説明

車輪位置特定装置

【課題】車輪位置特定装置において、車体側の車輪速センサからの検出結果を使用することなく、車輪側の回転状態センサからの検出結果のみを使用して車輪の車輪位置を短時間かつ確実に特定する。
【解決手段】車輪位置特定装置は、各ホイールシリンダのうち少なくとも一つに油圧変動を発生させ(ステップ406)、各車輪にそれぞれ設けられた回転状態センサから取得した車輪の各回転状態に基づいて油圧変動に対する応答の有無をそれぞれ取得し(ステップ408)、各ホイールシリンダへの油圧変動の有無と取得した応答の有無の組み合わせから各車輪と各ホイールシリンダとを関連付ける(ステップ410)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪位置特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車輪位置特定装置としては、特許文献1に示されているものが知られている。この車輪位置特定装置においては、特許文献1に示されているように、タイヤ側には加速度センサ(回転状態センサとして機能するので以下回転状態セナと記す。)を設け、車体側には各タイヤの車輪速センサを設け、タイヤ側で検出された加速度a1[i]〜a5[i]と、車体側で検出された車輪速をもとに計算された加速度C1〜C4とを比較し、両者の相関の高さによって、車体側の車輪速センサに対応するタイヤが特定できるようになっている。これにより、タイヤがローテーションされた際でも、タイヤ側センサ信号がどの輪位置の情報であるかがわかるようになっている。車体側の車輪速センサは、一般によく知られているものであり、磁気センサと歯付ロータとを組み合わせたものである。
【特許文献1】特開2004−331011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1に記載の車輪位置特定装置においては、車体側に設けた車輪速センサは、その構造上、車両の低速時ではノイズにより検出精度が悪くなるので、上記二つの加速度を比較し相関を導出するのに時間がかかるという問題があった。
【0004】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、車体側の車輪速センサからの検出結果を使用することなく、タイヤ側(車輪側)の回転状態センサからの検出結果のみを使用して車輪の車輪位置を短時間かつ確実に特定することができる車輪位置特定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、車両に配設される車輪の各車輪位置が予め関連付けされた複数の制動力付与手段を制御して各車輪に個別に制動力変動を発生可能な発生手段と、各車輪にそれぞれ設けられた回転状態センサから取得した車輪の各回転変動に基づいて、制動力変動に対する各車輪の応答の有無を取得する取得手段と、各制動力付与手段に対する制動力変動の有無と、取得した応答の有無の組み合わせから各車輪と各制動力付与手段とを関連付ける関連付け手段と、を備えたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、発生手段は、制動力が所定の増加率で徐々に増大し所定制動力に到達した後急激に減少するように制動力変動を制動力付与手段に発生させることである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、発生手段は、車両に制動力を発生させている場合に、制動力を一時的に減少させる制動力変動を制動力付与手段に発生させることである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、発生手段は、各制動力付与手段のうち一つずつに制動力変動を発生させ、関連付け手段は、制動力変動を発生させた制動力付与手段と応答のあった車輪とを関連付けることである。
【0009】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、車輪および制動力付与手段は車両の前左右および後左右の4箇所にそれぞれ配設されており、発生手段は、1回目に4つの制動力付与手段のうち何れか二つに制動力変動を同時に発生させ、2回目に1回目に制動力変動を発生させた制動力付与手段の何れか一つと制動力変動を発生させなかった制動力付与手段の何れか一つとに制動力変動を同時に発生させ、関連付け手段は、1回目と2回目の制動力変動の発生による、制動力変動を発生させた制動力付与手段と応答のあった車輪の組み合わせと、制動力変動を発生させなかった制動力付与手段と応答のなかった車輪の組み合わせとから、各車輪と各制動力付与手段とを関連付けることである。
【0010】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、車輪および制動力付与手段は車両の前左右および後左右の4箇所に配設されており、発生手段は、4つの制動力付与手段のうち何れか三つずつに制動力変動を同時に発生させ、関連付け手段は、制動力変動を発生させなかった制動力付与手段と応答のなかった車輪とを関連付けることである。
【0011】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項2乃至請求項4の何れか一項において、発生手段は、車両への制動開始時に、車両への制動力増大に対応する制動力変動を、異なるタイミングで各制動力付与手段に発生させることである。
【0012】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項2乃至請求項4の何れか一項において、発生手段は、車両への制動解除時に、車両への制動力減少に対応する制動力変動を、異なるタイミングで各制動力付与手段に発生させることである。
【0013】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項8の何れか一項において、車両の悪路走行時には発生手段、取得手段および関連付け手段からなる一連の処理を中止する中止手段をさらに備えたことである。
【0014】
請求項10に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項9の何れか一項において、取得手段は、回転変動から導出される車輪の回転の変動量が判定閾値以上であれば制動力変動に対する応答有りと判定する判定手段を有し、回転変動から導出される車輪の回転の変動量のレベルの学習を実施し、その学習結果に応じて判定閾値を変更するレベル学習手段をさらに備えたことである。
【0015】
請求項11に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項10の何れか一項において、各車輪にさらに設けられ該各車輪の空気圧をそれぞれ検出する複数の空気圧センサから取得した空気圧に基づいて車輪の空気圧の低下を検出した場合に、発生手段、取得手段および関連付け手段からなる一連の処理を開始する開始手段を備えたことである。
【発明の効果】
【0016】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、発生手段が、車両に配設される車輪の各車輪位置が予め関連付けされた複数の制動力付与手段を制御して各車輪に個別に制動力変動を発生させ、取得手段が、各車輪にそれぞれ設けられた回転状態センサから取得した車輪の各回転変動に基づいて、制動力変動に対する各車輪の応答の有無を取得し、関連付け手段が、各制動力付与手段に対する制動力変動の有無と、取得した応答の有無の組み合わせから各車輪と各制動力付与手段とを関連付ける。したがって、従来技術のように車体側に設けた車輪速度センサからの検出結果を使用することなく、車輪側に設けた回転状態センサからの検出結果のみを使用して車輪の車輪位置を短時間かつ確実に特定することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、発生手段は、制動力が所定の増加率で徐々に増大し所定制動力に到達した後急激に減少するように制動力変動を制動力付与手段に発生させる。これにより、ショックの発生し易い増圧を比較的になめらかに制御することにより、ドライバに与える違和感を抑制しつつ自動的に制動力を付与して車輪の車輪位置を特定することが可能となる。またドラム式ブレーキのように、その構造上、増圧時の応答性が悪いブレーキシステムでは、油圧変動に起因する車輪の回転変動が発生しにくいが、油圧の急減圧による制動力の開放時の油圧変動に起因する車輪の回転変動は検出可能であるので、ドラム式ブレーキでも確実かつ正確に車輪の車輪位置を特定することができる。
【0018】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2に係る発明において、発生手段は、車両に制動力を発生させている場合に、制動力を一時的に減少させる制動力変動を制動力付与手段に発生させる。これにより、車両への制動中において、ドライバに与える違和感を抑制しつつ自動的に制動力変動を発生させて車輪の車輪位置を特定することが可能となる。
【0019】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項に係る発明において、発生手段は、各制動力付与手段のうち一つずつに制動力変動を発生させ、関連付け手段は、制動力変動を発生させた制動力付与手段と応答のあった車輪とを関連付ける。これによれば、簡単かつ短時間な制御により一輪ずつ確実に車輪の車輪位置を特定することができる。
【0020】
この請求項4に係る発明において、例えば4つの車輪を4つの車輪位置(前左、前右、後左、後右)に配設する場合においては、一輪ずつ制動力付与手段に制動力変動を発生させて一輪ずつ車輪の車輪位置を特定する場合には制動力変動の発生を3回実施しなければならない。しかし、上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項に係る発明において、車輪および制動力付与手段は車両の前左右および後左右の4箇所にそれぞれ配設されており、発生手段は、1回目に4つの制動力付与手段のうち何れか二つに制動力変動を同時に発生させ、2回目に1回目に制動力変動を発生させた制動力付与手段の何れか一つと制動力変動を発生させなかった制動力付与手段の何れか一つとに制動力変動を同時に発生させ、関連付け手段は、1回目と2回目の制動力変動の発生による、制動力変動を発生させた制動力付与手段と応答のあった車輪の組み合わせと、制動力変動を発生させなかった制動力付与手段と応答のなかった車輪の組み合わせとから、各車輪と各制動力付与手段とを関連付ける。これによれば、例えば1回目に前二輪(または後二輪)の制動力付与手段に制動力変動を発生させ、2回目に左二輪(または右二輪)の制動力付与手段に制動力変動を発生させ、1回目および2回目の組み合わせ結果に基づいて車輪の車輪位置を特定することができる。すなわち制動力変動の発生を二回実施するだけで車輪の車輪位置を特定することができる。したがって、一輪ずつ制動力が変動するのでなく、二輪ずつ制動力が変動するので、車両の安定性を保持しつつ、かつ、より短時間に車輪の車輪位置を特定することができる。
【0021】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項に係る発明において、車輪および制動力付与手段は車両の前左右および後左右の4箇所に配設されており、発生手段は、4つの制動力付与手段のうち何れか三つずつに制動力変動を同時に発生させ、関連付け手段は、制動力変動を発生させなかった制動力付与手段と応答のなかった車輪とを関連付ける。これによれば、一輪ずつまたは二輪ずつ制動力を変動させるのでなく、三輪ずつ制動力を変動させるので、車両の安定性をより早く保持して車輪の車輪位置を特定することができる。
【0022】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項2乃至請求項4の何れか一項において、発生手段は、車両への制動開始時に、車両への制動力増大に対応する制動力変動を、異なるタイミングで各制動力付与手段に発生させる。これにより、例えばブレーキペダルの踏込操作や踏み増し操作またはエンジンブレーキによる制動開始時に、その制動力増大に紛れてドライバに違和感を与えることなく制動力変動を発生させて車輪の車輪位置を特定することが可能となる。
【0023】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項2乃至請求項4の何れか一項において、発生手段は、車両への制動解除時に、車両への制動力減少に対応する制動力変動を、異なるタイミングで各制動力付与手段に発生させる。これにより、例えばブレーキペダルの解除操作による制動解除時に、その制動解除に紛れてドライバに違和感を与えることなく制動力変動を発生させて車輪の車輪位置を特定することが可能となる。
【0024】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項1乃至請求項8の何れか一項に係る発明において、中止手段が、車両の悪路走行時には発生手段、取得手段および関連付け手段からなる一連の処理を中止する。これにより、制動力変動に対する応答を誤って取得するのを確実に防止し、ひいては車輪の車輪位置を誤って特定するのを確実に防止することができる。
【0025】
上記のように構成した請求項10に係る発明においては、請求項1乃至請求項9の何れか一項に係る発明において、レベル学習手段が、回転変動から導出される車輪の回転の変動量のレベルの学習を実施し、その学習結果に応じて判定閾値を変更し、判定手段が、回転変動から導出される車輪の回転の変動量が判定閾値以上であれば制動力変動に対する応答有りと判定する。これにより、経年変化により車輪のバランスが崩れた場合などにおいても、制動力変動に対する応答を確実に取得し、ひいては車輪の車輪位置を確実に特定することができる。
【0026】
特に車輪情報センサとしてタイヤ空気圧と回転状態を検知する構成である場合、上記のように構成した請求項11に係る発明においては、請求項1乃至請求項10の何れか一項に係る発明において、開始手段が、各車輪にさらに設けられ該各車輪の空気圧をそれぞれ検出する複数の空気圧センサから取得した空気圧に基づいて車輪の空気圧の低下を検出した場合に、発生手段、取得手段および関連付け手段からなる一連の処理を開始する。これにより、車輪の空気圧が低下していることを検出すると、自動的に車輪の車輪位置特定処理を開始することができるので、車輪位置特定処理を必要なときに適切に実施して車輪位置特定処理の頻度を少なくすることができる。また、車輪位置特定処理を開始する専用スイッチを設けなくてすむので、コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る車輪位置特定装置を適用した車両の一実施形態を図面を参照して説明する。図1はその車両の構成を示す概要図であり、図2は車両の制動力制御装置の構成を示す概要図であり、図3は車両の車輪を模式的に示す断面図である。
【0028】
車両Mは、第1〜第4車輪W1,W2,W3,W4と、第1〜第4車輪W1,W2,W3,W4にそれぞれ設けられている回転状態センサSW1,SW2,SW3,SW4と、各車輪位置Pfl,Pfr,Prl,Prrが予め関連付けされた各ホイールシリンダ(制動力付与手段である)WCfl,WCfr,WCrl,WCrrと、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに油圧を付与することにより第1〜第4車輪W1,W2,W3,W4に制動力を付与して車両Mを制動させる液圧ブレーキ装置Bと、を備えている。
【0029】
第1〜第4車輪W1,W2,W3,W4は、車両Mの複数(本実施形態では4つ)の車輪位置Pfl,Pfr,Prl,Prrにそれぞれ着脱可能に配設される複数(本実施形態では4つ)の車輪である。車輪位置Pfl,Pfr,Prl,Prrは、それぞれ左前位置、右前位置、左後位置、右後位置を表している。車輪W1は、図3に示すように、タイヤWa1とホイールWb1から構成されている。他の車輪W2〜W4も同様である。なお、各車輪の車輪位置が特定された後は、各車輪W1,W2,W3,W4は、その車輪位置に応じて車輪WCfl,WCfr,WCrl,WCrrとも表現される。
【0030】
各車輪W1,W2,W3,W4には、該車輪W1,W2,W3,W4の回転状態を検出する複数(本実施形態では4つ)の第1〜第4回転状態センサSW1,SW2,SW3,SW4がそれぞれ設けられている。車輪の回転状態は、車輪の角速度や角加速度などのタイヤの回転変動を抽出可能な物理量で示される回転状態である。本実施形態においては、回転状態は車輪の角加速度であり、各回転状態センサSW1,SW2,SW3,SW4は車輪の角加速度を検出する加速度センサである。これら回転状態センサは、後述する車輪速度センサSBfl,SBrr,SBrl,SBfrでは検出精度が悪い車両Mの低速走行中においても、車輪の回転状態を確実かつ正確に検出できるものである。
【0031】
第1〜第4車輪W1,W2,W3,W4には、第1〜第4送信機TR1,TR2,TR3,TR4がそれぞれ設けられている。各送信機TR1,TR2,TR3,TR4は、第1〜第4回転状態センサSW1,SW2,SW3,SW4に接続されるとともに第1〜第4アンテナAT1,AT2,AT3,AT4に接続されている。これにより、第1〜第4回転状態センサSW1,SW2,SW3,SW4によって検出された各回転状態は、回転状態信号として各送信機TR1,TR2,TR3,TR4から各アンテナAT1,AT2,AT3,AT4を介して受信機71に送信される。
【0032】
第1車輪W1においては、上述した第1回転状態センサSW1、第1送信機TR1、アンテナAT1、および第1回転状態センサSW1と第1送信機TR1との駆動用バッテリ(不図示)などは一つのパッケージ81内に収納されている。そのパッケージ81は、図3に示すように、タイヤWa1の内部に配設されるようにホイールWb1のリムに固定されている。パッケージ81はタイヤWa1内に空気を入れるためのバルブを有しており、このバルブがリムに形成されているバルブ穴を貫通するようになっている。他の車輪W2〜W4においても、同様に構成されている。
【0033】
複数(本実施形態では4つ)のホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrは、各車輪位置Pfl,Pfr,Prl,Prrに対応してそれぞれ車両Mの車体側に固定されており、各車輪位置Pfl,Pfr,Prl,Prrに装着された車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr(各車輪W1,W2,W3,W4)の回転をそれぞれ規制するものである。
【0034】
車両Mにおいて、左右前輪Wfl,Wfr用のブレーキはディスク式ブレーキで構成され、左右後輪Wrl,Wrr用のブレーキはドラム式ブレーキで構成されている。ディスク式ブレーキは、左前輪Wflを例に挙げて説明すると、車輪Wfl(W1)のホイールWa1と一体で回転するディスクロータDRflと、車体側に固定されたキャリパCLflに設けられ液密に摺動するピストン(図示省略)を収容しているホイールシリンダWCflと、ディスクロータDRflの両側近傍に配設され前記ピストンにより押動される一対のパッドPDfl,PDflと、から構成されている。ホイールシリンダWCflに基礎液圧または制御液圧が供給されると、ピストンによって一対のパッドPDfl,PDflが押動されディスクロータDRflを両側から押圧して、このときの摩擦力で車輪Wflの回転が規制されるようになっている。右前輪Wfrも同様に構成されている。
【0035】
ドラム式ブレーキは、左後輪Wrlを例に挙げて説明すると、車輪Wrlのホイール(図示省略)と一体で回転するブレーキドラムBDrlと、車体側に固定されたバックプレート(図示省略)に設けられ液密に摺動するピストン(図示省略)を収容しているホイールシリンダWCrlと、ブレーキドラムBDrlの内周壁面に沿って延在し互いに対向する位置に配設され前記ピストンにより拡張される一対のブレーキシューBSrl,BSrlと、から構成されている。ホイールシリンダWCrlに基礎液圧または制御液圧が供給されると、ピストンによって一対のブレーキシューBSrl,BSrlが拡張されブレーキドラムBDrlを内側から押圧して、このときの摩擦力で車輪Wrlの回転が規制されるようになっている。右後輪Wrrも同様に構成されている。
【0036】
液圧ブレーキ装置Bは、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに油圧を付与することにより第1〜第4車輪W1,W2,W3,W4に制動力を付与して車両Mを制動させるものである。この液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル11の踏込状態に応じた液圧のブレーキ液(基礎液圧)を生成してホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに供給するマスタシリンダ10と、ブレーキ液を貯蔵するとともにマスタシリンダ10へ補給するリザーバタンク12と、車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度を検出する車輪速度センサSBfl,SBfr,SBrl,SBrrと、ブレーキペダル11の踏込状態に関係なく(基礎液圧とは別に)ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに独立して制御液圧を供給することも可能なブレーキアクチュエータC(制動力制御装置)と、ブレーキアクチュエータCを制御して通常のブレーキ制御を実施したり車輪位置を特定したりする制御装置(車輪位置特定装置)70とを備えている。
【0037】
ブレーキアクチュエータCは、各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrにそれぞれ付与される各油圧を独立に制御する制動力制御装置である。このブレーキアクチュエータCは、図2に示すように、マスタシリンダ10とは別に設けられて各ホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに油圧(液圧)をそれぞれ供給する液圧供給源20、各電磁弁41,42,45〜48,51〜54、各油圧計61〜67などを備えている。
【0038】
マスタシリンダ10は、ブレーキペダル11の踏込状態に応じて第1及び第2出力ポート10a,10bからほとんど同一の油圧(液圧)のブレーキ油(液体)を圧送するものである。第1出力ポート10aは、電磁弁41が非通電状態(図示状態)にあるとき電磁弁41を介して左前輪Wfl用のホイールシリンダWCflに連通している。第2出力ポート10bは、電磁弁42が非通電状態(図示状態)にあるとき電磁弁42を介して右前輪Wfr用のホイールシリンダWCfrに連通している。
【0039】
電磁弁41,42は、通電により開閉を切り換え制御されて、ホイールシリンダWCfl,WCfrに対してマスタシリンダ10をそれぞれ連通および遮断するものである。すなわちこれら電磁弁41,42は、液圧供給源20の正常時において通電されて閉じられマスタシリンダ10と両ホイールシリンダWCfl,WCfrとの間を遮断し、異常時において非通電されて開かれマスタシリンダ10と両ホイールシリンダWCfl,WCfrとを連通するマスタシリンダカット弁として機能する。
【0040】
マスタシリンダ10の第1出力ポート10aには、ストロークシミュレータ30が連通可能に接続されており、マスタシリンダ10とストロークシミュレータ30の間には、電磁弁43および逆止弁44が並列に設けられている。
【0041】
ストロークシミュレータ30は、液圧供給源20の正常時にてホイールシリンダWCfl,WCfrに対してマスタシリンダ10を遮断した場合に、ブレーキペダル11の操作状態に応じたペダルストロークをブレーキペダル11に発生させるものである。このストロークシミュレータ30は、例えば特開2002−293229号公報に示されているような周知のメカ式のストロークシミュレータであり、マスタシリンダ10の第1出力ポート10aから供給された油圧(液圧)を吸収するものである。
【0042】
電磁弁43は、入出力ポート間の差圧を制御可能なリニアソレノイド弁、すなわち電磁力に比例した差圧を発生させる電磁弁である。電磁弁43は、非通電状態(図示状態)にあるときマスタシリンダ10の第1出力ポート10aとストロークシミュレータ30の入力ポート30aとを遮断し、通電状態にあるとき通電量に対応した差圧となるように両ポート10a,30aを連通するものである。そして、この電磁弁43は、液圧供給源20の正常時において通電されて開かれマスタシリンダ10とストロークシミュレータ30を連通し、異常時において非通電されて閉じられマスタシリンダ10とストロークシミュレータ30との間を遮断するストロークシミュレータカット弁として機能する。逆止弁44は、マスタシリンダ10の第1出力ポート10aとストロークシミュレータ30の入力ポート30aとの間に電磁弁43に並列に設けられてストロークシミュレータ30からマスタシリンダ10への流れのみを許容するものである。
【0043】
液圧供給源20は、電動モータ21、ポンプ22およびアキュムレータ23から構成されている。ポンプ22は、電動モータ21によって駆動されて、リザーバタンク12の入力ポート12aに連通する吸入ポート22aから吸い込んだリザーバタンク12のブレーキ油を吐出ポート22bから圧送する。アキュムレータ23は、ポンプ22の吐出ポート22bに連通しており、ポンプ22から供給される高圧のブレーキ油を常に一定の油圧に保って貯蔵し必要に応じて各ホイールシリンダWCfl〜WCrrに供給するようになっている。ポンプ22の吸入および吐出ポート22a,22bの間にはリリーフ弁24が介装されており、このリリーフ弁24はポンプ22から吐出されるブレーキ油の圧力が所定値未満である場合には閉じられ、所定値以上となった場合には開かれるものである。これにより、液圧供給源20は、各ホイールシリンダWCfl〜WCrrに所定の高圧ブレーキ液を供給することができる。
【0044】
液圧供給源20は、電磁弁45が通電状態にあるとき電磁弁45を介してホイールシリンダWCflに連通している。電磁弁45は、上記の電磁弁43と同様にリニアソレノイド弁である。電磁弁45は、通電状態にあるとき通電量に対応した差圧となるようにホイールシリンダWCflに対して液圧供給源20を連通するものであり、非通電状態(図示状態)にあるときホイールシリンダWCflに対して液圧供給源20を遮断する。
【0045】
また、ホイールシリンダWCflは、電磁弁46が通電状態にあるとき電磁弁46を介してリザーバタンク12に連通している。電磁弁46は、上記の電磁弁43と同様にリニアソレノイド弁である。電磁弁46は、通電状態にあるとき通電量に対応した差圧となるようにリザーバタンク12に対してホイールシリンダWCflを連通するものであり、非通電状態(図示状態)にあるときリザーバタンク12に対してホイールシリンダWCflを遮断する。
【0046】
さらに液圧供給源20は、電磁弁47が通電状態にあるとき電磁弁47を介してホイールシリンダWCfrに連通している。電磁弁47も、電磁弁45と同様にリニアソレノイド弁である。電磁弁47は、通電状態にあるとき通電量に対応した差圧となるようにホイールシリンダWCfrに対して液圧供給源20を連通するものであり、非通電状態(図示状態)にあるときホイールシリンダWCfrに対して液圧供給源20を遮断する。
【0047】
また、ホイールシリンダWCfrは、電磁弁48が通電状態にあるとき電磁弁48を介してリザーバタンク12に連通している。電磁弁48も、電磁弁46と同様にリニアソレノイド弁である。電磁弁48は、通電状態にあるとき通電量に対応した差圧となるようにリザーバタンク12に対してホイールシリンダWCfrを連通するものであり、非通電状態(図示状態)にあるときリザーバタンク12に対してホイールシリンダWCfrを遮断する。
【0048】
さらに液圧供給源20は、電磁弁51が通電状態にあるとき電磁弁51を介してホイールシリンダWCrlに連通している。電磁弁51も、電磁弁45と同様にリニアソレノイド弁である。電磁弁51は、通電状態にあるとき通電量に対応した差圧となるようにホイールシリンダWCrlに対して液圧供給源20を連通するものであり、非通電状態(図示状態)にあるときホイールシリンダWCrlに対して液圧供給源20を遮断する。
【0049】
また、ホイールシリンダWCrlは、電磁弁52が非通電状態(図示状態)にあるとき電磁弁52を介してリザーバタンク12に連通している。電磁弁52も、電磁弁46と同様にリニアソレノイド弁である。電磁弁52は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、通電状態にあるときリザーバタンク12に対してホイールシリンダWCrlを遮断する。
【0050】
さらに液圧供給源20は、電磁弁53が通電状態にあるとき電磁弁53を介してホイールシリンダWCrrに連通している。電磁弁53も、電磁弁45と同様にリニアソレノイド弁である。電磁弁53は、通電状態にあるとき通電量に対応した差圧となるようにホイールシリンダWCrrに対して液圧供給源20を連通するものであり、非通電状態(図示状態)にあるときホイールシリンダWCrrに対して液圧供給源20を遮断する。
【0051】
また、ホイールシリンダWCrrは、電磁弁54が非通電状態(図示状態)にあるとき電磁弁54を介してリザーバタンク12に連通している。電磁弁54は、通電により開閉を切り換え制御されるものであり、通電状態にあるときリザーバタンク12に対してホイールシリンダWCrrを遮断する。
【0052】
油圧計61,62は、マスタシリンダ10の第1および第2出力ポート10a,10bから供給されるブレーキ油の油圧をそれぞれ検出するものである。油圧計63は、液圧供給源20から供給されるブレーキ油の油圧を検出するものである。そして、油圧計64〜67は、各ホイールシリンダWCfl〜WCrrに給排されるブレーキ油の油圧をそれぞれ検出するものである。油圧計61〜67の各検出結果は、制御装置70に送信されるようになっている。
【0053】
車輪速度センサSBfl,SBfr,SBrl,SBrrは各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr付近の車体に取り付けられており、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの車輪速度を検出して制御装置70に送信している。その車輪速度センサは、一般的によく知られているものであり、永久磁石、コイル、電極(いずれも図示省略)で構成されており、例えば車輪と一体回転するホイールのハブに取り付けられたロータが回転することで、電極内の磁束が変化し、コイルに車輪速度に比例した周波数の交流信号を発生させる。このように構成された車輪速度センサは、ロータに形成する磁極位置の誤差などから検出精度が悪く、特に車両の低速走行ではノイズにより検出精度が悪くなるという問題がある。
【0054】
なお、液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル11に連結されてブレーキペダル11の移動量(ストローク量すなわちペダルストローク)を検出するペダルストロークセンサ11aを備えている。ペダルストロークセンサ11aの検出結果は、制御装置70に送信されるようになっている。
【0055】
また、車両Mは、受信機71、初期化スイッチ(以下、初期化SWとする。)72および警報装置73を備えている。受信機71は、アンテナ71aおよび制御装置70と接続されている、受信機71は、第1〜第4送信機TR1〜TR4から送信される第1〜第4回転状態センサSW1,SW2,SW3,SW4による各回転状態をアンテナ71aを介してそれぞれ受信して制御装置70に送信している。
【0056】
制御装置70は、それら第1〜第4回転状態センサSW1,SW2,SW3,SW4から取得した各回転状態信号(車輪の角加速度信号)に基づいて、各車輪W1,W2,W3,W4の回転変動状態を示す信号である第1〜第4回転変動値V1,V2,V3,V4をそれぞれ導出するようになっている(後述する)。図14(a)、(b)に第1および第2回転変動値V1,V2の一例をそれぞれ示し、図16および図17に第4および第3回転変動値V4,V3の一例をそれぞれ示している。
【0057】
初期化SW72は、各車輪W1〜W4の車輪位置を初期化するため、すなわち車輪をローテーションした後などに各車輪W1〜W4の車輪位置を改めて特定するための制御を開始するためのスイッチである。初期化SW72からのオン・オフ信号は制御装置70に送信されるようになっている。車両Mの乗員が、車輪の車輪位置特定の要求がある場合、初期化SW72をオンする。
【0058】
警報装置73は、車両Mの乗員に対して車両の状態(例えば車輪の空気圧の低下)を知らせる装置であり、液晶、CRT、ランプなどの表示器、ブザーやスピーカなどの音声出力装置から構成されている。警報装置73は、制御装置70からの指示にしたがって、表示器に警報を表示したり、音声出力装置から警報音を鳴動したり警報メッセージをアナウンスしたりするようになっている。
【0059】
また、車両Mは、アクセルペダル15の踏込み量を検出するアクセルセンサ15aを備えている。アクセルセンサ15aが検出した踏み込み量は、制御装置70に送信されるようになっている。なお、アクセルセンサ15aを設ける代わりに、エンジンのスロットルバルブの開閉量を検出するスロットル開度センサを設けその検出信号を制御装置70に送信するようにしてもよい。
【0060】
制御装置70は、上述したペダルストロークセンサ11a、電動モータ21、各電磁弁41,42,43,45〜48,51〜54、油圧計61〜67、車輪速度センサSBfl,SBfr,SBrl,SBrr、受信機71、初期化SW72、および警報装置73が接続されている。制御装置70には、車両の操舵角を検出するステアリングセンサ、アクセルペダルに組み付けられて車両のアクセル開度を検出するアクセルセンサ15a、車両の実際のヨーレートYを検出するヨーレートセンサ、および車両の前後左右方向の加速度を検出する加速度センサも接続されている(いずれも図示省略)。
【0061】
制御装置70はマイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAM、ROMおよび記憶装置(いずれも図示省略)を備えている。制御装置70のCPUは、これら各センサからの検出信号に基づき、電動モータ21、各電磁弁41,42,43,45〜48,51〜54を制御しホイールシリンダWCfl,WCfr,WCrl,WCrrに付与する油圧すなわち各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を個別に独立して制御して、ブレーキ制御を実施する。
【0062】
また、CPUは、図4〜図11に示すフローチャートに対応したプログラムを実行して、車輪W1〜W4の各車輪位置が予め関連付けされた複数のホイールシリンダWCfl〜WCrrに対する各油圧を独立に制御して油圧変動を発生させ、各車輪W1〜W4にそれぞれ設けられた回転状態センサSW1〜SW4から取得した車輪W1〜W4の各回転状態に基づいて油圧変動に対する応答の有無をそれぞれ取得し、各ホイールシリンダWCfl〜WCrrへの油圧変動の有無と取得した応答の有無の組み合わせから各車輪W1〜W4と各ホイールシリンダWCfl〜WCrrとを関連付けて車輪位置を特定する制御(車輪位置特定制御)を実施する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものであり、ROMは前記プログラムを記憶するものであり、記憶装置は、各回転状態センサSW1〜SW4からの各回転状態や回転変動値V1〜V4を記憶するものである。
【0063】
次に、上述した車輪位置特定装置の作動について図4〜図11に示すフローチャートを参照して説明する。車両のイグニッションスイッチがオンされると、制御装置70は、図4に示す車輪の車輪位置特定制御(処理)のメインプログラムを開始する。制御装置70は、ステップ102において、初期化SW72からオン信号が入力されたか否かを判定することにより、車輪の車輪位置特定の要求があるか否かを判定する。初期化SW72からオン信号が入力されていれば車輪の車輪位置特定の要求があると判定し、そうでなければ車輪位置特定の要求はないと判定する。
【0064】
制御装置70は、車輪の車輪位置特定の要求があると判定した場合(ステップ102にて「YES」)、第1〜第4回転変動値V1〜V4のノイズレベルをそれぞれ学習し(ステップ104)、前二輪の車輪位置を特定し(ステップ106)、そして後二輪の車輪位置を特定する(ステップ108)。一方、制御装置70は、車輪の車輪位置特定の要求がないと判定した場合(ステップ102にて「NO」)、車輪の車輪位置特定の要求があるまでステップ102にて「NO」とする処理を繰り返し実行する。
【0065】
制御装置70は、ステップ104において、図5に示すノイズレベル学習サブルーチンを実行する。具体的には、制御装置70は、ステップ200にてサブルーチンの実行を開始する度に、ゲインSを演算する(ステップ202)。ゲインSは、車輪の回転の変動を検出するための値である回転変動評価値である。
【0066】
制御装置70は、図6に示すゲインS演算サブルーチンを実行することにより、ゲインSを演算する。具体的には、制御装置70は、ステップ300にてサブルーチンの実行を開始する度に、各回転状態センサSW1〜SW4から回転状態信号をそれぞれ入力する(ステップ302)。そして、制御装置70は、入力した信号から各車輪W1〜W4の回転角加速度をそれぞれ算出する(ステップ304)。なお、この算出された回転角加速度はハイパスフィルタ処理されることが好ましい。また、これら第1〜第4車輪W1〜W4の回転角加速度が第1〜第4回転変動値V1〜V4であり、例えば第1回転変動値V1の時間変化をグラフで表すと図14(a)のようになる。なお、制御装置70は、図14(a)で示す時系列データを長時間分記憶しなくても、後述するように車輪の車輪位置を特定することができる。そして、制御装置70は、それら各車輪W1〜W4の回転角加速度の自乗値または任意時間(例えば30msec)の自乗値の和を演算し、その自乗値または任意時間の自乗値の和をゲインSとして設定する(ステップ306)。その後、プログラムをステップ308に進めて本サブルーチンを一旦終了する。
【0067】
制御装置70は、プログラムを図5に示すノイズレベル学習サブルーチンのステップ203に進めて、ステップ202で演算したゲインSの過去所定時間(例えば1sec)分の平均値を演算し、これをゲインSの平均値Saveとする。
【0068】
制御装置70は、ステップ204において、ステップ203で演算した平均値Saveが予め設定された第1基準値を上回った場合、ノイズレベル学習は不適であると判定し、一方平均値Saveが第1基準値を上回らなかった場合、ノイズレベル学習は不適でない(可能である)と判定する。第1基準値は、タイヤの次数成分による振動レベルと路面状態による走行ノイズレベルの各許容範囲を考慮して設定されるものである。すなわち、第1基準値は、悪路の走行ノイズを除き、かつ、通常の走行路の走行ノイズやタイヤの次数成分による振動を除かないような値に設定される。
【0069】
制御装置70は、ノイズレベル学習は不適であると判定した場合、ステップ206にて「YES」と判定し、プログラムをステップ202に戻してノイズレベル学習は不適でないと判定するまでステップ202,204の処理を繰り返し実行する。制御装置70は、ノイズレベル学習は不適でないと判定した場合、ステップ206にて「NO」と判定し、ステップ203で演算した各車輪の平均値Saveを車輪のノイズレベルにそれぞれ設定する(ステップ208)。車輪の回転の変動量(各車輪W1〜W4の回転角加速度の自乗値)と比較して車輪の回転が変動したことを判定するための判定閾値が、ここで設定されたノイズレベルに基づいて設定される。例えば、ノイズレベルに所定値を乗算したり加算したりして判定閾値が設定される。
【0070】
制御装置70は、4輪分のノイズレベル学習が終了したか否かを判定し(ステップ210)、4輪分の学習が終了していれば(ステップ210で「YES」)、プログラムをステップ212に進めて本サブルーチンを終了し、また、4輪分の学習が終了していなければ(ステップ210で「NO」)、プログラムをステップ202に戻して4輪分の学習が終了するまでステップ202〜208の処理を繰り返し実行する。
【0071】
このようなノイズレベル学習処理によれば、車輪の回転の変動量のレベルの学習を実施し、この学習結果に応じて判定閾値を変更する。すなわち、経年変化によりタイヤのバランスが崩れたり、タイヤが偏磨耗したりした場合においても、車輪位置特定制御(処理)が実施される車輪またはタイヤの状態の変化に応じて判定閾値を変更することができる。また、車輪位置特定制御(処理)が実施される路面状態に応じて判定閾値を変更することができる。これにより、タイヤの偏磨耗やバランス不良などによる回転バラツキ(タイヤの次数成分)によるノイズレベルや通常路面の走行ノイズレベルの学習を実施した後に車輪位置特定制御(処理)を実施することができる。したがって、車輪、タイヤ、路面の各状態に応じて適切に変更された判定閾値を使用して、車輪の回転変動の有無を適切に判定し、油圧変動に対する応答を確実に取得し、ひいては車輪の車輪位置を確実に特定することができる。
【0072】
制御装置70は、ノイズレベル学習処理が終了すると、プログラムを図4に示すステップ106に進めて、前輪の車輪位置を特定する処理を実施する前輪の輪特定サブルーチンを実行する。具体的には、制御装置70は、図7に示すステップ400にてサブルーチンの実行を開始する度に、前輪の車輪位置を特定する処理を開始するか否かを判別する(ステップ402)。
【0073】
制御装置70は、ステップ402において、図8に示す判定開始条件A判別サブルーチンを実行する。具体的には、制御装置70は、ステップ500にてサブルーチンの実行を開始する度に、各ホイールシリンダWCfl〜WCrrのうち少なくとも1つに油圧変動を発生させるのに適切な状況であるか否かを判定する(ステップ502〜512)。
【0074】
ステップ502において、ドライバによる制動要求があったか否かを判別する。制御装置70は、ペダルストロークセンサ11aや油圧計61,62からの検出結果に基づいてブレーキペダル11の踏み込み操作が行われたか否かを判別する。制御装置70は、ドライバによる制動要求があって始めて前輪の車輪位置を特定する処理を開始する。
【0075】
ステップ504において、適切な速度での制動であるか否かを判別する。制御装置70は、車輪速度センサSBfl〜SBrrからの車輪速度に基づいて、ドライバが制動をかけた(ブレーキペダル11を踏み込んだ)時点の車体速度を算出し、その制動開始速度が所定速度(例えば5〜40km/h)であれば適切な速度での制動であると判定し、そうでなければ適切な速度での制動でないと判定する。制御装置70は、前輪の車輪位置を特定する処理を実施するのに、車両Mの速度が適切であることを確認できる。
【0076】
ステップ506において、ブレーキアクチュエータCによるABS制御、ESC制御などの制動制御や駆動制御が非作動中であるか否かを判別する。制御装置70は、ブレーキアクチュエータCへの指令信号に基づいて制動制御や駆動制御が非作動中であるか否かを判別する。制御装置70は、制動制御や駆動制御が作動中である場合には、前輪の車輪位置を特定する処理を実施しないで、次回のドライバによる制動要求時に前輪の車輪位置を特定する処理を実施する。また、制御装置70は、制動制御や駆動制御が非作動中である場合には、前輪の車輪位置を特定する処理を実施することが可能である。
【0077】
ステップ508において、今回のブレーキ操作による制動力が判定に有効な制動力範囲であるか否かを判別する。この判定は、各ホイールシリンダWCfl〜WCrrに発生させる油圧変動によって生じる車輪回転の変動の有無の判定のことである。制御装置70は、油圧計61,62によって検出されるマスタシリンダ圧(またはペダルストロークセンサ11aによって検出されるブレーキペダル11のストローク)に基づいて車体制動加速度(車体減速度)を導出し、その車体制動加速度が所定範囲であれば制動力が前記制動力範囲であると判定し、そうでなければ制動力が前記制動力範囲でないと判定する。前記所定範囲は、例えば0.05〜0.2Gであり、同一車種において一般的なドライバが頻繁に行う程度の制動力による車体制動加速度である。
【0078】
このように、車両Mに作用する減速度が所定範囲内である場合に車輪の車輪位置の特定を実施(後述する)するので、例えば急制動などを避けて安全な通常の制動時に車輪の車輪位置の特定を実施することが可能となる。また、極めて小さい減速度の場合を避けて車輪の車輪位置の特定を実施するため、油圧変動に起因する車輪の回転変動(応答)を確実に検出することができる。
【0079】
ステップ510において、制御装置70は、車両が走行している路面が悪路であるか否かを判定する。具体的には、制御装置70は、図9に示す悪路判定サブルーチンを実行する。制御装置70は、ステップ600にてサブルーチンの実行を開始する度に、上述したステップ202と同様にゲインSを演算する(ステップ602)。この演算されたゲインSは、前輪の車輪位置を特定する処理の直前の値であり、直前の所定時間分の平均値を使用するのが好ましい。そして、制御装置70は、ステップ604において、ステップ602で演算したゲインSが予め設定された第2基準値を上回った場合、車両が走行している路面は悪路であると判定し、一方ゲインSが第2基準値を上回らなかった場合、路面は悪路でないと判定する。第2基準値は、悪路走行のノイズレベルを表す予め設定された値に先に学習したノイズレベルを加算した値に設定されている。そして、制御装置70は、ステップ604の判定が終了すると、ステップ606にて本サブルーチンを終了し、プログラムを図8に示すステップ512に進める。ステップ512において、制御装置70は、悪路判定が悪路であるか否かを判別する。
【0080】
これらステップ502〜508,512のいずれかにて「NO」と判別した場合、制御装置70は、前輪の車輪位置を特定する処理すなわち油圧変動によって生じる車輪回転の変動の有無の判定を開始することができないと判定し、判定開始条件Aを不合格とする(ステップ516)。その後プログラムをステップ518に進めてこのサブルーチンの処理を一旦終了する。一方、上記ステップ502〜508,512にて全て「YES」と判別した場合、制御装置70は、前輪の車輪位置を特定する処理を開始することができると判定し、判定開始条件Aを合格とする(ステップ514)。その後プログラムをステップ518に進めてこのサブルーチンの処理を一旦終了する。
【0081】
制御装置70は、判定開始条件A判別サブルーチンの処理が終了すると、プログラムを図7に示すステップ404に戻す。制御装置70は、判定開始条件Aが不合格である場合、ステップ404にて「NO」と判定し、プログラムをステップ402に戻して判定開始条件Aが合格となるまでステップ402,404の処理を繰り返し実行する。一方、制御装置70は、判定開始条件Aが合格である場合、ステップ404にて「YES」と判定し、前輪の車輪位置を特定する処理を実施する。
【0082】
制御装置70は、ステップ406において、各ホイールシリンダWCfl,WCfrのうち少なくとも一つに油圧変動を発生させる。本実施形態では、各ホイールシリンダWCfl,WCfrのうち一つずつに油圧変動を発生させる。具体的には、制御装置70は、車両Mへの制動力増大時に、例えば制動要求の開始すなわちブレーキペダル11の踏み込みと同時(時刻t1)に左前位置のホイールシリンダWCflのみにその車両の減速度(踏み込み操作、踏み込み状態)に応じた油圧変動を発生させる。
【0083】
そして、制御装置70は、ホイールシリンダWCflの油圧変動と時間をずらして右前位置のホイールシリンダWCfrのみに車両の減速度に応じた油圧変動を発生させる。例えば、時刻t1から所定の短時間(例えば50msec)経過した時点(時刻t2)にホイールシリンダWCfrへの油圧変動を発生させる。このときの両ホイールシリンダWCfl,WCfrの油圧変動を図13(a),(b)にそれぞれ示す。
【0084】
その後、制御装置70は、ホイールシリンダWCfrの油圧変動と時間をずらして後二輪位置の各ホイールシリンダWCrl,WCrrに車両の減速度に応じた油圧変動を発生させる。例えば、時刻t1から所定の短時間(例えば80msec)経過した時点(時刻t3)にホイールシリンダWCrl,WCrrへの油圧変動を発生させる。
【0085】
制御装置70は、ステップ408〜412において、各ホイールシリンダWCfl,WCfrに発生させた油圧変動と各回転状態センサSW1〜SW4からの各回転状態信号(加速度信号)に基づいて取得した油圧変動に対する応答とをつきあわせて(照合して)、第1および第2車輪W1,W2の車輪位置を特定する。すなわち、制御装置70は、前述した油圧変動に対する各車輪W1〜W4の応答の有無を取得し(ステップ408)、各ホイールシリンダWCfl,WCfrへの油圧変動の有無と取得した各車輪の応答とから車輪とホイールシリンダとを関連付け(ステップ410)、関連付けられたホイールシリンダの車輪位置を車輪の車輪位置として付与する(412)。
【0086】
制御装置70は、ステップ408において、前述した油圧変動に対する各車輪W1〜W4の応答をそれぞれ取得する。具体的には、制御装置70は、図10に示す油圧変動に対する応答有無取得サブルーチンを実行する。制御装置70は、ステップ700にてサブルーチンの実行を開始する度に、上述したステップ202と同様にゲインSを演算する(ステップ702)。そして、制御装置70は、演算したゲインSが判定閾値以上である場合(ステップ704にて「YES」)、その車輪に回転変動があったと設定するとともに、その回転変動が発生した時刻を記憶する。すなわち、油圧変動に対する応答があったと設定する(ステップ706)。一方、演算したゲインSが判定閾値未満である場合(ステップ704にて「NO」)、その車輪に回転変動がなかったと設定する。すなわち、油圧変動に対する応答がなかったと設定する(ステップ708)。その後、制御装置70は、プログラムをステップ710に進めて本サブルーチンの実行を一旦終了する。上記判定閾値は、上記学習したノイズレベルに制動力に応じて予め設定された値を加えた値である。この判定閾値は、ブレーキの構造(ディスク式ブレーキとドラム式ブレーキの違い)も考慮して設定されている。
【0087】
例えば、第1車輪W1の第1回転変動値V1が図14(a)に示すようになる場合、制御装置70は、時刻t1から所定時間内である時刻t11にて第1車輪W1に回転変動があったという「応答有り」を取得する。また、第2車輪W2の第2回転変動値V2が図14(b)に示すようになる場合、制御装置70は、時刻t2から所定時間内である時刻t12にて第2車輪W2に回転変動があったという「応答有り」を取得する。時刻t11と時刻t12の差は、先に油圧変動を発生させたときの時間差(50msec)にほぼ等しくなる。前記所定時間は、ホイールシリンダWCに油圧変動を発生させた場合、その油圧変動に応じて車輪に回転変動が発生するのに必要な時間(例えば、0.05sec)に設定されている。この所定時間は、液圧ブレーキ装置Bの各構成部材の仕様によって異なる。
【0088】
なお、第1および第2回転変動値V1,V2において、ゲインSが判定閾値以上となる時点はそれぞれ計6回あり、本実施形態においては、1回目の比較結果のみを使用するが、2回目、3回目の比較結果を利用するようにして例えば複数回(2回)ゲインSが判定閾値以上となることを条件に加えるようにしてもよいし、また適当な時間(例えば30msec)のゲインSの和を用いて判定してもよい。そうすれば、よりノイズに強くなる。
【0089】
ここで、ホイールシリンダに発生させた油圧変動と車輪の回転変動の関係について説明する。ホイールシリンダに油圧を発生させてディスクロータとパッドの摩擦力により車輪に制動力を付与する際には、ホイールWb1と路面との間に存在するタイヤWa1が弾性体として作用する。すなわち、タイヤWa1の接地部が制動による瞬間的なトルク変動でホイールWb1と同一剛体として回転しているわけではなく、タイヤWa1のサイド部のねじれにより該サイド部が回転方向に振動する。したがって、油圧を増大させた場合、当初は車輪の回転角加速度は一旦負になるがその後は振動する。また、油圧を減少させた場合、当初は車輪の回転角加速度は一旦正になるがその後は振動する。
【0090】
制御装置70は、ステップ410において、ステップ406で実施した油圧変動の有無とステップ408で取得した各車輪W1〜W4の応答の有無とをつきあわせて、油圧変動を発生させた各ホイールシリンダWCfl〜WCrrと各車輪W1〜W4とを関連付ける。ここでは、特に左右前位置のホイールシリンダWCfl,WCfrと各車輪W1〜W4とを関連付ける。
【0091】
上述したように時刻t1に発生させたホイールシリンダWCflの油圧変動に対して応答があったのは、図14に示すように時刻t11に回転変動が生じた第1車輪W1のみであり、他の車輪W2〜W4では応答はなかった。したがって、制御装置70は、油圧変動のあったホイールシリンダWCflと応答のあった第1車輪W1を関連付けて第1車輪W1の車輪位置を特定する。また、時刻t2に発生させたホイールシリンダWCfrの油圧変動に対して応答があったのは、図14に示すように時刻t12に回転変動が生じた第2車輪W2のみであり、他の車輪W1,W3,W4では応答はなかった。したがって、制御装置70は、油圧変動のあったホイールシリンダWCfrと応答のあった第2車輪W2を関連付けて第2車輪W2の車輪位置を特定する。これにより、第1および第2車輪W1,W2を左右前輪WCfl,WCfrとして特定することができる。
【0092】
そして、制御装置70は、ステップ412において、ホイールシリンダWCfl,WCfrの車輪位置である左前位置および右前位置を第1および第2車輪W1,W2の車輪位置として付与する。その後、制御装置70はプログラムをステップ414に進めて本サブルーチンの実行を一旦終了する。
【0093】
なお、今回の制動要求時に、制動要求に伴って発生させた油圧変動に対する応答が検出(判定)できなかった場合、次回の制動要求操作時にて再び特定処理を実施すればよい。
【0094】
上述したように、前輪の輪特定処理における油圧変動の発生方法は、ブレーキペダル11の踏み込み時にブレーキアクチュエータCにより発生させる油圧を利用する方法であるので、高応答であり制御性のよいブレーキシステムであるディスク式ブレーキに好適である。
【0095】
制御装置70は、前輪の輪特定処理が終了すると、プログラムを図4に示すステップ108に進めて、後輪の車輪位置を特定する処理を実施する後輪の輪特定サブルーチンを実行する。具体的には、制御装置70は、図11に示すステップ800にてサブルーチンの実行を開始する度に、後輪の車輪位置を特定する処理を開始するか否かを判別する(ステップ802)。
【0096】
制御装置70は、ステップ802において、図12に示す判定開始条件B判別サブルーチンを実行する。具体的には、制御装置70は、ステップ900にてサブルーチンの実行を開始する度に、各ホイールシリンダWCfl〜WCrrのうち少なくとも1つに油圧変動を発生させるのに適切な状況であるか否かを判定する(ステップ902〜910)。
【0097】
ステップ902において、制動をかけるのに適切な速度であるか否かを判別する。制御装置70は、車輪速度センサSBfl〜SBrrからの車輪速度に基づいて、車体速度を算出し、その速度が所定速度範囲(例えば5〜20km/h)であれば適切な速度であると判定し、そうでなければ適切な速度でないと判定する。制御装置70は、後輪の車輪位置を特定する処理を実施するのに、車両Mの速度が適切であることを確認できる。
【0098】
ステップ904において、ドライバによる加速要求があるか否かを判別する。制御装置70は、アクセルセンサ15aからのアクセルペダル15の踏込み量に基づいてアクセルペダル15が踏み込まれたか否かを判定する。アクセルペダル15が踏み込まれたと判定した場合には、制御装置70は加速要求があると判別し、一方、アクセルペダル15が踏み込まれていないと判定した場合には、制御装置70は加速要求がないと判別する。加速要求がある場合に、後輪の車輪位置を特定する処理のための制動をかけるのを回避し、加速要求がない場合に、後輪の車輪位置を特定する処理のための制動をかけることができる。
【0099】
制御装置70は、ステップ906において、上述したステップ502と同様な処理によりドライバによる制動要求があるか否かを判別する。制動要求がある場合に、後輪の車輪位置を特定する処理のための自動制動をかけるのを回避し、制動要求がない場合に、後輪の車輪位置を特定する処理のための自動制動をかけることができる。
【0100】
制御装置70は、ステップ908において、上述したステップ510と同様な処理により、車両が走行している路面が悪路であるか否かを判定する。そして、ステップ910において、上述したステップ512と同様に、制御装置70は、悪路判定が悪路であるか否かを判別する。
【0101】
これらステップ902〜906,910のいずれかにて「NO」と判別した場合、制御装置70は、後輪の車輪位置を特定する処理すなわち油圧変動によって生じる車輪回転の変動の有無の判定を開始することができないと判定し、判定開始条件Bを不合格とする(ステップ914)。その後プログラムをステップ916に進めてこのサブルーチンの処理を一旦終了する。一方、上記ステップ902〜906,910にて全て「YES」と判別した場合、制御装置70は、後輪の車輪位置を特定する処理を開始することができると判定し、判定開始条件Bを合格とする(ステップ912)。その後プログラムをステップ916に進めてこのサブルーチンの処理を一旦終了する。
【0102】
制御装置70は、判定開始条件B判別サブルーチンの処理が終了すると、プログラムを図7に示すステップ804に戻す。制御装置70は、判定開始条件Bが不合格である場合、ステップ804にて「NO」と判定し、プログラムをステップ402に戻して判定開始条件Bが合格となるまでステップ802,804の処理を繰り返し実行する。一方、制御装置70は、判定開始条件Bが合格である場合、ステップ804にて「YES」と判定し、後輪の車輪位置を特定する処理を実施する。
【0103】
制御装置70は、ステップ806において、まだ特定されていない各ホイールシリンダWCrl,WCrrのうち少なくとも一つに油圧変動を発生させる。本実施形態では、各ホイールシリンダWCrl,WCrrのうち一つに油圧変動を発生させる。具体的には、制御装置70は、判定開始条件Bが合格であると判定した時点(図15の時刻t4)に右後位置のホイールシリンダWCrrのみに予め設定した油圧制御マップに従って油圧変動を自動的に(ブレーキペダル11の操作と関係なく)発生させる。この油圧制御マップは、例えば図15に示すように油圧が所定の増加率で徐々に増大し所定油圧に到達した後急激に減少するように予め設定されている。このマップによる油圧変動は、油圧の上昇および下降時のいずれの場合においても乗員がその変動を違和感として感じないように設定され、かつ、油圧の下降時に車輪の回転変動(応答)が検出できるように設定されている。例えば、最大上昇率が0.2/0.05(Mpa/sec)であり、最大油圧が1.0Mpaであり、下降率が−0.8/0.05(Mpa/sec)である。時刻t4は油圧の急降下が開始される時刻である。
【0104】
これにより、ドライバに与える違和感を抑制しつつ自動的に制動力を付与して車輪の車輪位置を特定することが可能となる。またドラム式ブレーキでは、油圧増大による油圧変動をホイールシリンダに発生させてもその構造上応答性が悪いためその油圧変動に対する応答の有無を的確かつ正確に検出できないおそれがある。しかし、油圧減少による油圧変動に対しては応答性は悪くないため、油圧減少による油圧変動に対する応答の有無を検出できるので、ドラム式ブレーキでも確実かつ正確に車輪の車輪位置を特定することができる。
【0105】
制御装置70は、ステップ808〜812において、各ホイールシリンダWCfl〜WCrrに発生させた油圧変動と各回転状態センサSW1〜SW4からの各回転状態信号(加速度信号)に基づいて取得した油圧変動に対する応答とをつきあわせて(照合して)、第3および第4車輪W3,W4の車輪位置を特定する。すなわち、制御装置70は、前述した油圧変動による各車輪W1〜W4の応答の有無を取得し(ステップ808)、各ホイールシリンダWCfl,WCfrへの油圧変動の有無と取得した各車輪の応答とから車輪とホイールシリンダとを関連付け(ステップ810)、関連付けられたホイールシリンダの車輪位置を車輪の車輪位置として付与する(ステップ812)。
【0106】
制御装置70は、ステップ808において、上述したステップ408と同様に油圧変動に対する各車輪W1〜W4の応答をそれぞれ取得する。例えば、第3車輪W3の第3回転変動値V3が図17に示すようになる場合、制御装置70は、回転変動がなかったという「応答なし」を取得する。また、第4車輪W4の第4回転変動値V4が図16に示すようになる場合、制御装置70は、時刻t4から所定時間内である時刻t14にて第4車輪W4に回転変動があったという「応答有り」を取得する。第1および第2車輪W1,W2においては、第3車輪W3と同様に、制御装置70は、回転変動がなかったという「応答なし」を取得する。なお、前述したステップ106にて第1および第2車輪W1,W2は特定されているので、特定処理から除外してもよい。
【0107】
制御装置70は、ステップ810において、ステップ806で実施した油圧変動の有無とステップ808で取得した各車輪W1〜W4の応答の有無とをつきあわせて、油圧変動を発生させた各ホイールシリンダWCfl〜WCrrと各車輪W1〜W4とを関連付ける。ここでは、特に右後位置のホイールシリンダWCrrと各車輪W1〜W4とを関連付ける。
【0108】
上述したように時刻t4に発生させたホイールシリンダWCrrの油圧変動に対して応答があったのは、図16に示すように時刻t14に回転変動が生じた第4車輪W4のみであり、他の車輪W1〜W3では応答はなかった。したがって、制御装置70は、油圧変動のあったホイールシリンダWCrrと応答のあった第4車輪W4を関連付けて第4車輪W4の車輪位置を特定する。また、第3車輪W3においては回転変動が生じておらず、かつ、第1および第2車輪W1,W2はすでに車輪位置が特定されている。これにより、制御装置70は、油圧変動を発生させなかったホイールシリンダWCrlと油圧変動に起因して回転変動しなかった第3車輪W3とを関連付けて第3車輪W3の車輪位置を特定する。これにより、第3および第4車輪W3,W4を左右前輪WCrl,WCrrとして特定することができる。
【0109】
そして、制御装置70は、ステップ812において、ホイールシリンダWCrl,WCrrの車輪位置である左後位置および右後位置を第3および第4車輪W3,W4の車輪位置として付与する。その後、制御装置70はプログラムをステップ814に進めて本サブルーチンの実行を一旦終了する。
そして、制御装置70は、後輪の輪特定処理が終了すると、プログラムを図4に示すステップ110に進めて、車輪の車輪位置を特定する処理を終了する。
【0110】
なお、制御装置70は、ドライバによる制動要求があったときに、後輪の輪特定を実施するようにしてもよい。この場合、制御装置70は、ステップ902の処理を実施する前に、ドライバによる制動要求があったか否かを判別するようにしてもよい。この場合、制動開始した時の車速が適切な速度(5〜20km/h)であり(ステップ902にて「YES」)、ドライバによる加速要求がないこと(ステップ904にて「YES」)、および悪路でないこと(ステップ910にて「YES」)が条件となる。ステップ906の判定処理は省略される。
【0111】
また、今回の自動制動時に、自動制動により発生させた油圧変動に対する応答が検出(判定)できなかった場合、次回の制動要求操作時にて再び上記車輪位置特定処理を実施すればよい。このとき、次回の車輪位置特定処理に使用する油圧制御マップは今回使用したマップより最大油圧が大きく設定されたものを使用するとよい。ドライバが油圧変動にともなう違和感を感じる可能性が高くなるが、油圧不足により車輪の回転変動が小さくなることによって油圧変動に対する応答が検出できないという問題を解消することができる。
【0112】
上述したように、後輪の輪特定処理における油圧変動の発生方法は、ブレーキペダル11の踏み込み操作に関係なく所定の油圧制御マップに基づいて油圧を自動で発生させる方法であるので、高応答であり制御性のよいブレーキシステムであるディスク式ブレーキはもちろんディスク式ブレーキに比べてその構造上応答性および制御性が劣るドラム式ブレーキに好適である。
【0113】
上述した説明から明らかなように、本実施形態によれば、制御装置70においては、発生手段(ステップ406またはステップ806)が、車両Mに配設される車輪W1〜W4の各車輪位置Pfl〜Prrが予め関連付けされた複数の制動力付与手段であるホイールシリンダWCfl〜WCrrを制御して一つずつに油圧変動(制動力変動)を時間をずらして発生させる。取得手段(ステップ408またはステップ808)が、各車輪W1〜W4にそれぞれ設けられた回転状態センサSW1〜SW4から取得した車輪の各回転変動に基づいて、油圧変動(制動力変動)に対する各車輪W1〜W4の応答の有無を取得する。関連付け手段(ステップ410またはステップ810)が、各ホイールシリンダWCfl〜WCrrへの油圧変動の有無(各制動力付与手段に対する制動力変動の有無)と、取得した応答の有無の組み合わせから各車輪W1〜W4と各ホイールシリンダWCfl〜WCrr(制動力付与手段)とを関連付ける。すなわち、油圧変動のあったホイールシリンダと応答のあった車輪を関連付ける。これによれば、従来技術のように車体側に設けた車輪速度センサからの検出結果を使用することなく、車輪側に設けた回転状態センサSW1〜SW4からの検出結果のみを使用して第1〜第4車輪W1〜W4の車輪位置を短時間かつ確実に特定することができる。また、簡単かつ短時間な制御により一輪ずつ確実に第1〜第4車輪W1〜W4の車輪位置を特定することができる。
【0114】
また、制御装置70は、制動力が所定の増加率で徐々に増大し所定制動力に到達した後急激に減少するように油圧変動(制動力変動)をホイールシリンダ(制動力付与手段)WCrl〜WCrr(上記実施形態ではWCrrのみ)に発生させる(ステップ806)。これにより、ショックの発生し易い増圧を比較的になめらかに制御することにより、ドライバに与える違和感を抑制しつつ自動的に制動力を付与して第1〜第4車輪W1〜W4(上記実施形態ではWCrrのみ)の車輪位置を特定することが可能となる。またドラム式ブレーキのように、その構造上、増圧時の応答性が悪いブレーキシステムでは、油圧変動に起因する車輪の回転変動が発生しにくいが、油圧の急減圧による制動力の開放時の油圧変動に起因する車輪の回転変動は検出可能であるので、ドラム式ブレーキでも確実かつ正確に車輪の車輪位置を特定することができる。
【0115】
また、制御装置70は、車両Mへの制動開始時に、車両Mへの制動力増大に対応する制動力変動を、異なるタイミングで各ホイールシリンダ(制動力付与手段)に発生させる(ステップ406)。これにより、例えばブレーキペダル11の踏込操作や踏み増し操作またはエンジンブレーキによる制動開始時に、その制動力増大に紛れてドライバに違和感を与えることなく車輪の車輪位置を特定することが可能となる。
【0116】
また、中止手段(ステップ510,512,516またはステップ908,910,914)は、車両Mの悪路走行時には、発生手段(ステップ406またはステップ806)、取得手段(ステップ408またはステップ808)および関連付け手段(ステップ410またはステップ810)からなる一連の処理を中止する。これにより、油圧変動(制動力変動)に対する応答を誤って取得するのを確実に防止し、ひいては車輪の車輪位置を誤って特定するのを確実に防止することができる。
【0117】
また、レベル学習手段(ステップ202〜210)が、回転変動から導出される車輪の回転の変動量のレベルの学習を実施し、その学習結果に応じて判定閾値を変更し、判定手段(ステップ704)が、回転変動から導出される車輪の回転の変動量が判定閾値以上であれば制動力変動に対する応答有りと判定する。これにより、経年変化により車輪のバランスが崩れた場合などにおいても、油圧変動(制動力変動)に対する応答を確実に取得し、ひいては車輪の車輪位置を確実に特定することができる。
【0118】
また、上述した実施形態においては、前二輪がディスク式ブレーキであり、後二輪がドラム式ブレーキであったので、前二輪に対してはブレーキペダル11の踏み込み時に時間をずらして油圧を発生させ、後二輪に対してはブレーキペダル11の踏み込み操作に関係なく所定の油圧制御マップに基づいて自動かつ時間をずらして油圧を発生させた。四輪がディスク式ブレーキである場合には、四輪に対してブレーキペダル11の踏み込み時に時間をずらして油圧を発生させて上述した前輪の輪特定処理と同様な処理を実施するのが望ましい。また、四輪がドラム式ブレーキである場合には、四輪に対してブレーキペダル11の踏み込み操作に関係なく所定の油圧制御マップに基づいて自動かつ時間をずらして油圧を発生させて上述した後輪の輪特定処理と同様な処理を実施するのが望ましい。
【0119】
また、液圧ブレーキ装置Bは、ブレーキペダル11の踏み込み状態に応じた基礎液圧をホイールシリンダに供給するとともに、ブレーキペダル11の踏み込み状態に関係なく各ホイールシリンダWCfl〜WCrrに独立して制御液圧を供給することができるものであれば、上述した実施形態に形式以外の形式のものでも採用可能である。
【0120】
また、上述した実施形態においては、回転角加速度の自乗値または自乗値の任意時間の和すなわちゲインSと判定閾値とを比較して車輪の回転変動の有無を判定したが、回転角加速度の絶対値または絶対値の任意時間の和と判定閾値とを比較して車輪の回転変動の有無を判定するようにしてもよい。
【0121】
また、上述した実施形態においては、上記油圧制御マップに基づくホイールシリンダWCfl〜WCrrへの油圧変動を、ドライバによる制動要求がないときに発生させるようにしたが、ドライバによる制動要求があったときに発生させるようにしてもよい。これにより、ドライバによりブレーキペダル11が踏まれたときにホイールシリンダWCfl〜WCrrへの油圧変動を発生させるので、そのときのドライバに与える違和感をより抑制することができる。この場合、油圧を急激に減少させて抜いた時点においても制動要求が継続中である場合には、一旦抜いた油圧を再び増大させることが望ましい。これにより適切な制動力を車両Mに付与することができる。
【0122】
また、上述した実施形態においては、次のようにホイールシリンダに油圧変動を発生させるようにしてもよい。すなわち、上記後輪の輪特定処理においては、制動要求がなくても予め設定した油圧制御マップに従って油圧変動を自動的に発生させたが、車両Mに制動力を発生させている場合に、その制動力を一時的に減少させる制動力変動を制動力付与手段に発生させるようにしてもよい。
【0123】
この場合、制御装置70は、上記ステップ802の処理において、制動要求中であり、ブレーキアクチュエータCによるABS制御、ESC制御などの制動制御や駆動制御が非作動中であり、現在のブレーキ制動が判定に有効な制動力範囲であり、かつ車両Mが悪路を走行していなければ、判定開始条件Bを合格とし、そうでなければ不合格とする。そして、制御装置70は、上記ステップ806の処理に代えて、車両Mへの制動中において、判定開始条件Bが合格であると判定した時点(図20の時刻t8)に右後位置のホイールシリンダWCrrのみに付与されている油圧を自動で一時的に減少させることにより、油圧変動をホイールシリンダWCrrに発生させる。
【0124】
このとき、例えば図20に示すように予め設定した油圧制御マップに従って油圧を自動で一時的に減少させればよい。この油圧制御マップは、油圧が急激に減少し所定油圧に到達した後所定の増加率で徐々に増大するように設定されている。このマップによる油圧変動は、油圧の上昇および下降時のいずれの場合においても乗員がその変動を違和感として感じないように設定され、かつ、油圧の下降時に車輪の回転変動として検出できるように設定されている。例えば、下降率が−0.8/0.05(Mpa/sec)であり、最低油圧が0.1Mpaであり、上昇率が0.8/0.15(Mpa/sec)である。時刻t8は油圧の急降下が開始される時刻である。また、電磁弁54を閉状態から開状態に単に切り替えて成り行きで油圧を減少するようにしてもよい。
【0125】
このような油圧変動を受けて、例えば、第4車輪W4の第4回転変動値V4が図21に示すようになる場合、制御装置70は、時刻t8から所定時間内である時刻t18にて第4車輪W4に回転変動があったという「応答有り」を取得する。また、制御装置70は、第3車輪W3には回転変動がなかったという「応答なし」を取得する。これによれば、車両Mへの制動中において、ドライバに与える違和感を抑制しつつ自動的に油圧変動(制動力変動)を発生させて車輪の車輪位置を特定することが可能となる。
【0126】
さらに、上述した実施形態においては、次のようにホイールシリンダに油圧変動を発生させるようにしてもよい。すなわち、上記前輪の輪特定処理においては、車両Mへの制動開始時に、油圧の制御を行ったが、車両Mへの制動解除時において、油圧の制御を行うようにしてもよい。この場合、制御装置70は、上記ステップ402の処理において制動解除要求があり、かつ車両Mが悪路を走行していなければ、判定開始条件Aを合格とし、そうでなければ不合格とする。そして、制御装置70は、上記ステップ406の処理に代えて、車両Mへの制動解除時に、例えば制動要求の終了すなわちブレーキペダル11の踏み込み解除と同時(時刻t5)に左前位置のホイールシリンダWCflのみを減圧させる。
【0127】
そして、制御装置70は、ホイールシリンダWCflの油圧変動と時間をずらして右前位置のホイールシリンダWCfrの油圧の減圧を開始する。例えば、時刻t5から所定の短時間(例えば50msec)経過した時点(時刻t6)にホイールシリンダWCfrへの油圧を減圧させる。このときの両ホイールシリンダWCfl,WCfrの油圧変動を図18(a),(b)にそれぞれ示す。その後、制御装置70は、ホイールシリンダWCfrの油圧変動と時間をずらして後二輪位置の各ホイールシリンダWCrl,WCrrの油圧を減圧させる。例えば、時刻t5から所定の短時間(例えば80msec)経過した時点(時刻t7)にホイールシリンダWCrl,WCrrへの油圧を減圧させる。
【0128】
このような油圧変動を受けて、例えば、第1車輪W1の第1回転変動値V1が図19(a)に示すようになる場合、制御装置70は、時刻t5から所定時間内である時刻t15にて第1車輪W1に回転変動があったという「応答有り」を取得する。また、第2車輪W2の第2回転変動値V2が図19(b)に示すようになる場合、制御装置70は、時刻t6から所定時間内である時刻t16にて第2車輪W2に回転変動があったという「応答有り」を取得する。時刻t15と時刻t16の差は、先に油圧変動を発生させたときの時間差(50msec)にほぼ等しくなる。
【0129】
これによれば、例えばブレーキペダル11の解除操作による制動解除時に、その制動解除操作に紛れてドライバに違和感を与えることなく制動力変動を発生させて車輪の車輪位置を特定することが可能となる。
【0130】
また、上述した実施形態においては、ホイールシリンダ一つずつに油圧変動をずらして発生させて車輪の車輪位置を特定するようにしたが、各ホイールシリンダのうち何れか二つずつに油圧変動を同時に発生させて車輪の車輪位置を特定するようにしてもよい。この場合、四輪のブレーキシステムは全て同一形式例えばディスク式ブレーキであるとする。
【0131】
制御装置70は、上記ステップ406の処理に代えて、ドライバによる制動開始時にいずれかの2輪を加圧し少し遅らせて残り2輪を加圧する。つまり、1回目に4つのホイールシリンダのうち何れか二つに油圧変動を同時に発生させ、2回目に1回目に油圧変動を発生させたホイールシリンダの何れか一つと油圧変動を発生させなかったホイールシリンダの何れか一つとに油圧変動を同時に発生させる。そして、制御装置70は、上記ステップ410の処理に代えて、1回目と2回目の油圧変動の発生による、油圧変動を発生させたホイールシリンダと応答のあった車輪の組み合わせと、油圧変動を発生させなかったホイールシリンダと応答のなかった車輪の組み合わせとから、各車輪と各ホイールシリンダとを関連付ける。そして、制御装置70は、それら関連付けの結果に基づいてホイールシリンダの各車輪位置を車輪の各車輪位置として付与する。
【0132】
例えば、制御装置70は、1回目に前二輪(または後二輪)のホイールシリンダWCfl,WCfr(またはホイールシリンダWCrl,WCrr)に最初に油圧変動を発生させる。制御装置70は、この油圧変動を受けて、油圧変動の発生時刻に応じた時刻に第1および第2車輪W1,W2にほぼ同時に回転変動があったという「応答あり」を取得する。また、制御装置70は、第3および第4車輪W3,W4には回転変動がなかったという「応答なし」を取得する。この結果から第1および第2車輪W1,W2は前二輪Wfl,Wfrに関連付けられ、第3および第4車輪W3,W4は後二輪Wrl,Wrrに関連付けられる。
【0133】
そして、制御装置70は、2回目に左二輪(または右二輪)のホイールシリンダWCfl,WCrl(またはホイールシリンダWCfr,WCrr)に最初に油圧変動を発生させる。制御装置70は、この油圧変動を受けて、油圧変動の発生時刻に応じた時刻に第1および第3車輪W1,W3にほぼ同時に回転変動があったという「応答あり」を取得する。また、制御装置70は、第2および第4車輪W2,W4には回転変動がなかったという「応答なし」を取得する。この結果から第1および第3車輪W1,W3は左二輪Wfl,Wrlに関連付けられ、第2および第4車輪W2,W4は右二輪Wfr,Wrrに関連付けられる。
【0134】
制御装置70は、これら1回目および2回目の関連付けした結果に基づいて車輪の車輪位置を特定する。第1および第2車輪W1,W2は前二輪Wfl,Wfrに関連付けられていることと、第1および第3車輪W1,W3は左二輪Wfl,Wrlに関連付けられていることから、第1車輪W1は左前輪Wflであると特定できる。同様に、第2車輪W2は右前輪Wfrであること、第3車輪W3は左後輪Wrlであること、そして、第4車輪W4は右後輪Wrrであることが特定できる。
【0135】
これによれば、油圧変動の発生を二回実施するだけで車輪の車輪位置を特定することができる。したがって、一輪ずつ制動力が変動するのでなく、二輪ずつ制動力が変動するので、車両の安定性を保持しつつ車輪の車輪位置を特定することができる。また、一輪ずつホイールシリンダに油圧変動を発生させて車輪の車輪位置を特定する場合には油圧変動の発生を3回実施しなければならないが、油圧変動の発生を二回実施するだけで車輪の車輪位置を特定することができるので、より短時間に車輪の車輪位置を特定することができる。
【0136】
さらに、各ホイールシリンダのうち何れか三つずつに最初に油圧変動を同時に発生させて車輪の車輪位置を特定するようにしてもよい。この場合、四輪のブレーキシステムは全て同一形式例えばディスク式ブレーキであるとする。制御装置70は、上記ステップ406の処理に代えて、各ホイールシリンダのうち何れか三つずつにドライバの制動要求と同時に油圧変動を発生させ、残る一輪のホイールシリンダへの加圧のみ遅らせて発生させる。そして、制御装置70は、上記ステップ410の処理に代えて、最初に油圧変動を発生させなかったホイールシリンダと応答のなかった車輪とを関連付ける。そして、制御装置70は、油圧変動を発生させなかったホイールシリンダの車輪位置を、油圧変動に起因して回転変動しなかった車輪の車輪位置として付与する。
【0137】
例えば、制御装置70は、1回目に三つのホイールシリンダWCfr,WCrl,WCrrに油圧変動を同時に発生させる。制御装置70は、この油圧変動を受けて、最初に油圧変動の発生時刻に応じた時刻に第2〜第4車輪W2〜W4にほぼ同時に回転変動があったという「応答有り」を取得する。また、制御装置70は、第1車輪W1には回転変動がなかったという「応答なし」を取得する。制御装置70は、応答のなかった第1車輪W1と油圧変動を発生させなかったホイールシリンダWCflとを関連付ける。これと同様に、第2〜第4車輪W2〜W4と各ホイールシリンダWCfr,WCrl,WCrrがそれぞれ関連付けられる。
【0138】
これによれば、一輪ずつまたは二輪ずつ制動力が変動するのでなく、まず3輪にドライバ要求に応じて制動力が働くので、車両の安定性をより早く保持して車輪の車輪位置を特定することができる。
【0139】
また、上述した実施形態においては、初期化SW72を押すと車輪位置特定処理を開始するようになっているが、これに代えて、空気圧センサから取得した空気圧に基づいて車輪の空気圧の低下を検出した場合に車輪位置特定処理を開始するようにしてもよい。この場合、各車輪W1〜W4は、図22に示すように、各回転状態センサSW1〜SW4に加えてさらに、該各車輪W1〜W4の空気圧をそれぞれ検出する複数の空気圧センサP1〜P4がそれぞれ設けられている。
【0140】
制御装置70は、図4に示す車輪の車輪位置特定制御(処理)のメインプログラムに代えて、図23に示す車輪の車輪位置特定制御(処理)のメインプログラムを実施する。制御装置70は、ステップ120において、空気圧センサP1〜P4から空気圧を取得し、ステップ122において、それら取得した空気圧に基づいて各車輪W1〜W4の空気圧の低下を検出したか否かを判定する。取得した空気圧が判定閾値以下であれば空気圧の低下を検出した(車輪の車輪位置特定の要求がある)と判定し、取得した空気圧が判定閾値より大きければ空気圧の低下を検出していない(車輪の車輪位置特定の要求がない)と判定する。
【0141】
制御装置70は、空気圧の低下を検出した場合(ステップ122にて「YES」)、第1〜第4回転変動値V1〜V4のノイズレベルをそれぞれ学習し(ステップ104)、前二輪の車輪位置を特定し(ステップ106)、そして後二輪の車輪位置を特定し(ステップ108)、その後特定した車輪位置を参照して空気圧が低下した旨とその車輪をドライバに警報する(124)。一方、制御装置70は、空気圧の低下を検出していない場合(ステップ122にて「NO」)、空気圧が低下するまでステップ122にて「NO」とする処理を繰り返し実行する。
【0142】
これにより、車輪の空気圧が低下していることを検出すると、自動的に車輪の車輪位置特定処理を開始することができるので、車輪位置特定処理を必要なときに適切に実施して車輪位置特定処理の頻度を少なくすることができる。また、車輪位置特定処理を開始する専用スイッチである初期化SW72を設けなくてすむので、コストを低減することができる。
【0143】
また、空気圧低下を検出した輪のみ回転状態センサの出力(送信)を行い、本発明による特定制御でその輪のみ特定するようにすれば、センサの送信回数を低減することができ、送信のためのエネルギを節約することができる。また、回転状態センサの通信回数を削減する方法として、制御条件である任意の車速範囲にあるときにのみ送信を行うようにしたり、また、回転角速度が予め設定された値以上のときのみ送信を行うようにしたりすることにより、送信のためのエネルギを節約することができる。
【0144】
なお、上述した各実施形態においては、制動力付与手段がホイールシリンダである場合を説明したが、車輪に制動力を付与するものであれば他の形式でもよく、例えば電動モータを使用するようにしてもよい。この場合、電動モータを駆動してディスク式ブレーキのパッドを押動したり、ドラム式ブレーキのブレーキシューを拡張したりする。これにより、制動力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明による車輪位置特定装置を適用した車両の一実施形態を示す概要図である。
【図2】図1に示す制動力制御装置を示す概要図である。
【図3】図1および図2に示す車輪を模式的に示す断面図である。
【図4】図1および図2に示す制御装置にて実行されるメインプログラムのフローチャートである。
【図5】図1および図2に示す制御装置にて実行されるノイズレベル学習サブルーチンのフローチャートである。
【図6】図1および図2に示す制御装置にて実行されるゲイン演算サブルーチンのフローチャートである。
【図7】図1および図2に示す制御装置にて実行される前輪の輪特定サブルーチンのフローチャートである。
【図8】図1および図2に示す制御装置にて実行される判定開始条件A判別サブルーチンのフローチャートである。
【図9】図1および図2に示す制御装置にて実行される悪路判定サブルーチンのフローチャートである。
【図10】図1および図2に示す制御装置にて実行される油圧変動に対する応答有無取得サブルーチンのフローチャートである。
【図11】図1および図2に示す制御装置にて実行される後輪の輪特定サブルーチンのフローチャートである。
【図12】図1および図2に示す制御装置にて実行される判定開始条件B判別サブルーチンのフローチャートである。
【図13】(a),(b)は、左前および右前位置のホイールシリンダの油圧変動をそれぞれ示すグラフである。
【図14】(a),(b)は、第1および第2車輪の第1および第2回転変動値をそれぞれ示すグラフである。
【図15】右後位置のホイールシリンダの油圧変動をそれぞれ示すグラフ(油圧制御マップ)である。
【図16】第4車輪の第4回転変動値を示すグラフである。
【図17】第3車輪の第3回転変動値を示すグラフである。
【図18】(a),(b)は、左前および右前位置のホイールシリンダの油圧変動の変形例をそれぞれ示すグラフである。
【図19】(a),(b)は、第1および第2車輪の第1および第2回転変動値をそれぞれ示すグラフである。
【図20】右後位置のホイールシリンダの油圧変動の変形例を示すグラフ(油圧制御マップ)である。
【図21】第4車輪の第4回転変動値をそれぞれ示すグラフである。
【図22】本発明による車輪位置特定装置を適用した車両の変形例を示す概要図である。
【図23】図22に示す制御装置にて実行されるメインプログラムの変形例のフローチャートである。
【符号の説明】
【0146】
10…マスタシリンダ、10a…第1出力ポート、10b…第2出力ポート、11…ブレーキペダル、11a…ペダルストロークセンサ、12…リザーバタンク、12a…入力ポート、15…アクセルペダル、15a…アクセルセンサ、20…液圧供給源、21…電動モータ、22…ポンプ、22a…吸入ポート、22b…吐出ポート、23…アキュムレータ、24…リリーフ弁、30…ストロークシミュレータ、30a…入力ポート、41〜43,45〜48,51〜54…電磁弁、44…逆止弁、61〜67…油圧計、70…制御装置(車輪位置特定装置)、71…受信機、71a…アンテナ、72…初期化スイッチ、73…警報装置、B…液圧ブレーキ装置、C…制動力制御装置(ブレーキアクチュエータ)、W1〜W4…第1〜第4車輪、SW1〜SW4…第1〜第4回転状態センサ、TR1〜TR4…第1〜第4送信機、AT1〜AT4…第1〜第4アンテナ、P1〜P4…第1〜第4圧力センサ、WCfl〜WCrr…ホイールシリンダ、Pfl〜Prr…車輪位置、Wfl〜Wrr…車輪、SBfl〜SBrr…車輪速度センサ、DRfl,DRfr…ディスクロータ、PDfl,PDfr…パッド、CLfl,CLfr…キャリパ、BDrl,BDrr…ブレーキドラム、BSrl,BSrr…ブレーキシュー、Wa1…タイヤ、Wb1…ホイール、M…車両、V1〜V4…回転変動値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(M)に配設される車輪(W1〜W4)の各車輪位置が予め関連付けされた複数の制動力付与手段(WCfl〜WCrr)を制御して前記各車輪に個別に制動力変動を発生可能な発生手段(ステップ406,806)と、
前記各車輪にそれぞれ設けられた回転状態センサ(SW1〜SW4)から取得した前記車輪の各回転変動に基づいて、前記制動力変動に対する各車輪の応答の有無を取得する取得手段(ステップ408,808)と、
前記各制動力付与手段に対する前記制動力変動の有無と、前記取得した応答の有無の組み合わせから前記各車輪と前記各制動力付与手段とを関連付ける関連付け手段(ステップ410,810)と、
を備えたことを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項2】
請求項1において、前記発生手段は、前記制動力が所定の増加率で徐々に増大し所定制動力に到達した後急激に減少するように前記制動力変動を前記制動力付与手段に発生させる(ステップ806)ことを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記発生手段は、前記車両に制動力を発生させている場合に、前記制動力を一時的に減少させる前記制動力変動を前記制動力付与手段に発生させることを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記発生手段は、前記各制動力付与手段のうち一つずつに前記制動力変動を発生させ、
前記関連付け手段は、前記制動力変動を発生させた制動力付与手段と前記応答のあった車輪とを関連付けることを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記車輪および前記制動力付与手段は前記車両の前左右および後左右の4箇所にそれぞれ配設されており、
前記発生手段は、1回目に前記4つの制動力付与手段のうち何れか二つに前記制動力変動を同時に発生させ、2回目に前記1回目に前記制動力変動を発生させた制動力付与手段の何れか一つと前記制動力変動を発生させなかった制動力付与手段の何れか一つとに前記制動力変動を同時に発生させ、
前記関連付け手段は、前記1回目と2回目の制動力変動の発生による、前記制動力変動を発生させた制動力付与手段と前記応答のあった車輪の組み合わせと、前記制動力変動を発生させなかった制動力付与手段と前記応答のなかった車輪の組み合わせとから、前記各車輪と前記各制動力付与手段とを関連付けることを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記車輪および前記制動力付与手段は前記車両の前左右および後左右の4箇所に配設されており、
前記発生手段は、前記4つの制動力付与手段のうち何れか三つずつに前記制動力変動を同時に発生させ、
前記関連付け手段は、前記制動力変動を発生させなかった制動力付与手段と前記応答のなかった車輪とを関連付けることを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項7】
請求項2乃至請求項4の何れか一項において、前記発生手段は、前記車両への制動開始時に、前記車両への制動力増大に対応する前記制動力変動を、異なるタイミングで前記各制動力付与手段に発生させる(ステップ406)ことを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項8】
請求項2乃至請求項4の何れか一項において、前記発生手段は、前記車両への制動解除時に、前記車両への制動力減少に対応する前記制動力変動を、異なるタイミングで前記各制動力付与手段に発生させることを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一項において、前記車両の悪路走行時には前記発生手段、前記取得手段および前記関連付け手段からなる一連の処理を中止する中止手段(ステップ510,512,516)をさらに備えたことを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れか一項において、前記取得手段は、前記回転変動から導出される前記車輪の回転の変動量が判定閾値以上であれば前記制動力変動に対する応答有りと判定する判定手段(ステップ704)を有し、
前記回転変動から導出される前記車輪の回転の変動量のレベルの学習を実施し、その学習結果に応じて前記判定閾値を変更するレベル学習手段(ステップ202〜210)をさらに備えたことを特徴とする車輪位置特定装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10の何れか一項において、前記各車輪にさらに設けられ該各車輪の空気圧をそれぞれ検出する複数の空気圧センサ(P1〜P4)から取得した空気圧に基づいて前記車輪の空気圧の低下を検出した場合に、前記発生手段、前記取得手段および前記関連付け手段からなる一連の処理を開始する開始手段(ステップ120,122)を備えたことを特徴とする車輪位置特定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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