説明

車体後部構造および車体後部製造方法

【課題】製造コストやトランクリッド重量の増大を招かず、且つトランクリッドの意匠を損なうこともなく、トランクリッドの脆弱な部位に生じる亀裂を防止可能な車体後部構造および車体後部製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるトランクリッド100は、インナパネル150と、アウタパネル130と、インナパネルに固定された弾性を有するリインフォースメント160と、リインフォースメントとアウタパネルとの間に配置される発泡樹脂170とを備え、アウタパネル130はアウタアッパパネル130Aおよびアウタロアパネル130Bを含み、アウタアッパパネルおよびアウタロアパネルのフランジ140A、140Bは重なり合っていて、発泡樹脂170は重なり合っているフランジ140A、140Bの形状に応じて変形して硬化していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトランクリッドやバックドアなどの車体後部構造およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セダン型またはクーペ型の車体後部のトランクルームは、その蓋体であるトランクリッドによって開閉される。トランクリッドは、内側のインナパネルと、外側のアウタパネルとの二重構造を有する。さらにアウタパネルは、上部パネル(アウタアッパパネル)と下部パネル(アウタロアパネル)とが継ぎ合わされて構成されていて、両パネルの境界の縁端部で屈曲させた水平フランジを、レーザブレイジングまたはスポット溶接によって接合している。
【0003】
図5(a)に示すように、アウタロアパネル10Aには、アウタアッパパネル10B(図6参考)との境界である水平フランジ付近で形状が急激に変化する部位12があり、かかる部位12には残留応力が発生する。また、薄い鋼板を曲げて成形される当該部位12は、図5(b)の拡大図に示すように、切り欠かれたような形状14にもなり、応力が集中する。そのため、トランクリッド閉時の反動(衝き上げ)による衝撃や車両走行時の振動によって、上記の脆弱な部位に亀裂が生じるおそれがある。
【0004】
かかる事態に対処するため、発泡材を用いてパネルを補強する技術(特許文献1)や、インナパネルおよびアウタパネルの両方に補強部材(リインフォースメント)を溶接固定して、アウタパネルにかかる応力や荷重をインナパネルに分散する技術(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−151317号公報
【特許文献2】特開平7−309251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に記載の技術では、発泡材の膨張を制御できないため、確実な補強が可能か否かに疑義が残る。また、特許文献2の技術では、アウタパネルとリインフォースメントの間に弾性部材を挟んでいるが、トランクリッド閉時の反動(衝き上げ)による衝撃や車両走行時の振動を抑えることはできない。さらに、図6に示すように、インナパネル20に溶接固定されたリインフォースメント30を、アウタパネルを構成するアウタロアパネル10Bにも直接溶接して補強する場合は、追加の樹脂部品40で溶接痕50を被覆する等の処理が必要になり、製造コストやトランクリッド重量が増大してしまう。
【0007】
リインフォースメント30を用いず、アウタパネル10A、10Bの板厚を増やして強度を確保する方法も考えられるが、かかる方法では必要のない部分まで補強することになってしまい、これもトランクリッド重量の増大を招く。
【0008】
また、急激な形状の変化を是正して緩やかな形状にし、応力集中を緩和する方法も考えられるが、意匠が損なわれることとなってしまう。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、製造コストやトランクリッド重量の増大を招かず、且つトランクリッドの意匠を損なうこともなく、トランクリッド開閉時の荷重・衝撃や車両走行時の振動によってトランクリッドの脆弱な部位に生じる亀裂などを防止可能な車体後部構造および車体後部製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体後部構造の代表的な構成は、インナパネルと、アウタパネルとを備える車体後部構造において、インナパネルに固定された弾性を有する補強部材と、補強部材とアウタパネルとの間に配置される膨張体とをさらに備え、アウタパネルは上部パネルおよび下部パネルを含み、上部パネルおよび下部パネルのフランジは重なり合っていて、膨張体は重なり合っているフランジの形状に応じて変形して硬化していることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、膨張体は、フランジの形状に応じて変形して硬化しているため、上部パネルおよび下部パネルは、それらが接合されているフランジの両側から押圧される。これにより、補強部材・上部パネル・下部パネルがまとめて一体的に支持される。したがって、トランク開時のグリップ引き上げ荷重、トランク閉時の衝撃、さらに車両走行時の振動によって上部パネルと下部パネルとが、本来一体的に接合されているべきフランジにて別個に変位し、ぶつかり合うのを防止可能であり、フランジに発生する応力を低減可能である。
【0012】
また、アウタパネルが受ける振動等による荷重は、膨張体から補強部材を介してインナパネルに分散するため、インナパネルに過剰な荷重はかからない。
【0013】
さらに、補強部材はインナパネルに溶接固定されるだけであり、アウタパネルには直接溶接されないため、溶接痕を覆う必要もない。
【0014】
上記の膨張体によれば、必要な部位だけを補強することができ、製造コスト・重量増加を生じない。すなわちレーザブレイジングされるフランジのうち、断面強度が急激・不連続に変化する他の部位の周囲にも、かかる膨張体をピンポイント的に用いて補強すれば、同様の効果が得られる。
【0015】
上記の膨張体は、重なり合っているフランジの上方および下方に膨張した2つの凸部と、重なり合っているフランジに対面する凹部と、を有するとよい。
【0016】
上記の構成によれば、フランジの形状に応じて間隙を充填し、上部パネルと下部パネルとの間で生じる衝撃を効果的に緩和できる。
【0017】
上記の膨張体は熱硬化性の発泡樹脂としてよい。熱硬化性の発泡樹脂は、電着後の乾燥炉で加熱して発泡および熱硬化させる。発泡する際、フランジ周辺の間隙を埋めるように広がって間隙を充填し、その後熱硬化することにより、緩衝・補強材として優れた機能を発揮する。
【0018】
また、熱硬化性の膨張体はアウタパネルの意匠面に及ぼす変形(デフォーム)が少なく、追加の樹脂部品で変形部を覆う等の処理や仕上げが不要である。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体後部製造方法の代表的な構成は、補強部材に熱硬化性の発泡樹脂を貼り付ける工程と、補強部材をトランクリッドのインナパネルに固定する工程と、発泡樹脂を、アウタパネルに含まれる上部パネルおよび下部パネルの、重なり合っているフランジに対面させる工程と、発泡樹脂を加熱することにより発泡させて補強部材とアウタパネルとの間隙に膨張させる工程と、膨張した発泡樹脂を熱硬化させる工程と、を備えることを特徴とする。
【0020】
上述した車体後部構造における技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該車体後部製造方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、製造コストやトランクリッド重量の増大を招かず、且つトランクリッドの意匠を損なうこともなく、トランクリッド開閉時の荷重・衝撃や車両走行時の振動によってトランクリッドの脆弱な部位に生じる亀裂などを防止可能な車体後部構造および車体後部製造方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による車体後部構造の実施形態であるトランクリッドを示す図である。
【図2】図1のトンラクリッドの拡大外観図である。
【図3】図2のアウタパネルの各断面図である。
【図4】図3の発泡樹脂を例示する斜視図である。
【図5】本案のトランクリッドのアウタロアパネルを例示する図である。
【図6】従来のトランクリッド構造を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0024】
(車体後部構造)
図1は、本発明による車体後部構造の実施形態であるトランクリッド100を示す図である。本実施形態はセダン型またはクーペ型の車体のトランクリッド100であり、トランクリッド100はトランクルーム110の蓋体として開閉される。
【0025】
図2は図1のトランクリッド100の拡大外観図である。トランクリッド100の外側は、アウタパネル130で構成されていて、アウタパネル130は、上部パネルであるアウタアッパパネル130Aと、下部パネルであるアウタロアパネル130Bとを含む。
【0026】
図3は図2のアウタパネル130の各断面図であり、図3(a)はA−A断面図、図3(b)はB−B断面図である。
【0027】
図3(a)に示すように、アウタアッパパネル130Aおよびアウタロアパネル130Bのフランジ140A、140Bは、実質的に水平方向に屈曲されていて、互いに重なり合っている。これらフランジ140A、140Bはレーザブレイジングまたはスポット溶接によって接合されている。
【0028】
図3(b)に示すように、トランクリッド100は、アウタパネル130と内側のインナパネル150との二重構造になっていて、インナパネル150にスポット溶接等で固定された、弾性を有する補強部材(リインフォースメント160)を備えている。さらに、リインフォースメント160とアウタパネル130との間には、膨張体として、熱硬化性の発泡樹脂170が配置されている。これは例えば、後に詳述するように、発泡ウレタンとしてよい。
【0029】
発泡樹脂170は、電着(塗装)後の乾燥炉で加熱して発泡および熱硬化させる。発泡する際、図3(a)(b)に示すように膨張し、フランジ140A、140B周辺の間隙を埋めるように広がって間隙を充填し、その後熱硬化することにより、緩衝・補強材として優れた機能を発揮する。
【0030】
なお発泡樹脂170は完全に隙間なくフランジ140A、140B周辺の間隙を充填するように膨張するのが望ましいが、隙間が残っていても支障はない。
【0031】
上記の構成によれば、発泡樹脂170は、フランジ140A、140Bの形状に応じて変形して硬化しているため、アウタアッパパネル130Aおよびアウタロアパネル130Bは、それらが接合されているフランジ140A、140Bのところで、互いに押圧される。これにより、リインフォースメント160・アウタアッパパネル130A・アウタロアパネル130Bがまとめて一体的に支持される。したがって、トランク開時のグリップ引き上げ荷重や、トランク閉時の衝撃、さらに車両走行時の振動を緩和できる。すなわち、アウタアッパパネル130Aとアウタロアパネル130Bとは、フランジ140A、140Bにて本来一体的に接合されているべきところ、それぞれが別個に変位し、フランジ140A、140Bにてぶつかり合ってしまうが、本実施形態によればかかる衝突が防止され、フランジ140A、140Bに発生する応力を低減可能である。
【0032】
とりわけ、アウタパネル130は、図2および図3(b)に示すように、フランジ140A、140B付近で形状が急激に変化する部位180があり、かかる部位180には応力が集中し、亀裂が生じやすい。本実施形態によれば、かかるトランクリッド100の亀裂を防止可能である。
【0033】
また、アウタパネル130が受ける振動等による荷重は、発泡樹脂170からリインフォースメント160を介してインナパネル150に分散するため、インナパネル150に過剰な荷重はかからない。
【0034】
さらに、リインフォースメント160はインナパネル150に溶接固定されるだけであり、アウタパネル130には直接溶接されないため、アウタパネル130の意匠に変形(デフォーム)を生じない。したがって、図6に示した従来技術のように、溶接痕を覆う必要もない。
【0035】
上記の発泡樹脂170によれば、必要な部位だけを補強することができ、製造コスト・重量増加を生じない。すなわちレーザブレイジングされるフランジ140A、140Bのうち、部位180以外の、断面強度が急激・不連続に変化する他の部位の周囲にも、かかる発泡樹脂170をピンポイント的に用いて補強すれば、同様の効果が得られる。
【0036】
なおリインフォースメント160を用いず、発泡樹脂170をインナパネル150に直接貼り付ける方法でも、亀裂を抑制する一定の効果は期待できる。しかし発泡樹脂170が発泡して膨張する領域は制御できるものではないため、リインフォースメント160に発泡樹脂170を載せて、可能な限りアウタパネル130に接近させた状態で用いるのが、補強の確実さの面で得策である。リインフォースメント160はそれ自体弾性を有するため、発泡樹脂170が膨張すると、アウタパネル130に発泡樹脂170を弾性的に押し付けることとなる。そのため、発泡樹脂170の膨張の程度に拘らず、間隙を確実に充填させることが可能である。
【0037】
本実施形態ではトランクリッド100を例として説明したが、かかるトランクリッド100と同様の構造を有するバックドアの補強にも、無論、応用可能である。
【0038】
(発泡樹脂の形状)
図4は図3の発泡樹脂170を例示する斜視図であり、図1の領域200の拡大透視図でもある。図4(a)は膨張前の発泡樹脂170を示し、図4(b)は膨張後の発泡樹脂170を示す。図4では図示の便宜上、アウタパネル130の図示は省略している。図4(b)に示すように、発泡樹脂170は、重なり合っているフランジ140A、140Bの上方および下方に膨張した2つの凸部170A、170Bと、重なり合っているフランジに対面する凹部170Cとを有する。
【0039】
かかる発泡樹脂170の形状は、フランジ140A、140Bの形状に応じて間隙を充填する過程で自然に形成されるものである。これにより、アウタアッパパネル130Aとアウタロアパネル130Bとの間で生じる衝撃を効果的に緩和できる。
【0040】
また、発泡樹脂170としては、図4(a)のように貼り付け可能なシート状のタイプのみならず、粘度の低い、より流動性のある接着剤を塗布してもよい。貼り付けるタイプの発泡樹脂170では、貼り付けられる面が平坦であることが望まれるため、リインフォースメント160にしか貼り付けることができなかったところ、接着剤を塗布する場合には、フランジ140A、140Bが重なり合っている不安定な形状を有するアウタパネル130に塗布することも可能である。
【0041】
発泡樹脂170として、例えば発泡ウレタンを用いる場合、貼り付けられ、または塗布された発泡ウレタンは、ゆっくりと発泡しながら被接着物と接着する性質を有する。したがってフランジ140A、140Bのように凹凸のある部分に生じた間隙を効果的に充填し、フランジ140A、140Bを堅固に支持可能である。
【0042】
(車体後部製造方法)
以上説明した車体後部構造は、以下の車体後部製造方法によって製造される。すなわち本方法は、リインフォースメント160に熱硬化性の発泡樹脂170を貼り付ける工程と、リインフォースメント160をトランクリッド100のインナパネル150に固定する工程と、発泡樹脂170を、アウタパネル130に含まれるアウタアッパパネル130Aおよびアウタロアパネル130Bの、重なり合っているフランジ140A、140Bに対面させる工程と、発泡樹脂170を加熱することにより発泡させてリインフォースメント160とアウタパネル130との間隙に膨張させる工程と、膨張した発泡樹脂170を熱硬化させる工程とを備える。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、車両のトランクリッドやバックドアなどの車体後部構造およびその製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
100 …トランクリッド
110 …トランクルーム
130 …アウタパネル
130A …アウタアッパパネル
130B …アウタロアパネル
140A、140B …フランジ
150 …インナパネル
160 …リインフォースメント
170 …発泡樹脂
170A、170B …凸部
170C …凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナパネルと、アウタパネルとを備える車体後部構造において、
前記インナパネルに固定された弾性を有する補強部材と、
前記補強部材と前記アウタパネルとの間に配置される膨張体とをさらに備え、
前記アウタパネルは上部パネルおよび下部パネルを含み、該上部パネルおよび下部パネルのフランジは重なり合っていて、
前記膨張体は前記重なり合っているフランジの形状に応じて変形して硬化していることを特徴とする車体後部構造。
【請求項2】
前記膨張体は、
前記重なり合っているフランジの上方および下方に膨張した2つの凸部と、
前記重なり合っているフランジに対面する凹部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の車体後部構造。
【請求項3】
前記膨張体は熱硬化性の発泡樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の車体後部構造。
【請求項4】
補強部材に熱硬化性の発泡樹脂を貼り付ける工程と、
前記補強部材をトランクリッドのインナパネルに固定する工程と、
前記発泡樹脂を、アウタパネルに含まれる上部パネルおよび下部パネルの、重なり合っているフランジに対面させる工程と、
前記発泡樹脂を加熱することにより発泡させて前記補強部材と前記アウタパネルとの間隙に膨張させる工程と、
前記膨張した発泡樹脂を熱硬化させる工程と、
を備えることを特徴とする車体後部製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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