説明

転がり免震支持装置を有する免震構造物

【課題】 長周期性とともに復帰性及び減衰性を有する剛性の楕円転動子を使用する転がり免震支持装置を設置した構造物の免震特性の向上を図る。
【解決手段】 常時は上部構造Gと下部構造Bとを広い面積の平面当接部Hで支持し、かつ転動子7が組み込まれ加圧流体の作用する内圧室Jを有する転がり免震支持装置Sに上揚力を作用させ、地震時はその転動子7の転動に追従して上部構造Gを支持する免震構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、互いに独立を保ち、かつ水平方向に相対移動可能な建造物・人工地盤等の上部構造と基礎等の下部構造とからなる構造系において、上部構造の荷重を支持するとともに地震動等の強制振動に対して上部構造の揺れを低減し免震する基礎用装置いわゆる免震支持装置を上部構造と下部構造との間に設置してなる免震構造物に関し、更に詳しくは、上部構造と下部構造との間に転動子を介する転がり免震支持装置を備えた免震構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼球等の転動子を用いて転がり機能により免震をなすを免震支持装置では、地震動に対する敏感な応答性が得られるが、減衰性については減衰手段を別途配する必要があり、また地震動後の元位置への復帰機能を付加する問題点もある。
本発明者は、この観点から先に特開2005−273353(文献1)、特開2005−282247(文献2)、特開2006−153125(文献3)等により、減衰・復帰機構を備え、かつ転倒を阻止する拘束梁を有する免震基礎構造を提案した。しかしながら、これらの技術では減衰・復帰機構が複雑なものとなっており、また、検知装置等の特殊な装置も必要となる。
そこで、本発明者は、転動子の形状を回転楕円体とすることにより、復帰機能を持たせ、併せて揺動の長周期化を図りうるとの知見に基づき、特開2010−84910(文献4)(以下、先行発明という。)において回転楕円体にダンパー鋼棒を組み込んでなる転がり免震支持装置を提案した。
すなわち、該先行発明の免震支持装置によれば、上部構造(建物)Gと下部構造(基礎)Bとの間に回転楕円体の転動子を介在させてなり、常時には該回転楕円体の採る安定位置状態により上部構造Gは安定的に支持され、地震時には回転楕円体の転がり特性、すなわち該回転楕円体の転がり軌跡に追従して、上部構造Gの長周期化と復帰モーメントによる復帰性とが発揮され、かつ、回転楕円体に組み込まれたダンパー鋼棒により減衰作用を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−273353号公報
【特許文献2】特開2005−282247号公報
【特許文献3】特開2006−153125号公報
【特許文献4】特開2010−84910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は先行発明を更に発展させたものであり、上部構造の載荷重を低減する機構を当該先行発明に付加することにより更に効果的な免震作用が得られるとの発想に基づくものである。
本発明はこのため、常時での転動子以外での平面支持を採るとともに、当該機構の転動子回りへの配設、更には上部構造と下部構造との対接部への配設を図る新規な構造の転がり免震構造物を得ることを目的とする。
本発明では特に、常時すなわち上下部構造が静止状態を採る定位置状態では転動子への負担を無負荷とする点に着目したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の転がり免震支持装置を有する免震構造系は具体的には以下の構成を採る。
本発明の第1は転がり免震支持装置を有する免震構造物に係り、請求項1に記載のとおり、
互いに独立を保ち、かつ水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造とからなる構造物において、
前記下部構造の上面は平坦面に形成され、
定位置状態で所定の面積を保持して平面当接部をもって前記上部構造の荷重を該下部構造に伝達し、
前記上部構造と下部構造との間に、下記構成よりなる転がり免震支持装置が設置されてなる、
ことを特徴とする。
a.前記下部構造の上面に、その上面が下部構造の上面と同一水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、定位置状態で最小高さを採るとともに水平方向に移動域を存し、その上下を前記荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに実質的に無負荷をもって挟着され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配され、
g.前記転動子は前記上部構造と前記下部構造との相対移動における転動状態において上部構造の荷重を支持する。
本第1発明は、以下の第1及び第2実施形態を包含する発明思想である。
本発明の第2は更に別な転がり免震支持装置を有する免震構造物に係り、請求項2に記載のとおり、上記第1発明において、上部構造と下部構造との間に、転がり免震支持装置に加えて、下記構成よりなる内圧室装置が設置されてなることを特徴とする。
a.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
b.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記下部構造の上面の平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
c.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入される。
上記第1発明及び第2発明において、転がり免震支持装置の構成要素f項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記鋼棒ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる転がり免震支持装置が上部構造と下部構造との間に設置されてなることを特徴とする免震構造物は別な発明を構成する。
上記第1発明及び第2発明において、上部構造の下部構造に対する平面当接部が下部構造の上面にすべり面を介して打設される現場打ちコンクリートであることを特徴とする免震構造物も別な発明を構成する。この発明は以下の第1実施形態に示される。
上記第1発明及び第2発明において、上部構造の下部構造に対する平面当接部が免震支持装置の荷重支持筒体に載置固定される剛性構造体より下方に垂設される束(つか)体の底面であることを特徴とする免震構造物も別な発明を構成する。この発明は以下の第2実施形態に示される。
【0006】
上記第1・第2発明及びそれらの別発明において、「下部構造」及び「上部構造」は、以下の実施形態で示す下部構造としての基礎、該基礎に支持される上部構造としての建物、人工地盤のみに限定されるものではなく、建物内の階層における上下面を境とする下層部(下版)及び上層部(上版)の構造を含むものである。「定位置状態」は、上部構造の常時の状態、換言すれば上部構造の静止状態をいい、更には転動子の安定状態をいう。
また、転動子につき、その「回転楕円体形状」は回転楕円体(長円体)に限定されず、表面曲率が漸次変化し、転動につれて上下平行面の接点間の高さが漸次増大する球体の全ての形状を含み、具体的には以下の実施の形態で示される。更に、その「実質的に無負荷」とは、該転動子の上下面が荷重支持筒体の天井壁部の下面と荷重受板の上面とに挟着される状態を保つに足る荷重であって無荷重を含む。
なお、上部構造が人工地盤を採るとき、建物本体は該人工地盤上に構築され、該人工地盤は平面当接部及び転動子を介して基礎としての下部構造に支持されるものである。
上記の第1・第2発明において、
1)荷重受板の上面は密封部材との当接面につき平滑にされる外、該荷重受板のその余の上面及び該荷重支持筒体の天井面の下面についても平滑面にされること、
2)転がり免震支持装置のf項において、転動子の中心に沿って貫通孔を設け、該貫通孔に棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を拘束状に配すること、
3)また同じくf項において、荷重受板と荷重支持筒体の天井壁部とに配される棒状ダンパー挿通管は、荷重受板の下面と荷重支持筒体の天井壁部の上面に取り付けられ、それらの棒状ダンパー挿通孔は荷重受板と荷重支持筒体の天井壁部とに直接形成されること、
4)転動子は、水平方向において、全方向移動に限定されず、一方向変位を採ること、
は適宜採られる実施態様である。
【0007】
(作用)
本発明の転がり免震支持装置を有する免震構造系は上記の構成を採ることにより、以下の作用を発揮する。
本発明の転がり免震支持装置を有する免震構造物は、常時には内圧室に作用する上揚力を受けてその平面当接部で上部構造Gの低減された荷重を下部構造Bに伝達し、地震時には上部構造Gと下部構造Bとの間に介装された免震支持装置の転動子の支持作用を受けて上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達し、該転動子の転がり作用により地震動に対する免震作用を発揮する。
【0008】
(A) 常時
常時において、定位置状態として上部構造Gと下部構造Bとは広い面積をもって平面当接をなし、該平面当接面を介して上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達する。
そして又、転がり免震支持装置Sは定位置状態を採る。
すなわち、本転がり免震支持装置Sの定位置状態では、内圧室には配管系を介して充填流体が所定の圧力で充填され、内圧室内の充填流体は密封部材及びその他の密実作用により外部に漏れ出ることはなく、所定の加圧状態に保たれる。これにより上部構造Gに上揚力が作用し、上部構造Gの当接面での圧力は低減(8割程度を目安とする)されたものとなる。上揚力を受けて低減された上部構造Gの荷重(有効荷重)は風荷重等の横方向の小さな強制力には影響を受けない。更には、内圧室の圧力を低下させることにより、横荷重の増加に対応する手段を講じることは有効である。
本転がり免震支持装置S内の転動子は、定位置状態で最も大きな曲率面を上下にした中立状態すなわち安定状態をもって設置される。この状態で該転動子の上下部は荷重支持筒体の天井部の下面と荷重受板の上面とに当接状態をもって挟み着けられるが、該転動子は実質的に荷重を支持しない。また、鋼棒ダンパーは定位置状態では無負荷であるが、風荷重等の小さな強制力については抵抗を示す設置状態を採るようにすれば、前記した上揚力を更に増大することができる。
【0009】
(B) 地震時
地震時(及び構造物に揺れを生じさせる力が作用する全ての場合を含む。)において、地盤は大きく揺れ、地震動の強制変位により下部構造としての基礎Bは地盤と一体に振動するが、上部構造Gは転動子の転がり作用を介して上下動の伴う揺動が生じ、上部構造Gと下部構造Bとの間に相対変位が生じる。この地震の初動において、常時に作用していた上揚力により上部構造の摩擦は極めて小さなものであり、上部構造と下部構造との相対移動は円滑に起こり、これにより転動子の転がりを促す。上部構造Gの上動によりこの上揚力は喪失する。
上部構造Gに接する転動子は、上部構造Gの移動とともに該転動子も転動し、該転動子に支持された上部構造Gは該転動子の転がり軌跡に追従する。上部構造Gが逆方向に移動すると、上記の動作の逆となる。
地震動に伴い、転動子の転がり軌跡に追従して上部構造Gは上下動の伴う並進性の揺動運動をなし、これにより転動子の転がり作用をもって構造物Gは周期の大きな揺動作用を受け、地震動による共振作用等の悪影響を避けることができる。
また、転動子の転がりとともに棒状ダンパーが変形し、変形エネルギーの消費に伴う減衰力を発現し、更に、当該転動子の転がり移動による作用点の移動に伴う復帰力(復帰モーメント)も作用する。
(B-1) 初動作用
一定以上の大きな地震動の初動があると、上部構造Gは常時における上揚力の作用によりみかけ上小さな鉛直荷重となっており、かつは広い面積で当接するものであるので、上部構造の下部構造との当接面に作用する摩擦は極めて小さく、上部構造と下部構造との相対移動は円滑かつ直ちに起こり、転動子の転がりに移行する。すなわち、この上揚力は転動子の転がり移動を促す作用をなし、地震初動への遅れがなく転動が開始され、その後この上揚力の効果は失われるが、以下に続く転動子による上部構造Gの揺動変位に円滑に移行する。
(B-2) 免震・減衰作用
上部構造Gに接する転動子は、上部構造Gの移動とともに該転動子も転動し、該転動子に支持された上部構造Gは該転動子の転がり軌跡に並進性をもって追従する。上部構造Gが逆方向に移動すると、上記の動作の逆となる。
地震動に伴い、転動子の転がり軌跡に追従して上部構造Gは上下動の伴う揺動運動をなすが、この揺動運動は並進性を実現し、傾斜のないものである。これにより転動子の転がり作用をもって構造物Gは周期の大きな並進性の揺動作用を受け、地震動による共振作用等の悪影響を避けることができる。
また、この上部構造G・転動子の一体の構造系の揺動変位において、転動子の左右への転動変位につれ、棒状ダンパーは荷重受板の棒状ダンパー挿通管及び荷重支持筒体の棒状ダンパー挿通管から引き出され、また引き入れられて強制的に折曲げ変形を受ける。この折り曲げ作用によるエネルギー吸収効果により減衰力が発揮され、上部構造Gの振動を減衰させる。棒状ダンパーの別の態様(請求項3)においても、上下の棒状ダンパーはそれぞれ転動子の棒状ダンパー挿通孔から引き出され、また引き入れられて強制的に折曲げ変形を受け、ダンパー作用を発揮する。
(B-3) 復帰作用
転動子の転動変位に伴い、転動子の転がり軌跡における上接点は構造物Gが当初の定位置から遠ざかるとき次第に上方へ移動(上昇)し、該転動子に支持される上部構造Gに持上げ力を付与する。また、最上点から初期位置(中立位置)への戻り変位においては下降状態となり、最下点を過ぎると再び上昇する。
この間、下接点と上接点との間に水平方向の偏心距離を生じ、上接点に作用する上部構造Gの荷重により下接点を支持点として偏心モーメントが生じ、復元モーメント(平行する逆方向の2力よりすれば戻り偶力)すなわち復帰力として機能する。これにより上部構造Gは常時の状態すなわち初期の定位置状態に復帰する特性を発揮し、当該免震構造物は強制水平力すなわち地震力の終息とともに安定状態に復する。
(B-4)
以上により、本免震構造物は地震時において、構造系の長周期化を実現して地震動との共振を避け、かつ免震支持装置Sの具備する減衰機能を受けて構造物に作用する地震動は速やかに減衰され、また復元モーメント(換言すれば復帰偶力)を受けて当該構造物は速やかに当初位置に復帰する。更には、その上揚力作用により免震の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がない。
当初位置に復帰した後は、再び上部構造Gは広い当接面を介して下部構造に載置され、また、内圧室への加圧がなされて再び接地圧の低減が図られるとともに、次の地震動に備える。
内圧室装置の付加された構成によれば、以上述べた作用に加え、更に上揚力が付加され、上部構造Gの荷重を低減する能力が増大し、地震初動への対応性が高まる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の免震構造物によれば、上部構造Gは常時には上揚力作用を受けてその荷重が見掛け上小さくなり、かつ下部構造Bとの広い平面当接部により下部構造Bに対して荷重負担を与えず、安定した支持とともに長期にわたって耐久性が保証される。地震時には、上部構造Gの見掛け荷重の低減により下部構造Bの平面当接部との静止摩擦力は極めて小さなものであり、地震動による強制変位を受けて上部構造Gと下部構造Bとの相対移動は直ちに開始されるとともに、免震支持装置Sに組みこまれた転動子は直ちに転動し、上部構造Gは該転動子の転動軌跡に追従して長周期かつ復帰力の働く免震作用がなされ、該上部構造Gは並進性の揺れとなり、異常な応力が発生しない。かつ、該転動子に連動するダンパー機構により速やかな減衰が発揮される。
そして、免震支持装置Sにおいて転動子に所定の移動空間を保持させることにより水平面の全方向に対処できる。
内圧室装置の付加された構成によれば、以上述べた効果に加え、更に上揚力が付加され、上部構造Gの荷重を低減する能力を増大することができ、免震支持装置Sでの加圧負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の転がり免震支持装置を有する免震構造物の要部の構成を示す側断面図。
【図2】本免震構造物に適用される転がり免震支持装置の全体構成を示す鉛直断面図(図1の部分拡大図、図3の2−2線断面図)。
【図3】免震支持装置の全体構成を示す平面構成図(図2の3−3線断面図)。
【図4】免震支持装置の部分(密封部材の取付け)詳細図。
【図5】免震支持装置の充填流体の配管系を示す図。
【図6】転動子の一態様(楕円回転体)の模式構成図。
【図7】転動子の別態様の模式構成図。
【図8】免震支持装置の部分(鋼棒ダンパーの取付け)詳細図。
【図9】本免震構造物における免震支持装置及び内圧室装置の配置例を示し、(a) 図はその側面図、(b) 図はその平面図。
【図10】免震支持装置及び内圧室装置の人工地盤への配置例を示し、(a) 図はその側面図、(b) 図はその平面図。
【図11】免震支持装置の動作を示す図。
【図12】免震支持装置の動作を示す図。
【図13】免震支持装置における他の棒状ダンパーの取付け態様を示す図。
【図14】本免震構造物に適用される内圧室装置の構成を示す鉛直断面図。
【図15】本発明の他の実施形態の転がり免震支持装置を有する免震構造物の要部の構成を示す側断面図。
【図16】本発明の他の実施形態の免震構造物における免震支持装置等の配置例を示し、(a) 図はその側面図、(b) 図はその平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の転がり免震支持装置を有する免震構造物の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1〜図8は本免震構造物の一実施形態(第1実施形態)を示し、Sは本免震構造物に組み込まれる転がり免震支持装置(以下「免震支持装置」という。)を示す。すなわち、図1は免震支持装置Sの複数が組み込まれた免震構造物の概略構成を示し、図2は免震支持装置Sの縦断面構成、図3はその平面構成を示し、図4〜図8は免震支持装置Sの部分構成及びその特徴部の詳細構成を示す。また、図9、図10は本免震構造物の配置態様を示し、図11、図12はその地震時における動作を示す。
本免震構造物の図示につき、Xは長手方向、Yは幅方向、Zは高さ方向を示す。
【0013】
本実施形態の免震構造物は、互いに独立を保ち、かつ水平方向に相対移動可能な上部構造Gと下部構造Bとからなり、定位置状態すなわち静止状態では上部構造Gの下面Gaと下部構造Bの上面Baとが平面当接をなすとともに、該平面当接部Hを介して上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達し、上部構造Gと下部構造Bとの間に転がり免震支持装置Sが設置されてなる。
しかして、当該転がり免震支持装置Sは、
a.下部構造Bの上面に、その上面が下部構造の上面Baと同一水準面をなす剛性の荷重受板1が固設され、
b.上部構造Gの下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体2が固設され、
c.該荷重支持筒体2の円筒側壁部の下端には前記荷重受板1の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材3が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体2の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子7が、定位置状態で最小高さを採るとともに水平方向に移動域を存し、
その上下を荷重支持筒体2の天井壁部の下面と前記荷重受板1の上面とに実質的に無負荷をもって挟着され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子7の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配され、
g.前記転動子7は前記上部構造Gと前記下部構造Bとの相対移動における転動状態において上部構造Gの荷重を支持してなる、
ものである。
【0014】
以下、各部の細部構造に付いて説明する。
平面当接部H(図1参照)
上部構造Gと下部構造Bとは剛性体をなし、現場成形、プレキャスト成形を問わないが、本実施形態ではともに現場打ち鉄筋コンクリートをもって形成される。
しかして、本実施形態では上部構造Gの下面Gaと下部構造Bの上面Baとは平滑面をなすとともに、定位置状態で広い面積で平面当接をなし、当該平面当接部Hを介して上部構造Gは下部構造B上にすべり移動可能に支持され、上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達する。
本実施形態では、該平面当接部Hは免震支持装置Sの占有面積部分を除く全ての平面で構成されるが、所定の面積が確保されるならば、均等性を保持して非当接部(すなわちすき間部分)を設けることは自由である。
該平面当接部Hは十分に広い面積が確保されるものであるので、上部構造Gの下部構造Bへの圧力は小さく、加えて後記する免震支持装置Sに作用する上揚力を受けて当該上部構造Gの荷重は低減され(8割を目安とする)、上部構造Gの下部構造Bへの見掛けの圧力(実効圧力)は極めて小さいものとなる。
【0015】
荷重受板1(図1、図2参照)
荷重受板1は、硬質素材(通常には鋼製)をもって所定の厚みを有し剛性状の平板体よりなり、下部構造Bの上面に同一水準を保って固定される。該荷重受板1の上面1aは平滑面をなし、かつ、後記する諸機能を保持するために剛性の他に密実性(気密性、水密性を含む)を要するものである。
【0016】
荷重支持筒体2(図1〜図4参照)
荷重支持筒体2は、所定の厚みをもって円筒側壁部12と天井壁部13とからなる下方に向って開放される円筒形状の剛性の構造体からなり、上部構造Gと一体化され下部構造Bへの荷重の伝達に寄与する。すなわち、該荷重支持筒体2は、後述するように、静止時には上部構造Gの荷重の伝達はなさないが、上部構造Gの移動すなわち持ち上げ時には該上部構造Gの荷重を直接的に伝達するものである。そして、該荷重支持筒体2の内部には加圧される真円形の内圧室Jが形成される。このため、該荷重支持筒体2は剛性に加え、密実性(気密、水密)の素材が採用される。
詳しくは、円筒側壁部12は、下部に拡径壁部12aを有し、その下端面は平滑にされるとともに該下端面に臨んで環状の凹溝14が凹設され、また、該凹溝14に連通して拡径壁部12aの上面から取付け孔15が円周上に複数箇所(本実施形態では6)に開設されている。天井壁部13の天井面13aは平滑又は通常の水準面をなす。該天井壁部13には後述するように所定の部材のための貫通孔が開設されるが、その本体部自体は密実を保つ。
【0017】
密封部材3(図2、図3、図4参照)
密封部材3は、本体部3aの断面が円形のゴム製の環状体よりなり、該環状体の上面の複数部位に前記した取付け孔15に対応して取付け用突起部3bが突設され、該取付け用突起部3bを取付け孔15に圧着状に差し込んで当該密封部材3の本体部3aを前記した荷重支持筒体2の円筒側壁部12の凹溝14内に収容する。該取付け用突起部3bが取付け孔15に圧着状に差し込まれ、該密封部材3の本体部3aの凹溝14内からの脱落を阻止する。
該密封部材3の本体部3aはいわゆるOリング機能を有し、荷重受板1の上面1aとの当接により所定の圧縮率をもって内圧室Jの加圧に対して密封作用を発揮する。
なお、荷重受板1はこの密封部材3に当接する部位において少なくとも平滑面であればよく、その余の部位は格別平滑面でなくてもよい。荷重支持筒体2の天井壁部13の下面もこれに準じ、格別平滑面でなくてもよい。
更に、密封部材3は荷重支持筒体2の下面に固着され、所要の圧縮率をもって密封作用を奏するものであれば、図例のものに限定されない。
【0018】
供給管4、排出管5(図1、図2、図5参照)
供給管4、排出管5は、荷重支持筒体2の天井壁部13の可及的隅部に密実性(気密、水密)を保って外部と内圧室Jとを連通して配される。すなわち、外部より充填流体Kが供給管4を介して内圧室Jに送り込まれ、内圧室Jの充填流体Kは排出管5を介して外部に放出される。なお、供給管4、排出管5は、荷重支持筒体2の円筒側壁部12の適宜場所であってもよい。
図5は供給管4、排出管5に接続される配管系を示し、供給系の配管4aは外部に引き出され、逆止め弁17を介して圧送ポンプ18に接続される。排出系の配管5aについても外部に引き出され、開閉弁19(常時閉)に接続される。
本配管系は充填流体Kの様態(気体、液体)により更に適宜の配管要素が付加される。例えば、充填流体Kが液体系であるときは、圧送ポンプ18の先に液体タンクが接続されることは言うまでもない。
(充填流体K)
充填流体Kは、気体、液体の両態様から適宜なもの(非圧縮性、小圧縮性)が選ばれるが、環境への悪影響を避ける観点から空気、水が好適なものとして採用される。
【0019】
(内圧室Jの圧力保持)
上記した本荷重受板1の密封部材3との当接による荷重支持筒体2の内圧室Jの密封化により、荷重支持筒体2の内圧室Jは密閉空間を構成し、所期の圧力保持作用をなす。すなわち、内圧室Jに送り込まれる充填流体Kにより該内圧室J内は所定の圧力を受け、この結果上部構造Gに対して上揚力として作用し、上部構造Gの荷重の相当割合を負担する。本実施形態では、本構造系に設置される複数の本免震装置Sの全ての内圧室J により、上部構造Gの全荷重の8割程度の荷重低減を見込むものである。
【0020】
転動子7(図1〜図3、図6、図7参照)
転動子7は、剛性の回転楕円体からなるとともに、その上下を荷重支持筒体2(その天井壁部13)と荷重受板1とに挟着され、荷重支持筒体2の内圧室J内に水平方向に移動域を存して配される。本回転楕円体は、中心点Oを含む楕円平面を短軸を回転軸として回転させた立体形であり、本回転楕円体では、図6に示されるように、a(X方向)、b(Y方向)が長軸をなし、c(Z方向)が短軸をなし、a=b>cを採る。
すなわち、円球体であれば転動するとき上部・下部構造G,B間の上下面との接点N,M間の鉛直距離すなわち高さは一定値を採るが、本発明で採用される球体は表面曲率が漸次変化し、転動につれて上下面の接点間の高さが漸次増大する立体形状を採る。したがって、元位置方向へ転動するとき上下面の接点間の高さが漸次減少するものでもある。このような球体として、回転楕円体以外にも、回転放物線体、更にはカテナリー線、クロソイド線の立体形が採用される。
図6において、回転楕円体をなす本転動子7は定位置状態で、その下面部は荷重受板1の上面1aとM点で、上面部は天井壁部13の下面13aとN点で当接するものであり、その高さはh(=2c)の最小値を採る。なお、本実施形態では本転動子7の上下面部は後記する転動子7内に配される鋼棒ダンパー挿通管9aの上下端面が対応する。留意すべきはこの定位置状態で、本転動子7の上部構造Gの荷重に対する負担分は実質的にゼロを採ることである。すなわち、本転動子7の上下面部は上下部構造G,Bに挟み着けられた状態を採るが、上下部構造G,B間の荷重伝達は既に述べたとおり平面当接部Hでなされ、当該転動子7の部位では負担分は無視できるものである。
しかして、この回転楕円体の転動子7が転動し傾斜すると、上面13aが持上げられ上下面との接点N,M間の距離は漸次増大する。同時に上下面から反力を受けて,それらは大きさ等しく平行で方向が互いに逆な偶力として作用し、当該転動子7に復帰力を与える。なお、本図において、7aは回転楕円体7の側面を切断したカット平面であって、下側表面及び上側表面の近傍部分のみの使用も可能である。
図7は更に別な球体7Aを示す。本態様では上面及び下面の曲率半径Rがその中心Oからの距離rよりも十分に大きい一定長さを採り、部分球体をなす。本態様は表面曲率は一定値を採るが、回転楕円体の転動子7と同じ動的特性を示し、かつ、そのRの値を大きく採ることにより当該球体7A上に載置される構造物の長周期化を図ることができる。
本転動子7の剛性素材は、所定の強度(圧縮強度)を保持するものとして、鉄製(鋼、鋳鉄)、高強度コンクリートあるいは硬質合成樹脂の適宜の素材が採用可能であるが、本実施形態では高強度コンクリートが重量性・費用性から好適なものとして採用される。高強度コンクリートではその圧縮強度が60N(ニュートン)/平方mmを採り、十分な剛性が得られる。
【0021】
(本転動子7の配置)
本転動子7(外径d=2a,2b)は、その中心軸を荷重支持筒体1の内圧室J(内径D)の中心に合致して、該内圧室J内に全水平方向に移動可能な空間(D−d)すなわち移動域を存して配される。また、このとき転動子7は定位置状態を採り、安定状態を保つ。
【0022】
ダンパー機構(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー挿通管9及び鋼棒ダンパー10により「ダンパー機構」が構成される。鋼棒ダンパー挿通管9内には鋼棒ダンパー挿通孔8が形成され、鋼棒ダンパー10は該鋼棒ダンパー挿通孔8に案内されて移動する。
【0023】
鋼棒ダンパー挿通管9(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー挿通管9は、内部に鋼棒ダンパー挿通孔8を有し、所定の厚さの剛性素材(一般には鉄製)の円管状体よりなり、転動子7、荷重受板1、荷重支持筒体2の天井壁部13に各独立して貫通状に配される。
すなわち、該鋼棒ダンパー挿通管9は、転動子7内に配される鋼棒ダンパー挿通管9a、荷重受板1に配される鋼棒ダンパー挿通管9b及び荷重支持筒体2に配される鋼棒ダンパー挿通管9cからなり、更に鋼棒ダンパー挿通管9cの上端部の蓋体9dを含む。8a,8b,8cはそれぞれ鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cの鋼棒ダンパー挿通孔8である。そして、これらの鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cは転動子7の定位置状態では端面相互が対接する状態を採る。
更に詳しくは、転動子7内に配される鋼棒ダンパー挿通管9aは、転動子7の中心軸に沿って開設された孔内に拘束状態を保って配され、その上下端面を平坦に、かつ該転動子7の上下端面に面一とされる。
荷重受板1に配される有底の鋼棒ダンパー挿通管9bは、上端を荷重受板1の上面に面一とされ、すなわち平坦面となる。該鋼棒ダンパー挿通管9bは荷重受板2の下面より下方へ長く延設され、該鋼棒ダンパー挿通管9bの外側面には鍔体22が突設され、該鍔体22及び固定具(溶接も含む)を介して荷重受板1に強固に固設される。
荷重支持筒体2に配される鋼棒ダンパー挿通管9cは、下端を荷重支持筒体1の天井壁部13の下面に面一とされ、すなわち平坦面となり、該天井壁部13の上面より上方へ長く延設されてなる。該鋼棒ダンパー挿通管9bについてもその外側面には鍔体23が突設され、該鍔体23を介して固定具(溶接も含む)により荷重支持筒体1の天井壁部13に強固に固設される。該鋼棒ダンパー挿通管9cの上端部は開放され、蓋体9dをもって閉塞され、鋼棒ダンパー10の挿入操作に供される。
そして、転動子7の定位置状態で、これらの鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cの端面相互が当接状態を採る。
なお、転動子7への鋼棒ダンパー挿通管9aを廃し、転動子7の開設孔を鋼棒ダンパー挿通孔8aとし、転動子7の上下面部を鋼棒ダンパー挿通管9b,9cに当接する態様を採ることを除外するものではない。
【0024】
鋼棒ダンパー10(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー10は、所定の弾塑性特性を有する鋼棒を主体とし、転動子7、荷重受板1、荷重支持筒体2に配された鋼棒ダンパー挿通管9の鋼棒ダンパー挿通孔8内に挿通される。
しかして、鋼棒ダンパー10は転動子7の転動につれ、鋼棒ダンパー挿通管9の鋼棒ダンパー挿通孔8に案内されて移動とともに変形する。
なお、鋼棒ダンパー10は本実施形態では単一の棒状体を採用したが、複数の細径の鋼線の使用も含むものである。
【0025】
(本免震構造物の構築並びに免震支持装置Sの配置及び設置)
本免震構造物は、上部構造Gとして木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造等の軽量ないし重量構造物の建物を対象とし、該建物Gに対して免震支持装置Sが対称を保って配置される。
図9にその配置の一態様を示す。
図において、Bは地盤Eに打設された基礎杭Pに連結して構築された下部構造としての基礎であって、該基礎Bの上面は平滑に同一水準面に施工される。この基礎B上に複数の免震支持装置Sが対称を保って配置され(図例では8箇所)、建物本体Gは基礎B上並びにこれらの免震支持装置S上に同時的、あるいは時間を置いて構築される。木造の軽量建物においては基礎杭Pの施工は格別必要なものではない。
これにより、基礎B・免震支持装置S・建物本体Gによる構築物における免震構造物が構成される。
【0026】
本免震構造物の構築施工において、基礎Bの現場打ちコンクリート構築に際し、該基礎Bの上面Ba(図1)に鋼棒ダンパー挿通管9bを取り付けた複数の荷重受板1がそれらの上面1aを同一水準をもって埋設設置される。
基礎Bの打設コンクリートが固結して後、基礎B上の各荷重受板1上に密封部材3及び転動子7更には供給管4・排出管5を組み込んだ荷重支持筒体2が各設置される。このとき、密封部材3は荷重受板1の上面1aに密封作用を保って当接し、また、転動子7の鋼棒ダンパー挿通管9a及び荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9cは既に設置されている荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9bに同一鉛直線上に配される。そして、鋼棒ダンパー挿通管9a、9b、9cより構成される鋼棒ダンパー挿通管9内に鋼棒ダンパー10が挿入され、蓋体9dにより閉塞される。また、供給管4、排出管5に配管系(供給系4a、排出系5a)の配管系が接続される。
各荷重支持筒体2が設置された後、建物Gの床版コンクリート(建物Gの一部)が基礎Bの上面及び各荷重支持筒体2の天井壁部13の上面より十分な厚さを保って打設される。このとき、基礎Bについては、その上面に剥離剤が塗布され打設コンクリートとの縁を切り、滑りを保持する。また、未硬化の床版コンクリートが荷重支持筒体2の下面に流入しないように、荷重支持筒体2の下部側面に遮蔽材(あるいはマスキング材、図2に符号Wで示す。)を囲繞状に取り付けることは有効な一手段である。なお、該マスキング材Wは本免震構造物において非本質的事項である。また、床版の打設コンクリートの厚さは基礎Bの上面と荷重支持筒体2の天井壁部13 の上面とで同一厚さを採る必要はなく、それらの厚さを違えてもよく、床版と荷重支持筒体2とが一体化されることが肝要である。これにより、建物Gの荷重は基礎B及び荷重支持筒体2の天井壁部13に載荷されることになる。
【0027】
免震支持装置S及び該免震支持装置Sを組み込んだ本免震構造物の機能を十全に果すため、免震支持装置Sの供給管4、排出管5から導出された配管系(供給系4a、排出系5b)に所定の作動機器(逆止め弁17、圧送ポンプ18、開閉弁19)が接続される。
更に、建物Gの全体が構築される前に免震支持装置Sに所定の圧力を導入し、基礎Bとの縁切りをなす作業を付加することも有効な対策である。
【0028】
また、図10は本免震構造物の一形態としての人工地盤における免震支持装置Sの配置の一態様を示す。本態様においては一戸建住宅に適用される人工地盤G1、すなわち小規模の人工地盤を示す。
本態様の人工地盤G1においては、地盤E上に基礎Bが水平を保って直接的に構築され、該基礎Bに鋼棒ダンパー挿通管9b付き荷重受板1を配し、更に転動子7及び荷重支持筒体2の免震支持装置Sの上位部を配し、しかる後、前記した要領(剥離材、マスキング材の使用)で現場コンクリート打ちにより人工地盤G1が構築される。免震支持装置Sの上位部に、密封部材3、鋼棒ダンパー挿通管9a、9c、蓋体9d、鋼棒ダンパー10、供給管4、排出管5及びそれらの配管系が各配備されることは勿論である。人工地盤G1の構築の後、該人孔地盤G1上に住宅建築G2が直接的に構築される。
これにより、基礎B・免震支持装置S・人工地盤G1・建物本体G2による構築物における免震構造物が構成される。なお、この態様においては、人工地盤G1が本来の上部構造Gを構成する。
【0029】
(本免震構造物の作用)
本実施形態の免震支持装置を有する免震構造物は、常時にはその平面当接部Hを介して建物(あるいは人工地盤)の上部構造Gの低減された荷重をコンクリート基礎の下部構造Bに伝達支持し、地震時には上部構造Gと下部構造Bとの間に介装された免震支持装置Sの転動子7の支持作用を受けて上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達支持し、該転動子7の転がり作用により地震動に対する免震作用を発揮する。
【0030】
(A) 常時
常時において、免震支持装置Sから導出された配管系に所定の作動機器、すなわち、供給系の配管4aについては逆止め弁17、圧送ポンプ18が接続され、排出系の配管5bについては開閉弁19が接続される。圧送ポンプ18から圧送される充填流体Kは内圧室Jに導かれ、内圧室Jを所定の圧力に満たされたとき、開閉弁19が閉じられる。内圧室J内の充填流体Kは密封部材3により外部に漏れ出ることはない。なお、本実施形態において、充填流体Kは空気が採用される。
これにより上部構造Gに上揚力が作用する。
上部構造Gと下部構造Bとは、定位置状態として広い面積をもって平面当接をなし、該平面当接部Hを介して上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達するが、上記した上揚力の作用を受けて、上部構造Gの当接面Hでの圧力は低減(8割程度を目安とする)されたものとなる。上揚力を受けて低減された上部構造Gの荷重(有効荷重)は風荷重等の横方向の小さな強制力には影響を受けない。更には、内圧室の圧力を低下させることにより、横荷重の増加に対応する手段を講じることは有効である。
一方、定位置状態で免震支持装置S内の転動子7は、最も大きな曲率面を上下にした中立状態(換言すれば安定状態)をもって設置され、この状態で該転動子7の上下部は荷重支持筒体2の天井部13の下面13aと荷重受板1の上面1aとに当接状態をもって挟み着けられるが、該転動子7は実質的に荷重を負担しない。また、鋼棒ダンパー10は定位置状態では無負荷であるが、風荷重等の小さな強制力については抵抗を示す設置状態を採るようにすれば、前記した上揚力を更に増大することができる。
【0031】
(B) 地震時(図11、図12参照)
地震時(及び過大な風荷重等の建物に破壊を及ぼす程の揺れを生じさせる力が作用する全ての場合を含む。)において、地盤Eは大きく揺れ、この地震動の強制変位を受けて下部構造としての基礎Bは地盤Eと一体に振動するが、上部構造(建物)Gは免震支持装置Sの主体をなす転動子7の転がり作用を介して揺動が生じ、上部構造Gと下部構造Bとの間に相対変位が生じる。
この地震の初動において、常時に作用していた上揚力により上部構造Gの基礎B面に対する摩擦(静止摩擦)は極めて小さなものであり、上部構造Gと下部構造Bとの相対移動は円滑に起こり、これにより転動子7の転がりを促す。上部構造Gの上動によりこの上揚力は喪失する。
上部構造Gに接する転動子7は、上部構造Gの移動とともに該転動子7も転動し、次いで上部構造Gは転動子7に支持され、該転動子7に支持された上部構造Gは該転動子7の転がり軌跡に追従する。上部構造Gが逆方向に移動すると、上記の動作の逆となる。
地震動に伴い、転動子7の転がり軌跡に追従して上部構造Gは上下動の伴う揺動運動をなし、これにより転動子7の転がり作用をもって構造物Gは周期の大きな揺動作用を受け、短周期成分の卓越する地震動による共振作用等の悪影響を避け、いわゆる免震作用が発揮されることになる。
【0032】
(B-1) 初動作用
一定以上の大きな地震動の初動があると、建物すなわち上部構造Gは常時における上揚力の作用により、みかけの上で小さな鉛直荷重となっており、かつは広い面積で当接するものであるので、上部構造Gの下部構造Bとの当接面Hに作用する摩擦は極めて小さく、上部構造Gと下部構造Bとの相対移動は円滑かつ直ちに起こり、前記した上部構造G下の転動子7の転がり作用は直ちに発揮される。換言すれば、この上揚力は転動子7の転がり移動を促す作用を果し、以下の(B-2) 以降への状態に円滑に移行する。なお、この転動子7の転がりに伴う上方移動が密封部材3の密封作用を破るようになると、この上揚力の効果は失われる。
更に、地震の初期微動を検知し、この検知信号により内圧室Jの内圧を更に高める手段を採ることにより、この初動作用を更に確実にすることができる。
【0033】
(B-2)
引き続き、今、上部構造Gが図11の右方向(イ方向)に移動するとき、転動子7はその上面の接点(支持点)Nから横方向強制力(いわゆる地震慣性力)を受けて回転力が生じ、下面の接点(支持点)Mを中心として右方向すなわち時計方向の回転を始める。このとき、ダンパー鋼棒10と転動子7の上部との係合作用も回転の契機となる。
転動子7の回転すなわち傾斜移動により、下接点Mはすべりを生じることなく右方向にずれ、同時に上接点Nはすべりを生じることなく左方向にずれる。上接点における下面からの鉛直距離すなわち高さが増大し、上部構造Gは上方向へ持ち上がる。この持ち上げに伴い内圧室J内の充填流体Kは散逸し、内圧室Jによる上揚力作用は失われ、建物の全荷重Wを転動子7が荷なうことになるが、転動子7は十分な支持耐力を有する。なお、建物荷重Wの支持点Nへの作用力と支持点Mからの反力とによる偶力は転動子7の回転方向と逆向きに作用し、転動子7の回転とともに増大する反時計方向の復帰力として作用することになるが、回転初期においては影響は小さい。
しかして、上部構造(建物)Gは転動子7に支持されて移動し、転動子7の転がり軌跡に追従し、水平方向の移動成分と上方への持ち上げ移動成分との揺動となるが、この揺動運動は並進性を実現し、傾斜のないものである。これにより、上部構造Gは転動子7の転がり作用をもって周期の大きな揺動作用を受け、地震動との共振作用等の悪影響を避けることができる。
同時に、鋼棒ダンパー10は荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9b及び荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9cから引き出されるとともに折り曲げられてゆき、折り曲げ変形に伴うエネルギー吸収によりダンパー作用を発揮する。
この転動子7の転動移動が進行して右端に来るとき、上接点Nは最高位置となる。図11はこの状態を示す。
【0034】
(B-3)
上部構造Gが逆方向の地震慣性力を受けて左方向(図12のロ方向)に移動するとき、上記した状態とは逆となる。
先ず、転動子7はその右端位置から左方向すなわち反時計方向に回転を始めるが、転動子7に作用する建物荷重による偶力作用(あるいは回転モーメント)がこの回転に寄与し、復帰力として作用する。そして、該転動子7の回転動に伴い下接点Mは左方向へずれ、上接点Nも右方向へずれ、建物Gの下動とともに両接点M,Nは当初位置へ近づく。鋼棒ダンパー10は荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9c及び荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9bに引き入れられるとともに直線状に変形し、ダンパー作用を発揮する。
下接点Mと上接点Nとが同時的に当初位置となり、転動子7は最低位置(中立位置)を通過する。
更に、上部構造Gが地震慣性力を受けて左方向へ移動し、下接点M・上接点Nはそれぞれ左方向へ、右方向へずれ、その鉛直距離(高さ)を増大する。すなわち、前記した(B-2) の状態に準じる。鋼棒ダンパー10も再び折り曲げられ、ダンパー作用を発揮する。建物荷重による偶力作用も次第に増大し、復帰力を生じ、この左変位に対抗する。
転動子7の転動移動が進行して左端に来るとき、上接点Nは最高位置となる。図12はこの状態を示す。
【0035】
(B-4)
地震動に伴い、上部構造Gは揺動運動をなし、この揺動に応じて転動子7は上述した(B-2) (B-3) の動作を繰り返す。
これにより、転動子7の転がり作用をもって構造物の長周期化が図られ、有害な共振現象が回避され、所期の免震作用を得る。この動作において、転動子7はその上下支点に作用する偶力作用により復帰力が生じ、安定状態に復帰する特性を発揮する。
一方、免震支持装置S内の鋼棒ダンパー10も絶えず変形を受け、その変形エネルギーによる減衰効果を発揮し、下部構造Gの振動を速やかに低減する。
【0036】
(B-5)
地震動が終息し、かつ上部構造Gが元位置に復帰したとき、再び内圧室Jへの充填流体Kの充填がなされる。これにより、本免震構造物は定位置状態での機能に復帰し、次の地震動に備える。
【0037】
(C)
上記の振動時の揺動作用、及び復帰作用は地震動に限られるものではなく、上揚力作用が働き、上下部構造間の広いすべり支持面を有し、免震支持装置Sが介装設置される構造物間の全ての振動について適用される。
【0038】
(本免震構造物の効果)
本実施形態の免震構造物によれば、建物すなわち上部構造Gは常時には上揚力作用を受けてその荷重が見掛け上小さくなり、かつ基礎すなわち下部構造Bとの広い支持面Hにより基礎Bに対して大きな荷重負担を与えず、安定した支持とともに長期にわたって耐久性が保証される。地震時には、建物Gの見掛け荷重の低減により基礎Bの支持面Hとの摩擦力は極めて小さなものであり、地震動による強制変位を受けて建物Gと基礎Bとの相対移動は直ちに開始されるとともに、免震支持装置Sに組みこまれた転動子7が直ちに転動し、建物Gは該転動子7の転動軌跡に追従して復帰力の働く免震作用がなされ、該建物Gは並進性の揺れとなり、異常な応力が発生しない。かつ、該転動子7に連動するダンパー機構により速やかな減衰が発揮される。
そして、免震支持装置Sにおいて転動子7に所定の移動空間を保持させることにより水平面の全方向に対処できる。
更にまた、本実施形態の免震構造物の構築において、上部構造Gの基礎Bへの当接部分、具体的には建物Gの床版部あるいは人工地盤B1の施工は基礎B上への直接の場所打ちコンクリート打設により実施され、剥離剤を除き特別な型枠を要せず、経済的かつ容易に施工ができる。
【0039】
(他の態様1)
上記した実施形態のダンパー機構では、単一の棒状ダンパー(鋼棒ダンパー)と該棒状ダンパーが挿通される上下の棒状ダンパー挿通管よりなる態様を示したが、上下部構造にそれぞれ一端が固定される2本の棒状ダンパーよりなる態様を採ることができる。
図13はその一態様のダンパー機構を示し、図において先の実施形態と同等の部材については同一の符号が付されている。本ダンパー機構は上下に各独立した2本の棒状ダンパーとしての鋼棒ダンパー25,26からなり、下部ダンパー棒25は一端にねじ部25aを有し、他端は荷重受板1の下方より該荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通孔8bを介して転動子7の鋼棒ダンパー挿通孔8a内に差し込まれ、一端側において該荷重受板1の下端にパッキング28を抱持して固定(図例では溶接を採る。)された定着体29のねじ孔に螺合して定着される。上部ダンパー棒26についても、一端にねじ部26aを有し、他端は荷重支持筒体2の天井壁部13の上方より該荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通孔8cを介して転動子7の鋼棒ダンパー挿通孔8a内に差し込まれ、一端側において該荷重支持筒体2の上端にパッキング30を抱持して固定された定着体31のねじ孔に螺合して定着される。
本態様では転動子7の転動につれ、各鋼棒ダンパー25,26が折り曲げ変形を受け、地震動のエネルギー吸収をなすものである。
【0040】
(他の態様2)
叙上の実施形態の免震構造物では、免震支持装置Sのみの設置を採るが、該免震支持装置Sに加えて図14に示す内圧室装置S1を付加してなる免震構造物を構成することができる。該内圧室装置S1は図9、図10に示すように免震支持装置Sとともに上部構造Gと下部構造Bとの間に介装設置される。
図14に示すとおり、本内圧室装置S1はいわば転動子7を省略した免震支持装置と言える。図において、先の実施形態の免震支持装置Sのものと同一の機能を有する部材については同一の符号が付されている。すなわち、1はその荷重受板、2は荷重支持筒体、3は密封部材、4は供給管、5は排出管、Jは内圧室である。荷重支持筒体2は現場打設される上部構造Gの床版コンクリート中に一体的に設置される。図例では、荷重受板1及び荷重支持筒体2の厚さは免震支持装置Sのものより薄くされているが、勿論同一であってもよい。更には、荷重受板1は省略されうる。本内圧室装置S1において、容積は格別問うものではないが、免震支持装置Sより小さくてもよく、更には、転動子7がなく、したがってダンパー機構がないものである。
供給管4、排出管5は先の実施形態で示した配管系4a,4bを介して充填流体が内圧室Jに供給、排出される。荷重受板1の上面1aと荷重支持筒体2の下面とは所定のすき間を存し、密封部材3が内圧室Jの気密を保つ。
33は本内圧室装置S1に付置されるアンカー部であって、下部アンカー部材34、上部アンカー部材35及び鎖材36よりなる。下部アンカー部材34は荷重受板1を貫通して基礎Bに固定され、上部アンカー部材35は荷重支持筒体2の天井部を貫通して上部構造Gに固定され、内圧室Jに突出する下部アンカー部材34及び上部アンカー部材35の円環部に鎖材36の両端が遊挿状に連結される。鎖材26は図例では2つの剛性輪をもって一定長さの伸長かつ屈撓自在となっている。なお、本アンカー部材33は必要に応じて省略できる。
図9、図10は本内圧室装置S1の配置態様を示す。本配置態様において、内圧室装置S1は各免震支持装置Sの中間部位にかつ対称を保って配されるが、各免震支持装置Sに相並べて、あるいは免震支持装置Sとは無関係に多数にわたって配してもよく、いずれの態様においても本内圧室装置S1は対称を保って配することが肝要である。
【0041】
この内圧室装置S1を配してなる免震構造物によれば、上部構造Gに対する上揚力能力が更に増大するものであり、上部構造Gに対する静止摩擦力が更に小さくなり、地震初動の免震支持装置Sにおける転動子7の転動がより円滑化される。
アンカー部材33は、上部構造Gと下部構造Bとの相対移動において、その剛性をもって上部構造Gの許容範囲を超える変位を規制する。
【0042】
更に、内圧室装置S1を配することにより、免震支持装置Sにおいて密封手段3・供給4・排出管5からなる内圧手段を省略する態様を採ることができる。この態様においては、免震支持装置Sは転動子7の移動空間、及び該転動子7の荷重支持条件を満たせばよく、免震支持装置Sの構造の簡単化を図ることができる。
【0043】
(第2実施形態)
叙上の第1実施形態では下部構造Bへの上部構造Gの当接部、具体的には上部構造Gの床版部は場所打ちコンクリートにより施工されるものであるが、第2実施形態では既製部材による施工態様を示す。
図15は第2実施形態の免震構造物の一態様を示し、第1実施形態と同等の部材については同一の符号が付されている。
本実施形態では、相並ぶ免震支持装置Sの荷重支持筒体2の上面間に梁材Gaが剛接をもって掛け渡され、梁材Gaの上面に床版Gbが載置される。梁材Gaはプレキャスト材が採用され、構造材として上部構造Gと一体となる。該梁材Gaは通常には鋼材、具体的にはH型鋼が使用されるが、他の素材、例えば鉄筋コンクリートの梁材であってもよい。梁材Gaは免震支持装置Sの荷重支持筒体2へ溶接あるいはボルト結合等により剛接合がなされる。建物Gの構造体の柱材は免震支持装置Sの荷重支持筒体2上に載置固定されることが好ましい。なお、床版Gbは場所打ち、プレキャスト材を問わない。
しかして、平行する梁材Ga間にわたって直交し、かつ該梁材Gaの下面に束(つか)体Fが剛接をもって固設される。すなわち、該束体Fは梁材Gaに吊り下げ固定された構造を採る。該束体Fは中空、中実を問わず、下面に広い面積を有する剛性体をもって構成され、定位置状態で該束体Fの下面Faが基礎Bの上面Baに当接する。そして、該束体Fの下面Faと基礎Bの上面Baとの当接部が平面当接部Hを構成する。
なお、該束体Fは、交叉(クロス)状に配した梁材Gaに取り付ける態様を採ることもできる。
【0044】
図16は本実施形態の免震構造物における免震支持装置S・束体Fの配設の一例を示し、上下部構造G,B間に対称を保って配設された免震支持装置S間に掛け渡された梁材Ga間に束体Fが配される。
人工地盤に対してもこれに準じた配設がなされる。
【0045】
(本実施形態の作用及び効果)
本実施形態の免震構造物では、先の第1実施形態の免震構造物の作用と本質的な差異はない。
すなわち、常時にはその平面当接部Hを介して建物(あるいは人工地盤)の上部構造Gの低減された荷重をコンクリート基礎の下部構造Bに伝達支持し、地震時には上部構造Gと下部構造Bとの間に介装された免震支持装置Sの転動子7の支持作用を受けて上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達支持し、該転動子7の転がり作用により地震動に対する免震作用を発揮する。
常時、地震初動、地震の継続、地震終息の各作用・動作は先の第1実施形態のものに準じる。
本実施形態の免震構造物の効果についても、先の第1実施形態の免震構造物の効果と本質的な差異はないが、その構築において、既製部材の組立て施工により工期の短縮、加えて加工性の向上を図ることができる。
【0046】
(他の態様)
本第2実施形態において、床版Gbを梁材Gaに剛結し、束体Fを床版Gbの下面に取り付ける態様を採ることができる。
また、本実施形態においても免震支持装置Sに加えて内圧室装置S1を付加することができる。内圧室装置S1は、束体Fに組み込まれる態様、あるいは他の梁材Gaに取り付ける態様を採ることができる。
【0047】
本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術思想の範囲内で種々設計変更が可能である。すなわち、以下の態様は本発明の技術的範囲内に含まれる。
1)上記した実施の形態ではいずれも、下部構造Bとして地盤E上に設置される基礎、該基礎に支持される上部構造Gとして建物あるいは人工地盤を示したが、建物内の階層における上下面を境とする下層部いわゆる下版及び上層部いわゆる上版の構造を含むものである。
すなわち、建物内の中間階で、その床部において上下2層構造とし、下層部(下版)と上層部(上版)との間に免震支持装置Sを有する本免震構造を適用することができる。
2)本実施形態では全方向への免震態様を示したが、一方向(例えばX方向)への免震態様を除外するものではない。この場合、X−Z面で楕円形を採り、Y方向へは同一の楕円断面形状を採る。更には、Y方向端部に拘束手段を備えることにより、X、Z方向のみの変位を許容する。
【符号の説明】
【0048】
S…転がり免震支持装置、S1…内圧室装置、G…上部構造、B…下部構造、H…平面当接部、1…荷重受板、1a…上面、2…荷重支持筒体、3…密封部材、4…供給管、5…排出管、7…転動子、8…棒状ダンパー挿通孔、9…棒状ダンパー挿通管、10…棒状ダンパー、12…荷重支持筒体2の円筒側壁部、13…荷重支持筒体2の天井壁部、13a…下面、J…内圧室、K…充填流体、M…下接点、N…上接点、Ga…梁材、F…束体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立を保ち、かつ水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造とからなる構造物において、
前記下部構造の上面は平坦面に形成され、
定位置状態で所定の面積を保持して平面当接部をもって前記上部構造の荷重を該下部構造に伝達し、
前記上部構造と下部構造との間に、下記構成よりなる転がり免震支持装置が設置されてなる、
ことを特徴とする免震構造物。
a.前記下部構造の上面に、その上面が下部構造の上面と同一水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、定位置状態で最小高さを採るとともに水平方向に移動域を存し、その上下を前記荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに実質的に無負荷をもって挟着され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配され、
g.前記転動子は前記上部構造と前記下部構造との相対移動における転動状態において上部構造の荷重を支持する。
【請求項2】
請求項1において、上部構造と下部構造との間に、転がり免震支持装置に加えて、下記構成よりなる内圧室装置が設置されてなることを特徴とする免震構造物。
a.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
b.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記下部構造の上面の平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
c.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入される。
【請求項3】
請求項1のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる転がり免震支持装置が上部構造と下部構造との間に設置されてなることを特徴とする免震構造物。
【請求項4】
請求項3において、上部構造と下部構造との間に、転がり免震支持装置に加えて、下記構成よりなる内圧室装置が設置されてなることを特徴とする免震構造物。
a.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
b.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記下部構造の上面の平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
c.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入される。
【請求項5】
上部構造の下部構造に対する平面当接部は、下部構造の上面にすべり面を介して打設される現場打ちコンクリートである請求項1ないし4のいずれかに記載の免震構造物。
【請求項6】
上部構造の下部構造に対する平面当接部は、免震支持装置の荷重支持筒体に載置固定される剛性構造体より下方に垂設される束体の底面である請求項1ないし4のいずれかに記載の免震構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−32810(P2013−32810A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169365(P2011−169365)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(392034425)
【出願人】(302038279)
【Fターム(参考)】