説明

車体骨格構造

【課題】アウタパネルとインナパネルの互いに対向するフランジの付け根部分を互いに直接接着することで、剛性強化を図れる車体骨格構造を提供する。
【解決手段】長手方向Xに延設される主部801の両端縁より第1フランジ81f0を突設した第1パネル8と長手方向に延設される主部901の両端縁より第2フランジ91f0を突設した第2パネル9とを有し、互いに対向する両2フランジの接合面を互いに接着して閉断面室Eを形成した車体骨格構造において、閉断面室と対向する内側部位の両側面に長手方向に沿って接着剤s1を所定幅b1で仮付けした薄板部材19をアウタフランジとインナフランジの両接合面間で摺動させることで、仮付け接着剤s1を両接合面のうち閉断面室と対向する内側端部p0に同部を覆うよう塗布した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車などに用いる車体骨格構造、特に、アウタフランジとインナフランジの両接合面を接着剤で接着して中空室を囲む閉断面形状を成すように形成された車体骨格構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体骨格構造、例えば、自動車の車体骨格構造は、長手方向に延びる複数のパネルを互いに重ねて一体結合することで閉断面構造をなすように形成され、これにより、車体骨格構造が剛性強化と軽量化を図れるようにしている。
例えば、表裏一対のアウタパネルとインナパネルを閉断面構造をなすよう相互に組み付け一体化する場合、その長手方向に沿った両端縁にフランジが形成され、これら両端縁のフランジが互いに重ねられ、接合され、更に、各パネルの中央部をそれぞれ膨出状に形成することで両パネルが中空室を囲む閉断面構造をなす車体骨格構造として形成されている。
【0003】
ところで、この際、アウタパネルとインナパネルの両端縁のフランジが互いに接合されるにあたり、スポット溶接や栓溶接が利用されている。
しかし、これら溶接処理に比べて作業性の向上を図りやすく、熱歪の発生を排除できる接着剤による接合処理が適所に採用されることが多くなっている。
【0004】
たとえば、図7に示すように、車体側壁下部に設けられるサイドシル100の場合、アウタパネル110とインナパネル120とが接着処理によって一体接合されることでサイドシル100を一体形成することが行われている。この場合、アウタパネル110とインナパネル120の互いに重なる各フランジf1、f2の接合面には予め接着剤130が長手方向(紙面垂直方向)に連続し、あるいは間欠的に長く塗布される。その上で、互いに対向する各フランジf1、f2が所定のクランプ手段によって一体的にクランプされ、加熱工程で熱硬化されて、強固に接着され、閉断面室Eを囲むサイドシル100が形成されている。
【0005】
なお、このような車体骨格構造及びその成形方法の一例が特開平2−211986号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−211986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示される構造や図7に示す構造が採用され、アウタパネル110とインナパネル120の互いに重なる各フランジf1、f2の接合面が接着剤で接合されているとする。このような場合、アウタパネル110とインナパネル120の各フランジf1、f2の接合面の突き出し方向Zにおける中央部分に接着剤130が塗布される。このため、各フランジf1、f2の付け根部分である内側端部pに接着剤が十分に塗布されることが少なく、互いに対向する各フランジの付け根部分である内側端部pは相互に隙間t1を介して対向状態に保持される。
【0008】
このような車体骨格構造を採用するサイドシル100を備えた車両が側突を受け、過荷重がサイドシルに加わったとする。
この場合、アウタパネル110とインナパネル120の各主部の両端より屈曲して延出形成された各フランジf1、f2の付け根部分、即ち、閉断面室に対向する内側端部pに過荷重が加わる。すると、この内側端部pが互いに接着状態にない上、隙間t1を生じていることが多いため、変形が生じ易く、変形を促進する傾向にある。
【0009】
このように、アウタパネル110とインナパネル120の各フランジf1、f2の付け根部分である内側端部pは剛性が比較的低いことより、過荷重を受けると変形が進み、サイドシル100自体の剛性を低下させる要因となる場合があり、改善が望まれている。
本発明は以上のような課題に基づきなされたもので、目的とするところは、アウタパネルとインナパネルの互いに対向するフランジの付け根部分を互いに直接接着することで、相互の隙間をなくして、過荷重による変形の発生を防止し、剛性強化を図れる車体骨格構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここでの本願の請求項1の発明は、長手方向に延設される主部の両端縁より第1フランジを突設した第1パネルと前記長手方向に延設される主部の両端縁より第2フランジを突設した第2パネルとを有し、互いに対向する前記第1フランジと前記第2フランジの各接合面を互いに接着して閉断面室を形成した車体骨格構造において、前記閉断面室と対向する内側部位の両側面に前記長手方向に沿って接着剤を所定幅で仮付けした薄板部材を前記アウタフランジとインナフランジの両接合面間で摺動させることで、前記仮付け接着剤を前記両接合面のうち前記閉断面室と対向する内側端部に同部を覆うよう塗布した、ことを特徴とする。
【0011】
ここでの請求項2の発明は、請求項1記載の車体骨格構造において、前記薄板部材は前記第1フランジと第2フランジの両接合面間に挟持されたリンフォースを成す、ことを特徴とする。
【0012】
ここでの請求項3の発明は、請求項1または2記載の車体骨格構造において、前記第1パネルはアウタパネルであり、前記第2パネルはインナパネルである、ことを特徴とする。
【0013】
ここでの請求項4の発明は、請求項1、2または3記載の車体骨格構造において、前記薄板部材に仮付けされる接着剤は熱硬化性の接着剤である、ことを特徴とする。
【0014】
ここでの請求項5の発明は、長手方向に延設される第1パネルの両端縁より突設した第1フランジと前記長手方向に延設される第2パネルの両端縁より突設した第2フランジとの各接合面を互いに接着して閉断面室を成すように形成する車体骨格構造の製造方法において、前記閉断面室の外部に延出する外側部位と前記閉断面室に対向し両側面に接着剤を仮付けした内側部位とを有する薄板部材を前記第1フランジと第2フランジの両接合面間に挟持し、次いで、前記薄板部材の外側部位に摺動操作力を加えることで内側部位の仮付け接着剤を前記第1フランジと第2フランジの両接合面の内側端部を覆うように塗布する、ことを特徴とする。
【0015】
ここでの請求項6の発明は、請求項5記載の車体骨格構造の製造方法において、前記薄板部材に仮付けされる接着剤は熱硬化性の接着剤であり、前記仮付け接着財を前記内側端部より外側端部に向けて両接合面間に塗布した後、前記車体骨格構造が加熱工程において加熱される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明は、接着剤を所定幅で仮付けした薄板部材をアウタフランジとインナフランジの両接合面間で摺動させることで、第1フランジと第2フランジの両接合面のうち閉断面室と対向する内側端部周りに仮付け接着剤が長手方向に沿って内側端部を覆うよう塗布され、これが硬化することで、両接合面の接合部のうち、最も剥離し易い閉断面室と対向する内側端部を強固に確実に接合でき、接合強度を十分に確保できる。
【0017】
請求項2の発明は、第1フランジがアウタパネルであり、第2フランジがインナパネルである場合も、両接合面の接合部のうち、最も剥離し易い閉断面室と対向する内側端部を強固に確実に接合でき、接合強度を十分に確保できる。
【0018】
請求項3の発明は、両接合面間で薄板部材が摺動することで、閉断面室と対向する内側端部を仮付け接着剤が覆うように塗布することができ、その上で薄板部材がリンフォースとしても機能するので、薄板部材をリンフォースとして兼用できる。
【0019】
請求項4の発明は、薄板部材の仮付け接着剤が車体形成時に塗布された後に、加熱工程、において、加熱されることで、両接合面の接着剤、特に、内側端部周りを覆う接着剤が確実に硬化し、両接合面の接合部のうち、最も剥離し易い閉断面室と対向する内側端部を強固に確実に接合でき、接合強度を十分に確保できる。
【0020】
請求項5の発明は、薄板部材に摺動操作力を加えることで内側部位の仮付け接着剤を両接合面の内側端部を覆うように塗布した上で外側端部に向けて両接合面間に塗布することができ、この内側端部を覆う接着剤が硬化することで、両接合面の接合部のうち、最も剥離し易い閉断面室と対向する内側端部を強固に確実に接合でき、接合強度を十分に確保できる車体骨格構造を容易に形成することができる。
【0021】
請求項6の発明は、薄板部材の仮付け接着剤が車体形成時に塗布された後に、加熱工程、において、加熱されることで、両接合面の接着剤、特に、内側端部周りを覆う接着剤が確実に硬化し、両接合面の接合部のうち、最も剥離し易い閉断面室と対向する内側端部を強固に確実に接合でき、接合強度を十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態としての車体骨格構造が適用されたアウタパネルとインナパネルの結合体の概略側面図である。
【図2】図1の車体骨格構造のA−A線断面図であると共に(a)〜(e)は第1実施形態であるサイドシルの形成組立工程を順次説明する図である。
【図3】図1の車体骨格構造のA−A線断面図であると共に(a)〜(e)は第2実施形態であるサイドシルの形成組立工程を順次説明する図である。
【図4】図1の車体骨格構造のA−A線断面図であると共に(a)〜(f)は第3実施形態であるサイドシルの形成組立工程を順次説明する図である。
【図5】図1の車体骨格構造のB−B線断面図であると共に(a)〜(g)は第4実施形態であるサイドルーフレールの形成組立工程を順次説明する図である。
【図6】図1の車体骨格構造のC−C線断面図であると共に(a)〜(f)は第5実施形態であるセンターピラの形成組立工程を順次説明する図である。
【図7】従来装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1にはこの発明の一実施形態である車体骨格構造を有する車両の側壁骨格構造体STを示す。
この側壁骨格構造体STは車室R及びトランクルームTR(紙面裏側に配設される)の側方を覆う側壁として形成されている。この側壁骨格構造体STは、後述のアウタパネル8(第1パネル)とその内側(紙面で裏側)に重ねられたインナパネル9(第2パネル)とを、互いに接着剤で接合後にスポット溶接され、主要部分が閉断面室E(図2(a)〜(e)参照)を成すように形成されている。
【0024】
図1に示すように、車両(不図示)は前後ドア(不図示)により開閉される前後ドア開口1、2を前後に並べて形成されている。前ドア開口1はその開口周縁を成すように前側にフロントピラ3を、後側にセンターピラ4を配し、上側にルーフサイドレール5を、下側にサイドシル6を配している。これら前ドア開口1の周縁形成部材は相互に一体接合されている。後ドア開口2はその開口周縁を成すように前側にセンターピラ4を、後側にリヤピラ7を配し、上側に前ドア開口1側より延出するサイドルーフレール5の後部を、下側に前ドア開口1側より延出するサイドシル6の後部を配している。これら後ドア開口2の周縁形成部材は相互に一体接合されている。
【0025】
図1に示すサイドシル6は閉断面構造を成し、図2に示すように、サイドシル6におけるアウタパネル8とインナパネル9とにより形成されている。
ここで、アウタパネル8の両側端のフランジ81f0と、インナパネル9の両側端のフランジ91f0とが互いに重ね合わされ、後述するように相互に接着及びスポット溶接され、一体化されている。さらに、サイドシル6はその車体中央側(図2で右側)との対向壁に車室R側のフロア部材13や不図示のクロスメンバを溶着している。しかも、図1に示すように、サイドシル6はその前側端がフロントピラ3の下端部に溶着され、後側端がリヤピラ7の下端部に溶着され、前後方向の中間部にはセンターピラ4の下端部が溶着される。
【0026】
次に、図1に示すサイドルーフレール5は閉断面構造を成し、図5(f)、(g)に示すように、サイドルーフレール5におけるアウタパネル8とインナパネル9とその間の閉断面室Eを2分するリンフォース12とにより形成されている。ここで、アウタパネル(第1パネル)8の両側端のフランジ81f1と、インナパネル(第2パネル)9の両側端のフランジ91f3と、その間のリンフォース12の両側端のフランジ12f3とが互いに重ね合わされ、後述するように相互に接着及び溶着され、一体化されている。
図5(f)、(g)に示すように、サイドルーフレール5の車体中央側の3枚重ねのフランジ部fg1にはルーフ11の側縁部が重ねられ、不図示のクランプ装置によってクランプされた上で、相互に接着された上でスポット溶接されている。
【0027】
次に、図1に示すフロントピラ3は縦長のハット型断面(不図示)のフロントピラ3におけるアウタパネル8とプレート状のインナパネル9(不図示)と、適所に設けられる不図示のリンフォースとにより形成される。ここで、アウタパネル8とインナパネル9とが互いの端部フランジを溶接されることで、閉断面構造の縦長のフロントピラ3として形成される。フロントピラ3のフロントピラ下部3dには上下一対のヒンジ取り付け部14が形成され、フロントピラ下部3dの上端からは斜め上方に向けてフロントウインドウの側方枠部を兼ねたフロントピラ上部3uが延出形成されている。
フロントピラ下部3dの上下方向での中間部には前方に向けて接続構造部15が突設されている。この接続構造部15は不図示のエンジンルームに対設されたタイヤハウスインナ(不図示)の後部側に重ねられ、相互に溶着される。これにより、車室Rの前側の不図示のエンジンルームの側壁形成部材と一体接続可能に形成されている。
【0028】
次に、図1に示すように、センターピラ4は図6(e)、(f)に示すように、縦長のハット型断面のセンターピラ4におけるアウタパネル8とプレート状の縦長のインナパネル9と、適所に設けられるリンフォース16とにより形成される。なお、図1に示すように、センターピラ4におけるアウタパネル8の上下方向の中間部にはリヤドア取付用の上下一対のヒンジ取り付け部17が形成されている。
図6(e)、(f)に示すように、アウタパネル8の両側端のフランジ81f3と、インナパネル9の端縁フランジ91f3とそれらの間にリンフォース16が配備されるとそのリンフォースフランジ16f3が互いに重ね合わされ、相互に接着及びスポット溶接が成され、閉断面構造の縦長のセンターピラ4として形成されている。
【0029】
センターピラ4の下端はサイドシル6の上面や外向き面に重なる湾曲延出部が形成され相互に溶着されている。センターピラ4の上端はサイドルーフレール5の下面や外向き面に重なる屈曲接続片が延出形成され、相互に溶着されている。
次に、図1に示すように、リヤピラ7はそのリヤピラ7におけるアウタパネル8が後方にリヤサイドフェンダー801を延出形成し、これによりトランクルームTRの側壁部を形成している。なお、リヤピラ7の内側の不図示のリヤピラインナの上部はサイドルーフレール5の後端部に接続され、下部はトランクルームTRのフロア18や不図示のリヤクロスメンバの側端部に溶着されている。
【0030】
次に、側壁骨格構造体STが有する車体骨格構造Aの一例(第1実施形態)であるサイドシル6を説明する。
ここでサイドシル6のアウタパネル(第1パネル)8は、図1に示すように、長手方向X(図2で紙面垂直方向)に延設され、図2に示すように、膨出状断面の主部801の両端縁よりアウタフランジ(第1フランジ)81f0を上下にそれぞれ延設している。一方、インナパネル(第2パネル)9は長手方向X(図2で紙面垂直方向)に延設されるハット形断面の主部901の両端縁よりインナフランジ(第2フランジ)91f0を上下にそれぞれ延設している。
【0031】
このようなサイドシル6は車体組み立て時において、図2(a)に示すように、インナパネル9がその車体中央側との対向壁を成す主部901に車室R側のフロア部材13や不図示のクロスメンバを溶着した状態で供給される。次いで、インナパネル9に側方よりアウタパネル8が供給され、両者間に薄板部材19が挟まれ、全体は、図2(b)に示すように、クランプc1によって仮クランプ状態に保持される。
薄板部材19はフィルム状を成し、アウタパネル8のフランジ81f0及びインナパネル9のインナフランジ91f0とほぼ同程度の長さ(紙面垂直方向長さ)で形成されている。
【0032】
薄板部材19の閉断面室Eと対向する下側部位191(内側部位)の両側面には、その長手方向X(紙面垂直方向)に沿って接着剤s1が所定幅b1で長手方向Xに紐状に膨出状態で仮付けされた上で供給されている。なお、薄板部材19に仮付けされる仮付け接着剤s1は、熱硬化性の接着剤である。
図2(b)に示す仮クランプ状態において、薄板部材19に対してアウタパネル8のフランジ81f0及びインナパネル9のフランジ91f0が相対的に摺動可能な程度のクランプ力を加えることができるように、クランプ装置c1のクランプ力の調整がなされる。 次いで、図2(c)に示すように、フィルム状の薄板部材19の上側部位192(外側部位)はアウタパネル8とインナパネル9の両フランジ81f0、91f0間より仮クランプ状態に保持されたままで、作業者、または、引抜き用のロボットにより引抜き処理される。
【0033】
この際、上側部位192の複数箇所に摺動操作力を加えて、薄板部材19の下側部位191の長手方向Xでの全体部分を閉断面室Eより外部にほぼ同時に引き出し処理する。
これによって、下側部位(内側部位)191に紐状に仮付けされていた仮付け接着剤s1がアウタパネル8とインナパネル9の両フランジ81f0、91f0との両接合面(紙面垂直方向である長手方向Xに延設されている)に沿って塗布される。特に、両接合面の閉断面室Eと対向する内側端部p0には同部を覆うように仮付け接着剤s1がかき取られ、この仮付け接着剤s0が内側端部p0を覆うように、膨出状態をなすように(凸状に)塗布される。
【0034】
この後、薄板部材19はサイドシル6側より排除され、サイドシル6は仮クランプ状態よりクランプ力を高めた適正のクランプ処理がなされ(図2(c)参照)、次いで、図2(d)に示すスポット溶接工程に搬送される。そこでは、アウタパネル8及びインナパネル9のフランジ81f0、91f0が2枚重ね状態のままスポット溶接される。
この後、車体骨格構造Aを備えた車体は、図2(e)に示す塗装工程部に搬送され、そこでの塗装器21で塗装処理の後、塗膜の焼付け処理において加熱器22で加熱処理される。この際、サイドシル6のアウタフランジ81f0とインナパネル9のインナフランジ91f0の各接合面間の接着剤が加熱硬化し、サイドシル6の周縁部のフランジ接合部はスポット溶接箇所が溶着状態を保持すると共に接着剤s1が硬化することで確実に接着され、サイドシル6全体が強固に接合される。
【0035】
この際、特に、アウタパネル8及びインナパネル9の両フランジ81f0、91f0の両接合面のうち、閉断面室Eと対向する内側端部p0が仮付け接着剤s1により同部を覆うよう膨出状に十分な量で塗布される。この部分が加熱によって硬化することで、十分な量の硬化した接着剤s1がアウタパネル8及びインナパネル9の両フランジ81f0、91f0の内側端部p0を強固に確実に接合できる。
このため、たとえ、車両の側突時において、過荷重がサイドシル6に加わるとしても、両フランジ81f0、91f0の両接合面の内側端部p0が変形することを十分に抑制でき、この点でサイドシル6の剛性強化を図ることができる。
【0036】
次に、車体骨格構造Aの他の一例(第2実施形態)であり、上述のサイドシル6に代えて採用できる、変形例であるサイドシル6aを図3に沿って説明する。
ここでのサイドシル6aは図2のサイドシル6と比較し、リンフォースとして兼用される薄板部材19aを用いる点のみが相違し、それ例外の構成の重複説明を略す。
ここで図3に示すサイドシル6aは、車体組み立て時において、図3(a)に示すように、インナパネル9に側方よりアウタパネル8が供給され、両者間にリンフォースとして兼用される薄板部材19aが挟まれ、全体は、図3(b)に示すように、クランプc1によって仮クランプ状態に保持される。この場合、アウタパネル8のフランジ81f0及びインナパネル9のインナフランジ91f0に挟持された薄板部材19aは、そのうちの下側部位(外側部位)191が所定量下方外側に突出し、上側部位(内側部位)192が所定量両フランジ81f0、91f0間の下部側に挟持されるように予め上下幅が設定され、形成されている。
【0037】
薄板部材19aはリンフォースとして兼用されるもので、鋼板のプレート材で形成され、アウタパネル8のフランジ81f0及びインナパネル9のインナフランジ91f0とほぼ同程度の長さ(紙面垂直方向長さ)で形成されている。
薄板部材19aの閉断面室Eと対向する上側部位(内側部位)192の上部の両側面には、その長手方向X(紙面垂直方向)に沿って接着剤s1が所定幅b1で紐状に膨出状態で仮付けされた上で供給されている。
次いで、図3(b)、(c)に示すように、鋼鈑である薄板部材19aの下側部位191はアウタパネル8とインナパネル9の両フランジ81f0、91f0間より仮クランプ状態に保持されたままで、下方に突き出しており、この部位を作業者、または、押圧用のロボットにより押圧力F2を加え、押し込み処理される。
【0038】
これによって、上側部位192に長手方向(紙面垂直方向)に沿って紐状に仮付けされていた仮付け接着剤s1がアウタパネル8とインナパネル9の両フランジ81f0、91f0との両接合面(紙面垂直方向である長手方向に延設されている)に沿って塗布される。特に、両接合面の閉断面室Eと対向する内側端部p0には同部を覆うように仮付け接着剤s1がかき取られ、この仮付け接着剤s0が内側端部p0を覆うように、膨出状態をなすように(凸状に)塗布される。
この際、薄板部材19aはアウタパネル8とインナパネル9の両フランジ81f0、91f0間に上下方向においてずれなく配備され、相互に接着される。
【0039】
その上でサイドシル6aは仮クランプ状態よりクランプ力を高めた適正のクランプ処理がなされる(図3(c)参照)。
次いで、図3(d)に示すスポット溶接工程で、アウタパネル8及びインナパネル9のフランジ81f0、91f0及びそれらに挟持されたリンフォースを成す薄板部材19aが3枚重ね状態のままスポット溶接される。
この後、車体骨格構造Aの他の一例であるサイドシル6aを備えた車体は、図3(e)に示す塗装工程部で塗装処理の後、塗膜の焼付け処理において加熱処理される。この際、サイドシル6aのアウタフランジ81f0とインナパネル9のインナフランジ91f0及びリンフォースを成す薄板部材19aの各接合面間の接着剤が加熱硬化する。しかも、これらサイドシル6aの周縁部のフランジ接合部はスポット溶接状態を保持すると共に接着剤s1が硬化することで、確実にシール性よく接着され、サイドシル6全体が強固に接合される。
【0040】
この場合も、閉断面室E1、E2と対向し薄板部材19aを挟む内側端部p0には仮付け接着剤s1が同部を覆うよう膨出状に十分な量で塗布され、加熱によって硬化され、薄板部材19aを挟むアウタパネル8及びインナパネル9の両フランジ81f0、91f0の内側端部p0を強固に確実に接合できる。しかも、アウタパネル8とインナパネル9及びその間のリンフォースを成す薄板部材19aが内外閉断面室E1、E2を形成するので、サイドシル6全体剛性がより強化される。
【0041】
次に、車体骨格構造Aの他の一例(第3実施形態)であり、上述のサイドシル6に代えて採用できる、変形例としてのサイドシル6bを図4に沿って説明する。
ここでのサイドシル6bは図2のサイドシル6と比較し、予めアウタパネル8にリンフォース19bを接合してサイドシルアウタ結合体m1を形成した上で、このアウタ結合体m1とインナパネル9とを接着し、スポット溶接する点でのみ相違し、それ例外の構成の重複説明を略す。
【0042】
車体組み立て時において、図4(a)に示すように、インナパネル9に側方よりアウタパネル8が供給され接着されることでサイドシルアウタ結合体m1が形成される。
次いで、図4(b)、(c)に示すように、第1パネルを成すサイドシルアウタ結合体m1にインナパネル(第2パネル)9が重ねられ、その際、両者間に図2で説明したと同様のフィルム状を成す薄板部材19が挟まれ、全体は仮クランプ状態に保持される。
【0043】
次いで、図4(d)に示すように、薄板部材19はサイドシルアウタ結合体m1とインナパネル9の両フランジm1f0、91f0間より仮クランプ状態に保持されたままで、作業者、または、引抜き用のロボットにより引抜き処理される。
これによって、下側部位191に仮付けされていた仮付け接着剤s1がサイドシルアウタ結合体m1とインナパネル9の両フランジm1f0、91f0の両接合面に沿って塗布される。特に、内側端部p0には同部を覆うように仮付け接着剤s1がかき取られ、この仮付け接着剤s0が内側端部p0を覆うように塗布される。
【0044】
この後、薄板部材19はサイドシル6側より排除され、サイドシル6は仮クランプ状態よりクランプ力を高めた適正のクランプ処理がなされ(図4(d)参照)、次いで、図4(e)に示すスポット溶接工程に搬送される。そこでは、アウタパネル8及びインナパネル9のフランジ81f0、91f0が2枚重ね状態のままスポット溶接される。
この後、車体骨格構造Aを備えた車体は、図4(f)に示す塗装工程部で塗装され、塗膜の焼付け処理において加熱器22で加熱処理される。
この場合も、サイドシル6の周縁部のフランジ接合部はスポット溶接箇所が溶着状態を保持すると共に接着剤s1が硬化することで確実に接着され、サイドシル6全体が強固に接合される。特に、内側端部p0が仮付け接着剤s1により覆うよう十分な量で塗布されるので、この部分が硬化することで、内側端部p0を強固に確実に接合でき、この点でサイドシル6の剛性強化を図ることができる。
【0045】
次に、上述の側壁骨格構造体STが有する車体骨格構造Aの他の一例(第4実施形態)であるサイドルーフレール5とその組み立て工程とを図5に沿って説明する。
ここでのサイドルーフレール5は図2のサイドシル6と比較し、予めアウタパネル8にリンフォース12を接合してサイドレールアウタ結合体m2を形成した上で、このサイドレールアウタ結合体m2とインナパネル9とを接着し、スポット溶接する点でのみ相違し、それ例外の構成の重複説明を略す。
図5(a)に示すように、アウタパネル9に側方よりリンフォース12が供給され接着されることでサイドレールアウタ結合体m2が形成される。
【0046】
次いで、図5(b)、(c)に示すように、第1パネルを成すサイドレールアウタ結合体m2にインナパネル(第2パネル)9が重ねられ、その際、両者のフランジm2f2、91f2間に図2で説明したと同様のフィルム状を成す薄板部材19が挟まれ、全体は仮クランプ状態に保持される。
次いで、図5(d)に示すように、薄板部材19はサイドレールアウタ結合体m2とインナパネル9の両フランジm2f2、91f2より仮クランプ状態に保持されたままで、引抜き処理される。
【0047】
この後、図5(e)に示すように、サイドシル6は適正のクランプ処理がなされ、次いで、スポット溶接工程で、サイドレールアウタ結合体m2及びインナパネル9のフランジm2f2、91f2が3枚重ね状態のままスポット溶接され、3枚重ねのフランジ部fg1が形成される。
この後、車体骨格構造Aを成すサイドルーフレール5を備えた車体は、図5(f)において3枚重ねのフランジ部fg1にルーフ11の側縁部が溶接され、図5(g)において塗装され、塗膜の焼付け処理において加熱器22で加熱処理される。
この場合も、サイドルーフレール5の周縁部のフランジ接合部はスポット溶接箇所が溶着状態を保持すると共に接着剤s1が硬化することで確実に接着され、サイドルーフレール5全体が強固に接合される。特に、内側端部p0が仮付け接着剤s1により覆うよう十分な量で塗布されるので、この部分が硬化することで、内側端部p0を強固に確実に接合でき、この点でサイドルーフレール5の剛性強化を図ることができる。
【0048】
次に、上述の側壁骨格構造体STが有する車体骨格構造Aの他の一例(第5実施形態)であるセンターピラ4とその組み立て工程とを図6に沿って説明する。
ここでのセンターピラ4は図2のサイドシル6と比較し、予め縦長のハット型断面のアウタパネル8にリンフォース16を接合してピラアウタ結合体m3を形成した上で、このピラアウタ結合体m3とプレート状の縦長のインナパネル9とを接着し、スポット溶接する点でのみ相違し、それ例外の構成の重複説明を略す。
図6(a)に示すように、アウタパネル8に側方よりリンフォース16が供給され接着されることでピラアウタ結合体m3が形成される。
【0049】
次いで、図6(b)、(c)に示すように、第1パネルを成すピラアウタ結合体m3にインナパネル(第2パネル)9が重ねられ、その際、両者のフランジm3f3、91f3間に図2で説明したと同様のフィルム状を成す薄板部材19が挟まれ、全体は仮クランプ状態に保持される。なお、ここでは薄板部材19が左右2つ使用されるが、説明簡素化のため、一方側を主に説明する。
次いで、図6(d)に示すように、薄板部材19はピラアウタ結合体m3とインナパネル9の両フランジm3f3、91f3より仮クランプ状態に保持されたままで、引抜き処理される。
【0050】
この後、図6(e)に示すように、センターピラ4は適正のクランプ処理がなされ、次いで、スポット溶接工程で、ピラアウタ結合体m3及びインナパネル9のフランジm3f3、91f3が3枚重ね状態のままスポット溶接され、3枚重ねのフランジ部fg2が形成される。
この後、車体骨格構造Aを備えた車体は、図6(f)において塗装され、塗膜の焼付け処理において加熱器22で加熱処理される。
この場合も、センターピラ4の周縁部のフランジ接合部はスポット溶接箇所が溶着状態を保持すると共に接着剤s1が硬化することで確実に接着され、サイドルーフレール5全体が強固に接合される。特に、内側端部p0が仮付け接着剤s1により覆うよう十分な量で塗布されるので、この部分が硬化することで、内側端部p0を強固に確実に接合でき、この点でセンターピラ4の剛性強化を図ることができる。
【符号の説明】
【0051】
4 センターピラ
5 サイドルーフレール
6、6a、6b サイドシル
8 第1パネル(アウタパネル)
801 主部
81f0、m2f2、m3f3 第1フランジ
9 第2パネル(インナパネル)
901 主部
91f0,91f2、91f3 第2フランジ
19、19a 薄板部材
b1 所定幅
p0 内側端部
s1 仮付け接着剤
A 車体骨格構造
E 閉断面室
ST 側壁骨格構造体
X 長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延設される主部の両端縁より第1フランジを突設した第1パネルと前記長手方向に延設される主部の両端縁より第2フランジを突設した第2パネルとを有し、互いに対向する前記第1フランジと前記第2フランジの各接合面を互いに接着して閉断面室を形成した車体骨格構造において、
前記閉断面室と対向する内側部位の両側面に前記長手方向に沿って接着剤を所定幅で仮付けした薄板部材を前記アウタフランジとインナフランジの両接合面間で摺動させることで、前記仮付け接着剤を前記両接合面のうち前記閉断面室と対向する内側端部に同部を覆うよう塗布した、ことを特徴とする車体骨格構造。
【請求項2】
請求項1記載の車体骨格構造において、
前記薄板部材は前記第1フランジと前記第2フランジの両接合面間に挟持されたリンフォースを成す、ことを特徴とする車体骨格構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の車体骨格構造において、
前記第1パネルはアウタパネルであり、前記第2パネルはインナパネルである、ことを特徴とする車体骨格構造。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の車体骨格構造において、
前記薄板部材に仮付けされる接着剤は熱硬化性の接着剤である、ことを特徴とする車体骨格構造。
【請求項5】
長手方向に延設される第1パネルの両端縁より突設した第1フランジと前記長手方向に延設される第2パネルの両端縁より突設した第2フランジとの各接合面を互いに接着して閉断面室を成すように形成する車体骨格構造の製造方法において、
前記閉断面室の外部に延出する外側部位と前記閉断面室に対向し両側面に接着剤を仮付けした内側部位とを有する薄板部材を前記第1フランジと第2フランジの両接合面間に挟持し、
次いで、前記薄板部材の外側部位に摺動操作力を加えることで内側部位の仮付け接着剤を前記第1フランジと第2フランジの両接合面の内側端部を覆うように塗布する、ことを特徴とする車体骨格構造の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の車体骨格構造の製造方法において、
前記薄板部材に仮付けされる接着剤は熱硬化性の接着剤であり、
前記仮付け接着財を前記内側端部より外側端部に向けて両接合面間に塗布した後、前記車体骨格構造が加熱工程において加熱される、ことを特徴とする車体骨格構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−162980(P2010−162980A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5565(P2009−5565)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】