説明

軟骨魚類から単離されたプロテオグリカンおよびその製造方法

少量摂取で効果を発揮し、かつ効果の作用機序が明確な軟骨抽出物およびその製造方法を提供する。軟骨魚類の軟骨の水抽出物に由来し、主成分が500kDa以上の分子量を有する単離されたプロテオグリカン、前記プロテオグリカンを含有する組成物、前記プロテオグリカンを有効成分として含有する医薬組成物、ならびに軟骨魚類由来の軟骨を平均粒径が100μm以下の粉砕物に粉砕する工程、前記粉砕物に水を添加し、水溶性成分を抽出する工程、前記抽出された水溶性成分を含む水相を分離する工程、および、前記水相にアルコールを添加して沈殿物を得る工程を含むプロテオグリカンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、軟骨魚類から単離されたプロテオグリカンおよびその製造方法に関する。詳しくは健康の維持、生活の質の向上または医薬として有用なプロテオグリカンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
癌は人類を悩ます共通の疾患であり、その治療は全地球的な課題となりつつある。我が国においては、主な死亡原因が感染症から生活習慣関連病へと移行する中で、特に癌は日本人の死亡原因の第1位となり、疾病対策上の最重要課題として研究が進められてきた。癌はすべての臓器・組織に発生しうるもので、体質・性別・年齢・地域および生活習慣の違いによって異なる。また癌の種類によって転移や増殖能を主としたすべての性質が異なるため、いまだ決定的な治療法を確立するに至らないのが現状である。
癌細胞の特徴として、血管新生を伴って栄養分を確保し、無秩序に自立性増殖を行い、転移・浸潤により身体の様々な部位に新しい癌組織を生成する。これに加えて、癌性悪液質により宿主を衰弱させ死に至らしめる。現在行われている癌の治療法として切除や抗癌剤投与、免疫療法、温熱療法、放射線照射等が存在するが、癌の種類により効果が異なったり、原発巣部位によっては利用できなかったり、さらに副作用による宿主の衰弱が問題となっている。そこで、固形癌に共通である血管新生や転移・浸潤を阻害する治療法が注目されている(Folkman J.,Nat.Med.1:27−31,1995)。
癌細胞の転移や浸潤、血管新生の際には、細胞を取り巻いている細胞外基質や基底膜を破壊するために、主としてマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)を用いることが知られている。それをもとに今日、癌治療の新しいターゲットとして、MMPを阻害することにより癌の転移・浸潤および血管新生を阻害し、癌の進行を抑制するという方法が用いられており、様々な合成のMMP阻害剤が開発されている(Iki K.ら、Carcinogenesis,1999 Jul;20(7):1323−9、Rasmussen A.H.ら、International Business Communications(1997)、Naito K.ら、Int J Cancer 1994 Sep 1;58(5):730−5)。しかし副作用として骨髄毒性、細胞毒性、関節痛が報告され、実用上問題となっている。
一方、天然物に対する最近の傾向として、漢方や食品中において各種疾患の予防・進行抑制に有効な成分が見出され、その一部は特定保健用食品として厚生労働省より効能の表示が認められている。癌治療においても食品由来の成分は注目を集めており、様々な食品中の成分の癌抑制効果が研究されている。そのうち、軟骨組織には血管形成がなされないことから、軟骨組織中には血管新生阻害活性物質が含まれていると考えられている。事実、腫瘍の周辺に軟骨抽出物を注入した実験において、腫瘍の増殖や血管新生の抑制が見られた(Lee A.ら、Science 1983 Sep 16;221(4616):1185−7)。サメ軟骨の血管新生阻害能のひとつとしてMMPの阻害が挙げられており、in vitroにおいてMMPの阻害が見出され(Moses,M.A.ら、J.Cell.Biochem.47:230−235,1991、Gingras D.ら、Anticancer.Res.2001:19(1−2):83−6)、また動物に経口投与した実験においても血管新生の阻害が見られることが報告されている(Davis PF.ら、Microvasc Res 1997 Sep;54(2):178−82)。これらの知見をもとに、サメは軟骨魚類であり質のよい軟骨が硬骨動物に比べて多く採取できるということから、サメ軟骨パウダーの癌の進行遅延または抑制を期待して癌患者に経口で用いられる代替療法や臨床研究が行なわれている(Ernst E.、Lancet 351:298 1998)。しかし、サメ軟骨の経口摂取によるin vivoでのサメ軟骨の腫瘍抑制効果の仕組みはほとんど分かっておらず、またサメ軟骨の経口摂取により組織中でサメ軟骨がMMPを阻害しているという知見は得られていない。
サメ軟骨から有効成分を得る方法としては、サメ軟骨を微粉末状にしてそのまま有効成分として用いる方法(特開2001−48795号公報)またはサメの軟骨を粉砕して水抽出して得られる凍結乾燥物の製造方法が知られている(特表平9−512563号公報、米国特許第4473551号明細書)。
【発明の開示】
しかし、前記方法で得られたサメ軟骨由来の成分は、効果を得るために過大な量を摂取しなければならないこと、あるいは他の有効成分と併用することにより抗腫瘍活性や抗炎症活性を発揮することができるものであり、その効果の作用機序は証明されていない。
そこで、本発明の目的は、少量摂取で効果を発揮し、かつ効果の作用機序が明確な軟骨抽出物およびその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、軟骨から効率よく有効成分を抽出する条件および有効成分の特性について鋭意研究したところ、下記要件を満たす成分およびその製造方法により所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の単離されたプロテオグリカンは、軟骨魚類の軟骨の水抽出物に由来し、主成分が500kDa以上の分子量を有することを特徴とする。
前記プロテオグリカンは、アルコールに不溶性であることが好ましい。
前記プロテオグリカンは、グリコサミノグリカン部分がコンドロイチン硫酸Cを主成分とすることが好ましい。
前記プロテオグリカンは、マトリックスメタロプロテアーゼに対する阻害活性を有することが好ましい。
前記マトリックスメタロプロテアーゼがMMP−9の場合、前記阻害活性が0.4重量%添加餌料を摂取した担癌動物の血清中のMMP−9阻害活性の減少を回復させる作用、または0.4重量%添加餌料を摂取した担癌動物の血清中のMMP−9阻害活性を少なくとも5%増加させる作用であることが好ましい。
前記プロテオグリカンは、有効量の生体内摂取によりカテプシンBに対する阻害活性を上昇させる作用を有することが好ましい。
前記プロテオグリカンは、有効量の生体内摂取により血清中のハプトグロビン量を増大させる活性を有することが好ましい。
本発明の組成物は、前記プロテオグリカンを含有することを特徴とする。
前記組成物は、生活の質を向上させるために用いられることが好ましい。
本発明の医薬組成物は、前記プロテオグリカンを有効成分として含有することを特徴とする。
本発明のプロテオグリカンの製造方法は、軟骨魚類由来の軟骨を平均粒径が100μm以下の粉砕物に粉砕する工程、
前記粉砕物に水を添加し、水溶性成分を抽出する工程、
前記抽出された水溶性成分を含む水相を分離する工程、および
前記水相にアルコールを添加して沈殿物を得る工程を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1で得られたサメ軟骨水抽出物の組成を示す図である。
図2は、実施例1のゲルろ過HPLCで得られたMMP−9阻害活性画分のアミノ酸組成を示す図である。
図3は、実施例1で得られたサメ軟骨水抽出物のMMP−2およびMMP−9阻害活性を示す図である。
図4は、等電点電気泳動による各画分のpHとMMP−9阻害活性との相関を示す図である。
図5は、ゲルろ過(Superdex(登録商標)75)のチャート図である。
図6は、ゲルろ過(Superdex(登録商標)75)による各画分のMMP−9阻害活性を調べた電気泳動の図である。
図7は、セルロースアセテート膜電気泳動の結果を示す図である。
図8Aは、ゲルろ過(Superdex(登録商標)200)のチャート図である。図8Bは、Superdex(登録商標)200の溶出時間と分子量との関係を示す図である。図8Cは、Superdex(登録商標)200による各画分のMMP−9阻害活性を示す図である。
図9は、本発明品とコンドロイチン硫酸Cと市販サメ軟骨のMMP−9阻害活性を比較した図である。サンプル水溶液5μlを10μlの活性型MMP−9に加え、37℃で24時間反応させたときのMMP−9の残存活性を示す。
図10は、実施例1において化学発癌ハムスターの癌抑制効果を示す図である。基礎食または実験食で50日間飼育したときの腫瘍数を示す。★:p<0.05。
図11は、実施例3において膵臓癌患者の血清中のMMP−9阻害活性を示す図である。
図12は、実施例3において膵臓癌患者の血清中のIV型コラーゲン断片を定量した結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の単離されたプロテオグリカンは、軟骨魚類の軟骨の水抽出物に由来し、主成分が500kDa以上の分子量を有するものである。
前記プロテオグリカンの原料となる軟骨魚類は、特に限定されるものではなく板鰓類および全頭類を含むものであり、例えば板鰓類としてはサメ、エイなどがあげられ、全頭類としてはギンザメなどがあげられる。
本発明において原料となる軟骨は、前記軟骨魚類に由来するものであれば特に限定されずに使用することができる。
「主成分」とは、ゲルろ過クロマトグラフィーにより500kDa以上の分子量を有する画分に主要ピークを生じることをいう。
したがって、「500kDa以上の分子量」とはゲルろ過クロマトグラフィーにより見積られた分子量をいい、具体的にはSuperdex(登録商標)200を用いて測定し、500kDaないし排除限界1300kDaまでの分子量である。
本発明のプロテオグリカンは、アルコールに不溶性であることが好ましい。前記アルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールが好ましい。
すなわち、本発明のプロテオグリカンは、前記のような高分子化合物であり、アルコールに不溶性であることが好ましい。
ここで、プロテオグリカンとはグリコサミノグリカンとタンパク質との共有結合化合物をいう。前記グリコサミノグリカン部分は、コンドロイチン硫酸Cを主成分とすることが好ましい。前記タンパク質部分は、後述する実施例1および図2に記載のようなアミノ酸組成を有することが好ましい。
本発明のプロテオグリカンは、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)に対する阻害活性を有することが好ましい。当該プロテオグリカンは、有効量の生体内摂取によりマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)に対する阻害活性を上昇させる作用を有することが好ましい。
MMPとしては動物由来のものであれば特に限定されるものではなく、前記動物としては、マウス、ラット、ハムスターなどのげっ歯類、ニワトリ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ等の家畜類やヒトなどがあげられる。MMPの種類としては、MMP−1、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−11、MMP−12、MMP−13などの誘導型MMP、MMP−2、MMP−14などの恒常型MMPがあげられるが、腫瘍の血管新生に関与するという観点から、血管を裏打ちしている基底膜を構成するIV型コラーゲンまたはV型コラーゲンを分解するゼラチナーゼ群であるMMP−2またはMMP−9が好ましい。
本発明において「有効量」とは、動物の生体内において、MMP阻害活性の上昇作用、カテプシンB阻害活性の上昇作用または血清中のハプトグロビン量の増大活性を奏するに足る量をいい、動物の種類や、年齢、性別、体重などの個体差により異なるが、ハムスターにおけるMMP阻害活性を上昇させるためには、1日当たり1〜50mg程度が例示される。ヒトにおけるMMP阻害活性を上昇させるためには、1日当たり1〜15g程度が例示される。
前記MMPがMMP−9の場合、MMP−9の阻害活性の増加は、0.4重量%のプロテオグリカンを添加した餌料を摂取した担癌動物の血清中のMMP−9阻害活性の減少を回復させる作用、または0.4重量%のプロテオグリカンを添加した餌料を摂取した担癌動物の血清中のMMP−9阻害活性を少なくとも5%増加させる作用であることが好ましい。前記MMP−9の阻害活性の増加は、より好ましくは20%以上である。これにより、癌の成長や転移を有効に抑制することができる。
血清中のMMP−9の阻害能は、本発明者らにより初めて測定することが可能となったものであり、所定量のV型コラーゲンとMMP−9に血清を混合してSDS−PAGEおよびウエスタンブロッティングで解析した後デンシトメトリーによりV型コラーゲンの量を定量することにより測定することができる。MMP−9の活性は、37℃、24時間の反応でV型コラーゲンを10%分解する活性を1mUとして定義する。したがって、血清中のMMP−9の阻害活性は、1mUのMMP−9の活性を阻害する活性を1mUとして定義することができる。
本発明のプロテオグリカンは、有効量の生体内摂取によりカテプシンBに対する阻害活性を上昇させる作用を有することが好ましい。カテプシンBに対する阻害作用を通じて、抗癌作用を発揮することができる。カテプシンBの種類としては、前記MMPと同様の動物種由来のものがあげられる。
カテプシンBの阻害活性は、生体内摂取した動物の血清を用いて、Methods of Enzymology 1981;80巻、p.535−561に記載の方法に準じて測定することができる。前記活性は、本発明のプロテオグリカン摂取前の血清と比べて、摂取後の血清において有意に増大していることを指標とする。
また、本発明のプロテオグリカンは、有効量の生体内摂取により血清中のハプトグロビン量を増大させる活性を有することが好ましい。血清中のハプトグロビン量を増大させることによって、前記カテプシンBに対する阻害作用を通じて抗癌作用を発揮することができる。ハプトグロビンの種類としては、前記MMPと同様の動物種由来のものがあげられる。
血清中のハプトグロビン量は、生体内摂取した動物の血清をSDS−PAGEに供し、染色してデンシトメーターにより定量する。前記活性は、本発明のプロテオグリカン摂取前の血清と比べて、摂取後の血清において有意に増大していることを指標とする。
本発明は、前記プロテオグリカンを含有する組成物を提供する。本組成物中に含まれるプロテオグリカンの割合は、目的に応じて適宜設定することができるが、通常0.001〜99.9重量%である。
本組成物中に含まれる他の成分は、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、組成物が食品の場合、通常の食品の原材料に本発明のプロテオグリカンを一定量混合して食品とすることができる。また、組成物が補助食品(いわゆるサプリメント)の場合、本発明のプロテオグリカンと所望によりデンプンなどの増量剤、ブドウ糖、砂糖、シロップなどの甘味料、香料または水などとを混合して、飲食が容易な形状、例えば錠剤、カプセル、液体とすることができる。前記組成物には、軟骨魚類の軟骨に由来する任意の成分、例えば軟骨粉砕物(ホモジネートを含む)そのもの、軟骨水抽出物由来の他の成分(分子量500kDa未満のプロテオグリカン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、コラーゲン、ミネラルなど)またはローヤルゼリー、カキエキス、ビタミン類、グルコサミン、キチンキトサン、酵母などの軟骨魚類の軟骨に由来しない成分であって健康によいとされる成分を含有してもよい。
前記組成物は、生体内摂取により特定の機能を発揮するプロテオグリカンを含むことから、健康な状態の維持・向上または不健康な状態(病気に罹患した状態を含む)の改善を含む生活の質を向上させるために用いられることが好ましい。
本発明は、前記プロテオグリカンを有効成分として含有する医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物の対象となる疾患は、血管新生または脈管形成を伴う疾患であり、例えば、癌の成長、癌の転移、慢性関節リウマチなどの関節炎、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、乾癬および血管の構成成分を伴う炎症疾患があげられるが、これに限定されるものではない。
本発明の医薬組成物は、前記プロテオグリカンそのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口投与剤または注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて経口投与または非経口投与することができる。また投与量は、有効成分の含有量、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、1日投与用量として、数mg〜20g程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。
本発明は、前記プロテオグリカンの製造方法を提供する。当該製造方法は、軟骨魚類由来の軟骨を平均粒径が100μm以下の粉砕物に粉砕する工程、
前記粉砕物に水を添加し、水溶性成分を抽出する工程、
前記抽出された水溶性成分を含む水相を分離する工程、および
前記水相にアルコールを添加して沈殿物を得る工程
を含むことを特徴とする。以下、前記工程を含む本発明の製造工程について説明する。
(1)原料およびその前処理
原料となる軟骨は、前記軟骨魚類に由来するものであれば特に限定されずに使用することができる。軟骨の周りに付着している肉、皮などの不要部分は予め取り除いておくことが望ましい。軟骨の部位は特に限定されるものではなく、中骨、ヒレ、頭部軟骨などがあげられる。軟骨は、生軟骨、乾燥軟骨、およびこれらの冷凍品のいずれも使用することができるが、原料の調達しやすさから乾燥軟骨またはその冷凍品が好ましい。軟骨の乾燥は、天日干しまたは60℃程度の乾燥機を利用することができる。
(2)軟骨を平均粒径が100μm以下の粉砕物に粉砕する工程
下記抽出工程を効率よく行うため、前記軟骨を粉砕する。粉砕方法としては、乾式粉砕または湿式粉砕があげられる。乾式粉砕は、乾燥軟骨またはその冷凍品を用いて行うことができる。湿式粉砕は生軟骨単独でまたは生軟骨もしくは乾燥軟骨に水を添加して行うことができる。粉砕物の粒径の制御の容易さから、乾式粉砕が好ましい。
乾式粉砕に使用する装置としては、冷凍粉砕機、ジェットミルなどがあげられる。
湿式粉砕に使用する装置としては、ホモジナイザ、湿式媒体ミルなどがあげられる。
粉砕物の平均粒径は、0.1〜100μm、好ましくは1〜50μmである。0.1μm未満にすると生産性が低下する傾向があり、100μmを越えると抽出効率が低下する傾向がある。
ここで、平均粒径とは、体積基準分布が中央値(積算分布の50%に対する粒子径)である粒子と同じ体積の球の直径を指し、レーザー回折法、遠心沈降法などの粒度分布測定装置によって測定することができる。
生産性を高めるためには、軟骨を予め粗粉砕した後、前記粉砕をしてもよい。粗粉砕の方法および装置は特に限定されず、例えばハンマーミルなどの粗粉砕機を使用して行うことができる。粗粉砕は、粉砕物の平均粒径が0.5〜10mm程度となるように行えばよい。
(3)前記粉砕物に水を添加し、水溶性成分を抽出する工程
前記粉砕物に水を添加する。添加する水は特に限定されるものではなく、水道水、イオン交換水または蒸留水などがあげられる。水の温度も特に限定されるものではない。また、水のpHも特に限定されるものではなく、特にpH調整をすることなく使用することができる。
水の添加量は、通常、粉砕物の重量に対して1〜10倍の量である。
抽出条件は、粉砕物と水とを撹拌しながら、通常1分〜24時間程度行う。1分未満では十分な抽出が行われず、24時間以上では生産性が低下する傾向がある。また、抽出回数は1回でも複数回でもよいが、得られる水相の容量が一定の範囲内になるように、水の添加量と抽出回数を設定すればよい。
(4)前記抽出された水溶性成分を含む水相を分離する工程
抽出工程終了後、抽出された水溶性成分を含む水相を懸濁抽出液から分離する。分離方法は、通常の固液分離を行えばよい。例えば、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどがあげられる。
(4’)濃縮工程
工程(4)で得られた水相は、必要に応じて濃縮することができる。濃縮方法は、特に制限されないが、加熱濃縮、凍結濃縮、限外ろ過膜による濃縮などがあげられる。濃縮の程度は得られた水相の容量により適宜設定できるが、通常元の容量の75%以下に濃縮する。
(5)前記水相にアルコールを添加して沈殿物を得る工程
工程(4)または(4’)で得られた水相にアルコールを添加して、アルコール不溶成分を析出させ、沈殿物を得る。
添加するアルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノールがあげられるが、食品用途にはエタノールが好ましい。アルコールの添加量は、不溶成分の析出が目視できる程度に添加すればよいが、通常水1に対して1〜3倍容量である。析出条件は特に限定されないが、0〜60℃で1分〜24時間程度静置すればよい。
(6)沈殿物を回収する工程
工程(5)で得られた沈殿物は、遠心分離、ろ過などにより回収する。回収した沈殿物は、アルコールおよび水分を除去するため、乾燥させることが好ましい。乾燥方法は、風乾または凍結乾燥などがあげられる。
(7)沈殿物を整粒する工程
得られた沈殿物は、保管性や取扱い性をよくするため、さらに水分を除去して粉末化することが望ましい。乾燥水分値は、保管が容易な程度であればよい。さらに、用途に応じて粉砕、造粒などを行ってもよい。
(8)分子量が500kDa以上の画分を分取する工程
工程(6)で回収した沈殿物は、実質的に本発明のプロテオグリカンからなるものである。用途によっては、工程(6)の沈殿物をゲルろ過等によりさらに精製することができる。精製方法は、分取用ゲルろ過クロマトグラフ(例えば、Superdex(登録商標)200)を用いて500kDa以上の画分を分取することにより行うことができる。また、カットオフ値が500kDaの膜ろ過を濃縮工程で行うことで、工程(8)を代替してもよい。
(9)等電点電気泳動によりpIが5.5以下の画分を分取する工程
工程(6)で回収した沈殿物または工程(8)で精製した精製物は、実質的に本発明のプロテオグリカンからなるものである。用途によっては、工程(6)の沈殿物または工程(8)の精製物を等電点電気泳動によりさらに精製することができる。精製方法は、分取用等電点電気泳動装置(例えば、Rotofor、Bio−Rad Laboratories社製)を用いてpIが5.5以下の画分を分取することにより行うことができる。分取する画分は、好ましくはpIが5.0以下、より好ましくは2〜3である。
工程(8)または工程(9)により分取した画分は、溶媒を除去した後、工程(7)の整粒工程に供することができる。
このようにして得られた本発明のプロテオグリカンは、単独で、または食品もしくは医薬品の有効成分として利用することができる。本発明のプロテオグリカンは、その有効量を動物の体内に摂取すると、MMP阻害活性の上昇作用、カテプシンB阻害活性の上昇作用、ハプトグロビンの発現亢進作用を通じて、疾患の予防、治療を含む生活の質の向上(QOL)に寄与することができる。
【実施例】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら制限されるものではない。
【実施例1】
サメ軟骨由来のプロテオグリカンの単離
(1)サメ軟骨抽出物の調製
天日干しして乾燥させたサメ軟骨(ヨシキリサメの軟骨)を、粗粉砕機(ホソカワミクロン(株)製、FM−1)で平均粒径が5mm程度まで粗粉砕した。得られた粗粉砕物を、冷凍粉砕機(ホソカワミクロン(株)製、LX−1)で液体窒素とともに粉砕し、平均粒径25μmの微粉末を得た。平均粒径は、マイクロトラック9320HRA(リーズ・アンド・ノースラップ社製)を用いて測定した。得られた微粉末3kgに対して蒸留水15kgを加え、室温で20分間撹拌した後、遠心分離(5分、3000rpm)して上清を得た。残った残渣にさらに10kgの蒸留水を加え、室温で20分間撹拌した後、前記と同様に遠心分離して上清を得た。以上の上清を合わせて、限外ろ過膜(分画分子量6kDa、SIP−1053、ID1.4mm、旭化成製)により約65%の容量になるまで濃縮した。得られた濃縮液に3倍容量のエタノールを加えて室温で2時間静置し、沈殿物を析出させた。析出した沈殿物を遠心分離(5分、3000rpm)により回収し、40℃で乾燥させた。乾燥したサメ軟骨抽出物を、コーヒーミルで粉砕し、以下の実験に用いた。
(2)水分量測定
常圧加熱乾燥法により水分含量を算出した。十分に乾燥させたるつぼの風袋を測り、そこに前記(1)で得た試料1gを正確に計り取った。120℃の試料乾燥機で1時間乾燥させ、放冷した後、秤量した。これを重量が一定となるまで繰り返し、その後重量の減少量から各試料中の水分含量を算出した(図1)。
(3)灰分量測定
るつぼの風袋を測り、そこに前記(1)で得た試料を0.2g計り取った。るつぼをバーナーで焼き、煙が出なくなったら火を止め、デシケーターに入れて500℃に設定しておいた電気炉内に置いた。24時間放置後、放冷し、秤量し、重量変化から灰分量を算出した(図1)。
(4)アミノ酸分析
前記(1)で得た試料の水溶液(200μg/ml)100μlとスタンダード30μl(アミノ酸混合標準溶液H型を10μl、2.5μmol/ml Hypを10μl、2.5μmol/ml Hylを10μl)を、各々別の洗浄済小試験管(6mm×5cm)に加え、遠心真空乾固した。その後、ミニナートバルブを備えた15mlリアクティブバイアルに入れ、300μlの6N HClとともに減圧下(0.1−0.2Torr)で、150℃1時間加水分解した。次に、HClを除去するために真空乾固した。
メタノール:トリエチルアミン:蒸留水=7:2:1に調製した混合液を10μlずつ加えて真空乾固した。ついで、メタノール:トリエチルアミン:蒸留水:フェニルイソチアネート=7:1:1:1からなる誘導化液を20μlずつ加え、20分間室温で誘導化した後、真空乾固した。そこで、10%アセトニトリルを含む5mMリン酸緩衝液(pH7.4、Waters社製、Pico−Tagサンプル希釈液)を、スタンダードには500μl、試料には200μl添加した。ついで、試験管をパラフィルムで密封して超音波でフェニルイソチアネートの結晶を破壊し、0.45μmのフィルターでろ過後、遠心分離(12000rpm、3分)し、上清(スタンダードは10μl、試料は20μl)を逆相HPLCで分析した。カラムはSuperspher 100PR−18(e)(Merck社製)を、溶離液はA液:5%アセトニトリルを含む150mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH6.0)、B液:60%アセトニトリルを使用した。グラジエント構成は、溶離液Bを0−2分:0%、2−20分:10−47.5%、20−25分:47.5−100%、25−37分:100%、37−50分:0%とし、検出は254nm、流速は0.8ml/min、カラム温度は40℃とした。結果を図1に示す。
(5)カルバゾール硫酸法によるコンドロイチン硫酸量の測定
前記(1)で得た試料の水溶液(200μg/ml)0.25mlを試験管にとり、氷水で冷却撹拌しながら1.5mlの硫酸溶液(四ホウ酸ナトリウム10水和物0.95gを100mlの濃硫酸に溶かす)を滴下し、0.05mlの0.125%カルバゾール溶液(12.5mgのカルバゾールを10mlのエタノールに溶かす)を加え、十分に混合した後、ガラス球でふたをし、沸騰水中で20分間加熱した。室温で冷却後、530nmの吸光度を分光光度計(SPECTROPHOTOMETER DU640,BECKMAN社製)で測定した(T.Bitter,H.M.Muir,Anal.Biochem.,4,330,1962)。スタンダードにはコンドロイチン硫酸C(20、40、100、200μg/ml)を用い、同様の操作を行った。
[結果]
前記(1)で得られたサメ軟骨水抽出物は、図1に示すように、タンパク質とコンドロイチン硫酸を主成分(それぞれ30.8%と44.2%)とし、水分が5.8%と灰分が19.2%の組成であった。また、サメ軟骨抽出物に含まれるタンパク質のアミノ酸組成は、Glyを多く含み、コラーゲン特有のヒドロキシプロリン(Hyp)およびヒドロキシリジン(Hyl)を含んでいた。この組成は、サメ軟骨II型コラーゲンの組成とほぼ一致した。II型コラーゲンとともに、Serなどが多いことから、プロテオグリカンのタンパク成分を含むことが示唆された。
次に、後述のゲルろ過で精製して得られたMMP−9阻害活性の画分を、前記(4)と同様の方法でアミノ酸分析を行った。結果を図2に示す。図2より、ヒドロキシプロリンをほとんど含まないため、前記画分は、そのタンパク成分が主としてプロテオグリカンに由来することが示唆された。
(6)サメ軟骨水抽出物のMMP−2またはMMP−9阻害活性
0.6mlマイクロチューブに400mM NaCl、20mM CaCl2、0.1%Brij35(ICI社製)を含む100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.86)10μl、0.1%V型コラーゲン(牛胎盤由来ペプシン分解、株式会社ヤガイ製)溶液10μl、前記(1)で得られた試料(0.01〜2.0%水溶液に調製)5μl、MMP−2溶液またはMMP−9溶液10μlを加え、37℃で24時間酵素反応させた。なおネガティブコントロール(NC)として試料とMMP−9を除いたもの、ポジティブコントロール(PC)として試料を除いたものを用い、代わりに50mM Tris−HCl緩衝液を同じ量になるように加えた。反応後、0.5Mエチレンジアミンテトラ酢酸(pH7.5)を20μl、10%ドデシル硫酸ナトリウムおよび0.1%ブロモフェノールブルーをそれぞれ5μl加え、熱湯で加熱した。そのうち10μlをSDS−PAGEに供し、次いでウエスタンブロット法によりPVDF膜に転写し、PODイムノステインセット(和光純薬工業株式会社製)によりV型コラーゲンとその分解産物のバンドを分離・同定した。各バンド濃度はデンシトメータで測定し、V型コラーゲンのα1、α2鎖に対する分解産物のバンド鎖(α1’、α2’鎖)の存在比(IntOD%:S’)を求めた。分解阻害率はポジティブコントロール(PC)分解産物の存在比(PC’)を100としたときの比を100から引くことで阻害率を求めた(図3)。
図3より、前記(1)で得られたサメ軟骨抽出物は、濃度依存的にMMP−2活性およびMMP−9活性を阻害し、2%の濃度では約90%阻害することがわかる。
(7)等電点電気泳動による分画
前記(1)で得られたサメ軟骨抽出物0.5gを50mlの蒸留水に溶解し、等電点電気泳動装置Rotofor(Bio−Rad Laboratories社製)で、12W、120分間泳動した。各フラクションについてpHを測定し、MMP−9阻害活性を前記(6)と同様の方法により調べた(図4)。
図4より、MMP−9阻害活性は等電点が酸性の画分で高く、特にpH2.0〜3.0の画分でMMP−9阻害活性が高かった。
(8)Superdex(登録商標)75ゲルろ過HPLCによる分画
前記(7)の等電点電気泳動でMMP−9阻害活性が高かった画分を遠心分離(12000rpm、30分)し、その上清を0.45μmのフィルターによりろ過後、200μlをゲルろ過HPLCにより分画した。分離条件は、溶離液に200mM NaCl、10mM CaCl2を含む50mM Tris−HCl(pH7.86)を用い、カラムはSuperdex(登録商標)75(Amersham Biosciences社製)を用いた。流速は0.5ml/min、波長230nmで検出した(図5)。ピークの生じる直前の10分から1分ずつFRACTION CORECTORE(Bio−Rad Laboratories社製)で分取し、MMP−9阻害活性を前記(6)と同様の方法により調べた(図6)。
図5および図6より、MMP−9阻害活性は、分子量100kDa以上の高分子画分(図中、※で示す)に存在することがわかる。
(9)セルロースアセテート膜電気泳動
MMP−9阻害活性画分に30倍容量の0.5N NaOHを添加し、4℃で24時間反応させた。その後、1N HClで中和し、4.5mlのプロナーゼ緩衝液を加え熱変性(100℃、10分)させた。50℃まで冷却後チモールを加えた。その後、50℃で48時間反応させた。除タンパクのため、4.5mlの30%トリクロロ酢酸溶液を加え、4℃で1時間反応させた。前記溶液を遠心分離(8000×g、15分)し、その上清を蒸留水に対して透析し、凍結乾燥した。この乾燥物について、セルロースアセテート膜を用いた電気泳動を行った。電気泳動用緩衝液として、0.1Mピリジン、0.47Mギ酸を含むピリジン−ギ酸緩衝液を使用した。マーカーとして、コンドロイチン硫酸C、デルマタン硫酸およびヒアルロン酸を用いた(図7)。
図7より、MMP−9阻害活性を有する高分子画分は、プロナーゼ処理前は、ブロードなバンドとして検出されたが、プロナーゼ処理によりコンドロイチン硫酸C(CSC)と同じ位置に検出された。したがって、MMP−9阻害活性を有する酸性で親水性の高分子画分は、コンドロイチン硫酸Cを含み、かつ、タンパク質と結合していることが示された。
(10)Superdex(登録商標)200ゲルろ過HPLCによる分画
前記(1)で得られたサメ軟骨抽出物を蒸留水に溶解して1mg/mlとし、遠心分離(12000rpm、30分)し、その上清を0.45μmのフィルターによりろ過後、200μlをゲルろ過HPLCにより分画した。分離条件は、溶離液に200mM NaCl、10mM CaCl2を含む50mM Tris−HCl(pH7.86)を用い、カラムはSuperdex(登録商標)200(Amersham Biosciences社製)を用いた。流速は0.5ml/min、波長230nmで検出した(図8)。1分ずつFRACTION COLLECTOR(Bio−Rad Laboratories社製)で分取し、MMP−9阻害活性を前記(6)と同様の方法により調べた。
図8より、MMP−9阻害活性は、分子量500kDa以上の高分子画分に存在することがわかる。
比較例1
実施例1(8)で得られた酸性で親水性の高分子画分(本発明品)、コンドロイチン硫酸Cおよび市販のサメ軟骨を、実施例1(6)に記載の方法によりMMP−9阻害活性を調べた。その結果を図9に示す。
図9より、コンドロイチン硫酸Cおよび市販のサメ軟骨は、MMP−9阻害活性をほとんど有していないことがわかった。本発明品と市販のサメ軟骨の成分を比較するため、それぞれのコンドロイチン硫酸量とアミノ酸量を調べた。その結果、コンドロイチン硫酸量は有意な差がなかったが、アミノ酸量は本発明品が圧倒的に多かった。コンドロイチン硫酸C単独ではMMP−9阻害活性がほとんど存在しなかったことから、MMP−9阻害活性は糖鎖よりもタンパク部分に存在することが示唆される。
【実施例2】
担癌ハムスターに対するサメ軟骨抽出物摂取の効果
(1)実験食の調製
基礎食として日本クレア株式会社より購入したCE−2粉末を用い、実験食として基礎食に実施例1(1)で調製したサメ軟骨抽出物を0.2重量%または0.4重量%添加したもの(以下、単に重量%を%と略す場合がある)を用いた。前記基礎食および実験食は、下記ハムスターに自由に摂食させた。水も自由摂取とした。実験食を摂取させた各ハムスターの体重と餌の摂取量を調べた。同じ群間において目立った体重差および餌の摂取量に差は見られなかった。
(2)実験動物
シリアンゴールデンハムスター(6週齢)を日本SLC株式会社より購入した。ハムスターは室温24±1℃、湿度60±5%に調節した12時間明暗サイクルの飼育室で4〜5匹づつプラスチックケージに入れて飼育した。環境順応のため、動物搬入より非験飼育を一週間行なった。なお、動物実験は奈良県立医科大動物実験施設において、同施設の動物実験倫理規定を遵守して行なった。
(3)N−ニトロソビス(2−オキソプロピル)アミン(BOP)による膵管癌誘発ハムスター
全動物に体重1kgあたり50mgのBOPを皮下投与し、短期膵癌発生系(Mizumoto K.ら、J.Natl.Cancer Inst.80:1546−57,1988)に従い、コリン欠乏食投与、体重1kgあたり500mgのエチオニン腹腔内投与、体重1kgあたり800mgのメチオニン腹腔内および体重1kgあたり20mgのBOP皮下投与なる一連の操作を2回繰り返し、膵管癌誘発ハムスターを作出した。実験開始から50日目から100日目まで、上記の実験食を投与した(村田奈保:ハムスター膵管癌発生に対するウシおよびサメ軟骨水抽出物の影響 奈良医学雑誌53(5、6)241−52 2002)。
実験期間中の体重に各群間で差は見られず、最終体重、膵および肝の重量および餌の摂取量にも有意差は見られなかった。被験物質開始直後に0.4%サメ軟骨食群が1匹死亡したことを除いて実験期間中に動物の死亡は見られなかった。また、毛づやなどの動物の一般状態は、0.4%群では他の群と比較して良好であった。
図10に実験食を50日間摂取させ、100日目に生存していた全動物を屠殺剖検したときの膵癌病変と膵管癌の数を示す。動物一匹あたりの膵管上皮過形成および異型性過形成の発生数は0.2%、0.4%群で減少傾向が見られたが、基礎食群と比較して有意な差は見られなかった。膵管癌の発生数は基礎食群で3.1±2.0個、0.2%群で2.6±2.1個、0.4%群で1.4±0.9個であり、サメ軟骨抽出物の用量に相関して減少する傾向が見られた。0.4%群は基礎食(0%)群に比べ、膵管癌の発生数が優位に減少していた(図中★はP<0.05である)。
(4)膵癌組織移植ハムスター
ハムスターの後背部左右2箇所にN−ニトロソビス(2−ヒドロキシプロピル)アミン(BHP)誘発膵癌組織を継代移植したものを細分化し、金属製トロッカーを用いて移植した。実験食投与に際して、移植癌の生着抑制効果ではなく、腫瘍の増大抑制効果を見るために一週間の癌生着猶予期間を設けた。その後3週間、実験食を投与した。腫瘍増大を観察する計算方法として、楕円形と近似するとして計測した長径および短径から、4/3×π×(長径/2)×(短径/2)2で体積を求めて比較を行なった。一部のハムスターは、非担癌ハムスターとして実験食投与を行なった。
その結果、癌生着後3週間経過すると、実験食群は、基礎食群に比べて腫瘍の成長が阻害されていた。
(5)血清と組織採取
実験期間終了後、エーテル麻酔のもとハムスターの腹部大動脈より全血を採取し、常温放置により分離した上清を遠心分離(20分、3000rpm)して血清を得た。腫瘍および非腫瘍組織も必要に応じて採取し、−80℃で凍結保存した。組織からのMMP抽出法として、組織10mgに対して1% Tweenおよび300mM NaClを含む50mM Tris−HCl緩衝液を500μl加え、マイクロチューブ内でホモジェネートし、氷中で15分間インキュベーションした。その後3000rpmで30分間遠心分離し、得られた上清を組織抽出液とした。実験は、すべて滅菌操作により行なった。
(6)サメ軟骨抽出物を摂取した非担癌または担癌ハムスター血清のMMP−9阻害活性測定
400mM NaCl、20mM CaCl2、0.1%Brij35を含む100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.86)と、この2倍希釈の50mM Tris−HCl(pH7.5)緩衝液を作成し、この50mM緩衝液を用いて血清を適当な濃度に希釈(5〜20倍)してMMP阻害活性測定に供した。
0.6mlマイクロチューブに400mM NaCl、20mM CaCl2 0.1%Brij35を含む100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.86)10μl、0.1%V型コラーゲン(牛胎盤由来ペプシン分解 株式会社ヤガイ製)溶液10μl、血清サンプル5μl、MMP−9溶液10μlを加え、37℃で24時間酵素反応させた。なおネガティブコントロール(NC)として血清、MMP−9を除いたもの、ポジティブコントロール(PC)として血清を除いたものを用い、代わりに50mM Tris−HCl緩衝液を同じ量になるように加えた。反応後、0.5M エチレンジアミンテトラ酢酸(pH7.5)を20μl、10%SDSおよび0.1%BPBをそれぞれ5μl加え、熱湯で加熱した。そのうち10μlをSDS−PAGEを行い、その後ウエスタンブロット法によりPVDF膜に転写し、PODイムノステインセット(和光純薬工業株式会社製)によりV型コラーゲンとその分解産物のバンドを分離・同定した。各バンド濃度はデンシトメータで測定し、V型コラーゲンのα1、α2鎖に対する分解産物のバンド鎖の存在比(IntOD%:S’)を求めた。分解阻害率はポジティブコントロール(PC)分解産物の存在比(PC’)を100としたときの比を100から引くことで阻害率を求め、さらに希釈倍率(D’)とアプライ量(A’)から血清1ml中の阻害活性として表した。
[結果]
実験食(0.4%)または基礎食を非担癌ハムスターに2週間摂取させたときの血清におけるMMP−9のV型コラーゲン分解阻害活性(U/ml)は、実験食群では4.95±0.06、基礎食群では4.13±0.59であった。サメ軟骨抽出物を摂取することにより、MMP−9に対する阻害活性が増加する傾向が見られた。
実験食(0.4%)または基礎食を担癌ハムスターに3週間摂取させたときの血清におけるMMP−9のV型コラーゲン分解阻害活性(U/ml)は、実験食群では4.1±0.3、基礎食群では3.2±0.7であった。
これらのことから、ハムスターにおいて、発癌によりMMP−9阻害活性は4.1U/mlから3.2U/mlに約20%低下するが、サメ軟骨抽出物を摂取することにより非担癌ハムスター並みに有意に回復したことがわかる。また、健康な非担癌ハムスターにおいても、サメ軟骨抽出物を摂取することによりMMP−9阻害活性が約20%増加することが認められた。
【実施例3】
ハムスター血清中のハプトグロビン量
非担癌ハムスターにサメ軟骨抽出物を二週間摂取したときの血清をSDS−PAGEにより分離してCBB染色した。その結果、約80kDaのバンドが、基礎食群と比べて実験食群で増加していた。前記80kDaのバンドを切り出し、構造解析(プロテインシークエンサー:PPSQ 21、島津製作所製)したところ、ハムスター内因性のハプトグロビン(α鎖:VDLSNDAMDTADDS(配列番号:1)、β鎖:IIGGSLDAKGSFPW(配列番号:2))であることがわかった。
ハプトグロビンは溶血により生じた酸化ヘモグロビンを結合して酸化的血管障害毒性を中和するなどの働きを持っており、溶血をはじめ、最近では癌の悪性度など多くの疾患の指標タンパクとなっている(Pathol Oncol Res.1998;4(4):271−6、Br J Cancer.1991 Aug;64(2):386−90)。また癌の転移・浸潤への関連が示唆されているカテプシンB(Chin Med J(Engl).1998 Sep;111(9):784−8、FEBS Lett.1999 Jul 23;455(3):286−90)に対する阻害活性能(Can J Biochem.1982 Jun;60(6):631−7)や、ハプトグロビン−ヘモグロビン複合体が癌細胞のアポトーシスを誘導(Scand J Clin Lab Invest.1995 Oct;55(6):529−35)することが報告されている。現段階でハプトグロビンに対する解釈は難しいが、解釈のひとつとしてサメ軟骨抽出物摂取により血清中ハプトグロビンの増加がみられ、肝機能が良好に保たれていた可能性がうかがえる。
【実施例4】
癌患者に対するサメ軟骨抽出物摂取の効果
膵臓癌を患った男性ボランティア(50代)に対し、実施例1(1)で調製したサメ軟骨抽出物を毎日2g、4ヶ月に渡り経口摂取させ、摂取前および摂取後の血清を分析した。この患者への他の抗癌剤投与は、副作用の影響が多大であったため、行っていない。
(1)サメ軟骨抽出物を摂取した担癌ヒト血清のMMP−9阻害活性測定
当該患者の血清を20倍に希釈し、実施例2(6)と同じ手法でMMP−9の阻害活性を測定した。その結果を図11に示す。
NC(Negative Control=V型コラーゲン基質溶液のみの陰性対照)とPC(Positive Control=V型コラーゲン基質溶液にMMP−9を加えインキュベーションした陽性対照)を比較すると、PCにはMMP−9により分解された低分子量のV型コラーゲンがみとめられる。(図中矢印にて示す)
Before(サメ軟骨抽出物摂取前の患者の血清)にはPCと同様の分解産物がみとめられるが、After(同4ヶ月摂取後)では、明らかに分解物が減少しており、サメ軟骨抽出物を摂取することにより、癌患者においてもMMP−9に対する阻害活性が増加することが確認された。
(2)ELISA法による膵臓癌患者のIV型コラーゲン分解物量の測定
癌患者においてMMP−9、2の活性が高ければ、IV型コラーゲンが分解され、その断片が血清中に増えることとなる。そこで、ELISA法測定キットであるバナッセイIV−C(第一ファインケミカル株式会社製)を用い、血清中のIV型コラーゲンの断片量を測定することで、MMP−9の活性を評価した。
サメ軟骨抽出物摂取前および摂取後の患者の血清と、対照として健常者3名の血清を採取した。20倍に希釈した血清50μLと酵素標識抗体液300μLとを加えた試験管に、抗体結合ビーズを投入し、混和後1時間静置した。静置後、洗浄液を試験管に加え反応液をアスピレータで吸引除去する工程を4回繰り返した。残ったビーズに発色液300μLを加え、さらに基質液100μLを加え、混和した後、30分間静置した。静置後、停止液を1mL加え、水を対照として波長450nmで吸光度を測定した。予め用意した検量線にもとづき、吸光度から血清中のIV型コラーゲン断片量を求めた。結果を図12に示す。(「正常人」は健常者3名の平均値)
正常人に比べ、サメ軟骨抽出物の摂取前の膵臓癌患者の血清IV型コラーゲン量はかなり高い値となっている。そのため、IV型コラーゲンが分解を受け、癌の転移浸潤、増殖が生じていることが推測できる。これがサメ軟骨抽出物の摂取後は着実に減少している。このことからも、サメ軟骨抽出物の摂取がMMPの活性を抑制する効果があることがうかがえる。
【産業上の利用可能性】
以前の報告にあるMMP合成阻害剤のOPB−3206における膵発癌抑制実験(Carcinogenesis.1999 Jul;20(7):1323−9)と比較すると、本発明のプロテオグリカンの膵発癌抑制実験は合成阻害剤に匹敵する癌抑制効果を示している。そのうえ、被験動物の体重減少や運動能低下等のMMP合成阻害剤特有の目立った副作用は見られないことから、サメ軟骨由来の本発明品は、天然物由来の癌進行抑制物質として期待できる。また、本発明のプロテオグリカンの製造方法は、このような特性を有し、作用機序の明確なプロテオグリカンを容易に製造することができる。
【配列表】

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨魚類の軟骨の水抽出物に由来し、主成分が500kDa以上の分子量を有する単離されたプロテオグリカン。
【請求項2】
アルコールに不溶性である請求項1に記載のプロテオグリカン。
【請求項3】
グリコサミノグリカン部分がコンドロイチン硫酸Cを主成分とする請求項1または2に記載のプロテオグリカン。
【請求項4】
マトリックスメタロプロテアーゼに対する阻害活性を有する請求項1〜3いずれかに記載のプロテオグリカン。
【請求項5】
前記マトリックスメタロプロテアーゼがMMP−9であり、前記阻害活性が0.4重量%添加餌料を摂取した担癌動物の血清中のMMP−9阻害活性の減少を回復させる作用、または0.4重量%添加餌料を摂取した担癌動物の血清中のMMP−9阻害活性を少なくとも5%増加させる作用である請求項4に記載のプロテオグリカン。
【請求項6】
有効量の生体内摂取によりカテプシンBに対する阻害活性を上昇させる作用を有する請求項1〜5いずれかに記載のプロテオグリカン。
【請求項7】
有効量の生体内摂取により血清中のハプトグロビン量を増大させる活性を有する請求項1〜6いずれかに記載のプロテオグリカン。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載のプロテオグリカンを含有する組成物。
【請求項9】
生活の質を向上させるために用いられる請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜7いずれかに記載のプロテオグリカンを有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項11】
軟骨魚類由来の軟骨を平均粒径が100μm以下の粉砕物に粉砕する工程、
前記粉砕物に水を添加し、水溶性成分を抽出する工程、
前記抽出された水溶性成分を含む水相を分離する工程、および
前記水相にアルコールを添加して沈殿物を得る工程
を含む請求項1〜7いずれかに記載のプロテオグリカンの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/083257
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503679(P2005−503679)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003432
【国際出願日】平成16年3月15日(2004.3.15)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】