説明

転がり軸受の潤滑構造

【課題】軸受内部の潤滑油の攪拌抵抗を低減することができるとともに、軸受内部の構成要素の焼き付きを防止することができる転がり軸受の潤滑構造を提供する。
【解決手段】外輪21、内輪22、円錐ころ23および保持器24を備え、外輪21と内輪22との間で画成される軸受内部25に軸方向の一方側から潤滑油が供給されるようにした転がり軸受の潤滑構造20において、軸受内部25に対し軸方向の一方側に配置されて円錐ころ23の端面を覆う環状の遮蔽部31を設け、遮蔽部31が内輪22との間に第1の隙間36を形成する円錐ころ23側の環状壁32と、この環状壁32から軸方向に離隔しつつ内輪22との間に第2の隙間37を形成する環状壁33と、第1の隙間36および第2の隙間37の間で両隙間に連通するとともに放射外方側に開口する貫通孔34cを形成する円筒壁34とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の潤滑構造、詳しくは、軸受内部の潤滑油が攪拌される際に生ずる攪拌抵抗を低減することができる転がり軸受の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の転がり軸受の潤滑構造として、例えば、外輪と、内輪と、円錐ころおよび保持器を備えるとともに内輪および外輪の間を潤滑油で潤滑するものが知られている。
この従来の転がり軸受の潤滑構造においては、保持器の小径側の端部は、内輪の軸方向に形成された小鍔部側の外端面よりも軸方向の内側になるように配置されており、内輪の軸方向の幅をBとし、内輪の内径をDとし、内輪の軸方向の小鍔部側の外端面から保持器の小径側の端部の軸方向の外端面までの軸方向の長さをX2とし、さらに、保持器の小径側の端部の内周面と内輪との径方向の隙間の寸法をX1とするとき、X2/B≧0.010、かつ、0.009≦X1/D≦0.043を満たすよう構成されている。
【0003】
この従来の転がり軸受の潤滑構造においては、前述のようにX1およびX2を所定の数値範囲に設定することで、X1で形成された隙間を通過する潤滑油量を抑制するようにして、転がり軸受の内部の潤滑油量を減少させ、攪拌抵抗を小さくして負荷となる回転トルクを小さくするようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−138992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のような従来の転がり軸受の潤滑構造においては、X1からなる隙間が1箇所にのみ形成されているため、X1の寸法が直接的に転がり軸受の内部の潤滑油量に影響してしまうという問題があった。すなわち、X1が小さすぎると、例えば、転がり軸受が搭載された車両の発進時には、内輪および保持器などの回転部材の回転数が小さいため、その遠心力も小さくなり、X1の隙間を通過する潤滑油量が極端に減少してしまうので、潤滑油不足となり、円錐ころの焼き付きが発生しやすいという問題があった。また、X1が大きすぎると、車両が高速運転の時は、前述の回転部材の回転数が大きいため、その遠心力が大きくなり、X1の隙間を通過する潤滑油量が増大して、潤滑油が過剰となり、攪拌抵抗が増大して負荷となる回転トルクが増大してしまうという問題があった。このように、軸受内部に流入する潤滑油量をX1の隙間だけ抑制するのはなお不充分であるという問題があった。
【0005】
本発明は、前述のような従来の問題を解決するためになされたもので、軸受内部の潤滑油が攪拌される際に生ずる攪拌抵抗を低減することができるとともに、軸受内部の構成要素の焼き付きを防止することができる転がり軸受の潤滑構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る転がり軸受の潤滑構造は、上記目的達成のため、(1)外輪と、前記外輪の放射内方に位置する内輪と、前記外輪と前記内輪の間に介装される転動体と、前記転動体を保持する保持器と、を備え、前記外輪と前記内輪との間で画成される軸受内部に軸方向の一方側から潤滑油が供給されるようにした転がり軸受の潤滑構造において、前記軸受内部に対し前記軸方向の一方側に配置されて前記転動体の端面を覆う環状の遮蔽部材を設け、前記遮蔽部材が、前記内輪との間に第1の隙間を形成する前記転動体側の一端部と、該一端部から前記軸方向に離隔しつつ前記内輪との間に第2の隙間を形成する他端部と、前記第1の隙間および前記第2の隙間の間で両隙間に連通するとともに放射外方側に開口を形成する中間部とを有することを特徴とする。
【0007】
この構成により、車両の始動時などの低速回転時には、開口が潤滑油の導入口となり潤滑油が開口から軸受内部に供給され焼き付きが防止される。車両の運転時などの高速回転時には、開口からの潤滑油の導入が遠心力により抑制される。その結果、高速回転時に潤滑油の供給量が多く、軸受内部での潤滑油の攪拌抵抗が大きくなるという問題が解消される。
【0008】
上記(1)に記載の転がり軸受の潤滑構造は、好ましくは、(2)前記内輪が、前記転動体を転動させるテーパ部を有し、前記テーパ部の小径端側に前記遮蔽部材が配置されるよう構成される。
【0009】
この構成により、内輪の回転に伴って潤滑油がテーパ部の小径端側から軸受内部に流入し、内輪の放射外方側へ流動し軸受内部から転がり軸受外部に排出されるので、潤滑油が流入する側に、遮蔽部材を配置することにより、潤滑油の流入を抑制することができる。
【0010】
上記(1)または(2)に記載の転がり軸受の潤滑構造においては、好ましくは、(3)前記遮蔽部材が、前記内輪との間に前記第1の隙間、前記第2の隙間および開口に通じる環状空間が形成される。
【0011】
この構成により、環状空間が開口によって転がり軸受外部に通じる低速回転時の潤滑油溜まりとなり、潤滑油溜まりからも軸受内部に潤滑油が供給されて焼き付きが防止される。高速回転時には、遠心力で環状空間内の油量が開口が転がり軸受外部に排出されて減少する。高速回転時に潤滑油の供給量が増える場合に、その排出によって潤滑油の供給量が抑制され、適量の潤滑油供給状態が維持される。
【0012】
上記(2)または(3)に記載の転がり軸受の潤滑構造においては、好ましくは、(4)前記内輪が、前記遮蔽部材の前記他端部に対し、前記第2の隙間を隔てて前記軸方向に対向する環状突部を有するよう構成される。
【0013】
この構成により、第2の隙間が遮蔽部材の他端部と環状突部の内周側面との間に画成され、低速回転時には、遠心力が小さいので第2の隙間から軸受内部に潤滑油が流入するが、高速回転時には、遠心力により軸受内部への潤滑油の流入が抑制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低速回転時には、開口が潤滑油の導入口となり潤滑油が開口から軸受内部に供給され、高速回転時には、開口からの潤滑油の導入が遠心力により抑制され軸受内部への潤滑油の供給量が減少するようにしているので、焼き付きを防止するとともに、高速回転時には、最適な潤滑油量を維持しながら、転がり軸受の攪拌抵抗を低減でき、負荷となる回転トルクを小さくすることができる転がり軸受の潤滑構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造を車両のリヤディファレンシャルに装着される転がり軸受の潤滑構造に適用した例を示し、そのリヤディファレンシャルの断面図である。また、図2は、本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の断面図であり、図3は、本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の部分拡大断面図である。
【0017】
まず、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造が適用される車両のリヤディファレンシャル1の構造について説明する。
リヤディファレンシャル1は、図示しないエンジンから出力される動力を伝達するプロペラシャフトの後段に配置され、プロペラシャフトからの回転入力を受け、左後輪側および右後輪側に動力を伝達するとともに、左右後輪の差動を許容するよう構成されている。
【0018】
図1に示すように、リヤディファレンシャル1は、ディファレンシャルケース2と、転がり軸受の潤滑構造20を構成する円錐ころ軸受3、4を介してディファレンシャルケース2に回転可能に保持されたピニオンシャフト5と、ピニオンシャフト5の端部に連結されたピニオンギヤ6と、ピニオンギヤ6と噛み合うリングギヤ7と、リングギヤ7を含み左後輪および右後輪の差動を許容する差動機構8と、ディファレンシャルケース2にボルト9により締結されたディファレンシャルカバー11と、ピニオンシャフト5の他端部に取り付けられ、図示しないプロペラシャフトと連結されるコンパニオンフランジ12と、コンパニオンフランジ12とディファレンシャルケース2との間の隙間をシールするオイルシール13および異物の侵入を防止するスリンガ14とを含んで構成されている。
【0019】
このディファレンシャルケース2の内部に充填されている潤滑油は、リングギヤ7の回転により掻き上げられて流動するようになっており、円錐ころ軸受3、4、ピニオンギヤ6および差動機構8などの構成要素が流動する潤滑油によってそれぞれ潤滑されるようになっている。
【0020】
図2に示すように、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20は、円錐ころ軸受3を含んで構成されている。円錐ころ軸受3は、外輪21と、内輪22と、複数の円錐ころ23と、保持器24とを含んで構成されており、内輪22、円錐ころ23および保持器24が回転すると、その遠心力の作用で外輪21と内輪22との間で画成される軸受内部25に軸方向の一方側から適量の潤滑油が供給されるようになっている。
【0021】
外輪21は、金属材料からなり、環状の内周軌道面を形成するテーパ部21aを有しており、円錐ころ23がこのテーパ部21aに沿って転動するようになっている。また、外輪21は、その外周面部21bでディファレンシャルケース2の軸穴部2aに固定されている。
【0022】
内輪22は、外輪21の放射内方に配置されており、ピニオンシャフト5が挿入され固定されて、ピニオンシャフト5が回転すると一緒に回転するようになっている。
【0023】
内輪22は、外輪21と同様に金属材料からなり、環状の外周軌道面を形成するテーパ部22aを有しており、円錐ころ23がこのテーパ部22aに沿って転動するようになっている。また、テーパ部22aの小径端側には、円錐ころ23の小径部23bを支持する小径鍔部22bが形成されており、テーパ部22aの大径端側には、円錐ころ23の大径部23cを支持する大径鍔部22cが形成されている。円錐ころ23は、小径鍔部22bと大径鍔部22cとの間で回転するようになっている。また、内輪22は、小径鍔部22bから軸方向に延在し、小径鍔部22bの外径よりも小さい外径の延在部22dを有している。
【0024】
各円錐ころ23は、金属材料からなり、円錐状に形成され、外輪21のテーパ部21aと、内輪22のテーパ部22aと接触するテーパ部23aを有する。テーパ部23aは、小径部23bおよび小径部23bから徐々に拡径された大径部23cからなり、各円錐ころ23は、保持器24に回転可能に保持されている。
【0025】
保持器24は、例えば、プレス加工された板厚tの板金からなり、図示しない複数の方形の貫通孔を有しており、この貫通孔に各円錐ころ23の一部が挿入され、各円錐ころ23が外輪21および内輪22に沿って公転する際に互いに干渉しないよう保持している。また、保持器24は、円錐ころ23の端面を覆うよう軸方向に延在して形成された環状の遮蔽部31を有しており、転がり軸受外部の潤滑油が軸受内部25に流入するのを抑制するようにしている。この遮蔽部31は、本発明に係る転がり軸受の潤滑構造における環状の遮蔽部材を構成している。
【0026】
図3に示すように、遮蔽部31は、円錐ころ23側の一端部としての環状壁32と、他端部としての環状壁33と、中間部としての円筒壁34とを有している。
環状壁32は、内周面32aと、周側面32b、32cとを有しており、内周面32aと内輪22の外周面22eとの間に間隔Sからなる第1の隙間36が画成され、周側面32bと小径鍔部22bの周側面22fとの間に間隔Sからなる第3の隙間38が画成されている。
環状壁33は、内周面33aと、周側面33b、33cとを有しており、内周面33aと内輪22の外周面22eとの間に間隔Sからなる第2の隙間37が画成されている。
【0027】
円筒壁34は、内周面34aと、外周面34bと、内周面34a側および外周面34b側を貫通する直径dの貫通孔34cとを有している。この貫通孔34cは、少なくとも1箇所に形成されていればよいが、複数箇所に形成されていることが好ましい。複数箇所に形成されている場合には、転がり軸受外部から軸受内部25に均等に潤滑油が供給されるよう円筒壁34の円周上で等間隔に形成されていることが好ましい。
【0028】
環状壁33は、円筒壁34の外周面34bから内周面33aまでの高さがhとなるよう形成されるとともに、その周側面33cと内輪22の先端面22gとの距離がLになるよう配置されている。また、環状壁32は、その周側面32cと環状壁33の周側面33bとの距離がLになるよう環状壁33から離隔して形成されている。
【0029】
間隔S、間隔Sおよび間隔Sは、それぞれ同じ間隔でもよく、異なった間隔でもよい。また、間隔S、S、S、高さh、距離L、L、板厚t、直径dなどの遮蔽部31および内輪22における各寸法については、円錐ころ軸受の大きさや特性、潤滑油の特性などのリヤディファレンシャル1の設計条件に基づいて適宜選択される。
【0030】
遮蔽部31には、環状壁32の周側面32cと、環状壁33の周側面33bと、円筒壁34の内周面34aと、内輪22の外周面22eとにより環状空間39が画成されている。この環状空間39には、第2の隙間37および貫通孔34cから潤滑油が流入した際に、一時的に滞留するようになっている。
【0031】
貫通孔34cは、第1の隙間36、第2の隙間37および環状空間39と転がり軸受外部とが連通しており、本発明の転がり軸受の潤滑構造における開口を構成している。
【0032】
次に、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20の作用について説明する。
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の断面図であり、潤滑油の流動状態を示す。また、図5は、本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の部分拡大断面図であり、図5(a)は、車両の始動時の潤滑油の流動状態を示し、図5(b)は、車両の運転時の潤滑油の流動状態を示す。
【0033】
図示しないエンジンが始動すると、リヤディファレンシャル1の前段に配置されているプロプロペラシャフトからの回転入力によってピニオンシャフト5が回転し、ピニオンシャフト5の端部に連結されたピニオンギヤ6が回転する。
【0034】
図4に示すように、ピニオンギヤ6の回転によりリングギヤ7が矢印で示す方向に回転すると、ディファレンシャルケース2の下部2bに貯留されている潤滑油が、リングギヤ7によって上部に掻き上げられる。そして、掻き上げられた潤滑油は、矢印で示すように、そのまま落下してピニオンギヤ6および差動機構8を潤滑し、下部2bに還流する。また、掻き上げられた潤滑油は、矢印で示すように、ディファレンシャルケース2内に形成されている油路2cを通って円錐ころ軸受3、4に供給される。円錐ころ軸受3、4の軸受内部を潤滑した潤滑油は、円錐ころ軸受3、4から排出され下部2bに還流する。
【0035】
図5(a)に示すように、車両の始動時などのピニオンシャフト5が低速で回転する時には、回転により作用する遠心力が小さいので、貫通孔34cから排出される潤滑油量が少なくなるか、または貫通孔34cから潤滑油が軸受内部25に流入するようになる。
【0036】
すなわち、遠心力により第2の隙間37から環状空間39に流入し環状空間39内に滞留した潤滑油が貫通孔34cから排出されようとする潤滑油の排出圧力と、転がり軸受外部の潤滑油が貫通孔34cから環状空間39内に流入しようとする潤滑油の流入圧力との差が小さくなるので、貫通孔34cから排出される潤滑油量が少なくなる。また、排出圧力より流入圧力が高くなると、貫通孔34cから環状空間39内に潤滑油が流入することになる。したがって、貫通孔34cが導入口となり始動時などに必要な適量の潤滑油が貫通孔34cおよび第2の隙間37から流入し、第1の隙間36、第3の隙間38を通過して軸受内部25に供給される。
【0037】
他方、図5(b)に示すように、車両の運転時などのピニオンシャフト5が高速で回転する時には、回転により作用する遠心力が大きいので、貫通孔34cから排出される潤滑油量が多くなり、軸受内部25に流入する潤滑油量が低速で回転するときと比べて少なくなる。
【0038】
すなわち、遠心力により第2の隙間37から環状空間39に流入し環状空間39内に滞留した潤滑油が貫通孔34cから排出されようとする潤滑油の排出圧力と、転がり軸受外部の潤滑油が貫通孔34cから環状空間39内に流入しようとする潤滑油の流入圧力との差が大きくなるので、貫通孔34cから潤滑油が多量に排出される。したがって、貫通孔34cが潤滑油排出口となり運転時などに必要な適量の潤滑油が第1の隙間36および第3の隙間38を通過して軸受内部25に供給される。
【0039】
このように、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20においては、外輪21と、外輪21の放射内方に位置する内輪22と、外輪21と内輪22の間に介装される円錐ころ23と、円錐ころ23を保持する保持器24と、を備え、外輪21と内輪22との間で画成される軸受内部25に軸方向の一方側から潤滑油が供給されるよう構成されている。また、軸受内部25に対し軸方向の一方側に配置されて円錐ころ23の端面を覆う環状の遮蔽部31を設け、遮蔽部31が内輪22との間に第1の隙間36を形成する円錐ころ23側の環状壁32と、この環状壁32から軸方向に離隔しつつ内輪22との間に第2の隙間37を形成する環状壁33と、第1の隙間36および第2の隙間37の間で両隙間に連通するとともに放射外方側に開口する貫通孔34cを形成する円筒壁34とを有するよう構成されている。
【0040】
その結果、車両の始動時などのピニオンシャフト5が低速で回転する時には、貫通孔34cが潤滑油の導入口となり潤滑油が貫通孔34cから軸受内部25に供給され焼き付きが防止される。他方、車両の運転時などのピニオンシャフト5が高速で回転する時には、貫通孔34cから潤滑油が遠心力により排出される。その結果、高速回転時に最適な潤滑油量を維持することができるので、潤滑油の供給量が多くなり、軸受内部25での潤滑油の攪拌抵抗が大きくなるという問題が解消される。
【0041】
次に、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20の変形例について説明する。
図6は、本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の変形例の断面図であり、図7は、本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の変形例の部分拡大断面図であり、図8は、発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の変形例の部分拡大断面図であり、図8(a)は、車両の始動時の潤滑油の流動状態を示し、図8(b)は、車両の運転時の潤滑油の流動状態を示す。
【0042】
本実施の形態の転がり軸受の潤滑構造20においては、内輪22の延在部22dの外径が、小径鍔部22bの外径よりも小さい外径で形成され、小径鍔部22bと延在部22dとの間に段差がある場合について説明したが、本発明の転がり軸受の潤滑構造においては、小径鍔部と延在部との間に段差がないものでもよい。
【0043】
図6に示すように、内輪42は、環状の外周軌道面を形成するテーパ部42aを有しており、テーパ部42aの小径端側には、円錐ころ23の小径部23bを支持する小径鍔部42bを有している。また、テーパ部42aの大径端側には、円錐ころ23の大径部23cを支持する大径鍔部42cを有している。この内輪42は、小径鍔部42bから軸方向に延在し、小径鍔部42bの外径と同じ外径の延在部42dを有している。
【0044】
保持器44は、円錐ころ23の端面を覆うよう軸方向に延在して形成された環状の遮蔽部51を有しており、転がり軸受外部の潤滑油が軸受内部45に流入するのを抑制するようにしている。この遮蔽部51は、本発明に係る転がり軸受の潤滑構造における環状の遮蔽部材を構成している。
【0045】
図7に示すように、遮蔽部51は、例えば、板厚tの板金からなり、環状壁52、53と、円筒壁54とを有している。環状壁52は、内周面52aと、周側面52b、52cとを有しており、内周面52aと内輪42の外周面42eとの間に間隔Sからなる第1の隙間56が画成されている。
環状壁53は、内周面53aと、周側面53b、53cとを有しており、内周面53aと内輪42の外周面42eとの間に間隔Sからなる第2の隙間57が画成されている。
【0046】
円筒壁54は、内周面54aと、外周面54bと、内周面54a側および外周面54b側を貫通する直径dの貫通孔54cとを有している。環状壁53は、円筒壁54の外周面54bから内周面53aまでの高さがhとなるよう形成されるとともに、その周側面53cと内輪42の先端面42gとの距離がLになるよう配置されている。また、環状壁52は、その周側面52cと環状壁53の周側面53bとの距離がLになるよう環状壁53から離隔して形成されている。
【0047】
間隔Sおよび間隔Sは、それぞれ同じ間隔でもよく、異なった間隔でもよい。また、間隔S、S、高さh、距離L、L、板厚t、直径dなどの遮蔽部51および内輪42における各寸法については、円錐ころ軸受の大きさや特性、潤滑油の特性などのリヤディファレンシャル1の設計条件に基づいて適宜選択される。
【0048】
遮蔽部51には、環状壁52の周側面52cと、環状壁53の周側面53bと、円筒壁54の内周面54aと、内輪42の外周面42eとにより環状空間59が画成されている。この環状空間59には、第2の隙間57および貫通孔54cから潤滑油が流入した際に、一時的に滞留するようになっている。
【0049】
次に、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20の変形例の作用について説明する。
図8(a)に示すように、車両の始動時などのピニオンシャフト5が低速で回転する時には、回転により作用する遠心力が小さいので、貫通孔54cから排出される潤滑油量が少なくなるか、または貫通孔54cから潤滑油が環状空間59を経て軸受内部45に流入するようになる。
【0050】
他方、図8(b)に示すように、車両の運転時などのピニオンシャフト5が高速で回転する時には、回転により作用する遠心力が小さいので、貫通孔54cから排出される潤滑油量が少なくなるか、または貫通孔54cから潤滑油が環状空間59を経て軸受内部45に流入するようになる。
【0051】
本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20の変形例においては、転がり軸受の潤滑構造20と同様に、車両の始動時などのピニオンシャフト5が低速で回転する時には、貫通孔54cが潤滑油の導入口となり潤滑油が貫通孔54cから軸受内部45に供給され焼き付きが防止される。他方、車両の運転時などのピニオンシャフト5が高速で回転する時には、貫通孔54cから潤滑油が遠心力により排出される。その結果、高速回転時に最適な潤滑油量を維持することができるので、潤滑油の供給量が多くなり、軸受内部45での潤滑油の攪拌抵抗が大きくなるという問題が解消される。さらに、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20の変形例においては、内輪42の延在部42dが、小径鍔部42bの外径と同じ外径を有しており、延在部42dと小径鍔部42bとの連結部分に段差がないので、車両の始動時などのピニオンシャフト5が低速で回転する時には、第1の隙間56を通過した潤滑油が流通し易いので軸受内部45に流入し易く円滑な潤滑が得られる。また、内輪42を加工する際にその加工工程を削減することができる。
【0052】
次に、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20の他の変形例について説明する。
本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20においては、遮蔽部材としての遮蔽部31を保持器24の軸方向に延在させて保持器24と一体的に形成した場合について説明したが、本発明の転がり軸受の潤滑構造においては、遮蔽部材を保持器以外の他の構成要素に一体的に形成してもよい。
【0053】
図9は、本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の他の変形例の部分拡大断面図である。
図9に示すように、転がり軸受の潤滑構造20は、内輪22に代えて内輪62で構成され、保持器24に代えて保持器64で構成されている。
内輪62は、小径鍔部62aと、小径鍔部62aから軸方向に延在して形成された第1の遮蔽部71とを有しており、転がり軸受外部の潤滑油が軸受内部65に流入するのを抑制するようにしている。第1の遮蔽部71は、円錐ころ23側の一端部としての環状壁72と、他端部としての環状壁73とを有している。
【0054】
また、保持器64は、円錐ころ23の端面を覆うよう軸方向に延在して形成された第2の遮蔽部78を有しており、第1の遮蔽部71とともに、保持器64を遮蔽することにより、転がり軸受外部の潤滑油が軸受内部65に流入するのを抑制するようにしている。第2の遮蔽部78は、中間部としての円筒壁74を有しており、円筒壁74には第2の遮蔽部78を放射外方に開口する貫通孔74aが形成されている。
内輪62の環状壁72と、保持器64の円筒壁74との間に第1の隙間76が画成され、内輪62の環状壁73と、保持器64の円筒壁74との間に第2の隙間77が画成されている。
【0055】
本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20の他の変形例においても、内輪62により円錐ころ23が傾斜して保持されているので、内輪62および円錐ころ23の回転により、軸受内部65の潤滑油に遠心力が作用し、潤滑油が円錐ころ23の小径部23bから大径部23cの方向に流動する。その結果、転がり軸受外部の潤滑油が第2の隙間77から環状空間79に流入するとともに、第1の隙間76から軸受内部65に流入する。このとき、第2の隙間77および第1の隙間76により潤滑油の流入量が抑制される。
【0056】
本実施の形態における第1の遮蔽部71および第2の遮蔽部78は、本発明に係る転がり軸受の潤滑構造における遮蔽部材を構成している。
【0057】
(第2の実施の形態)
図10は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造を車両のリヤディファレンシャルに装着される転がり軸受の潤滑構造に適用した例を示し、そのリヤディファレンシャルの断面図である。また、図11は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の断面図であり、図12は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の部分拡大断面図である。
【0058】
なお、第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造30においては、第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20の遮蔽部31に代えて遮蔽部91を、内輪22に代えて内輪82を形成した点が異なっているが、他の構成は同様に構成されている。したがって、同一の構成については、図1から図5(a)、(b)に示した第1の実施の形態と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
【0059】
まず、第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造が適用されるリヤディファレンシャル1および転がり軸受の潤滑構造30の構成について説明する。
【0060】
図10に示すように、リヤディファレンシャル1は、第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20における円錐ころ軸受3、4に代えて円錐ころ軸受15、16を含んで構成されている。
【0061】
このディファレンシャルケース2の内部に充填されている潤滑油は、第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20と同様にリングギヤ7の回転により掻き上げられて流動するようになっており、円錐ころ軸受15、16、ピニオンギヤ6および差動機構8などの構成要素が流動する潤滑油によってそれぞれ潤滑されるようになっている。
【0062】
図11に示すように、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造30は、円錐ころ軸受15を含んで構成されている。円錐ころ軸受15は、外輪21と、内輪82と、複数の円錐ころ23と、保持器84とを含んで構成されており、内輪82、円錐ころ23および保持器84が回転すると、その遠心力の作用で外輪21と内輪82との間で画成される軸受内部85に軸方向の一方側から適量の潤滑油が供給されるようになっている。
【0063】
内輪82は、外輪21の放射内方に配置されており、ピニオンシャフト5が挿入され固定されて、ピニオンシャフト5が回転すると一緒に回転するようになっている。
内輪82は、外輪21と同様に金属材料からなり、環状の外周軌道面を形成するテーパ部82aを有しており、円錐ころ23がこのテーパ部82aに沿って転動するようになっている。また、テーパ部82aの小径端側には、円錐ころ23の小径部23bを支持する小径鍔部82bを有しており、テーパ部82aの大径端側には、円錐ころ23の大径部23cを支持する大径鍔部82cを有している。円錐ころ23は、小径鍔部82bと大径鍔部82cとの間で回転するようになっている。
【0064】
また、内輪82は、図12に示すように、小径鍔部82bから軸方向に延在し、小径鍔部82bから徐々に外径が小さくなるテーパ部82eと、テーパ部82eの先端部が放射外方に突出して形成された環状突起82dとを有している。テーパ部82eは、ピニオンシャフト5の軸に対して角度θで傾斜している。この角度θが大きいほど、内輪82の回転により生ずる遠心力が、テーパ部82eを通る潤滑油に対して大きく影響するようになっている。
【0065】
保持器84は、例えば、プレス加工された板厚tの板金からなり、図示しない複数の方形の貫通孔を有しており、この貫通孔に各円錐ころ23の一部が挿入され、各円錐ころ23が外輪21および内輪22に沿って公転する際に互いに干渉しないよう保持している。また、保持器84は、円錐ころ23の端面を覆うよう軸方向に延在して形成された環状の遮蔽部91を有しており、転がり軸受外部の潤滑油が軸受内部85に流入するのを抑制するようにしている。この遮蔽部91は、本発明に係る転がり軸受の潤滑構造における環状の遮蔽部材を構成している。
【0066】
遮蔽部91は、保持器84の板厚tよりも薄い板厚tで形成されている。また、遮蔽部91は、保持器84の外径よりも小さな外径を有しており、遮蔽部91が保持器84と接続される環状部91aを有している。環状部91aにおいては、保持器84の板厚tが徐々に小さくなり遮蔽部91の板厚tに接続されており、板厚を徐々に薄くすることにより遮蔽部91が内輪82に組み込まれる際に変形し易くなっている。また、遮蔽部91は、ピニオンシャフト5の軸に対して角度θで傾斜しており、内輪82のテーパ部82eと同じ傾斜角を有している。なお、この傾斜角は内輪82のテーパ部82eよりも大きく形成されていてもよく、小さく形成されていてもよい。
【0067】
遮蔽部91は、内輪82のテーパ部82eと対向する内周面91bと、内輪82の環状突起82dの内周面82fと対向する周側面91cとを有している。
内周面91bとテーパ部82eの外周面との間に間隔Sからなる第1の隙間96が画成されるとともに、周側面91cと環状突起82dの内周面82fとの間に間隔Sからなる第2の隙間97が画成されている。また、遮蔽部91は、環状部91aと周側面91cを有する端部との間に貫通した直径dの貫通孔91dを有している。この貫通孔91dは、少なくとも1箇所に形成されていればよいが、複数箇所に形成されていることが好ましい。複数箇所に形成されている場合には、転がり軸受外部から軸受内部85に均等に潤滑油が供給されるよう遮蔽部91の円周上で等間隔に形成されていることが好ましい。
【0068】
間隔S、間隔Sは、それぞれ同じ間隔でもよく、異なった間隔でもよい。また、間隔S、S、角度θ、板厚t、t、直径dなどの遮蔽部91および内輪82における各寸法については、円錐ころ軸受の大きさや特性、潤滑油の特性などのリヤディファレンシャル1の設計条件に基づいて適宜選択される。
【0069】
貫通孔91dは、第1の隙間96および第2の隙間97と、転がり軸受外部とを連通させており、本発明の転がり軸受の潤滑構造における開口を構成している。また、遮蔽部91における環状部91aの近傍が、本発明の転がり軸受の潤滑構造における転動体側の一端部を構成し、遮蔽部91の周側面91cの近傍が、本発明の転がり軸受の潤滑構造における第2の隙間を形成する他端部を構成し、遮蔽部91の貫通孔91dの近傍が、本発明の転がり軸受の潤滑構造における開口を形成する中間部を構成している。
【0070】
次に、第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造30の保持器84に内輪82を組み込む組立方法について説明する。
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の内輪の断面図であり、図14は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の保持器の断面図である。
また、図15は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造における内輪に保持器を組み込む工程を説明する説明図であり、図15(a)は、保持器への内輪の挿入を開始した状態を示し、図15(b)は、保持器に内輪が係合した状態を示し、図15(c)は、保持器に内輪が係合し保持器が変形した状態を示し、図15(c)は、保持器への内輪の挿入が完了した状態を示す。
【0071】
図13に示すように、内輪82は、環状突起82dの外径が、Aで形成され、環状突起82dとテーパ部82eとの連結部分の外径がBで形成されている。他方、図14に示すように、保持器84の遮蔽部91の端部の内径がAで形成されており、A>B、でありA>Aとなっている。
【0072】
この保持器84に内輪82を組み込むには、遮蔽部91の内径Aが大きくなるよう遮蔽部91を変形させている。すなわち、図15(a)に示すように、まず、保持器84の遮蔽部91の内側に内輪82の環状突起82dを挿入し、遮蔽部91と環状突起82dとを係合させる。さらに、図15(b)に示すように、内輪82を保持器84に矢印方向に押圧して押し込み、遮蔽部91の内径Aを大きくするよう変形させる。続いて、図15(c)に示すように、遮蔽部91の内周面91bが環状突起82dを乗り越えるまでさらに押し込み、遮蔽部91の内径Aを大きくするよう変形させる。図15(d)に示すように、遮蔽部91が環状突起82dを乗り越えると、第1の隙間96および第2の隙間97が全周に渡って均一な所定の間隔Sおよび間隔Sになるよう配置される。
【0073】
このように、保持器84に内輪82を組み込む際に、遮蔽部91の内径Aが大きくなるよう遮蔽部91を変形させているので、簡単に内輪82を保持器84に組み込むことができる。また、遮蔽部が変形しない構造のものでは、内輪を保持器に組み込むことができないので、内輪を本体部と環状部の二つに分割し、まず、保持器を本体部に組み込み、次いで環状部を本体部に固定する必要があるが、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の場合は、内輪を一体構造にすることができ、構造が簡単になるという効果が得られる。
【0074】
次に、第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造30の作用について説明する。
図16は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の断面図であり、潤滑油の流動状態を示す。また、図17は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の部分拡大断面図であり、図17(a)は、車両の始動時の潤滑油の流動状態を示し、図17(b)は、車両の運転時の潤滑油の流動状態を示す。
【0075】
図示しないエンジンが始動すると、リヤディファレンシャル1の前段に配置されているプロプロペラシャフトからの回転入力によってピニオンシャフト5が回転し、ピニオンシャフト5の端部に連結されたピニオンギヤ6が回転する。
【0076】
図16に示すように、ピニオンギヤ6の回転によりリングギヤ7が矢印で示す方向に回転すると、ディファレンシャルケース2の下部2bに貯留されている潤滑油が、リングギヤ7によって上部に掻き上げられる。そして、掻き上げられた潤滑油は、矢印で示すように、そのまま落下してピニオンギヤ6および差動機構8を潤滑し、下部2bに還流する。また、掻き上げられた潤滑油は、矢印で示すように、ディファレンシャルケース2内に形成されている油路2cを通って円錐ころ軸受15、16に供給される。円錐ころ軸受15、16の軸受内部を潤滑した潤滑油は、円錐ころ軸受15、16から排出され下部2bに還流する。
【0077】
図17(a)に示すように、車両の始動時などのピニオンシャフト5が低速で回転する時には、回転により作用する遠心力が小さいので、貫通孔91dから排出される潤滑油量が少なくなるか、または貫通孔91dから潤滑油が軸受内部85に流入するようになる。
【0078】
すなわち、遠心力により第2の隙間97から流入し貫通孔91dから排出されようとする潤滑油の排出圧力と、転がり軸受外部の潤滑油が貫通孔91dから第1の隙間96に流入しようとする潤滑油の流入圧力との差が小さくなるので、貫通孔91dから排出される潤滑油量が少なくなる、また、排出圧力より流入圧力が高くなると、貫通孔91dから第1の隙間96に潤滑油が流入することになる。したがって、貫通孔91dが導入口となり始動時などに必要な適量の潤滑油が貫通孔91dおよび第2の隙間97から流入し、第1の隙間36を通過して軸受内部85に供給される。
【0079】
他方、図17(b)に示すように、車両の運転時などのピニオンシャフト5が高速で回転する時には、回転により作用する遠心力が大きいので、貫通孔91dから排出される潤滑油量が多くなり、軸受内部85に流入する潤滑油量が低速で回転するときと比べて少なくなる。
【0080】
すなわち、遠心力により第2の隙間97から第1の隙間96に流入し貫通孔91dから排出されようとする潤滑油の排出圧力と、転がり軸受外部の潤滑油が貫通孔91dから第1の隙間96に流入しようとする潤滑油の流入圧力との差が大きくなるので、貫通孔91dから潤滑油が多量に排出される。したがって、貫通孔91dが潤滑油排出口となり運転時などに必要な適量の潤滑油が第1の隙間96を通過して軸受内部85に供給される。
【0081】
このように、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造30においては、外輪21と、外輪21の放射内方に位置する内輪82と、外輪21と内輪82の間に介装される円錐ころ23と、円錐ころ23を保持する保持器84と、を備え、外輪21と内輪82との間で画成される軸受内部85に軸方向の一方側から潤滑油が供給されるよう構成されている。また、軸受内部85に対し軸方向の一方側に配置されて円錐ころ23の端面を覆う環状の遮蔽部91を設け、遮蔽部91がその内周面91bと内輪82のテーパ部82eとの間に第1の隙間96が形成されるととともに、周側面91cと内輪82の環状突起82dの内周面82fとの間に第2の隙間97が形成されている。
【0082】
その結果、車両の始動時などのピニオンシャフト5が低速で回転する時には、貫通孔91dが潤滑油の導入口となり潤滑油が貫通孔91dから軸受内部85に供給され焼き付きが防止される。他方、車両の運転時などのピニオンシャフト5が高速で回転する時には、貫通孔91dから潤滑油が遠心力により排出される。その結果、高速回転時に最適な潤滑油量を維持することができるので、潤滑油の供給量が多くなり、軸受内部85での潤滑油の攪拌抵抗が大きくなるという問題が解消される。
【0083】
次に、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造30の変形例について説明する。
図18は、本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の変形例の部分拡大断面図である。
【0084】
本実施の形態の転がり軸受の潤滑構造30においては、保持器84に遮蔽部91を形成し、遮蔽部91に貫通孔91dが形成された場合について説明したが、遮蔽部材に貫通孔が形成されていないものでもよい。
【0085】
図18に示すように、本実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造30の変形例においては、第2の実施の形態の転がり軸受の潤滑構造30における保持器84に代えて保持器104で構成され、遮蔽部91に変えて遮蔽部111で構成されている。
【0086】
保持器104は、円錐ころ23の端面を覆うよう軸方向に延在して形成された環状の遮蔽部111を有しており、転がり軸受外部の潤滑油が軸受内部105に流入するのを抑制するようにしている。この遮蔽部111は、本発明に係る転がり軸受の潤滑構造における環状の遮蔽部材を構成している。
【0087】
遮蔽部111は、保持器104の板厚tよりも薄い板厚tで形成されている。また、遮蔽部111は、保持器104の外径よりも小さな外径を有しており、遮蔽部111が保持器104と接続される環状部111aを有している。環状部111aにおいては、保持器104の板厚tが徐々に小さくなり遮蔽部111の板厚tに接続されており、遮蔽部111が内輪82に組み込まれる際に変形し易くなっている。また、遮蔽部111は、ピニオンシャフト5の軸に対して角度θで傾斜しており、内輪82のテーパ部82eと同じ傾斜角を有している。なお、この傾斜角は内輪82のテーパ部82eよりも大きく形成されていてもよく、小さく形成されていてもよい。
【0088】
遮蔽部111は、内輪82のテーパ部82eと対向する内周面111bと、内輪82の環状突起82dの内周面82fと対向する周側面111cとを有している。
内周面111bとテーパ部82eの外周面との間に間隔Sからなる第1の隙間116が画成され、周側面111cと環状突起82dの内周面82fとの間に間隔S10からなる第2の隙間117が画成されている。
【0089】
第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造20および第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造30においては、保持器をプレス加工された板金で形成した場合について説明したが、本発明に係る転がり軸受の潤滑構造においては、保持器を他の加工方法や材料で形成してもよい。例えば、保持器を射出成形されたプラスチックで形成してもよく、鋳造された金属材料で形成してもよい。
【0090】
なお、本発明に係る転がり軸受の潤滑構造にいう転がり軸受は、軸受内部にその軸方向の一方側から潤滑油が供給されるようにしたものであれば、第1または第2の実施の形態における円錐ころ軸受に限定されるものではなく他の転がり軸受であってもよい。すなわち、複列円錐ころ軸受、玉軸受、複列玉軸受、アンギュラ玉軸受、自動調芯ころ軸受および針状ころ軸受などの転がり軸受でもよい。
【0091】
また、本発明に係る転がり軸受の潤滑構造は、車両のリヤディファレンシャルに適用される場合に限定されるものではない。すなわち、車両のトランスアクスル、トランスミッションや他の技術分野、例えば、産業機械、交通運輸機械、電気機械および計測器械などに使用される転がり軸受の潤滑構造に適用される場合も含まれる。
【0092】
以上説明したように、本発明によれば、低速回転時には、開口が潤滑油の導入口となり潤滑油が開口から軸受内部に供給され、高速回転時には、開口からの潤滑油の導入が遠心力により抑制され軸受内部への潤滑油の供給量が減少するようにしているので、焼き付きを防止するとともに、高速回転時には、最適な潤滑油量を維持しながら、転がり軸受の攪拌抵抗を低減でき、負荷となる回転トルクを小さくすることができるという効果を奏し、広く転がり軸受の潤滑構造全般に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造を車両のリヤディファレンシャルに装着される転がり軸受の潤滑構造に適用した例を示し、そのリヤディファレンシャルの断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の部分拡大断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の断面図であり、潤滑油の流動状態を示す。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の部分拡大断面図であり、図5(a)は、車両の始動時の潤滑油の流動状態を示し、図5(b)は、車両の運転時の潤滑油の流動状態を示す。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の変形例の断面図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の変形例の部分拡大断面図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の変形例の部分拡大断面図であり、図8(a)は、車両の始動時の潤滑油の流動状態を示し、図8(b)は、車両の運転時の潤滑油の流動状態を示す。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の他の変形例の部分拡大断面図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造を車両のリヤディファレンシャルに装着される転がり軸受の潤滑構造に適用した例を示し、そのリヤディファレンシャルの断面図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の断面図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の部分拡大断面図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の内輪の断面図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の保持器の断面図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造における内輪に保持器を組み込む工程を説明する説明図であり、図15(a)は、保持器への内輪の挿入を開始した状態を示し、図15(b)は、保持器に内輪が係合した状態を示し、図15(c)は、保持器に内輪が係合し保持器が変形した状態を示し、図15(c)は、保持器への内輪の挿入が完了した状態を示す。
【図16】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の断面図であり、潤滑油の流動状態を示す。
【図17】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の部分拡大断面図であり、図17(a)は、車両の始動時の潤滑油の流動状態を示し、図17(b)は、車両の運転時の潤滑油の流動状態を示す。
【図18】本発明の第2の実施の形態に係る転がり軸受の潤滑構造の変形例の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0094】
3、4、15、16 円錐ころ軸受
20、30 転がり軸受の潤滑構造
21 外輪
22、42、62、82 内輪
23 円錐ころ
24、44、64、84、104 保持器
25、45、65、85、105 軸受内部
31、51、91、111 遮蔽部
32、33、52、53、72、73 環状壁
34、54、74 円筒壁
34c、54c、74a、91d 貫通孔
36、56、76、96、116 第1の隙間
37、57、77、97、117 第2の隙間
38 第3の隙間
39、59 環状空間
71 第1の遮蔽部
78 第2の遮蔽部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、前記外輪の放射内方に位置する内輪と、前記外輪と前記内輪の間に介装される転動体と、前記転動体を保持する保持器と、を備え、前記外輪と前記内輪との間で画成される軸受内部に軸方向の一方側から潤滑油が供給されるようにした転がり軸受の潤滑構造において、
前記軸受内部に対し前記軸方向の一方側に配置されて前記転動体の端面を覆う環状の遮蔽部材を設け、
前記遮蔽部材が、前記内輪との間に第1の隙間を形成する前記転動体側の一端部と、該一端部から前記軸方向に離隔しつつ前記内輪との間に第2の隙間を形成する他端部と、前記第1の隙間および前記第2の隙間の間で両隙間に連通するとともに放射外方側に開口を形成する中間部とを有することを特徴とする転がり軸受の潤滑構造。
【請求項2】
前記内輪が、前記転動体を転動させるテーパ部を有し、前記テーパ部の小径端側に前記遮蔽部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受の潤滑構造。
【請求項3】
前記遮蔽部材が、前記内輪との間に前記第1の隙間、前記第2の隙間および開口に通じる環状空間を形成していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の転がり軸受の潤滑構造。
【請求項4】
前記内輪が、前記遮蔽部材の前記他端部に対し、前記第2の隙間を隔てて前記軸方向に対向する環状突部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の転がり軸受の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−174637(P2009−174637A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13903(P2008−13903)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】