説明

車体前部構造

【課題】前突時にフロントサイドメンバの変形モードを安定させることができる車体前部構造を得る。
【解決手段】互いに連接されるクラッシュボックス座部22とフロントサイドメンバ座部16とは、それぞれ車幅方向内側が車幅方向外側よりも車体前後方向の前側に配設されており、車体前後方向に段差を有している。これによって、前突時には、フロントサイドメンバ12の車幅方向内側への入力荷重を車幅方向外側への入力荷重に比べて常に大きくすることができるので、変形モードを安定させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサイドメンバの前端部にクラッシュボックスが連結された車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部においては、前突時(前面衝突時)の衝撃を吸収するために、クラッシュボックスを配設している場合がある(例えば、特許文献1参照)。このような構造では、フロントサイドメンバの前端座部にクラッシュボックスの座部を連結しており、クラッシュボックスの座部は、クラッシュボックスの外周壁部と直交した構成となっている。
【0003】
しかし、前突時における車両前端部の各部位への入力荷重の大小関係は、その都度ばらつきがあるため、従来の車体前部構造では、フロントサイドメンバへの入力がその都度ばらつくことになり、その結果、フロントサイドメンバの変形モードが安定しない。
【特許文献1】特開2002−12109公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、前突時にフロントサイドメンバの変形モードを安定させることができる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載する本発明の車体前部構造は、車体の前端部に車両幅方向に延在するフロントバンパリインフォースと、前記フロントバンパリインフォースの車体後方側に車体前後方向に沿って配設された左右一対のフロントサイドメンバと、前記フロントサイドメンバの前端部と前記フロントバンパリインフォースとの間に車体前後方向を軸方向として介在され、前記フロントサイドメンバよりも軸圧縮荷重に対する耐力が低いクラッシュボックスと、前記クラッシュボックスの軸圧縮変形時に車両正面視における前記フロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重を他方の片側への入力荷重に比べて大きくする荷重制御手段と、を有することを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載する本発明の車体前部構造によれば、クラッシュボックスは、フロントサイドメンバよりも軸圧縮荷重に対する耐力が低いので、前突時にフロントバンパリインフォースを介してクラッシュボックスに所定値以上の軸圧縮荷重が入力されると、クラッシュボックスは、軸圧縮変形して衝突エネルギーを吸収する。ここで、クラッシュボックスの軸圧縮変形時には、荷重制御手段が、車両正面視におけるフロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重を他方の片側への入力荷重に比べて大きくするので、クラッシュボックスを介したフロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重と他方の片側への入力荷重との大小関係をコントロールすることができる。
【0007】
請求項2に記載する本発明の車体前部構造は、請求項1記載の構成において、互いに連接される前記クラッシュボックスの後端部と前記フロントサイドメンバの前端部とは、それぞれ車両正面視における一方の片側が他方の片側よりも車体前後方向の前側に配設されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載する本発明の車体前部構造によれば、互いに連接されるクラッシュボックスの後端部とフロントサイドメンバの前端部とは、それぞれ車両正面視における一方の片側が他方の片側よりも車体前後方向の前側に配設されているので、前突時に車両正面視におけるクラッシュボックスの一方の片側が潰れきって衝突エネルギーを吸収できない状態になっても、クラッシュボックスの他方の片側には潰れ残り代があり、この潰れ残り代の分だけ衝突エネルギーを吸収することができる。これによって、車両正面視におけるフロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重を他方の片側への入力荷重に比べて大きくすることができる。
【0009】
請求項3に記載する本発明の車体前部構造は、請求項2記載の構成において、前記クラッシュボックスの後端部と前記フロントサイドメンバの前端部とは、車体前後方向に段差を有し、前記クラッシュボックスの後端部と前記フロントサイドメンバの前端部とを締結する締結部が、車両正面視における一方の片側及び他方の片側に設けられることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載する本発明の車体前部構造によれば、クラッシュボックスの後端部とフロントサイドメンバの前端部とが、車体前後方向に段差を有しており、クラッシュボックスの後端部とフロントサイドメンバの前端部とを締結する締結部が、車両正面視における一方の片側及び他方の片側に設けられているので、クラッシュボックスの一方の片側が潰れきった段階では、クラッシュボックスの一方の片側の潰れ部分が締結部側に当って大きな荷重がフロントサイドメンバに入力されるが、他方の片側は、潰れ部分が締結部側に当っていないので、フロントサイドメンバにこのような大きな荷重が入力されない。これによって、比較的容易な設計で、車両正面視におけるフロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重を他方の片側への入力荷重に比べて大きくすることができる。
【0011】
請求項4に記載する本発明の車体前部構造は、請求項1から3のいずれか一項に記載の構成において、前記フロントサイドメンバには、車両正面視における一方の片側に設けられる外周壁面部に座屈のきっかけとなる弱化部が設けられることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載する本発明の車体前部構造によれば、フロントサイドメンバには、車両正面視における一方の片側に設けられる外周壁面部に座屈のきっかけとなる弱化部が設けられているので、前突時には、この弱化部を座屈のきっかけとしてフロントサイドメンバが座屈する。これによって、フロントサイドメンバの座屈位置が一定となる。
【0013】
請求項5に記載する本発明の車体前部構造は、請求項1から4のいずれか一項に記載の構成において、前記クラッシュボックスの軸圧縮変形時に前記荷重制御手段が前記フロントサイドメンバの車幅方向内側への入力荷重を車幅方向外側への入力荷重に比べて大きくして前記フロントサイドメンバを車幅方向外側へ座屈させることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載する本発明の車体前部構造によれば、前突によるクラッシュボックスの軸圧縮変形時には、荷重制御手段がフロントサイドメンバの車幅方向内側への入力荷重を車幅方向外側への入力荷重に比べて大きくしてフロントサイドメンバを車幅方向外側へ座屈させる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車体前部構造によれば、前突時にクラッシュボックスを介したフロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重と他方の片側への入力荷重との大小関係をコントロールすることで、フロントサイドメンバの変形モードを安定させる(コントロールする)ことができるという優れた効果を有する。
【0016】
請求項2に記載の車体前部構造によれば、前突時にクラッシュボックスを介したフロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重と他方の片側への入力荷重との大小関係を容易にコントロールすることができるという優れた効果を有する。
【0017】
請求項3に記載の車体前部構造によれば、フロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重と他方の片側への入力荷重との大小関係の設定を比較的容易な設計で実現できるという優れた効果を有する。
【0018】
請求項4に記載の車体前部構造によれば、弱化部を設けることで、フロントサイドメンバの座屈位置を一定にコントロールすることができ、また、弱化部をフロントサイドメンバの稜線部でなく外周壁面部に設けることで、フロントサイドメンバの軸圧縮荷重に対する耐力への影響を小さくすることができるという優れた効果を有する。
【0019】
請求項5に記載の車体前部構造によれば、荷重制御手段を設けることで、前突時にフロントサイドメンバを確実に車幅方向外側へ座屈させることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1実施形態]
本発明における車体前部構造の第1の実施形態を図面に基づき説明する。なお、図中の矢印UPは車体の上方向、矢印FRは車体の前方向、矢印INは車幅方向内側をそれぞれ示す。
【0021】
図1の車体前部に示されるように、車体10の前端部には、フロントバンパリインフォース24が車両幅方向に延在しており、このフロントバンパリインフォース24は、閉断面構造又は開断面構造とされている。フロントバンパリインフォース24の車体後方側には、車体前後方向に沿って骨格部材である左右一対のフロントサイドメンバ12が配設されている。フロントサイドメンバ12の前端部(詳細後述するフロントサイドメンバ座部16)とフロントバンパリインフォース24との間には、衝撃吸収部材として機能するクラッシュボックス18が介在されている。クラッシュボックス18は、車体前後方向を軸方向(矢印18X参照)としており、フロントサイドメンバ12よりも軸圧縮荷重に対する耐力が低く設定されている。
【0022】
図2に示されるフロントサイドメンバ12は、断面矩形状の閉断面構造とされており、中空矩形断面の筒状に形成されたフロントサイドメンバ本体部14と、このフロントサイドメンバ本体部14の前端開口部を閉塞する(フロントサイドメンバ12の)前端部としてのフロントサイドメンバ座部16とを備えており、フロントサイドメンバ座部16は、略矩形の段差板状とされている。フロントサイドメンバ本体部14及びフロントサイドメンバ座部16は、フロントサイドメンバ座部16にフロントサイドメンバ本体部14の前端開口部が突き当てられて溶接等で結合されている。なお、フロントサイドメンバ本体部14は、各々断面ハット形状とされたフロントサイドメンバインナパネルとフロントサイドメンバアウタパネルとを合わせて両者のフランジ部同士をスポット溶接等で結合することにより形成されている。
【0023】
フロントサイドメンバ座部16は、フロントサイドメンバ本体部14の前端開口部を閉塞する部分となる中央部(図示省略)と、フロントサイドメンバ本体部14の閉断面部の外方へ向けて延在したフランジ部16Aを備えている。フランジ部16Aは、ボルト28A、28B等の締結具による締結用とされ、フランジ部16Aの車幅方向両側寄りには、それぞれ上下2個のボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成されている。
【0024】
クラッシュボックス18は、鉄、アルミニウム等の金属材料で構成されており、フロントサイドメンバ12よりも短い中空矩形断面の筒状に形成されたクラッシュボックス本体部20と、このクラッシュボックス本体部20の後端開口部を閉塞する(クラッシュボックス18の)後端部としてのクラッシュボックス座部22とを備えており、クラッシュボックス座部22は、略矩形の段差板状とされている。クラッシュボックス本体部20及びクラッシュボックス座部22は、クラッシュボックス座部22にクラッシュボックス本体部20の後端開口部が突き当てられて溶接等で結合されている。
【0025】
クラッシュボックス本体部20における外周壁部20Aは、板厚が均一となっている。外周壁部20Aには、クラッシュボックス18の長手方向(車体前後方向)に直交する向きにビード20B(潰れビード)が複数本形成されており、ビード20Bによって圧壊(軸圧縮変形)が誘発されるようになっている。ビード20Bは、上下左右の各外周壁部20Aに同様に形成されている。なお、クラッシュボックス本体部20が鋼板からなる場合、クラッシュボックス本体部20は、クラッシュボックスインナパネルとクラッシュボックスアウタパネルとを合わせて両者のフランジ部同士をスポット溶接等で結合することにより形成されている。
【0026】
クラッシュボックス座部22は、クラッシュボックス本体部20の後端開口部を閉塞する部分となる中央部(図示省略)と、クラッシュボックス本体部20の閉断面部の外方へ向けて延在したフランジ部22Aを備えている。フランジ部22Aは、ボルト28A、28B等の締結具による締結用とされ、フランジ部22Aの車幅方向両側寄りには、それぞれ上下2個のボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成されている。
【0027】
互いに連接されるクラッシュボックス座部22とフロントサイドメンバ座部16とは、それぞれ車幅方向内側(車両正面視における一方の片側)が車幅方向外側(車両正面視における他方の片側)よりも車体前後方向の前側に配設されており、車体前後方向に段差を有している。
【0028】
クラッシュボックス18の後端部に形成されたフランジ部22Aのボルト挿通孔(図示省略)、及び、フロントサイドメンバ12の前端部に形成されたフランジ部16Aにおけるボルト挿通孔(図示省略)には、車体前方側からボルト28A、28Bが挿通されており、各ボルト28A、28Bの先端部には、車体後方側からナット30A、30B(図1参照)が螺合されている。すなわち、クラッシュボックス座部22とフロントサイドメンバ座部16とを締結する締結部26は、車幅方向内側及び車幅方向外側に設けられており、締結部26の位置は、車幅方向内側と車幅方向外側とで、車体前後方向にずれた状態(クラッシュボックス18の軸方向(矢印18X方向)に垂直な同一平面内にはない状態)になっている。このように、クラッシュボックス18とフロントサイドメンバ12とをボルト締結することで、軽衝突した場合等におけるクラッシュボックス18の交換を容易にしている(リペアビリティ性能向上)。なお、ボルト締結を容易にするために、フランジ部22A、16Aは、車幅方向両側部分が、クラッシュボックス18の軸方向(矢印18X方向)に対して板面が垂直な向きに配置されている。
【0029】
ボルト締結状態では、クラッシュボックス座部22とフロントサイドメンバ座部16とは、ほぼ隙間なく重ね合わせられ、クラッシュボックス本体部20の後端開口部とフロントサイドメンバ本体部14の前端開口部とは、対向位置に配置されるようになっている。また、クラッシュボックス本体部20の車幅方向内側の一対の第1稜線部32Aは、車幅方向外側の一対の第2稜線部32Bに比べて短くなっていると共に、フロントサイドメンバ本体部14の車幅方向内側の一対の第1稜線部36Aは、車幅方向外側の一対の第2稜線部36Bに比べて長くなっている。
【0030】
クラッシュボックス座部22及びフロントサイドメンバ座部16を含むクラッシュボックス18とフロントサイドメンバ12との連接段差構造50は、本実施形態における荷重制御手段とされており、クラッシュボックス18におけるクラッシュボックス本体部20の軸圧縮変形時にフロントサイドメンバ12の車幅方向内側(車両正面視におけるフロントサイドメンバ12の一方の片側)への入力荷重を車幅方向外側(車両正面視におけるフロントサイドメンバ12の他方の片側)への入力荷重に比べて大きくしてフロントサイドメンバ12におけるフロントサイドメンバ本体部14を車幅方向外側へ座屈させるようになっている。
【0031】
フロントサイドメンバ12におけるフロントサイドメンバ本体部14には、車幅方向内側(車両正面視における一方の片側)に設けられる外周壁面部14Aに座屈のきっかけとなる弱化部としてのクラッシュビード14Bが設けられている。クラッシュビード14Bは、凹状の脆弱部分とされ、フロントサイドメンバ12を座屈させたい位置に形成されている。これによって、所定値以上の軸圧縮荷重が入力された状態では、フロントサイドメンバ本体部14は、クラッシュビード14Bが形成された部分が凹むように車幅方向外側へ(外折れモードで)座屈するようになっている(図3(B)参照)。
【0032】
(作用・効果)
次に、上記実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0033】
クラッシュボックス本体部20は、フロントサイドメンバ本体部14よりも軸圧縮荷重に対する耐力が低いので、図3(A)に示されるように、前突時に衝突相手側38からフロントバンパリインフォース24を介してクラッシュボックス18に所定値以上の軸圧縮荷重Fが入力されると、クラッシュボックス本体部20は、軸圧縮変形して衝突エネルギーを吸収する。
【0034】
ここで、互いに連接されるクラッシュボックス座部22とフロントサイドメンバ座部16とは、車幅方向内側が車幅方向外側よりも車体前後方向の前側に配設されているので、クラッシュボックス本体部20の軸圧縮変形時には、図3(A)に示されるように、クラッシュボックス本体部20の車幅方向内側が潰れきって衝突エネルギーを吸収できない状態になっても、クラッシュボックス本体部20の車幅方向外側には潰れ残り代20Lがあり、この潰れ残り代20Lの分だけ衝突エネルギーを吸収することができる。このため、フロントサイドメンバ12の車幅方向内側における発生荷重が常に高くなる。
【0035】
また、クラッシュボックス座部22とフロントサイドメンバ座部16とが、車体前後方向に段差を有しており、クラッシュボックス座部22とフロントサイドメンバ座部16とを締結する締結部26が、車幅方向内側及び車幅方向外側に設けられているので、クラッシュボックス本体部20の車幅方向内側が潰れきった段階では、クラッシュボックス本体部20の車幅方向内側の潰れ部分が締結部26のボルト28Aに当って大きな荷重がフロントサイドメンバ12の車幅方向内側に入力されるが、クラッシュボックス本体部20の車幅方向外側は、潰れ部分が締結部26のボルト28Bに当っていないので、フロントサイドメンバ12の車幅方向外側には、このような大きな荷重が入力されない。
【0036】
これらによって、クラッシュボックス本体部20の軸圧縮変形時には、衝突の向き等に影響されることなく、連接段差構造50が、フロントサイドメンバ12の車幅方向内側への入力荷重をフロントサイドメンバ12の車幅方向外側への入力荷重に比べて常に大きくするので、クラッシュボックス18を介したフロントサイドメンバ12の車幅方向内側への入力荷重と車幅方向外側への入力荷重との大小関係をコントロールすること(安定して入力差を出すこと)ができる。
【0037】
補足すると、前突時におけるフロントバンパリインフォース24の各部位への入力荷重の大小関係は、正面衝突、オフセット衝突、斜め衝突等のような衝突形態の違いや衝突相手方の違いによってその都度ばらつきがあるため、従来の車体前部構造では、クラッシュボックスを介しても、そのような入力荷重の大小関係は承継され、フロントサイドメンバの各部位への入力荷重がその都度ばらつくことになっていたが、本実施形態では、連接段差構造50によってフロントサイドメンバ12の各部位への入力荷重の大小関係が常に同じになるようにコントロールされている。
【0038】
また、本実施形態では、クラッシュボックス本体部20の外周壁部20Aの板厚が均一であり、クラッシュボックス本体部20に入力された荷重は、車幅方向内側と車幅方向外側とで略平行に伝達されるので、どの段階でボルト28A、28Bにクラッシュボックス本体部20の軸圧縮変形された部分が当るのかを図面の上で比較的容易に予想することができ、非常に設計がしやすい。
【0039】
さらに、フロントサイドメンバ本体部14には、車幅方向内側に設けられる外周壁面部14A(図2参照)に座屈のきっかけとなるクラッシュビード14Bが設けられているので、前突時には、このクラッシュビード14Bを座屈のきっかけとしてフロントサイドメンバ本体部14が車幅方向外側へ凸となるように座屈(外折れモードに変形)する。これによって、フロントサイドメンバ本体部14の座屈位置を一定にコントロールすることができ、また、図2に示されるように、クラッシュビード14Bをフロントサイドメンバ本体部14の第1、第2稜線部36A、36Bでなく外周壁面部14Aに設けることで、フロントサイドメンバ本体部14の軸圧縮荷重に対する耐力への影響を小さくすることができる。このため、フロントサイドメンバ本体部14の質量効率が良く、フロントサイドメンバ本体部14の板厚を薄くして軽量化を図ることも可能となる。
【0040】
以上説明したように、連接段差構造50とすることで、前突時にクラッシュボックス18を介したフロントサイドメンバ12の車幅方向内側への入力荷重と車幅方向外側への入力荷重との大小関係を、ばらつきなく常にほぼ同様となるようにコントロールし、クラッシュビード14Bを設けることで、フロントサイドメンバ12の変形モードを安定させること(変形を精度良く再現すること)ができる。
【0041】
[第2実施形態]
次に、車体前部構造の第2の実施形態を図4に基づき説明する。第1の実施形態では、フロントサイドメンバ12を車幅方向に(外折れモードに)変形させる場合について説明したが、第2の実施形態は、フロントサイドメンバ12を車体上下方向に変形させる形態である。なお、第1の実施形態と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
【0042】
図4に示されるように、フロントサイドメンバ12は、エンジンルーム40とキャビン42とを隔成するダッシュパネル44の付近において、車体後側下方へ向かって屈曲されたキックアップ部14Cを備えており、キックアップ部14Cから車体後方側へ向けては車体フロア46に沿って車体前後方向に延設されている。
【0043】
互いに連接されるクラッシュボックス座部22(クラッシュボックス18の後端部)とフロントサイドメンバ座部16(フロントサイドメンバ12の前端部)とは、それぞれ車体下方側(車両正面視における一方の片側)が車体上方側(車両正面視における他方の片側)よりも車体前後方向の前側に配設されて車体前後方向に段差を有している。クラッシュボックス座部22(クラッシュボックス18の後端部)とフロントサイドメンバ座部16(フロントサイドメンバ12の前端部)とを締結する締結部26は、車体下方側(車両正面視における一方の片側)及び車体上方側(車両正面視における他方の片側)に設けられている。
【0044】
クラッシュボックス座部22及びフロントサイドメンバ座部16を含むクラッシュボックス18とフロントサイドメンバ12との連接段差構造50は、荷重制御手段を構成し、第2の実施形態では、クラッシュボックス18におけるクラッシュボックス本体部20の軸圧縮変形時にフロントサイドメンバ12の車体下側(車両正面視におけるフロントサイドメンバ12の一方の片側)への入力荷重を車体上側(車両正面視におけるフロントサイドメンバ12の他方の片側)への入力荷重に比べて大きくさせるようになっている。
【0045】
また、フロントサイドメンバ12におけるフロントサイドメンバ本体部14には、車体下方側(車両正面視における一方の片側)に設けられる外周壁面部14Aに、座屈のきっかけとなる弱化部としてのクラッシュビード14Bが設けられている。
【0046】
以上説明した第2の実施形態では、車体の前突時に所定値以上の軸圧縮荷重Fが入力された場合、クラッシュビード14Bを座屈のきっかけとしてフロントサイドメンバ本体部14が常に車体上方側へ凸となるように座屈する。ここで、第2の実施形態についても、第1の実施形態と同様の作用によって、フロントサイドメンバ12の変形モードを安定させることができる。
【0047】
[実施形態の補足説明]
なお、上記実施形態では、クラッシュボックス座部22とフロントサイドメンバ座部16とは、それぞれ車両正面視における一方の片側が他方の片側よりも車体前後方向の前側に配設されているが、例えば、クラッシュボックスの後端部とフロントサイドメンバの前端部とを車体前後方向に垂直な面で連接すると共に、クラッシュボックス本体部(20)の外周壁部(20A)に形成するビード(20B)の数を車両正面視における一方の片側と他方の片側とで変える(一方の片側を多くする)等のような構成とされた他の荷重制御手段によって、クラッシュボックスの軸圧縮変形時に車両正面視におけるフロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重を他方の片側への入力荷重に比べて大きくしてもよい。
【0048】
また、他の例を挙げると、クラッシュボックスの後端部とフロントサイドメンバの前端部とを車体前後方向に垂直な面で連接させる形態では、例えば、クラッシュボックス本体部(20)の外周壁部(20A)において、車両正面視における他方の片側に他部分と比べて潰れにくい部分を設けたり、クラッシュボックス本体部(20)がクラッシュボックスインナパネルとクラッシュボックスアウタパネルとの2部品で構成されている場合にはクラッシュボックスインナパネルとクラッシュボックスアウタパネルとの板厚を変える等のような構成とされた他の荷重制御手段を適用してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、荷重制御手段として、クラッシュボックス18とフロントサイドメンバ12との連接段差構造50が適用されているが、例えば、互いに連接されるクラッシュボックスの後端部とフロントサイドメンバの前端部とが、いずれも段差を有さずに、それぞれ車両正面視における一方の片側が他方の片側よりも車体前後方向の前側に傾斜状に配設される等のような構成とされた他の荷重制御手段が適用されてもよい。但し、クラッシュボックスの後端部とフロントサイドメンバの前端部とをボルト等の締結具で締結する場合には、クラッシュボックスの後端部とフロントサイドメンバの前端部とを前記のような傾斜状に配設すると、締結作業がしにくくなるので、上記実施形態のような連接段差構造50を適用したほうがよい。
【0050】
さらに、上記実施形態では、フロントサイドメンバ12の前端部にフランジ部16A、クラッシュボックス18の後端部にフランジ部22Aをそれぞれ形成してフロントサイドメンバ12とクラッシュボックス18とをボルト締結しているが、例えば、フロントサイドメンバ12とクラッシュボックス18とを溶接やリベットによって連結してもよい。また、例えば、フロントサイドメンバ12のフランジ部16Aにメネジを切った挿通孔を形成し、この挿通孔に、クラッシュボックス18のフランジ部22Aを貫通したネジ等の締結具をねじ込んで締め付ける等のような他の締結形態としてもよい。さらに、フロントサイドメンバ12の前端部とクラッシュボックス18の後端部の間に連結手段を介在させて両者を連結させてもよい。
【0051】
さらにまた、上記実施形態では、クラッシュボックス本体部20の後端開口部がフロントサイドメンバ本体部14の前端開口部と対向する位置に配置されているが、例えば、クラッシュボックス本体部20の後端開口部とフロントサイドメンバ本体部14の前端開口部とが互いの対向位置からずれて配置されていてもよい。但し、クラッシュボックス本体部20の後端開口部とフロントサイドメンバ本体部14の前端開口部とが互いの対向位置からずれて配置されていると、クラッシュボックス本体部20の後端開口部からの荷重をクラッシュボックス座部22及びフロントサイドメンバ座部16で一旦を受けてからフロントサイドメンバ本体部14の前端開口部に荷重が伝達されることになって効率が良くないので、上記実施形態のように、クラッシュボックス本体部20の後端開口部とフロントサイドメンバ本体部14の前端開口部とを対向位置に配置させて荷重伝達させるほうがよい。
【0052】
なお、上記実施形態では、フロントサイドメンバ本体部14の外周壁面部14Aに形成される弱化部として凹状のクラッシュビード14Bが適用されているが、弱化部は、例えば、貫通孔等のような他の弱化部であってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、クラッシュボックス本体部20の外周壁部20Aにビード20Bを形成しているが、ビード20Bを形成せずに、クラッシュボックス本体部20の外周壁部20Aを略波板形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車体前部構造を示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車体前部構造の要部を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における前突時の車体前部の状態を示す状態図である。図3(A)は、クラッシュボックス本体部における車幅方向内側が完全に潰れきった状態を示す。図3(B)は、フロントサイドメンバが座屈した状態を示す。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る車体前部構造を示す側面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 車体
12 フロントサイドメンバ
14A 外周壁面部
14B クラッシュビード(弱化部)
16 フロントサイドメンバ座部(フロントサイドメンバの前端部)
18 クラッシュボックス
18X 軸方向
22 クラッシュボックス座部(クラッシュボックスの後端部)
24 フロントバンパリインフォース
26 締結部
50 連接段差構造(荷重制御手段)
F 軸圧縮荷重
IN 車幅方向内側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前端部に車両幅方向に延在するフロントバンパリインフォースと、
前記フロントバンパリインフォースの車体後方側に車体前後方向に沿って配設された左右一対のフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバの前端部と前記フロントバンパリインフォースとの間に車体前後方向を軸方向として介在され、前記フロントサイドメンバよりも軸圧縮荷重に対する耐力が低いクラッシュボックスと、
前記クラッシュボックスの軸圧縮変形時に車両正面視における前記フロントサイドメンバの一方の片側への入力荷重を他方の片側への入力荷重に比べて大きくする荷重制御手段と、
を有することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
互いに連接される前記クラッシュボックスの後端部と前記フロントサイドメンバの前端部とは、それぞれ車両正面視における一方の片側が他方の片側よりも車体前後方向の前側に配設されることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記クラッシュボックスの後端部と前記フロントサイドメンバの前端部とは、車体前後方向に段差を有し、前記クラッシュボックスの後端部と前記フロントサイドメンバの前端部とを締結する締結部が、車両正面視における一方の片側及び他方の片側に設けられることを特徴とする請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記フロントサイドメンバには、車両正面視における一方の片側に設けられる外周壁面部に座屈のきっかけとなる弱化部が設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記クラッシュボックスの軸圧縮変形時に前記荷重制御手段が前記フロントサイドメンバの車幅方向内側への入力荷重を車幅方向外側への入力荷重に比べて大きくして前記フロントサイドメンバを車幅方向外側へ座屈させることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車体前部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−238028(P2007−238028A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66329(P2006−66329)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】