説明

車体後部構造

【課題】リヤフレームの断面の大型化を招くことなく、後面衝突時のエネルギー吸収性能を高めることのできる車体後部構造を提供する。
【解決手段】左右のリヤフレーム2,2は、リヤパネル6に後端部が接合される第1フレーム14と、前端部が車体側部のサイドシルに接合されるとともに、後端部に第1フレーム14の前端部が接合される第2フレーム15と、を備えた構成とする。弧状フレーム20を設け、弧状フレーム20の頂部をリヤパネル6に接合するとともに、両端部を第2フレーム15の後端部まで延出させる。弧状フレーム20の端縁と第1フレーム14を、両者の間にスペアタイヤパン8の縁部を挟み込んで接合して、閉断面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体後部のフレームの重量を低減可能な車体後部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の後部には、車体略前後方向に延出する一対のリヤフレームが設けられ、この各リヤフレームの後端部が、車体後部壁を成すリヤパネルに接合されるとともに、各リヤフレームの前端部が車体側部のサイドシルに接合されている。車体左右の各リヤフレームは、後面衝突時に、衝突荷重を左右のサイドシルに伝達するとともに、長手方向に略沿って圧壊して衝突エネルギーを吸収する。また、左右のリヤフレームは、前端位置と略中間位置においてクロスメンバによって相互に結合され、さらに、両リヤフレームにはスペアタイヤ収納部であるスペアタイヤパンが接合されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−338419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この従来の車体後部構造においては、左右のリヤフレームが車体のほぼ前後方向に沿って直線的に延出しているため、荷重入力点が車幅方向の中心領域からずれた後面オフセット衝突があると、衝突側のリヤフレームと非衝突側のリヤフレームで荷重分担が大きく異なる状況(例えば、衝突側のリヤフレーム70%、非衝突側のリヤフレーム30%。)が起こり得る。
【0004】
よって、このような従来の車体後部構造においては、後面オフセット衝突時に、衝突側のリヤフレームに大きな荷重が偏って作用するものと考えられるため、その大荷重を支持し得るようにリヤフレームを補強する必要が生じ、その結果、車体後部のフレーム重量が増加することが懸念される。
【0005】
そこで、この発明は、後面オフセット衝突時の衝突荷重を車体後部で効率良く分散支持できるようにして、車体後部のフレームの重量を低減可能な車体後部構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、車体略前後方向に延出する左右一対のリヤフレーム(例えば、後述の実施形態におけるリヤフレーム2,2)にスペアタイヤパン(例えば、後述の実施形態におけるスペアタイヤパン8)が支持される車体後部構造であって、前記各リヤフレームが、車体後壁を成すリヤパネル(例えば、後述の実施形態におけるリヤパネル6)に後端部が接合される第1フレーム(例えば、後述の実施形態における第1フレーム14)と、前端部が車体側部のサイドシル(例えば、後述の実施形態におけるサイドシル3)に接合されるとともに、後端部に前記第1フレームの前端部が接合される第2フレーム(例えば、後述の実施形態における第2フレーム15)と、を備えた構成とされ、頂部が前記リヤパネルの車幅方向の中央部に接合されるとともに、両側の自由端が前記各リヤフレームの第2フレームの後端部まで延出する平面視で円弧状の弧状フレーム(例えば、後述の実施形態における弧状フレーム20)が設けられ、この弧状フレームの各端縁とその端縁に対応する前記第1フレームとに相互に対向する開断面が形成され、前記弧状フレームの各端縁と対応する第1フレームの間に前記スペアタイヤパンの縁部が跨いで配置され、前記弧状フレームの各端縁と対応する第1フレームが、前記スペアタイヤパンの縁部を挟んで相互に接合されて、閉断面を形成することを特徴とする。
これにより、後面オフセット衝突時に、バンパ等を通してリヤパネルに衝突荷重が入力されると、その衝突荷重は、主に、衝突側リヤフレームの第1フレームの後端と弧状フレームの頂部とに入力される。そして、弧状フレームの頂部に入力された荷重は弧状フレームの両端部を通して左右のリヤフレームにほぼ均等に入力される。また、弧状フレームと各リヤフレームの第1フレームがスペアタイヤパンの縁部を挟んで接合されているため、衝突荷重がスペアタイヤパンにも効率良く伝達される。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、後面オフセット衝突時に、リヤフレームの第1フレーム後端から第2フレーム、サイドシルへと伝わる荷重伝達経路の他に、弧状フレームの頂部から両側の自由端を通り、両側のリヤフレームの第2フレームとサイドシルに伝わる荷重伝達経路を備えるため、リヤフレーム全体の厚肉化を招くことなく衝突荷重を車体後部で効率良く分散支持することができ、その結果、車体フレームの軽量化を図ることが可能になる。
さらに、この発明においては、弧状フレームの端縁と各リヤフレームの第1フレームがスペアタイヤパンの縁部を挟んで接合されて閉断面構造とされているため、衝突荷重をスペアタイヤパンにせん断方向の応力として伝達して、スペアタイヤパンを衝突荷重の吸収に有効に利用することができる。また、弧状フレームの端縁と第1フレームが間にスペアタイヤパンを挟みこんだ状態で接合されているため、弧状フレームとリヤフレームの間の荷重伝達経路の剛性を確実に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、特別に断らない限り、「前」「後」」や「上」「下」は車両についての前後と上下を意味するものとする。また、図中矢印Fは、車両の前方を示し、矢印Uは車両の上方を示すものとする。
図1は、この発明にかかる車体後部構造を採用した車両1を前方斜め上方から見た斜視図であり、図2,図3は、同車両1の図1のA−A断面とB−B断面に夫々対応する断面図、図4は、同車両1を後方斜め下方から見た斜視図である。
【0009】
車両1は、車体後部の下面に左右一対のリヤフレーム2,2が車体前後方向に略沿って配置され、両リヤフレーム2,2の前端部が、車体左右のサイドシル3,3と、そのサイドシル3,3の後端部同士を連結するミドルクロスメンバ4とに結合されている。また、両リヤフレーム2,2の略中間部にはリヤクロスメンバ5が架設され、両リヤフレーム2,2の後端部には、車体の後部壁を成すリヤパネル6が結合されている。リヤパネル6の車外側には、リヤバンパーのバンパービーム(図示せず)が配置されている。また、左右両側のリヤフレーム2,2とリヤクロスメンバ5の上面には、トランクルームの下方でスペアタイヤ7(図2,図3参照)を脱着可能に支持するスペアタイヤパン8が接合されている。
【0010】
スペアタイヤパン8は、その略中央部に下方に略円形状に窪むタイヤ収納部9が設けられ、そのタイヤ収納部9内にスペアタイヤ7(図2,図3参照)が収容されるようになっている。そして、タイヤ収納部9の底壁は、その中心部の近傍に、スペアタイヤ7をボルト固定するためのスペアタイヤアンカーナット10が設置されるとともに、そのスペアタイヤアンカーナット10の設置部の近傍領域を頂部として中央が上方に隆起する略円錐部11が設けられている。
【0011】
スペアタイヤパン8の略円錐部11には、上面側に膨出する複数条、具体的には、5条の弧状ビード12a〜12eがほぼ等ピッチで形成されている。この各弧状ビード12a〜12eは、スペアタイヤアンカーナット10の設置部の近傍を中心とする円弧形状を描くように連続し、かつ、円弧の頂部が車体後方側に向くように形成されている。したがって、略円錐部11のうちの車体後部寄りの領域には、図2に示すように、複数の弧状ビード12a〜12eによる連続した波形断面が車体前後方向に略沿って形成されている。
【0012】
また、スペアタイヤパン8には、各弧状ビード12a〜12eの円弧の両端部とリヤクロスメンバ5の近傍を連結する直線ビード13a〜13eが車体前後方向に沿って形成されている。各直線ビード13a〜13eは弧状ビード12a〜12eと同様にスペアタイヤパン8の上面側に膨出し、対応する弧状ビード12a〜12eと断面が連続するように形成されている。
【0013】
ところで、スペアタイヤパン8を支持する左右の各リヤフレーム2は、図1,図4に示すように、後端部がリヤパネル6に接合される第1フレーム14と、前端部がサイドシル3に接合され、後端部に第1フレーム14の前端部が接合される第2フレーム15とから成り、両者の基本断面(車幅方向で切った断面)が上方に開口するハット形断面、つまり、上方に開口するコ字断面の両縁にフランジ部が設けられた形状とされている。ただし、第1フレーム14の前端寄りの一部は、図3に示すように、スペアタイヤパン8のタイヤ収納部9側に臨む側壁が車幅方向内側に徐々に倒されて断面略L状の異形断面部16となっている。
【0014】
また、リヤパネル6の車幅方向の中央部と、左右のリヤフレーム2,2のうちの第1フレーム14の前端寄りの領域とは、平面視が略円弧状の弧状フレーム20によって結合されている。弧状フレーム20は、図2,図3に示すように、長手方向と直交する断面が略L字状に形成され、円弧の頂部に相当する部分がスペアタイヤパン8の後縁部とリヤパネル6とに重合状態で接合されるとともに、円弧の両側の自由端に相当する部分が夫々左右のリヤフレーム2の第2フレーム15の後端部に達する位置まで延出している。弧状フレーム20の円弧の頂部に相当する部分は、図2に示すように、スペアタイヤパン8の後縁部とともに箱形の閉断面を形成している。
【0015】
また、左右のリヤフレーム2,2の上面には前述のようにスペアタイヤパン8が接合されるが、スペアタイヤパン8の側縁部のうちの、両リヤフレーム2,2の第1フレーム14の前縁部に対応する部位は、図3に示すように、異形断面部16の上面形状に沿うように車体側方に向かって斜めに上方に傾斜している。そして、このスペアタイヤパン8の側縁部は、断面略L字状の弧状フレーム20の端縁と第1フレーム14の異形断面部16によって挟み込まれ、その状態において弧状フレーム20と第1フレーム14とが相互に結合されている。これにより、弧状フレーム20と第1フレーム14によって形成される箱形の閉断面の対角同士がスペアタイヤパン8の側縁部で補強されるとともに、スペアタイヤパン8の側縁部が弧状フレーム20と第1フレーム14によって強固に支持されるようになる。
【0016】
図5〜図7は、車両の後面衝突時におけるスペアタイヤパン8の変形の様子を順次示すものである。なお、これらの図中18は、スペアタイヤパン8の前部側下方でリヤクロスメンバ5とミドルクロスメンバ4の間に配置された燃料タンクである。
【0017】
図5は、スペアタイヤパン8が変形を開始する前の状態を示しており、この状態からリヤパネル6に後面衝突荷重Fが入力されると、その後面衝突荷重Fは、左右のリヤフレーム2の後端部に直接的に入力されてサイドシル3に伝達されるとともに、弧状フレーム20の頂部から両端に向かう荷重伝達経路を通してもサイドシル3に伝達されるようになる。これにより、左右のリヤフレーム2,2が長手方向に圧壊を開始するとともに、図6に示すようにスペアタイヤパン8上の弧状ビード12a〜12eが円弧の頂部部分を中心として潰れ変形するようになる。
【0018】
このとき、各弧状ビード12a〜12eは、両端部が直線ビード13a〜13eを介してリヤクロスメンバ5に剛的に支持されているため、衝突荷重Fがスペアタイヤパン8上の広い領域に分散されることなく、弧状ビード12a〜12eの円弧の頂部付近に集中するようになる。したがって、スペアタイヤパン8は、これにより弧状ビード12a〜12eの円弧の頂部付近が蛇腹状に変形するとともに、弧状ビード12a〜12eの全体が次第に圧壊するようになり、この変形の行程の間に衝突エネルギーを効率良く吸収するようになる。
【0019】
また、上記の状態からさらに後面衝突荷重Fが加わると、最終的には、図7に示すようにスペアタイヤパン8が略円錐部11の頂部付近をさらに上方に押し上げるようにして中折れ変形し、その中折れ変形の間にも衝突エネルギーを効率良く吸収する。そして、このスペアタイヤパン8の中折れ変形は、略円錐部11の頂部付近をさらに上方に押し上げる中折れ変形であるため、スペアタイヤパン8の潰れかすがタイヤパン8の変形代部分に溜まらず、その分、スペアタイヤパン8の潰れ代を大きく確保することができる。すなわち、図7中に鎖線で示すようにスペアタイヤパン8が下方側に中折れ変形した場合には、変形部の間に潰れかすaが入り込んでスペアタイヤパン8のさらなる変形を阻み、その結果、衝突荷重による車体変形がリヤクロスメンバ5よりも前方側に進行するようになるが、この車体後部構造においては、スペアタイヤパン8を上方側に確実に中折れさせることで、潰れかすaによるスペアタイヤパン8の変形阻害を抑制することができる。
【0020】
ここで、衝突位置が車幅方向の左右の一方に偏る後面オフセット衝突の場合には、通常、衝突側のリヤフレーム2に衝突荷重が偏って入力されるようになるが、この車体後部構造を採用した車両1においては、衝突荷重が、衝突側のリヤフレーム2と、車幅方向中央の弧状フレーム20の頂部とに入力され、弧状フレーム20の頂部に入力された荷重は両側の端部を通して左右両側のリヤフレーム2,2の中間位置へと伝達される。したがって、後面オフセット衝突の場合にも、左右のリヤフレーム2,2に荷重支持を可及的に均等に分担させることができるとともに、スペアタイヤパン8に入力される荷重を弧状ビード12a〜12eの頂部付近に確実に作用させることができる。
【0021】
また、この車体後部構造を採用した車両1においては、断面略L字状の弧状フレーム20の端縁が、リヤフレーム2の第1フレーム14のうちの、断面略L字状の異形断面部16にスペアタイヤパン8の縁部を挟み込んだ状態で接合され、弧状フレーム20の端縁と異形断面部16とので閉断面構造が形成されているため、リヤフレーム2と弧状フレーム20に入力される衝突加重をスペアタイヤパン8にせん断方向の応力として伝達することができる。したがって、左右のリヤフレーム2,2の偏った圧壊をスペアタイヤパン8に作用するせん断応力によって規制することができることから、後面オフセット衝突時にも、スペアタイヤパン8上の複数の弧状ビード12a〜12eを、頂部付近を中心として確実に圧壊させることができる。
【0022】
また、この車体後部構造の場合、弧状フレーム20の端縁とリヤフレーム2(第1フレーム14)が閉断面を成すようにして相互に結合されているため、2つの荷重伝達経路の合流部の剛性を確実に高めることができる。特に、弧状フレーム20とリヤフレーム2の結合部の方形断面は、対角部同士を結ぶようにスペアタイヤパン8が介在されているため、断面の潰れを有効に規制することができる。
【0023】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態を示すものであり、車体後部側の骨格部を前方斜め上方から見た斜視図。
【図2】同実施形態を示す図1のA−A断面に対応する断面図。
【図3】同実施形態を示す図1のB−B断面に対応する断面図。
【図4】同実施形態を示すものであり、車体後部側の骨格部を後方斜め下方から見た斜視図。
【図5】同実施形態を示すものであり、後面衝突初期における図1のB−B断面に対応する断面図。
【図6】同実施形態を示すものであり、後面衝突中期における図1のB−B断面に対応する断面図。
【図7】同実施形態を示すものであり、後面衝突後期における図1のB−B断面に対応する断面図。
【符号の説明】
【0025】
2…リヤフレーム
3…サイドシル
6…リヤパネル
8…スペアタイヤパン
14…第1フレーム
15…第2フレーム
20…弧状フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体略前後方向に延出する左右一対のリヤフレームにスペアタイヤパンが支持される車体後部構造であって、
前記各リヤフレームが、
車体後壁を成すリヤパネルに後端部が接合される第1フレームと、
前端部が車体側部のサイドシルに接合されるとともに、後端部に前記第1フレームの前端部が接合される第2フレームと、
を備えた構成とされ、
頂部が前記リヤパネルの車幅方向の中央部に接合されるとともに、両側の自由端が前記各リヤフレームの第2フレームの後端部まで延出する平面視で円弧状の弧状フレームが設けられ、
この弧状フレームの各端縁とその端縁に対応する前記第1フレームとに相互に対向する開断面が形成され、
前記弧状フレームの各端縁と対応する第1フレームの間に前記スペアタイヤパンの縁部が跨いで配置され、
前記弧状フレームの各端縁と対応する第1フレームが、前記スペアタイヤパンの縁部を挟んで相互に接合されて、閉断面を形成することを特徴とする車体後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−279798(P2008−279798A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123385(P2007−123385)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】