説明

車体前部構造

【課題】障害物に作用する衝撃荷重を吸収するとともに、障害物の車体下方への巻込みを防止し、さらに、アプローチアングルを好適に確保できる車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造10は、バンパビーム16およびアンダメンバー22に取り付けられた衝撃吸収部材25を備えている。衝撃吸収部材25の下面部34は、下方へ突出する折曲部34bが設けられることにより、折曲部34bの前方の下面前部41と後方の下面後部42とが略く字状に折り曲げられている。この下面部34は、車体前部構造10に衝撃荷重Fが作用した場合に、折曲部34bが折り曲げられて下面前部41が車体下方に向けて張り出すように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪の車体前方にバンパビームが設けられ、このバンパビームの前方に障害物を保護する衝撃吸収部材が設けられた車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造のなかには、車両前方の障害物に前端部が衝突した場合に、障害物を保護するように構成したものが知られている。
この車体前部構造は、障害物に前端部が衝突した場合に、フロントバンパの下端部を下方に変形させるとともに、フロントバンパの下端部を支える下側ブラケットを下方に向けて折り曲げるように構成されている。
【0003】
このように、フロントバンパの下端部を下方に変形させるとともに下側ブラケットを下方に向けて折り曲げることで、障害物に作用する衝撃荷重を吸収し、さらに、障害物が車体の下方に巻き込まれることを防ぐことができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−264495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の車体前部構造は、フロントバンパの下端部および下側ブラケットが車体の下方に設けられているため、車両のアプローチアングルを好適に確保することが難しい。
このため、車両の走行中に、フロントバンパの下端部や下側ブラケットが斜面や障害物に接触して、斜面や障害物を乗り越え難くなることが考えられる。
【0006】
本発明は、障害物に作用する衝撃荷重を吸収するとともに、障害物の車体下方への巻込みを防止し、さらに、アプローチアングルを好適に確保できる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、前輪の車体前方においてバンパビームが車幅方向に延出され、前記バンパビームの車体前方にフロントバンパが設けられ、前記バンパビームの下方において車体部材が車幅方向に延出された車体前部構造において、前記バンパビームに取り付けられた上端取付部と、前記上端取付部から車体前方に向けて張り出された上面部と、前記上面部から下方に向けて屈曲または湾曲された前面部と、前記前面部から車体後方に向けて屈曲された下面部と、前記下面部の後端部に設けられて前記車体部材に取り付けられた下端取付部と、を有する衝撃吸収部材を備え、前記下面部は、下方へ突出する折曲部が設けられることにより、前記折曲部の前方の下面前部と前記折曲部の後方の下面後部とが略く字状に折り曲げられ、前記前輪の接地点から前記フロントバンパの前端下部を結ぶアプローチ傾斜線の上方に配置され、前記前面部に車体前方から衝撃荷重が作用した場合に、前記折曲部が折り曲げられて前記下面前部が車体下方に向けて張り出すことを特徴とする。
【0008】
請求項2は、前記前面部に車体前方から衝撃荷重が作用した場合に、前記下面後部を略水平に保つようにしたことを特徴とする。
【0009】
請求項3は、前記下面部は、前記下面前部および前記下面後部に剛性部をそれぞれ備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項4は、前記上端取付部および前記下端取付部は、前記下面前部および前記下面後部を除いた部位に比較して高強度に設定されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、衝撃吸収部材の下面部に下方へ突出する折曲部を設けることにより、折曲部の前方の下面前部と折曲部の後方の下面後部とを略く字状に折り曲げた。この下面部をアプローチ傾斜線の上方に配置した。
アプローチ傾斜線は、前輪の接地点からフロントバンパの前端下部を結ぶ傾斜線である。これにより、アプローチアングルを好適に確保することができる。
【0012】
そして、障害物が前面部に衝突した場合に、折曲部が折り曲げられて下面前部が車体下方に向けて張り出す(突出する)ようにした。
このように、下面前部が車体下方に向けて変形することで、障害物に作用する衝撃荷重を吸収することができる。
【0013】
さらに、車体下方に向けて変形した下面前部や前面部などの広い面積で障害物を受けることができ、障害物に作用する衝撃荷重の面圧を小さく抑えることができる。
このように、面圧を小さく抑えることで障害物を良好に保護することができる。
加えて、下面前部が車体下方に向けて張り出すことで、張り出した下面前部で、障害物が車体の下方に巻き込まれることを防ぐことができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、障害物が前面部に衝突した場合に、下面後部を略水平に保つようにした。
下面後部を略水平に保つことで、下面後部に座屈荷重が作用するようにした。よって、下面後部に曲げ荷重が作用した場合と比較して、下面後部で大きな荷重を支えることができる。
【0015】
これにより、衝撃荷重で下面後部が変形することを抑え、車体下方に張り出した下面前部を下面後部で保持することができる。
したがって、張り出した下面前部で、障害物が車体の下方に巻き込まれることを一層良好に防ぐことができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、下面部の下面前部および下面後部に、剛性部をそれぞれ備えることで、衝撃荷重が作用した当初において、下面前部および下面後部が座屈変形することを防ぐことができる。
一方、下面部の折曲部には補強のビードを設けないようにして、下面前部および下面後部と比較して折り曲げやすくした。
【0017】
よって、下面部の折曲部を確実に折り曲げて、下面前部を車体下方に向けて確実に張り出させることができる。
これにより、張り出した下面前部で、障害物が車体の下方に巻き込まれることを良好に防ぐことができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、上端取付部および下端取付部を高強度に設定した。
よって、上端取付部および下端取付部をバンパビームや車体部材で確実に支えることが可能になり、衝撃吸収部材のうち下面部の折曲部に応力を集中させることができる。
【0019】
下面部の折曲部に応力を集中させることで、下面部の折曲部を迅速に変形させることができる。
これにより、下面前部を車体下方に向けて迅速に張り出させることが可能になり、障害物が車体の下方に巻き込まれることを良好に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る車体前部構造(実施例1)を示す斜視図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】実施例1に係る衝撃吸収部材を示す斜視図である。
【図4】図3の衝撃吸収部材を破断状態で示す斜視図である。
【図5】実施例1に係る車体前部構造に衝撃荷重が作用する例を説明する図である。
【図6】実施例1に係る車体前部構造で衝撃荷重を吸収する例を説明する図である。
【図7】本発明に係る車体前部構造(実施例2)を示す斜視図である。
【図8】本発明に係る車体前部構造(実施例3)を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る車体前部構造(実施例4)を示す斜視図である。
【図10】本発明に係る車体前部構造(実施例5)を示す斜視図である。
【図11】実施例5に係る車体前部構造で衝撃荷重を吸収する例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向にしたがい、前側をFr、後側をRr、左側をL、右側をRとして示す。
【実施例1】
【0022】
実施例1に係る車体前部構造10について説明する。
車体前部構造10は、図1に示すように、エンジンルームの上方にエンジンフード11が設けられ、エンジンフード11の左右側に左右のフロントフェンダ12がそれぞれ設けられ、左右のフロントフェンダ12の下方に左右の前輪13(左側のみを図示する)が設けられ、左右のフロントフェンダ12の車体内側に左右のフロントサイドフレーム15(右側のみを図2に示す)がそれぞれ設けられている。
【0023】
この車体前部構造10は、図2に示すように、左右のフロントサイドフレーム15の前端部15aにバンパビーム16が架け渡され、バンパビーム16の車体前方にフロントバンパ17が設けられ、左右のフロントサイドフレーム15にフロントバルクヘッド21が設けられ、フロントバルクヘッド21のアンダメンバー(車体部材)22およびバンパビーム16に衝撃吸収部材25が設けられている。
【0024】
バンパビーム16は、左右の前輪13(左側のみを図1に示す)の車体前方において車幅方向に延出されている。
フロントバルクヘッド21は、左右のフロントサイドフレーム15に左右のステイ23(右側のみ図示する)が設けられ、左右のステイ23の下端部にアンダメンバー22が架け渡されている。
アンダメンバー22は、バンパビーム16の下方で、かつ、車体後方において車幅方向に延出されている。
【0025】
衝撃吸収部材25は、バンパビーム16およびアンダメンバー22に設けられ、バンパビーム16およびアンダメンバー22から車体前方に向けて膨出するように略V字状に折り曲げられた板状(プレート状)の部材である。
【0026】
この衝撃吸収部材25は、バンパビーム16に取り付けられた上端取付部31と、上端取付部31から車体前方に向けて張り出された上面部32と、上面部32から下方に向けて屈曲された前面部33と、前面部33から車体後方に向けて屈曲された下面部34と、下面部34の後端34aに設けられてアンダメンバー22に取り付けられた下端取付部35とを備えている。
【0027】
上端取付部31は、図2、図3に示すように、バンパビーム16のビーム前壁16aに補強プレート37を介して溶接で固定されている(取り付けられている)。
【0028】
上面部32は、上端取付部31の下端31aで折り曲げられることで、上端取付部31の下端31aから車体前方に向けて下り勾配で張り出されている。
【0029】
前面部33は、上面部32の前端32aで折り曲げられることで、図2に示すように上面部32の前端32aから下方に向けるとともに車体後方に向けて屈曲されている。
【0030】
下面部34は、前面部33の下端33aで折り曲げられることで、前面部33の下端33aから車体後方に向けて屈曲されている。
この下面部34は、略中央に下方へ突出する折曲部34bが設けられている。よって、折曲部34bの前方の下面前部41と折曲部34bの後方の下面後部42とが下向きに略く字状に折り曲げられている。
【0031】
また、下面部34は、左右の前輪13の接地点44(図1参照)からフロントバンパ17の前端下部17aを結ぶアプローチ傾斜線45(図1も参照)の上方に配置されている。
このように、下面部34をアプローチ傾斜線45の上方に配置することで、アプローチアングルθを好適に確保することができる。
図1に示すように、アプローチアングルθは、水平線46に対するアプローチ傾斜線45の傾斜角である。
【0032】
さらに、この下面部34は、前面部33に車体前方から衝撃荷重Fが矢印の如く作用した場合に、折曲部34bが下方に折り曲げられて下面前部41を車体下方に向けて張り出させ、かつ、下面後部42を略水平に保つように形成されている。
【0033】
図4に示すように、下面部34は、下面前部41に複数の下面前部ビード(剛性部)51が備えられ、下面後部42に複数の下面後部ビード(剛性部)52が備えられている。
【0034】
下面前部ビード51は、略矩形の形状で下方に向けて膨出され、前面部33の下端33aを経て下面部34の上端34cから折曲部34b近傍まで形成されている。
すなわち、下面前部ビード51は、折曲部34bを回避して折曲部34bの上方に形成されている。
下面前部41に複数の下面前部ビード51を設けることで、下面前部41の剛性を高めることができる。
【0035】
下面後部ビード52は、略矩形の形状で下方に向けて膨出され、折曲部34b近傍から下面部34の後端34a近傍まで形成されている。
すなわち、下面後部ビード52は、折曲部34bを回避して折曲部34bの下方に形成されている。
下面後部42に複数の下面後部ビード52を設けることで、下面後部42の剛性を高めることができる。
【0036】
下端取付部35は、下面部34の後端34aで下方に向けて折り曲げられ、アンダメンバー22の取付ブラケット54に溶接で固定されている(取り付けられている)。
【0037】
ここで、上端取付部31は、複数の上ビード(剛性部)56が備えられている。
上ビード56は、車体後方に向けて膨出され、上面部32の上端32bから上端取付部31の下端31aを経て上端取付部31の上端31bまで形成されている。
また、下端取付部35は、複数の下ビード(剛性部)58が備えられている。
下ビード58は、車体前方に向けて膨出され、下面部34の後端34a(下端取付部35の上端35a)近傍から下端取付部35の下端35bまで形成されている。
【0038】
このように、上端取付部31に複数の上ビード56が設けられるとともに、下端取付部35に複数の下ビード58が設けられている。
これにより、上端取付部31および下端取付部35は、衝撃吸収部材25のうち、下面前部41および下面後部42を除いた部位に比較して高強度に設定されている。
【0039】
つぎに、衝撃吸収部材25の前面部33に車体前方から衝撃荷重が作用した場合を図5〜図6に基づいて説明する。なお、図5〜図6においては衝撃吸収部材25の変形について理解を容易にするためにフロントバンパ17を除去した状態で説明する。
図5(a)に示すように、車体前部構造10の衝撃吸収部材25に障害物60が衝突した場合、障害物60は上面部32の前端32aに当接する。
【0040】
図5(b)に示すように、障害物60が上面部32の前端32aに当たることで、上面部32の前端32aに衝撃荷重Fが矢印の如く作用する。
衝撃荷重Fが作用することで、折曲部34bが矢印Aの如く下方に向けて折り曲げられる。
【0041】
図6に示すように、折曲部34bが下方に向けて折り曲げられることで、下面前部41が車体下方に向けて張り出す(突出する)。
このように、下面前部41が車体下方に向けて変形することにより、障害物60を前面部33で受けることができる。
この状態で、下面前部41が車体下方に向けてさらに変形する。これにより、衝撃吸収部材25を車体後方に向けてL寸法潰して、障害物60に作用する衝撃荷重Fを吸収することができる。
【0042】
さらに、下面前部41を車体下方に向けて変形させることで、車体下方に向けて変形した下面前部41や前面部33の広い面積で障害物60を受けることができる。
これにより、障害物60に作用する衝撃荷重Fの面圧を小さく抑えることができ、障害物60を良好に保護することができる。
【0043】
加えて、下面前部41が車体下方に向けてH寸法張り出すことで、張り出した下面前部41で、障害物60が車体(すなわち、車体前部構造10)の下方に巻き込まれることを防ぐことができる。
【0044】
ここで、衝撃吸収部材25は、障害物60が前面部33(詳しくは、上面部32の前端32a)に衝突した場合に、下面後部42を略水平に保つようにした。
下面後部42を略水平に保つことで、下面後部42に座屈荷重が作用するようにした。よって、下面後部42に曲げ荷重が作用した場合と比較して、下面後部42で大きな荷重を支えることができる。
【0045】
これにより、衝撃荷重Fで下面後部42が変形することを抑え、車体下方に張り出した下面前部41を下面後部42で保持することができる。
これにより、張り出した下面前部41で、障害物60が車体の下方に巻き込まれることを一層良好に防ぐことができる。
【0046】
さらに、下面部34の下面前部41および下面後部42に、複数の下面前部ビード51および複数の下面後部ビード52をそれぞれ備えることで、衝撃荷重Fが作用した当初において、下面前部41および下面後部42が座屈変形することを防ぐことができる。
一方、下面部34の折曲部34bには補強のビードを設けないようにして、下面前部41および下面後部42と比較して折り曲げやすくした。
【0047】
よって、衝撃吸収部材25に衝撃荷重Fが作用した場合、下面部34の折曲部34bを確実に折り曲げて、下面前部41を車体下方に向けて確実に張り出させることができる。
これにより、張り出した下面前部41で、障害物60が車体(すなわち、車体前部構造10)の下方に巻き込まれることを一層良好に防ぐことができる。
【0048】
加えて、上端取付部31に複数の上ビード56を設けるとともに、下端取付部35に複数の下ビード58を設けることで、上端取付部31および下端取付部35を高強度に設定した。
よって、上端取付部31および下端取付部35をバンパビーム16やアンダメンバー22で確実に支えることが可能になり、衝撃吸収部材25のうち下面部34の折曲部34bに応力を集中させることができる。
【0049】
このように、下面部34の折曲部34bに応力を集中させることで、下面部34の折曲部34bを迅速に下方に変形させることができる。
これにより、下面前部41を車体下方に向けて迅速に張り出させることが可能になり、障害物60が車体(すなわち、車体前部構造10)の下方に巻き込まれることを一層良好に防ぐことができる。
【0050】
つぎに、実施例2〜5を図7〜図11に基づいて説明する。なお、実施例2〜5において実施例1の車体前部構造10と同一・類似部材については同じ符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0051】
実施例2に係る車体前部構造70について説明する。
図7に示すように、車体前部構造70は、実施例1の衝撃吸収部材25に代えて衝撃吸収部材72を備えたものである。
衝撃吸収部材72は、下面部34の下面前部41に下面前部補強板(剛性部)74が備えられ、下面部34の下面後部42に下面後部補強板(剛性部)75が備えられ、上端取付部31に上補強板76が備えられ、下端取付部35に下補強板77が備えられている。
【0052】
すなわち、衝撃吸収部材72は、実施例1に示す複数の下面前部ビード51、複数の下面後部ビード52、複数の上ビード56および複数の下ビード58に代えて、下面前部補強板74、下面後部補強板75、上補強板76および下補強板77をそれぞれ備えたもので、その他の構成は実施例1の衝撃吸収部材25と同様である。
上補強板76は、実施例1の上ビード56と同様に、上面部32の上端32bから上端取付部31の上端31bまで形成されている。
【0053】
下面前部41に下面前部補強板74を備えることで、下面前部41の剛性を高めることができる。また、下面後部42に下面後部補強板75を備えることで、下面後部42の剛性を高めることができる。
さらに、上端取付部31に上補強板76を備え、下端取付部35に下補強板77を備えることで、それぞれの取付部31,35の剛性を高めることができる。
具体的には、それぞれの取付部31,35は、衝撃吸収部材72のうち、下面前部41および下面後部42を除いた部位に比して高強度に設定されている。
【0054】
これにより、実施例2の車体前部構造70によれば、実施例1の車体前部構造10と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0055】
実施例3に係る車体前部構造80について説明する。
図8に示すように、車体前部構造80は、実施例2の衝撃吸収部材72に代えて衝撃吸収部材82を備えたものである。
衝撃吸収部材82は、下面部34の下面前部41に下面前部肉厚部位(剛性部)84が備えられ、下面部34の下面後部42に下面後部肉厚部位(剛性部)85が備えられ、上端取付部31が上肉厚部位86で形成され、下端取付部35に下肉厚部位87が備えられている。
【0056】
下面前部肉厚部位84、下面後部肉厚部位85、上肉厚部位86および下肉厚部位87は、衝撃吸収部材82のうち、下面前部41および下面後部42を除いた部位に比して高強度に設定されている。
【0057】
すなわち、衝撃吸収部材82は、実施例2に示す下面前部補強板74、下面後部補強板75、上補強板76および下補強板77に代えて、それぞれの部位を下面前部肉厚部位84、下面後部肉厚部位85、上肉厚部位86および下肉厚部位87に形成したもので、その他の構成は実施例2の衝撃吸収部材72と同様である。
上肉厚部位86は、実施例2の上補強板76と同様に、上面部32の上端32bから上端取付部31の上端31bまで形成されている。
【0058】
下面前部41に下面前部肉厚部位84を備えることで、下面前部41の剛性を高めることができる。また、下面後部42に下面後部肉厚部位85を備えることで、下面後部42の剛性を高めることができる。
さらに、上端取付部31を上肉厚部位86で形成し、下端取付部35に下肉厚部位87を備えることで、それぞれの取付部31,35の剛性を高めることができる。
具体的には、それぞれの取付部31,35は、衝撃吸収部材82のうち、下面前部41および下面後部42を除いた部位に比して高強度に設定されている。
【0059】
これにより、実施例3の車体前部構造80によれば、実施例1の車体前部構造10と同様の効果を得ることができる。
【実施例4】
【0060】
実施例4に係る車体前部構造90について説明する。
図9に示すように、車体前部構造90は、実施例1の衝撃吸収部材25に代えて衝撃吸収部材92を備えたものである。
衝撃吸収部材92は、下面部34の下面前部41に複数の下面前部補強リブ(剛性部)94が備えられ、下面部34の下面後部42に複数の下面後部補強リブ(剛性部)95が備えられ、上端取付部31に上補強リブ96が備えられ、下端取付部35に下補強リブ97が備えられている。
【0061】
すなわち、衝撃吸収部材92は、実施例1に示す複数の下面前部ビード51、複数の下面後部ビード52、複数の上ビード56および複数の下ビード58に代えて、複数の下面前部補強リブ94、複数の下面後部補強リブ95、複数の上補強リブ96および複数の下補強リブ97をそれぞれ備えたもので、その他の構成は実施例1の衝撃吸収部材25と同様である。
【0062】
ここで、上補強リブ96および下補強リブ97は、衝撃吸収部材92の表面(すなわち、車体前方側の面)に備えられている。
また、上補強リブ96は、上面部32の上端32bから上端取付部31の下端31aを経て上端取付部31の上端31b近傍まで形成されている。
さらに、下面前部補強リブ94および下面後部補強リブ95は、衝撃吸収部材92の裏面(すなわち、車体後方側の面)に備えられている。
【0063】
下面前部41に下面前部補強リブ94を備えることで、下面前部41の剛性を高めることができる。また、下面後部42に下面後部補強リブ95を備えることで、下面後部42の剛性を高めることができる。
さらに、上端取付部31に上補強リブ96を備え、下端取付部35に下補強リブ97を備えることで、それぞれの取付部31,35の剛性を高めることができる。
具体的には、それぞれの取付部31,35は、衝撃吸収部材92のうち、下面前部41および下面後部42を除いた部位に比して高強度に設定されている。
【0064】
これにより、実施例4の車体前部構造90によれば、実施例1の車体前部構造10と同様の効果を得ることができる。
【実施例5】
【0065】
図10に示すように、車体前部構造100は、実施例1の衝撃吸収部材25に代えて衝撃吸収部材102を備えたものである。
衝撃吸収部材102は、上面部32の略中央に上方へ突出する折曲部32cが設けられたもので、その他の構成は実施例1の衝撃吸収部材25と同様である。
上面部32の略中央に折曲部32cを設けることで、上面部32の上面前部104および上面後部105は上向きに略く字状に折り曲げられている。
【0066】
図11に示すように、車体前部構造100の衝撃吸収部材102に障害物60が衝突した場合、衝撃吸収部材102に衝撃荷重Fが矢印の如く作用する。
衝撃吸収部材102に衝撃荷重Fが作用することで、折曲部34bが矢印Aの如く下方に向けて折り曲げられるとともに、折曲部32cが矢印Bの如く上方に向けて折り曲げられる。
【0067】
折曲部34bが下方に折り曲げられることで、下面前部41が車体下方に向けて張り出す。同様に、折曲部32cが上方に折り曲げられることで、上面前部104が車体上方に向けて張り出す。
このように、下面前部41を車体下方に向けて変形させるとともに上面前部104を車体上方に向けて変形させることで、障害物60を下面前部41、上面前部104および前面部33で受けることができる。
【0068】
この状態で、下面前部41が車体下方に向けてさらに変形するとともに、上面前部104が車体上方に向けてさらに変形する。
これにより、衝撃吸収部材102を車体後方に向けて潰して、障害物60に作用する衝撃荷重Fを吸収することができる。
【0069】
加えて、下面前部41を車体下方に向けて変形させるとともに上面前部104を車体上方に向けて変形させることで、下面前部41、上面前部104および前面部33の広い面積で障害物60を受けることができる。
これにより、障害物60に作用する衝撃荷重Fの面圧を小さく抑えることができ、障害物60を良好に保護することができる。
【0070】
なお、本発明に係る車体前部構造は、前述した実施例に限定されるものではなく適宜変更、改良などが可能である。
例えば、前記実施例1〜5では、衝撃吸収部材25,72,82,92,102の上面部32および前面部33を折り曲げた例について説明したが、これに限らないで、上面部32および前面部33を湾曲状に形成することも可能である。
上面部32および前面部33を湾曲状に形成した場合にも前記実施例1〜5と同様の効果を得ることができる。
【0071】
また、前記実施例1〜5では、車体部材としてアンダメンバー22を例示したが、これに限定するものではなく、例えばサブフレームのフロントクロスメンバーなどを車体部材として用いることも可能である。
【0072】
また、前記実施例で示したバンパビーム16、フロントバンパ17、アンダメンバー22、衝撃吸収部材25,72,82,92,102、上端取付部31、上面部32、前面部33、下面部34、下端取付部35、下面前部41、下面後部42、下面前部ビード51、下面後部ビード52、下面前部補強板74、下面後部補強板75、下面前部肉厚部位84、下面後部肉厚部位85、下面前部補強リブ94および下面後部補強リブ95などの形状は例示したものに限定するものではなく適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、前輪の車体前方にバンパビームが設けられ、このバンパビームの前方に障害物を保護する衝撃吸収部材を備えた自動車への適用に好適である。
【符号の説明】
【0074】
10,70,80,90,100…車体前部構造、13…左右の前輪(前輪)、16…バンパビーム、17…フロントバンパ、17a…前端下部、22…アンダメンバー(車体部材)、25,72,82,92,102…衝撃吸収部材、31…上端取付部、32…上面部、33…前面部、34…下面部、34b…折曲部、35…下端取付部、41…下面前部、42…下面後部、44…接地点、45…アプローチ傾斜線、51…下面前部ビード(剛性部)、52…下面後部ビード(剛性部)、74…下面前部補強板(剛性部)、75…下面後部補強板(剛性部)、84…下面前部肉厚部位(剛性部)、85…下面後部肉厚部位(剛性部)、94…下面前部補強リブ(剛性部)、95…下面後部補強リブ(剛性部)、F…衝撃荷重。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪の車体前方においてバンパビームが車幅方向に延出され、前記バンパビームの車体前方にフロントバンパが設けられ、前記バンパビームの下方において車体部材が車幅方向に延出された車体前部構造において、
前記バンパビームに取り付けられた上端取付部と、
前記上端取付部から車体前方に向けて張り出された上面部と、
前記上面部から下方に向けて屈曲または湾曲された前面部と、
前記前面部から車体後方に向けて屈曲された下面部と、
前記下面部の後端部に設けられて前記車体部材に取り付けられた下端取付部と、
を有する衝撃吸収部材を備え、
前記下面部は、
下方へ突出する折曲部が設けられることにより、前記折曲部の前方の下面前部と前記折曲部の後方の下面後部とが略く字状に折り曲げられ、
前記前輪の接地点から前記フロントバンパの前端下部を結ぶアプローチ傾斜線の上方に配置され、
前記前面部に車体前方から衝撃荷重が作用した場合に、前記折曲部が折り曲げられて前記下面前部が車体下方に向けて張り出すことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記前面部に車体前方から衝撃荷重が作用した場合に、前記下面後部を略水平に保つようにしたことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記下面部は、
前記下面前部および前記下面後部に剛性部をそれぞれ備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記上端取付部および前記下端取付部は、
前記下面前部および前記下面後部を除いた部位に比較して高強度に設定されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−162949(P2010−162949A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4881(P2009−4881)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】