説明

車体前部構造

【課題】前方から作用したエネルギーが小さい場合のリペアビリティと、エネルギーが大きい場合のエネルギー吸収性を両立した車体前部構造を得る。
【解決手段】サイドレール22の前端から延出された取付板部24は、サイドレール22の本体部分30の前端部30Tとクロスメンバ20との間に所定の隙間S1が構成されるように、車両前後方向の長さが決められている。さらに、取付板部24は、クロスメンバ20に車両前方側から外力(荷重)が作用した場合には、サイドレール22の本体部分30が座屈するよりも前に変形して隙間S1を解消するように、その強度が設定されている。車両前方から作用した外力が小さい場合には、隙間S1が解消されるように取付板部24のみが変形するので、リペアビリティが向上する。外力が大きい場合は、本体部分30及びフロントサイドメンバ14の変形で確実にエネルギー吸収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造では、衝撃を効果的に吸収可能な各種の構造が提案されている。たとえば特許文献1には、上部縦通材の下方に下部縦通材を支持させると共に、下部縦通材に縮率の異なる部分を設け、さらに上部縦通材とバンパとの間に衝撃吸収材を設けた自動車が記載されている。
【0003】
ところで、車体前部構造では、前方から作用したエネルギーが小さい場合のリペアビリティ(修理のしやすさ)と、このエネルギーが大きい場合のエネルギー吸収性の両立が求められている。
【特許文献1】特表2003−513856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、前方から作用したエネルギーが小さい場合のリペアビリティと、エネルギーが大きい場合のエネルギー吸収性を両立した車体前部構造を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明では、車体前部において車両前後方向に延在する一対のフロントサイドメンバと、前記フロントサイドメンバのそれぞれの前部から下方に延出される一対の連結部材と、前記一対の連結部材を車幅方向に連結するクロスメンバと、前記一対のフロントサイドメンバのそれぞれの下方に配置される一対のサイドレールと、前記一対のサイドレールのそれぞれの後方に配置され、サイドレールの後部が連結されたサスペンションメンバと、前記サイドレールに設けられ、サイドレールの前部と前記クロスメンバとの間に隙間を生じさせてサイドレールをクロスメンバに連結すると共に前方から作用した外力によってこの隙間が解消されるように変形する連結部と、前記サイドレールに設けられ、サイドレール座屈時に少なくとも一部が前記フロントサイドメンバから離間する方向へ移動するように変形を誘発する誘発部と、を有することを特徴とする。
【0006】
したがって、この車体前部構造に前方から作用した外力(衝撃)によって、サイドレールの前部とクロスメンバとの隙間が解消されるように連結部が変形する。この変形によって、エネルギー吸収でき、サイドレール以外の部材の変形を防止できる。したがって、修理にあたってはサイドレールのみを交換すればよく、リペアビリティが向上する。
【0007】
そして、サイドレール前部とクロスメンバとの隙間が解消された後サイドレールが座屈し、この外力はさらにフロントサイドメンバ等に及び、フロントサイドメンバの変形等でエネルギー吸収できる。
【0008】
しかも、サイドレールに設けられた誘発部により、サイドレールは座屈時に少なくとも一部がフロントサイドメンバから離間する方向へ移動する。これにより、サイドレール全体がフロントサイドメンバに接近したときに生じる不具合を防止できる。たとえば、エンジンユニットをフロントサイドメンバ側(車室側)へと移動させないようにすることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記連結部が、前記サイドレールから延出された1つの面によってサイドレールを前記クロスメンバに連結する一面連結部、とされていることを特徴とする。
【0010】
このように、一面連結部によってサイドレールをクロスメンバに連結することで、簡単な構造で連結部を変形させることが可能になる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記サイドレールが、前記連結部においてボルトによって前記クロスメンバに連結されていることを特徴とする。
【0012】
これにより、サイドメンバの交換が容易になるので、リペアビリティがさらに向上する。
【0013】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記連結部材又は前記クロスメンバの一部が、前記フロントサイドメンバよりも車両前方側に位置していることを特徴とする。
【0014】
すなわち、このような簡単な構造で、車両前方からの荷重を、連結部材又はクロスメンバを介して、まずクロスメンバに作用させて、連結部を確実に変形させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成としたので、前方から作用したエネルギーが小さい場合のリペアビリティと、エネルギーが大きい場合のエネルギー吸収性を両立できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1(A)には、本発明の一実施形態に係る車体前部構造12の全体構成が示されている。また、図1(B)には、この車体前部構造12が部分的に拡大して示されている。なお、各図面において、車両前方を矢印FRで、車両上方を矢印UPでそれぞれ示す。
【0017】
車体前部構造12は、車体の前部において、車両前後方向に延在する一対のフロントサイドメンバ14を有している。フロントサイドメンバ14は、車幅方向に所定間隔で配置されている。フロントサイドメンバ14は、車両前方側から所定値以上の大きな外力(荷重)が作用すると、図4(A)に示すように変形して、エネルギー吸収する作用を有している。
【0018】
フロントサイドメンバ14のそれぞれの前端部14Tには、連結部材16が溶接等により固着されている。連結部材16は、フロントサイドメンバ14の前端部14Tから下方に向けて延出されている。
【0019】
連結部材16の下端部16Bの前方側の部位は、フロントサイドメンバ14の前端部14Tよりも前方側に位置する前出部18とされている。
【0020】
連結部材16の下端には、溶接等によってクロスメンバ20が固着されている。クロスメンバ20は、連結部材16を車幅方向で連結している。
【0021】
フロントサイドメンバ14のそれぞれに対応して、その下方には一対のサイドレール22が配置されている。サイドレール22の前端からは、板状の取付板部24が前方に向かって延出されている。図2にも詳細に示すように、取付板部24には1又は複数(本実施形態では車幅方向に間隔をあけて2つ)のネジ孔26が形成されている。そして、ボルト28によって、クロスメンバ20に連結されており、いわゆる一面締結となっている。
【0022】
また、取付板部24は、サイドレール22の本体部分30(取付板部24以外の部分)の前端部30Tとクロスメンバ20との間に所定の隙間S1が構成されるように、車両前後方向の長さが決められている。
【0023】
さらに、取付板部24は、クロスメンバ20に車両前方側から外力(荷重)が作用した場合には、サイドレール22の本体部分30が座屈するよりも前に、すなわちサイドレール22の本体部分30の座屈に要する力よりも小さな車両前後方向への入力で変形して隙間S1を解消するように、その強度が設定されている(図3(B)及び図4(B)参照)。
【0024】
サイドレール22の本体部分30は、車両前後方向の外力によって取付板部24が上記変形をした後、さらに座屈する。そして本体部分30には、この座屈の際に、フロントサイドメンバ14から離間する方向、すなわち下方へと少なくとも一部が移動するような変形を誘発する誘発部32が形成されている。このような誘発部32の具体的構成としては、サイドレール22の上部に局所的な切り込みを入れたり、サイドレール22を局所的に薄肉としたりする構成が挙げられる。
【0025】
サイドレール22の後方にはサスペンションメンバ34が配置され、図示しないボルト等によって、サイドレール22の後端部分に固定されている。
【0026】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0027】
通常状態、すなわち車両前方から外力(衝撃)が作用していないときには、図1(A)及び(B)に示すように、取付板部24は変形しておらず、隙間S1も維持されている。また、サイドレール22及びフロントサイドメンバ14も変形していない。
【0028】
車両前方から外力が作用すると、連結部材16の下端部16Bの前出部18は、フロントサイドメンバ14の前端部14Tよりも前方に位置しているので、まず、この前出部18に作用する。
【0029】
ここで、外力が小さい場合には、すなわち、サイドレール22の本体部分30を座屈させる程度ではない外力の場合には、図3(A)及び(B)に示すように、隙間S1が解消される(もしくは短くなる)ように取付板部24が変形し、これによってエネルギー吸収する。このように取付板部24の変形でエネルギー吸収することで、フロントサイドメンバ14や、連結部材16、クロスメンバ20には荷重が作用しなくなる。したがって、外力作用後に車体前部構造を修理する場合に、サイドレール22を交換するだけで済むので、フロントサイドメンバ14まで交換が必要な構成と比較して、リペアビリティが向上している。
【0030】
外力が大きい場合、すなわち、サイドレール22の本体部分30を座屈させてしまう程度の場合には、図4(A)及び(B)に示すように、取付板部24の変形後に、本体部分30が座屈し、フロントサイドメンバ14も変形する。このように、取付板部24に加えて、サイドレール22及びフロントサイドメンバ14を変形させることで、大きなエネルギーであっても確実に吸収できる。
【0031】
また、本実施形態では、サイドレール22に誘発部32を形成し、サイドレール22の座屈時に、この部分においてサイドレール22を部分的に下方に移動させるようにしている。取付板部24の変形によっては、サイドレール22の本体部分30の前端近傍は上方へと変位するように座屈することが多いが、この場合であっても、誘発部32の近傍は確実に下方へ移動する。そして、これにより、座屈したサイドレール22が、車体前部の他部材を車室内へと押圧してしまうことを防止できる。たとえば、車体前部にはエンジンユニットが配置されることが多いが、このエンジンユニットの配設位置と誘発部32の位置とを対応させることで、座屈したサイドレール22によってエンジンユニットを上方へと押圧してしまうことを防止し、確実に下方移動させることが可能となる。
【0032】
なお、上記では、本発明の連結部として、1つの面で構成された取付板部24による、いわゆる一面締結の構造を例に挙げたが、外力が小さい場合に隙間S1を解消するように変形可能であれば、本発明の連結部はこのような一面締結に限定されない。ただし、以下の理由から一面締結が好ましい。
【0033】
図5(B)には、本実施形態のような一面締結の場合での、サイドレール22の変形のストローク(S)と荷重(F)との関係が示されている。また、図5(A)には、このような一面締結ではなく、サイドレール22の本体部分30の前端部30T(図2参照)が全面的に、すなわち隙間S1を生じることなくクロスメンバ20に固着された構造(以下、これを「多面締結」とする)での、変形のストロークと荷重との関係が示されている。これらのグラフでは、サイドレール22の4つの稜線R(図3では3本のみ示す)に着目し、これら稜線Rの1本あたりの荷重を基準値fとしている。
【0034】
多面締結の場合には、図5(A)から分かるように、稜線Rの1本あたりの荷重fが4つの稜線Rで単純に加算され、全体として4fの荷重が作用している。
【0035】
これに対し、一面締結の場合には、図5(B)に示すように、取付板部24に対応する下側の稜線R1で荷重fが作用し、下側の稜線R1は2本なのでこれらが加算されて2fとなっている(一点鎖線で示す曲線を参照)。そして、変形途中から、上側の稜線R2に対応して荷重fが作用し、これも、2本の稜線で加算されて、2fとなっている(二点鎖線で示す曲線を参照)。これらの荷重は、時間的なズレをもって生じているので、4本の稜線Rで考えると、そのピークは、多面締結の場合のピークである4fよりも小さくなっている。
【0036】
そして、外力が小さい場合は、取付板部24のみの変形、すなわち、図5(B)のグラフにおいて斜線を付した部分のみの荷重によるので、エネルギー吸収が容易になる。
【0037】
また、外力が大きい場合は、上記したように、稜線R1と稜線R2とで座屈するタイミングは異なるが、座屈に要する荷重は変わらないので、多面締結と比較して、全体での吸収可能なエネルギー量にはほとんど差が無くなる。
【0038】
このように、一面締結の構造では、多面締結の構造と比較して、外力が小さい場合のエネルギー吸収が容易であるだけでなく、多面締結と同程度のエネルギー吸収量をより小さな荷重で得られるので、好ましい。
【0039】
なお、取付板部24によってサイドレール22をクロスメンバ20に取り付ける構造として、上記ではボルト28による締結構造を挙げたが、確実に取り付け可能であればボルト28に限定されず、たとえば溶接や接着であってもよい。ただし、溶接や接着では、ボルト28による締結と比較して、サイドレール22のクロスメンバ20からの取り外しや取り付けが困難になる。この点で、ボルト28による締結構造は、取り外し及び取り付けが容易なので好ましい。
【0040】
隙間S1の長さも特に限定されるものではないが、この隙間S1の長さを適切に設定することで、取付板部24の変形によって吸収するエネルギー量、換言すれば変形時の荷重曲線を自由に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態の車体前部構造を変形前の状態で概略的に示す側面図であり、(A)は全体図、(B)は部分拡大図である。
【図2】本発明の一実施形態の車体前部構造を構成するサイドレールの前部を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態の車体前部構造を隙間が解消された状態で概略的に示す側面図であり、(A)は全体図、(B)は部分拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態の車体前部構造をサイドレール及びフロントサイドメンバが変形した状態で概略的に示す側面図であり、(A)は全体図、(B)は部分拡大図である。
【図5】サイドレールの変形のストロークと荷重との関係を示すグラフであり、(A)は多面締結の場合、(B)は一面締結の場合である。
【符号の説明】
【0042】
12 車体前部構造
14 フロントサイドメンバ
14T 前端部
16 連結部材
16B 下端部
18 前出部
20 クロスメンバ
22 サイドレール
24 取付板部
26 ネジ孔
28 ボルト
30 本体部分
30T 前端部
32 誘発部
34 サスペンションメンバ
R 稜線
R1 稜線
R2 稜線
S1 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部において車両前後方向に延在する一対のフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバのそれぞれの前部から下方に延出される一対の連結部材と、
前記一対の連結部材を車幅方向に連結するクロスメンバと、
前記一対のフロントサイドメンバのそれぞれの下方に配置される一対のサイドレールと、
前記一対のサイドレールのそれぞれの後方に配置され、サイドレールの後部が連結されたサスペンションメンバと、
前記サイドレールに設けられ、サイドレールの前部と前記クロスメンバとの間に隙間を生じさせてサイドレールをクロスメンバに連結すると共に前方から作用した外力によってこの隙間が解消されるように変形する連結部と、
前記サイドレールに設けられ、サイドレール座屈時に少なくとも一部が前記フロントサイドメンバから離間する方向へ移動するように変形を誘発する誘発部と、
を有することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記連結部が、
前記サイドレールから延出された1つの面によってサイドレールを前記クロスメンバに連結する一面連結部、
とされていることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記サイドレールが、前記連結部においてボルトによって前記クロスメンバに連結されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記連結部材又は前記クロスメンバの一部が、前記フロントサイドメンバよりも車両前方側に位置していることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−131135(P2007−131135A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325841(P2005−325841)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】