説明

車体の前部構造

【課題】バンパーリインホースメントによって衝突荷重を確実に吸収することができる車体の前部構造を提供すること。
【解決手段】衝撃吸収部14を介してバンパーリインホースメント20とフロントサイドメンバ12とを連結し、バンパーリインホースメント20の前面に沿ってワイヤ22を張り、このワイヤ22を、衝撃吸収部14の後方でフロントサイドメンバ12と連結する。これにより、バンパーリインホースメント20の強度に加え、ワイヤ22の張力による強度が加わり、バンパーリインホースメント20の曲げ及び折れ等を発生の虞を低減することができる。また、衝突荷重を衝撃吸収部14の後方でフロントサイドメンバ12に伝達させることができるため、衝突荷重を衝撃吸収部14の軸方向に作用させることができ、衝撃吸収部が圧潰することで、衝突荷重を確実に吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の各種車両における車体の前部構造では、衝突時における衝撃を吸収するための構造が採用されている。この種の車体の前部構造としては、車両の前後方向に延在する一対のフロントサイドメンバの前端部を平面視においてYの字状に分岐させ、このYの字状の前端部によってバンパーリインホースメントを後方から支持する構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−211555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、近年にあっては、衝突荷重を吸収させることが望まれている。そして、上記特許文献1に記載の従来技術に比して、バンパーリインホースメントにおける衝突荷重を、より効率良く吸収させることが求められている。特許文献1に記載の従来技術では、例えば、上下方向に延在するポール等に衝突した場合に、バンパーリインホースメントの一部分に荷重が加わり、この部分でバンパーリインホースメントが湾曲してしまい、バンパーリインホースメントで受けることのできる衝突荷重が減少してしまう虞があった。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、バンパーリインホースメントによって衝突荷重を確実に吸収することができる車体の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車体の前部構造は、車両における車体の前部構造であって、車幅方向の両側に配置され車両の前後方向に延在する一対のフロントサイドメンバと、フロントサイドメンバの前端部に設けられ車両の前後方向における強度がフロントサイドメンバの強度に比して小さくされた衝撃吸収部と、車幅方向に延在し衝撃吸収部を介してフロントサイドメンバに連結されたバンパーリインホースメントと、バンパーリインホースメントの前面に沿って張られフロントサイドメンバに連結されたワイヤと、を備え、ワイヤは、衝撃吸収部の後方側でフロントサイドメンバに連結されていることを特徴としている。
【0006】
このような車体の前部構造では、衝撃吸収部を介してバンパーリインホースメントとフロントサイドメンバとが連結され、バンパーリインホースメントの前面に沿ってワイヤが張られ、このワイヤは、衝撃吸収部の後方側でフロントサイドメンバと連結されている。この構造によれば、バンパーリインホースメントの強度に加え、ワイヤの張力による強度が加わり、バンパーリインホースメントの曲げ及び折れ等を発生の虞を低減することができる。ワイヤに作用した荷重をワイヤの張力として分散させると共に、衝撃吸収部の後方側でフロントサイドメンバに伝達させることができるため、例えば、上下方向に延びるポール等に衝突してバンパーリインホースメントの1点に衝突荷重が作用した場合にあっても、ワイヤによって衝突荷重が分散され、バンパーリインホースメントに係る衝突荷重を低減することが可能となる。また、ワイヤが衝撃吸収部の後方側でフロントサイドメンバに結合されているため、衝突した際に、ワイヤの張力によって、衝撃吸収部に荷重を確実に作用させることができる。その結果、衝撃吸収部が圧潰することで確実に衝突荷重が吸収される。また、ワイヤは、圧縮に対しては反力を生じないため、オフセット衝突等の場合においてもフロントサイドメンバの横折れを誘発する虞が無い。なお、ワイヤの取り付け位置は、衝撃吸収部の後部側に直接取り付けても良く、衝撃吸収部の後方のフロントサイドメンバに取り付けても良く、衝撃吸収部とフロントサイドメンバとに挟まれた他の部材に取り付けても良い。
【0007】
ここで、上記作用を奏する好ましい構成としては、バンパーリインホースメントの前面側に設けられ、ワイヤの位置を案内する案内部が形成されている構成が挙げられる。これにより、ワイヤをバンパーリインホースメントの前面に沿って確実に配置させることができ、衝突荷重をワイヤの張力として確実に分散させることができる。
【0008】
また、バンパーリインホースメントは、車幅方向において、フロントサイドメンバより外方に突出する突出部を有し、ワイヤは、突出部の前面側を通り車幅方向における外側からフロントサイドメンバに連結されていることが好ましい。これにより、突出部を支点としてフロントサイドメンバにワイヤの張力を作用させることができ、衝撃吸収部に前後方向の荷重を確実に作用させることができる。その結果、衝撃吸収部を軸方向(前後方向)に圧潰させることで、衝撃荷重が確実に吸収される。
【0009】
また、突出部は、車両の前後方向の後方側へ屈曲形成されていることが好ましい。これにより、ワイヤを介して衝突荷重を一層確実に衝撃吸収部に作用させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車体の前部構造によれば、バンパーリインホースメントの前面に沿って張られたワイヤによって衝突荷重を分散させると共に衝撃吸収部に確実に荷重をかけることができるため、バンパーリインホースメントによって衝突荷重を確実に吸収することが可能な車体の前部構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の車体の前部構造による好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車体の前部構造を前方側から示す斜視図、図2は、図1に示す車体の前部構造の平面図、図3は、図1に示す車体の前部構造の正面図である。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、本明細書において、車両が直前進している際の前方方向を「前方」と定め、「前」「後」「左」「右」等の方向を表す語を用いることとする。
【0012】
図1〜図4に示す車体の前部構造10は、例えば乗用車(車両)等の車体の前部構造である。車体の前部における左右両側には、車体の前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバ12が設けられている。このフロントサイドメンバ12は断面ロ字状を成す中空部材によって構成されている。
【0013】
フロントサイドメンバ12の前端には、それぞれ断面ロ字状である中空のクラッシュボックス(座屈部材;衝撃吸収部)14が設けられている。このクラッシュボックス14は、断面ロ字状である中空の部材であって、フロントサイドメンバ12よりも座屈強度(軸圧縮荷重に対する耐力;前後方向における強度)が小さく設定されている。これらフロントサイドメンバ12とクラッシュボックス14とは、例えばフランジ16,18を介して図示しないボルトナット機構により連結されている。そして、クラッシュボックス14を介して一対のフロントサイドメンバ12の間に、バンパーリインホースメント20が横架されている。
【0014】
バンパーリインホースメント20は、車幅方向に延在し、クラッシュボックス14の前端に固定され、車幅方向において一対のフロントサイドメンバ12より外方に突出する突出部20aを有している。このバンパーリインホースメント20は、車幅方向の中央が前方側に張り出すように円弧状に湾曲し、突出部20aは斜め後方へ延びている。また、バンパーリインホースメント20の断面は開き断面とされ、バンパーリインホースメント20の前面を構成する前面壁20bには複数の開口部(案内部)20cが形成されている。
【0015】
この開口部20cは、後述するワイヤ22を挿通させるためのもので、バンパーリインホースメント20の略中央で車幅方向に所定間隔離間し、1本のワイヤ20に対して例えば2個設けられている。
【0016】
ここで、本実施形態の車体の前部構造10は、バンパーリインホースメント20の前面に沿って張られたワイヤ22を備え、このワイヤ22は、クラッシュボックス14の後方でフロントサイドメンバ12に連結されている。ワイヤ22は、張力のみを伝達できるひも状あるいは帯状のものであって、衝突荷重にある程度耐えうる素材であればいかなるものでもよい。
【0017】
このワイヤ22は、上下方向に離間して例えば2本設置され、バンパーリインホースメント20の形状に沿って車幅方向に延在している。バンパーリインホースメント20の前面に配置されたワイヤ22は、その一部が開口部20cに挿通されてバンパーリインホースメント20の前面壁20bの背面側に配置されている。また、ワイヤ22は、バンパーリインホースメント20の突出部20aの端部を経由して、フロントサイドメンバ12に連結されている。
【0018】
ワイヤ22の両端部には、ワイヤ22をクラッシュボックス14の後方でフロントサイドメンバ12に結合するための固定板24が設置されている。ワイヤ22と固定板24とは、例えば溶接等によって接合されている。固定板24は、上述したフランジ16,18によって前後方向から挟まれてボルトナット機構により連結されている。
【0019】
次に、このように構成された車体の前部構造10を備える乗用車が例えば道路標識等のポールPと車両の正面側で衝突した場合における衝撃吸収作用について説明する。図4は、図1に示す車体の前部構造を備える車両がポールと正面衝突した場合の状態を示す平面図である。
【0020】
図4に示すように、車両がポールPと衝突すると、バンパーリインホースメント20は、ポールPとの接触部を基点として後方側へ湾曲する。本実施形態の車体の前部構造10では、バンパーリインホースメント20の前面に沿って車幅方向にワイヤ22が張られているため、バンパーリインホースメント20の強度に加え、ワイヤ22の張力による強度が加わり、衝突荷重をワイヤ22の張力Tによって分散させることができる。これにより、バンパーリインホースメント20がポールPとの衝突箇所で折損する虞が低減される。そのため、バンパーリインホースメント20によって受けることのできる荷重の減少が抑制され、衝突による衝撃を十分に受け止めることが可能となる。
【0021】
また、ワイヤ22は、バンパーリインホースメント20の前面に沿って車幅方向に張られ、ワイヤ22の両端部は、クラッシュボックス14の後方で固定板24を介してフロントサイドメンバ14に連結されている。これにより、ポールPと衝突した際に、ワイヤ22は、ポールPとの接触部を起点として引っ張られる。そして、ワイヤ22による張力が伝達され、クラッシュボックス14は、バンパーリインホースメント20と固定板24によって挟まれ確実に衝突荷重を受けることができ、好適に軸方向(車両の前後方向)に圧潰される。このように、クラッシュボックス14が圧潰するため、衝突荷重を確実に吸収することができ、フロントサイドメンバ14が横折れする虞が低減される。
【0022】
また、バンパーリインホースメント20は、車幅方向において、フロントサイドメンバ12より外方に突出する突出部20aを有し、ワイヤ22は、突出部20aの前面側を通り車幅方向における外側からフロントサイドメンバ12に連結されているため、突出部20aを支点としてフロントサイドメンバ12にワイヤの張力を作用させることができ、クラッシュボックス14に前後方向の荷重を一層確実に作用させることができる。その結果、クラッシュボックス14が軸方向に圧潰することで、衝撃荷重が一層確実に吸収される。
【0023】
また、突出部20aは、車両の後方側へ屈曲形成されていることが好ましい。これにより、ワイヤ22を介して衝突荷重を一層確実にクラッシュボックス14に作用させることができる。
【0024】
また、バンパーリインホースメント20は、前面壁20bに開口部20cが形成され、この開口部20cにワイヤ22を挿通することで、ワイヤ22の位置を案内することができる。これにより、ワイヤ22をバンパーリインホースメント20の前面に沿って確実に配置させることができるため、衝突荷重をワイヤ22の張力として確実に分散させることができる。
【0025】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態において、ワイヤ22の位置を案内する案内部として、開口部20cが形成されたバンパーリインホースメント20としているが、案内部はワイヤ22をバンパーリインホースメント20の前面に拘束できる構成であれば、その他の構成でも良く、例えば、ワイヤの位置を案内する溝や、ワイヤの移動を拘束する係止爪を備えるバンパーリインホースメントとしても良い。
【0026】
また、上記実施形態において、ワイヤ22は固定板24を介して、フロントサイドメンバ12に連結されているが、ワイヤ22を直接フロントサイドメンバ12に連結してもよい。また、クラッシュボックス14とフロントサイドメンバ12との間に配置された他の部材(例えばラジエータサポート等)を介して、ワイヤ22をフロントサイドメンバ12に連結してもよい。また、ワイヤ22をクラッシュボックス14の後部に直接固定しても良い。要は、バンパーリインホースメント20の前面に沿って張られたワイヤ22をクラッシュボックス14の後方側でフロントサイドメンバ12に連結する構成であれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る車体の前部構造を前方側から示す斜視図である。
【図2】図1に示す車体の前部構造の平面図である。
【図3】図1に示す車体の前部構造の正面図である。
【図4】図1に示す車体の前部構造を備える車両がポールと正面衝突した場合の状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0028】
10…車体の前部構造、12…フロントサイドメンバ、14…クラッシュボックス(衝撃吸収部)、20…バンパーリインホースメント、20a…突出部、20b…前面壁、20c…開口部、22…ワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車体の前部構造であって、
車幅方向の両側に配置され前記車両の前後方向に延在する一対のフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバの前端部に設けられ前記車両の前後方向における強度が前記フロントサイドメンバの強度に比して小さくされた衝撃吸収部と、
車幅方向に延在し前記衝撃吸収部を介して前記フロントサイドメンバに連結されたバンパーリインホースメントと、
前記バンパーリインホースメントの前面に沿って張られ前記フロントサイドメンバに連結されたワイヤと、を備え、
前記ワイヤは、前記衝撃吸収部の後方側で前記フロントサイドメンバに連結されていることを特徴とする車体の前部構造。
【請求項2】
前記バンパーリインホースメントの前面側に設けられ、前記ワイヤの位置を案内する案内部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の車体の前部構造。
【請求項3】
前記バンパーリインホースメントは、車幅方向において、前記フロントサイドメンバより外方に突出する突出部を有し、
前記ワイヤは、突出部の前面側を通り車幅方向における外側から前記フロントサイドメンバに連結されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車体の前部構造。
【請求項4】
前記突出部は、前記車両の前後方向の後方側へ屈曲形成されていることを特徴とする請求項3記載の車体の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−302200(P2007−302200A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135386(P2006−135386)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】