説明

車体前部構造

【課題】フェンダ内側の見栄えを良くしながら、衝突時における衝突体のストロークを十分に確保することができる車体前部構造を得る。
【解決手段】フェンダプロテクタ50のカバー部54の下部には、係止部58が設けられており、係止部58の鍵孔状の切欠部60にエプロンアッパメンバ30側の突出部36が挿通されている。係止部58の上部側は可変構造62となっており、フェンダプロテクタ50に対する車体下方側への所定値以上の荷重入力時には、突出部36によって切欠部60の開口側が押し広げられるように変形する。これによって、カバー部54の車体下方側への移動が許容されてカバー部54のエプロンアッパメンバ30への取付状態が解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェンダパネルの内側の端部とエプロンアッパメンバとの間を隠蔽するためのフェンダプロテクタを備えた車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部においては、側板を構成するフェンダパネルが車体骨格部材(エプロンアッパメンバ)に取り付けられており(例えば、特許文献1参照)、フェンダパネルの内側の端部と車体骨格部材との間(隙間)は、見栄えの観点からフェンダプロテクタによって車幅方向内側から覆い隠される場合がある。このような構造では、フェンダプロテクタは、その一端部がフェンダパネルの内側の端部に取り付けられると共にその他端部が車体骨格部材に取り付けられた形態が知られている。
【0003】
しかし、この従来構造では、フェンダプロテクタが車体骨格部材に支持されているので、衝突体がフェンダパネルとフードパネルとの見切り部又はその近傍に車体上方側から衝突した場合(衝突体による荷重作用時)に、フェンダプロテクタによる反力が発生してしまい、衝突体のストロークが短くなってしまう場合も考えられる。
【特許文献1】実開平5−37659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、フェンダ内側の見栄えを良くしながら、衝突時における衝突体のストロークを十分に確保することができる車体前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載する本発明の車体前部構造は、車体前部の側面を構成する外側壁部を備えると共に内側の端部がフードパネルとの見切り部にて屈曲されたフェンダパネルと、前記フェンダパネルの外側壁部の車幅方向内側に略車体前後方向を長手方向として配置され、前記フェンダパネルの内側の端部から車体下方側に離間して位置するエプロンアッパメンバと、前記フェンダパネルの内側の端部に上壁部が取り付けられ、前記上壁部の車幅方向内側の端部側から車体下方側へ延出しかつ前記エプロンアッパメンバに取り付けられたカバー部を備えると共に、前記カバー部が前記フェンダパネルの内側の端部と前記エプロンアッパメンバとの間を隠蔽するフェンダプロテクタと、前記フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力により前記カバー部の前記エプロンアッパメンバへの取付状態を解除する取付解除手段と、を有することを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載する本発明の車体前部構造によれば、フェンダパネルの内側の端部にフェンダプロテクタの上壁部が取り付けられ、前記上壁部の車幅方向内側の端部側から車体下方側へ延出してかつエプロンアッパメンバに取り付けられたカバー部によって、フェンダパネルの内側の端部とエプロンアッパメンバとの間が隠蔽されるので、例えば、フードを開いた際には、フェンダパネルの内側の端部とエプロンアッパメンバとの間の隠蔽された部分が使用者によっては視認されない。
【0007】
また、フェンダプロテクタに対して車体下方側へ所定値以上の荷重入力があった場合には、カバー部のエプロンアッパメンバへの取付状態が取付解除手段によって解除される。このため、例えば、衝突体がフェンダパネルとフードパネルとの見切り部又はその近傍に車体上方側から衝突することによって前記荷重入力がなされた場合には、フェンダプロテクタのカバー部がエプロンアッパメンバから受ける反力が抑えられながら、フェンダパネルには、フェンダパネルの内側の端部とエプロンアッパメンバとの距離に応じた変形ストローク(変形可能なストローク)がもたらされる。その結果、フェンダパネルは、荷重作用方向へ変形して荷重を吸収し、衝突体は低荷重で車体下方側へストロークする。
【0008】
請求項2に記載する本発明の車体前部構造は、請求項1記載の構成において、前記取付解除手段は、前記フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力により変形することで前記カバー部の車体下方側への移動を許容して前記カバー部の前記エプロンアッパメンバへの取付状態を解除することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載する本発明の車体前部構造によれば、取付解除手段は、フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力により変形することでカバー部の車体下方側への移動を許容してカバー部のエプロンアッパメンバへの取付状態を解除する。このため、例えば、衝突体がフェンダパネルとフードパネルとの見切り部又はその近傍に車体上方側から衝突することによって前記荷重入力がなされた場合には、取付解除手段の変形によって、カバー部の車体下方側への移動が許容されてカバー部のエプロンアッパメンバへの取付状態が解除される。
【0010】
請求項3に記載する本発明の車体前部構造は、請求項2記載の構成において、前記エプロンアッパメンバ側に設けられて前記カバー部側へ突出する突出部を有すると共に、前記カバー部側には、車体上方側へ向けて開口すると共に前記突出部を挿通させた状態で保持する切欠部が形成され、前記取付解除手段は、前記フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力時に前記突出部によって前記切欠部の開口側が押し広げられるように変形可能な可変構造であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載する本発明の車体前部構造によれば、カバー部側に形成された切欠部が車体上方側へ向けて開口しており、取付解除手段は、フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力時に突出部によって切欠部の開口側が押し広げられるように変形可能な可変構造となっているので、例えば、衝突体がフェンダパネルとフードパネルとの見切り部又はその近傍に車体上方側から衝突することによって前記荷重入力がなされた場合には、エプロンアッパメンバ側の突出部によって切欠部の開口側が押し広げられるように変形し、切欠部への突出部の挿通状態が解除されることでカバー部のエプロンアッパメンバへの取付状態が解除される。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車体前部構造によれば、フェンダ内側の見栄えを良くしながら、衝突時における衝突体のストロークを十分に確保することができるという優れた効果を有する。
【0013】
請求項2に記載の車体前部構造によれば、比較的簡素な構成で、フェンダ内側の見栄えを良くしながら、衝突時における衝突体のストロークを十分に確保することができるという優れた効果を有する。
【0014】
請求項3に記載の車体前部構造によれば、フェンダ内側の見栄えを良くしながら、衝突体の衝突時には、フェンダプロテクタを安定的に車体下方側へ移動させることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施形態の構成)
本発明の一実施形態に係る車体前部構造について図1〜図7を用いて説明する。これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車幅方向内側を示している。なお、図3では、フェンダプロテクタ50のみを示しているが、便宜上、フェンダプロテクタ50の取付状態における方向を、前記矢印UP、矢印FR、及び矢印INで示す。
【0016】
図1に示されるように、車体前部10におけるエンジンルーム12の車体上方側には、エンジンルーム12を開閉可能に覆う金属製のフード14が配設されている。フード14は、フード14の外板を構成するフードアウタパネル16と、このフードアウタパネル16に対してフード下方側へ離間して配置されてフード14の内板を構成するフードインナパネル18(図5参照)と、を含んで構成されている。フードアウタパネル16の外周部はフードインナパネル18(図5参照)にヘミング加工によって結合されている。
【0017】
図1に示されるフードアウタパネル16の側方には、フロントフェンダパネル20の外側壁部22が配設されて車体前部10の側面を構成している。フード14の外板を構成するフードアウタパネル16と車体前部10の側面を構成するフロントフェンダパネル20との境界となる見切り部26は、フード14の車幅方向両端部(車体側面上端部)において、略車体前後方向に沿って延びている。
【0018】
図1の5−5線に沿った拡大断面図である図5に示されるように、フロントフェンダパネル20は、前輪19(図1参照)の上方側を覆い意匠面を構成する外側壁部22と、フードアウタパネル16との見切り部26にて外側壁部22の上端部22Aから垂下されて略車体下方側へ屈曲された内側壁部24と、を含んで構成されている。フロントフェンダパネル20の内側の端部としての内側壁部24は、外側壁部22の上端部22Aから略車体下方側へ垂下された内側縦壁部24Aと、この内側縦壁部24Aの下端部から車幅方向内側(エンジンルーム12側)へ略水平に延出された水平フランジ部24Bと、を備えている。また、水平フランジ部24Bの先端部分、すなわち、フロントフェンダパネル20の内側の端末部24Cは、車体上方側に凸となる断面視半円状に形成されている。
【0019】
フロントフェンダパネル20の水平フランジ部24Bの車体下方側には、車体側構成体の一部を構成するエプロンアッパメンバ30が配設されている。エプロンアッパメンバ30は、車幅方向外側に配置されるエプロンアッパメンバアウタ32と、車幅方向内側に配置されてエプロンアッパメンバアウタ32と共に閉断面を構成するエプロンアッパメンバインナ34と、によって構成されている。各々断面形状が略L字状とされたエプロンアッパメンバアウタ32とエプロンアッパメンバインナ34とは、上下方向から合わせられ、重合された端末フランジ部同士がスポット溶接されることにより閉断面構造に構成されている。
【0020】
フード14を開いた状態のエンジンルーム12内の側部における半断面の概略斜視図である図2に示されるように、エプロンアッパメンバ30は、フロントフェンダパネル20の外側壁部22の車幅方向内側において略車体前後方向を長手方向として配置される車体骨格部材であり、フロントフェンダパネル20の内側壁部24から車体下方側に離間して位置している。換言すれば、フロントフェンダパネル20の外側壁部22は、エプロンアッパメンバ30のエプロンアッパメンバアウタ32の車幅方向外側に配置されており、フロントフェンダパネル20の内側壁部24は、エプロンアッパメンバ30から車体上方側に離間して配置されている。フロントフェンダパネル20の内側壁部24とエプロンアッパメンバ30との間の一定隙は、衝突時におけるフロントフェンダパネル20の変形可能空間を形成し、歩行者保護に対する要求性能を確保するための隙間となっている。
【0021】
フロントフェンダパネル20における内側壁部24の水平フランジ部24Bとエプロンアッパメンバ30とは、略車体前後方向の一部において所定間隔で配置された衝撃吸収ブラケット40(「フェンダブラケット」、「エネルギー吸収ブラケット」ともいい、広義には、「衝撃吸収部材」として把握される要素である。)によって連結されている(図2では、車体前方側の衝撃吸収ブラケット40のみを図示する。)。これによって、フロントフェンダパネル20の内側壁部24は、衝撃吸収ブラケット40を介してエプロンアッパメンバ30側に支持されている。
【0022】
衝撃吸収ブラケット40は、車体側面視で略ハット形状を成しており、エプロンアッパメンバインナ34の頂壁部34Aと平行に配置されてフロントフェンダパネル20の水平フランジ部24Bが固定されるブラケット頂壁部42と、エプロンアッパメンバインナ34の頂壁部34Aに面接触状態で載置されてスポット溶接等によって該頂壁部34Aに固定される前後一対の取付基部44と、平板状のブラケット頂壁部42と平板状の取付基部44とを車体上下方向に繋ぐと共に車体上方側からの荷重作用に対して潰れる方向へ変形可能な前後一対の支持脚部46と、によって構成されている。すなわち、衝撃吸収ブラケット40は、フロントフェンダパネル20の内側壁部24とエプロンアッパメンバ30とを連結すると共に、車体上方側からの荷重作用に対して潰れる方向へ変形可能とされている。
【0023】
衝撃吸収ブラケット40のブラケット頂壁部42には、ボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成されており、さらにその裏面側にはウエルドナット(図示省略)が予め溶着されている。衝撃吸収ブラケット40のブラケット頂壁部42の上面に、フロントフェンダパネル20の水平フランジ部24Bが載置された状態で、ボルト48が水平フランジ部24Bの上方側から挿入されて、前記ウエルドナット(図示省略)に螺合されることにより、フロントフェンダパネル20の水平フランジ部24Bが衝撃吸収ブラケット40を介してエプロンアッパメンバ30の頂壁部34Aに取り付けられている。
【0024】
また、フロントフェンダパネル20の水平フランジ部24Bの上面には、略車体前後方向に連続して延在するフェンダプロテクタ50(「フェンダカバー」、「フェンダカーテン」ともいう)が取り付けられている。フェンダプロテクタ50は、樹脂材料(例えば、PP(ポリプロピレン))を用いて成形することにより一体に形成されており、本実施形態ではゴムに比べて高い剛性に設定されている。なお、フェンダプロテクタ50の配設は、見栄えの観点から高級車に分類される車両等、多くの車種でなされている。
【0025】
フェンダプロテクタ50は、フロントフェンダパネル20の内側壁部24における水平フランジ部24Bに上面側から取り付けられた上壁部52が略車体前後方向に延在すると共に、上壁部52の車幅方向内側の端部側から屈曲されて車体下方側へ延出するカバー部54が、略車体前後方向に延在してフロントフェンダパネル20の内側壁部24(水平フランジ部24B)とエプロンアッパメンバ30との間(隙間空間)を隠蔽している。
【0026】
フェンダプロテクタ50の上壁部52の下面側には、車体前後方向の所定位置に複数個の取付爪56(クリップ部)が形成されている。図5に示されるように、取付爪56は、フロントフェンダパネル20の水平フランジ部24Bの所定位置に形成された取付孔124Bに車体上方側から挿入されて係止されている。なお、フロントフェンダパネル20の内側縦壁部24Aの車幅方向内側においては、フェンダプロテクタ50の上壁部52の上面側に図示しないシール材が配設され、前記シール材は、フード14の車幅方向の端末部に弾性変形した状態で圧接されるようになっている。
【0027】
フェンダプロテクタ50の一部を斜視図で示す図3に示されるように、カバー部54の車幅方向外側の下端部には、エプロンアッパメンバ30(図2参照)側への取付用とされる係止部58(広義には「保持手段」の一部として把握される要素である。)が設けられている。図5に示されるように、カバー部54の係止部58が、エプロンアッパメンバ30側に設けられてカバー部54側へ突出する突出部36に係止されることによって、カバー部54がエプロンアッパメンバ30に取り付けられて(固定されて)いる。なお、カバー部54をエプロンアッパメンバ30に固定(締結)するのは、使用者がフェンダプロテクタ50に触れたとき等にフェンダプロテクタ50がパタパタと振れるのを抑えるためであり、また、フェンダプロテクタ50とエプロンアッパメンバ30との間の異音の発生を抑えるためである。
【0028】
係止部58は、より具体的には、図3及び図4に示されるように、カバー部54の車幅方向外側の一般面から張り出して全体として車体上方側が開放された箱状に形成されており、係止部58における車幅方向外側の壁部58Aには、車体上方側へ向けて開口した鍵孔状の切欠部60(広義には離脱用構造の一部を構成する要素である。)が形成されている。図4に示されるように、この切欠部60は、直径寸法が突出部36のピン36A(軸部)の軸径よりもやや大きく突出部36のピン36Aが貫通可能な孔部60Aと、突出部36のピン36Aの軸径よりも幅狭(孔部60Aの直径寸法よりも幅狭)でかつ壁部58Aの上端側縁部で開口した溝部60Bと、によって構成されている。切欠部60は、突出部36のピン36Aを孔部60Aに挿通させた状態で保持している。なお、フロントフェンダパネル20(図2参照)の建付誤差等を考慮すれば、孔部60Aの直径寸法は、突出部36のピン36Aの軸径よりもやや大きく余裕のある寸法に設定するのが好ましい。
【0029】
また、図5に示されるように、本実施形態では、突出部36は、エプロンアッパメンバ30とは別体とされた構成体がエプロンアッパメンバインナ34の内縦壁部34Bに固定(カシメ、締結等による固定)されて一体化された部分であり、ピン36Aの先端部には、ピン36Aの軸径よりも径が大きい抜け止め防止用の頭部36Bが設けられている。ピン36Aが係止部58における孔部60A(図4参照)内に挿通されて(差し込まれて)配設されると共に、頭部36Bが係止部58における箱状部分の内側に配設されることによりエプロンアッパメンバ30側にカバー部54が取り付けられている。
【0030】
本実施形態において、突出部36のピン36Aが挿通される切欠部60を鍵孔状にしたのは、通常時(すなわち、衝突時以外の場合)において突出部36から係止部58が外れるのを防止するためであり、かつ、車体下方側への所定値以上の荷重がカバー部54に作用した場合に図4に示されるピン36Aによって切欠部60における孔部60Aの上部周囲及び溝部60Bの周囲を変形させることによって(図7(A)参照)係止部58を突出部36から外して(抜いて)係止部58(カバー部54)をエプロンアッパメンバ30(図5参照)側から離脱させるためである。
【0031】
すなわち、係止部58の上部側は、フェンダプロテクタ50に対する車体下方側への所定値以上の荷重入力時に突出部36によって切欠部60の開口側が押し広げられるように変形可能(所謂拡開可能)な取付解除手段としての可変構造62となっている。係止部58の上部側における可変構造62は、フェンダプロテクタ50に対する車体下方側への所定値以上の荷重入力により変形することでカバー部54の車体下方側への移動を許容してカバー部54のエプロンアッパメンバ30(図5参照)への取付状態を解除するようになっている(フェンダプロテクタの歩行者保護対応構造)。
【0032】
なお、本実施形態では、図5に示されるフェンダプロテクタ50のカバー部54の車体下方側には、所定の空きスペース64が形成されており、フェンダプロテクタ50の車体下方側への移動可能空間とされている。
【0033】
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0034】
図2に示されるように、フロントフェンダパネル20の内側壁部24(水平フランジ部24B)にフェンダプロテクタ50の上壁部52が取り付けられ、上壁部52の車幅方向内側の端部側から車体下方側へ延出したカバー部54によって、フロントフェンダパネル20の内側壁部24とエプロンアッパメンバ30との間の隙間空間が隠蔽されるので、例えば、フード14(図1参照)を開いた際には、フロントフェンダパネル20の内側壁部24とエプロンアッパメンバ30との間の隠蔽された部分が使用者によっては視認されない。
【0035】
また、図4に示されるように、カバー部54の係止部58に形成された切欠部60が車体上方側へ向けて開口しており、係止部58の上部側は、可変構造62となっているので、例えば、図5に示される衝突体70(インパクタ)がフロントフェンダパネル20とフードアウタパネル16との見切り部26又はその近傍に車体上方側から衝突することによってフェンダプロテクタ50に対して車体下方側へ所定値以上の荷重Fが入力された場合には、図7(A)に示されるように、エプロンアッパメンバ30側の突出部36によって切欠部60の開口側が押し広げられるように変形する。
【0036】
この変形によって、カバー部54の車体下方側への移動が許容されて図7(B)に示されるように切欠部60への突出部36の挿通状態が解除され(嵌め合いが外れ)、図6に示されるように、カバー部54のエプロンアッパメンバ30への取付状態が解除される。このため、フェンダプロテクタ50のカバー部54がエプロンアッパメンバ30から受ける反力が抑えられながら、フェンダプロテクタ50は、低荷重でかつ安定的に車体下方側へ移動し、フロントフェンダパネル20には、フロントフェンダパネル20の水平フランジ部24Bとエプロンアッパメンバ30との距離に応じた変形ストローク(変形可能なストローク)がもたらされる。その結果、フロントフェンダパネル20は、衝撃吸収ブラケット40(図2参照)を潰すように変形させながら、荷重作用方向へ変形して荷重を吸収し、衝突体70は、低荷重で車体下方側へストロークする。
【0037】
補足すると、例えば、フェンダプロテクタのカバー部がエプロンアッパメンバに固定されて外れないような対比構造では、衝突体がフロントフェンダパネルとフードアウタパネルとの見切り部又はその近傍に車体上方側から衝突することによってフェンダプロテクタに対して車体下方側へ所定値以上の荷重が入力された場合に、フェンダプロテクタのカバー部がエプロンアッパメンバから反力を受ける。ここで、例えば、カバー部の一部がフロントフェンダパネルとエプロンアッパメンバとの間に挟まれてしまうと、その反力が大きくなると共に、フロントフェンダパネルの変形ストロークも短くなってしまう。このような場合における衝突体のG−S線図(衝突体がフードに衝突した際の衝突体発生減速度とストロークとの関係を示すグラフ)を見ると、後半においてGが大きくなると共にストロークも短くなる。これに対して、本実施形態の車体前部構造では、良好なG−S線図を得ることができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態に係る車体前部構造によれば、比較的簡素な構成で、フロントフェンダパネル20の内側の見栄えを良くしながら、衝突時における衝突体70のストロークを十分に確保することができる(歩行者保護性能の向上)。
【0039】
(実施形態の補足説明)
なお、上記実施形態では、係止部58の上部側が取付解除手段としての可変構造62となっているが、取付解除手段は、例えば、カバー部のエプロンアッパメンバへの取付部に設けられると共に、フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力により破断することでカバー部の車体下方側への移動を許容してカバー部のエプロンアッパメンバへの取付状態を解除する脆弱構造のような他の取付解除手段としてもよい。
【0040】
また、取付解除手段の他の例として、例えば、カバー部のエプロンアッパメンバへの取付部に設けられると共に、フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力によりスイッチがオンされて電気的に作動することによってカバー部のエプロンアッパメンバへの取付状態を解除するような取付解除機構であってもよい。
【0041】
さらに、例えば、カバー部側に設けられてエプロンアッパメンバ側へ突出する突出部を有すると共に、エプロンアッパメンバ側には、車体下方側へ向けて開口すると共に前記突出部を挿通させた状態で保持する切欠部が形成される他の車体前部構造において、取付解除手段は、フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力時に突出部によって切欠部の開口側(車体下方側)が押し広げられるように変形可能な構造であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る車体前部構造が適用された車両を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車体前部構造の要部を示す半断面の概略斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車体前部構造のフェンダプロテクタの要部を示す斜視図である。
【図4】エプロンアッパメンバ側の突出部にフェンダプロテクタの係止部が取り付けられた状態を示す斜視図である。
【図5】図1の5−5線に沿った拡大断面図である(フードを除く部分は図2の5A−5A線に沿った拡大断面に相当する。)。
【図6】衝突体が衝突した状態を示す断面図である(図5と同一の切断面で示す。)。
【図7】エプロンアッパメンバ側の突出部からフェンダプロテクタの係止部が外れる際の状態変化を示す斜視図である。図7(A)は、突出部によって切欠部の開口側が押し広げられた状態を示す。図7(B)は、エプロンアッパメンバ側の突出部からフェンダプロテクタの係止部が外れた状態を示す。
【符号の説明】
【0043】
10 車体前部
16 フードアウタパネル(フードパネル)
20 フロントフェンダパネル
22 外側壁部
24 内側壁部(内側の端部)
26 見切り部
30 エプロンアッパメンバ
36 突出部
50 フェンダプロテクタ
52 上壁部
54 カバー部
60 切欠部
62 可変構造(取付解除手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の側面を構成する外側壁部を備えると共に内側の端部がフードパネルとの見切り部にて屈曲されたフェンダパネルと、
前記フェンダパネルの外側壁部の車幅方向内側に略車体前後方向を長手方向として配置され、前記フェンダパネルの内側の端部から車体下方側に離間して位置するエプロンアッパメンバと、
前記フェンダパネルの内側の端部に上壁部が取り付けられ、前記上壁部の車幅方向内側の端部側から車体下方側へ延出しかつ前記エプロンアッパメンバに取り付けられたカバー部を備えると共に、前記カバー部が前記フェンダパネルの内側の端部と前記エプロンアッパメンバとの間を隠蔽するフェンダプロテクタと、
前記フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力により前記カバー部の前記エプロンアッパメンバへの取付状態を解除する取付解除手段と、
を有することを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記取付解除手段は、前記フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力により変形することで前記カバー部の車体下方側への移動を許容して前記カバー部の前記エプロンアッパメンバへの取付状態を解除することを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記エプロンアッパメンバ側に設けられて前記カバー部側へ突出する突出部を有すると共に、
前記カバー部側には、車体上方側へ向けて開口すると共に前記突出部を挿通させた状態で保持する切欠部が形成され、
前記取付解除手段は、前記フェンダプロテクタに対する車体下方側への所定値以上の荷重入力時に前記突出部によって前記切欠部の開口側が押し広げられるように変形可能な可変構造であることを特徴とする請求項2記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−161141(P2009−161141A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3011(P2008−3011)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】