説明

軟X線発生装置及び該軟X線発生装置を用いた除電装置

【課題】小さな電界で大きな出力の軟X線を安定した状態で大面積状に発生することができるとともに、発生したX線の照射方向を制御して非照射物に対して効率良く集中させて照射することが可能な、安価で性能の良い軟X線発生装置を提供する。
【解決手段】密閉可能な筒状の真空ハウジング内に、ハウジングの内壁面の長手方向に沿ってX線放出物質により構成されたわん曲面を有する陽極を設け、基材表面に針状体を密集して形成させた電極材料からなる冷陰極を前記陽極と間隔を空けて平行に配置してなり、陽極から発生するX線を冷陰極側に放射することを特徴とする軟X線発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉可能な真空ハウジング内に冷陰極と陽極を間隔を空けて対向配置した軟X線発生装置、及び該軟X線発生装置を用いた除電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を発生させる装置としては、従来タングステンフィラメント等の熱陰極を使用し、熱陰極から放出された熱電子によりターゲット(陽極)からX線を放射させる装置が、広く用いられている。しかしながら、熱陰極を使用したX線発生装置では、高出力の加熱源が必要となり、また陰極が非常に高温になるために周辺の熱対策設計が必要となるので、装置が大型化し高価なものとなる等の問題点があった。
【0003】
このような問題点を解決するために、熱陰極に代えてカーボンナノチューブ等の材料により構成された冷陰極を用いたX線発生装置が種々提案されているが(例えば、特許文献1、2参照)、必要な線量のX線を安定して出力することが困難であるといった欠点があった。
【特許文献1】特開2007−66694号公報
【特許文献2】特開2005−26227号公報
【0004】
一方、X線発生装置の用途として、波長が1Å〜数百Åで低エネルギーの軟X線を用いて、帯電している物体から静電気を除去する除電装置が種々提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。これらの除電装置は、例えばLSIや液晶製造プロセスにおいて、帯電したシリコンウエハや液晶用ガラス基板に低エネルギーの軟X線を照射することによって帯電物体の周辺の空気をイオン化し、帯電物体の電荷を中和するものである。
【特許文献3】特許第2749202号公報
【特許文献4】特開2007−305565号公報
【0005】
除電に用いる小型軟X線管は、X線を発生する陽極と電子を発生する陰極間の距離を狭くすることによって小型化を図っており、陰極・陽極間の距離が狭いために、比較的低い電圧で使用される。
従来の装置では、タングステンフィラメント等の比較的小径の熱陰極を用い、陰極から発生した熱電子が陽極電圧により加速され、ベリリウムのようなX線透過材料(窓)の表面に数μmの厚みで成膜されたタングステン等のX線発生材料からなる陽極に衝突することで、発生したX線が透過窓を透過して外部に放射される。
【0006】
X線による除電を行う場合、対象となる帯電物体にX線源を近接させて、かつX線照射面積を大面積化することができれば、X線の強度分布の均一化が可能となり、比較的低電圧での操作が可能になる。
しかしながら、従来のX線管においては、点光源的な線源から放射されるX線の放射角度は90〜150度程度である。したがって、対象物に近づけると小面積しか除電することができないので、通常は対象物から1m程度離した位置にX線管を配置する。このため、X線強度の距離による低下や、照射面積内でのX線の強度分布が生じ、均一な除電を短時間で行うことができない。また、装置を小型化した場合には、自然冷却方式で使用する場合、通常9〜10kVの電圧で0.1〜0.2mA程度の小出力となり、大出力の装置とすることは困難である。
【0007】
このため、図10にみられるように、従来のX線除電装置では、X線源を帯電物体から相当離れた位置に配置して照射面積の増大化を行うか、複数のX線源を設置することが必要であった。そして、X線出力が小さいために、除電性能はX線源と帯電物体との距離の3乗に反比例して低下するとともに、照射領域内でX線の強度分布が発生することから、除電性能の点でも極めて不利であった。
また、従来のX線除電装置では、帯電物体に対して線源から発生するX線を集中的に照射して効率良く除電することはできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明はこれら従来技術の問題点を解消して、小さな電界で大きな出力の軟X線を安定した状態で大面積状に発生することができるとともに、発生したX線の照射方向を制御して非照射物に対して効率良く集中させて照射することが可能な、安価で性能の良い軟X線発生装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、帯電物体に近接して前記軟X線発生装置を配置した、小型化可能で除電性能に優れた除電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討した結果、筒状の真空ハウジングの内壁面の長手方向に沿ってX線放出物質により構成されたわん曲面を有する陽極を設け、基材表面に針状体を密集して形成させた電極材料からなる冷陰極を前記陽極と間隔を空けて平行に配置し、陽極から発生するX線を冷陰極側に放射することによって、上記課題が解決されることを発見し、本発明を完成した。
すなわち、本発明はつぎの1〜15の構成を採用するものである。
1.密閉可能な筒状の真空ハウジング内に、ハウジングの内壁面の長手方向に沿ってX線放出物質により構成されたわん曲面を有する陽極を設け、基材表面に針状体を密集して形成させた電極材料からなる冷陰極を前記陽極と間隔を空けて平行に配置してなり、陽極から発生するX線を冷陰極側に放射することを特徴とする軟X線発生装置。
2.前記冷陰極と前記陽極の間にメッシュ状又は格子状のわん曲した引き出し電極を前記陽極と略平行に配置したことを特徴とする1に記載の軟X線発生装置。
3.前記ハウジングの冷陰極側に、X線透過性物質により構成された窓を設けたことを特徴とする1又は2に記載の軟X線発生装置。
4.前記陽極をX線反射層としたことを特徴とする1〜3のいずれかに記載の軟X線発生装置。
5.前記冷陰極を構成する電極材料が、導電性繊維の円周方向に放射状に針状体を形成したものであることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の軟X線発生装置。
6.前記針状体が、先端部に導電性被膜を設けたものであることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の軟X線発生装置。
7.前記針状体が、基部にその周囲を壁状に取り囲む炭素膜を有し、その中央部に炭素により構成された針状体を形成したものであることを特徴とする1〜6のいずれかに記載の軟X線発生装置。
8.前記陽極を板状体により構成したことを特徴とする1〜7のいずれかに記載の軟X線発生装置。
9.前記陽極を複数の棒状体又は管状体により構成したことを特徴とする1〜7のいずれかに記載の軟X線発生装置。
10.前記陽極を構成するそれぞれの棒状体又は管状体に印加する電圧を、他の棒状体又は管状体とは独立して制御可能としたことを特徴とする9に記載の軟X線発生装置。
11.前記陽極のわん曲面の焦点又はその近傍に前記冷陰極を配置して、軟X線発生装置から放射されるX線が平行に放射されるように構成したことを特徴とする1〜10のいずれかに記載の軟X線発生装置。
12.前記電極間に印加する電圧が0.5〜10keVであることを特徴とする1〜11のいずれかに記載の軟X線発生装置。
13.1〜12のいずれかに記載された軟X線発生装置と、前記軟X線発生装置に近接して配置した帯電物体を支持する支持手段を有することを特徴とする除電装置。
14.前記軟X線発生装置を、前記帯電物体の幅方向の全長にわたって配置したことを特徴とする13に記載の除電装置。
15.前記軟X線発生装置を、前記帯電物体を挟んで前記帯電物体の両側に配置したことを特徴とする13又は14に記載の除電装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小さな電界で大きな出力の軟X線を安定した状態で発生することができるとともに、発生したX線の照射方向を制御して非照射物に対して効率良く集中させて照射することが可能な、安価で性能の良い軟X線発生装置を得ることができる。
また、この軟X線発生装置を用いた除電装置では、帯電物体に近接した位置にX線源を配置することが可能となるので、装置の小型化と低価格化が可能となる。さらに、発生したX線を帯電物体の幅方向全体にわたって効率良く集中させて照射することができ、かつ陽極電極を制御することで帯電物体との距離が変更されても必要なX線量を照射することができるので、除電性能を大幅に改善することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1〜図3は、本発明のX線発生装置の1例を示す図である。図1は装置全体の構成を示す概念図、図2の(A)は装置の構成を示す模式図(斜視図)、図2の(B)は装置の縦断面模式図、そして図3は冷陰極を構成する電極材料の拡大模式図である。
このX線発生装置1は、ベリリウム等のX線透過材料からなる窓3を設けた密閉可能な円筒状の真空ハウジング2内に、導電性繊維の円周方向に放射状に針状体を密集して形成させた電極材料101により構成された冷陰極4をハウジングの中心に配置し、陽極5を間隔を空けて冷陰極4と平行に対向配置したものである。
【0012】
陽極5は、タングステン、銅等の金属材料により構成されたターゲット極で、一枚の板状体を曲げ加工することによって円筒状の真空ハウジング2と類似するわん曲面を有する形状とし、ハウジング2の内壁面に長手方向に沿って配置している。ハウジング2の両端には、ボタン型のステム12、13を溶接してハウジング2を密封する。一方のステム12には、陽極5に接続された陽極端子14、14が設けられ、他方のステム13には、冷陰極4に接続された陰極端子15、15並びにハウジング2内を排気するための排気管16が設けられている(図2の(B)参照)。この排気管16は、ハウジング内を真空状態に排気した後に、溶接することによって密封される。冷陰極4と陽極5は、それぞれ端子14、15を介して導線7により電極間に電圧を印加する高電圧電源8に接続されている。
この装置1は、高真空状態で稼動させるものであり(ハウジングの真空度は、1×10−2〜1×10−7Pa程度、特に1×10−3〜1×10−5Pa程度とすることが好ましい。)、ハウジング2及びステム12、13並びに排気管16は金属、ガラス等の密封可能な耐圧性材料によって構成するが、これらの部材を同質の材料により構成した場合には、水素ガス炎等を用いて溶接することにより各部材を容易に接合することができるで好ましい。また、ハウジング2の形状は、円筒形の他断面が楕円形や四角形の筒状体等、任意の形状とすることができる。
【0013】
この装置1を1×10−3〜1×10−5Pa程度の真空状態にして、冷陰極4と陽極5間に電源8により電圧を印加すると、冷陰極4の針状体の先端部に強電界が生じ、電界放射によって陽極5に向って電子(図1の点線矢印)が放出される。この電界放射は、電源8により制御することができる。そして、この電子が衝突することによって陽極5から発生したX線は、図1の実線矢印で示したように、ベリリウム等のX線透過材料からなる窓3からハウジング2の外部に向けて放射される(反射型X線発生装置)。
【0014】
本発明のX線発生装置では、陽極5のわん曲面の曲率及び冷陰極4から陽極5までの距離等を調整することによって、X線透過材料からなる窓3から放出されるX線の照射方向を、平行或いは集束するように制御することが可能となる。従来のX線発生装置は点光源型で、X線の放射角度が90度程度であり、非照射物との距離を離してX線発生装置を設置する必要があるため、非照射物に対してX線を効率良く集中させて照射することが困難であった。また、X線の出力が小さいために、充分な量のX線を照射することができなかった。これに対して、本発明のX線発生装置では、非照射物に対して大量のX線を効率良く集中させて照射することが可能となるので、例えば除電装置等に用いた場合に、X線の照射効率を大幅に改善することが可能となる。
【0015】
図3は、X線発生装置の冷陰極4を構成する電極材料を示す拡大模式図である。
この電極材料101は、炭素繊維等の導電性繊維102の円周方向において、放射状に針状体103を成長させたものである。この電極材料101では、針状体103の先端部104における数密度が、根元部105における数密度に比較して大幅に減少したものとなる。したがって、この電極材料101を冷陰極4とし、これに対向する陽極5を設けた本発明のX線発生装置では、針状体103の先端部104に集中する電界が大幅に増加するので、低い陽極電圧により必要量の電子を引き出すことが可能となり、この電子により陽極5からX線を効率よく発生させることができる。
【0016】
基材表面に針状体を有する材料を冷陰極の電極材料として使用することは公知であり(例えば、特許文献5、6参照)、本発明のX線発生装置では、これら公知の方法により得られる針状体を有する電極材料を冷陰極に使用することができる。
【特許文献5】特開2007−70140号公報
【特許文献6】特開2001−35424号公報
【0017】
冷陰極4を構成する好ましい電極材料としては、炭素繊維、或いは銅、金、銀、白金、アルミニウム等の金属繊維等の導電性繊維或いはステンレス、NiO合金等からなる線材(以下、これらをまとめて単に「導電性繊維」という)の円周方向に、放射状に針状体を密集させて形成した電極材料が挙げられる。
このような針状体としては、特許文献5に記載されたプラズマCVD法により形成される針状炭素膜、特に基部にその周囲を壁状に取り囲む炭素膜を有し、その中央部に炭素により構成された針状体を形成した針状体(以下、「カーボンナノエックス:CNX」と略記することがある)が挙げられる。(図4にCNXのSEM映像を示す。)
また、特許文献6に記載された大気開放型CVD法により形成される、酸化亜鉛をはじめとする金属酸化物の針状体を使用してもよい。
【0018】
導電性繊維の表面に形成する針状体の長さは5〜30μm程度、フィールドエミッションにおける電界係数β値は1000〜5000程度、密度は10〜10本/mm程度とすることが好ましい。
この導電性繊維の円周方向に針状体を成長させた電極材料は、小さな電界で大きな放射電流特性を示すことから、X線発生装置の冷陰極を構成する材料として好適に用いられる。針状体の先端部には、所望により金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜等から選択された導電性被膜(トップコート)を設けることによって、電界集中係数をさらに向上させることができる。トップコートを構成する好ましい材料としては、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、アモルファス水素化窒化炭素、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
このような電極材料を使用することによって、本発明のX線発生装置では電極間に印加する電圧が0.5keV〜10keV、特に1keV〜4keVといった低電圧においても、効率良くX線を発生させることが可能となる。針状体を形成する基材としては、導電性繊維に代えて幅の狭い長尺の板状体を使用するようにしてもよい。
【0019】
図5は、本発明のX線発生装置の他の例を示す模式図(斜視図)である。
この装置11では、陽極5’を断面が円形の多数の棒状体9を長手方向に並べて、陽極5’の断面がわん曲面となるように接合することによって構成したものである。また、陽極5’を構成する各棒状体を両外側から順次1本ずつ導線7で1対にして、それぞれ可変直流高電圧電源8’に接続することによって、各対となる棒状体に印加する電圧を他の棒状体から独立して制御することができるようにしたものである。陽極5’を構成する各棒状体は、ハウジング2の両側に設けたボタン型ステムのフィールドスルー端子に溶接することによって固定している。この装置11の他の構成は、図1〜図3のX線発生装置1と同様である。このX線発生装置11では、各棒状体陽極9に印加する電圧により、冷陰極表面の電界を精密に制御できる。冷陰極から制御されて放射される電子の量とその加速速度が変更可能となるために、例えば除電装置のX線源に使用した場合に、照射距離、対象物質の形状、及び不均一帯電等に関係なく、効率的に除電を行うことができる。
この例では、X線発生装置の陽極5’を、断面が円形の多数の棒状体9を長手方向に並べて接合することによって構成したが、棒状体に代えて中空の管状体を接合することによって、陽極5’を構成するようにしてもよい。
【0020】
図6は、本発明のX線発生装置の他の例を示す概念図である。
この装置21は、図1のX線発生装置1において、冷陰極4と陽極5の間に、例えばステンレス鋼等の金属材料により構成されたメッシュ状或いは格子状の引出し電極(ゲート電極)6を設けると共に、冷陰極4と引出し電極6を導線7により電極間に電圧を印加する高電圧電源10に接続したものである。装置21の他の構成は、図1の装置1と同様である。この装置21では、冷陰極4のウィスカー先端から放出された電子は、引出し電極6により陽極電圧とは独立して非常に低電圧で必要な電子量を引き出すことができ、この引き出された電子を陽極電圧によりターゲット(陽極)に衝突させてX線エネルギーを制御することができる。引き出し電極6の形状や寸法は任意であるが、陽極5の形状と同様にわん曲させるとともに、陽極の寸法に見合うものとすることが好ましい。
また、図6に示す配線において、引き出し電極6を接地し、陽極5と引き出し電極6間に正極電源8を、陰極4と引き出し電極6間に負極電源10を結線してもよい。
【0021】
図7及び図8は、本発明のX線発生装置のさらに他の例を示す模式図であり、図7は装置の横断面図である。また、図8は装置を構成する電極の端子接続図である。
この装置201では、図5の装置21において、陽極5’を断面が円形の棒状体a〜j及びa’〜j’を楕円の片側の円周上に配置することによって構成し、この楕円の長軸と短軸の交点に冷陰極4を配置したものである。また、断面が円弧状の真空ハウジング2には、ベリリウム等のX線透過材料からなる窓3が設けられている。
この例では、上記の構成を採用することによって、対となる電極毎に独立して印加する電圧を制御可能としてX線の照射量を均一にするとともに、窓3からX線が略平行に放射されるようにしたものである。この装置201の他の構成は、図5の装置21と同様である。
【0022】
図9は、本発明のX線発生装置を、LSIや液晶製造プロセス等で用いられる除電装置に適用した1例を示す模式図で、図9の(A)は装置の要部を示す平面図、そして(B)は同じく正面図である。
この除電装置31は、液晶基板等の帯電物体32を支持し搬送するベルトコンベヤーからなる支持手段33、及び該支持手段33に近接して配置した本発明のX線発生装置1を具備するものである。X線発生装置1は、帯電物体32を支持するベルトコンベヤーの幅方向の全長にわたる長さのものとし、発生するX線を帯電物体32全体に均等に照射することができるように構成している。ベルトコンベヤー33は、複数のロール34によって支持され、基板32を矢印方向に搬送する。除電装置31の要部を構成するこれらの部材は、X線の漏洩を防止するために、アルミニウムのような金属薄板からなる遮蔽カバー(図示せず)により覆うことが好ましい。また、ベルトコンベヤー33に代えてチェインコンベヤー等他の搬送手段を使用することもできる。
【0023】
図10は、従来のX線発生装置を使用した除電装置を示す模式図である。
この除電装置41では、1つ或いは複数の点線源に近いX線発生装置1’をX線源として使用することから、帯電物体32全体にX線を照射するためには、X線発生装置1’は帯電物体32から少なくとも60cm以上離れた位置に設置する必要がある。
また、図10の点線で示したように、X線は線源から広く拡散するように放射されるために、帯電物体に対してX線を集中的に照射することはできない。除電装置の除電性能は、X線源と帯電物体との距離の3乗に反比例して低下することから、この除電装置41の除電性能は充分なものとは言えなかった。
【0024】
これに対して、図9の除電装置31では、例えば図1に示した本発明のX線発生装置1を使用することによって、X線の発生効率が格段に向上し、しかも発生したX線を図9の点線で示したように、帯電物体32に対して集中してかつ帯電物体32全体に均等に照射することが可能となるので除電性能が極めて優れたものとなる。また、X線発生装置1を帯電物体32と近接させて配置することができることから、装置を小型化して価格を大幅に低下させることが可能となる。
【0025】
図11は、本発明の除電装置の他の例を示す模式図(正面図)である。
この除電装置51は、図9の除電装置31において、ベルトコンベヤー33に代えて多数の細長い剛性棒状体の両端をチェインで連結したチェインコンベヤー53を使用している。そして、2つのX線発生装置1、1を帯電物体32を挟むように帯電物体32を支持するチェインコンベヤー53の両側に配置している。装置51の他の構成は、図9の除電装置31と同様である。
この装置51では、図11の点線で示したように、帯電物体32の表裏両側からX線を照射することができるので、帯電物体32の除電効率を一段と向上させることができる。
【実施例】
【0026】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(製造例1:冷陰極構成材料(エミッタ)の作製)
基材となる直径1mmで長さ68mmのSUS304製線材を、プラズマCVD装置成膜室内の陽極電極上にセットし成膜室内を真空排気した。メタン(CH)/Hガスの混合比1/12で、成膜室内にメタンとHを流し、室内圧力を80Torrとなるように制御した。次に、陽極電極と陰極電極間に5kwの電力を投入し、メタン/Hによる混合プラズマを生成させた。プラズマ中で、約1000℃に加熱されたSUS304線材表面上に効率よくメタンが分解されたカーボンプリカーサが堆積し、成膜時間30分でナノカーボン薄膜(CNX)が成膜された。電力投入を停止後装置内を冷却し、Nで成膜室内をパージした後に、CNXが成膜されたSUS線材を取り出す。CNXが成膜されたSUS304線材からなる基材を以降エミッタと呼ぶ。
エミッタの電気特性(電流−電圧特性)を1×10-4Paの真空度で測定したところ、エミッタ表面上に2.5V/μmの電界を印加すると、10A/cmの電流が得られた。また走査型電子顕微鏡(SEM)でエミッタを観察した結果を図4の(A)及び(B)(部分拡大図)に示す。これらの図に見られるように、エミッタには下部がピラミット型で頂上部にスピンドル状の長い太針が形成されており、その密度は1×10本/cmであった。全体の長さは数10μmである。
【0027】
(実施例1)
図1〜図3のX線発生装置1において、上記製造例1で得られた径1mm、長さ68mmのCNXエミッタ陰極4と、板状体をわん曲加工した内径13mm、板厚0.5mm、長さ70mmのタングステン製陽極5を、ベリリウムにより構成されたX線取り出し窓3があらかじめ溶接されたガラス製真空ハウジング2内に、エミッタ陰極4が中心となり、陽極5がハウジング2と同軸円筒状(半円部のみ)となるように配置した。
エミッタ陰極4と陽極5は、ハウジングの両側のガラスステム12、13に溶接加工した。この両側ステム12、13を真空ハウジング2に挿入し、水素炎等の加熱手段を用いて溶接することにより、X線発生装置1を作製した。組立を終了した装置1を排気管16を介して超高真空排気装置(図示せず)に接続し、装置1を300℃程度に加熱し、1×10−5Pa程度の真空度で約1夜真空排気したのち、冷却後排気管16を水素炎で封止切断した。真空度を保持するために、ゲッターを入れておくことが好ましい。
【0028】
得られたX線発生装置1の陰極端子15と陽極端子14を直流電源8に接続し、陽極端子を+極、陰極端子15を−極として、正電圧を0〜5kv迄印加していった。そのときの電圧に対するX線発生量を、5000型サーベイメータ(東洋メディック製)にて測定した。X線発生装置1とサーベイメータの距離は50mmである。X線の発生量は、2kvの電圧印加で1μSu/h以上で始まり、2.5kvで10μSu/h以上になった。この例で使用したサーベイメータは10μSu/h以上の測定はできないため、測定を終了した。
上記のように、非常に低い電圧で高出力の軟X線が発生するのを確認した。
【0029】
(実施例2)
製造例1で得られた径1mm長さ68mmのCNXエミッタ陰極と、径1mmで長さ80mmのタングステン製棒状体20本を用いて、図7及び8のX線発生装置201を作製した。図7に示すように楕円の長軸と短軸の交点(中心)にエミッタ陰極4をおき、楕円の半円周上に円周と短軸との交点から左右対称に、陽極5’を構成する棒状体a,b,c…,j,a’,b’,c’…,j’をピッチ1mmで各10本配置した。
各陽極棒状体をハウジング2の両側のボタン型ガラスステムのフィードスルー端子に溶接して固定し、エミッタ陰極4も同様に固定した。次に、ベリリウムにより構成された窓3をあらかじめ溶接(Be/ユバール/ユバールガラス)したガラス製の真空ハウジング2に挿入した後、ハウジング2と左右ステムを溶接し、X線発生装置201を組み立てた。次に、装置を300℃のベーク温度で加熱しながら1×10−5Pa以下の真空度で1夜排気し、冷却後排気管を水素炎等で溶解封止してX線発生装置を完成させた。組立完成したX線発生装置の陽極側電極(10本、左右対称のため)を一括して接続し、直流電源の+極につなぎ、また陰極電極4を−極につないだ。
【0030】
得られたX線発生装置に、直流電圧を0〜4kv迄昇圧しながら印加し、そのときのX線発生量を5000型サーベイナータ(東洋メディック製)で測定した。
その結果、2.2kvで1μSu/hのX線の発生があり、3.0kvで10μSu/hと非常に大きな出力が得られた。また、図8の端子接続図において、対電極(a,a’等)毎に電源と接続することにより、これらに印加する電圧を独立して制御することが可能となり、外周部においてX線発生量が低下することを防止することができた。この方法により、X線巾20mmで均一な10μSu/h以上のX線発生を確認した。
【0031】
上記の各例では、X線発生装置の冷陰極をCNXエミッタにより構成した例について説明したが、CNXエミッタに代えて大気開放型CVD法により導電性繊維等の基材表面に酸化亜鉛をはじめとする金属酸化物の針状体を形成した電極材料等を使用できることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のX線発生装置の1例を示す図である。
【図2】図1の装置の構成を示す模式図である。
【図3】図1の装置の冷陰極を構成する電極材料の拡大模式図である。
【図4】製造例1で得られた冷陰極を構成する電極材料のSEMの映像で、(B)は(A)の部分拡大映像である。
【図5】本発明のX線発生装置の他の例を示す図である。
【図6】本発明のX線発生装置の他の例を示す図である。
【図7】本発明のX線発生装置の他の例を示す図である。
【図8】図7の装置を構成する電極の端子接続図である。
【図9】本発明のX線発生装置を使用した除電装置の1例を示す図である。
【図10】従来のX線発生装置を使用した除電装置の1例を示す図である。
【図11】本発明のX線発生装置を使用した除電装置の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1,11,21,201 X線発生装置
2 真空ハウジング
3 窓
4 冷陰極
5 陽極
6 引出し電極
7 導線
8、8’、10 電源
12、13 ステム
14,15 端子
16 排気管
31,41,51、 除電装置
32 帯電物体
33 ベルトコンベヤー
34 ロール
53 チェーンコンベヤー
101 電極材料
102 導電性繊維
103 針状体
104 先端部
105 根元部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉可能な筒状の真空ハウジング内に、ハウジングの内壁面の長手方向に沿ってX線放出物質により構成されたわん曲面を有する陽極を設け、基材表面に針状体を密集して形成させた電極材料からなる冷陰極を前記陽極と間隔を空けて平行に配置してなり、陽極から発生するX線を冷陰極側に放射することを特徴とする軟X線発生装置。
【請求項2】
前記冷陰極と前記陽極の間にメッシュ状又は格子状のわん曲した引き出し電極を前記陽極と略平行に配置したことを特徴とする請求項1に記載の軟X線発生装置。
【請求項3】
前記ハウジングの冷陰極側に、X線透過性物質により構成された窓を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の軟X線発生装置。
【請求項4】
前記陽極をX線反射層としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の軟X線発生装置。
【請求項5】
前記冷陰極を構成する電極材料が、導電性繊維の円周方向に放射状に針状体を形成したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の軟X線発生装置。
【請求項6】
前記針状体が、先端部に導電性被膜を設けたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の軟X線発生装置。
【請求項7】
前記針状体が、基部にその周囲を壁状に取り囲む炭素膜を有し、その中央部に炭素により構成された針状体を形成したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の軟X線発生装置。
【請求項8】
前記陽極を板状体により構成したことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の軟X線発生装置。
【請求項9】
前記陽極を複数の棒状体又は管状体により構成したことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の軟X線発生装置。
【請求項10】
前記陽極を構成するそれぞれの棒状体又は管状体に印加する電圧を、他の棒状体又は管状体とは独立して制御可能としたことを特徴とする請求項9に記載の軟X線発生装置。
【請求項11】
前記陽極のわん曲面の焦点又はその近傍に前記冷陰極を配置して、軟X線発生装置から放射されるX線が平行に放射されるように構成したことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の軟X線発生装置。
【請求項12】
前記電極間に印加する電圧が0.5〜10keVであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の軟X線発生装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載された軟X線発生装置と、前記軟X線発生装置に近接して配置した帯電物体を支持する支持手段を有することを特徴とする除電装置。
【請求項14】
前記軟X線発生装置を、前記帯電物体の幅方向の全長にわたって配置したことを特徴とする請求項13に記載の除電装置。
【請求項15】
前記軟X線発生装置を、前記帯電物体を挟んで前記帯電物体の両側に配置したことを特徴とする請求項13又は14に記載の除電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−212010(P2009−212010A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55468(P2008−55468)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(507103950)株式会社大河原製作所 (2)
【出願人】(504087905)
【出願人】(506036781)株式会社ライフ技術研究所 (7)
【Fターム(参考)】