記第1パネル部材と略同一曲率を有し前記第1パネル部材に接合されるリインフォースを設けた車両補強構造であって、前記リインフォースは、略U字形状の断面からなり、その両端部が前記第2パネル部材の閉断面内の内壁面に当接又は近接する位置まで延設されることにより設けられた延設部を備え、前記第2パネル部材の内壁面における前記延設部の板厚方向に対向する位置の少なくとも一部に、壁部が設けられていることを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両補強構造において、前記第1パネル部材がアウタパネルで、前記第2パネル部材がインナパネルであり、前記アウタパネルと前記インナパネルとで車両上下方向に沿って延在するピラーが構成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1に記載の車両補強構造において、前記第1パネル部材がロアパネルで、前記第2パネル部材がフロアパネルであり、前記ロアパネルと前記フロアパネルとで車両前後方向に沿って延在するサイドメンバのキック部が構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両補強構造において、前記壁部は、前記リインフォースの略U字形状の断面の内側に設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両補強構造において、前記壁部は、前記リインフォースの略U字形状の断面の外側に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の車両補強構造において、前記リインフォースは高張力鋼板で成形されていることを特徴とする。
【0011】
請求項1記載の本発明によれば、長手軸方向に曲率を有した車両外側の第1パネル部材と車両内側の第2パネル部材とで閉断面が形成されており、第1パネル部材と略同一曲率を有し略U字形状の断面からなるリインフォースが、閉断面内の第1パネル部材に結合されている。長手軸方向に曲率を有した第1パネル部材及び第2パネル部材に衝突等により荷重が入力されると、リインフォースが曲げモーメントを受けて変形しようとする。その際、第2パネル部材の閉断面内の内壁面には、リインフォースの両端部に設けられた延設部の板厚方向に対向する位置の少なくとも一部に壁部が設けられているので、曲げモーメントを受けるリインフォースの略U字形状の断面の両端部が板厚方向に変形して、両端部に設けられた延設部が第2パネル部材の壁部に当たる。これによって、リインフォースの両端部のそれ以上の変形(倒れ込み)が抑制されるため、リインフォースの耐力の急激な低下を抑制することができる。
【0012】
請求項2記載の本発明によれば、第1パネル部材がアウタパネルで、第2パネル部材がインナパネルであり、アウタパネルとインナパネルとで車両上下方向に沿って延在するピラーが構成されているので、長手軸方向に曲率を有したピラーのアウタパネル側から衝突等により荷重が入力されると、曲げモーメントを受けるリインフォースの略U字形状の断面の両端部が板厚方向に変形して延設部がインナパネルの壁部に当たる。これによって、リインフォースの両端部のそれ以上の変形(倒れ込み)が抑制されるため、リインフォースの耐力の急激な低下を抑制することができる。
【0013】
請求項3記載の本発明によれば、第1パネル部材がロアパネルで、第2パネル部材がフロアパネルであり、ロアパネルとフロアパネルとで車両前後方向に沿って延在するサイドメンバのキック部が構成されているので、長手軸方向に曲率を有したサイドメンバのキック部に衝突等により荷重が入力されると、曲げモーメントを受けるリインフォースの略U字形状の断面の両端部が板厚方向に変形して延設部がフロアパネルの壁部に当たる。これによって、リインフォースの両端部のそれ以上の変形(倒れ込み)が抑制されるため、リインフォースの耐力の急激な低下を抑制することができる。
【0014】
請求項4記載の本発明によれば、壁部がリインフォースの略U字形状の断面の内側に設けられているので、リインフォースの略U字形状の断面の両端部が内側に変形したときに、両端部に設けられた延設部が第2パネル部材の壁部に当たる。これによって、リインフォースの略U字形状の断面の両端部が内側に変形することを抑制でき、耐力の急激な低下を抑制することができる。
【0015】
請求項5記載の本発明によれば、壁部がリインフォースの略U字形状の断面の外側に設けられているので、リインフォースの略U字形状の断面の両端部が外側に変形したときに、両端部に設けられた延設部が第2パネル部材の壁部に当たる。これによって、リインフォースの略U字形状の断面の両端部が外側に変形することを抑制でき、耐力の急激な低下を抑制することができる。
【0016】
請求項6記載の本発明によれば、リインフォースが高張力鋼板で成形されているので、リインフォースの両端部に設けられた延設部が第2パネル部材の壁部に当たったときに変形が抑制される効果が一般鋼板に対して大きい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車両補強構造は、長手軸方向に曲率を有した第1パネル部材及び第2パネル部材に衝突時などに荷重が入力されたときに、リインフォースの両端部の倒れ込みを抑制することができるという優れた効果を有する。
【0018】
請求項2記載の本発明に係る車両補強構造は、長手軸方向に曲率を有したピラーに衝突時などに荷重が入力されたときに、リインフォースの両端部の倒れ込みを抑制することができるという優れた効果を有する。
【0019】
請求項3記載の本発明に係る車両補強構造は、長手軸方向に曲率を有したサイドメンバのキック部に衝突時などに荷重が入力されたときに、リインフォースの両端部の倒れ込みを抑制することができるという優れた効果を有する。
【0020】
請求項4記載の本発明に係る車両補強構造は、リインフォースの両端部が略U字形状の断面の内側に変形することを抑制し、耐力の急激な低下を抑制することができるという優れた効果を有する。
【0021】
請求項5記載の本発明に係る車両補強構造は、リインフォースの両端部が略U字形状の断面の外側に変形することを抑制し、耐力の急激な低下を抑制することができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項6記載の本発明に係る車両補強構造は、リインフォースの変形が抑制される効果が一般鋼板に対して大きいという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〔第1実施形態〕
【0024】
以下、図1〜図7を用いて、本発明に係る車両補強構造の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印OUTは車両幅方向外側を示している。
【0025】
図1には、車両補強構造が適用されたセンタピラーを備えた車両のボデーの部分斜視図が示されている。また、図2には、センタピラーの全体斜視図が示されており、図3には、図2のA−A線に沿う横断面図が示されている。図1に示されるように、車両側部を構成するボデー10の開口部12には、車両上下方向に沿って延在する骨格部材としてのセンタピラー14が掛け渡されている。センタピラー14より車両前方側の開口部12Aには、図示しないフロントサイドドアが配設され、センタピラー14より車両後方側の開口部12Bには、図示しないリアサイドドアが配設されるようになっている。
【0026】
図1及び図2に示されるように、センタピラー14は、軸方向(長手軸方向)に曲率を有しており、軸方向上部が軸方向下部に対して車両幅方向内側に湾曲するように形成されている。図3に示されるように、センタピラー14は、車両幅方向外側に配置されたアウタパネル16と、車両幅方向内側に配置されたインナパネル18と、を備えている。アウタパネル16は、断面が略ハット形状に形成されており、車両前後方向における前後一対のフランジ部16Aがインナパネル18の前後一対の取付部18Aにスポット溶接されることにより、アウタパネル16とインナパネル18とで閉断面が形成されている。アウタパネル16の中間部16Bは、車両幅方向外側に突出する略U字形状の断面からなり、突出した部分の頂部に車両幅方向内側に窪んだ窪み部16Cが形成されている。窪み部16Cは、アウタパネル16の軸方向に沿って形成されている。
【0027】
センタピラー14の閉断面内には、軸方向にアウタパネル16と略同一の曲率を有するリインフォース20が配設されている。リインフォース20は、車両幅方向外側に突出する略U字形状の断面からなり、リインフォース20の車両幅方向外側に形成された略平面状の壁面21がアウタパネル16の車両幅方向内側に形成された略平面状の壁面17にスポット溶接により接合されている。リインフォース20の略U字形状の断面の両端部20Aには、インナパネル18の車両幅方向外側の内壁面に近接する位置まで延設された延設部20Bが設けられている。この延設部20Bは自由端となっている。また、延設部20Bの先端部よりも略U字形状の断面の内側に、リインフォース20の壁面21がアウタパネル16の壁面17に接合されるスポット溶接位置が設定されている。また、リインフォース20の突出した部分の頂部には、車両幅方向内側に窪んだ窪み部20Cがアウタパネル16の窪み部16Cと対向する位置に長手方向に沿って形成されている。リインフォース20の窪み部20Cとアウタパネル16の窪み部16Cにより、荷重入力時にアウタパネル16とリインフォース20の位置関係がずれることなどを抑制できる。
【0028】
インナパネル18の閉断面内の内壁面(車両幅方向外側の壁面)には、延設部20Bと対向する位置に、車両幅方向内側に凹んだ凹部24が軸方向(車両上下方向)に沿って形成されている。凹部24は、リインフォース20の各々の延設部20Bを所定の間隔をおいて囲むように配置されている。この凹部24は、リインフォース20の延設部20Bの板厚方向と対向する位置に、リインフォース20の略U字形状の断面の内側に形成された壁部24Aと、リインフォース20の略U字形状の断面の外側に形成された壁部24Bと、を備えている。さらに、凹部24は、延設部20Bの端面と対向する位置に、壁部24A及び壁部24Bと直交する方向に配置された底部24Cを備えている。壁部24Aと壁部24Bは略平面状であり、延設部20Bの車両前後方向の内側と外側に、車両上下方向に沿ってそれぞれ設けられている。
【0029】
なお、図2に示されるように、センタピラー14の下部側には、車両前後方向に沿って延在するロッカ28が配設されている。ロッカ28は、車両幅方向外側に配置された断面ハット形状のロッカアウタパネル30と、車両幅方向内側に配置された断面ハット形状のロッカインナパネル32とを備えており、ロッカアウタパネル30とロッカインナパネル32とで閉断面が形成されている。センタピラー14の下端部は、ロッカアウタパネル30の車両幅方向外側に接合されている。また、センタピラー14の上部側には、車両前後方向に沿って延在するルーフサイドレール34が配設されている。ルーフサイドレール34は、車両幅方向外側に配置された断面ハット形状のルーフサイドレールアウタパネル36と、車両幅方向内側に配置された断面ハット形状のルーフサイドレールインナパネル38とを備えており、ルーフサイドレールアウタパネル36とルーフサイドレールインナパネル38とで閉断面が形成されている。センタピラー14の上端部は、ルーフサイドレールアウタパネル36の車両幅方向外側に接合されている。
【0030】
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0031】
図4(A)に示されるように、軸方向上部が軸方向下部に対して車両幅方向内側に湾曲するような曲率を有するセンタピラー14の下部に、側面衝突時に車両幅方向外側(矢印C方向)から荷重が入力されると、センタピラー14の下部は車両幅方向内側へ倒れようとする。その際、図4(B)に示されるように、センタピラー14の閉断面内に設けられたリインフォース20に、矢印D方向に示すようにR形状が大きくなる(曲率が小さくなる)方向に変形させるような曲げモーメントが作用する。これによって、図5に示されるように、リインフォース20の両端部20Aに設けられた一対の延設部20Bが内側に倒れ込み(一対の延設部20Bが近くなる方向に変形し)、インナパネル18の内壁面の内側に設けられた壁部24Aに当たる。このため、リインフォース20の延設部20Bのそれ以上の変形(倒れ込み)が抑制され、リインフォース20の耐力の急激な低下を抑制することができる。
【0032】
一方、インナパネル18の内壁面の内側に壁部24Aを設けない場合には、図6(A)〜(C)に示されるようにリインフォース20に矢印D方向(図4参照)の曲げモーメントが作用すると、リインフォース20の両端部20Aに設けられた一対の延設部20Bが内側に倒れ込むように変形していく。図7には、リインフォース20の耐力Fとストロークとの関係(F−S曲線)が示されている。また、図6(A)は、図7中のリインフォース20のストロークが0のときであり、図6(B)は、図7中のリインフォース20のストロークがA〜Bの場合であり、図6(C)は、図7中のリインフォース20のストロークがBより大きい場合である。これらの図に示されるように、ストロークがA〜Bまでは、リインフォース20は略U字形状の断面の車両幅方向の寸法が大きくなる方向に変形するため、断面係数が大きく、耐力Fの低下は小さい。一方、ストロークがB以降では、リインフォース20は略U字形状の断面の車両幅方向の寸法が小さくなる方向に変形するため、断面係数が小さくなり、耐力Fが急激に低下する。
【0033】
これに対して、本実施形態では、図5に示されるように、リインフォース20の延設部20Bが内側に倒れ込んでいくのを抑制することができる。このため、図7中の曲線40に示されるように、リインフォース20の耐力Fの急激な低下を抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態では、インナパネル18の内壁面に設けた壁部24Aによりリインフォースの両端部20Aの倒れ込みを抑制することができるため、他に変形抑制部材を設ける必要がなく、低コスト化を図ることができると共に、重量増加を避けることができる。
また、リインフォース20を高張力鋼板で成形することができる。リインフォース20を高張力鋼板で成形することで、リインフォース20の延設部20Bがインナパネル18の壁部24Aに当たったときに変形が抑制される効果が一般鋼板に対して大きくなる。
【0035】
なお、本実施形態では、リインフォース20の延設部20Bの板厚方向の両側と対向する位置に壁部24A、24Bを設けたが、軸方向上部が軸方向下部に対して車両幅方向内側に湾曲するような曲率を有するリインフォース20に矢印D方向の曲げモーメントが作用すると、リインフォース20の一対の延設部20Bが略U字形状の断面の内側に倒れ込むように変形する。このため、延設部20Bの板厚方向の内側と対向する壁部24Aのみを設ける構成でもよい。
【0036】
また、本実施形態では、リインフォース20の延設部20Bが略直角方向に変形したところで壁部24Aに当たるように壁部24Aの位置を設定したが、本発明の効果を損なわない程度で、延設部20Bが多少内側に変形したところで壁部に当たるように壁部の位置を設定してもよい。
【0037】
〔第2実施形態〕
【0038】
以下、図8〜図12を用いて、本発明に係る車両補強構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0039】
図8には、車両補強構造が適用されたフロントサイドメンバの側面図が示されている。この図に示されるように、車両前部の車両幅方向における両サイドには、車両前後方向に沿って延在するフロントサイドメンバ50が設けられている。フロントサイドメンバ50の前部52は、エンジンルーム内に配設されており、フロントサイドメンバ50の後部54は、フロアパネル59の下面に沿って車両後方側へ延設されている。フロントサイドメンバ50の前部52と後部54は、上下方向にオフセットしており、フロントサイドメンバ50の前部52と後部54との間は、ダッシュパネル58の傾斜部58Aの下面に沿って、車両後側下方へ向かって傾斜しているキック部56となっている。また、フロントサイドメンバ50の前部52とキック部56の前端部56Aの下部には、フロントクロスメンバ60、62がそれぞれ設けられている。
【0040】
キック部56は軸方向(長手軸方向)に曲率を有しており、キック部56の前端部56Aは、軸方向前部から軸方向後部が上方側から下方側に略「く」の字状に湾曲するように形成されている。また、キック部56の後端部56Bは、軸方向前部から軸方向後部が上方側から下方側に前端部56Aと逆方向の略「く」の字状に湾曲するように形成されている。
【0041】
図9には、図8中のB−B線に沿う縦断面図が示されている。この図に示されるように、キック部56は、車両下方側(車両外側)に配置されたロアパネル64と、車両上方側(車両内側)に配置されたフロントフロアパネル66と、を備えている。ロアパネル64は、断面が略ハット形状に形成されており、車両幅方向の左右一対のフランジ部16Aがフロントフロアパネル66の左右一対の取付部66Aにスポット溶接されることにより、ロアパネル64とフロントフロアパネル66とで閉断面が形成されている。ロアパネル64の中間部64Bは、車両下方側に突出する略U字形状の断面を有している。
【0042】
キック部56の閉断面内には、軸方向にロアパネル64と略同一の曲率を有するリインフォース68が配設されている。リインフォース68は、車両下方側に突出する略U字形状の断面を有している。リインフォース68の両端部68Aには、フロントフロアパネル66の閉断面内の内壁面(車両下方側の内壁面)に近接する位置まで延設された延設部68Bが設けられている。フロントフロアパネル66の車両下方側の内壁面には、延設部68Bと対向する位置に、車両上方側に凹んだ凹部70が車両前後方向に沿って形成されている。凹部70は、リインフォース68の延設部68Bの板厚方向と対向する位置に、リインフォース68の略U字形状の断面の外側に形成された壁部70Aと、リインフォース68の略U字形状の断面の内側に形成された壁部70Bと、を備えている。さらに、凹部70は、延設部68Bの端面と対向する位置に、壁部70A及び壁部70Bと直交する方向に配置された底部70Cを備えている。壁部70Aと壁部70Bは略平面状であり、延設部68Bの車両幅方向の内側と外側に、車両前後方向に沿ってそれぞれ設けられている。
【0043】
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0044】
前突時などに車両前方側からフロントサイドメンバ50に荷重が入力されると、軸方向に曲率を有したキック部56が曲げモーメントを受けて変形しようとする。その際、キック部56の前端部56Aでは、軸方向前部から軸方向後部が上方側から下方側に略「く」の字状に湾曲するような曲率を有しているので、図10に示されるように、キック部56の内部に設けられたリインフォース68に、矢印Eに示すようにR形状が小さくなる(曲率が大きくなる)方向に変形させるような曲げモーメントが作用する。これによって、図9中の二点鎖線で示されるように、リインフォース68の両端部68Aに設けられた一対の延設部68Bが外側に倒れ込み(一対の延設部68Bが離れる方向に変形し)、フロントフロアパネル66の内壁面の外側に設けられた壁部70Aに当たる。このため、リインフォース68の延設部68Bのそれ以上の変形(倒れ込み)が抑制され、リインフォース68の耐力の急激な低下を抑制することができる。
【0045】
一方、フロントフロアパネル66の内壁面の外側に壁部70Aを設けない場合には、図11(A)及び(B)に示されるようにリインフォース68の両端部68Aに設けられた一対の延設部68Bが外側に倒れ込むように変形していく。このため、図12に示されるように、ストロークA以降でリインフォース68の耐力Fが急激に低下する。これに対して、本実施形態では、図9に示されるように、リインフォース68の延設部68Bが外側に倒れ込んでいくのを抑制することができ、リインフォース20の耐力Fの急激な低下を抑制することができる。
【0046】
また、キック部56の後端部56Bでは、軸方向前部から軸方向後部が上方側から下方側に前端部56Aと逆方向の略「く」の字状に湾曲するような曲率を有しているので、キック部56の内部に設けられたリインフォース68に、R形状が大きくなる(曲率が小さくなる)方向に変形させるような曲げモーメントが作用する(図4(B)を参照)。これによって、リインフォース68の両端部68Aに設けられた一対の延設部68Bが内側に倒れ込み(一対の延設部68Bが近くなる方向に変形し)、フロントフロアパネル66の内壁面の内側に設けられた壁部70Bに当たる。このため、リインフォース68の延設部68Bのそれ以上の変形(倒れ込み)が抑制され、リインフォース68の耐力の急激な低下を抑制することができる。すなわち、本実施形態では、キック部56の位置によって、リインフォース68の延設部68Bが逆方向に変形した場合でも、延設部68Bのそれ以上の変形(倒れ込み)を抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態では、フロントフロアパネル66の内壁面に設けた壁部70A、70Bによりリインフォースの両端部68Aの倒れ込みを抑制することができるため、他に変形抑制部材を設ける必要がなく、低コスト化を図ることができる。
また、リインフォース68を高張力鋼板で成形することができる。リインフォース68を高張力鋼板で成形することで、リインフォース68の延設部68Bがフロントフロアパネル66の壁部70A、70Bに当たったときに変形が抑制される効果が一般鋼板に対して大きくなる。
【0048】
〔実施形態の補足説明〕
【0049】
上述した各実施形態では、リインフォースの延設部の全体(軸方向)と対向する位置に壁部を設けたが、リインフォースの両端部の変形を抑制できる構成であれば、延設部の軸方向の少なくとも一部に壁部を設けてもよい。
【0050】
上述した各実施形態では、リインフォースの延設部と近接対向する位置に壁部を設けたが、延設部と当接するように壁部を設けてもよい。
【0051】
上述した第2実施形態では、フロントサイドメンバのキック部に本発明の車両補強構造を適用したが、これに限定されず、リアフロアサイドメンバにも本発明の車両補強構造を適用可能である。
なお、本発明の高張力鋼板は超高張力鋼板も含めた高張力鋼板である。リインフォースが高強度になるほど、一般鋼板に対して変形抑制効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1実施形態に係る車両補強構造で用いられるセンタピラーの全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示されるセンタピラーを示す斜視図である。
【図3】図2のA−A線に沿った横断面図である。
【図4】(A)は図3に示されるセンタピラーに側面衝突時に荷重が作用する方向を示す斜視図、(B)はリインフォースに作用する曲げモーメントの方向を示す斜視図である。
【図5】側面衝突時にリインフォースの延設部が変形した状態を示す横断面図である。
【図6】(A)〜(C)は、対比例に係るリインフォースの延設部が変形した状態を模式的に示す横断面図である。
【図7】対比例及び第1実施形態に係るリインフォースのF−S曲線を示すグラフである。
【図8】第2実施形態に係る車両補強構造で用いられるフロントサイドメンバのキック部の全体構成を示す斜視図である。
【図9】図2のA−A線に沿った縦断面図である。
【図10】前突時にキック部の前端部に荷重が作用したときに、リインフォースに作用する曲げモーメントの方向を示す斜視図である。
【図11】(A)及び(B)は、対比例に係るリインフォースの延設部が変形した状態を模式的に示す縦断面図である。
【図12】対比例に係るリインフォースのF−S曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
14 センタピラー
16 アウタパネル(第1パネル部材)
18 インナパネル(第2パネル部材)
20 リインフォース
20A 両端部
20B 延設部
24A 壁部
24B 壁部
50 フロントサイドメンバ
56 キック部
56A 前端部
56B 後端部
64 ロアパネル(第1パネル部材)
66 フロントフロアパネル(第2パネル部材)
68 リインフォース
68A 両端部
68B 延設部
70A 壁部
70B 壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手軸方向に曲率を有した車両外側の第1パネル部材と、前記第1パネル部材よりも車両内側に配置された第2パネル部材とで形成された閉断面内に、前記第1パネル部材と略同一曲率を有し前記第1パネル部材に接合されるリインフォースを設けた車両補強構造であって、
前記リインフォースは、略U字形状の断面からなり、その両端部が前記第2パネル部材の閉断面内の内壁面に当接又は近接する位置まで延設されることにより設けられた延設部を備え、
前記第2パネル部材の内壁面における前記延設部の板厚方向に対向する位置の少なくとも一部に、壁部が設けられていることを特徴とする車両補強構造。
【請求項2】
前記第1パネル部材がアウタパネルで、前記第2パネル部材がインナパネルであり、前記アウタパネルと前記インナパネルとで車両上下方向に沿って延在するピラーが構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両補強構造。
【請求項3】
前記第1パネル部材がロアパネルで、前記第2パネル部材がフロアパネルであり、前記ロアパネルと前記フロアパネルとで車両前後方向に沿って延在するサイドメンバのキック部が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両補強構造。
【請求項4】
前記壁部は、前記リインフォースの略U字形状の断面の内側に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両補強構造。
【請求項5】
前記壁部は、前記リインフォースの略U字形状の断面の外側に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両補強構造。
【請求項6】
前記リインフォースは高張力鋼板で成形されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の車両補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−143252(P2009−143252A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319352(P2007−319352)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】